チーム対抗 隠し芸大会
…こんなパネルいつ用意したんだろう。
各チームの得意なモノを禁止し、出来うる限り別ネタで芸の披露となる。
まぁ各々、分かりきった得意分野があるからなぁ。
みんな結構、花があるから大丈夫だろうとは思うけどね。
まぁ…俺も言われたけど。
というか、なんで俺だけ単発なんだよ…。
生徒会チームに、含めてくれりゃいいじゃんよ。
まぁ、おかげでちょっと、好き勝手できたけど。
ちなみに俺が禁止をされたのは…筋肉。
…いやまぁ。うん。
はぁ…。
「優勝チームには、豪華賞品を用意してあるからなぁー!」
杏会長が、壇上に用意された机に座り、片手を上げる。
もう一つの余った手の前には、二等の紙が貼られた、銀色の箱。
横に座った、一等の紙が貼られた箱。
それを手にしている、桃先輩から賞品の説明が入る。
「ちなみに3位は、大洗商店街のサマーセールの福引補助券」
3位…まぁ3等だけど、その紙が貼られた銅色の箱の後ろに、柚子先輩が座っている。
「2位は、学食の食券500円分。1位の商品は、10万円相当の~…」
2位は、地味にうれしい賞品だけど、1位の賞品の10万相当…という発表で、みんなの歓声が上がる。
まぁうん…現金なら俺も欲しい。
「詳しくは、後で発表する…以上!」
高校生だし、あまり見た事の無い金額だろうしね。
目に見えて、皆がはしゃぎだした。
「現金かなぁ?」
「10万円あれば、ティーガーの履帯が、一枚買えます!」
「私、ボコのぬいぐるみ、買ってもいいかなぁ?」
「いいよ! ボコのどこがいいか、分からないけど~」
あ、沙織さん!!
「 どこがいいかが、わからない!? それじゃジックリ教えるね!! 」
…みほの目に火が入った。
横にいた沙織さんの肩を掴み、真正面に無理やり向かせ…。
あぁ…布教モードに入った…。
「みっ! みぽりん!!?? ちょっ!?」
「あぁ、そっか! 今から隠し芸だもんね! 今日みんなでお泊まりだから、後で! 後でじっくり、ボコのいい所を教えてあげるね!!」
「 」
即座にモード解除となったけど…
メチャクチャ早口で、逃がさねぇと、釘を刺したなみほ…。
うん、沙織さん。覚悟しておいた方がいい。
そのみほは、朝までコースだ。
「皆で、温泉行きましょうよ~♪」
「単位が欲しい…」
華さん、マコニャン…つえぇ…。
その目の前のみほを、無視した…。
…まぁうん。
各チームから、10万相当の賞品を目の前に、期待に胸を膨らませている。
まぁ、いい餌だろうな。
だから会長には悪いが、皆の期待を裏切る訳にもいかないんだ。
ここでちょっと、ネタばらしをしておこう。
「あー…うん、俺からもいい?」
「おや、なにかなぁ? 隆史ちゃん」
手を上げて名乗り出ると、みんなから注目を集めた。
結構、緊張…というか、一斉に見られるのってやだなぁ…。
でもまぁ。
「ん、実はこの賞品の発注は、会長がしたんだけど…」
「うん、そうだねぇ~」
「…キャンセルしておいた」
「 なぁ!!?? 」
目を見開き、口を開け…絶望顔になった杏会長。
いやぁ~…絶望顔ってゾクゾクしますねぇ。
「な…なっ!?」
「干し芋1年分なんて、喜ぶの杏会長だけですよ…」
あぁ~…と、落胆と納得の声が響いた。
そりゃそうだろ。
例え1位となったって、逆に困るだけだ。
「…食べきれなくて処分…なんて事もありえますから」
「た…たかs…」
はい。手を前に出して、追いすがる様な仕草をする会長。
「んで、賞品は10万円相当という事で、各チームの希望の商品を提供しようと思う」
ザワッと、会場がざわめいた。
柚子先輩はこちらの味方だ。
あらかじめ昨日、その事を伝えておいた。
「流石に現金ってのは、色々とまずいから無理だけど…優勝したチームに適したものを、できる限り用意するよ?」
「ぐ…具体的には!?」
「そうだね。例えば…アリクイさんチームだったら、…ネットマネーとか?」
「「「 !? 」」」
あ…目の色変わった…。
「レオポンさんチームなら、自動車用工具とか…パーツ部品とか…」
ガタッ!
はっはー。
全員の目の色が、極端に変わった。
どうせやるなら、本気でやった方がいい。
おーおー…俄然やる気になり始めたな。
「隆史ちゃん!!」
「はっはー。だからほし芋が欲しいなら、これで手に入れてください」
「……」
いやぁ。
いいなぁ、杏会長のその悔しそうな顔。
はっはー…マジで変な気分になりそう!
「…隆史ちゃ~ん」
「なんすかぁ?」
猫撫で声に、猫撫で声で対抗してみました、はい。
「それは、なんでもって事だよね?」
「…そうですね。法律に触れていないのと、モラルを守るなら、俺が大体用意しますよ?」
「……分かった。二言は無いね?」
「無いですけど…。なんだろう…嫌な予感しかしねぇ」
言ったね…と、勝ち誇った顔をした会長…。
な…なんだ?
「ふっふっふっ…。んじゃ、生徒会が優勝したら、確かに高級干し芋1年分だ!」
「はぁ…そうですか」
「それは、隆史ちゃんも一緒に買いに行ってくれるって事で…いいよね!?」
「え? はぁ…別に用意するって言った以上は…はい。構いませんが」
「よし! わかったぁ!」
な…なんだ?
なんでそんな事を態々…
ゾワッ
な…なんだ今の悪寒…。
「はいっ!」
元気よく手を上げたのは…レオポンさんチームのナカジマさん。
「私達が欲しいパーツとかって、素人には判断できないと思うんだけど!」
「まぁそういった場合、聞いて買ってくるとかでもいいですし…領収書も欲しいので…」
「それは買い物に、尾形君がつきあってくれるって事!?」
「まぁ…ご希望なら……」
「分かった!!」
いや…本当にわからない…。
なんで、そこで嬉しそうにしたんだ? ナカジマさん。
なんだ!?
一部から、すっごい闘気を感じる!?
みほさん!? なんで怒ってんの!?
「…みほさん」
「はい」
「あれ、隆史さん。ご自分で何を言ったか、お分かりになっていませんね」
「…そうですね」
なに!?
本当になに!?
「ねぇねぇ、隆史ちゃん」
「なんすか、会長…」
「ちなみに、隆史ちゃんが優勝とかしたら、どうするの?」
「え…まぁ、特に考えてないですけど…」
なんだろう…。
特に欲しいものないしな…プロテインくらいしか…。
「そうだよね! 男の子だもんね! 言えないよね!!」
「……」
ほら、会長。
そういう事言わないでください…みほが見てるでしょう?
すげぇ呆れた顔してますけど?
「あのですねぇ…。如何わしいモノなんて買うはず…ない……」
はぁ…これから同居する様なものですし…買えるはずないでしょうが。
あ…今までの、処分しないと…。
……
…………あぁ。あったな欲しいもの
「あ…あれ? 隆史ちゃん?」
…………
ま、実費でも構わぬ。
「……」
……
《 !!?? 》
「ヒッ! い…一瞬、隆史君が…ものすごく悪い顔した…」
「みほさん…顔が真っ青ですけど…」
「な…なに!? 今の隆史君!?」
「…悪寒が凄かったぞ。おい、一年が怯えてるな…」
「い…嫌な予感しかしないよぉ…」
「隆史ちゃん…そんな顔もできたんだね…」
「は? ナンノコトデショウ?」
「今は、詐欺師みたいな顔してるけど…」
「はっはー。場も温まったので、始めましょう!」
杏会長を無視し、手をパンパン叩き、開始を宣言する。
はい、さっさと始めましょう。
◆
はい、いよいよ始まりました。
小山先輩の司会の元、始まりました隠し芸大会。
幕が上がり、風紀員…カモさんチームから開始となりました。
隆史君は、私の後ろ…磯部さんとの間に、胡座をして座っている。
壇上から見れば、真正面のど真ん中に座った…。
変に気合入ってる…。
な…なんだろう。
さっきの悪い顔が、気になってしょうがないよ。
カモさんチームは、3人似ている風貌を活かして…ゆ…幽体離脱?
よくわからない…。
「…ふむ。杏会長の真顔が見られたからよし!」
よくわからない出し物に、目が真っ黒になった真顔の生徒会長を見て、そんな事をつぶやいていた…。
あれ? 審査員って隆史君!?
ずるくない!? それって、ずるくないかな!?
レオポンチーム…。
イッツ、ショーターイム! といった掛け声と共に始まりました。
袖からお花を出したり、シルクハットから鳩さんが出てきたり…。
「痛っ!?」
ホシノさんが、体を反らした時に、小声で…「デッカ…」とか言っていたので、抓っておいた。
まぁそれはそれとして、優花里さんに思いの他、受けは良かったみたい。
立ち上がって手を叩いて喜んでる。
「それでは、最後の大ネタ!」
「!?」
音を立てて、地面から車が出てきた…。
え…重量的にどうやって持ち込んだんだろ。
というか…どこかで見たこと…
「俺の軽トラ!?」
あ…隆史君が絶句してる…。
「ここにあります自動車を、見事変身させて見せます!」
下から車全体を隠す様に、パネルが上がって来た。
あぁ…そういえば、自動車部に修理頼んでたっけ。
「おい! 自動車ネタ禁止だと言っただろうが!」
「いい! 桃先輩!!」
あ、隆史君が中断させようとした河嶋先輩を止めた。
変身と言った時点で、大丈夫だと早口で説明してる。
気になるのもあると思うのだけど…必死になってるなぁ。
ドラムの叩く音が響く…暗い部屋の中でも、なんか隆史君の顔が青くなってるのが分かるなぁ。
デンッ! っと最後に響いたドラムの音と共に、パネルが開かれた。
…。
一台の…軽トラックの形の……装甲車があった。
「」
…あ、絶句してる。
サイズ的に軽トラをそのまま改造したっていうのが、何となく分かる…。
軽トラックの車体周りに、装甲を取り付け…タイヤが大きくなっていた。
元のサイズのタイヤ周りの部分も削られていて、車高がだいぶ上に上がっている…。
はい! っと掛け声と共に…写真パネルだったんだ。
その装甲車の後ろから、軽トラックのパネルを持って行ってしまった。
「はい、じゃあ尾形君! 修理終わったからね~」
「」
「大破した戦車を見つけてね~。そこの装甲をちょっと流用したよ!」
「」
「なに!? 戦車あったのか!? 報告せんかぁー!!」
「いやいや。完全にひしゃげちゃっていてね。あ、これ戦車だったんだ~って、思うくらいの壊れ方してたから。ま、いいかなぁって」
「よくない!!」
「ちょっとまって! これ重量ってものすごくなってない!? 軽トラのエンジンで走れるの!?」
「あぁうん、一回火を噴いたねぇ…。あ、大丈夫。なんとかしたから」
「なんとかって!?」
「ちゃんとエンジンもいじったよぉ。時速50キロくらいならでるからねぇ。あ、あんまり無理すると、また燃えちゃうかもしれないから、注意して」
「燃える!? なぁ!? 車検がこれで通るの!? え? モロ改造車…というか、え!?」
「大丈夫だよ~……トオスカラ」
「そういった問題じゃねぇ!!」
「あ、ドリフトもできたよ?」
「そこでもない!!」
呆然とした隆史君を放っておいて、私語をするなと垂幕を下げられてしまった。
はい、レオポンさんチーム終了。
あはは…。
隆史君が、なんか下向いてブツブツ言ってる…。
3番目のチーム。
アリクイさんチームの出し物…カエルの歌の輪唱。
淡々と歌っているのも聞こえてないのか…ボケーと眺めてる。
あ、出し物終わっちゃった…。
隆史君の目に光がない…。
4番目。
うさぎさんチーム。
澤さんのフエの合図と共に、組体操が始まった。
サボテン…オウギ…
ピッ! ピッ! ピッ!
「がんばれ~」
なんだろう、沙織さんがすごい心配してる。
1年生達とすごく仲良かったもんね。
…お母さんとか言われてたよね…。
「体育祭みたい」
「戦車やれ~! 戦車~!!」
「秋山さん!?」
「顔が赤いですよ?」
「えー…」
「……酔ってる」
「オレンジジュースで!?」
場酔いというのかな?
手に持ったコップを振り回してるなぁ…。
……
…フフ…酔った隆史君に比べれば、ぜんっっぜん! 可愛いく見えるよね!!!
「ピラミッド!!」
最後の大技。
決まった~と、沙織さんがぴょんぴょん跳ねて、喜んでる。
それはいいんだけど…横から…。
「…なんでブルマって、絶滅したんだろう……」
って、隆史君が相変わず、目に光が無い状態で呟いてる。
半笑いで、一年生達を眺めてるなぁ。
……ぶるまって、何だろう…。
5番目。
アヒルさんチーム。
「それでは、モノマネやりまーす!」
面白そうですね! と、意外にも華さんがすっごい食いついた。
今ままでに見た事が無いくらいの、いい笑顔だなぁ。
結構みんな、似てるなぁ…。
まぁ出だしで、華さんが手を上げるとか…本当に楽しそう。
ただなぁ…隆史君が…。
『もぅ、ダメだよ柚子ちゃん!』
「わ、笑うな! なぜ笑う!?」
佐々木さんの、小山先輩と河嶋先輩のモノマネ。
思いの他似ていて、周りから笑いが起こった。
…ただ、隆史君だけ…。
「…あれは使えるな」
と、小声で呟いていたのが、怖かった。
何に?
何に使えるのかな!?
「…今度、頼んでみよう」
だから何にだろ!?
……。
…………はい、気がついたらあんこうチームのモノマネ。
うん、自分のモノマネをされるなんて思わなかったなぁ…。
一瞬分からなかった。
他人から見ると、結構分かるモノなのだろうか?
華さんも自分のモノマネは誰でしょう? って分からなかったみたい。
…ただなぁ。
「女子はねぇ、下手にスペックが高いより低い方がモテたりするのぉ! ちょっとポンコツの方が可愛いでしょ?」
……。
…………。
指を上げて、沙織さんのモノマネをする磯部さん。
それを見て、隆史君が一言。
「スィーツ磯部さん……ありだな!」
……。
………うん。
多分、これまた思った事を、口に出してるなぁ。
6番目。
カバさんチーム。
「歴史ネタ禁止だと言ったろー!!」
河嶋先輩の怒号が聞こえた…。
すごいセットだなぁ。
洋風の室内のセット。
絵で書かれた背景だと思うのだけど…こんなのどうやって用意したんだろ…。
澤さんが言っていたけど、若草物語の寸劇。
カバさんチームの皆、ああいったロングスカートも似合うのに…
なんで、帽子やらマフラーやら…そこら辺は何時もと一緒なんだろう…。
セリフの所々に歴史ネタを挟んで、河嶋先輩が怒っている。
えっと、おりょうさんだけ…普通。普通に役柄にあった格好だね。
『分かってます、分かってます』
河嶋先輩の怒号が飛ぶ度に、そんな事言ってる…カエサルさん。
手の平をヒラヒラさせてるなぁ。
あれ、隆史君と同じで、分かっているってだけだよね…。
守る気ないよね…あれ。
セリフの端に、所々歴史ネタを入れてくる。
…よく、あんなに出てくるなと、感心するくらい。
というか、ベス役のエルヴィンさん。倒れたはずなのに、ベットで生き生きしてるなぁ。
なんだろ、観客おいてきぼりだなぁ…。
「ねぇ、みぽりん。次、私達だからそろそろ準備しないと」
「あ、はい。そうですね」
「んじゃ、俺も行くか」
「あれ? 隆史殿も出るんですか?」
「なんかすっごい久しぶりに、優花里に普通に呼んでもらった気がする…」
「……で? どうなんですか?」
「うん。会長がちょっと脚本弄ったから、もう一度目を通しておいて…」
「「「「「 …… 」」」」」
「不安しかないな…」
「あぁ…河嶋先輩が、劇に乱入した…ほらっ! もう終わりそうだから急ごう!」
沙織さんに急かされ、皆が移動を開始する。
会場の上では、カバさんチームに向かって、河嶋先輩が叫んでいる。
「退場!!」
◆
7番目。あんこうチーム。
柚先輩の紹介の口上が終わると、垂幕が上がる。
そう、あんこうチームの隠し芸の時間だ、
本来なら、ここでみほ達五人が、並んで登場する段取りだったが…却下した。
違う…ヒーローショウはそうじゃない!!
「みなさ~ん、こんにちは~!」
《 こんにちは~…》
緑の森を背景の前に、不自然に置かれた岩山のパネルが乱立している壇上。
その壇上の中心に、柚子先輩が立っている。
いわゆる司会のお姉さん!
司会のお姉さん役の柚子先輩が、会場の良い子達に挨拶をしている。
…うん、良い子達!
若干、ノリについていけない良い子がいるがね!
…しかしこういった役に、恐ろしく違和感が無いなぁ…柚子先輩。
「ん~。ちょっと元気がないかなぁ。もう一度ね?」
《 !? 》
「はい、こんにちは~!」
《 こっこんにちは~! 》
「はい! 元気な挨拶ありがとうねぇ~」
「 ナ…ナニ…? 」
「 何が始まるんだろ… 」
ふっ。女子ばかりだ。
違う意味で新鮮だろう。
まぁ…約一人、速攻気がついて、目を輝かせてくれている子がいるね!!
…といっても寸劇だ。
あまり時間をかけて、興味が無い子がダレてしまうのも困る。
呆然としている内に、一気に話を進めよう! 話が進めば、少なくとも見ようという気が起こるものだ!
はぁ…はい。以上最後のハイテンションでした。
ぶっちゃけ、俺の格好もあり、やけくそ気味でやらないと心が持たない…。
柚子お姉さんが、良い子達に挨拶をしている途中。
会場内に、ちょっと重低音の不穏なBGMを流れ出した。
明かりが少し暗くなり、壇上の地面に白い煙が流れる。
…ドライアイスまで用意したのかよ…。
まぁ…んじゃ、俺のセリフだ。
『フゥーーーハハハァ!! 聞けぇい! 愚民共ぉ!!』
「あ、尾形先輩の声だ」
「また会長に無茶言われたのかな?」
「相変わらずだねぇ」
「結構、ヤケクソ気味な声だよね」
「…先輩、かわいそう」
ウサギさんチームからの同情の声が聞こえてきた…。
やめて…色々と揺らぎそう…。
『今日! ここ!! 大洗は、この「悪のセイトカイ」が占拠したぁ!!』
壇上の天井。
吊り天井がゆっくり降り、そこに隠れていた俺が、飛び降りる。
ドスンと大きな音と共に、ドライアイスの煙が、俺を中心に霧散する。
……。
『そう! この、あんこう怪人(雄)の手によってなぁ!!』
暗い中、俺にスポットライトが当たる。
当たった直後…会場中に悲鳴が響き渡った。
霧散する煙の中に、シルエットと共にその姿があらわになってくる。
過去にみほ達、あんこうチームも着たことのあるもの…。
あんこう踊りのコスチューム(雄)
ただ…思いの他、薄くてピッチリしている。
桃色に輝くそのスーツは、俺の筋肉の形、筋まで浮き彫りにしている…程、ピッチリ。
(雄)使用な為に、あんこう帽子に目玉と尾ビレとかのみで、提灯はついていない。
要は! ピンクのピッチリした全身タイツ男が、天井から降ってきたんだよ!!
そりゃ悲鳴の一つや二つ沸くよね!!
「た…隆史君、すごい格好だね……」
「…会長がこれ着ろって」
柚子お姉さんに引かれた…。
あなたも着た事あるでしょ!?
……。
しかし…これは以外にも動きやすいな…。
ふむ。
「服を着て、全身の筋肉を確認出来るというのも…なるほど! これが機能美か!!」
「…違います」
冷静に突っ込まれた所で、いこうか!
呆然としている、観客席の良い子達に指…の、代わりに着いたヒレを突き出した。
『まず第一段階として、人質を取らせてもらう!!』
うん、お約束。
ただ戦闘員がいない為、自分で行かないといけないけど…。
よし!
『子供枠という事で1年生に限定させてもらおう!』
そのまま壇上からジャンプし、一年…ウサギさんチーム前に、飛び降りる。
畳の上の為、特段痛くない!!
席の前に降り立つと、結構真っ赤な顔をして、キャーキャー言ってるな。
『さて…誰にするかなぁ…』
選ぶようにもう一度、手ヒレ前につき出す。
…あ、澤さんと目があった。
全力で目を逸らしたなぁ…。
…いかん、ちょっと変な気分になってきた。
「あい!!」
……。
その澤さんの横から、坂口さんが…目を輝かせて手を上げた。
すっげぇ勢い良く…。
「 あい!!! 」
「桂利奈ちゃん!?」
あ~…納涼祭の時にも言ってたな。
こういったの好きだって。
『よ…よし! じゃあ、お前来なさい…じゃない、来い!』
「やった~!!」
「なんで、人質になって喜んでるの…」
「立候補しちゃったねぇ…」
『あ、ついでに君も』
「えぇ!?」
目の前の澤さんも指名。
片腕に、澤を抱き上げた。
「ピッ!!」
あ、澤さんが固まった。
あれだ…愛里寿を抱き上げたように、片腕抱きって奴かな?
「なぁ!?」
あ…なんか離れた席と、壇上から声がした…。
坂口さんは、手をつないで仲良く壇上の上に…。
すげぇ嬉しそうについてくるんだよな…。
そのまま壇上に上がり、柚子お姉さんの前に、二人を連れてきた。
…
『はい。二人共、危ないからこっちに避難していテネ』
お姉さん。セリフが棒読みですけど…。
舞台の隅で、人質を司会のお姉さんに管理してもらうというカオスぶりは、置いていおいて…。
あと、一人…。
……。
客席の真正面から、すっごい視線を感じる…。
『……』
今度は普通に壇上を降りて…その……アヒルさんチームの前に立つ。
近藤さん…目がすごい輝いてますね…。
はい、河西さん…引かないで…。
『じゃ…じゃあ!! あと一人! 人質を…』
…その河西さんと目が合う。
『…そういえば、河西さんとは、筋肉について語り合う約束をしていたな…』
「は!? なんの事よ!!」
『……あぁ…そうだった。そうだった…君が俺の筋肉を…ナンパ目的の偽筋と罵ってくれた日…そんな約束をしたなぁ……』
「何を言って…………あぁ!! 戦車を探してた時の事かぁ!!」
『ソウソウ…』
「あれは、断っ…妙子!?」
なぜか近藤さんに肩を掴まれた河西さん。
良く分からないけど……取り敢えず、腕をΩのポーズにし、全力で筋肉を浮かび上がらせてみた。
最近、筋トレも思いの他できなかったので、今まで使えなかった、筋肉達が音を立てて喜び始めた。
真正面の磯部さんが、なぜか目を輝かせていた。
そうか! 筋肉の良さが分かるか!! 脳筋だもんね!! 仲間か!!
『サァ…いこぉぉか?』
「ちょっ!? まっ…!」
手ヒレを出して、促す
『…さぁ空気を読もうか…』
「」
ほら、目の前のキャプテン様も退いてくれた…。
座ったまま、逃げる体勢になったが、もう遅い…。
さぁ。
……
河西さんの奥に居た人物が立ち上がった…。
あ…あれ?
「尾形先輩」
『え…あ、はい』
「私も、一年ですよ?」
『…ソウデスネ』
「忍ちゃん、嫌がってるじゃないですか」
『 』
「それとも尾形先輩は、嫌がる女の子を辱める様な趣味でもあるんですか?」
趣味って…
『………多少?』
「は?」
真顔!!
『じ…じゃぁ、近藤さん…』
河西さんを庇うつもりだろうか?
少し前に出てきた…。
まぁ…それじゃあと、手ビレを出してみたら…。
「はい!♪」
なぜか笑顔で、答えられた…。
「妙子ちゃん…人質に喜んでなるってダメだと思うけど…」
「……」
進んで前に出てきて…あれ? 止まった。
あれ? 両手を広げた。
……。
あ!
背の差も有り…澤さんとは違い、完全にお姫様抱っこの形で……壇上にお連れしました…。
首に手を回された…当たる!! 柔らかい!!
あんこうスーツがピッチリしてるから、直に感触がぁ!!!
ピンクの全身タイツ男が、浴衣の女の子をお姫様抱っこ…。
……事案だよなぁ…。
「…」
「隆史君…」
「……」
「人質がみんな喜んでるってどうなんだろ」
「…知りませんよ…」
壇上の上では、目を輝かせている約2名と、なぜかオーバーヒートしている澤さん。
「…尾形君。始まったばかりで、すでに瀕死だけど…」
「……怪人が人質選考で疲れきるって…」
自動車部が呆れている…。
うん…聞こえてるからね…確かに瀕死だけど!!!
げ…劇を進めよう…。
ヨロヨロと、岩山のパネルの後ろに回る…。
そこにはカジキマグロの着ぐるみを着た、桃先輩が待機していた。
あ…なんかイライラしてる。
「まったく! いつまでかかっている!!」
「す…すいません…」
「さっさと進めるぞ!!」
「ヘイ…」
岩山のパネルの後ろに設置された、鉄製の足場に二人して立つ。
はいはい…せーの。
『『 がーはーはーはー… 』』
『これで、大洗は私達、「悪のセイトカイ」のモノだー!!』
『この人質達を盾にすれば、俺達の計画も容易『 そこまで、です!! 』』
姿は見えぬが、声はする。
会場に…はい、みほの声が響き渡った。
『 誰だァ!? 』
桃先輩の声と共に、ヒロイックなBGMが流れ出す。
坂口さんが、手を目の前で握り締め…目の光が、更に輝きを増させていた。
楽しそうだなぁ…。
『『『『『 パンツァー・チャージ!! へんしん!! 』』』』』
五人の声が、響き渡る。
そうそう。これだこれ。
「この変身シーンを見せられないので、最初っから変身して登場というチープな演出!!」
「さ…坂口さん?」
「次は!? 次はぁ!!??」
もう一つの岩山パネル…まぁ、高い位置のここから見れば一目瞭然なんだけどね。
岩山パネルの裏、トランポリンが用意されていた。
『とぉ!』
トランポリンから、ジャンプしてパネルを飛び越え、壇上に登場。
緑色の戦隊物の衣装を着て…誰か分からなくなるからって事で、マスクは被っていないけど。
いや…体つきですぐに分かると思うけど…。
ゆかりん登場!
『 野ゆき森ゆく…オリーブドラブ!! 』
……え。
ナニ?
何、今の動き!!
キレッキレ過ぎない!?
良くある戦隊物の名乗りを、ポーズと共にしたのだけど、何だよ今の動き!!
『…とぉ』
あ…マコニャンの声だ…。
……。
岩山のパネルの脇から…普通に歩いて登場した…。
相変わらず、眠そうな顔で…。
…え
『 海は任せろ、ネイビーブルー 』
タタンッと足踏みをして…腕を突き出し…。
え~…マコニャンが片足回転開脚…? え?
だからなんだよ、そのキレキレな動きは!!
『それぇ!』
今度は華さんの声…。
あ、今度はちゃんと岩山パネル飛び越えた。
『 黒い森ゆく…ジャーマングレー! 』
華さんもかよ…。
酔拳の様な…体を左右に揺らせた大きな動き…。
……。
…………。
うん。
キレッキレなんだけど…。
『とぅ!』
はい、沙織さん。
こちらもちゃんと、岩山を飛び越えて…ダンッと音を立てて登場。
『 砂漠に咲く花っ! デザートピンク! 』
腕を左右に上げて…なんだろう、鳥の羽か?
上下に体を動かして…これまたキレキレな動きで名乗った。
……。
…………。
「どうした、尾形書記」
「…いえ…なんでも無いっす」
「?」
あのね…特に華さんも、沙織さんも…。
貴女達、全身タイツみたいな格好なんです。
そんなキレッキレで、ダイナミックに動かれると…。
連動してダイナミックに揺れるものに目が行ってしまうので…やめてください…。
……。
うん! いいもの見た!!
良かった…一応、出来るだけモッコリしない様に、カバーパンツ履いといて…。
うん、良かった!!!
『たぁ!』
あ…みほの声だ。
岩山パネルから、飛び出してきて…ちゃんと着地した。
みほの事だ…コケそうだと、ちょっと心配していた…。
どうだろう。
…みほもそれなりに大きいし!
西住家だし!!
両腕を前に突き出し、体全体を振り回す。
『 錆から守る、オキサイドレッド! 』
……。
…………。
うん!! これは!! いいものだ!!!
『 五人の力で戦車が動く! 』
今度は全員で、動きを合わせた。
うん。動く動く。キレッキレだなぁ…。
……。
うん! ゆ…動く!!
『 我ら! パンツァー・ファイブ!! 』
最後のポーズと共に、後ろからクラッカーが、パンッと5人分弾けた。
…色分け毎に花火とかなんだけど…まぁ室内だし。これは仕方ないだろう。
それよりまず。
「桃先輩」
「…なんだ」
「この隠し芸って、撮影とかしてます?」
「まぁ…一応。会長の指示でしているが…」
「……俺にもコピーを下さい」
「別に構わぬが…」
「ホントですか!? 本当ですね!! 嘘ついたら一生、桃ちゃんって呼びますからね!!」
「も…な…何を必死になってるんだ…」
「絶対ですよ!?」
「…シツコイな…もういいだろ。続けるぞ!」
よし!!!
『小癪な! パンツァー・ファイブだと!?』
桃先輩のセリフで劇が再開された。
うん、坂口さんが歓喜の表情…キラキラした笑顔だなぁ…
その他の二人は、苦笑しているなぁ。
桃先輩を華さんが指差し…。
『あ! あそこに敵キャー!!』
敵キャーって…
「た…隆史殿! なんて格好をしてるんですか!!」
「……杏会長に言ってくれ」
一応、話さんの声援に答えて、またΩの腕のポーズ。
「まぁ…尾形君のあの格好…初見だと、普通に犯罪者だよね」
「五十鈴さんの気持ちは分からくはないよね…」
わーい。
優花里さん。今度は自身に、そのセリフを言わせてやる。
『あ…悪の組織! セイトカイだぁー…』
ふむ。セリフにキレがありませんよ? 優花里さん。
『すでに大洗は我々が占拠した!』
『ここは、俺達の本拠地になるのだぁ!』
ちょっと楽しくなってきた。
みほ達は、バッと一斉に胸の前に曲げた腕を掲げる。
本当に、動きは無駄にキレがあるなぁ…。
『そうは、い…いかない!!』
『わ…私達が、お前達を倒す!』
『い…行くわよ、セイトカイ!』
『正義の拳を受けてみよ!』
『…はぁ。行くぞ』
順々にセリフを続けるみほ達。
が…。
目が泳いでいる。
この時点で、観客席も妙な熱が入ったのか。
手を振ったり、パンツァー・ファイブを応援し始めた。
一瞬、電気が消えて、バーンと大きな音共に場面が切り替わる。
床に着ぐるみの鼻が突き刺さり、身動きがとれなくなってジタバタしている桃先輩(怪人)。
瞬殺ですか…。
その後ろでまた、ポーズをとっているみほ達。
……。
……が。
俺だけ仁王立ち。
『あっ! あれ!?』
『まだ一人残ってる!?』
はい。ここでやられるなと、指示を受けていました。
ここで退場できたら楽だったんだけどね…。
ウィーンと、そこでまた吊り天井が降りてきた。
はい、登場。我らのドン。
『パンツァー・ファイブ! このあんこう怪人(雌)が相手だぁ!』
あら、また全身着ぐるみ。
おっきなあんこうの体から、杏会長の顔と手と足だけ出ている。
雌のあんこうってでかいなぁ…。
『今度は、お前らが鍋になる番だぞぉ『とぉーー!!』』
いやぁ…セリフぐらい言わせて上げろよ…。
吊りヒモに持ち上げられた、みほ事オキサイドレッドがドロップキックで会長を蹴飛ばした。
あぁ~れ~って…普通に落ちたぞ…?
『よいしょっと…』
みほさん…。
流石に心配になったので、落ちた杏会長の元に走り寄る。
いくら着ぐるみ着ているからってなぁ…。
「ちょっ!? 大丈夫ですか? 杏会長?」
「あぁ…隆史ちゃん。大丈夫大丈夫! そういった作りの着ぐるみだからねぇ」
まぁそれだけ顔が埋もれるくらいに、全体が柔らかく出来てそうですけど…。
「娯楽で、あんま無茶しないで下さいよ」
「あはは~…」
まったく。
ん…。
気が付くと、後ろから…。
《 あんこうを倒せ! 》
あら、腕を振り上げながら、変なコールが始まった。
《 あんこうを倒せ! あんこうを倒せ!! 》
あ、会長がムッとした顔したなぁ。
でも…。
「ダメですよ、杏会長。悪役はここで倒される段取りなんですから」
「むぅ~……」
「後、俺も適当にやられて…」
みほ達の方向を振り向いた時、不穏なセリフが聞こえた。
『後は、頼んだぞ~あんこう怪人(夫)』
『…はっ!?』
『『『『『 …… 』』』』』
「ちょッ!? なんですか、その設定!!」
「今決めた」
「はぁ!?」
『はい、では…ガクッ』
『……』
死にやがった。
とんでもない事言い残して…。
はい、退場…とばかりにそのまま歩いて、壇上から消えていった…。
…えー…。
…よし!
開き直ろう!!
もういいや! 人質取った意味すらないけど!!
どうしよう…。
素直にやられる機会も失ってしまった…。
やっべ…グダグダ…。
よし!!
『お…おのれ、パンツァー・ファイブ!』
身構える5人。
『…お…覚えておけよ!!』
逃げよう!!!
無理!!
そのまま走って、舞台から消える。
実際殴ったり、蹴ったりする演技とか…戦った方がいいのだけど…。
なまじ当たってしまったら、困るし…。
なにより…。
「…逃げた…よりによって逃げた…」
「それです! 尾形先輩!!」
「桂利奈?」
「無駄に現れ、意味なく敗走! その癖、明らかに次があると匂わせる!」
「……」
「このチープさが! これぞヒーローショウ!!」
そうそう。
坂口さんならわかってくれると思った、うん。
大体続かないけどね!
『えっと…手ごわい相手だったわ!』
『…ホトンドナニモシマセンケドネ』
『大洗の平和は私達が守る!!』
最後ポーズを全員で取り、そのまま幕が降りた。
はい、人質救出されていませんね。はい。
幕が下りた舞台裏。
人質さん達を席に戻そう…次は俺の隠し芸だし…。
あ…あんこうチームの皆さんは、俺の方向を見てくれない。
「尾形先輩! 楽しかった! すっごく楽しかった!!!」
坂口さんだけが一人、すごいハイテンションでした。
◆
「あの書記の姿…。あれはトラウマを引き起こす…」
「あの時のスーツより、なんか薄くなかったですかぁ? …ちょっとこっちが恥ずかしくなりますよ…」
「そうですねぇ…ま。ちょっと面白かったですけどねぇ」
「……」
うん…もう私は、忘れたいからその会話には入らない。
それは沙織さんも同じようで、黙々とオレンジジュースを啜っている。
…もう。
ん…あれ?
宴会場に、4名。
何か大きな荷物を持った業者の様な人達が、舞台裏に入っていった。
なんだろ…次は隆史君の番だったよね。
少し時間が経ち、いよいよと小山先輩から口上が…あれ? 入らない。
代わりに…。
『はい、では。唯一の男性…今回は少し、お手伝いの方が入ります』
「…さっきの業者っぽい人達か」
「随分と大きな荷物を運んでいたよねぇ」
「…何が始まるんだろ」
『今回の順位付を、隆史君が辞退したので、お手伝いが認められましたぁ』
「あれ…辞退したんだ…あれだけ悪い顔したのに…」
『では、どうぞ~』
小山先輩の声で、幕が上がる。
幕が上がった壇上。
さっきの私達の隠し芸と似たような…背景。
あれ? 隆史君も何かの寸劇? だから、お手伝いの人が入ったのかな?
あ…舞台袖…左手側から…。
「なに? 着ぐるみ?」
どこかで見た…3匹の着ぐるみ…。
ネコが2匹と、ネズミの着ぐるみが歩いてくる…。
その反対側…右手側から来るのは…!
「ちょっ!? みぽりん!?」
「に…西住さんが、見たことない笑顔だ…」
「どうしたんでしょう?」
「さぁ…はぁぁ! とか言ってますね?」
見たことある! 見たことある!! この3匹!!
だから分かる! 反対側からくるのがぁ!!
その袖から出てきた…包帯がグルグルに巻かれたクマの着ぐるみ…。
「ボコだぁーーー!!!」
閲覧ありがとうございました
本当は、パンツァ・ファイブネタだけでいこうと思ったんですが、まぁおまけ程度ですが、他のチームという事で…。
次回、ボコラボ