転生者は平穏を望む   作:白山葵

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閑話【 トチ狂イ編 】~夢のつづき~ その2

 《 これで、4人目ね!! 》

 

 能天気な声が、うるさいくらいに脳内に響いた。

 …こっちは、本気で胃が痛くなってきたのに…。

 

 今生の別れとかでは無い。

 …というのは、分かってはいるのだけど…去り方が、もう…。

 みほは、みほで…顔色悪いなぁ…。

 

 《 すごいわね…まだ半分も終わってない…。あんた、どんだけなのよ 》

 

「…………」

 

 《 さって、次は誰にしようかなぁ~♪ 》

 

「おい、ちょっと待て。お前が選んでいたのか?」

 

 《 そうよ? 》

 

「…まとめて複数呼べば、すぐに終わるんじゃないのか?」

 

 《 あ、それは無理よ 》

 

「無理?」

 

 《 そうそう。呼べるのは、対象になった人の世界線の人だけ。もう現在と別世界線を結んでいるから、これ以上混合させちゃうと…大変な事が起こるわ 》

 

「…大変な事?」

 

 《 人間に言っても理解できないわよ。んじゃ、次行くわよ~ 》

 

 

 …話はここまでだ。さっさとしろと、言わんばかりに急かしてきた。

 まぁ、無理なものを強引に通しても仕方がない。

 さっさと、終わらせ………………。

 

「お前が選んでいるって事は…さっきのエリナの時、別の…彼女が、俺に冷たくない世界線もあったんじゃねぇのか?」

 

 《 あるわね 》

 

「 …… 」

 

 あっさり言いやがった、この駄女神…。

 そんな世界線が有るなら、優しいエリナを寄越してくれりゃあいいのに!

 

 《 でも、呼べる世界線は、ランダムだからね…って、もういい? 本当に次に行きたいんだけど… 》

 

 結構真面目に教えてくれる。

 何か、変な事を言ってくるんじゃないか勘ぐっていたので、少々拍子抜けだなぁ…。

 選ばれる世界線は、1つねぇ…。

 

「あぁ、すまん。続けてくれ」

 

 《 …… 》

 

「どうした?」

 

 《 随分と素直…。気持ち悪っ! 》

 

「……」コノアマ…

 

 黙って、真面目に続けるなら、俺だって何も言わねぇよ!

 

 《 ま、いいわ…んじゃ………………あっ 》

 

「…おい」

 

 《 …… 》

 

「今、「あ」って言ったな。今度は何を失敗した!!」

 

 《 し…失礼ね! 失敗なんてしてないわよ!! ただ… 》

 

「ただ…? なんだよ」

 

 《 そのぉ… 》

 

 煮え切らない態度だな…。

 こりゃ、余程の失敗でもしたか?

 

「 隆史君!! 」

 

 沙織さんが、少し焦った声で、呼びかけてきた。

 …そうか。

 

 次は彼女か…。

 

 呼ばれたので、当然そちらを振り向く。

 今度は男の子か…女の子か…。

 そんなどうでもいい事を考えていたのだけども…。

 

「 」

 

 振り向いた彼女は…。

 

「 赤ちゃん! 」

 

 

 少し、興奮した様な顔をして…腕に赤子を抱いておりました…。

 

 

 《 呼び出すには呼び出したけど…若すぎるわよね? 》

 

 

 

 

 >  武部 沙織の場合  <

 

 

 

「……」

 

 うん…まぁ。

 いつもの学生服で、赤ちゃんを抱いてる沙織さん。

 …ある意味で、すげぇ絵だな…。

 しかもちゃんと、自分の子供…。

 

 《 えっと…尾形 愛織ちゃん…女の子ねぇ……生後……三ヶ月よ… 》

 

「お前…」

 

 《 これに関しては!! 素直に謝ります…ごめんなさい… 》

 

 この位の歳の子を呼ぶとか…。

 本当に素直に謝られたので、強く責められない…。

 …俺も甘いなぁ。

 

 地面に漢字が現れた。

 うん…今度は、沙織さんから字を取っているな。

 これで、アイリと読むんだ。知らなんだ。

 しっかし、愛の字を付けるあたり、沙織さんらしいなぁ。

 

 

「………………」

 

 

 なんだろう…。

 麻子の子供の時のテンションを見ていたから、正直もっとはしゃぐかと思っていました。

 しかし、あのテンションはなく…ただ、ただ…すっごい愛おしそうに、赤子を抱いております…。

 口を半開きにして…目をすっごい、キラキラさせて…。

 

「 愛織……愛織ちゃん…… 」

 

 …彼女は、娘の名前を繰り返しているね。

 抱きながら…あやす様に、ゆっくりと体を動かしている。

 その腕の中、赤子はスヤスヤとお寝んねですね。

 

 髪もまだ生え揃っていない…なんか、どこかで見た、黄色いクマの赤ちゃん用の服…。

 

「……」

 

 今までの子供…蕾、エリナ、麻雄、隆成…。

 あの子達の様に、ある程度成長していると、信じていない訳では無いが、現実感が若干薄まるんだと思う。

 話せるからね。

 

 ――が。今回!

 

 

 

 な…生々しい…。

 

 

 背徳感がどうの…ではない。

 完全に…アレデスネ。

 

 女子高生が、赤ん坊を抱いているだけだというのに…。

 

 あ!!

 

 みほは!!??

 

 

「…マバタキ……タノシィ……」

 

 

 いかん! 完全に現実逃避してる!!

 目をパチパチと瞬きを繰り返しながら、なんか良く分からん事を言ってる!!

 お空を眺めてるね!

 

 《 いやぁ…この世界線だと、もう少しおっきい子もいたんだけどねぇ… 》

 

「!?」

 

 《 どうにも、若い子の方が因子が強いから…その若い子の方が、選択されるみたいなのよ 》

 

「いや…え? 他…? え? あの子は?」

 

 《 そうね、あの子は四姉妹の末っ子よ!! 》

 

「そうなんですか!?」

 

 沙織さんが食いついた…。

 そら、兄弟がいても、おかしくはないけども…。

 

「随分と沙織さんの所は、子沢山ですねぇ」

 

 じょ……女系家族…。

 

 《 まぁ…あの子まだ喋れないから、ある意味で良かったんじゃない? 》

 

「なにが…」

 

 《 アンタ、その姉妹の次女以外に…すっごい嫌われてるわよ? 》

 

「……」

 

 《 どうにも未来のアンタって、娘に嫌われる傾向が強いのよ。息子の場合は、逆に好かれてるわね 》

 

 エリナ見て…何となく分かるけど…。

 あ! でも、蕾! あの子は、懐いてくれて…《 あれは、例外よ 》

 

「……」

 

 《 さっきの隆成くんだって、お姉ちゃんいるのよ? 》

 

「隆成に!?」

 

 《 まぁ…そのお姉ちゃんにもアンタ、すっごい嫌われるし… 》

 

「」

 

 …なんだろうか…?

 身に覚え何てある訳ないのだけど…なぜ嫌われてるんだろ…。

 

 未来の俺…そんなんで、女系家族の中でやっていけるんだろうか?

 見える…次女を甘やかす、未来の俺が…。

 

 ガンバレ!!

 

 超!! ガンバレ!!!

 

 

「隆史君?」

 

「……ぁ、はい?」

 

「あら、ひどい顔色ですねぇ? 隆史さんどうされました?」

 

 みほも漸く自分を取り戻した様で、沙織さん達と一緒に俺の方へ来てくれた。

 ちょっと憔悴した様な面でも、してしまっていたのか…心配させてしまったなぁ…。

 

「いえ…どうにも、未来の俺って…娘には嫌われるようで…」

 

 はい、結構ショックでした。

 それでまぁ…うん…思う所がございまして…。

 

 

「「「 …… 」」」アー…

 

 

 三人共なんで今、納得した様な顔したの!?

 

「ま…まぁ…赤ちゃんなら、大丈夫だよ。隆史君も抱っこしてみる?」

 

「……え」

 

「首が座ってないから、こうやって…」

 

 有無を言わさない様な、キラッキラな目をして…そんな提案をされた。

 

 正直…やだ。

 

 めっちゃくちゃ怖い!

 

 落としたらどうしようとか、そんなマイナス思考しか生れない!!

 

「いっ…いや…遠慮しと…」

 

「ほらほらぁ!! お父さんでしょ!?」

 

「ぇ…えぁ!?」

 

 俺の横に付き、抱き方をレクチャーしてくれる沙織さん。

 彼女の手が、子供の頭などに添える、俺の手を誘導してくれた。

 というか、なんで赤ちゃんの抱き方、知ってんの?

 

 …あの…

 

 この位の子供を抱っこするのって…本当に、すげぇ怖いんですど!?

 

「あっ! 沙織さん!! 私も抱っこしたいです!」

 

「私もしてみたい…かな?」

 

「武部先輩! 私もいいですか!?」

 

「私も是非、お願いしたい」

 

 女性陣が集まってきましたね…。

 その赤子を抱きたいと、はしゃぎ出しました。

 まほちゃんまで、顔を赤くして…抱っこの順番に並んでるし…。

 

「 …ゥァ…… 」

 

 小さな声が聞こえた。

 あぁそうだ。

 いつの間にか、沙織さんに導かれ…未来とはいえ、自身の赤子を抱き上げていた。

 

 ……。

 

 目を閉じている…。

 

 鼻が小さい…目が小さい……指が小さい…………。

 

「ゥ……ア…アァ……」

 

 なに!? なに!? なんか呻きだした!!

 怖い! 赤子なんて謎過ぎて、どうしたらいいか分からない!!

 

 

「ァ……ア…アア゜ア゜ア゜ア゜ァァァ!!!!」

 

「え!? ぁあっ!? あの!!」

 

 突然泣き出した…すげぇ泣き出した!!

 

「ア゜ーーーー!!!」

 

「!!??」

 

「あらま」

 

 いや! そんなキョトーンとした表情で見てないでくださいよ!!

 

「どうしたら!? どうしたらいいんですか!!??」

 

「はいはい…」

 

 そう言いながら、優しくまた沙織さんはその、あか…いや、愛織を俺の腕から抱き上げた。

 手つきが滅茶苦茶、慣れてる!!

 

「よしよ~し」

 

「ァ……」

 

 ……。

 

 腕から出たら…ピタッと泣き止んだ…。

 沙織さんに抱かれたからではない。

 

 俺の腕から 出 た ら 泣き止んだのだ。

 

「……」

 

 …ま…まさかな…。

 

「あら…どうしたんだろ? あっさり泣き止んだ」

 

「……」

 

 スッと手を、試しに愛織の前に出して見た。

 その手を見た…見たよな? 目なんて殆ど開いていないのに!

 

「……ア゜ア゜ア゜ア゜ァァァ!!!!」

 

「」

 

「えっ!? なに!? どうしたの!?」

 

 スッ…と、出したてを下ろした。

 

「ァ…………」

 

 

 …泣き止んだ。

 

 

 

 

 -----

 ----

 ---

 

 

 

 《 アンタ…なんで、体育座りなんてしてんのよ 》

 

「……」

 

 思いの外…堪えた…。

 そうかぁ…赤子にまで嫌われてんだぁ…俺。

 

「…むっ。これで…いいのか?」

「そうです、そうです…それで指を…」

「……」

「ぉぉ…」

 

 

 《 向こうは、随分と楽しそうね… 》

 

「……」

 

 大丈夫…うん…。

 

 悔しくなんてない…。

 

 俺の後…順番待ちをしていた、他の女性陣が愛織を抱っこし始めた。

 うん…誰に抱っこされても、愛織は泣かなかった…。

 澤さんが、抱っこした時なんかも思ったが…あの子は人懐っこい印象がする。

 

 ……俺以外に…だけどな。

 

 

 《 ま…まぁ! ほら! アンタ、次女には好かれてんだからさぁ! 》

 

 駄女神に気を使われた…。

 

 

 《 んじゃ、恒例の将来のお話ね! …まず、武部 沙織さんは……あ~らま。タレントになってる 》

 

「タレントォ!?」

 

 《 んで、アンタ…尾形 隆史は…飲食店開いてるわね…あぁなる程 》

 

「…沙織さん……ついに、芸人さんに…ダメですよ? 女を捨てては…」

 

「…華。芸人じゃない。タレント!!」

 

「違うんですか?」

 

「違うわよ!!」

 

「あはは…」

 

 《 夫婦でレストラン経営……んで、武部さんは、料理研究科って名目でタレント活動もしている…っと、んな感じ 》

 

「あぁ~なるほどぉ。沙織さんお料理上手ですからね。……芸人さんでは、ないのですねぇ」

 

「何を残念がってるの!!」

 

 …この世界線の…赤子にすら嫌われている俺は……髪はあるのだろうか?

 

 《 そこの男と一緒にって事で……まぁ順風満帆って感じね…。あれ? なにアンタ…支店の申し出、断ってんの? 》

 

「…なんだ? そこまで売上あんの?」

 

 それなりに成功してんのか?

 

 《 …断った理由がまた、すごいわね… 》

 

「隆史君…」

 

 未来の俺の選択…。

 いや…まぁ、それは何となく分かるな。

「魚の目」のおやっさんと同じだ。

 

 

 《 「分不相応。そんな事に時間を割く位なら、嫁さんとイチャコラしてたい」…って… 》

 

 

 「「「「「 」」」」」

 

 

「あ~…俺なら、言いそうだな」

 

 …欲は出さない。

 

 普通の生活が、手に入ったのならば、それを長く、荒波小波…何もなく続けて行きたい…それだけ。

 事業拡大をすれば、それだけ忙しくなる。

 俺に成り上がるとか…儲けたいとか…そんな野望は、一切無いのだから…。

 

 

「タタタアぁl;あがおp!!??」

 

「…日本語でお願いします」

 

 沙織さんが、壊れた…。

 

 《 つまんない男ねぇ…向上心の欠片もないの? 》

 

「無いな。俺は仕事より、家族の時間を優先させたい」

 

「カゾっ!?」

 

 《 はっ! そういう男に限って、年取ると外に刺激を求めて、簡単に浮気とかすんのよ! 》

 

 見てきたかの様に言うなぁ…。

 

 《 男なんてそんなもんよ! 変に保守的な奴程、外に女囲ってたりするもんなのよ!! 》

 

「お前…過去になんかあったんか?」

 

 《 奥さんが同い年! 4、50にでもなってみなさい!? 絶対若い女に…「ちょっと待て」 》

 

 変にヒートアップしてきたな…。

 あぁ女神とか神様系列って、結構関係がエグいの多いしなぁ…。

 ギリシャ神話なんて、なんでこのクズが祀られてんの? って思う奴の宝庫だしな。

 ま、なんかあったんだろう…察してやるからさぁ…。

 

 俺をソレに巻き込むなよ…。

 また変な誤解を生みそうなので、ハッキリと言っておこうか。

 

 

「俺は4、50どころか、80超えても、嫁さんとイチャコラしていられるだろうと、自身はあるぞ? というかしたい。」

 

 

 「「「「「 !? 」」」」」

 

 あれ?

 女性陣が固まった…。

 

 

「結婚なんてするんだ。当然だろ? それこそ死ぬまで一緒だな」

 

 

 「「「「「 」」」」」

 

 

 《 ア…アンタ。よくもまぁ……この娘達の前で、んな事ハッキリと言えるわね…… 》

 

「は? んじゃ、他の誰の前で、言えばいいんだよ」

 

 《 …誰の前って 》

 

「嫁さんに、なるかも知れない女性がいるなら、その女性に自信を持って、こういう事は言ってやらなきゃならんだろ?」

 

 

 「「「「「 」」」」」

 

 

 …待て。

 

 ちょっと待て!

 

 今、俺は何を言った!?

 何を口走った!?

 

 《 …アンタ…ドヤ顔で…。意味分かって言ってんの? 》

 

「な…なにがよ?」

 

 《 軽く言ってるけど「将来嫁さんに、なるかも知れない女性」相手に今、何て事言ったのよ…その相手全員に… 》

 

 

「……」

 

 

 《 それって…ほぼ、状況的にプロポーズと一緒よ? 言い換えれば、…死ぬまで、貴女を愛しますって事よ? 》

 

 

「………………」

 

 

 顔を抑えた…。

 自分の手から、自分の顔の温度が伝わってくる…。

 

 あっつい

 

 忘れてた…本音が、出やすくなってるって事を…。

 しかもこの世界って、思った事言っちゃう俺と、相性が滅茶苦茶悪いんじゃ…。

 

 《 …なる程……これがタラシ殿。この場でまとめて、未来の最終フラグまで、回収しやがったわね 》

 

 

「いや、ちょっと待て…待ってください」

 

 

「jばやおだsdkf;あjkld」

 

 沙織さん!?

 

 ほぼ全員が、顔を両手で押さえてその場にしゃがみこんでしまっている。

 あらま。耳まで真っ赤だよ…みぽりん。

 澤さんまで…。

 あ、華さんは、微笑を浮かべていつもの通り…………じゃないな。

 微振動を繰り返してますね…。

 

 あぁ!…まほちゃんまで!?

 いつものクールビューティーは、どこ行きました!?

 

 

 《 ……この、クソ女っタカシが 》

 

 

 くっそ駄女神!!

 その呼ばれ方は、初めてだ!!

 

 《 はいは~い。では、次行きますね~ 》

 

 …声が投げやりだ…。

 

 《 五十鈴 華さん、西住 まほさん。ほぼ、前の世界と一緒ね~… 》

 

 あっ! みんな聞いてない!!

 いつの間にか、沙織さんを除く全員が、体育座りしてる!!!

 沙織さんは、子供に向かって、すっごい笑いかけてる!!

 

 《 あ、ちなみに……澤 梓さんは、どの世界線でも普通に専業主婦ね…ごめんね? 忘れてたわ! 》

 

 うん! 多分大丈夫! 

 今度はなんか、全員がブツブツ言い出したから! 聞いてないと思うから!

 

 《 あらあら、ウフフ…西住 みほさんは、お花屋さんかぁ… 》

 

 あ…そういや昔、一度やってみたいって言ってたな…。

 でも、なんでだろう? …ただ、普通に花屋になったと、思えないのは何でだろう!?

 

 まっ。みんな、聞いてねぇけど…。

 

 《 …… 》

 

「……」

 

 《 どうすんのよ、アンタ。…この状況 》

 

「…………」

 

 どうするって…どうしたら、いいんだろう?

 下手に近づくと、今度は更におかしくなりそうだし…。

 

 

 

「 ア゜ア゜ア゜ァァァ!! 」

 

 

「!!」

 

 突然、あの赤子の泣き声が響いた。

 なに!? 今度は俺近づいてないよ!?

 沙織さんが、その泣き出した赤ちゃんを、腕の中であやしている。

 その泣き声で、みんなが正気に戻ったのか、立ち上がって沙織さんへと近づいていく。

 

 泣きじゃくっている子供を前にしても、特に焦ることなく冷静に対処している沙織さん…。

 すげぇ…。

 俺なら絶対にパニックになってると、確信できる!! …情けないけどね。

 

「沙織さん、赤ちゃんの扱いが、随分と手慣れていますね」

 

「昔、近所の子とか…親戚の子とか預かったりした事あってさ。慣れちゃったんだぁ」

 

「へぇ~」

 

 軽口をしながら、体をさすり…何かを確かめている。

 

「オシメ…じゃないか。なら…お腹空いたのかな?」

 

「あら」

 

 そんな俺は、一定の距離を保って彼女達を見守っている。

 うん! 赤子! 怖い!!

 こんな対処ができない相手は、恐怖以外の何者でもない!!

 

「隆史君~!」

 

 沙織さんが、俺を呼んだ。

 その声と一緒に、全員がこちらを振り向く。

 

 …すげぇ。

 全員、さっきまでの顔じゃなくなってる…。

 すでにその赤子の心配しかしていない様な顔…つか、怖い!

 

「えっ!? あ、はい!! なんでしょう!?」

 

「女神様に、赤ちゃんのご飯ってあるか聞いてくれる?」

 

「…え。赤ちゃんのご飯?」

 

「そうそう」

 

 夢の中でもお腹って空くのか、赤子。

 

「えっと…駄女神」

 

 《 …なによ。クソ女っ隆史 》

 

「……」

 

 うん、我慢だ。

 

「赤ちゃんのご飯っての有る?」

 

 《 ある訳ないでしょ… 》

 

「エリス様」

 

 《 なんですか? 尾形 タラシさん? 》

 

「……」

 

 …うん、我慢…だっ…。

 

「赤ちゃんのご飯ってあります?」

 

 《 ありますよ? 》

 

「あ、流石女神様」

 

 《 はぁ!? なんであんのよ!! 》

 《 なんでって…赤ちゃんが召喚された時点で、用意しましたけど? あちらの世界の粉ミ… 》

 《 パットからは、出ないわよ!? そんな事も知らないのかしらぁ? 》

 《 なあっ!!! 》

 《 上げ底した所で、出ないものは出ないんですぅ。残念だったわねぇ? 》

 

 …あの駄女神は、エリス様の邪魔したいだけだな。

 もはや、どうでもいいから、そのご飯を頂けないでしょうか?

 

「……」

 

 まだ虚しく、赤子の泣き声が響いている。

 流石に可哀想だし…早くしてくれねぇかなぁ。

 

 《 まだ、現場にいるあの子達の方が、現実味あるわよ! 》

 《 さっ! 流石に同性とはいえ、セクハラですよ!! 》

 

 赤ちゃんのご飯…ねぇ…。

 

「すごい事言う、女神様ですね…」

 

「ご飯あるなら、早くしてくれないかなぁ」

 

 現場に…ねぇ……。

 

 ………

 

 ………………。

 

「え…なに?」

 

 沙織さんと目が合う。

 

 ……。

 

 

 なるほど。

 

 納 得 !! 

 

 

「  隆 史 君  」

 

 みほ!?

 

「なんで、沙織さんを見ているのかなぁ?♪」

 

 なんで、そんなに笑顔なんでしょう!?

 

「違うぞ、みほ」

 

 まほちゃん!?

 

「 あの娘の ど こ を見ている?」

 

「」

 

 あの…何故みんさん、近寄ってくるんでしょう!?

 澤さんまで!?

 

 は……華……さ……。

 

 詰め寄られる中、その空間にまだ言い争いする、女神達の声が響いている。

 もういいから、さっさと持ってきて!!

 それでこの状況が収まるんだから!!

 

 

 

 

 

 

 -------

 -----

 ---

 

 

 

「いや…完成させて、哺乳瓶まで用意してくれているとは、思わなかった…」

 

 《 当然よ! そのくらい…「さすがエリス様」 》

 

 《 …… 》

 

 なに、自分の手柄にしようとしてんだコイツは。

 子供達の様に、気がついたら哺乳瓶が、地面に置かれていた。

 大体こういうモノは、熱すぎたり温すぎたりで、一度失敗するのがお約束みたいなモノなのだが、普通に成功品を頂きました。

 ま、そんなお約束はしないだろ…曲がりなりにも神様らしいし。

 

 《 ねぇ…流石にそろそろ、次に行きたいんだけど? 》

 

「……」

 

 ただ哺乳瓶は、まだあの子には早かったみたいで、沙織さんのハンカチに、ミルクを染みこませて吸わせていた。

 またその姿を見て、可愛い可愛いを連呼している女性陣…。

 円陣を組むように全員で、見守っているな…うん。

 

 だから今回、俺…蚊帳の外…。

 

 《 ねぇ! 聞いてるの!? 》

 

「聞いちゃいるけどな……」

 

 あの円陣の中に割り込む勇気は、俺にはない!!

 

 邪魔すると睨まれそうだし…。

 

 《 なっさけない男ねぇ… 》

 

 何かを察したのか…侮蔑の声が響く…。

 うるせぇな! 俺だってそう思うよ!!

 

 

 《 はぁ……貴女達。そろそろ時間よ 》

 

 俺には無理だと、さっさと諦めたのか、駄女神自信で声をかけた。

 …最初からそうすりゃいいのに…。

 

「あら…ちょっと残念ですねぇ」

 

 なぜだろう…すっごい惜しんでいる華さん。

 というか、みんな。

 いくつかの不満声と、ため息が聞こえた。

 

「じゃあ、隆史君」

 

「あ、はい」

 

 沙織さんが手招きで俺を呼んだ。

 その手招きに従い、またその赤子の前に誘導される。

 

「元々夢の中だけど…今は更にその夢の中…だから、多分泣かれないよ?」

 

 うん…腹一杯になったのか、完全に寝ている。

 ぐ…。

 

 ……現実味が無いのか有るのか…すっごい居たたまれない…。

 

 他の皆は、すでに割り切っているのか…素直にこの子を可愛がっていたな。

 

 その娘の手を、すでに握っていた沙織さん。

 まぁ…後は俺が、この子の手を握れば終わりか…。

 そのまま…手を伸ばす。

 

「…隆史君って、子供苦手?」

 

「……」

 

 その手が、沙織さんの呼びかけで止まった。

 

「苦手ではないけど…怖い……」

 

「怖いって…」

 

「ある程度、成長した後ならまぁ…大丈夫だけど、この位の赤ちゃんは、どうしたら良いのか分からないから…その……怖い」

 

 何か意外だったのだろうか?

 なんかクスクスと、笑いだした。

 

「まー…うん。こういうのはね、その内に慣れるよ?」

 

「そういうモノでしょうか?」

 

「……そういうモノだよ」

 

 腰を下ろして、その赤ちゃんの手を握る。

 小さすぎて、上から被せるような形になってしまったけどな。

 握った瞬間に、また俺達の体が発光した。

 

 眠る娘…愛織。

 

 ぬぁ…なんか…今更、なんとも言い得ない感情が湧いてきた。

 もう少し、見ておけば良かったかな…。

 

「みぽりんの手前…やっぱり、いい辛かったけどね?」

 

 発光する沙織さん…。

 気が付けば彼女の目は、愛織ではなく、俺を見ていた。

 

 

「こういった未来があるのは、嬉しかったの…」

 

 何か照れくさそうに言い切った。

 

「すっごく!!」

 

真正面から見た彼女もまた、麻子と同じく笑っていた。

 

娘を抱いたまま…満面の笑みで…光と共に消えていった。

 

 




閲覧ありがとうございました

…本当は二人書くつもりが…文字数伸び伸び…まだ続きそう…。
というか、何? 今回の話…書いていてめちゃくちゃ恥ずかしかった…

ありがとうございました

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