転生者は平穏を望む   作:白山葵

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閑話【 トチ狂イ編 】~夢のつづき~ その3

「…………」

 

「隆史…どうした?」

 

 沙織さんと愛織が消えた場所…地面。

 今はもう、何もない。

 

 ただその場所を、呆然と眺めている。

 

 立ちすくんでいた俺に、まほちゃんが声を掛けてきた。

 俺は今、どんな顔をしているのだろう。

 色んな感情が、ぐちゃぐちゃに混ざり合っている中、絞り出した言葉が…。

 

「…胃が……そろそろ限界…」

 

 いや…本当に…やばい…。

 ぶっちゃけた話…吐きそう…。

 

 胃が痛む…の、レベルじゃない…。

 誰かに鷲掴みにされて、雑巾絞りでもされている様な感じ…。

 

 未来…将来の話。

 記憶が後で無くなるとはいえ、この出会いと別れは…キツすぎる…。

 

「そうか。だがな? そんなお前に、私から言える事は一つだ」

 

 ただ一言…。

 

 先程まで、真っ赤になって微振動を繰り返していた、まほちゃんではすでにない。

 

 いやぁ…久しぶりに見ました…まほちゃんのゴミを見る目…。

 そんな彼女から頂きました、たった一言のお言葉。

 

 

「 自業自得だ、馬鹿者 」

 

 

 お…おっしゃる通りです…ね。

 正直に言ってしまえば、俺ってこんなに見境ないのだろうか? と思ってしまう。

 そら、みほ以外の女性と結婚する確率は、0では無いだろう。

 が…ほぼ……友人やら何やら…関係が近しい人ばかりだ…。

 前世じゃ、結婚なんて夢見る事も無かった程の枯れた日々だったし…。

 

 だからといって…。

 

「まぁ、今回の事で、心を痛める事ができるのが隆史だ。そこは…なんだろうな? 少し安心した」

 

 少し微笑んだが…すぐに真顔に戻った。

 そして休む暇なんて無いだろう? とばかりに…。

 

「次だな」

 

「…はい」

 

 ただ、返事を返すだけしかできませんでした!

 

 はぁ…次は誰だろう? 

 

 みほとまほちゃん。

 …そして華さんまでは、心のどこかでは納得できていた。

 

 ただなぁ…彼女。

 

 澤さんは意外でしかないな…。

 俺と彼女には、そんなに接点ないだろうに。

 

「さて…女神とやら」

 

 《 なにかしら? 》

 

「…ぉぉ…本当に呼びかけに反応してくれるのだな」

 

 《 なに? なんか用? 》

 

 すでに滅茶苦茶フランクになってるな…あの駄女神…。

 神聖な雰囲気の欠片もなく…ただ世間話する様に、まほちゃんの呼びかけに応対した。

 

「すまんが、一つお願いがあるのだが」

 

 《 お願い? 何? 言ってみてよ 》

 

「貴女が、この順番を決めているのならば…私を最後にしてほしい」

 

「まほちゃん?」

 

 《 最後? あら、どうして? 》

 

 彼女のお願い…駄女神との会話は、全員にも聞こえている。

 そのまほちゃんの希望に、残った3人も注目をしていた。

 特にみほが。

 

「みほが、私の子供を見るのは…辛いだろうと思うってな」

 

「…お姉ちゃん」

 

 いや…あの顔のまほちゃんは、ロクな事言わねぇ。

 みほからは、死角になって見えないだろうがな。

 

 うん、そう! ドヤ顔のまほちゃんは!

 

 

「確定事項を目の当たりにするのは、辛いだろう?」

 

 

「おい、姉」

 

 

 ほら…。

 

 みほも、そろそろストレスがすごいのか…普段言わない様な、セリフを吐きましたね…。

 

「なんだ? 妹」

 

「他の子は、か…可能性の話!! 世界線が違うって、女神様達が言っていたって事は…今の私達のいるこの世界線は違うのっ!! ありえないの!!」

 

 あ~…いや、俺は口を出さない方がいいよね?

 ぜったい…。

 そう、絶対に藪ヘビになる…。

 しっかし、みほがまほちゃんに感情的になるのって珍しいなぁ…。

 

「はっ…違う?」

 

「そうだよっ!」

 

「何が違う! 何故違う!? あの隆史を見る目と心と、出し抜く事しか考えない女共の世界で…何を信じ、何故信じる!?」

 

 女共って…。

 あ…そうか。まほちゃんも結構、溜まっていたのか…。

 

「それしか知らないお姉ちゃんが…!」

 

「知らぬさ! 所詮人は、己の知る事しか知らない!」

 

「ち…違うもん! 友達の皆は、違うよ!! 皆、私達の事は知って…」

 

「はっ! あれだけの可能性を目の当たりにしてか!? 友達? 友情か!? そんな甘い毒に踊らされ、一体先程まで、どれほどの未来の可能性を見てきた!?」

 

 どこぞの、変態仮面みたいな事を言い出したなぁ…まほちゃん…。

 

「それにな! いいか! みほ!!」

 

「な、なに!?」

 

「もう私の胃は、限界だ!!」

 

「……胃って…」

 

 …まほちゃんが、胃が痛いとか言い出した…。

 普段なら絶対言わない…すげぇ勢いよく言い切った…。

 

「…みほ…お前にも、私の気持ちは分かるだろう? 分かってくれないのか?」

 

「……」

 

「ハ…ハハ……確定事項。もう、そうでも思わないと…やってられない」

 

「」

 

 乾いた笑いが聞こえてきた…。

 

「隆史!!」

 

「はい!?」

 

 急に呼ばれた…何か、殺気を込めた様な声で…。

 あぁ…なんだろう? すげぇ怖い…。

 

「少し耳を抑えていろ!!」

 

 拒否権なんてありませんね!

 命令通りに、即座に両手で耳を押さえる。

 

 俺が耳を押さえたのを、睨みを利かせた目で確認すると、少し顔を項垂れた。

 疲れた…と、言わんばかりに、肩をも落とす…。

 あんなまほちゃん、見たことねぇ。

 

「…だがな? みほ…」

 

「……なに? お姉ちゃん」

 

「一つだけ、心の底から良かったと…思った事があるんだ…」

 

「……」

 

「良かった…。ここに…お母様がいなくて……ほんっっっとぉ…に……良かった……」

 

「そうだね!!! それは、私も思ってたよ!!! 本当にそう思うよ!!」

 

「…ちゃんと隆史にも、モラルがあったのだと…心底安心した…ゥゥ…」

 

「お姉ちゃん!!!」

 

 急に抱きしめ合ったな…何を言ったんだろ?

 …良くわからない内に、姉妹喧嘩が収束したなぁ。

 

「……」

 

 うん。声なんてかけられない。

 肩を抱き合って、慰め合っている二人に声なんて…。

 

 絶対、こちらに飛び火する…。

 

 《 ……あの世界線は、あの子達には見せちゃダメね…。確実にこの馬鹿は刺されるわ 》

 

 頭に響く、駄女神の声の意味が良く分からなかった。

 

 

 

 

 ------

 ----

 ---

 

 

 

 

 《 はい。んじゃ次行くわよ~ 》

 

 もうどうでも良いと…能天気な声が響いた…。

 まほちゃんも、落ち着きを取り戻したのか、いつもの様に俺の腕を取りに来きますね。

 はい。みぽりんが、お姉ちゃんを抑止してますね。

 はーい…まほちゃんの制服を引っ張っとるね。

 

 …喧嘩、終わったんじゃないのかな?

 

 

 《 はぁ…よっっと… 》

 

 何かをしたかの様な、駄女神の声が響く。

 

 今度は、「あっ」とか、言うなよ?

 

 

 ……

 

 …………

 

 あれ?

 

 何も起こらない…。

 

 みほにも、華さんにも…まほちゃんにも、変化は無かった。

 

 …って、事は…。

 

 唯一の後輩からの声…。

 驚きと不安が混じりあったその声が、後ろから俺を呼んだ。

 

「お…尾形先輩……」

 

 澤さんの手を、10歳くらいの女の子が握っていた…。

 

 

 

 

 >  澤 梓 の場合  <

 

 

 

 

「…そろそろ10分経つな」

 

「あらぁ~……オアツイデスネェ?」

 

「隆史君の浮気者……」

 

「……」

 

「「……」」

 

 う…動けねぇ…。

 彼女とのこの関係が、それに至るまでも含めて…一切の想像ができねぇ…。

 それは彼女も同じなのか、動けないまま固まっている。

 手を繋いだままの彼女を、見下ろすような形で…その…。

 

 《 いい加減、見つめ合うの止めない? 話が進まないんですけどぉ? 》

 

「ひゃっ!? ご…ごめんなさい…」

 

「いや、澤さんが謝るの事じゃ…」

 

「あ、いえ…」

 

 な…何をどう話しゃいいんだよ!!

 

 そんな彼女の横。

 手を繋いだまま、彼女の細い足に、俺から隠れるようにしている女の子。

 …いや、警戒心が強いなぁ…。

 

 目が合うと、澤さんの後方に隠れてしまうね!

 

 《 えっと、その子の名前は…尾形 隆乃ちゃん…ねっ! 》

 

 駄女神の声が響いた。

 タカノ…今回は俺の字か…。

 地面に描かれた、その名の漢字を物珍しそうに眺めている本人…。

 

「え…えっと…隆乃ち…いや、隆乃は今…いくつなんだ?」

 

 腰を落とし、彼女の目線になって聞いてみた。

 エリナの時と同じく、ちゃん付けはやめておいた。

 

「……」

 

 ま…また、隠れられた…。

 澤さんの細い足からは、全体を隠すことなんて出来るはずもなく、何故か焦ったようにキョロキョロと顔を…っていうか…。

 

「た…隆乃ちゃんは、今いくつかな?」

 

 澤さんが、気を使ってくれた…。

 それでも自信の子供だと、流石に思えないのだろう…どこか、他人行儀…。

 

「…10歳」

 

 しかし、俺とは違い…俺とは違って!!

 澤さんの問いかけに対して、ボソッと呟いた。

 

「えっと…尾形先輩…」

 

 指と手振りで、パッタパッタと、俺と隆乃を指す。

 アイコンタクト!! アイコンタクトォ!!

 一応子供なりに、状況は理解してるはずだぁ!!

 

「えっと…分かる? あの人……お……おおおおおおおお!!!」

 

 うん…まぁ、言い辛いよね…。

 俺に指そうとしていた腕を、真っ赤になって上下に振っている。

 

「なに? お母さん」

 

「っはぁ!!!!」

 

 挙動不審な母親を見て、訝しげに頭を傾げる娘さん。

 横目で俺を睨むのは、やめてもらいたい!

 

「…ぁの…分かる?」

 

 目を伏せて、真っ赤になって俺を指さした。

 その姿に何かを察したのか、コクコクと頷くお子様。

 澤さんには、普通に対応するなぁ…。

 

「え~と…隆乃ちゃんは、おお…お父…さん…嫌いなの?」

 

 そう! 聞いて欲しい事は、ソレだったけど!! ダイレクトに聞きすぎだ!!

 

 

「 嫌 い 」

 

 

 は……ハッキリ言われた…。

 即答だったね…即答…。

 

 やぁ、地面。

 また会ったな…。

 相変わらず真っ黒で、元気そうだ。

 俺はそろそろダメだ…。

 

「女の人の知り合いばっかで、気持ち悪い」

 

「……」

 

「お母さんの友達にもデレデレして、気持ち悪い」

 

「…………」

 

「お父さんの、男の人の知り合いって知らない。本当に女の人ばっかで、気持ち悪い」

 

「………………」

 

 この世界の地面も冷たいのだな…。

 ひんやりして気持いい…。

 うん、そろそろ死にそう…。

 

 最後なんて、警戒心を感じられない程バッサリと言ったな。

 うん…まぁ…俺……友達少ないから……さ……。

 

「…尾形先輩。友達いないんですか?」

 

「澤さん…君もハッキリ言うね…」

 

「あっ!! …すいません」

 

「青森の時も、男友達一人だったしね…。バイト先の、おっさん連中を相手にしている方が、気が楽だったんだ…」

 

 というか、この肉体年齢と同じ友人の作り方なんて、もうわからねぇよ…。

 今も中村と林田くらいだし。

 今思えば、よくできたなと思う。

 

 なんだ? 今回が一番きっつい気がするよ…。

 

 まぁうん…。

 エリナが俺を嫌っていた理由も、多分ソレだ。

 似たような事、言ってたし…な……。

 娘からすれば、自信の父親がそんなんだったら、そりゃ嫌だろうさ。

 子供なら尚更なぁ…。

 

 《 はい!! 盛り上がってきた所で、恒例の将来の話、いっくわよ!! 》

 

 こ…この駄女神…。

 すこぶる楽しそうな声出しやがってぇ…!!

 

 《 この男…。何ぃ? また、飲食店…他にやる事ないの? 主夫か、コレじゃないの 》

 

「…」

 

 なんだろう…ちょっと言い返す気力が無い。

 

 《 今回は、普通の喫茶店ね 》

 

「……」

 

 《 チッ…今回は髪がある… 》

 

 そりゃ良かった。

 だが、なぜに貴様が落胆する?

 

 

「はい!!」

 

 《 あら? 五十鈴 華さん? なにかしら? 》

 

 華さんが、元気よく手をあげた。

 また、随分と楽しそうに……でもない!?

 目元が暗い!! なんか怒ってる!?

 

「将来の私達の事は、もうどうでもいいです! どうせ、今までの世界と変わらないと思いますのでっ!!」

 

 みほが、どうなったか気になるのですが?

 

 《 …ま…まぁ、そうね。ほぼ変わらないわね 》

 

「…ですから」

 

 《 な…なにかしら? 》

 

 駄女神が、気押されている…。

 華さんが色々と、何かを溜め込んでいる顔をしている!!

 

 黒い!! 黒いよ! 華さん!!

 

「澤さんとの馴れ初めとかぁ…聞きたいです!♪」

 

 子首傾げて、可愛らしく言ってっけど!! 目が! 笑ってねぇ!!

 

 《 …いや、それは…まぁ…本人達が良いってなら言うけど…… 》

 

 弱いな女神!

 

「…お母さんとお父さんの馴れ初め? 私、知ってるよ?」

 

 隆乃が、小さく手をあげた。

 というか、俺以外には普通に喋れるのか…。

 

「ホントウ…デスカァ?」

 

「う…うん…」

 

 首を動かし、顎を上げ…顔だけで、隆乃を見下ろした華さん。

 貴女の黒髪とか、ある意味ホラーに見える時あるからぁ…その姿勢はやめて頂きたい。

 …ほら、隆乃が怯えてるでしょ?

 というか普通! 馴れ初めの意味を知っている隆乃に、驚く所じゃないの!?

 

 あ…澤さんも、目を見開き隆乃を見下ろしている。

 やはり彼女も、興味は有るのか…。

 そうだよなぁ…接点が…そんなに…。

 

「お母さん、言っていい?」

 

「う…うん」

 

 一応、本人へ確認を取るとか、ちゃんと気を使える子なんだなぁ。

 澤さんも、躊躇はあるみたいだけど、即答気味に了承の返事を返した。

 はい、俺も気になります。

 

「家にお客さんで、その頃のチーム? とか、組んでいた人達が良く来るんだけど…その時に話してたの」

 

 …奥さん、店内でなんて話してんすか。

 

 

「まずお母さん。高校生の1年の時から、お父さん好きだって言ってた」

 

 

「なぁ!!??」

 

 い…いきなりの爆弾発言…。

 澤さんの体が、凍った様に硬直したね…顔真っ赤だね…。

 

「「 いつ頃からですか!!?? 」」

 

 いや…あの……。

 隆乃に詰め寄るように、みほと華さんが近寄った…。

 まほちゃん…無言で背後取らないであげてよ…。

 

「え? …あの…なんか……お母さんの、前の学校の先輩が…大変な目にあった、お祭りの時とかなんとか…着ぐるみがどうの…」

 

 ……。

 

 たかいたか~い…しか、しておりませぬが…?

 というか、大洗タワーでみほとの事を、始終見ていた本人が? え? 

 

「沙織さんの時ですね…」

 

「…いつの間に」

 

「…………」

 

 いや、なんかすっごい神妙な顔付きで相談し始めたね。

 

 ………ん?

 

 ちょっと…何かが、引っかかる…。

 

 

「んで…店先で、その事の話になると、すっごい楽しそうに「りゃくだつあい」がどうのって毎回話してる」

 

 

 「「「「  」」」」

 

 

 あの…気がかりが全て、吹っ飛びました。

 

「意味は教えてくれなかったけど、お父さんの事だから、ロクなことじゃないよね?」

 

 隆乃さん? 貴女、結構饒舌にしゃべくりますね?

 10歳でしたっけ? 早熟すぎやしませんか…ね?

 

「」

 

「……」

 

 あの…澤さん?

 

 真っ赤になって、手で口を押さえ…涙目になっているっていうフルコンボをカマしながら、震えてますね…。

 あの…目を見てください。全力で逃げないで…。

 

「なんか…お父さんと大学で再会したんだって。それが馴れ初め? …ていうのかな?」

 

 そんな阿鼻叫喚的なお母さんを無視して、思い出しながら淡々と暴露を続ける娘さん。

 

「私が知ってるのってこのくらーい」

 

 まぁ…澤さんが許可したしね…。

 あまり詳しくは聞けなかったけど…十分なダメージをもらいました。

 それにしても、大学って…隆乃の年齢考えると…大学卒業してすぐだろ…。

 

 《 補足しましょうか? 》

「「お願いします!!」」

 

 駄女神が余計な事を言った…。

 拒否する間もなく、みほと華さんの声が被った…。

 あ…まほちゃんが、腕を組んで空を見上げてる……。

 

 《 その澤 梓さんが、そこの男と再会した時ってね? 別れちゃ、くっついてを繰り返していた彼女に、丁度振られたばかりだったらしくってぇ… 》

 

 「「 」」

 

 あ…この世界線…俺、振られるんだ…。

 別れちゃくっついてって…なんか……ハハ…。

 

 《 まぁ、西住 みほさんの事なんだけど…ある意味で、それを繰り返している距離感が…なんていうの? 危機感を遠ざけていたらしくて… 》

 

「え!? ちょっと待ってください!」

 

 《 なに? …あぁ、他の娘の事? 皆、その頃には、諦めていたみたいよ? 》

 

「……え」

 

 《 別れた? はいはい、また? どうせ数週間後には、元鞘でしょ? みたいな事を、散々言われていたみたい 》

 

「」

 

 …良くある話なだけに、生々しい…。

 特にみほとだと、ありえそうな話だな…。

 というか、そのセリフって、絶対に沙織さんが言ってるな。

 

 《 その事を知らない澤 梓さんが、その男に告って付き合いだしたらしいわよ? 》

 

「」

 

 《 積もりに積もっていた想いってのが、その男と再会した時に溢れ出したみたいねぇ 》

 

 あ…空気が…死んだ。

 

 《 後はもう、トントン拍子で…って、良くある話ね!! でも、この男に関しては、レアケースかもしれないわね!! 》

 

「」

 

 み…みぽりん?

 

 あ…そうか。

 今までは、そこまでハッキリとした状況説明がなかった分、まだ耐えられたのか?

 今回、具体的な状況説明を、この空気を読めない駄女神が言ってしまったから…ダメージが物凄いのか…。

 背中をこちらに見せているみほの……肩が…震えてる…。

 

「あ…あの…みほさん?」

 

 華さんまでが、みほを気遣っている…というか、怯えてる!?

 泣いてるとかじゃないの!?

 

「隆乃…さん?」

 

 まほちゃんが、隆乃へ声をかけた。

 普段、このくらいの歳の子との接点がないのか…呼び方良くわからないのか…「さん」付けしたよ。

 

「ちなみに、家ではお父さんは、どんな風なんだ? 教えてくれるか?」

 

 あ…余計な事を、今度はまほちゃんが、聞いてる!!

 気になるのは分かるけど、空気読んで!!

 

「お父さん? …お母さんにベッタリ」

 

 「「  」」

 

「…お母さんから…では、なくてか?」

 

「うん。基本的にお父さんが、良くお母さんに甘えてる。店先はやめてって何度も言ってるのに!」

 

 「「  」」

 

 や…やめ……。

 

「た…隆史が……甘える……? 女に……甘える!? ベッタリ!!??」

 

 やめて! まほちゃん!!

 後退る程ですか!?

 というか…これは……今まで一番…恥ずかしい…。

 

「っ!?」

 

 あ…澤さんと目が合った…。

 

「ぁう……ぁぅぅぅ!!」

 

 あの…泣かないで下さい…口を手で隠して、頭をブンブンと振り回さないで!!

 あぁ…そのまま、顔を隠して蹲ってしまわれた…。

 

「……私。隆史君に甘えられた事……ない」

 

 みぽりん!!!

 腹の底から絞り出す様な声で、呟かないで!!

 いいよ! 今度甘えるから!! 

 

 《 尾形 隆史 》

 

「なんだよ!!」

 

 《 …ごめん 》

 

「このタイミングで謝るな!!!」

 

 声のトーンを落とした、駄女神の声が響いた。

 途中で楽しくなったのか、みほの気持ちを考慮するのを忘れていた…って感じだったな!!

 

 

 ど…どうしたら…。

 

 

「 だ い じ ょ う ぶ !! 」

 

 

 パッと表情を変えて…というか、変えたのだろう…。

 みほが、笑顔でみんなに振り返った。

 

「所詮は可能性のお話だから! うん! 私は大丈夫! だから早く次にいきましょう!!♪」

 

 みほの笑顔と明るい声が響く…。

 ただ、そんなみほ見て…華さんが怯えてる……。

 

 うん…所詮って言った……。

 早く次にって…。

 

 暗に帰れって事だろうな…。

 

「あの…隆史さん…」

 

「…はい」

 

「先程…みほさんが、澤さんを見て、最後呟いていました…」

 

「な…何を?」

 

 普段なら絶対に言わないセリフを連発しているみほだ…。

 …何を呟いたのだろう?

 

「この泥棒猫……と」

 

「」

 

 こ…

 

 怖っ!! こっっわ!!

 

 絶対言わない!! みぽりん、そんなセリフなんて、普段絶対に言わない!!!

 

 やだ!! この世界怖い!!

 

 《 …ちなみにね 》

 

「なんだよ!?」

 

 《 この世界線の西住 みほさんは……警察官になってるわ… 》

 

 

「「   」」

 

 

 

 -------

 -----

 ---

 

 

 

 

 《 じゃあ、いいわね? 》

 

 駄女神の呼びかけで、澤さんと隆乃…俺が向かい合う。

 うん…ちょっと足が震えてるね…俺も……澤さんも…。

 

 澤さんは、少し落ち着いたのか、顔色も元に戻……ってない…。

 向かいって俺の真正面に立つと…すっごい赤くなって小刻みに振動してるよ…。

 すでに隆乃の手を握っているので、後は俺が合わせるだけだ。

 

「ふ~ん。後は、お父さんと手を合わせればいいの?」

 

「」

 

「……」

 

「」

 

「…お母さん」

 

「えっ!? あっ!! はい!!!」

 

「…はぁ……」

 

 取り乱した若い頃の母親を見て、溜息をつくな…。

 気持ちは分かるけど…。

 

「んっ」

 

 ぶっきらぼうに、小さな手を俺に差し出した隆乃。

 後は俺が手を合わせれば、それで終わる…。

 

 ……今回が一番キツカッタ。

 

「…お父さん」

 

「ナンダネ?」

 

「なに? その口調」

 

 いやね? 貴女のおかげで、一杯一杯な人が多数いらっしゃるんですよ?

 いや…違うか……駄女神のせいだな。

 

「…お父さんが倒れた時…お母さん、違う人に見えた……」

 

「……」

 

「あんなに怖がって、…震えるお母さんなんて、見たくないの……だから」

 

「…あぁ」

 

 隆乃から手を握ってきた。

 小さな手から、体温を感じる。

 あ…この子と、まともに話もできなかったな…そういや。

 

「早く帰ってきて」

 

 光る体。

 

 また手を通して、3人の体が光る。

 

 光りだしてからは、そんなに時間は掛からない。

 

 記憶に残らないとしても…何か言ってやった方が、良いのだろうか?

 

「ぅぅぅうう!!!」

 

 あ…横からうめき声が…。

 

「お…尾形先輩!!!」

 

「はい!?」

 

「…お母さん?」

 

 叫んだ澤さんは、隆乃と俺を交互に見ている。

 もう余り時間は、残されていないからか、キョロキョロと見比べる様に…。

 段々と光は強まり…後は消えるだけ。

 

「い…言いますから!! 私、ちゃんとっ…!」

 

「…うん?」

 

「こ…この子の為にも…覚えていたら…ここの事…ちゃんと覚えていたら!!」

 

「……」

 

「気持ちを……だからッ!!」

 

 

 必死になって、顔を向けたその時

 目がまた合ったな、思ったその時。

 

「ばいばい、お父さん」

 

 隆乃の声を最後に。

 

 二人は消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 …ここでの記憶はね? 消えるんだよぉ? 」

 

 

 

 

 

 ------

 -----

 ---

 

 

 

 

 

 手に残る感触と体温。

 …色々と思う所は有るが…まずは…。

 

( …あの )

 《 な…なんでしょう? 》

( 責任取ってください )

 《 …… 》

 

 あの駄女神の責任を、彼女に取らせるのおかしな話だけど…。

 アレに任せると、またややっこしい事になりそうなんだよ!

 

「ゥ……フ……フフ……」

 

 みほ! 壊れた!

 目に光なんざ、すでに無ぇ!

 澤さん達が消えた直後…みほのセリフがやばかった…。

 その感情の篭らない声が…ハッキリと耳を突き刺してきた…。

 

 《 先輩…呼んでますよ? 》

 《 わっ…私じゃないわよぉ? アンタを呼んでたでしょ? 》

 《 ずるいです! こんな時だけ!! 》

 《 ほらぁ! あの男、エリス教信者ぽいしぃぃ 》

 

「……」

 

 言い争いを始めた…。

 脳内音声でやるな。

 甲高い声が、直に神経を刺すんだよ。

 

 周りを見渡すと、華さんとまほちゃんが、呆然とみほを眺めている。

 残された二人が、戦々恐々としているね。

 そうだね…まだ貴女達は、この後がありますからね!

 

 ……。

 

 今のみほの前じゃ、そら怖かろうて…。

 

 

 ん…?

 

 んん?

 

 その間。

 

 目の前の空間…その一部がモザイク調に乱れている。

 そこの部分だけ、切り取ったかの様に。

 

 なんだ? コレ。

 

『 先輩がデリカシーが、無さすぎなんですよ! 一応、女神なんですから、人々に模範になる行動を…ですね!! 』

『 一応!? あんた私に、一応女神って言ったぁ!? 』

 

「……」

 

 脳内で響く声が、そのモザイク部分から、耳を通して聞こえてくる。

 ハウリング…とも違うな。

 言い争いの声が、ハモって聞こえる。

 

 うるさい。

 

 《『 そもそも、あの男の自業自得じゃないの! 私のせいじゃないわよ!! 』》

 《『 それには概ね賛同しますが! 先程の件は、明らかに先輩の落ち度ですよ! 』》

 

「……」

 

 この女神共…。

 

 段々とその声が、モザイク部分から大きく聞こえてくる。

 …なるほど。

 さすが神様の世界…ってやつだ。

 ま、この世界じゃ死ぬこたぁ…ないだろ。

 

「隆史さん…。あの……みほさんが…」

 

 何をマゴマゴしてるのかと、華さんからお声が掛かりました。

 

「隆史、何をしている…ん? なんだ? これは」

 

 それに気がついたのか、まほちゃんもこちらにやってきた。

 すぐに、このモザイク部分の空間に気がついたな。

 …目立つからねぇ。

 

 

 《『 そもそも! 本音や何やら漏れやすい様に設定したの、先輩じゃないですか! 』》

 《『 アンタだって、賛同したじゃないの! 明らかにその方が面白そうだって!! 』》

 《『 してません!! 巻き込まないでくださいよ!! あの設定だと、一部感情的になりすぎて、危険だと言ったのです! 』》

 

「……」

 

 ふ~ん…。

 

 んじゃ、やってみるか。

 

 

 《『 それを聞いて、面白そうだと言ったのは先輩……じゃ…… 』》

 《『 違うわよ!? 確かに面白そうだとは思った! 思ったけど、口にした訳じゃぁぁあああ!!?? 』》

 《『 先輩!? 』》

 《『 なにこれ!? なにこれぇ!! んぁ!? どこ触って…っ!!』》

 《『 ……先輩 』》

 《『 引っ張られて…腕!? いやっ!? なに!? 離して!! 』》

 

 《『 いってらっしゃいませ♪ 』》

 

 

 《『 なにっ!? 力、強ぉ!? ちょっ…いやぁぁぁぁーー!!」

 

 

 

「…いらっしゃい」

 

「えっ!? なに!? 尾形 隆史!? えっ!!??」

 

 

 なるほど…こいつが、駄女神か…。

 

 

 

 青い髪…変な結い方をした髪…。

 全身を青い色で基調した服……。

 

 なのになんだ。その羽衣は。

 洋風なのか、和風なのかハッキリしろ。

 

 その女は、力無く座り込んでいる。

 

 モザイク調の空間。

 壁一枚隔てて、すぐに女神達の声が聞こえてきたからな。

 このふぁんたじ~の世界だ。

 

 

 うん。

 

 

 腕、突っ込んでみた。

 

 

 んで、釣ってみた。

 

 一瞬なんか、柔らかい感触したけど…ま。気にすんな。 な!?

 

 

「なんて事すんのよ!!!」

 

「元気いいな、アンタ」

 

 なんかスゲェミニスカだな…。

 痴女…か?

 

「また、異世界飛ばされたかと思ってぇ!! 本っっ気で怖かったわよぉ!!」

 

「…わしゃ、んな事たぁ知りませぬ」

 

「というか、アンタ。次元の綻に腕突っ込むとか…無茶するわね。下手したら腕、無くなってたわよ…」

 

 引っ張り出された場所、その入口を眺めている。

 まぁ夢の世界ですし? いいんじゃね?

 

 取り敢えず。

 

 うん、いい加減。

 

 立て

 

「というか、アンタ! どさくさにまぎれて、どこ触ってんの!!」

 

「腕だけだから、分かりませぬ」

 

「…ぬっけ、ぬけとぉぉ」

 

 うん。わからない。

 分からないから、取り敢えず関節をキメようと腕を取らないで下さい。まほちゃん…。

 

「はぁ…まぁいいわ。あの子なんとかして欲しんでしょ?」

 

 おや…話が早い。

 またマバタキを繰り返して、遠くのお空を眺めて薄く笑っているみほを指さした。

 

「まぁ、當てられただけみたいだし…呪いの一種と同じかしらね?」

 

「…おい、ふぁんたじ~世界と一緒にすんな」

 

「この世界の影響だし、似たようなもんよ」

 

 その駄女神は、よいしょと立ち上がり腕を組んで仁王立ち…。

 いかにも後光が差してるでしょ? と、言いたげなドヤ顔…。

 

「隆史…この女性は、誰だ?」

 

「ん? あぁ、頭の可哀想な方だ」

 

「違うわよ!! さっきから、貴女達も私の声は聞いているでしょ!?」

 

 声…。

 脳内で鳴り響いていた声。

 みんなも聞いてた声。

 納得した、気がついたと、華さんとまほちゃんが目を見開いた。

 

「ぉ…おお…貴女が、女神様…か」

 

「随分とイメージと違いますねぇ。思ったより可愛らしい方ですねぇ」

 

 二人の反応がお気に召したのか…ふふんっと鼻を鳴らして胸を張った。

 横目で俺を見てくるけど…なんだそのドヤ顔…。

 

「そうそう! そうなのよ! 偉いの! 私は偉いのよ!! 分かった!?」

 

「あ~はいはい。んじゃ早くなんとかしてくれ、青いの」

 

「偉いの!! 青いのじゃない!! なんでこう…私の元には無礼な男ばっか…ひっ!?」

 

 

 

 

 

「 た か し く ん 」

 

 

 

「みほ!?」

 

 いつの間にか…俺の背後にみほが立っていた。

 そのみほを見て、青いのが青ざめていた。

 はっはー全身青だな、青。

 

 ……。

 

「 ま た ? 女の人?」

 

「」

 

 俺の服を掴み…上目使いで見上げてくる…。

 こ…こんな可愛くない上目使いは、久しぶりだ。

 

「 ま  た ? ま た? ま た ? また?また?」

 

 せ…戦車道チョコを初めて購入した日を思い出した…。

 顔だけ後ろを向き、駄女神を見ると…おい、なに腰抜かしてんだ。

 

 早く! 早く何とかしてくれ!!

 

 

「貴女…誰ですかぁ?」

 

 

「ひぃ!!??」

 

 

 俺の体の影から、頭だけを出して…青いのに向かって問いかけた。

 

「セ…」

 

 おい…なんだその杖…。

 

 いつの間に出した!?

 

 

 何をする気だ!?

 

 何を泣いてるんだ!?

 

 何を杖を構えてんだ!!??

 

 

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!!!」

 

 

 

 

 

 

 ------

 -----

 ---

 

 

 

 

 

 

「あれ…? どうしたの?」

 

 

 生気のあるみほを久しぶりに見た気がする…。

 

 なんか青いのが、呪文らしいのを唱えた後…世界が光に包まれた。

 一瞬、なにが起きたか分からなかったけど…その光が収まったと思ったら、きょとーんとした顔のみほが、目の前にいた。

 

「こ…怖かった……良かった……効いてくれて…」

 

「青いの…お前、なにやった?」

 

「ふ…ふふん! 思った通りね!!! やっぱり呪いと一緒よ!! それを解呪したげたのよ!!」

 

「……」

 

「そもそもね! 青いのって何よ!!」

 

 キャンキャン、うるさい。

 

 …しっかし…。

 

 本当に、元に戻ったな…。

 華さんが近づいて行ったって事はもう大丈夫なんだろう。

 うん…怖かった。

 

「アンタ…今、結構ひどい事、考えてない?」

 

 あぁ、良かった二人してこちらを見て、この青いのを指さしてる。

 俺の代わりに説明をしてくれているのだろう。

 うん。さすが華さん。

 

 

 

「あの…隆史君、澤さんがいないんだけど…いつの間に終わったの?」

 

 

 

 「「「「……………………」」」」

 

 

 

「…おい、駄女神」

 

「…わ…私のせいじゃないわよ!? さっきの呪文も、魔法障壁や呪いを無力化するだけだし!!」

 

「……みほさん」

 

「みほ…」

 

 

 …うん。

 

「あぁ…今さっき終わったんだ…。その…沙織さんと同じで…赤ちゃんだったから…すぐに……」

「そうなの?」

 

 目を…合わせられない!!

 

「…華さん? そうなんですか?」

「そ…そうですよぉ? すぐに終わりましたぁ…」

 

 そうだよな…目なんて合わせられないよな…。

 

「…お姉ちゃん?」

「っ!! …そ…そうだ…」

 

 そうそう! 顔を背けるよな!

 

「…なんで、目を逸らすんだろ? 女神様?」

「え? 私?」

「本当に、もう終わったんですか?」

「えぇ……終わったわ…い…今から、次の人よ…」

 

 よし! 流石に空気読んだな!!

 

「…ふ~ん。ちょっと残念かな? 澤さんの子供も見てみたかった…かな?」

 

 

 「「「「っっ!!!」」」」

 

 

 き…記憶を自ら…。

 この場にいる全員が、憑き物が落ちたような顔のみほを直視できない…。

 

「じゃ…じゃー!!! 次行くわよ!!!」

 

 蓮か? 

 青いのが、その良くわからないオブジェがついた杖を真上にかざした。

 さっさと次に行くと、モニョモニョ何かを唱えだした。

 

 そうだ! 今はさっさと進行して、この場を誤魔化すんだ!!

 

 って、感じだな。

 うん…気持ちは分かるから何も言わない…。

 

 心の準備なんて出来ていないけど、多分…今より遥かにマシだ…。

 

 

「あらっ!」

 

 

 そして何事もなく…今までと同じく…。

 

 気がついたそこにいた。

 

 これはもう、すぐに分かるな。

 

 

「…ぅぅ…? お母様?」

 

 和服の…小さくなった様な、ショートカットの華さんがいた。

 

 

 

 

 >  五十鈴 華の場合  <

 

 

 

 

「あら…あらあらあら!!」

 

 それは、本人もすぐに分かったのだろう。

 目の輝きが尋常じゃねぇ…。

 両手を合わせて、顔を覗き込んでいる。

 

「あ…可愛い…」

 

「ふむ…」

 

 完全に小さな華さんって感じだな…。

 小さい頃の華さんを見なくとも察せれる感じ。

 着物がスゲェ…尋常じゃないくらい似合う。

 

 今は、目線を合わせる為にしゃがみこんでいる華さんと向かい合っている。

 

「お名前! お名前教えてください!」

 

「え…えっと…五十鈴…葵」

 

 ……。

 

 …………ん?

 

「……五十鈴…」

 

 苗字が…。

 

 ま…まさか…。

 

「あおい……葵…さん…。おいくつですか?」

 

「12歳…です」

 

 なんか…もう…。

 華さんの顔が、光り輝いている…。

 

 俺はというと…地面に描き出された文字をボケーと眺めている…。

 

 えー…マジで~…。

 

「では、葵さん? お父様は誰ですか?」

 

「 ア レ 」

 

「……」

 

 アレ…呼ばわり…。

 

 指を指して、一言で終わり…。

 

 ヤァ、地面。

 また会ったね!♪

 相変わらず暗い肌だね!!!!

 

「……」

 

 こ こ で も か ぁ !!

 

 

「あらぁ…」

 

「補足しましょうか?」

 

「駄女神…お前、今度は余計な事、言うなよ…?」

 

「い…言わないわよ!」

 

「どうだか…次やったら…本気で怒るぞ?」

 

「ふっ…ふふーん! アンタが怒ったらどうだって……ごめんなさい! やめて!! 頬を引っ張らないで!!!」

 

 …まったく。

 

「まっ、もう分かると思うけど、この男は婿入りしてるわね!」

 

「へぇ~…」

 

 

 「「「「 …… 」」」」

 

 素直に聞いているみほが、怖くて仕方ない…。

 それは皆も思っている事らしく、なんとも言えない顔をしているな。

 

 …ここまで変わるものか。

 逆に白くなってね?

 素直に葵を可愛い可愛い言っている。

 

「なぁ、駄女神。お前もさっきの解呪を自分にかけたら?」

 

「失礼ね! 女神に呪い如き! 効かないわ!!」

 

 あぁ…素で呪われてるからか。

 気づかないってのも、可哀想だなぁ…。

 

 

「では、葵さん? どうしてお父様が嫌いなの?」

 

「……」

 

 怒られた子供の様に、何か言い淀んでいる。

 と、いうか…相変わらず…ド・ストレートに聞くなぁ…。

 

 あぁうん。胃は痛いよ?

 

「…だって」

 

「「だって」…って、言い方は、あまり良くありませんよ?」

 

「…ぅ」

 

 あぁ…なんだろう…。

 俺は結構使うのだけど、俺には言った事なかったのに。

 自分の娘と認識したら、言い方を直しに掛かるとか…。

 

 すごいね! お母さんだね!!

 

 

「なんでしょう?」

 

 そして笑顔だ…すっごい笑顔だ…。

 すげぇ楽しそうにしてる華さん…。

 

 

「お父様…いつもお家に居ないのです」

 

 

「       は ?      」

 

 ―の、笑顔が固まった。

 

「…いつも、お祖父様と出かけて行って…」

 

 あの…華さん? なんで立ち上がっ…!?

 

「2、3日帰らないのなんて良くある事で……」

 

 なんで!? こっち近づいて!?

 

「ふらっと出かけては、いつの間にか帰ってきて……」

 

 近い! 迫ってこないでくだ…近い近い近い!!

 

「帰ってきたとしても、毎回毎回…女性物の香水の香りが、しますし…………」

 

 

 

「隆史さん」

 

「…はい」

 

 

「とにかく、それが嫌なんです……」

 

 

 

 

 

「 お話が有ります 」

 

 

 

 

 

 笑顔が怖い…。

 

 

 

 

 

「それに…お父様が帰ってくると…」

 

「隆史さん…。娘に嫌われる理由…一度見てますよね? ワタクシノ、ジッカデ…ゴゾンジニナラレタカト?」

 

「ちょっ!? いや、ほら! まだ何か言ってますよ!?」

 

「想像がつきますよ? えぇ、簡単にツキマス」

 

「」

 

 いやいや!!

 あのクソ親父と同じ!? 俺がぁ!?

 勘弁してくれ!!

 

 毎回出かけたとしても、理由しってから!

 俺だったら、絶対に帰ってきてから風呂とか入るよ!?

 

 つか、初っ端からアクセル全開で来たなぁ!!

 

 すげぇ笑顔だ! 青筋立ててるけど!!

 

 が。

 

 

「お父様が帰ってくる度…いつもより必要以上に、早く寝かしつけられるのが…」

 

 

 「「 …… 」」

 

 

 あ、固まった。

 俺もだけど…。

 

「私もそろそろ中学生です。いい加減、夜9時になんて寝かしつけられては、堪りません!!」

 

「「 」」

 

「お父様が帰ってきた時だけです! 何なんでしょう!?」

 

 …何なんでしょうね?

 ハイ、ボクノクチカラハ…チョットネ

 

「……隆史さん」

 

「あの…」

 

 睨まないでください…。

 赤くならないでください…。

 対処に困ります…。

 

「お母様!!」

 

「……え?」

 

「…お父様が帰ってこられて、嬉しいのはわかりますが…毎回毎回…いい加減にして下さい!!」

 

「……」

 

「花を生けるのも中断させられるのは、非常に迷惑です!!」

 

「 」

 

 …ん?

 

「…あの…葵?」

 

「なんですか…お父様」

 

 睨まないでください…貴女、華さんと同じで、目力がすごいんですヨ?

 

「君を寝かしつけるのって…華さん?」

 

「…この頃から、自分の伴侶を「さん」付けですか…まぁ、夫婦の問題ですからいいですけど…」

 

 えっと…え?

 君…いくつだっけ? 夫婦の問題とか理解してんの!?

 

 え!?

 

「えぇそうです。どうにもお父様は、ご帰宅される日をお母様にだけは、教えておくらしく…」

 

 あの…華さん? どしたの!? なんか…え!?

 顔が赤一色ですよ!?

 

 

 

 

「毎日カレンダーを眺めるお母様は、正直どうかと思います!!」

 

 

 

 

 

 




はい、閲覧ありがとうございました

くろすおーばぁぁ…強め!

前々から考えていたクロスオーバーとは別なんすよね…
立ち消えになりそうな予感…765プロ…。

はい、ありがとうございました

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