転生者は平穏を望む   作:白山葵

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第03話 密会開始 です!

……

開始です!!


第03話 密会かい… し で…隆史君…電話……出ない

 早朝4時頃に、暗いまだ不慣れな我が家を、できるだけ足音を立てないで出た。

 そのまま陸の24時間対応のレンタカーショップへと向かい、エリリン…じゃない。

 エリちゃんとの待ち合わせの場所…静岡県へと、車を借りて出発した。

 

 まずは東京まで。

 そこで車を乗り捨て、新幹線での移動と考えていた。

 

「あ゛~…」

 

 んでもって今は、高速道路…の、サービスエリア。

 そろそろ7時を回る頃、休憩の為にと立ち寄った。

 

 休憩エリアのテーブルで、サービスエリア特有の、自動販売機でそばを購入。

 朝飯として啜っていた。

 

 いやぁ…なんでだろうかね? 

 こういった所のこういう飯って、すげぇ美味そうに感じるのって。割高なのは分かっちゃいるけど買ってしまう。

 

 汁を飲み終えた後、変な声が出てしまった。

 うん、おっさんくせぇ。

 さて…そろそろ出発するかね…。

 食い終わったプラスチック製の器を、指定のゴミ箱へと捨てると、借りてきた車に向かう。

 

 この時間になると、その中の駐車場はそれなりに埋まっており、チラホラと家族連れが見える。

 結構、朝早いと思うんだけどな…。

 平日の7時なんかで、何でこんなに家族連れが…とか思っていたら思い出した。

 そうそう、世間一般では夏休みだよ…。

 

 …夏休み……ね。

 

 戦車道大会のお陰で、ほぼ動きっぱなし。

 あのクソ野郎の事でもほぼ動きっぱなし。

 んでもって、ガマガエル親父の事でも…。

 

 ……。

 

 言い方変えよう…悲しくなるから…。

 

 戦車道大会のお陰で、ほぼ動きっぱなし。

 みほとまほちゃんの事で、ほぼ動きっぱなし。

 愛里寿の事で、ほぼ動きっぱなし。

 

 うむ、これならば納得できるわ。

 

 でもなぁ…。

 普通、一般的な高校生の夏休みって、こんなのだっけ? 

 今更だし、もはや慣れたといば慣れたけどな。

 

 なんか、それらしい事をやっておきたいと、サービスエリアの家族連れを眺めていて、そんな事を思った。

 昔なんて、連休? 何それおいしいの? 都市伝説だろ? っくらいの枯れた生活だったし。

 

 今は彼女も正式にできて…リア充と言っても差し支え無いだろうと思える現状。

 夏休み…何かないのか? 高校生らしい夏休み。

 

 廃校は免れた…って言っても、それは表向き…杏会長が言っているだけ。

 あの七三メガネが、ご丁寧に高校生のガキとの約束…しかも口約束なんぞ、守る訳がない。

 昔の俺だったら、絶対に守らん。

 

 後半に入った夏休み…その内に何かしらしてくるだろう。

 先手を取りたいけど…俺だけだと今の内は、何もできない…。

 何かない物かと考えれば、結局はしほさんと千代さん…どちらかに協力要請をする事くらいしか、今は思い浮かばないしな…。

 情けない事に人任せ…。またあの二人に頼むしか手がないとか…な。

 

 …はぁ……。

 

 車に乗り込み、エンジンボタンを押す。

 低い音が鳴り響き、車に火が入った。

 レンタカーらしく、何も無い殺風景な車内…。

 

「……」

 

 あぁ違う違う。

 今は高校生らしい、夏休みの方だ。

 予定がない日だって、その内にできるだろうしな。

 みほにも、俺は彼氏という立場だし、何かしらしてやりたい。

 高校2年生。

 一番、青春とやらを味わえる年齢だ。

 

 …大洗学園に転校して来て、友達だって沢山できたんだ。

 思い出とやらを、作ってやりたいよなぁ…。

 

 …昔の俺は、どうしてたっけ。

 

 ……。

 

 あぁ…そうだ。

 

 人と極力会いたくなかったから、家に引きこもっていたっけ…。

 ネットなんて、まだ普及していなかったからな…。

 子供向けに、懐かしいアニメの再放送の特番見て…ゲームやってただけの一ヶ月だったね…。

 良く引きこもりにならなかったな…俺。

 というか、ブラックヤクザな会社だけど、そんな高校時代を経て、良く就職できたよなぁ…。

 

「……」

 

 やめよう…死にたくなる。

 

 今は、みほもいるしな…うん。

 

 ……。

 

 …ふむ。

 

 定番って言えば定番だけど…デートとやら…か? 

 

 してみたいものだろうか? …みほも。

 

 はぁ…まぁいいや。

 取り敢えず、こうして考え込んでいても仕方がない。

 

 ハンドルを握り、アクセルを軽く踏む。

 

 漸く動き出す車。

 先程まで眺めていた、家族連れの車の後ろにつく。

 サービスエリアの出口に車を向けた…ところで……。

 

 家族連れ…。

 

 家族…………。

 

 あ……思い出した。

 

 

 思い出した!! 

 

 

 …詩織ちゃんの事…忘れてた……。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「ごめん! ください!!」

 

「…ごめんください」

 

 玄関先で、呼び鈴と元気な声が聞こえました。

 一人は沙織さん。

 もう一人は、あまり聴き慣れていない声ですね。

 

 昨晩、隆史さんが、また他県にまで出かけられると言われていましたので、彼はもちろんいません。

 一応と朝、隆史さんの自室へとお声を掛けて見たのですが、やはりおりませんでした。

 

 …元・お父様と同じにならないか、不安で仕方ありませんが…ね。

 

 あぁ、まずはお客様です。

 その彼の部屋の前を過ぎ、玄関先へ…。

 鍵を開け、お客様へと対応しましょう。

 

「おはようございます、沙織さん。詩織さん」

 

「おはよう、華」

 

「おはようございます!!!」

 

「…お…はよう…」

 

 あら、麻子さんもいましたね。

 また、すごい眠そうな…沙織さんに寄り掛かってますね。

 

「…眠い……」

 

 あ、はい。

 体全体で表現されてますからね…流石にわかりますよ? 

 

 もう一人の……沙織さんの妹さんでしたね。

 お話には聞いていましたけど、改めて見るとやはり似ていますねぇ。

 

「尾形さん、いますか!!??」

 

「隆史さん? おりませんが…?」

 

「……え」

 

 あぁ…沙織さんが、仰っていました。

 彼女…妹さんが不穏な事を考えていると…。

 

「もう、詩織…。隆史君、出かけるって言ったでしょ?」

 

「聞いてないっ!!」

 

「あれ? 言ってなかったっけ?」

 

「私、尾形さんに、今日行きます!! って、メールしておいたんだけど!?」

 

「いや、私に言われても知らないわよ。隆史君、メールだと内容見ても、ほとんど忘れるよ?」

 

「……はぇ?」

 

「面白いよね。電話で話した事だと殆ど覚えていて、文章として証拠が残ってるのに、メールだと殆ど忘れちゃうって」

 

「」ワス…レ……

 

 ……。

 

 ………。

 

「華…なんかその笑い方怖いよ?」

 

 あぁ、イケマセンネ…笑ってしまっては。

 

「忘れられた!? この私が!? 男の人に!? はぁ!?」

 

「あぁ、あんたモテたっけ。ざまぁみろ」

 

 …沙織さん。

 

「じゃあ今日! 私、何しにここへ来たの!?」

 

「いや、だから知らないって…勝手についてきたのアンタでしょ」

 

「じゃあ今日! お姉ちゃんは、何しにここへ来たの!?」

 

「な…何しにって…麻子の引越しの事で来たのよ。じゃなきゃ麻子、わざわざ起こして、連れてこないでしょ」

 

「……ぐっ」

 

 …あら。

 引越しの一言で、麻子さんの目が覚めたみたいですね。

 若干、顔に赤みが挿しましたし。

 

「昨日言ってた事? 空き部屋の事!?」

 

「そうそう。結局、麻子が住む事になったの」

 

「…………ぅぅ」

 

 あらあらあら! 

 この麻子さんは、見ていて可愛らしいですねぇ。

 段々と顔が赤くなっていきます。

 

「狙ってたのに! それで今日来たのにぃ!!」

 

「…は?」

 

「私、大洗学園に進学するつもりなの」

 

「はぁ!?」

 

「だから、先に住む場所、確保しておこうと思って…」

 

「き…聞いてない…私聞いてないんだけど!?」

 

「は? なんでお姉ちゃんに、私の恋路を一々言わないといけないのよ」

 

「こっ!?」

 

 は…ハッキリ言いましたね…。

 

「…隆史君、彼女いるって知ってるよね?」

 

「知ってるよ。西住 みほさん…だっけ? お姉ちゃんの友達」

 

「あんた…」

 

「それはソレ。コレはこれ。他の皆さんもそうでしょう? ただそこに、私が加わるだけぇ。そもそも、それ以前に、私が地元の高校へ進学して、一体何が悪いのよ」

 

「そ…それは……」

 

「ただでさえ、今後の事を考えると、陸に住んでいる私の方が分が悪いんだからさぁ、多少強引にでも行かないと印象にすら残らないと思うの!」

 

「……」

 

「それに尾形さんが、自分を追って私が大洗に進学して来た……って、思ってくれたら、ポイント高いかなぁって思って!!」

 

「…あんた」

 

 すっごい早口ですね…。

 沙織さんがたじろいでいますね。

 

「いやぁ…尾形さん、悪評がすごいよね。更に同級生と同棲って…でもね? 実際に会って話してみたら、全然違った。私の事助けてくれたし」

 

「決勝戦の時の事?」

 

「そうそう。その時は殆ど話せなかった…今日は結構、お話できると思ったのになぁ」

 

 すごい事を言う、妹さんですね…。

 本当に隆史さんが目的だった様で、一気にてんしょんが下がりましたね。

 えぇ…ものすごく露骨に。

 

「ま、いっか。何か別の手も考えよ。でも面白いよね、この関係性。隆史さん特にイケメンって訳じゃないのにさ」

 

「詩織! アンタ別の手って…」

 

 にやっと、妹さんがほくそ笑みました。

 一瞬…なぜでしょうか? 私を見て…。

 

「まぁ? まだ私、中学生だけど? 胸もおっきくなって来たし? 少なくとも若いよ?」

 

「…は?」

 

「麻子お姉ちゃんまで、落としているなんて正直、予想の範疇を超えてたけどさぁ」

 

「ちょ…ちょっと待て!! 何言ってる!! 詩織!!」

 

「あ~あ~、麻子お姉ちゃん。いいよ、別に言い訳は。麻子お姉ちゃんを昔から見てる私からすれば、即! 分かったしね」

 

「なっ!?」

 

「じゃなきゃさぁ。よりにもよって麻子お姉ちゃんが、他の人がいたとしても、男となんか住む訳ないじゃん」

 

「……ぐっ…」

 

 なんでしょう? 

 この子、喋る度に私を見てきますね…。

 いえ…それよりも、内緒にしているの、見て見ぬ振りしてましたのに…。

 それでも隠そうとしている所が、大変可愛らしくもあったのに…。

 

 …あっさりバラされましたね? 麻子さん? 

 

「ま、それでも麻子お姉ちゃんは、その辺貧相だし? 隆史さんがロリコンじゃなきゃ、スタイルで勝りまくってる、私の方が分があると思うの!!」

 

「ろりっっ!? …し…詩織ぃ!」

 

「え? なに? 私今15歳。バストサイズ、そろそろDに届きそうだけど!? え? 麻子お姉ちゃんいくつ? 言える? ん?」

 

「っっぐぅぅぅ!!!!」

 

 あら…。

 

「私が入学する時になったら、胸の大きさならお姉ちゃんにも匹敵すると思える程の、成長速度だしさぁ…ま、お姉ちゃんお腹回りの成長速度には叶わないけど」

 

「なあっっ!!」

 

「え? 二の腕は? んっ!? 摘んで……掴んでいい? 掴んでいい? 私? 摘むほど無いよ?」

 

「なんで言い直したぁ!!??」

 

 私も、掴むほどはありませんが…沙織さん? 

 

「…この中じゃ、五十鈴さんくらいかなぁ? まともに相手になるのって」

 

「「 …コノォォ 」」

 

 あら…それは、喜んで良いのでしょうか? 

 随分と明るく楽しそうに、お二人に喧嘩売ってますけど…。

 私には、何もないのでしょうか? ちょっとタノシミデシタノニ。

 

「ま、そういう事で、ポテンシャル的に見ても最低、そこの(笑)二人には、勝てると思うの」

 

「「 …… 」」

 

 あらあら…。

 すごい顔で、お二方とも詩織さんを見てますね…。

 あ、沙織さんがお腹を摩った。

 

 う~ん…流石に実妹だとしても、その言い方は、流石にどうかと思いますし…。

 ちょっと止めましょうか? 

 

 

 

「あれ? 皆さんどうしました?」

 

 

 …。

 

 あ、みほさん。

 いけません。結構な時間、玄関前で話し込んでしまいましたね。

 食事の片付けを終えたばかりなのでしょう。

 エプロンをつけた状態でいらっしゃいました。

 

「あの…取り敢えず、上がってください。お茶いれますから…カチューシャさん達も待ってますよ?」

 

 まぁそうですね。

 玄関先で話す内容でもありませんしね…。

 

「…詩織」

 

「なにかなぁ?」

 

 小声で話しかけたのでしょう。

 みほさんには聞こえなかったようです。

 姉妹というものは、こういうモノなのでしょうか? 

 

 いやぁ…睨み合っていますねぇ。

 

 あ、みほさんは、我関せずっといった雰囲気です。

 ほんわかした顔で、家に上がる事を勧めています。

 

「あ…っ。あぁ!! みぽりん。ノンナさんもいる?」

 

「えぇ、来てますけど…」

 

「ふむ…ねぇ、詩織?」

 

「だからなによ? お姉ちゃん」

 

「…アンタ。スタイルがどうの、胸がどうのって言ったけど…」

 

「言ったよ? だからぁ? 実際、お姉ちゃんが中学の頃より、今の私の方がスタイル良いし? 後、1年もすれば…」

 

「じゃあ来なさい。…私じゃないのが、悲しくなるけど……」

 

「は?」

 

「そして隆史君を取り巻く、全貌を知るといいわ。誰に…どんな人達にアンタが喧嘩売ってるのか…」

 

「…ん?」

 

「それで、そんな人達をなぎ倒したのが、みぽりん…」

 

「あの……え? お姉ちゃん?」

 

 

 

「絶望を知るといいわ」

 

 

 

 あらぁ…先行して、ずんずんと中へと進んで行きましたねぇ。

 詩織さんをノンナさんへと、会わせるおつもりでしょうけど…概ね、どうしたいかは理解致しますけど…。

 

「はぁ…私が、他の学校の人達の事を調べないはずないじゃない…。そこを人任せにして…はぁ…」

 

 それへと付いて行くわけでもなく、玄関前で立ちすくんでいる詩織さん。

 麻子さんは、沙織さんに掴まれて、すでに一緒に中へと消えて行きました。

 

「あれ? どうしました?」

 

「あら、優花里さん。おはようございます」

 

「あ、はい。おはようございます五十鈴殿!」

 

 玄関先で残されてしまった、私と詩織さん。

 その私達に、後ろから聴き慣れた声で、声を掛けられました。

 

 はい。優花里さんですね。

 

「あぁ、武部殿の妹さん…。おはようございます」

 

「おはようございます!」

 

 屈託のない笑顔で、挨拶を返しています。

 あれ? 先ほどの自身のお姉さんを気持ちのいい位に挑発していた、ちょっと意地悪な顔ではありませんね。

 

「…五十鈴さん」

 

「はい?」

 

 あら。

 

 なんでしょう? 個人的に話しかけられましたね。

 

「ごめんなさい。お姉ちゃん、普段から…と、いうか…昔からあんなんですし…」

 

「…え?」

 

「やっぱり、昨日発破かけただけじゃ弱いかなぁ…って、思いまして。まぁ? 昨日…その後なんかあったみたいですけど…」

 

 ……。

 

「特に麻子お姉ちゃん、こういった事に縁なさすぎ。うまく行くにしろ、ダメだったにしろ…経験は積んでいた方がいいと思いまして…」

 

 …………あぁ。なるほど。

 

「五十鈴さんにしてみれば、障害が増える…じゃないや。強化される訳ですけど…ま、そこは勘弁してください」

 

「ふふ、お姉さん想いなんですね?」

 

「いやいやっ!」

 

 成る程、成る程。

 二人を挑発していたのは、その為ですか。

 焦りやなにやら…気持ち的に勢いをつけさせる為ですかぁ…。

 変に照れていらっしゃるのか、両手をパタパタと、振っていますね。

 

 兄弟、姉妹。

 

 いない私にしてみたら、ちょっと羨ましいですかね? 

 

「……ま、その方が面白いし…」

 

「え?」

 

「いえっ! なんでも!!」

 

 小さく何か呟いていましたけど…一瞬、先程の少し悪い顔をされましたね? 

 なんでしょう? 

 まぁ、何時までもここにいても仕方ありませんし、家に上がりましょう。

 良くわからない。と、いった顔をしていた優花里さんへも勧め、奥で待っているであろう、そのお姉様の元へと向かいましょうかね? 

 

 

 玄関で靴を脱ぎ、廊下へと上がる。

 すると、詩織さんが今度は別の事で、声をかけてきました。

 

「…ここ」

 

 少し進んだ先、和室の襖の前で、彼女が止まりました。

 

「どうしました?」

 

 少し襖が空いていますね…直立不動になった彼女に、優花里さんが声をかけてます。

 いや…そこ。

 

「そこは、隆史さんの部屋です…っって!? えっ!?」

 

 言い終わる前に、躊躇なく、襖を開けました…。

 いや…それは少々、はしたないですよ? 

 

「…詩織さん。部屋主がいない時に、その様に勝手に…えぅ!?」

 

 私の声を無視…。

 何事も内容に、中へと入室して…んんっ? 

 …テーブルの上に置いてあった、畳んだままの、のーとぱそこんを、躊躇なく開きました。

 

「詩織殿!? 流石にそれはダメですよ!! プライバシーの侵害です!」

 

「あ、お構い無くぅ。私、子供ですから、まだイタズラで済みますのでぇ」

 

「見ている私達が、隆史殿に叱られますよ!!」

 

「いやいやぁ。結構、ヒントになるんですよぉ…こういったのはぁ…。秋山さんも知りたくないですかぁ? 尾形さんのぉぉ…」

 

「なんのヒントですか!!」

 

「あ~…尾形さん。フォルダにロックを設定しただけ…これは…急いで閉めたって感じかな? スリープになってたし……何か焦っていたのかなぁ? これ電源きらなければ見れますよ?」

 

「だから、まずいですって! 私達も怒りますよ!!??」

 

 優花里さんの言葉を、普通に流し、淡々とぱそこんを操作する詩織さん。

 

「パソコン自体にロックがかかってない…。それでこの状態じゃ意味ないなぁ」

 

 

「詩織さん…」

 

 

「大丈夫ですよぉ。部屋を家探しする訳じゃな……いっ!?」

 

「五十鈴殿!?」

 

「…ちょっと……いえ。本当に…はしたいないですよぉ?」

 

「「 」」

 

 はい、目を逸らさないでクダサイ。

 怒りますよ? いい加減にしないと…。

 

「 」

 

「ほっ! ほらっ!! 五十鈴殿も怒ってますし! やめましょう!! って、なんで私も睨まれてるんでしょう…」

 

 睨んでませんよぉ? 

 詩織さんを見ているだけですから、優花里さんは関係ないですよぉ? 

 

「……あ」

 

 なんでしょう? 

 その目をぱそこんの方向へ逸らした瞬間…詩織さんの動きが止まりましたね。

 

「なんだろ…このファイル…」

 

「ほらっ!! いいですからっ!! もう出ましょう!? っていうか、五十鈴殿が怖いです!!!」

 

「…ファイル名が、『 びくとりぃ優花里 』って…。なんだろ…」

 

 

 

 

 ガチンッ!!!! 

 

 

 

 

 あ、優花里さんが思いっきり、力任せに、ぱそこんを閉じましたね。

 びくと…ん? 優花里さん? 

 

「……さて、詩織殿?」

 

「え…えっ!? なんで笑顔っ!? なんで笑ってるんですかっ!?」

 

「いい加減に、出ましょうか?」

 

「」

 

 あ…珍しく、優花里さんが黒い感じがします…。

 どうしたのでしょうか…? 

 詩織さんの肩手を…。

 

「あの…今のファ『   デマショウ    』」

 

 

「……ハイ」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 いつもより、早く目が覚めた…。

 あまり寝られなかったわ。

 携帯を確認すると、デジタル時計の表示が、いつもの目覚ましアラームが鳴る時間より、30分も早かった。

 

 ……。

 

 ベットから体を起こすと、目の前の映る部屋には、散乱した私服の数々…。

 

 な…なんで、私がこんな事で、悩まないといけないのよっ! 

 昨日、結論付けたでしょ!? 

 

 これは、カードの交換!! 

 

 念願の隊長の…しかも水着の写真…じゃない。

 

 カードが手に入るの!! 

 

 そうよ! それだけっ!! 

 

「…ぅ……うん」

 

 だから…早く着替えよう…。

 

 あぁ、その前に脱ぎ散らかした私服を片付けなきゃ…。

 

 ま…まぁ? それでも? 

 

 会うのが、あの変態だとしても? 

 人と会う訳だし? 

 それなりにちゃんとした格好を、しないといけないのも礼儀な訳だし!? 

 

「……」

 

 あ…お風呂入っとこ…。

 変に汗をかいてしまったのか…ちょっとうん…汗の…。

 

「……」

 

 か…髪が…ボサボサ……。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 うん…いつもより早く起きてしまったってだけ。

 だから、時間がかかるのも、時間に余裕があるからってだけ…。

 

 さぁ…誰かに見られない様に、少し早めに出よう。

 

 いつもの…そうっ! いつもの様にシャワー浴びて! 髪を梳かしてっ!! 服を着ただけっ!! 

 

 いや…もう…。

 

 2年になって、個室の寮部屋になってくれて良かったわ…。

 こんな所…誰かに見られたら、何言われるか分からないし……。

 

 荷物を持って、一応戸締りを確認。

 個室と言っても、狭い寮部屋。

 5分も掛からなかった…。

 

 ……。

 

 うぅ…。

 

 今更、出かけってだけで、何をこそこそとしているのだろう…。

 自室を漸く出て、部屋に鍵を掛ける…って、所まで何分掛かるのよ…。

 無意識に、その自室の部屋のドアに頭を当ててしまった。

 

 …意識すると顔が熱い…。

 

 ……。

 

 ………あの変態。

 

 少し思い出した。

 

 真っ赤な景色。

 

 目の前に広がった、その一色を。

 

 頭に置かれる手を。

 

 手を……。

 

 

 ……背中を。

 

 

 はっ…熊だったけどね。

 

 

「 お出かけですか? 」

 

 

「っっっぁ!!!!????」

 

 

 しっ!! 心臓がぁ!! 

 

 飛び上がりでもしたかの様に、すっごい激しく脈打った!! 

 

 はぁ――……

 

 はぁ――ー……。

 

 し…深呼吸……。

 

 

「あら…大丈夫ですか?」

 

「っっ…な…なによ。早いわね、赤星」

 

「いえいえ。日課ですよぉ? 今から、ランニングへ行ってきます」

 

 突然声をかけてきた、この女。

 確かに言うと通り、学校指定のジャージを着ている。

 

 …な…なにか、最近…怖いのよのね…この子。

 主に雰囲気が…。

 

「それで? 逸見さんは、今からお出かけですか?」

 

「ま…まぁ。ちょっとね」

 

 ニコニコと、また人懐っこい顔で微笑んでいる。

 ちょっとあの子を思い出してしまって、嫌な気分になるのよね…この子。

 

「白系統の服って、結構組み合わせが難しいんですよね?」( この前渡した情報が役にたってくれた様で… )

 

「え?」

 

「…成る程…大人っぽい…。エリカさんはそういった服がお似合いですよねぇ」( あの虫が、好きそうですよね )

 

 な…なに? 

 ジロジロ見て…。

 ボソボソとちょっと呟くのが、怖いのよ!! 

 

「頑張ってくださいね?」( 私は頑張ってますよ? )

 

「何がよ! ただ、出かけるだけよ!?」

 

 くっ

 

 何時までもここにいると、他の子にも見られかねない…。

 

 余計な事を言うと、また時間が掛かりそうだし…。

 さっさと行きましょう。

 部屋の鍵をバッグにしまい、赤星を背中にする。

 

「…も…もう行くわ」

 

 …一言だけ口にし、逃げるように早足でその場を後にした。

 

 

 

 

「本当に…頑張ってくださいねぇ……あぁ…隊長にも……」

 

 

 

 

 何か後ろで、声がした気がした。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 はい…やってきました静岡県。

 寝ぼけたかの様な顔で…いや、寝ぼけてるな…。

 

 東京で車を返却…そのまま新幹線へ乗り込み…2時間程掛けてここまで…。

 いやぁ…新幹線で、少し寝れたのが大きい。

 

 いびき…は、かかなかったと思うけど…昨夜の睡眠時間と合わせると、それなりに寝れたと思う。

 

 少し体が楽になった。

 

 待ち合わせの時間は…10時30分。

 変に細かい時間だなぁ…10時なら10時で良かったんだけど。

 提案したら、即10時半の返答だったな。

 

 さて…それでも、少し早く着いてしまった。

 新幹線改札を出た所が、その待ち合わせ場所だったな。

 ま、知らない土地で、下手に目標物を決めるより良い選択だろう。

 

 ……

 

 さて…保留音が長いな。

 

 待ち合わせの時間まで少々あった為に、ちょっと確認の為に電話をしている。

 取り敢えず、連絡をして確認すれば、どんな反応でも情報が手に入るだろう。

 

 さて…どうでるか。

 

 ……。

 

 …………。

 

 はっ。

 

 しばらくし、保留音が終わり、事務的な声が返ってきた。

 お役所仕事…みたいな、めんどくさそうな印象が声端に聞いて取れた。

 

『 只今辻は、出張中の為にお取り次ぎができません 』

 

 出張ね…。

 

 俺の名前をフルネームで教え、その答えがソレか。

 自意識過剰ではないと思う。

 ボイスレコーダーへ録音し、態々秘書にソレを持たせ…直接俺に渡したんだ。

 杏会長ではなく、俺に。

 

 そこまでしたんだ。

 なにかあると思って反応してくれれば、幸いだと思ったのにねぇ。

 

 まぁ? あっちは腐ってもお偉いさんだ。立場がある。

 

 出張ねぇ…保留音がそれなりの時間流れていたんだ。

 相談やらなにやら、していたかもしれない。

 本当に忙しかったら…。

 ま、正体の分からない怪電話…って疑われているかもしれないってのが常識かもな。

 

 でもな? 

 

 俺は辻とは、一言も言わなかった。

 

 俺の取り次いで欲しいとお願いした相手は…綾瀬さん。

 あの七三の秘書子ちゃんだ。

 

 直接、あのロリっ子秘書子ちゃんの名前を出した。

 

 あの七三の事は、何も言っていない。

 企業とかでもそうだ。

 

 どこの誰かも分からない一般人が、直接社長と話したいとか言っても、取り次いでくれるはずがない。

 だから態々、秘書子ちゃんの名前で、秘書子ちゃんへと連絡を取りたいと言ったのだけどな。

 何かあったら、いつでも連絡してどうぞと、挑発地味た声で、一度言われたんだけどなぁ。

 

 折り返して欲しいと伝え、一応携帯番号を教えておく。

 …これで、向こうも俺との直接会話できる手段が手に入ったんだ。

 何かアクションを起こしてくれたら、良いのだけどな。

 

 ま、受付の人に、いたずら電話や、怪電話の類だと思われたら、そこで終了だけどな。

 

 ……。

 

 …………。

 

 いやぁ…。

 

 この事は、また後で考えよう。

 

 もうそろそろ、約束の時間だ。

 

 さぁて、切り替えますかね。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 つっ! …不覚…寝てしまった…。

 

 いつ頃かは、分からないけど…独特な揺れに寝落ち…。

 

 に…二度寝まで、してしまいそうだった…。

 

 やっぱり昨晩よく寝れていなかったのが原因…

 

 つまりはっ! あの男のセイ…よね。うんっ! 

 

 てっ…何言ってんのかしら…。

 

 来た…ここまで、来てしまった。隊長に内緒で…この待ち合わせの場所へ。

 

 ただの交換!! ただのトレードよ! だから大丈夫!! それに本当に来ているか…。

 

 わー…わー…。いる…本当にいる。ちゃんと来てくれた…。改札の…その先にあの男が。

 

 に…逃げたい。今更ながら、アイツと会うのが怖くなってきた。

 

 !!!! 

 

 目が…あった。

 向こうもコチラに気がついた様で、改札の出口へ近づいて来てくれた。

 なんというか…本当に今更よね…その時点で変な言葉を思い出した。

 

 前にあいつが言った言葉。

 

 …密会。

 

 新幹線の切符を改札へ通す。

 シュッと、機械が切符を吸い込む音…。

 後ろから他の乗客がついて来ているので、止まるわけにもいかない。

 だから歩く…歩く……。

 

「おはよう、エリちゃん」

 

 違った。

 いつもの軽薄そうな、ヘラヘラとした顔ではなかった。

 昔見た笑顔。

 

 改札を出て、すぐに声を掛けてきた男は、昔の…ちょっと懐かしい感じがした。

 

 だからだろうか? 改札を出て、そのまま素直に…来れた気がするのは。

 …お兄ちゃんの元に。

 

 

「時間的に結構早いと思ったけど…よくこの時間に来れたよね」

 

「なによ…?」

 

 少し敵意を込めた。

 …別の感情が、顔に出そうだったから。

 二人で会う。密会。初めて…男性と。

 

 その言葉が新幹線を降りた辺りで、ぐるぐると脳内を回っていた。

 

「いや…熊本からだろ? 乗り継ぎもあるし…始発でここまで…」

 

「は? あぁ、そういう事? 黒森峰の学園艦は、熊本に今いないわよ?」

 

「あれ? そうなの?」

 

「大洗から熊本まで、学園艦みたいな大きな船が、たった一日で移動できるはずないでしょ? 今は東京に停泊してるわよ」

 

「……え」

 

 

 あ…。

 

 

「……」

 

 

 まずい…変に舞い上がって、ボロを…

 

「まっ、いっか」

 

「…何っ!? 何かもん……え?」

 

「なんか、エリちゃんにも考えがあるんだろ? んで?」

 

「…な…なに?」

 

 先程から、同じ言葉しか繰り返していない…。

 熱い! 耳が熱い!! 

 

 やめろ…。

 今まで見せなかった顔をするな! 

 

 やめ…

 

 

 

 

「これから、どうしようか?」

 

 

 

 

 




閲覧ありがとうございました

敢えてどこの駅かはカキマセン。
エリリンェ…。


ちょっと強引だったかなと思います。
何がとは言いませんが、気づいた方がいたらウレシイデス。

ありがとうございました。

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