……
開始です!!
早朝4時頃に、暗いまだ不慣れな我が家を、できるだけ足音を立てないで出た。
そのまま陸の24時間対応のレンタカーショップへと向かい、エリリン…じゃない。
エリちゃんとの待ち合わせの場所…静岡県へと、車を借りて出発した。
まずは東京まで。
そこで車を乗り捨て、新幹線での移動と考えていた。
「あ゛~…」
んでもって今は、高速道路…の、サービスエリア。
そろそろ7時を回る頃、休憩の為にと立ち寄った。
休憩エリアのテーブルで、サービスエリア特有の、自動販売機でそばを購入。
朝飯として啜っていた。
いやぁ…なんでだろうかね?
こういった所のこういう飯って、すげぇ美味そうに感じるのって。割高なのは分かっちゃいるけど買ってしまう。
汁を飲み終えた後、変な声が出てしまった。
うん、おっさんくせぇ。
さて…そろそろ出発するかね…。
食い終わったプラスチック製の器を、指定のゴミ箱へと捨てると、借りてきた車に向かう。
この時間になると、その中の駐車場はそれなりに埋まっており、チラホラと家族連れが見える。
結構、朝早いと思うんだけどな…。
平日の7時なんかで、何でこんなに家族連れが…とか思っていたら思い出した。
そうそう、世間一般では夏休みだよ…。
…夏休み……ね。
戦車道大会のお陰で、ほぼ動きっぱなし。
あのクソ野郎の事でもほぼ動きっぱなし。
んでもって、ガマガエル親父の事でも…。
……。
言い方変えよう…悲しくなるから…。
戦車道大会のお陰で、ほぼ動きっぱなし。
みほとまほちゃんの事で、ほぼ動きっぱなし。
愛里寿の事で、ほぼ動きっぱなし。
うむ、これならば納得できるわ。
でもなぁ…。
普通、一般的な高校生の夏休みって、こんなのだっけ?
今更だし、もはや慣れたといば慣れたけどな。
なんか、それらしい事をやっておきたいと、サービスエリアの家族連れを眺めていて、そんな事を思った。
昔なんて、連休? 何それおいしいの? 都市伝説だろ? っくらいの枯れた生活だったし。
今は彼女も正式にできて…リア充と言っても差し支え無いだろうと思える現状。
夏休み…何かないのか? 高校生らしい夏休み。
廃校は免れた…って言っても、それは表向き…杏会長が言っているだけ。
あの七三メガネが、ご丁寧に高校生のガキとの約束…しかも口約束なんぞ、守る訳がない。
昔の俺だったら、絶対に守らん。
後半に入った夏休み…その内に何かしらしてくるだろう。
先手を取りたいけど…俺だけだと今の内は、何もできない…。
何かない物かと考えれば、結局はしほさんと千代さん…どちらかに協力要請をする事くらいしか、今は思い浮かばないしな…。
情けない事に人任せ…。またあの二人に頼むしか手がないとか…な。
…はぁ……。
車に乗り込み、エンジンボタンを押す。
低い音が鳴り響き、車に火が入った。
レンタカーらしく、何も無い殺風景な車内…。
「……」
あぁ違う違う。
今は高校生らしい、夏休みの方だ。
予定がない日だって、その内にできるだろうしな。
みほにも、俺は彼氏という立場だし、何かしらしてやりたい。
高校2年生。
一番、青春とやらを味わえる年齢だ。
…大洗学園に転校して来て、友達だって沢山できたんだ。
思い出とやらを、作ってやりたいよなぁ…。
…昔の俺は、どうしてたっけ。
……。
あぁ…そうだ。
人と極力会いたくなかったから、家に引きこもっていたっけ…。
ネットなんて、まだ普及していなかったからな…。
子供向けに、懐かしいアニメの再放送の特番見て…ゲームやってただけの一ヶ月だったね…。
良く引きこもりにならなかったな…俺。
というか、ブラックヤクザな会社だけど、そんな高校時代を経て、良く就職できたよなぁ…。
「……」
やめよう…死にたくなる。
今は、みほもいるしな…うん。
……。
…ふむ。
定番って言えば定番だけど…デートとやら…か?
してみたいものだろうか? …みほも。
はぁ…まぁいいや。
取り敢えず、こうして考え込んでいても仕方がない。
ハンドルを握り、アクセルを軽く踏む。
漸く動き出す車。
先程まで眺めていた、家族連れの車の後ろにつく。
サービスエリアの出口に車を向けた…ところで……。
家族連れ…。
家族…………。
あ……思い出した。
思い出した!!
…詩織ちゃんの事…忘れてた……。
◆
「ごめん! ください!!」
「…ごめんください」
玄関先で、呼び鈴と元気な声が聞こえました。
一人は沙織さん。
もう一人は、あまり聴き慣れていない声ですね。
昨晩、隆史さんが、また他県にまで出かけられると言われていましたので、彼はもちろんいません。
一応と朝、隆史さんの自室へとお声を掛けて見たのですが、やはりおりませんでした。
…元・お父様と同じにならないか、不安で仕方ありませんが…ね。
あぁ、まずはお客様です。
その彼の部屋の前を過ぎ、玄関先へ…。
鍵を開け、お客様へと対応しましょう。
「おはようございます、沙織さん。詩織さん」
「おはよう、華」
「おはようございます!!!」
「…お…はよう…」
あら、麻子さんもいましたね。
また、すごい眠そうな…沙織さんに寄り掛かってますね。
「…眠い……」
あ、はい。
体全体で表現されてますからね…流石にわかりますよ?
もう一人の……沙織さんの妹さんでしたね。
お話には聞いていましたけど、改めて見るとやはり似ていますねぇ。
「尾形さん、いますか!!??」
「隆史さん? おりませんが…?」
「……え」
あぁ…沙織さんが、仰っていました。
彼女…妹さんが不穏な事を考えていると…。
「もう、詩織…。隆史君、出かけるって言ったでしょ?」
「聞いてないっ!!」
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「私、尾形さんに、今日行きます!! って、メールしておいたんだけど!?」
「いや、私に言われても知らないわよ。隆史君、メールだと内容見ても、ほとんど忘れるよ?」
「……はぇ?」
「面白いよね。電話で話した事だと殆ど覚えていて、文章として証拠が残ってるのに、メールだと殆ど忘れちゃうって」
「」ワス…レ……
……。
………。
「華…なんかその笑い方怖いよ?」
あぁ、イケマセンネ…笑ってしまっては。
「忘れられた!? この私が!? 男の人に!? はぁ!?」
「あぁ、あんたモテたっけ。ざまぁみろ」
…沙織さん。
「じゃあ今日! 私、何しにここへ来たの!?」
「いや、だから知らないって…勝手についてきたのアンタでしょ」
「じゃあ今日! お姉ちゃんは、何しにここへ来たの!?」
「な…何しにって…麻子の引越しの事で来たのよ。じゃなきゃ麻子、わざわざ起こして、連れてこないでしょ」
「……ぐっ」
…あら。
引越しの一言で、麻子さんの目が覚めたみたいですね。
若干、顔に赤みが挿しましたし。
「昨日言ってた事? 空き部屋の事!?」
「そうそう。結局、麻子が住む事になったの」
「…………ぅぅ」
あらあらあら!
この麻子さんは、見ていて可愛らしいですねぇ。
段々と顔が赤くなっていきます。
「狙ってたのに! それで今日来たのにぃ!!」
「…は?」
「私、大洗学園に進学するつもりなの」
「はぁ!?」
「だから、先に住む場所、確保しておこうと思って…」
「き…聞いてない…私聞いてないんだけど!?」
「は? なんでお姉ちゃんに、私の恋路を一々言わないといけないのよ」
「こっ!?」
は…ハッキリ言いましたね…。
「…隆史君、彼女いるって知ってるよね?」
「知ってるよ。西住 みほさん…だっけ? お姉ちゃんの友達」
「あんた…」
「それはソレ。コレはこれ。他の皆さんもそうでしょう? ただそこに、私が加わるだけぇ。そもそも、それ以前に、私が地元の高校へ進学して、一体何が悪いのよ」
「そ…それは……」
「ただでさえ、今後の事を考えると、陸に住んでいる私の方が分が悪いんだからさぁ、多少強引にでも行かないと印象にすら残らないと思うの!」
「……」
「それに尾形さんが、自分を追って私が大洗に進学して来た……って、思ってくれたら、ポイント高いかなぁって思って!!」
「…あんた」
すっごい早口ですね…。
沙織さんがたじろいでいますね。
「いやぁ…尾形さん、悪評がすごいよね。更に同級生と同棲って…でもね? 実際に会って話してみたら、全然違った。私の事助けてくれたし」
「決勝戦の時の事?」
「そうそう。その時は殆ど話せなかった…今日は結構、お話できると思ったのになぁ」
すごい事を言う、妹さんですね…。
本当に隆史さんが目的だった様で、一気にてんしょんが下がりましたね。
えぇ…ものすごく露骨に。
「ま、いっか。何か別の手も考えよ。でも面白いよね、この関係性。隆史さん特にイケメンって訳じゃないのにさ」
「詩織! アンタ別の手って…」
にやっと、妹さんがほくそ笑みました。
一瞬…なぜでしょうか? 私を見て…。
「まぁ? まだ私、中学生だけど? 胸もおっきくなって来たし? 少なくとも若いよ?」
「…は?」
「麻子お姉ちゃんまで、落としているなんて正直、予想の範疇を超えてたけどさぁ」
「ちょ…ちょっと待て!! 何言ってる!! 詩織!!」
「あ~あ~、麻子お姉ちゃん。いいよ、別に言い訳は。麻子お姉ちゃんを昔から見てる私からすれば、即! 分かったしね」
「なっ!?」
「じゃなきゃさぁ。よりにもよって麻子お姉ちゃんが、他の人がいたとしても、男となんか住む訳ないじゃん」
「……ぐっ…」
なんでしょう?
この子、喋る度に私を見てきますね…。
いえ…それよりも、内緒にしているの、見て見ぬ振りしてましたのに…。
それでも隠そうとしている所が、大変可愛らしくもあったのに…。
…あっさりバラされましたね? 麻子さん?
「ま、それでも麻子お姉ちゃんは、その辺貧相だし? 隆史さんがロリコンじゃなきゃ、スタイルで勝りまくってる、私の方が分があると思うの!!」
「ろりっっ!? …し…詩織ぃ!」
「え? なに? 私今15歳。バストサイズ、そろそろDに届きそうだけど!? え? 麻子お姉ちゃんいくつ? 言える? ん?」
「っっぐぅぅぅ!!!!」
あら…。
「私が入学する時になったら、胸の大きさならお姉ちゃんにも匹敵すると思える程の、成長速度だしさぁ…ま、お姉ちゃんお腹回りの成長速度には叶わないけど」
「なあっっ!!」
「え? 二の腕は? んっ!? 摘んで……掴んでいい? 掴んでいい? 私? 摘むほど無いよ?」
「なんで言い直したぁ!!??」
私も、掴むほどはありませんが…沙織さん?
「…この中じゃ、五十鈴さんくらいかなぁ? まともに相手になるのって」
「「 …コノォォ 」」
あら…それは、喜んで良いのでしょうか?
随分と明るく楽しそうに、お二人に喧嘩売ってますけど…。
私には、何もないのでしょうか? ちょっとタノシミデシタノニ。
「ま、そういう事で、ポテンシャル的に見ても最低、そこの(笑)二人には、勝てると思うの」
「「 …… 」」
あらあら…。
すごい顔で、お二方とも詩織さんを見てますね…。
あ、沙織さんがお腹を摩った。
う~ん…流石に実妹だとしても、その言い方は、流石にどうかと思いますし…。
ちょっと止めましょうか?
「あれ? 皆さんどうしました?」
…。
あ、みほさん。
いけません。結構な時間、玄関前で話し込んでしまいましたね。
食事の片付けを終えたばかりなのでしょう。
エプロンをつけた状態でいらっしゃいました。
「あの…取り敢えず、上がってください。お茶いれますから…カチューシャさん達も待ってますよ?」
まぁそうですね。
玄関先で話す内容でもありませんしね…。
「…詩織」
「なにかなぁ?」
小声で話しかけたのでしょう。
みほさんには聞こえなかったようです。
姉妹というものは、こういうモノなのでしょうか?
いやぁ…睨み合っていますねぇ。
あ、みほさんは、我関せずっといった雰囲気です。
ほんわかした顔で、家に上がる事を勧めています。
「あ…っ。あぁ!! みぽりん。ノンナさんもいる?」
「えぇ、来てますけど…」
「ふむ…ねぇ、詩織?」
「だからなによ? お姉ちゃん」
「…アンタ。スタイルがどうの、胸がどうのって言ったけど…」
「言ったよ? だからぁ? 実際、お姉ちゃんが中学の頃より、今の私の方がスタイル良いし? 後、1年もすれば…」
「じゃあ来なさい。…私じゃないのが、悲しくなるけど……」
「は?」
「そして隆史君を取り巻く、全貌を知るといいわ。誰に…どんな人達にアンタが喧嘩売ってるのか…」
「…ん?」
「それで、そんな人達をなぎ倒したのが、みぽりん…」
「あの……え? お姉ちゃん?」
「絶望を知るといいわ」
あらぁ…先行して、ずんずんと中へと進んで行きましたねぇ。
詩織さんをノンナさんへと、会わせるおつもりでしょうけど…概ね、どうしたいかは理解致しますけど…。
「はぁ…私が、他の学校の人達の事を調べないはずないじゃない…。そこを人任せにして…はぁ…」
それへと付いて行くわけでもなく、玄関前で立ちすくんでいる詩織さん。
麻子さんは、沙織さんに掴まれて、すでに一緒に中へと消えて行きました。
「あれ? どうしました?」
「あら、優花里さん。おはようございます」
「あ、はい。おはようございます五十鈴殿!」
玄関先で残されてしまった、私と詩織さん。
その私達に、後ろから聴き慣れた声で、声を掛けられました。
はい。優花里さんですね。
「あぁ、武部殿の妹さん…。おはようございます」
「おはようございます!」
屈託のない笑顔で、挨拶を返しています。
あれ? 先ほどの自身のお姉さんを気持ちのいい位に挑発していた、ちょっと意地悪な顔ではありませんね。
「…五十鈴さん」
「はい?」
あら。
なんでしょう? 個人的に話しかけられましたね。
「ごめんなさい。お姉ちゃん、普段から…と、いうか…昔からあんなんですし…」
「…え?」
「やっぱり、昨日発破かけただけじゃ弱いかなぁ…って、思いまして。まぁ? 昨日…その後なんかあったみたいですけど…」
……。
「特に麻子お姉ちゃん、こういった事に縁なさすぎ。うまく行くにしろ、ダメだったにしろ…経験は積んでいた方がいいと思いまして…」
…………あぁ。なるほど。
「五十鈴さんにしてみれば、障害が増える…じゃないや。強化される訳ですけど…ま、そこは勘弁してください」
「ふふ、お姉さん想いなんですね?」
「いやいやっ!」
成る程、成る程。
二人を挑発していたのは、その為ですか。
焦りやなにやら…気持ち的に勢いをつけさせる為ですかぁ…。
変に照れていらっしゃるのか、両手をパタパタと、振っていますね。
兄弟、姉妹。
いない私にしてみたら、ちょっと羨ましいですかね?
「……ま、その方が面白いし…」
「え?」
「いえっ! なんでも!!」
小さく何か呟いていましたけど…一瞬、先程の少し悪い顔をされましたね?
なんでしょう?
まぁ、何時までもここにいても仕方ありませんし、家に上がりましょう。
良くわからない。と、いった顔をしていた優花里さんへも勧め、奥で待っているであろう、そのお姉様の元へと向かいましょうかね?
玄関で靴を脱ぎ、廊下へと上がる。
すると、詩織さんが今度は別の事で、声をかけてきました。
「…ここ」
少し進んだ先、和室の襖の前で、彼女が止まりました。
「どうしました?」
少し襖が空いていますね…直立不動になった彼女に、優花里さんが声をかけてます。
いや…そこ。
「そこは、隆史さんの部屋です…っって!? えっ!?」
言い終わる前に、躊躇なく、襖を開けました…。
いや…それは少々、はしたないですよ?
「…詩織さん。部屋主がいない時に、その様に勝手に…えぅ!?」
私の声を無視…。
何事も内容に、中へと入室して…んんっ?
…テーブルの上に置いてあった、畳んだままの、のーとぱそこんを、躊躇なく開きました。
「詩織殿!? 流石にそれはダメですよ!! プライバシーの侵害です!」
「あ、お構い無くぅ。私、子供ですから、まだイタズラで済みますのでぇ」
「見ている私達が、隆史殿に叱られますよ!!」
「いやいやぁ。結構、ヒントになるんですよぉ…こういったのはぁ…。秋山さんも知りたくないですかぁ? 尾形さんのぉぉ…」
「なんのヒントですか!!」
「あ~…尾形さん。フォルダにロックを設定しただけ…これは…急いで閉めたって感じかな? スリープになってたし……何か焦っていたのかなぁ? これ電源きらなければ見れますよ?」
「だから、まずいですって! 私達も怒りますよ!!??」
優花里さんの言葉を、普通に流し、淡々とぱそこんを操作する詩織さん。
「パソコン自体にロックがかかってない…。それでこの状態じゃ意味ないなぁ」
「詩織さん…」
「大丈夫ですよぉ。部屋を家探しする訳じゃな……いっ!?」
「五十鈴殿!?」
「…ちょっと……いえ。本当に…はしたいないですよぉ?」
「「 」」
はい、目を逸らさないでクダサイ。
怒りますよ? いい加減にしないと…。
「 」
「ほっ! ほらっ!! 五十鈴殿も怒ってますし! やめましょう!! って、なんで私も睨まれてるんでしょう…」
睨んでませんよぉ?
詩織さんを見ているだけですから、優花里さんは関係ないですよぉ?
「……あ」
なんでしょう?
その目をぱそこんの方向へ逸らした瞬間…詩織さんの動きが止まりましたね。
「なんだろ…このファイル…」
「ほらっ!! いいですからっ!! もう出ましょう!? っていうか、五十鈴殿が怖いです!!!」
「…ファイル名が、『 びくとりぃ優花里 』って…。なんだろ…」
ガチンッ!!!!
あ、優花里さんが思いっきり、力任せに、ぱそこんを閉じましたね。
びくと…ん? 優花里さん?
「……さて、詩織殿?」
「え…えっ!? なんで笑顔っ!? なんで笑ってるんですかっ!?」
「いい加減に、出ましょうか?」
「」
あ…珍しく、優花里さんが黒い感じがします…。
どうしたのでしょうか…?
詩織さんの肩手を…。
「あの…今のファ『 デマショウ 』」
「……ハイ」
◆
いつもより、早く目が覚めた…。
あまり寝られなかったわ。
携帯を確認すると、デジタル時計の表示が、いつもの目覚ましアラームが鳴る時間より、30分も早かった。
……。
ベットから体を起こすと、目の前の映る部屋には、散乱した私服の数々…。
な…なんで、私がこんな事で、悩まないといけないのよっ!
昨日、結論付けたでしょ!?
これは、カードの交換!!
念願の隊長の…しかも水着の写真…じゃない。
カードが手に入るの!!
そうよ! それだけっ!!
「…ぅ……うん」
だから…早く着替えよう…。
あぁ、その前に脱ぎ散らかした私服を片付けなきゃ…。
ま…まぁ? それでも?
会うのが、あの変態だとしても?
人と会う訳だし?
それなりにちゃんとした格好を、しないといけないのも礼儀な訳だし!?
「……」
あ…お風呂入っとこ…。
変に汗をかいてしまったのか…ちょっとうん…汗の…。
「……」
か…髪が…ボサボサ……。
……。
…………。
………………。
うん…いつもより早く起きてしまったってだけ。
だから、時間がかかるのも、時間に余裕があるからってだけ…。
さぁ…誰かに見られない様に、少し早めに出よう。
いつもの…そうっ! いつもの様にシャワー浴びて! 髪を梳かしてっ!! 服を着ただけっ!!
いや…もう…。
2年になって、個室の寮部屋になってくれて良かったわ…。
こんな所…誰かに見られたら、何言われるか分からないし……。
荷物を持って、一応戸締りを確認。
個室と言っても、狭い寮部屋。
5分も掛からなかった…。
……。
うぅ…。
今更、出かけってだけで、何をこそこそとしているのだろう…。
自室を漸く出て、部屋に鍵を掛ける…って、所まで何分掛かるのよ…。
無意識に、その自室の部屋のドアに頭を当ててしまった。
…意識すると顔が熱い…。
……。
………あの変態。
少し思い出した。
真っ赤な景色。
目の前に広がった、その一色を。
頭に置かれる手を。
手を……。
……背中を。
はっ…熊だったけどね。
「 お出かけですか? 」
「っっっぁ!!!!????」
しっ!! 心臓がぁ!!
飛び上がりでもしたかの様に、すっごい激しく脈打った!!
はぁ――……
はぁ――ー……。
し…深呼吸……。
「あら…大丈夫ですか?」
「っっ…な…なによ。早いわね、赤星」
「いえいえ。日課ですよぉ? 今から、ランニングへ行ってきます」
突然声をかけてきた、この女。
確かに言うと通り、学校指定のジャージを着ている。
…な…なにか、最近…怖いのよのね…この子。
主に雰囲気が…。
「それで? 逸見さんは、今からお出かけですか?」
「ま…まぁ。ちょっとね」
ニコニコと、また人懐っこい顔で微笑んでいる。
ちょっとあの子を思い出してしまって、嫌な気分になるのよね…この子。
「白系統の服って、結構組み合わせが難しいんですよね?」( この前渡した情報が役にたってくれた様で… )
「え?」
「…成る程…大人っぽい…。エリカさんはそういった服がお似合いですよねぇ」( あの虫が、好きそうですよね )
な…なに?
ジロジロ見て…。
ボソボソとちょっと呟くのが、怖いのよ!!
「頑張ってくださいね?」( 私は頑張ってますよ? )
「何がよ! ただ、出かけるだけよ!?」
くっ
何時までもここにいると、他の子にも見られかねない…。
余計な事を言うと、また時間が掛かりそうだし…。
さっさと行きましょう。
部屋の鍵をバッグにしまい、赤星を背中にする。
「…も…もう行くわ」
…一言だけ口にし、逃げるように早足でその場を後にした。
「本当に…頑張ってくださいねぇ……あぁ…隊長にも……」
何か後ろで、声がした気がした。
◆
はい…やってきました静岡県。
寝ぼけたかの様な顔で…いや、寝ぼけてるな…。
東京で車を返却…そのまま新幹線へ乗り込み…2時間程掛けてここまで…。
いやぁ…新幹線で、少し寝れたのが大きい。
いびき…は、かかなかったと思うけど…昨夜の睡眠時間と合わせると、それなりに寝れたと思う。
少し体が楽になった。
待ち合わせの時間は…10時30分。
変に細かい時間だなぁ…10時なら10時で良かったんだけど。
提案したら、即10時半の返答だったな。
さて…それでも、少し早く着いてしまった。
新幹線改札を出た所が、その待ち合わせ場所だったな。
ま、知らない土地で、下手に目標物を決めるより良い選択だろう。
……
さて…保留音が長いな。
待ち合わせの時間まで少々あった為に、ちょっと確認の為に電話をしている。
取り敢えず、連絡をして確認すれば、どんな反応でも情報が手に入るだろう。
さて…どうでるか。
……。
…………。
はっ。
しばらくし、保留音が終わり、事務的な声が返ってきた。
お役所仕事…みたいな、めんどくさそうな印象が声端に聞いて取れた。
『 只今辻は、出張中の為にお取り次ぎができません 』
出張ね…。
俺の名前をフルネームで教え、その答えがソレか。
自意識過剰ではないと思う。
ボイスレコーダーへ録音し、態々秘書にソレを持たせ…直接俺に渡したんだ。
杏会長ではなく、俺に。
そこまでしたんだ。
なにかあると思って反応してくれれば、幸いだと思ったのにねぇ。
まぁ? あっちは腐ってもお偉いさんだ。立場がある。
出張ねぇ…保留音がそれなりの時間流れていたんだ。
相談やらなにやら、していたかもしれない。
本当に忙しかったら…。
ま、正体の分からない怪電話…って疑われているかもしれないってのが常識かもな。
でもな?
俺は辻とは、一言も言わなかった。
俺の取り次いで欲しいとお願いした相手は…綾瀬さん。
あの七三の秘書子ちゃんだ。
直接、あのロリっ子秘書子ちゃんの名前を出した。
あの七三の事は、何も言っていない。
企業とかでもそうだ。
どこの誰かも分からない一般人が、直接社長と話したいとか言っても、取り次いでくれるはずがない。
だから態々、秘書子ちゃんの名前で、秘書子ちゃんへと連絡を取りたいと言ったのだけどな。
何かあったら、いつでも連絡してどうぞと、挑発地味た声で、一度言われたんだけどなぁ。
折り返して欲しいと伝え、一応携帯番号を教えておく。
…これで、向こうも俺との直接会話できる手段が手に入ったんだ。
何かアクションを起こしてくれたら、良いのだけどな。
ま、受付の人に、いたずら電話や、怪電話の類だと思われたら、そこで終了だけどな。
……。
…………。
いやぁ…。
この事は、また後で考えよう。
もうそろそろ、約束の時間だ。
さぁて、切り替えますかね。
◆
つっ! …不覚…寝てしまった…。
いつ頃かは、分からないけど…独特な揺れに寝落ち…。
に…二度寝まで、してしまいそうだった…。
やっぱり昨晩よく寝れていなかったのが原因…
つまりはっ! あの男のセイ…よね。うんっ!
てっ…何言ってんのかしら…。
来た…ここまで、来てしまった。隊長に内緒で…この待ち合わせの場所へ。
ただの交換!! ただのトレードよ! だから大丈夫!! それに本当に来ているか…。
わー…わー…。いる…本当にいる。ちゃんと来てくれた…。改札の…その先にあの男が。
に…逃げたい。今更ながら、アイツと会うのが怖くなってきた。
!!!!
目が…あった。
向こうもコチラに気がついた様で、改札の出口へ近づいて来てくれた。
なんというか…本当に今更よね…その時点で変な言葉を思い出した。
前にあいつが言った言葉。
…密会。
新幹線の切符を改札へ通す。
シュッと、機械が切符を吸い込む音…。
後ろから他の乗客がついて来ているので、止まるわけにもいかない。
だから歩く…歩く……。
「おはよう、エリちゃん」
違った。
いつもの軽薄そうな、ヘラヘラとした顔ではなかった。
昔見た笑顔。
改札を出て、すぐに声を掛けてきた男は、昔の…ちょっと懐かしい感じがした。
だからだろうか? 改札を出て、そのまま素直に…来れた気がするのは。
…お兄ちゃんの元に。
「時間的に結構早いと思ったけど…よくこの時間に来れたよね」
「なによ…?」
少し敵意を込めた。
…別の感情が、顔に出そうだったから。
二人で会う。密会。初めて…男性と。
その言葉が新幹線を降りた辺りで、ぐるぐると脳内を回っていた。
「いや…熊本からだろ? 乗り継ぎもあるし…始発でここまで…」
「は? あぁ、そういう事? 黒森峰の学園艦は、熊本に今いないわよ?」
「あれ? そうなの?」
「大洗から熊本まで、学園艦みたいな大きな船が、たった一日で移動できるはずないでしょ? 今は東京に停泊してるわよ」
「……え」
あ…。
「……」
まずい…変に舞い上がって、ボロを…
「まっ、いっか」
「…何っ!? 何かもん……え?」
「なんか、エリちゃんにも考えがあるんだろ? んで?」
「…な…なに?」
先程から、同じ言葉しか繰り返していない…。
熱い! 耳が熱い!!
やめろ…。
今まで見せなかった顔をするな!
やめ…
「これから、どうしようか?」
閲覧ありがとうございました
敢えてどこの駅かはカキマセン。
エリリンェ…。
ちょっと強引だったかなと思います。
何がとは言いませんが、気づいた方がいたらウレシイデス。
ありがとうございました。