「ここからは如月モモと『ステルスモモの』独壇場っすよ」 作:罠ビー
気づいちまった瞬間から書くしかなくなっていた。
でも麻雀、わっかんねーなー。
「キサラギ、如月桃です。アイドル、やってます」
高校入学の初日、クラスの自己紹介で私はまさに『目を奪われた』っす。
それは容姿がかわいらしいとか、声がかわいらしいとかそういう次元の話ではなく彼女が声を発した瞬間引き込まれるように私の視線は、私の意識は彼女の方に向いてしまっていた。
それが私の覚えている私と彼女との出会いで彼女が知らない私と彼女との出会いだったっす。
サクラの舞い散る並木道を母の手を引き歩く。母が私の事を見失ってしまわぬように、その手をつなぎ暖かくなってきた春の日差しの中歩く。周りにいる子たちは親や以前からの友人だろう人たちと言葉を交わしているが私たちは言葉を交わすことはなかった。
春になり晴れて高校生になった私は近場にあった私立の鶴賀学園に入学したっす。高校入学の日だけあって中学の卒業式ぶりに向こうから私の事を見つけてくれた両親に冷めた視線を送りながら両親とともに門をくぐった。周りの新入生たちはこれから始まる新生活に期待に胸を膨らませながら、これから始まる新生活に緊張しながらこの日を迎えていた。……でも私には関係のないことだ。どう中学までの生活と変わらない。ただただ孤独に時間を浪費する日常が続くだけである。
「私は――、きみは?」
「私は東横桃子っす」
いきなり近くにいた生徒に話しかけられるも会話はそれっきり。その子はすでに別の子に声をかけに行ってしまっている。コミュニケーション能力の高い子なのだろうか。いや、好奇心旺盛といった方がいいかもしれない。そう軽い感想を持った後即座に今の出来事のことを忘れることにする。どうせもう彼女と私が話すことはないだろう。だから私もよろしくとは言わなかった。伝わらないコミュニケーションに意味なんてないのである。
「桃子、そんな態度」
そんな態度の私を両親は申し訳なさそうに、そして心配した様子で声をかけてきた。その声に私はばっと振り返る。あんたたちだって見つけてくれないじゃないっすか!!と声を荒げて今にも両親につかみかかろうとするのをこらえる。私の顔を見た両親の表情から自分がいまどのような顔をしているのか悟る。外聞もなく両親につかみかかることに恥ずかしさなんかないが私は二人が本当に私に負い目を感じてくれており自分たちのふがいなさに嘆いていることを知っているのである。だから八つ当たりをすることなんてできなかった。二人が悪いわけではない。私は自分のステルス体質を呪ったっす。
「ごめんね、桃子」
お母さんの言葉に私は返すことができなかった。ただただ振り返ることなくこのまま校舎の陰にきえてしまいたかった。
入学式が終わり新入生たちは各々の教室に分かれていく。だんだんと緊張から解放された生徒たちが我先にと近場の子に対して声をかけ始めだんだんと教室の中が姦しいものになっていく。一年A組に振り分けられた私は教室の真ん中らへんにあった自分の座席で本を読んでいた。周りの生徒はまだ少し浮足立っているようにほかの生徒と探り探り会話を試みているが前後左右私に声をかけてくる人はいなかったっす。
もちろん自分から話しかけることなんてしない。どうせ消えていくのだ。それはただの徒労でしかない。とっくのとうに私はコミュニケーションという手段を放棄していた。
ハア、とため息をつく。今日一日くらいはみんなも気が張っているだろうから持つかもしれないと淡い期待を抱いていたがどうやらダメなようだ。もうすでに東横桃子という人間はみんなの中から意識の外側へ送られてしまっているようだった。夢なんて見るものじゃないっすねとおとなしくそのまま本に視線を戻した。
「キサラギ、如月桃です。アイドル、やってます」
声が聞こえた。それまですでに興味を失った私は自分の世界に集中していたためまったく気が付かなかったがいつの間にか担任の先生が帰ってきてどうやら自己紹介が始まっていたらしい。ここまで誰も私が本を読んでいたことに気づかなかったということはやっぱりそういうことなのだろう。しかし興味などなかったはずなのにその声にあがなうことができず私の目線は吸い込まれるように声の主の方に向かっていた。
明るい茶色の髪。決して綺麗にそろっているわけでもないがふわふわとした髪質でありシュシュでまとめたサイドテールがかわいらしい。身長は普通くらいで……ってなんでこんなまじまじと見てるんすか私は。
「あのー先生?私の自己紹介終わりましたよ」
どうやら見とれていたのは私だけじゃなかったみたいっすね。クラス全員が、先生もがまるで時間が止まったかのように彼女を見とれてしまっていた。そんなクラスの状態に苦笑いを浮かべた彼女は席に着いた。そして気を取り直した先生によって自己紹介の続きが始まった。本に視線を戻してもいいがさすがに出席簿と照らし合わせて確認を取っている先生が飛ばすわけはないだろうと思い本をしまいぼーっとさっきのクラスメイト、如月さんを眺める。
だからこそ悲しいっすね。そうおもった。何の因果か私とおんなじ『モモ』でここまで正反対の人間が同じクラスにいるのだ。彼女は存在感が極端に強いのだろうと思う。何もしなくても人の目を集め何かをすればさらに人の目を集める。極端に影の薄い私とはまるで正反対の存在っす。彼女は誰からも見てもらえる人気者で、かたや私は見つけてすらもらえない、必要とされない子。ひがむなという方がムリっす。いや、そんなこと関係ないか。
「次、東横、東横」
「はいっす」
「如月に見とれていないで、お前の番だ」
教師の軽い注意が入るが何のことはないように気だるげに立ち上がる。周囲の視線が集まる。慣れていないので少しその視線に気持ち悪い気持ちを覚える。面倒くさいのでさっさと終わらせてしまおう。
どうせ入学という特別な状況が終わり、日常になるころにはいつものように消えてしまうのだ。まるで私などいないかのように。もう期待など抱いてはいなかった。
私、東横桃子はさっき自己紹介していた如月さんとは真逆の極端に存在感のない、極端に影の薄い人間っす。声を出しても気づいてくれないことは日常茶飯事で。目の前で歌ったり踊ったりなど奇怪な行動をすれば気づいてもらえる程度。実の両親でさえ私の事を見つけづらくなってしまうしまつであった。今日みたいな特別な日はいつもよりかはまだましだけど。
「東横桃子っす。よろしくっす」
数日の間っすけどねー。と心の中で毒づく。どうせだれもが私を見失って、私の事は見つけられないのだ。私の中で当たり前になってしまったことだ。それが悲しいとすら思えなくなっていた。
……でも彼女からも認識されないのはなんだかちょっぴり悲しいっすね。他人に興味なんか失ったはずなのに、自分と対極に位置する少女の事は何となく気になった。
そう思い再びぼんやりと眺めた彼女の顔はどこか浮かない顔をしていたっす。
私はクラス中がフリーズした中自己紹介のために一人教室の中で立ち尽くしながらまたかとため息をついた。
私、如月モモは極端に衆目を集めてしまう人間だった。特に何もしていなくても衆目の注目を集めてしまう私が自己紹介などをすればこうなってしまうことはよくあることである。クラス中の視線が痛い。たくさんの目玉が私だけを見つめている錯覚にかられそのまま即座に席に座ってしまいたい衝動にかられたがそれではみられる状況が変わるわけではない。
「あのー、先生。自己紹介終わりましたよ」
震える声を押しとどめ担任の先生に声をかける。担任の先生は我に返りクラスメートもどうやら我を取り戻したようでほっと胸をなでおろす。
もともとなぜか注目をされやすい方だった。町中を歩いていれば振り向かれることは当たり前であった。それくらいならほほえましいものだろう。私は私の意図しないところで注目されてしまいトラブルのもとになったりもした。
少しでもこの特性を生かそうと、家計の足しにしようと町中でアイドルのスカウトを受けたのが失敗だったのだろうか。それからさらに注目を受けるようになってしまい今では何も対策をせずに町中を歩くことは困難なほどになってしまった。追いかけられ、囲まれ、迫られ。
こんなになってしまうのだ。人との付き合いなどできるはずもない。そのため私は家族やマネージャー以外話す人はおらず友達などいないのである。
ああ、憂鬱だ。なんでこんなになってしまうのだろう。そう思うと自己紹介は続いているにもかかわらずじっと私に向けられ続けている視線があることに気づく。クラスの真ん中くらいだろうか。そっちに視線を向けるもそれらしい人は見当たらない。気のせいだと普通なら思うが私は向けられる視線には生憎敏感である。気のせいなんて言うことはありえないだろう。
もう一度視線の感じるあたりを注視してみる。なんだろう、うっすらと、ぼんやりと人の影が見えてきたような気がする。そこにだんだんと女の子がいることが分かってきた。え、何なの?私いよいよ幽霊でも見れるようになっちゃったの?いや、幽霊の視線すら集めるようになっちゃったの?
お祓いしてもらおうかな。
そんなことを思いながら目をこすったら、瞬間寒気が走った。少女の姿がぼんやりと、陽炎のようにはっきりしないことに驚いたわけではない。身体の輪郭よりも先にはっきり見えたその瞳に息をのむ。まるですべてにあきらめてしまったかのような、在りし日の自身の兄のような瞳に身じろぐ。そして決意する。あんな目をする子を放っていられるわけがない。ちょっぴり怖いけど幽霊だとしてもあの子と話さなければ。
「次、東横、東横」
「はいっす」
あ、幽霊じゃなかった。
「東横桃子っす。よろしくっす」
簡潔にそれだけ言った彼女、桃子ちゃんはすぐに席に着いた。その声音は心底どうでもいいといった、何もかにも興味を失ったかのような声だった。これが彼女は私が知らないと思い込んでいる彼女と私との出会いであった。
長野県予選まで書けたらいいね。
あと参考資料で咲の敦賀っぽいところを見てたらワハハさんが好きになった。