「ここからは如月モモと『ステルスモモの』独壇場っすよ」 作:罠ビー
麻雀要素はありません。
桃子ちゃんは若干やさぐれてます。
「ああん、もう全然見つけられないよー」
「どうしたんだ、如月さん」
「な、何でもないよ」
そういって私はいぶかしげな目線を向けてくるクラスメートの言葉にぎくりとしながらごまかす。ただでさえ目立つ私が変な様子で探し物を探しているのだから目立って仕方がない。
あの目を見て以来教室で桃子ちゃんを探すようにはしてみているのだがあれ以来私は一度として彼女の姿を捕らえることができなかった。こうやって教室中いろんなところを探してみてはいるんだけれど私はニ週間がたっても彼女の事を見つけることができないでいた。教室の真ん中らへんにいるってことはわかっているはずなのに私は彼女の姿を認識できない。まさかこんなところに……
「カーテンの裏なんか見てどうしたんだ如月さん」
「いやあ、あはは、何でもないよ」
あはは、何をしても目立つから恥ずかしいなあ。
なら恥ずかしいついでに聞いてしまおう。
「東横さんどこにいるか知らない?」
「東横?ああ、あの地味な、あれ、どんな子だったけ?如月さんはその子にどんな用なの?」
「いや、ちょっとお話がしたくてね」
答えてくれた子に適当な理由を述べてありがとうと言ってから少し教室の壁の方により俯瞰するように教室の中、特に教室の中央らへんを見つめる。違和感を感じられないという脳みそに逆らい違和感を探す。
桃子ちゃんの事を人に聞くとだいたいこんな感じの答えである。だからあんまり結果には期待していなかったし今の子が彼女の事を見つけられていたらそれはそれで悔しい。
そしてこの答えからわかるようにすでにこの教室で彼女の事を認識できる人はおそらくゼロなのである。これが彼女にとって特別なことじゃないのだったらこのままでは本当に壊れてしまうかもしれない。いや、壊れてしまうだろう。彼女は世界から無視されているに同然なのである。そんな状況、自分なら狂ってしまいかねない。
何としてでも彼女をそこから引き上げないといけないとそう思った。
そのために少し視点を変えてみよう。そもそもなんであの日は私は彼女の姿を見つけられたのだろうか。あの日だけ見つけられたのには何か理由があるんじゃないか。彼女のように一時期死んだような眼をしていた頭のいいお兄ちゃんはそう考えるだろう。私はお兄ちゃんのように考えるのは苦手だけど考えてみよう。
あの日は入学式だったからみんながみんな緊張していた。私も人前に立つのとは違う緊張感があったしそれは彼女も例外ではないはずだ。そして新しい環境に少しでも慣れようとみんな無意識に周りに気を配っていたはずである。だから彼女が見えていた?彼女の見えなくなってしまう力が薄れていた?いや、そうかもしれないけどその状況は再現できないから解決の糸口にはなりえない。じゃあほかの理由を考えよう。
あーわかんない。そもそも私はお兄ちゃんと違って頭は良くないのだ。どちらかというとバカな方である。
思い出せ。確か私が自己紹介をして、教室が一瞬で固まって呪いのようにクラス中のみんなの眼が私に奪われて、それが嫌になって……
眼。目。瞳。
「そっか、思い出した」
思い出すと同時に少し嫌な気持ちに陥る。結局この力に頼るのかという思いとこれから行うことに対する気恥ずかしさで顔がほてったように赤くなる。でも、やらないと。情けないけどそうしないと私は彼女を見つけられないから。
彼女が私を見てくれないことには、私は桃子ちゃんを見つけられないから。
大きく息を吸って声を出す。あなたを見つけたいから。あなたと友達になりたいから、貴女をその孤独から救い上げたいから。
「東横桃子ぉ」
その名を呼ぶ。高らかに叫ぶ。彼女の興味を引くために精一杯その名を叫ぶ。教室の一番目立つ、私の力を最大限以上に発揮できてそして教室中を見渡せるところ、すなわち教壇の上に仁王立ちして。とびきりに彼女が無視をできないような言葉を、叫ぶ。
「好きだぁぁあああああ」
私の奇行に教室中の誰もが私の方を向く。まるで時間が止まったかのようにこっちを見て、唖然としたかのような表情を私に向ける。それと同時にだんだんと体温が上がってくる。
……うわああああああ。ものすごく恥ずかしいいい。自分が意味わかんない変なことをしている自覚があるからもうめちゃくちゃ恥ずかしい。ヤバい顔から火が出そう。いや、今の私なら出せるかもしれない。
でも、探すんだ。あの子を、あの目を。恥ずかしさに耐えて、今すぐ教室を飛び出したい気持ちを押さえつけて。探すんだ。伝えるんだ、貴女は一人じゃないんだと。
私に向けられたたくさんの眼と対峙する。あの目を探すんだと目を見開く。
数々ある瞳の中からあのすべてに絶望して、何も信じられなくて、今すぐにでも消えて行ってしまうようなその瞳を。……あーわかんない。でもあきらめるもんか。もう一度!
「東横桃子ぉお」
顔を真っ赤に染めながら一心に叫ぶ。そして気が付く、揺れた瞳があることに。
見つけた。そこからは早かった。そのわずかに期待の色を灯した黒い瞳を軸に彼女の姿が私の眼に明らかになっていく。着崩すことなくしっかりと着られた制服に身を包んだ、黒髪の女生徒の姿が浮かび上がってくる。その瞳が信じられないものを見つめるように私を見つめている。私はそんな彼女に恥ずかしさで火照った顔でほほ笑んだ。
「やっと、見つけた」
そう言って私は彼女に向かって教壇の上から飛び込んだ。
「へ、変態っす--」
私は盛大に誤解をされたうえで教室の床とキスをした。
「いや、モモが私を見つけてくれたのは嬉しかったっすよ。でもあの時は本当に怖かったっす」
「あはは、ごめんごめん。でもああでもしないと桃子ちゃんを見つけられなくてね」
場所はなぜか体育倉庫。モモが私の非難交じりの視線に笑いながら答えた。あの後身の危険を感じた私は教室から急いで逃げ出し、モモの方も二度と見失ってたまるものかと私を追いかけ、モモの特別な力によってモモをクラスメイトが追いかけ始めて大変な目にあった。結局私が折れてモモを匿いほとぼりが冷めるまで一緒に隠れることになった。
今のやり取りで私も毒気を抜かれため息を吐く。それにしても人から見向きもされなかった私が人に追いかけられて逃げるなんて経験などなかったのでちょっぴり楽しかったのは癪に触るから内緒にしておこう。
「それでモモは私に何の用っすか。あんなことまでしたんすから」
「んー特にないよ。しいて言うならさっきの言ってたこと」
は?どういうことなのだろうか?私が好きだとかの事だろうか。赤く火照った顔で私を見つめてたモモ。あんなことになってまで私を見つけ出した執念深さ。え、まさか。
後ずさる。跳び箱に背中が当たる。ヤバい、おあつらえ向きに体育倉庫である。ロケーションも完璧。私のステルス能力で隠れてしまっている。
「私はそういう趣味はないっすよ」
「いや桃子ちゃん、私もそんな趣味はないよ」
そういってモモは私の身体を見る。
「そんな趣味あってもよかったかも。なんて冗談冗談」
私ににらまれたモモは手を振り冗談だという。本気だと思った相手にそういう冗談はよくない。そういえば
「モモはよく私の事を覚えてたっすね」
そもそもの疑問だった。私を探すのはおそらく難しい。それ以上に私の事を片隅にでも覚えていた。おそらく大多数のクラスメイトが刹那で忘れたであろう私の事を何故モモは覚えていたのか。
「印象的だったからね。」
モモはそう答えた。……そんなことあるはずがない。私の自己紹介が印象的ならそもそも私はこんなにも影が薄く存在感のないことに悩むことはない。ふざけるのも大概にしてほしい。あれだけ一目で印象に残るモモがそれを言うとか嫌味なのだろうか。
「桃子ちゃんの眼が印象的だったの。何もかもあきらめてしまったような眼が。何とか話をしてみたいそう思ったの」
「だけどこんなに苦戦するなんて思わなかった。桃子ちゃん全然見つからないんだもん。クラスの人に聞いてもどこにいるかわからないっていうし幽霊でも見たのかと思ったよ」
笑いながらそういうモモの言葉が刺さる。幽霊。言いえて妙かもしれない。私はそこにいるのに認識されない、必要とされていない。長年の生活でゆがんだ心が叫び声をあげた。
「でもよかったよ。桃子ちゃんはここにいるんだから」
そういってモモは私の手を握る。その手は久しく私が忘れていた人のぬくもりを感じさせてくれた。
「モモの手、あったかいっすね」
「桃子ちゃんの手もあったかいよ」
その日、結局私たちは午後の授業をすっぽかしモモは先生に怒られ、平然と席に戻った私を恨めしそうな顔で見ていた。
ウマ娘って百合アニメの皮を被った陸上アニメ好きです。
これは麻雀SSの皮を被った百合SSを目指して行きたいです