ダンジョンに白い兎がいるのは間違っているだろうか 作:さははさ
「ふぁ…さっさと着替えて仕込みしに行こ…」
ベルの朝は早い。ベルは此処に寝床を借りる条件としてこの屋根裏の下で経営している豊饒の女主人のバイトをしている。だがこのお店のウエイトレスは女性しか働けない。その為ベルは朝の仕込みを主としてその他の雑用。夜の一番客が来る時間帯から閉店まで皿洗いを主として、その他の雑用をすることになっている。
ベルは自身、寝床を貸して貰えればそれで良いのだが給料を貰っている以上、半端な仕事は出来ない。その為ベルはこのお店の従業員の誰よりも早く仕事をすることにしている。まぁ本音を言えば仕事を早く終わらせればそれだけ自分の時間を作れるという事だ。
此処に来てからまだそんなに日は立っていない。初めて会った時からこのお店には感謝をしても仕切れないほどのご恩がある。いつかその恩を返せたら良いなと思いながら汚れても良い服に着替える。
「さてと…先ずは芋の皮剥きを終わらせよう」
下に降り、厨房に向かう。そして芋を入れた籠を持ち外の水道へと向かう。水道の近くにあるは木箱に座り、芋の皮を剥き始める。最初は苦戦したけど元々手先は器用な為、今ではスイスイっと剥くことができる。剥き終わった芋はもう一つ持ってきていた何も入っていない籠に入れる。それを皮付きの芋が無くなるまでやるのが僕の仕事。これが終われば他の材料の仕込みもある。他の野菜の皮を剥いたり、肉や魚を切ったりと…やる事は沢山ある。
早々に終わらせようとしていたら、僕の次にこのお店で働いている人が現れた。
「クラネルさん。おはようございます」
リュー・リオン。この豊饒の女主人で働いているエルフの方だ。薄緑色の髪に鋭い目付きをしており、謹厳で実直な性格をしているがとても優しい方だ。初めて出会った時、あんな態度で接した僕を此処に連れてくれた。今ではとても尊敬する方…なのだが。
「お、おはようございます…リューさん」
彼女は朝、此処に早くきて一人で朝稽古を始める。それを初めて見ているわけではないのだが…その稽古をする時の格好…肌が少しばかり出すぎて目のやり場に困っていた。袖の無い服にショートパンツ。稽古を始めれば脇が見えたり、襟元から見える胸が心臓をドキドキさせる。なるべく見ないようにはしているが…。
「はっ…ふっ…!」
木でできた武器を持つ。少しばかり先が尖っており、槍のような形状をしている。そしてその動きはなんとも見惚れるほどに美しい。白い肌に滴る汗…は、良いとして。
無駄の無い動き。イメージトレーニングだろうか、リューさんの目の前に相手がいるように見える。次の動きに繋がる動き方。隙のない立ち振る舞い。そして何よりも見えない相手であろうと凍える程に冷たいその目。
戦ってみたくて仕方なかった。
けど、リューさんは女性だ。どんなに強くても万が一の事を考えると戦えないし、もしあの格好で戦う事になったら勝てる気がしない。故に手合わせ願いたいのだが頼めないのである。
でも見ている限り、リューさんも少し物足りなさそうに感じる。聞いた話ではこのお店の従業員の方に相手してもらったことがあるらしいが、その相手の方に話を聞いたところ、リューさんは手加減が苦手らしい。エルフの種族の方は皆そうなのかなと思ったが、多分リューさんだけだろうな。朝稽古を見る限り手を抜いてないと言うよりも手が抜けないと感じる。
「…ん、終わった」
芋の皮剥きが終わる。リューさんはまだ朝稽古をする時間だ。邪魔をしないように早々に立ち去ろう。
元々彼女とはそんなに言葉を交わしたりはしない。今のこの状況でも挨拶以外の会話をしていない。リューさんは無口な方だ。僕自身から話しかけたりはしないし、向こうから話しかけられない限り話したりはしないからな。嫌われているわけではない。これは僕の勝手な予想だが、彼女とは何処か似たものを感じるから。それが何かはわからないが。
「次の仕事次の仕事っと…」
「…」
そしていつも通り、仕込みをするベルであった。
次の話であのファミリアが訪れます。