ダンジョンに白い兎がいるのは間違っているだろうか   作:さははさ

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EP.3

朝の仕事を終えた僕はいつもの様にダンジョンに向かう。屋根裏にあった少し古びた短剣を手に僕はダンジョン内を歩く。腰にぶら下げた巾着に満杯の魔石が入るまでがノルマだ。魔石はお小遣い程度と時間短縮の為に下の階層には行かないようにしていたのだが、昨日の感じもう少し下の階に行っても時間は余りかからなそうだしお金も増えそうだ。

 

なので今日は九階層に向かった。勿論、一階層から五階層とは違うモンスターで、少し強くなってるし産まれる時間が早くなって逆に良い。五階層はあまりモンスターがいなかったから助かる。

 

これなら直ぐにでも魔石で鞄がパンパンになるな。それに昨日のミノタウルスの魔石は他のモンスターとは違いとても価値のあるものだった。ついでにミノタウルスのツノも高値で引き取ってもらえた。

 

「帰りに差し入れでも買っていこうかな」

 

最近、自分がハマっているものを豊饒の女主人の皆に差し入れとして持っていこう。多分、皆知っていると思うけどね。

 

「じゃあ後少し、頑張りますか」

 

最近、生きてて楽しいと思えるこの頃。おじいちゃん、僕はとても充実した日々を過ごせています。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ただいま帰りましたー」

 

厨房に繋がるお店の裏側の扉から入る。今の時間はそこまで客が来る時間では無く、従業員の方も少しばかりかのんびりとしていた。

 

「にゃ!ベル坊もう帰ってきたのかい?」

 

猫の耳をした女性の方。アーニャ・フローメルと言い、皆にはアーニャと呼ばれている。豊饒の女主人の二階に住み込みで働いている。とても明るく元気な性格で子どものような無邪気さを持っている。そしておバカなところは生意気な子どもにも見えなくないが、一応これでも先輩ではあるため、僕は彼女の事をさん付けで呼んでいる。アーニャさんは別に良いと言ってくれるが、そこの所はしっかりとしておきたい。おじいちゃんにも言われてるし。

 

「はい。ダンジョンにはもう行ってきて魔石がパンパンになったので帰ってきました。それでいつも皆さんにお世話になっているので差し入れとして僕が気に入ったじゃが丸くんを買ってきました。時間が空いた時に食べてください」

 

と、テーブルの上に置いたのはじゃが丸くんが入った紙袋。一人当たりどのくらい食べるかわからないから一人、2個分買ってきた。余った分は僕が食べる事にしている。

 

「へぇ、ベルはじゃが丸くんが好きなんだね」

 

そう僕の後ろから話しかけてきたのは僕と同じ種族のルノア・ファウストと言う。アーニャさんと同じく下の名前で呼び、僕はさん付け呼んでいる。その態度は最近の若い者にはあまり見られない光景だと褒めてもらえた。…一体歳は幾つだろうか。

 

「はい。初めて食べた時にこの都市にはこんな美味しい物があるのかとびっくりしました」

 

別に僕のいた村で食べていた料理は美味しくないわけではない。けど腹を満たすため、食を楽しむためでは無く、生きるために食べていた。それ故に買い食いと言うものをした事がなく、とても驚いた。

 

「じゃあ内のお店の料理は美味しくないという事かなぁ〜?」

「…何でそうなるんですか。クロエさん、悪い冗談はやめてください」

 

ごめんごめんと、軽く謝罪をしてきたのはクロエ・ロロと言い、アーニャさんと同じ種族の人だ。アーニャさんがやんちゃな猫としたらクロエさんはいたずら好きの猫だろうか。

 

「ベルさん、もう帰って来たんですか?」

「はい。差し入れを持ってきたので良かったら食べてください。シルさん」

「ふふ、さん付けしなくて良いんですよ。シルって呼んでくださいと言ってるじゃないですかベルさん」

「ははは…」

 

彼女はシル・フローヴァと言う。僕がさん付けで呼ぶと何かと呼び捨てにしろと言いくるめようとしてくる。僕と同じ種族で、この店で多分一番人気だと思う。そして一番怖いとも評判が上がる。それには一理あり、今も僕の事を取って食う小悪魔のような笑みを見せてくる。

 

「またサボっているとミア母さんに怒られますよ」

 

厨房に入ってきて、リューさんは開口一言そう言った。ミア母さんと言う単語が出た瞬間僕以外の方はすぐ様持ち場に戻った。…休憩中じゃなかったのね。

 

「クラネルさん。まだ仕事の時間ではないのに此処に来たのは何か理由があるのですか?」

「あ、はい。リューさん含めて皆に差し入れにじゃが丸くんを買ってきたので食べてください」

「そうですか。時間が空き次第頂きます」

「はい。じゃあ此処にいても邪魔になるので出て行きますね。また後で」

 

僕はそう言って手を少し降って歩き出す。リューさんの姿から視線を晒し前を向こうとした時、リューさんが手を上げる動きが視界の端に映った。なのでまたリューさんの事を見る。その時には手は先程と同じように下にあった。

 

「何かありましたか?」

「いえ、気のせいでした」

 

今度は見返さずに前を向き厨房を出て行った。時間はあるし少しだけ街を歩いてこようかな。

 

そして豊饒の女主人に残っている従業員はと言うと。

 

「…リ、リューが男からの頂き物を拒否せず受け取った?」

「それに今、手を振り返そうとしてなかったかにゃ…」

「夢…じゃ、ないよね…ね?」

「リュー…ふふ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そして時間は経ち、バイトの時間へ。まぁ言っても表には出ないで裏で雑用だけどね。元々僕の様に男が此処で働いている事が奇跡以上な事だ。店の名前からして男が働いているとは思えないし。

 

「ベル〜、これ皿に盛り付けといてー」

「はい。わかりました、ルノアさん」

 

お皿を三枚用意して料理を盛り付ける。ルノアさんはまた別の料理に取り掛かる。ん?ルノアさんが何かを探しているな。

 

「ルノアさん、何かお探しですか?」

「うーん…。塩がなくなりそうでね。新しい塩を探してるのよ」

「塩はその料理分はありますか?」

「ギリギリ」

「盛り付けは後少しで終わるので少し待っててください。塩持ってくるので」

「おーありがとね〜」

「いえいえ」

 

職場関係は上々。良い信頼関係を築けていると思う。その後少しの時間働いた後に。

 

「ベル坊!飯に入りな!」

 

ミア母さんがそう言った。他の皆は昼時の客が一番いない時にもう取ってあるため、僕だけが晩にまかないが入る。此処に寝床を貸してもらいバイト代、更にはまかないまで貰える。流石に断っているが、ついでに作っただけさと用意してくれる。本当に優しい方である。

 

「はい!わかりました!」

 

そして僕は厨房から出る。そしてこのお店の表側にある扉からお店に入り、カウンター席の一番角に座る。今の時間帯はとても忙しく、厨房側でご飯など食えたものではない(経験済み)。アーニャさんからの視線が痛いから。

 

「いらっしゃいませお客様。何になさいますか?」

 

今日はリューさんか。まあ丁度カウンター席の近くにいたからか。実を言うと僕がこの時間帯にまかないに入ると他の従業員の方。特に猫組が喜ぶ。何故なら僕は客として此処に来たわけではないから。僕の相手になればほんの少し楽に接する事ができ休める事ができるからである。けどリューさんはそんなものは感じない。本当に尊敬する。

 

「いつもので」

「かしこまりました」

 

そして数分後、まかないが届く。本当はもう出来ていたが頼んだすぐ届くのはおかしいからで、誰が見てるかわからないから少しだけ時間を開けているのだ。その為いつも出来立てを食べることはできない。でも美味しいから別に良い。

 

「いただきます」

 

そう言って僕は出された料理を口に運ぶ。んー美味しい。

 

…リューさんが何故か料理を運んでから動かない。何か聞きたいことがあるのだろうか。

 

「リューさん、どうしましたか?」

「…先程はありがとうございました。じゃが丸くん、とても美味しかったです」

 

成る程。お礼を言いたかっただけなのか。本当に律儀な人だな。あれはいつもお世話になっている僕からのお礼なのに。

 

「リューさん。それはこちらの台詞ですよ。お礼は僕の方から言わせてください」

 

あの日、僕は貴方に会わなければ此処にはいなかった。いや、死んでいた。それぐらい追い詰められていた僕の汚い手を貴方は引っ張ってくれた。このぐらいで恩は返しきれない。だからお礼など貴方から必要ない。でもリューさんらしいと言えばらしいけど。

 

「早く食べて仕事に戻らないと!」

 

と、皿の上の料理を口にかっ込む。美味しい。美味しいけど…。

 

「ん〜出来立てが食べたいなぁ〜」

「それでしたら…」

 

仕事に戻ろうとしていたリューさんが僕の言葉を聞いてそう言って止まった。

 

「リューさん?」

「…それでしたら……私が作りますが、如何ですか?」

 

少しだけその白い頬を赤く染めるリューさん。

 

…うん多分、いや絶対此処にいる男性全員同じ気持ちだろうがあえて言おう。

 

可愛い過ぎかよ!え!?何その表情?いつものクールなリューさんは一体どこに行ったのだ?もしかして偽物?いや、リューさんの様な綺麗な方の換えなんて用意できるわけがない。

 

彼女らしからぬ行動に戸惑いづつ、周りの視線(男からは殺気)を独り占めしつつ答える。

 

「リューさんの無理のない程度でよろしくお願いします!」

 

とても無難な対応だと思うが、女性陣からしたらため息もだったそうだ。後にルノアさんからそう言われた。

 

けど本人は結構喜んでくれたと思う。そう言った時、少しだけ口角を上げて笑ったリューさんの表情は僕の手の動きを止めるには十分すぎる。今はまた淡々と仕事には励んでいるリューさんはまるで別人の様に、そして淡い期待を胸に先程の光景を脳で再生しつつ料理を少しづつ食べ勧めていた。

 

「にゃあ!御予約のお客様がご来店にゃあ!」

 

そう言えば今日は予約された団体客が来ると言っていたな。なら早く食べないといけない…が。

 

あの人…どこかで見たことが。

 

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