ダンジョンに白い兎がいるのは間違っているだろうか 作:さははさ
「ちょっと待ってほしい」
金色の短髪の男の人が僕にそう言った。身長は僕と同じように小さい。親近感がわくが、僕とは違い顔がかなり整っている。女受けしそうな顔だな。
「何か御用ですか?」
「その前に僕の名前はフィン・ディムナと言う。気軽にフィンと呼んでほしい」
「僕はベル・クラネルです。フィンさん、それで御用は何ですか?」
「君がミノタウロスを倒した事に興味を持ってね。失礼だが君のレベルはどのくらいか聞いてもいいかい?」
…レベルね。それを聞いて少しだけ気分を悪くする。が、表情には出さないようにする。この都市に来てあまり日は経っていないが、此処のことは知っている。おじいちゃんに聞いた事があるから。
神がこの都市にファミリアを形成し冒険者に恩恵を与える。その制度に僕は…。
「そうですね。言うなれば0ですかね」
店内が静まる。僕の発言によって、この店に訪れた人達が僕を一斉に見た。この人達に絡まれた時点で視線を集めていたが今の言葉で視線は全て僕の方に向いた。
「…それは本当かい?」
「嘘をつく意味もないので」
「はっ!面白くねぇ冗談だな!」
先程ジョッキを壊しかけた狼男がそう吠える。席を立ち此方に向かいながらそう言ったのだ。
「こんなヒョロヒョロしたチビがミノタウロスを倒しただと?笑えねーな!」
別に笑わせようとはしていないのだが。どうも僕の事をこの人は好ましく思ってないらしい。
「まぁ証拠等は無いので信じるか信じないかはその人次第という事でお願いします」
ミノタウロスのツノが残っていれば証拠になったのに。結構高値で換金してもらえたから仕方ない。
「いやベート。ベル坊は嘘ついてないでぇ」
この店に入る時に先頭を歩いていた人が弁明?してくれた。彼女もまた僕のところに近づく。
「
「貴方が神さま何ですか」
見た目からしてそうは見えないが…。
「おう。うちはロキって言うねん」
と、手を差し出してきた。神様なのにこんなにフレンドリーなのか?人間に対してこんな態度で接して良いものなのか?
「よろしくお願いします」
そう言って手を握る。所詮握手という事だ。
「はっ、ベル坊は凄いなぁ。一応うちも神さまや。初対面の奴に対して何度か同じ行動とった事があるけどちゃんと返したのはベル坊が初めてや」
「え?もしかして僕、何か悪いことしましたか?」
「いやいや、別に悪くへんで。ただ、うちにとっては面白いだけや」
何を考えているのだろうか。
「おいロキ!こいつ本当にミノタウロスを倒したって言うのかよ!」
「ほんまやベート。ベル坊は嘘をついてへん。ついでにレベルも0や」
「それが本当なら…ベル」
「はい?」
金髪の人が少し間を空けて僕を呼ぶ。何か考えている様子だった。
「僕らのファミリアに入ってもらえないかい?」
今日一番の騒つきが店内で広がる。
彼が僕を誘ったファミリアは【ロキ・ファミリア】と言い、オラリオ屈指の探索者が集まる人気と実力を兼ね備えた冒険者が多数いるファミリアである。
彼、フィン・ディムナはそのファミリアの団長として君臨する。二つなである【勇者】として親しまれている。その彼に僕のような見た目から弱そうな奴が誘われているのだ。周りが驚くのも無理がない。
「お、おいフィン。本気で言ってんのかよ」
狼男も。
「流石に急すぎひんかフィン」
神様も彼の言動に驚いている。
一応言っておくが今の時点で僕は彼らの存在をよく知らない。そしてこれからの言動は知らないから起きた事ではない。仮に知ったところで僕の答えは変わらないだろう。
「いや、善は急げと言うだろう。僕はベルが僕たちのファミリアに入る事でいいカンフル剤になると思っている」
「まぁ確かにそうかもしれへんなぁ〜」
神様もそう納得し始める。
「はぁ!?ロキもそう思ってんのかよ!」
「なんやベート。そんなにベル坊が嫌なんか?」
「はっ!こんなチビに興味なんかねーよ!」
「なら黙っとれ。興味がないなら酒でも飲んどれ」
ちっ!と、舌打ちをしたのちに僕を睨んでテーブル席に戻る。狼男がテーブル席に戻り、フィンさんが僕の方を向いて口を開く。
「それでベル、どうなのか答えてくれないか?」
「入りませんけど」
「…ん?」
あれ?聞こえなかったのかな?
「貴方のファミリアには入りませんよ。せっかく誘ってくれたのにすいません」
「あ、いや良いんだよ。謝らなくて…」
…どうしてそんなにも驚かれるのだろうか。ただ彼の問いに答えただけなのに…。
「はっはっはっ!ベル坊っ!自分かなりおもろいなぁ!」
何故か神様には笑われる事態。
でもまぁ納得はできる。この迷宮都市オラリオには無数のファミリアが存在する。この都市で暮らすに当たってファミリアに入る事はどんなデメリットがあってもメリットが勝る方が多い。
なら、普通は入るのだろう。
普通は。
それにファミリアに入る事は難しい。何にも知らない者を取り入れるのだ。それはそのファミリアに入れる事でメリットがあるのかどうかを最初に考えるはず。見た目で言うなら僕は先ず、扉さえ開かせてはもらえないだろう。自分で言ってた悲しいが弱々しいもん。
「ロキ。笑いすぎだ。彼に失礼だろう」
奥のテーブル席に座っている女性がそう声を上げる。
座っているだけでとても絵になる光景がそこにはあった。THE・大人の女性って感じで魅力を感じる。
座りながら自己紹介が始まる。
「失礼、私はリヴェリア・リヨス・アールヴと言う。私もフィンと同様にリヴェリアと呼んでほしい。それともしこいつらが迷惑をかけたら私に言ってほしい」
「ひぇ、リヴェリアに説教されるのはこわいわぁ〜」
「ならされないように慎め」
品のある方だな。本当はこの人が神様なんじゃないか?
「急に話に割り込んで申し訳ないが、私も君に興味がある。自慢をするはつもりはないが私達のファミリアはオラリオの中では名の知れたファミリアだ」
そうなんですか。知らないですけど。
「何故君はフィンの誘いを断ったんだ?」
「単に興味がないからです」
「興味がない?」
「はい。ファミリアに入ると言う事はそのファミリアにいる神様の眷属になると言う事。それは神からの恩恵を与えられると言う事…僕は神の恩恵に興味がないんです」
「…どう言う事だ」
「リヴェリアさんの事だからわかっていると思うんですが、レベルアップの仕組みは成長した自分に真新しい皮を被るという事。つまり成長しきった自分の伸び代の幅が復活するという事」
そしてそれは最早…。
「リヴェリアさん達を否定するつもりは無いんですが、それってもう自分の力だとは思えないんです。誰かに手を貸してもらった強さなんて本当の強さじゃない。僕はそんな強さは抱きたくないんです」
これは本当に個人の意見だ。考え方なんて人によって変わる。十人十色と言ったものだ。
だから僕はその考えに至った。自分の強さは自分で強くする。おじいちゃんがよく言っていた言葉だ。
「だから僕はファミリアに入りません」
静まり返る店内。一人の言葉でそれは壊れる。
「成る程。君の考えは私達、ファミリアの者にとって良い刺激になりそうだ」
リヴェリアさんが僕の考えを肯定してくれた。余裕を感じられる。ニヤッと少し笑った辺りも大人の魅力を感じさせる。惚れそうである。
「まだまだ君と話していたいが…これ以上は彼が怒られかねないから退いておこう。先に謝っておこう。すまない」
…背中に悪寒が走る。ギギギと機械音が鳴るのように首が後ろを向く。
目があった。
「仕事に戻りな」
「は、はい!」
たったの一言でこんなにも恐怖する日が来ようとは、夢であってほしい。僕は急いで仕事に戻った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…たく」
「なぁなぁミアさんよ」
「なんだい神様とやら」
「いつから此処にいるん?」
「少し前からだよ…」
「ベル坊の事、何処まで知っとるん?」
「さーね、あいつの事は見たところまでしか知らないよ」
「あの年齢であんなに肝が座った奴なんて早々いないもんやで」
「…なにが言いたいのさ」
「これ以上はベル坊のために言わんでおくけど…大事にしてやんな、ベル坊の事」
「わかってるさ」
「それに確かにベル坊の意見はうちの良い刺激になったわ。うちのお気に入りのアイズたんも他の
「…強く……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「あー疲れた」
今日は一段と疲れた。まさかあんなに絡まれるとは思わなかったし何よりあの後ミア母さんに絞られた。
もう今日は風呂に入らないで明日の朝に入ろう。寝よ寝よ…。
服を脱いでから寝巻きを探す。
実はあの時僕は嘘をついた。
確かに興味はないが、ファミリアに入ろうと思えば入れる事はできる。最初に契約さえ結べば、その後の更新さえしなければいいから。
なら何故僕は直ぐに断ったのか。
それは…。
「…綺麗な月だな」
月明かりに照らされる屋根裏部屋。僕も一緒に照らされる。この醜い身体と共に。
背中に出来た大きな火傷跡。一生治ることのない怪我。何本もある刃物で出来た傷跡。これも一生治る事はないだろう。
ファミリアに入る事は背中にそのファミリアのエンブレムを刻む事になる。それを知っていたから僕は断った。
傷が付くという事は痛いという事だ。
「う〜さむさむ…」
寝巻きに着替え、布団に籠る。次第に身体は温まり意識は遠のいていく。日付はもう過ぎている。2時間近く説教されたから仕方ないか。まだ怒られているうちは愛されているという事…と自分に言い聞かせて僕は完全に意識を飛ばした。