アマガミサンポケット   作:冷梅

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冒頭は純一の回想シーンから入ります。

体育祭終了後の話です。


10月-③

  無事に体育祭を終えた橘純一は回想に浸っていた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「おーい大将」

「どうした梅原?」

「塚原先輩が話があるんだとよ。テラスで待ってるって伝えて欲しいって、大将何かしたのか?」

「そ、そんな訳ないだろ!」

「なはは、分かってるって。ほら、行ってこいよ」

「うん、ありがとう梅原」

 

  塚原の話とは一体何だろうと、純一は歩みを進めながら考える。 心当たりがあると言えば、連日の女子水泳部の練習見学だ。 もしやバレているのでは、とそこまで考えたところで身体に悪寒が走る。

 

「……胃が痛くなるなぁ」

 

  先程昼食に食べたカレーライスが胃から逆流しそうだと、胃を摩る様にしながら向かっていると視界に塚原を捉えた。

 

「あ、橘くん。丁度良いところで会えたね」

「こんにちは塚原先輩。あの、話って?」

「ふふ、橘くんてアップルジュースは嫌いかな?」

 

  アップルジュースと話の接点がまるで分からなかったが、特に嫌いという訳でも無いのでとりあえず答えることにした。

 

「いえ、嫌いじゃないですよ」

「良かった。それじゃあちょっと買ってくるから先にテラスで待っててくれるかな?」

「え……いや、でも」

「いいから、ほら。先輩命令よ?」

 

  塚原はいたずらっぽく笑みを浮かべながらそんな言葉を落とした。 先輩命令、そんな言い方をされてしまっては純一は断れない。 後でお代を払おうと、その場は返事をする事にした。

 

  テラスの席に着いてから純一は思考を巡らせる。 普段塚原と話をする際は、必ずと言って良い程森島の存在が側にあった。その為、この様に改まって塚原と話すのは初めてのことだ。 緊張するのは無理も無いことだろう。

 

  ――――やっぱり、覗きの事か?

 

  思考を巡りに巡らせても、出てくるのはそればかり。 純一の額には冷や汗が浮かんでいた。

  緊張から重圧に、身体を硬直させていると頬に冷たいものを感じた。

 

「……っ! 心臓に悪いですよ塚原先輩」

「ふふ、はい、これ飲んでね」

「……でも、僕にはご馳走して頂く理由がないです」

「それはこれから話すから、そんなに身構えなくて良いわよ」

 

  塚原のその言葉に喉が鳴った気がした。

  いよいよ、刑が執行される。差し詰め、このアップルジュースは最後の晩餐と言ったところか。 純一は覚悟を決めてそれを手に取った。

 

「……それじゃあ、頂きます」

「ええ、どうぞ」

 

  ストローを挿して、ゆっくりと中身を口に含む。 林檎特有の、すっきりとした甘味が口いっぱいに広がった。 塚原がこれを推すのも納得の行く一品だ。

 

「どうかな?」

「凄く飲みやすくて、美味しいです。今まで気付かなかったのが勿体無く思えますよ」

「ふふ、気に入ってもらえて良かったよ。私も最近はまってるんだ」

「そうなんですか……。あ、でも何で僕に?」

 

  思い切って一歩を踏み込んだ。 幾らアップルジュースが飲みやすいとはいえ、このままだと自身の胃が持たないと判断したからだ。

  しかし、塚原から返ってきた返答は予想だにしないものだった。

 

「実はね、最近はるかの機嫌が(すこぶ)る良いんだけど……橘くん何かしたのかなって?」

「………はい?」

「あれ、聞いてなかったの?」

「い、いや! えっとですね……」

「……ふふ、そういうことか」

 

  塚原の口角が上がった。

  純一は知っている。 塚原がこの笑みを浮かべる時は決まって森島を弄り倒す時だ。

 

「え、えっと、塚原先輩?」

「話を元に戻すわね。はるかの機嫌が良いから君が何かしてくれたのかなって思っただけよ」

「ぼ、僕ですか?」

「思えば、一番上機嫌だった時に『橘くんは良い子ねぇ』って言ってたの。この間はるかがプールで泳ぎたいって言って拗ねてた次の日よ」

 

  ――――図書室での会話か!

 

  純一の脳内で一つの答えが見つかった。 確かにあの会話の後の森島の足取りは軽かった様に思う。

 

「何か心当たりがありそうだね?」

「え? いやぁ……どうでしょうか……」

「はるかは結構気分屋なところがあるから、上機嫌で居てくれると助かるんだよね」

「え? 助かるって?」

「ちょっと機嫌が悪くなると、やれ『今から甘いものを食べに行こう』だの『今日は買い物付き合って』だの……」

「ははっ、森島先輩らしいですね」

「勿論楽しいから良いんだけど、付き合う側としては意外と大変なんだよね」

「ちょっと分かる気がしますよ」

 

  そう言い終え二人で軽く笑い合うと、長髪の黒髪にカチューシャを付けた介入者が現れた。

  森島はるか。 件の女性だ。

 

「あ〜! 響ったらまたアップルジュース飲んでるんだ」

「え?」

 

  塚原が眉を寄せ、顰めっ面を作る。 このタイミングで森島が現れることを全く計算していなかった様だ。 それはそうかもしれない、誰にだって先のことは読めないのだから。

 

「一口頂戴!」

「あ!」

「あ……」

 

  純一と塚原が二人して声を上げるが、森島には届かない。 二人の制止も虚しく散ることになった。

 

「ん? どうかしたの?」

 

  ――――これは、関節キス!?

 

  途端に純一の顔が紅く染まった。 彼は今を生きる健全な男子高校生だ。 意中の、それも校内No.1と呼ばれる美貌を持つ森島のソレは刺激が強かった。

 

「ふふっ、それ今鼻血を出してる橘くんのだよ」

「あ、そうなんだ。ごめんね橘くん……って、大丈夫なの?」

「い、いえ! 気にしないで下さい!」

 

  ――――僕のと気付いた後でも嫌がる様子も無く、寧ろ僕を心配してくれている! 今日はなんて良い日なんだ!

 

「おかしな橘くん。あ、そうだ。この間はありがとね」

「いえ、こちらこそご馳走様です」

「へ?」

「す、すみません。気にしないで下さい」

 

  頭のショートが続く純一に、さしもの塚原をしても苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

「そう? 大丈夫?」

「大丈夫です森島先輩。それより、何でしょうか?」

「えー、ここで言うのはちょっと恥ずかしいかな」

「そ、そうですか」

「うん。だけど、お礼は言っておくわね」

「は、はい。お役に立てて良かったです」

 

  純一の言葉に、森島がウインクで返したところで昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。

 

「あ、もうすぐ昼休みが終わっちゃう。響ちゃん教室に戻ろっか」

「そうね。橘くん、ありがとね」

「美味しいアップルジュース、ありがとうございました」

「どういたしまして。覗きの件、反省してるみたいだし、今回は見逃してあげるわ。はるかの件もあるしね」

「響遅いわよ〜」

「またね、橘くん」

「は、はい」

 

 ――――やっぱり気付いていたのか。

 

  流石は塚原である。

  純一の上を簡単に取る存在だ。 天然自由人である森島の手綱を握っているだけあって、しっかりしている。

 

「敵わないな、あの人には」

 

  そう言葉にしてから、アップルジュースの残りを一気に流し込んだ。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「……いてるの?」

「へ?」

「だから、聞いてるの? って聞いたの」

「あぁ、すみません先輩。ちょっとこの間のこと思い出してて」

「この間のこと?」

「ほら――――」

 

  大雑把にだが、説明を終えると先輩はふぅんと頷き笑顔に戻ってくれた。

 

「何で急にそんな事思い出してたの?」

「何ででしょうか。先輩と塚原先輩が会話してて、本当に仲が良いんだなって思ったからですかね」

「まぁ私と響ちゃんは親友だからね!」

「ですね。先輩もうすぐで片付けも終わりそうですし、ささっと終わらせちゃいましょう」

「オーキードーキー! それが良いわね」

 

  体育祭も無事に終えることができ、今はこうして皆で資材の片付けを行っている。

  学年を問わず、全員が動くためこうして先輩と話しながら作業を進めることが出来ている。 例年よりも作業に積極的な人が多く、公の人柄がそうさせているのかもしれないなと思った。 公には、人を惹きつける不思議な魅力があるのだろう。

 

「ねぇ橘くん」

「どうかしましたか?」

「帰りにファミリーレストランに寄ってかない?」

「え、ファミレスですか?」

「うん、駅前にあるファミレスって知ってる?」

「はい、知ってますよ」

 

  駅前にあるファミレスと言えば一つしかない。

  トトス。

  薫がバイトをしている店だ。 来月から冬の味覚フェアをするから来て欲しいって言ってたけど、まさかその前に行くことになるとは。

 

「私ね、そこに行きたいの……嫌かな?」

「橘純一! どこへなりともついて行きます! 問題なんてありません!」

「ふふっ、良かった。ありがと」

 

  折角先輩から誘って貰っているんだ。 断るなんて勿体無いことは絶対しない。 ただ、一つ懸念材料があるとすれば薫の存在だが、まぁ明日僕が弄られれば良い話なので特に気にすることもない。

 

  その後作業も終わり解散となったので、僕たちはトトスに向かって足を進めた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

  店内に入り、直ぐに辺りを見渡し薫の存在を探したが見当たらない。 どうやら今日は休みの様だ。

  店員に席へと案内され、奥の客席に腰を下ろした。 席に着くなり、先輩はメニュー表を手に取り一覧に目を通し始めた。

 

「よし、き〜めた。ねね、橘くんて甘いものは平気?」

「得意って程じゃ無いですけど、普通くらいに食べれますよ」

「それじゃあ私と一緒にパフェを食べてくれる?どうも私一人じゃ厳しそうなんだ」

「へぇ、そんなパフェがあるんですね」

「うん、このシャイニングラバーズパフェが食べてみたいの」

「ええ!? これって……」

「駄目かな?」

 

  シャイニングラバーズパフェ。

  名前からして、明らかにカップル向けのパフェだ。 これを先輩から食べようと言ってもらえるなんて。 明日は雹が降るのかもしれない。

 

「甘い物苦手なら他のやつにするよ?」

 

  断れる筈がない。

  男として、ここで逃げずにパフェを食べる義務がある。

 

「いえ! 大丈夫です。丁度僕も、パフェが食べたい気分だったんです」

「わお! 本当に?良かった〜、気が合うね」

「ははっ、そうですね」

 

  合ってなくても合わせる。 それが僕に出来る唯一の事だ。

  先輩が注文を終え、談笑すること少し、いよいよ件のパフェが届くというところで思わぬ事態が起きた。

 

「げ……あの店員は薫」

 

  件のパフェと思われる物を持ち、スタッフルームから身体を半身だけ覗かせる店員は僕の悪友・棚町薫だった。

 

「え、知り合いなの?」

「はい……クラスメイトです」

「へ〜、うちの学校の生徒がここでバイトしてるなんて知らなかったなぁ」

「服装も違いますし、気付きにくいですよ」

 

  まさかここで薫が現れるとは。

  非常に不味い。 さっきまではどこか楽観視していたけど、よくよく考えてみたら薫だけじゃなくて梅原や公にも弄られる。

 

「橘くんどうかした?」

「い、いえ、別に」

「……ねぇ、橘くん。良い事思いついちゃった」

「え、せ、先輩! 何を……」

「ふふふ……よいしょっと……」

 

  事もあろうか先輩は机の下に潜るなり、そのまま動かなくなってしまった。

 

「な、何してるんですか」

「しーっ! 私と来ていることがバレたら大変でしょ?」

 

  口に人差し指を当てながら、上目遣いでこちらにそう問いかけてくる。 可愛い。

 

「そ、そんなこと無いですよ!」

「そんなことあるの――――だって、隠しておいた方が面白いでしょ?」

 

  なんて事になってしまったんだろう。

  そうこうしている間に薫が僕たちのテーブルにやって来てしまった。 もうやけくそだ、成る様に成るだろう。

 

「お待たせ致しました〜。シャイニングラバーズパフェになります」

「ど、どうも」

「珍しい注文があるもんだから、どんなお客さんが頼んだのかって見に来たけどまさか純一とはね」

「……別にいいだろ?僕だって甘いものは食べるさ」

そうだそうだ〜

 

  僕の言葉に同調する様に、森島先輩が相槌を入れる。

  頼むからじっとしていて下さい先輩。

 

「そういうことを言ってるんじゃないの。で、どんな素敵な人とこの恋人向けのパフェを食べるつもりなのかしら?」

「どんな人って?」

「質問に質問を返さないの。伝票を見れば二人で来たってわかるのよ。それで、誰と来たの?」

「っ、それは……」

誰だ誰だ〜

 

  先輩はこの状況を完全に面白がってる。 僕の寿命はどんどん削れていっているというのに。 僕は苦肉の策として、小学校からの親友の名前を絞り出した。

 

「……梅原」

「……ぶっ! くっくっくっ、やっぱり!」

「……くすっ」

「……何か問題が?」

「はー、もう駄目。純一、アンタ最高ね。私が気付いてないとでも思ったの?」

「……え?」

 

  薫はそう言うと、パフェを机に置くなり下を覗き込んだ。

 

「こんな所に美女を隠して。アンタ、こういうプレイが好きなの?」

「な、何言ってんだよ薫! そんな訳ないだろ!」

「冗談よ、知ってるってば。森島先輩、もう出てきてもらって大丈夫ですよ」

 

  薫が優しく言葉をかけると、満足した表情の先輩が机の下から現れた。

 

「あー、おっかしい。面白いモノが見れたわね」

「……笑えないですよ。先輩、こいつは棚町薫。僕のクラスメイトです」

「初めまして、棚町薫です。いつも純一がお世話になってます森島先輩」

「ううん、こちらこそ。宜しくね、薫ちゃん」

 

  どうやら僕の苦労も虚しく、薫は先輩の存在に気付いていたらしい。

 

「ふふっ、それにしても橘くんは梅原くんとパフェを食べるんだね」

「そ、それは先輩が隠した方がいいって言うから……」

「梅原もとばっちりだねぇ」

「……薫はいつから先輩のことを気付いてたんだ?」

「そんなのお店に入って来た時からに決まってるじゃない。アンタじゃなくても、森島先輩は人を惹きつけるの。先輩程の人に気付かない方がおかしいわよ」

「……それもそうだな」

「じゃあ純一をからかえた事だし、私もそろそろ戻るわ。森島先輩、ごゆっくりしていって下さいね」

「オーキードーキー! 薫ちゃん、またね!」

 

  薫のやつ、まるで嵐みたいな存在だ。

 

「あ〜、面白かった。どんな言い訳をするのか、楽しみにしてたけどまさか梅原くんを出すなんてね」

「も、もう勘弁して下さい」

「ふふふ、そろそろパフェを食べ始めよっか」

 

  パフェは想像よりも遥かに大きく、食べ終わるのに20分もの時間を要した。

 

「ふふっ、あ〜楽しかった〜」

「そ、そうですね……」

「パフェは美味しいし、橘くんは面白いし言う事無しね」

「ははっ、そう言って貰えたなら良かったです」

「うん、また一緒に行こうね」

「はい、お願いします」

 

  自然に返事を返してしまったが、次回もお誘いして貰えるなんて。 薫が現れた時はどうなることかと思ったが実に素晴らしい日だ。

 

「それじゃ遅くなっちゃう前に帰るね。ばいば〜い」

「あ、はい。気を付けて」

 

  こうして先輩と二人きりでパフェを食べるという貴重な時間が終わった。 もう少し甘いムードになる事を期待していた自分が居るだけに、今回の結果は少し残念だ。

  とは言っても、先輩は凄く喜んでくれていたし、僕も何だかんだ言って楽しめた。

  次回が早く来ることを祈りつつ、僕は帰路に着いた。

 

  次の日の朝、学校に着くなり薫たちに弄り倒されたことは最早言うまでもない事だと思う。

 

 

 




次話から11月に入ります。
閲覧、ありがとうございました。

冒頭に誤り、純一の口調に指摘があったため編集を行いました。
ご指摘ありがとうございます。
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