バディファイト@サイバーダイバーズ   作:辻 逆月

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調べると、刑事ドラマでよく見る会議室のホワイトボードに詳細を書いて事件の状況を整理するってやつ。あれどうやら現実では進展を部外者が見ないように黒板に貼った方眼紙に文字だけ書いてやるみたいッスね。


抱える又木

警察、電脳犯罪対策課

凩又木は険しい顔で黒板に貼られた模造紙を睨んでいる。

 

轟竜「又木さん?どうされたでありますか。」

 

又木「……。」

 

入ってきた轟竜が声をかけるも又木は全く気づかず、模造紙に書かれていた文字の下に新たに文字を書き込む。

 

追っていた事件の犯人であった黒川の名前の下には死亡と書かれ、少し離れたスペースには黒幕、すぐ横に蒼と黒幕の名前が線でつながれ「何らかの関係?」の文字が見える。

 

轟竜「又木さーん!どうされたで!ありますかあああ!!」

 

轟竜は腹の底から声を出し、その声に驚いた叉木が飛び上がる。

 

又木「うご!?……猿渡、俺をショック死させる気か。」

 

轟竜「そんなつもりは無いであります。それよりも、被害者と犯人の名前を見てどうされたでありますか?」

 

又木「……まぁいい。蒼、被害者の方は今年の4月までの記憶を失って居る。それは話したか?」

 

轟竜「いえ、知りません。」

 

又木「少し前に言った気がするんだがな…、まぁいい。今回のホシ、黒川と田沼の二人は誰かに唆されて事件を起こした訳だが、その誰かはどうやらこの蒼の正体を確かめるために二人を唆したそうだ。」

 

轟竜「被害者の正体でありますか?ということは、被害者と黒幕は知り合いだったと。」

 

又木「だが、それだと余りに不自然だ。」

 

轟竜「不自然とは?」

 

又木「知り合いなのに蒼を顔で判別が出来ないなんてことがあるか?」

 

轟竜「おや…?確かにそうであります。」

 

轟竜は首をかしげる。

 

又木「恐らくだが、蒼は顔を変えている。コネクトなんちゃらっていうモンスターになった所を見ると、見た目を何から何まで自由に変えられるのかもしれん。」

 

轟竜「そういうことでありますか、誰なのかわからないというのは厄介でありますな。」

 

又木「ああ、蒼がどこの誰なのか突き止めるのが難しくなった。結果的に黒幕の正体も確かめにくくなったんだ。」

 

轟竜「だから眉をひそめていたのでありますか。」

 

又木「そうだ、だがもう一つ。二人が知り合いだと考えると蒼の顔が問題になってくる。」

 

轟竜「……顔。オナゴに好かれなさそうな顔でありましたが、あの顔がどうされたでありますか。」

 

本人の知らないところで蒼のモブ顔が酷評される。

 

又木「そう、それだ。コイツの顔はパッとしないんだ。」

 

轟竜「はあ…。」

 

又木「これはただの勘だが、記憶を失う前の蒼は黒幕に追われていた可能性が高い。」

 

轟竜「なんと、ですが何故モブ顔だとそうなるでありますか?」

 

又木「蒼のモブ顔なのは、黒幕から隠れるために目立たない顔にした結果だったんじゃないのかってことだ。」

 

轟竜「おお…?ですがそれでは、あの時襲わなかった理由が分からないでありますが。」

 

又木「確かにな、そこがまだよく分からねえ。」

 

又木は不可解な黒幕と蒼の関係を想像する。

もしそれを突き止められなければ、黒幕の居場所が分からなければ何かとんでもないことになりそうな気がしているのだ。

 

又木「蒼は別の人物から逃げていたのか…?」

 

そして黒幕は寧ろ蒼を援助する側だとすればある程度話の筋が通る。

だが、それでもどこかに引っ掛かりを感じる。

 

又木「何かを見落としてるのかもしれねえな…。」 

 

又木は黒板の模造紙を畳むと、机にしまい鍵をかける。

 

又木「猿渡、今言ったことは誰にも言うな。ガルガンチュアもだ。」

 

轟竜「了解であります。」

 

ガルガンチュア・ドラゴン「心得た。」

 

そう言って又木が部屋を出た。

それからしばらくして…。

 

轟竜「しまった…。」

 

ガルガンチュア・ドラゴン「どうした?」

 

轟竜「又木さんにバーサークソーの処遇が決まったこと、伝え忘れたであります。」

 

ガルガンチュア・ドラゴン「あ…。」

 

 

 

 

 

 

街を歩きながら、又木はどこで晩飯を食べるかを悩む。

スマホを取り出し、周りの店を調べるが選択肢が多い。

 

又木「……、可奈のカレーが食いてえなぁ…。」

 

そう呟くと、GOGOGO壱カレーの場所を調べ、そこに向かう。

 

 

 

 

 

 

又木「…ご馳走さん、お勘定。」

 

店員「はい、968円になります!」

 

 

 

 

 

 

 

又木「店のカレーも、中々良いもんだな…。」

 

又木は警察に戻るために来た道を戻る。

その道中も蒼の正体の手がかりがある場所を想像していた。

 

?『未練がましいものだな。可奈はすでに死んだのだぞ。』

 

又木の服の胸ポケットから低い声が響く。

その声は又木を嘲笑する様で諭す様にも聞こえる。

 

又木「煩え、お前もあいつらから隠れてこんなところでしみったれてるだろうが。人の事は言えないだろう。」

 

?『それは違うぞ、現に我は今まさに新たなる相棒候補の選定を行なっている。』

 

又木「…またその話か、俺はバディファイトなんぞ。」

 

?『貴様の心は可奈が死んだあの時、あの瞬間。生前よりも強く可奈を求めている。いつかその欲望と喪失感はお前を潰すぞ。可奈のように発散する場所が必要ではないか。』

 

又木「……。発散って何の話だ、可奈は何を発散してたんだ。」

 

又木は立ち止まり、ポケットから1枚のカードを取り出す。

それは黒と紫の混じったおぞましいカードだった。

バディファイトのロゴが砕けかけている。

 

?『可奈は又木、貴様にずっとそばにいて欲しかった。依存していたのだ。だが現実はそうはいかない。仕事中は貴様に会えない事実をバディファイトでクリミナルファイターを倒し続けることで忘れていた。その心の闇は我の力になったが、あまりの闇の大きさに我ですら心配を覚えるほどであった。』

 

又木は驚き、カードを握りつぶしそうなほどに腕に力を込める。

カードの中の存在は向けられた怒り、又木が自身に向ける失望を感じ取る。

 

又木「…。お前は、可奈はそんな大事なこと黙ってたのか…!」

 

?『……結果、今の貴様が胸の底に抱えた闇はその時の可奈の比ではなくなった。他の人間に相棒の可能性を感じないほどに。加えて、貴様は新たな謎の正体にたどり着けずに焦り始めている。』

 

又木は歪んだ顔をすぐさまポーカーフェイスに戻す。

しかし、感情が治まってはいない様で歯が音を立てる。

 

?『他人を気にして闇を発さずにいれば、そのうち貴様は自ら心を壊す。…そしてバディファイトをその発散方法とすれば法を守ることを是とする貴様にその未来は訪れないだろう。』

 

又木「可奈の命を奪ったバディファイトを、俺がやれってのか。」

 

?『違う、可奈の命を奪ったのはバディファイトではないバディファイトを、バディモンスターの力を犯罪に悪用した醜く薄汚い犯罪者ども、そしてそれに従ったバディモンスターだ。それとも、貴様の目にはあの犯罪者と店で楽しそうに遊ぶ童たちが同じに見えるのか。』

 

又木「っ!」

 

又木は唇を血が流れるほど強く噛み締め、そして強く手を握る。

カードはバディカードだからか潰れなかった。

 

?『それだけではない。可奈を殺したあの犯罪者と同じような連中をその手で屠れるぞ。』

 

又木「それはバディポリスの仕事だ。俺にそんな権限は無い。」

 

しかし、又木はそう言いながらも目の光が鋭くなっている。

 

又木「…質問だ。お前が居ればバーサークソー・ドラゴンに斬られかかった時の様に足手まといにはならないか。黒幕にも対抗できるか。」

 

デストロイヤー『当然だ。我が、この凶乱魔骸神竜 ヴァニティ・終・デストロイヤーが貴様の敵は排除してくれよう。思うがままに力を振るえ!』

 

又木「なら、バディファイトを教えてくれ。知っての通りルールも知らんのでな。」

 

デストロイヤー『……。』

 

デストロイヤーは饒舌だった先ほどとは打って変わり、喋らなくなる。

 

又木「……、どうした。」

 

デストロイヤー『その願いは叶えられん……。』

 

又木「アンダーズに行くか。…ん?」

 

又木はデストロイヤーの物忘れを悟る。

同時に電話がなっていたことに気づく。

 

又木「猿渡か?…知らない番号か。」

 

又木は電話に出る。

 

又木「もしもし。」

 

?『そちらは、凩又木の携帯で間違いはないか。』

 

又木「……お前は誰だ。」

 

?『貴殿に頼みがあって電話をかけたものだ。画面を見よ。』

 

 

又木のスマホには■■■■の姿をしたモンスターが映っている。

■■■■■が■のように体を成していた。

 

?『この身の名は––

 

 

 

 

 

 

−−次の日、9時20分 アンダーズ

 

プラグ「蒼一人が居るか居ないかで変わるかと思ったら、案外変わらないな。」

 

グレー「僕が居るからじゃない?」

 

辰馬「だろうな。あと炎斬か」

 

アンダーズの開店準備をする2人と1匹。

ライナはお泊まり女子会の末に今も寝ている。

 

グレー「…ねえ、あれって又木さんじゃない?」

 

辰馬「ん?…確かに又木さんだな。昨日の件で何かあったか?」

 

プラグ「又木さんなら俺らに報告なんかしないだろ。」

 

三人の視線の先には又木が歩いている。

しかもアンダーズにまっすぐ向かってきている。

 

プラグ「おい、お前らなんかやったか。」

 

グレー「辰馬だね。ブロテイン罪で書類送検しにきたんだ。」

 

辰馬「お前書類送検の意味わかってないだろ。そもそも又木さんの横にもう一人いるぞ。道案内じゃないのか。」

 

又木の横に居るのは真っ赤なスーツを着て、仏頂面でポケットに手を突っ込みながら歩くガラの悪そうな若い男。

又木が三人の目の前で立ち止まる。

 

又木「よう。昨日、あれからどうした。」

 

辰馬「三人揃って蒼の見舞いです。又木さんは何故ここに?」

 

又木「道案内と、孫が大きくなった時のためにバディファイトを習おうと思ってな。」

 

プラグ「あー、なるほど。それで、道案内というのは彼。」

 

グレー「ねえ、ここで何してんのさ。」

 

悪い男「あ?何ガン飛ばしてやがるドランザー。」

 

グレーは精一杯の嫌な顔をし、ガラの悪い男もガンを飛ばす。

プラグと辰馬は訳が分からず眉をひそめる。

 

グレー「何でロードが人間のふりして、ここに来るの?僕の質問に答えてよ。」

 

プラグ「ロード?……デリータ・ロード!?」

 

デリータ・ロード「この姿でアンダーズ全体を監視しろと、聖上からのお達しが来たんだよ。」

 

プラグも辰馬も、目の前の男がデリータ・ロードだという事実に気づき顔面が驚愕に染まる。

その日、アンダーズに店員が増えた。

 

 

−−蒼退院まで大体59日




今回はここまで。
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