【Splatoon2】「スカイフィッシュ」シリーズ 作:あすてる*
・オリジナル設定を随所に散りばめていますので、そういうのが苦手な方はブラウザバックをお願い致します。
では、この物語を読むことが、あなたにとって有意義な時間となりますように……
◇◆◇
――俺とチームを組んでくれないか!――
バルコニーに立ち尽くすソラを置いて去った後、シオンは自室のベッドの上に寝転びながら、ついさっきソラに言われた言葉を思い出していた。
「チーム、か……」
天井を見上げながら小さく呟くと、シオンは紫の瞳を伏せ表情を曇らせた。
それきり、シオンの部屋を静寂が支配していたが、不意に部屋のドアがノックされた。
突然の来訪者にシオンがドアを見つめる。
「シオン? 起きていますか……?」
扉の向こうから小さな声で呼びかける声の主はユズハだった。
シオンは無言のままだったが、構わずにユズハはゆっくりとドアを開け、中へと入って来る。そしてシオンが寝転ぶベッドまで歩いてくると、ベッドの端にゆっくりと腰を下ろした。
「……こんな時間に、何か用か」
「ソラさんに、チームに誘われたのですね」
ユズハの言葉に、シオンはベッドから起き上がって少し驚いたようにユズハを見つめる。
「バルコニーでのお話、聞いていました。いい機会なのではないですか?」
そう言われると、シオンはまた表情を曇らせた。何か言い淀んでいるかのように少し目を泳がせていたが、それに気づいていたユズハはシオンの目を静かに見つめて答えを待つ。
「……私は……怖いん、だと思う」
消え入りそうな声でそう言うと、シオンは黙り込んでしまう。
ユズハはシオンの隣に寄り添い、そっとシオンの肩を抱いた。
「……確かに、昔あなたにあったことを考えると無理もありませんね。チームを組んだとしても、
シオンはピクリと肩を震わせると、微かに頷いた。
「今のシオンは、あの時のシオンとは違います。それに、心のどこかで望んでいたのではありませんか? ”いつかまたチームを組んでみたい””仲間達とナワバリバトルをしたい”と」
シオンは目を伏せたまま、ユズハの言葉に耳を傾けていた。
「ソラさん……あの方なら、きっと最高に楽しいチームを作ってくれる……そんな気がするんです」
そう言うと、ユズハはシオンの正面に向かい合い、両手でシオンの両肩を勇気づけるように叩いた。
「そろそろ、殻を破ってもいい頃ですよ! そのために、強くなったんでしょう?」
ユズハの言葉に、シオンはようやくユズハの顔をまっすぐ見つめる。
「……そうだったな」
それを見てユズハは柔らかな笑みを浮かべると力強く頷く。
「では、私もそろそろ寝ますね」
そう言って、ユズハは踵を返してドアへと向かう。
「……ユズハ」
「はい?」
呼び止められたユズハは、シオンの方を向いて微笑みながら首をかしげる。
「……ありがとう」
「はい」
シオンの感謝の言葉に笑顔のまま返事をすると、ユズハは部屋を出て行った。
◆◇◆
「これで、よしっと!」
翌朝、目を覚ましたソラは、窓から差し込む光を全身に浴びながら身支度を済ませ、セットしたゲソをパイロットゴーグルで抑えると、部屋を後にした。
階段を降りると、ソラはキッチンから何かを焼いている音が聞こえているのに気付く。食欲をそそる香りに導かれるようにキッチンに向かったソラを、ユズハは笑顔で迎えた。
「おはようございますソラさん! 昨夜は良く眠れましたか?」
「おはようございます、ユズハさん! もちろん、おかげさまでグッスリです!」
挨拶を交わしたあと、ソラは辺りを見回す。シオンの姿がなかったからだ。
「……シオンは、まだ寝てるんですか?」
「ええそうなんです、いつもならもう起きてる時間なのですが……」
そう言って、ユズハは困ったように顎に手を当てる。
「すみませんソラさん、シオンを起こしてきてもらってもよろしいですか?」
「えっ俺がですか!? 流石に女の子の部屋に入るのはマズイと思うんですけど……」
少し顔を赤らめて狼狽えるソラを見て、ユズハは困ったように笑った。
「いえいえ、ドアを数回ノックするだけであの子は起きると思いますので、お部屋に入らなくても大丈夫ですよ」
「ああ、それなら大丈夫です、ね……」
ユズハの「お願いしますね~」という声を背に受けながら、ソラは今降りてきた階段をもう一度上がっていった。
二階へと上がってきたソラは、シオンの部屋の前まで来たが、ノックするのを少々躊躇っていた。
(昨日は、悪いこと言っちゃったかな……)
ソラは昨夜のバルコニーでの別れ際に見せたシオンの様子が気にかかっていた。チームに誘ったことに難色を示していると思っていたからだ。そのこともあり、ソラは何とも言えない気まずさを感じていた。
「とりあえず、早く起こさないとな」
そう言うと、ソラはシオンの部屋のドアをノックする。
「シオン、朝だぞ――」
「もう起きてる」
部屋の中で寝てるであろうシオンを起こそうと声をかけようとしたソラだったが、言い切る前に中から部屋の主の声が聞こえてきた。
「あれ、起きてたのか。ユズハさんが朝食もう出来てるってさ」
ソラは扉の向こうに聞こえるように少しだけ声を大きくして呼びかける。
扉の向こうからは何やら忙しく動くような物音が聞こえてきていた。
「……今着替えてるところだ。先に降りててくれ」
「あぁゴメン、じゃあ下で待ってるからな!」
そう言ってソラは立ち去ろうとしたが、
「……ソラ、ちょっと待て」
「うん? どうしたんだ?」
突然声をかけられたソラは足を止め振り返る。
ドアの向こうはしばらく沈黙を保っていたが、シオンがゆっくりと声を発した。
「……昨夜の話だけど……お前のチームに入ろうと思う」
シオンの言葉にソラは目を見開いた。
「……聞いてるのか?」
何も言わなかったソラを訝しんだのか、シオンはドア越しにソラに呼びかける。
「……ぃ」
微かに聞こえたソラの絞り出すような声にシオンは更に眉をひそめた。
「ぃいよっしゃああああああああああああ!!!!!!」
突然のソラの歓声にシオンは少し驚く。
「やった! これで俺もチームが組める! ありがとうシオン!!」
その場で大きくジャンプして歓喜に震えるソラは、いてもたってもいられずに、我を忘れてシオンの部屋のドアまで突進した。
こちらに向かってくる足音にシオンは焦りを見せる。
「なっ……お、おい待て入ってくるな!」
その言葉もソラには届かなかったようだ。ソラは太陽のような笑顔でシオンの部屋に飛び込んだ。
「まさか受けてくれるなんて夢みたいだ! 嬉しいよシオ……ン……?」
我を忘れてシオンの部屋へと突入したソラの目に映ったのは、レギンスパンツを履き、マウンテンノリタマゴを羽織っただけのシオンの姿だった。羽織ったマウンテンノリタマゴの中は裸のままで、浅黒い肌に豊満な膨らみと健康的な上半身が見え隠れしていた。
お互いにしばらく硬直していたが、シオンの顔がみるみる赤くなり、表情はまさに鬼の形相へと変化していった。
「う、うわぁああ! ご、ごめんシオン!」
我に帰ったソラは顔を赤くして激しく狼狽えながら視界を塞ごうと手を前にかざした。
「……ぃいからっ」
羞恥と怒りに声を震わせながら、シオンは部屋の片隅に立てかけてあったローラーを逆手持ちにして先端をソラに向かって構えた。
「いいからさっさと出て行けっ!!」
そう叫ぶと、シオンはソラの顔面目掛け、ローラーを勢いよく投げ放った!
ゴッ!!
放たれたローラーの先端のフレーム部分が、ソラの額に直撃し、ソラは声にならない声を上げた。あまりの衝撃に、ソラの体は後方に吹き飛ぶ。
ソラは薄れる意識の中で、ローラーを投げたフォームのままのシオンの半裸姿が脳裏に焼き付いた。
(綺麗だな……)
それっきりソラの意識はブラックアウトした……
ユノスの一階にあるダイニングスペース。ソラとシオンはユズハの作った朝食の味噌汁と焼き魚を食べていた。ソラの額にはユズハが貼ってくれた大きな絆創膏が貼ってある。
「まさか廊下で伸びているとは思いませんでしたよソラさん……心配しましたよ?」
「母さんのゲンコツより痛い思いをしたのは初めてです……」
ソラが額の絆創膏を撫でながら悲しげな声で言う。
「着替えてる女の部屋に飛び込んでくる奴がいるか。当然の報いだ」
呆れるように言いながらシオンは焼き魚を口に運ぶ。
「あれはホントに悪かったよ! でも、嬉しくってつい……」
「……ふん」
ソラの言葉に、シオンは視線を目の前の朝食に戻す。その様子はどこか満更でもなさそうだった。
ユズハは、二人のやり取りを微笑ましそうに見ていた。
✽
数刻後、ソラはシオンと共にハイカラスクエアにあるショッピングスペース「エスカベース」へとやってきた。ハイカラスクエアに集う若者たちのファッションの中心地として賑わう場所だ。
「えっと、まずはブキを買わないといけないよな。店の名前は……なんて言ったっけシオン?」
「……カンブリアームズ。あそこだ」
シオンはエスカベースに四つ並んでいる店の内の一番右端にある店を指さした。深い緑色を基調とした少し錆びた外観に、店の入口の横に大きく「カンブリアームズ」と書かれ、大きなカブトガニのマークが描かれていた。
「あそこか。よし、行こうか!」
ソラは少し離れた場所に見えるカンブリアームズへと向かって歩き始める。自分のブキが持てるという期待が大きいのか、ソラの足取りは自然と早くなった。
シオンは歩調を変えずにソラの後をついていった。
「こんにちは~!」
店の入口にぶら下がっていたドアベルを鳴らながら、ソラとシオンは店内へと入った。すると店のカウンターで何やら細かい部品を弄っていた背の小さな出っ歯の男がソラの方を見た。カブトガニの形をした頭をしていて、大きな双眼鏡のような眼鏡からまん丸の目を覗かせていた。
男はカウンターの椅子から飛び降りるとソラとシオンの前まで走り寄ると早速営業スマイルで迎えた。
「いらっしゃいやし~! バトルでイカせるブキを見ていくでし!」
少年のような甲高い声でそう言うと、男はソラを見る。しかし、突然真顔に戻るとソラの顔を凝視し始めた。
ソラは自分の顔を目を細めて凝視してくる男に少々戸惑っていた。
「ええと……何でしょう?」
「ふ~む……キミ見ない顔でしね。もしかしてまだこの街に来たばかりでしか?」
男の言葉にソラは驚く。
「ど、どうしてわかるんだ……?」
「ボクはナワバリバトルに参加する全てのインクリングの顔を覚えているでし! キミは今日初めて見る顔でしよ!」
男は腰に手を当てて誇らしそうに言ったあと、ソラの後ろに佇んていたシオンへと視線を移す。
「おや、シオンさんではないでしか! ここに来るなんて珍しいでしね?」
「……付き添いだ」
シオンは店の壁にもたれかかりながら答える。男はシオンとも顔見知りのようだ。
ブキチはソラの方へと向き直ると、作業用のエプロンに大量に付けられているワッペンを揺らしながら胸を張って話し始める。
「自己紹介をまだしてなかったでしね。 ボクはブキチ! ナワバリバトルで扱えるブキの販売をしているカンブリアームズ三代目店主にして、バトロイカ社直轄である『ナワバリバトル協議会』の理事を勤めているでし!」
誇らしげに名乗ったブキチに、ソラは驚きに目を見開いた。
「ナワバリバトルの理事長!? す、すごい人なんだな……」
「キミは見たところ新参でしね? 初心者にはデカ・タワーのバトル受付でわかばシューターが支給されるはずでしが、なぜ先にボクの店へ来たでしか?」
そう、まだブキを持っていないインクリングは、デカ・タワーで初めてブキを受け取り、ある程度基本を学んだあとにカンブリアームズでブキを見繕うのがベターである。
まだブキを持っていないインクリングが来ることはまず無いため、ブキチはソラに対し疑問を浮かべていた。
「選手登録をする前に一度見てみたかったんです。選手たちの相棒になるたくさんのブキを! ……もしいいブキがあったら買おうと思ってたりもちょっと思ってましたけど」
ソラの最後の言葉に、ブキチの顔色が変わった。
「ボクは新参のまだイカしてない選手にはブキを売らない主義でし! ボクのブキを可愛がるには、キミはまだまだ経験が足りないでしよ!」
「えぇ~!? そんなぁ……」
ソラは心底残念そうにうなだれた。しかしすぐに顔を上げるとずいずいとブキチに詰め寄った。
「じゃあ、せめてブキを試し撃ちさせてくれませんか! お願いします!」
ソラのあまりの迫力にブキチはたじろぐ。
「た、試し撃ちくらいなら……いいでしよ? どのブキがいいでしか?」
ズレた眼鏡を直しながら、ブキチは店のショーケースに陳列されたブキの数々を手で示す。
だが、ソラの中で答えは決まっていたようだ。
「これで、お願いします!」
そう言ってソラが指さしたのは、スプラシューターコラボだった。
それを見てブキチは意外そうな顔をした。
「おや? 結構普通なチョイスをしてきたでしね? てっきりダイナモローラーとかリッター4Kあたりを持たせてくれと言われると思ってたでし」
そう言いながら、ブキチはショーケースからスプラシューターを取り出した。
「ほい! これがスプラシューターコラボでし!」
目の前に差し出されたスプラシューターコラボを見て、ソラの瞳は爛々と輝く。
「うわぁ…! じゃあ早速!」
ソラがスプラシューターコラボを受け取ろうとした瞬間、ブキチはサッと手を引っ込めた。
「おっと! ちょっと待つでし。商品説明がまだでしよ!」
ブキを受け取ろうとした手が空を切り、ソラの顔に残念そうな表情が浮かぶ。
そしてブキチはひとつ咳払いをすると、商品説明を始めた。
「これはスプラシューターコラボ! ギアブランドのアロメとのコラボモデルのシューターでし! サブウェポンにスプラッシュボム、スペシャルウェポンにジェットパックと新しいレギュレーションにバランスよく対応した構成になってるでし! その扱い易さから、初心者から熟練者までレギュレーション変更後からも変わらず愛されている人気のブキでし! そして何よりも注目して欲しいのはこのインクタンク部分でし! レギュレーション変更前は洗浄する際一々タンクを外さないといけなかったでしが、敢えてタンクをトップカバーと一体化させ、更にインクリリース用の穴を後ろに付けた事で洗浄のしやすさが格段にアップしたでし! カラーリングも流行に乗らせたファッショナブルなデザインで、バトロイカ社員の中にもファンが大勢――」
「――あの! ち、ちょっと待って!」
凄まじい速度で話し続けるブキチに圧倒されていたソラはたまらずブキチの話を止めた。
「ん? なんでしか? まだ説明は二割も終わってないでしよ?」
ブキチはきょとんとした顔で言った。
「あはは……なんとなくブキの性能とかはわかったんで、後は自分で使ってみて確かめます。それで……そろそろ試し撃ちをさせて欲しいんですけど……?」
ソラは白々しく愛想笑いを浮かべながら言う。これ以上付き合うと日が暮れると思ったのだろう。
「そうでしか、残念でしね……」
そう言いながら、ブキチはソラにスプラシューターコラボを手渡すと店の奥にあるドアまで歩いて行った。
「まあいいでし! 要約すると、そのブキは『常に前線に立ち、時には味方を手助けしながら攻める』! そんな動きができるイカに是非可愛がって欲しいでし!」
そう言って笑顔を浮かべたブキチは、ドアを開けてその先を手で示した。
「じゃあ、試し撃ち場は好きに使っていいでし! 壊したりしたらダメでしよ?」
「はい! ……それじゃ、やってみようか」
ソラは自分の手の中にあるスプラシューターコラボの重さを確かめながら試し撃ち場へと入っていく。
シオンはその後を付いていった。
✽
ソラとシオンは、カンブリアームズの裏手にある試し撃ち場へと入ってきた。バトルステージが大まかに再現された立体的な構造になっている。区画が二つに分かれており、片方は静止した的、もう片方は動く的を相手にシミュレーションができる区画となっている。
ソラはまず静止した的の区画へと向かった。
「よしっ! やってみるか!」
ソラは、まず一番近くにある的を狙ってその場でシューターを構え、そしてトリガーを引いた。
タタタッ!
シューターの銃口から軽快な音を立て、ソラのゲソと同じ空色のインクが射出された。
的には最後に射出された一発のみが命中した。
「おおっ! これがブキを撃つときの感覚か!」
初めてブキを使用した感動にソラは震える。その後もいくつかある的に順番に射撃をしていった。
数分後、イカ移動からの射撃の動きなどにもある程度慣れたソラは、ブキを構えるフォームの確認をしていた。
「うん、基本的な動きはとりあえずわかったな。それじゃあ次は……」
ソラは次に、動く的のある区画へと移動した。
「こっちの方が実戦に近そうだな……」
そこには、左右にそれぞれ異なるスピードで動き回る三つの的があった。
ソラは今までの動きを踏まえ、一番近い位置を動く的を目掛け、イカダッシュで一定の距離を保ちつつ射撃を試みる。しかし……
「あれ……?」
当たらない――
続けて一つ奥の的も撃つが
当たらない――
最後の的には二発当てることができたが、相手を倒しきるのに必要な三発には一歩届かなかった。
「上手く当てられないな……」
それからも、ソラは的への射撃練習を続けたが、動き続ける的を上手く狙うことができなかった。
「肩に力が入りすぎだ」
「え……?」
悪戦苦闘するソラを見かねて、シオンが声を掛けた。
シオンの呼ぶ声にソラは振り返る。
シオンはソラに歩み寄ると、動き続ける的を指さした。
「相手と自分の位置関係に常に気を配れ。そして撃つときに相手の方向に銃口を向けてるだけじゃインクは当たらない、狙うのは相手の体の中心だ。それなら少しぐらい狙いがそれたとしても体の『どこか』に当たる。後はその状態で照準を維持し続けることに集中しろ。そのブキなら、相手を倒すのに必要なのは三発だ」
そこまで一気に言ったあと、シオンはまた何事もなかったかのように後ろの壁にもたれかかった。
「わかったよ、シオン。よし、やってみるか……!」
ソラは再び動き回る的をしっかりと見据えてシューターで狙いを定める。そして最初は動かずにその場で的を撃った。的は右の方へと動くが同じように銃口を右へと動かしながら撃ち続けた。
三発のインク弾を受けて的は弾け飛んだ。
「よし……!」
手応えを感じたソラは今度は奥にある的をイカ移動をしながらそれぞれ狙いを定める。
(体の中心……体の中心……)
手前の的を倒すと、そのままの勢いで横へと飛びながら奥の的を撃った。
インク弾は全て的へと吸い込まれていき、ソラは見事にすべての的の撃破に成功した。
「やった!」
ソラは飛んで喜んだ。
シオンはそれを見て少し驚いた様子だった。
「……大した飲み込みの早さだな」
「へへ……そうか?」
ソラは少し照れくさそうに言うと、復活した的へと向かってもう一度射撃を始めた。
今度は近くにある壁を蹴ってジャンプする等の少し派手な動きを交えながら的へとインク弾を撃ち込んでいった。
試し撃ちを初めて二十分程経った頃、ソラはまだ的を撃ち続けていた。しかし、すべての的に対し無駄なく正確にインク弾を撃ち込んでいくその姿は試し撃ちを始めた頃とは比べ物にならないくらいに上達していた。
「ふぅ……」
何度撃破したかわからない動く的を再び撃破すると。ソラは額に浮かぶを汗をぬぐいながら息を吐く。
「ソラ」
「ん? どうした、シオン?」
ちょうど試し撃ちもひと段落した頃に、後ろからかけられたシオンの声にソラが振り返ると、そこにはローラーを持っているシオンの姿があった。
「少し休んでから実際の対面勝負の練習に付き合ってやる」
「本当か! あ、でも……お手柔らかに頼むな」
昨日の騒動でシオンの強さを目の当たりにしていたソラは少し困った顔でシオンに手を合わせる。
「……考えてやる」
小休憩を挟んだ後、ソラは試し撃ち場の開けた場所でローラーを構えるシオンと対峙した。
「リスポーンユニットは用意してあるでし! 遠慮なくドンパチやって構わないでしよ~!」
シオンに頼まれてリスポーンユニットをそれぞれ設置したブキチが声を上げた。
「サブウェポン、スペシャルウェポンの使用は自由、どちらかが先に5デスしたら終了だ」
「まだスペシャルウェポンは使ったことないんだけど大丈夫かな?」
「感覚で覚えろ。使ってれば自然と身につく」
「そんな無茶な……」
ソラの言葉を最後に、シオンの目つきが変わった。確実に相手を叩こうとしている鋭い眼光だった。
ソラはその目を見て背筋に軽く電流が走る感覚に襲われるが、首を振ると負けじとシオンの目を見た。
「試合開始の合図はボクがするでし! では行くでしよ~!」
にらみ合う二人の間にブキチが立ち、片手を上に高く上げた。
――Ready……――
――Go!――
ブキチが手を振り下ろした瞬間、ソラとシオンは同時に動いた。
ソラはまず、シオンが距離を詰めることが出来ないよう、自分の周囲にインクをバラ撒く。
しかしシオンは意に介さず、ソラ目掛けてカーリングボムを投げると、それにより生じたインクに乗って一気にソラの目の前へと肉薄する。そしてソラの前に姿を見せるとジャンプをしながらローラーを横で振り下ろした。
「うわぁっ! っと……」
ローラーから振るい出された紫色の敵インクをソラは紙一重で避けるとあらかじめ塗っておいた自インクに潜り、距離を離す。
その動きを見逃さなかったシオンはソラのいる方向にカーリングボムを投げつけるとローラーを縦に構えて振り下ろす。
「ッ!? ここまで届くのかよ……!」
ソラはすぐ目の前に振り下ろされたローラーのインクを左に避けるとシオンの姿を視認した。しかし……
キュィィィン……!
避けた先のソラの足元で、さっき投げられたカーリングボムが起爆音を響かせていた。
「やっべ……!」
しかし時すでに遅し、ソラはカーリングボムの炸裂によって弾けとんだ。
ソラがいた場所に紫色のインクがぶち撒けられる。
『ソラ:1デス』 『シオン:0デス』
「くっそ~やられた……」
ソラはリスポーンユニットから復活すると悔しそうに呟く。
「避けてばかりじゃ状況は変わらないぞ。仕掛けてこい」
「それなら……!」
それを聞いたソラは、リスポーンユニットから飛び出すとシオンに向けてスプラッシュボムを投げて牽制し、シューターの射撃が届く位置まで距離を詰めるとシオンに向けてトリガーを引いた。
しかし、シオンは射撃をイカ移動で避けるとそのままソラの背後に回るように泳いでいった。
ソラはシオンがインクの中を泳いでいる飛沫を狙って撃つが、シオンは高速でインクの中を泳ぎながらソラの射撃を避けた。そしてシオンはインクから飛び出すと、ソラへ向けてローラーを縦振りした。
「見えたっ!」
そう叫ぶと、ソラはシオンの攻撃をイカ移動で避けると、ローラーを振り下ろした事で隙が生じたシオンへ向けてトリガーを引いた。
「……!」
しかしその瞬間、シオンは突如全身にインクを纏い、その場で高く飛び上がった。ソラの放ったインクは地面へと吸い込まれていく。
そして、インクがシオンのかざした右手に収束すると、シオンは地面に着地する際に右手を思い切り地面へと叩きつけた。
その瞬間、叩きつけられたインクは巨大な衝撃波となって周囲を震わせた。
ソラは声を上げるまもなく衝撃波に巻き込まれデスしてしまう。
『ソラ:2デス』 『シオン:0デス』
「いてて……い、今のがスーパーチャクチか? 実際に受けるととんでもない衝撃だな……」
リスポーンしたソラは少しよろめきながら言った。
シオンはローラーを肩に担いでソラを見つめていた。
「でも、今ので……!」
そう呟くと、ソラは再びシオンに攻撃を仕掛ける。
シオンはさっきと同じくイカ移動で横へと避けるとソラの周囲を泳ぎながら徐々に距離を詰めながらソラの隙を伺う。
「そこだっ!」
ソラはシオンが移動しようとしていた軌道上にスプラッシュボムを投げる。
シオンは間一髪でスプラッシュボム爆風を避けると後ろに下がろうとするが、ソラは下がろうとしていた場所にすでに照準を合わせていた。
ソラの放ったインクが全てシオンに命中し、シオンは空色のインクをぶち撒けてデスした。
『ソラ:2デス』 『シオン:1デス』
「やった!」
初めて読み勝てた喜びにソラはガッツポーズをした。
シオンはリスポーンすると、再びカーリングボムを滑らせると一気に距離を詰めて来た。
(シオンの攻め方はなんとなくわかった……! 後はどういう順番で来るかだ!)
ソラはシオンの攻撃をかわしてその隙を突くことに集中する。幸いシオンのスーパーチャクチはまだ溜まっていないようだ。
ソラはシオンの泳ぐ先を予測してトリガーを引く、シオンはその度に別方向に泳いで避けようとするが、ソラはすかさずシオンが避けた先にスプラッシュボムを投げる。シオンがボムの爆発で少しダメージを受けたのを確認すると、ソラは更に射撃で畳み掛けた。
インク弾は見事シオンに命中した。
『ソラ:2デス』 『シオン:2デス』
その後も、ソラとシオンは組手を続けていく。
組手を初めて数分、両者ともにかなり息が上がっていた。
『ソラ:4デス』 『シオン:4デス』
「はぁ、はぁ……」
「……はぁ……はぁ」
ソラは、今一度シューターのグリップを強く握り締める。
シオンも、ゆっくりと息を整えると、ローラーを静かに構えた。
……
「だぁ!」
「……ッ!」
ソラとシオンは同時にイカ移動で距離を詰めた。
ソラは、今まで通りにボムで牽制しつつインク弾を撃ち込もうとする。
しかしシオンは、姿を見せてローラーを振ると見せかけてすぐにもう一度インクへと潜り、ソラの射撃を外させる。そしてすぐ横から飛び出しソラを目前に捉え、ローラーを振りかぶった。
――
ソラは咄嗟にジェットパックを起動し、紙一重でシオンの一撃を避けた。
「うわぁあっとと!」
しかし、ソラはここに来て初めて起動したジェットパックの操作に手こずる。シオンの周りをふよふよ飛んでいたが、なんとか持ち直すとシオンの方向へと発射口を向け、トリガーを引く。
シオンは地面に当たった砲撃で飛び散るインクが顔に跳ね返り片目を閉じながらも、宙に浮かぶソラに縦振りを放った。しかしソラはこれをジェットパックを操作して回避する。
縦振りが空振りしたのを確認したソラは、隙が生じたシオンに発射口を向けた。
しかしシオンはスーパーチャクチを発動させ、大きくジャンプすることで砲撃を回避する。そして地面へと拳を叩きつけた。
ソラはジェットパックを前方向に噴射して衝撃波から逃れるが、飛び散ったインクが顔半分に掛かり、視界が狭まってしまう。
シオンは衝撃波の余韻が残っている地点からジャンプし、ローラーを縦に構えた。ソラは片目だけでシオンを捉え、発射口を向けた。そして……
「くっ……!」
ソラは決死の覚悟でシオンの攻撃を右足に喰らいながらもトリガーを引いた。
「ッ!?」
そして、巨大なインク弾はシオンに直撃した。
『ソラ:4デス』 『シオン:5デス』
「そこまででし~!」
ブキチの試合終了を告げる声が試し撃ち場に高らかに響いた。
ソラとシオンは、共に上着を脱いだインナー姿でベンチに座り、汗だくになった体を拭きながらブキチにサービスで渡されたスポーツドリンクを飲んでいた。
「流石シオンだな、最後は本当に叩き落とされたかと思ったよ」
「……お前は状況判断に優れてるみたいだな。私の動きも途中から全て読まれてた」
シオンはスポーツドリンクを傍らに置くとソラの顔を見た。
「……つくづく初心者離れした動きをする奴だ。これなら最初のウデマエ検定も問題ないだろう」
「そ、そうかな? 父さんと母さんにはバトルのイロハは叩き込まれてたんだけど、他の事はテレビで試合を見たり、本で調べたりしてたんだ。ブキを持ったのも使ったのも初めてだったんだぜ?」
「……もしかしたら、お前にはその筋の才能があるのかもしれないな」
「シオンがお世辞を言うなんて意外だな、ちょっと照れちゃうよ」
そう言いながらソラは頬を掻いた。
「……私は世辞は言わない」
少し拗ねたようにシオンはまたスポーツドリンクを口に運んだ。
「気に入ったでし!!」
「うわぁ!」
まだベンチで休息していたソラとシオンに突然ブキチの大声が掛けられ、ソラは驚いてベンチから立ち上がった。
「ブ、ブキチさん? な、何が気に入ったんですか?」
「キミにでしよ!」
ソラはきょとんとした顔で自分を指さしながらブキチを見つめた。
「キミは今までのイカたちとは違う何かを感じるでし! もしかしたら、キミはこの先とてつもない大物になるとボクの感性がビンビン来てるでしよ!」
「は、はぁ……」
シオンに続きブキチにも似たようなことを言われたソラは困惑する。
「そこででしね……」
そんなソラをよそに、ブキチは背後からスプラシューターコラボを取り出した。メンテナンスが済んでいるのか、ピカピカだった。
「このスプラシューターコラボ、キミに譲ってあげようと思うでし!」
ソラは数瞬硬直した、がすぐに目を輝かせた。
「えええ!? ホ、ホントにいいんですか!?」
「ボクはヒトを見る目はあるつもりでし。キミはもしかしたら世界を塗り替えてしまう程の才能の持ち主だと、ボクは思うでし。だから、これを使って日々精進するでし! これはボクからの餞別でしよ!」
そう言って、ブキチはソラへとスプラシューターコラボを差し出した。
「俺が、世界を塗り替える……」
「自分の力を信じるでしよ!」
ソラはブキチからスプラシューターコラボを受け取ると改めてその重さをじっくりと感じた。
「はい! ありがとうございます!」
ソラはブキチに礼を言うと、受け取ったスプラシューターコラボをとても大事そうに見つめていた。
その様子を見つめていたシオンは、ベンチから立ち上がり、ソラへと歩み寄る。
「……次はデカ・タワーでウデマエ検定だな」
「ああ! いっちょ、気合入れてくか!」
ソラはベンチに畳んで置いてあった上着を着ると、試し撃ち場の出口目指して歩き始めた。
シオンも同じく上着を着てカモメッシュを被るとその後を歩いていく。
「ブキの事でわからないことがあったらいつでも来るでしよ~!」
ブキチの声を背中に受けながら、ソラとシオンはカンブリアームズを後にし、デカ・タワーへと向かっていった。
◇◆◇
「もしもし、ホタルさんでしか? ボクでし」
ソラとシオンが去り、元の静けさを取り戻したカンブリアームズ。試し撃ち場に併設されているブキチのブキ工房で、ブキチはホタルと呼ばれる人物と電話をしていた。
「ついに、希望が見えてきたでしよ!」
話しながら、ブキチは作業デスクの椅子に腰掛けた。
「ボクは引き続き、あのボーイを観察しておくでし。バトロイカ社の官僚にもそれとなく伝えるでしよ」
そしてひと呼吸おいたブキチは神妙な面持ちで言った。
「あのボーイならきっと、アオリさんを助け出す力になってくれるかも知れないでし!」
To Be Continued……
隔週更新にできたら、よかったな~!!
そんな空想を展開したりもしてました、どうも、あすてる*です。
今回、ようやっとバトルですかね…?わかりにくくなってなかったら幸いです。次回から本格的にバトルしていただきますか!
おっかなびっくりな感じでカチャカチャ執筆してたらスプラ2本編がめっちゃヘタクソになってて泣きそうになりましたよね(笑)
ではまた次回、気長にお待ちくださいお楽しみに!
あすてる*
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