ボクは、凶という非は決して忘れない。
うん、まぁ、あれだ。
お祭り騒ぎだね。
みな肩を叩き、握手して笑い合う。
この場所には同じ中学の生徒はいないように配置されているはずだから、基本的に10分前からの知己でしか無いのだが、彼ら彼女らは高揚感と連帯感に満たされているのだろう。
素晴らしいことだ。
たとえそれが一時の幻想でしか無いとしても、確かにここには勝利がある。それを自らの手で掴み取った事実がある。
みな、
小学校から中学校で教える個性教育は、基本的に個々人の個性の把握と、その制御訓練でしかない。
個性をもって集団で何かを行うという行為は、スポーツですらこの社会の中では行われることがほとんど無い。
だからスポーツといえば、個性を用いず、異形型の選手を排した旧態依然の形式しか行われないことが多い。
(ヴィランの中で異形型が占める割合が多い理由は、こんなところにも有るのでは無いかと思う。)
個性偏重の社会風潮が内包する矛盾が、そのままヒーローの飽和と、いつまでも終息しないヴィラン犯罪に繋がっているというのに。
まぁ要するに、みんな初めての経験に舞い上がっているわけだ。
当然のように僕たちは囲まれ、称賛の声が響く。
見事だ。
カッコよかった。
マジでヒーローじゃん。
必殺技、パねぇ。
僕の煌めきどうだった?
ん?何か変な声が混じっていたような。
……ともあれ、僕たち5人がこの場の主役、MVPというわけだ。
「なんという達成感……!」
飯田くんが天を仰いで感動にうち震えている。
「ふ、蠱をもって毒を成す壷と思っていたのだがな。」
「タノシカッター」
常闇くん、凄いキャラ立てだな……って、喋るんだ、その影!?
「やった!やったぜ俺!
切島くんは熱いなぁ。……熱くて頑丈なのか。是非とも仲良くしたいね、これからも。
「すごいやん……。うち、やったで!」
麗日さん、関西出身なのかな。
さて、もう来る頃かな?
「どけやモブども!!」
……かっちゃん。知らない人の事をモブっていうのそろそろやめようか。
「ははっ!イズクぅっ!見えたかよ!!」
熱狂する人混みを、紅海を渡る預言者のごとく割ってみせるは爆豪勝己。僕の、
あぁ、やったねかっちゃん。
「おぉよっ!お前の読みどおりの展開で楽勝だったぜ!」
さすがは爆豪勝己。僕の相棒だ。
ま、なんの心配もしてなかったけどね。
言ったろ? 君は無敵だって。
「お前の方は……あん?コイツらか。」
うん、紹介するよ。この人達のおかげで勝利を掴めた。
急造まるだしだけど、チーム緑谷のメンバーさ。
「ぼ……俺は飯田天哉。」
ひょっとして、もともとの一人称はボクなのかな?
「お前、どこ中よ?」
かっちゃん、あごをクイクイするのもやめようよ。
「私立聡明中学卒業予定者だ。」
丁寧に言うよね、飯田くん。
「聡明~!?エリート様じゃねぇか。なら、ちったぁイズクの役にたったかよ。」
「あぁ、彼の的確な分析と指示のおかげで、俺たちはあの仮想ヴィランを倒せた。」
「常闇踏陰。なるほど……緑谷出久と並び立つ
そのしゃべり方はプロデュースしがいがあるなぁ。子ども受けしそうだね。相棒の影ともども。
「ほぉ……。わかってんじゃねぇかっ。」
かっちゃん、ちょろすぎないか?
「バクゴー君もスゴかったんだね!さっきの火柱!」
腕をブンブン振り上げる麗日さん。
君の個性もスゴいよ。用途がいくらでも有る。
「ははっ!始まる前から勝ってんのさ!俺達はな!」
あ、上機嫌だ。
……女の子とまともに話す姿も久しぶりな気がするよ?
「俺は切島鋭児郎。緑谷のダチかっ!真っ向からブッ飛ばしちまうなんて、スゴいなあんた!」
切島くんは、真っ向とか、堂々とか、男気とかが好きなんだな……覚えておこう。
「なぁ、この後、まだ時間あるならだべらねーか?」
ん?切島くん?
「聞きてぇよ。緑谷の話とか、爆豪の話とか。」
僕はかまわないよ。
みんなも……異存は無いみたいだね。
周りで盛り上がる受験生達にも、もう一度声をかけておこう。
みんな!また どこかで!必ず会おうっ!
雄英の最寄り駅近く。ハンバーガー店に皆で入店。
かっちゃん。席の確保お願い。
かっちゃんはいつものセットでいいんだよね。
「おおっ!頼むわ!」
ん、どうしたの、皆?
「本当に仲が良いのだな、君たちは。」
飯田くんがウンウンと感心している。
そうだね。いわゆる幼馴染ってやつだからさ。
雄英を卒業したら、二人でヒーロー事務所を立ち上げるつもりだし。
「マジか!将来設計凄いな、お前ら。」
いやいや、切島くん。獲らぬ狸のなんとやら、さ。
「常道としては、何処かのヒーロー事務所にサイドキックとして所属し経験を積むべきだが、何を見ている?」
「そうだね、常闇君の疑問ももっともだ。席に着いたら少し話すよ。あ、麗日さん。ここは奢らせてもらっていいかな?」
「えぇっ!?いやいや、そんな事してもらったらあかんやろ!?」
「お礼だよ。今日の戦術、正直に言って、要は君だったんだ。それも後で話すから……ここは受け取って貰えないかな?」
……半分本当で、半分は嘘だ。
彼女の態度。ファーストフードに行こうって話になった時の表情のわずかな変化とか、こうして並んだ時のメニューと財布を交互に見た視線の泳ぎ。
どうもお金に余裕が無いようだから、恩を売っておこうかなって、ね。
受けてもらいやすいような話題は振ったから、さて、どうかな?
「じゃあ、お言葉に甘えて。」
「緑谷ってさぁ、なんつうか、スゲー気配りだなっ!」
うん、そこは大事だからね切島くん。
さて、僕はカツバーガーセットのポテトサイズアップ、プラス単品でカツバーガーを2個。
かっちゃんの分はチリドッグセットで、ポテトにマスタードを付けてもらう。
飯田くんがハンバーガーセットで、ドリンクがオレンジジュースのサイズアップ。
常闇くんが黒バーガーセット。
切島くんはベーコンダブルバーガーセット。
麗日さんは……ライスバーガーのセットでいいの?
なんていうか、個性的だね、みんな。
「イズクくん、がっつり食べるんだね!」
あぁ、カロリー結構使ったからね、個性で。
「ふむ。緑谷君の個性についても聞いてみたかったところだ。」
いいよ、さ、席につこうか。
さて、何から話そうかな。
そうだね、僕の個性について、でいいかな。
ん?あー、かっちゃんの食べ方?
そう、ポテト用にもらったマスタードソースだけど、チリドッグにかけて食べるのさ。
いいんじゃない?
食べ物の好みだってプロフィールに載るでしょ?
うん、だから、
あと、それから……せっかくだから、先に言っておくね。僕がヒーロー科に入れなくても、君達とは友達として付き合っていきたいなと思ってる。
あ、みんな、そんな顔しないで。
かっちゃん……はわかってくれてる、よね? よね?
僕自身は、半々だと思ってるんだ。僕の合否については。
このあたりも、僕の個性について合わせて話そうかな。
うん、
君達と出会えた。それが一番の収穫かな。
楽しくダベってアドレス交換じゃすまないのかね。
一挙手一投足を策に繋げていくスタイル。