神代家当主、神代豪真の評判は最悪である。
恵遊と美咲のデュエルでの言動。
あれらは、神代家における恵遊の扱いと、それに伴う決断をした豪真の行動を示すものだ。
伝統に従わないものを排斥し、自分が勝てないからと娘にそれを押し付ける。
父親として失格と言わざるを得ない行動だろう。
当然、評判が下がれば離れていく物は多い。
デュエルの影響は大きく、最近つながりを作ったものは離れていった。
「クソ!恵遊さえいなければ……」
会議室で拳を机に叩きつける豪真。
その顔に、当主としての威厳も、父親としての風格もない。
ただ、うまくいかないことに対して駄々をこねる子供のようなものだった。
「どうしますか?このままでは、スポンサーが次々と離れていきます」
「決まっている。私が直々に倒してやるまで。今まで隠していた『力』があるからな」
そういいながらもデッキを握る豪真。
神代家としてのデッキ。
しかし、一枚。すさまじく黒い何かにあふれている。
「い、いいのですか?」
「やむを得まい。こうなれば、私が直々につぶしてやる。車を出せ。今頃あのバカは、懸賞で新作ハンバーガーの優先権を手に入れ、有頂天になって学生寮を出ているはずだ」
本当に馬鹿なのだから救いようのない主人公である。
とはいえ、作戦を滞りなく行えるというのはそれはそれで悪いことではない。
豪真が部下に命令を出すと、すぐに車が用意される。
黒塗りのリムジンである。
とはいえ、要人警護用の装甲車としての意味もあるもので、神代家と言う存在がデュエルモンスターズの中でも大きいことを示していた。
実際、この男の指示一つで小国の経済くらいは自由にできるほどの権力を所有しているのだ。
それだけ、繋いできた歴史がある。
「待っていろ恵遊。今すぐ私が引導を――」
「そう言うわけにもいかないんだよね」
「!」
窓の外から聞こえてきた声に、豪真は振り向く。
そこには、バイクに乗った女性がいて、ヘルメットを台においてこちらを見ている。
まだ若く、茶髪を揺らしている。
ただし、大人ではあるが、若干子供っぽい雰囲気も持っていた。
ライダースーツ姿なので体のラインが分かるのだが、なかなかすごい胸をしている。
「誰だ」
「私は
そういって微笑む由井。
それに対して、豪真は眉間に青筋を立てる。
「貴様があのクズをあそこまで強くした原因か」
ぶっちゃけ追い出す前であっても強いといえば強いのだが、今ほど手が付けられないほどのバカと言うわけでもなければ変態でもなかった。
ハンバーガーに対する『思い』がありながらも、周りの目を気にしていたような感じだ。
少しわかりにくいので簡単な例を挙げると、『客観的な視点を持ちながらも、キャラ設定として中二病を演じようとしている人の心理』に近い……はずである。
だが、小学校を卒業し、中学時代を超えて、高校生になった今、躊躇も遠慮もない。
某長官のセリフを引用するなら『まるで意味が分からんぞ!』と言った感じである。
「しっかり調べておくべきだったね。まあ、非常勤だったから今は教師職にはついていないけどね」
由井はデュエルディスクを構える。
「恵遊君のところにはいかせないよ」
「いいだろう。まず貴様からつぶしてやる」
豪真が車を降りると、部下がアタッシュケースを開いた状態で持ってくる。
豪真は、アタッシュケースのデュエルディスクを左腕に付けると、デッキを入れた。
「言っておくけど、私、強いよ?」
「神代家というものを見せてやろう」
お互いにカードを五枚引いた。
「「デュエル!」」
由井 LP4000
豪真 LP4000
ターンランプがついたのは豪真。
「先攻は私だ。『ドラゴン・目覚めの旋律』を使い、『伝説の白石』を捨てて、『青眼の白龍』と『青眼の亜白龍』を手札に加える。そして、伝説の白石の効果で、二枚目の『青眼の白龍』をサーチ」
「やっぱりブルーアイズなんだね」
「当然だ。私は『青眼の白龍』を見せることで、『青眼の亜白龍』を特殊召喚。さらに、『古のルール』を使い、『青眼の白龍』を特殊召喚する」
青眼の亜白龍 ATK3000 ☆8
青眼の白龍 ATK3000 ☆8
「そして、二体をリリースし、エクストラデッキから『青眼の双爆裂龍』を特殊召喚!」
青眼の双爆裂龍 ATK3000 ☆10
「ツイン・バースト……」
「私はカードを一枚セット。これでターンエンドだ」
「なーるほど。そう言う感じなんだ」
戦闘破壊されないツイン・バーストは、確かに協力と言えば強力ではある。
もっとほかにいろいろやりようはあると思うが、それは豪真の手札次第だろう。
「フン!神代家は、青眼の白龍がもたらす恩恵を正確に再現することで栄光を継いできた名家。その力の前に、なすすべなどない!」
そう吠える豪真。
ただし、由井は気にしていない。
「私のターン。ドロー!」
由井はカードを見て、一瞬で何をするかを決めた。
「戦闘耐性しかないモンスターなんて、私に意味はないよ。私は『ガガガマジシャン』を召喚して、『カゲトカゲ』を特殊召喚する!」
ガガガマジシャン ATK1500 ☆4
カゲトカゲ ATK1100 ☆4
「そして、この二体でオーバーレイ!エクシーズ召喚。ランク4『No.101 S・H・Ark Knight』!」
No.101 S・H・Ark Knight ATK2100 ★4
現れる方舟。
それに対して、豪真は驚愕した。
「あ、アークナイトだと!?」
「効果発動。ツイン・バーストをエクシーズ素材にする!」
ツイン・バーストが消え去った。
「むうう……」
「バトル。アークナイトでダイレクトアタック!」
「『リビングデッドの呼び声』を発動。『青眼の亜白龍』を特殊召喚!」
青眼の亜白龍 ATK3000 ☆8
「安定して攻撃力3000を出してくるか……」
「それが青眼の力でもある。さあ、どうする」
得意げになる豪真。
しかし……。
「なら、
CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 ★5
「もうランクアップを……」
「効果発動。青眼の亞白龍をエクシーズ素材にする」
さらに消えて行くブルーアイズ。
「私はこれでターンエンドだよ」
「むうう。私のブルーアイズをよくも!私のターン。ドロー!『マジック・プランター』を使い、リビングデッドを墓地に送り二枚ドロー!」
豪真はドローしたカードを見て、にやりと笑った。
「私は魔法カード『復活の福音』を発動。甦れブルーアイズ!」
青眼の白龍 ATK3000 ☆8
「そしてバトルだ!ダークナイトを粉砕せよ!」
「……」
由井 LP4000→3800
「でも、忘れてないよね。ダークナイトの効果。このモンスターを特殊召喚して、その攻撃力分のライフを回復する」
CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 ★5
由井 LP3800→6600
戻って来るダークナイト。
エクシーズ素材を持っていれば破壊されても戻って来るというのに、自分の能力でエクシーズ素材を調達するという、何ともいえないしぶとさを持っているモンスターだ。
「フン!私はカードを一枚セット、ターンエンドだ」
豪真の手札は二枚。そして一枚はブルーアイズだ。
まだ『融合』が引けないのだろうか。
「私のターン。ドロー」
だが、ターンは進む。
「ダークナイトの効果で、『青眼の白龍』をエクシーズ素材にする」
「罠カード『ブレイクスルー・スキル』を発動。ダークナイトの効果を無効にする!」
恵遊が使う『スキル・プリズナー』では防げないが、こちらのカードでは防ぐことが出来る。
毛色がことなるものの、使われる二種類のカードだが、親子でもそのあたりは異なるのだろうか。
「なら……私は『ガガガシスター』を召喚、『ガガガリベンジ』をサーチ。そして発動。『ガガガマジシャン』を特殊召喚!」
ガガガシスター ATK 200 ☆2
ガガガマジシャン ATK1500 ☆4
「ガガガマジシャンのレベルを6にして、ガガガシスターの効果を発動してお互いのレベルを8にする。そしてオーバーレイ!『No.107 銀河眼の時空竜』をエクシーズ召喚!」
No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000 ★8
「今度はタキオンだと……まさか……いや、そんなデッキを組むようなデュエリストが……」
「さあ、どうだろうね。ただ、『ガガガリベンジ』の効果で、私のフィールドのエクシーズモンスターは全て、攻撃力が300ポイントアップするよ」
CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800→3100
No.107 銀河眼の時空竜 ATK3000→3300
「な……」
「バトルフェイズ。タキオンの効果は使わないよ。私はダークナイトで青眼の白龍を攻撃!」
「墓地の『復活の福音』を除外する!」
豪真 LP4000→3900
「そんなことは百も承知だよ。タキオンで攻撃!」
今度こそ青眼の白龍は破壊される。
豪真 LP3900→3600
「私はカードを一枚セットして、ターンエンド」
「私のターン。ドロー!」
豪真はドローしたカードをすぐに使った。
「私は『竜の鏡』を発動。墓地の『青眼の白龍』と『青眼の亜白龍』を除外し、二体目の『青眼の双爆裂龍』を融合召喚!」
青眼の双爆裂龍 ATK3000 ☆10
「このタイミングで……」
「バトルだ。二体を攻撃し、そして除外する!」
豪真 LP3600→3500→3200
ライフの上では豪真の方が次々と下がっている。
だが、少し、豪真の方がカードパワーが強い。
「私はカードをセット、ターンエンドだ」
「私のターン。ドロー」
由井はドローしたカードを見る。
「私がドローしたのは、『RUM-七皇の剣』!」
「ちっ……それか」
「メインフェイズ。これをこのまま発動。エクストラデッキから『No.102 光天使グローリアス・ヘイロー』を特殊召喚するとともに、オーバーレイ!『CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン』をエクシーズ召喚!」
CNo.102 光堕天使ノーブル・デーモン ATK2900 ★5
「次はノーブル・デーモンか……」
「効果発動。エクシーズ素材を使って、相手モンスター一体の攻撃力を0にして、効果も無効にする。そして、エクシーズ素材が無くなったことで、1500ポイントのダメージを与える」
青眼の双爆裂龍 ATK3000→0
豪真 LP3200→1700
「ぐおお!」
「バトルフェイズ。ノーブル・デーモンで、青眼の双爆裂龍を攻撃!」
「罠発動。『ガード・ブロック』!ダメージを0にして一枚ドロー!」
耐える豪真。
それに対して、由井は表情を崩さない。
「私はターンエンドだよ」
「私のターンだ。ドロー!」
豪真の手札はこれで三枚。
そのうち一枚である『青眼の白龍』が動かないが、それらを展開できなければどうにもならないはずである。
だが、豪真は気色の悪い笑みを浮かべた。
「私は魔法カード『儀式の下準備』を発動!」
「え……ブルーアイズデッキで『儀式の下準備』!?」
ブルーアイズにも儀式モンスターはいるが、二種類であり、その内の一種類には対応していない。
「フフフ、ハハハハハ!」
高く、それでいて君の悪い叫びを上げると、黒い何かが豪真の体から溢れてくる。
それと同時に、彼のそばにいた従者からも、似たような黒いものが出始めた。
それらは集合すると、一つの人型になる。
黒で塗りつぶされたようなものであり、とげとげしい部分があるが、すくなくとも地球上の生物としてはどれにも該当しない。
黒いものが抜けきったからだろうか。豪真を含め、従者たちはその場に倒れる。
由井は驚いたが、
「あなた、一体何?」
「我に名前はない」
「じゃあ『黒塗りA』でいいかな」
「良いわけがないだろう!」
ごもっとも。
「我は崇高なる『シークレット・アライアンス』の第六席である。常に我に敬意を表すべきだぞ下等種族が!」
三点ほど、由井はツッコミを入れたいと思った。
一点目、『シークレット・アライアンス』は日本語にすると『秘密同盟』になるのだが、いっても大丈夫なのかということ。
二点目、『第六席』といわれても、すごく微妙であり、自慢できるほどなのかと言うこと。
三点目、下等種族だとか言っているが、このタイミングでそんなこと言っても死亡フラグにしかならないということ。
「まあいい。今はデュエルを続けてやろう。寛大な我に感謝するがいい」
「……デュエルディスク。豪真についたままだよ?」
「あ。そうだった」
素が出た。
由井はそう思ったが、少しかわいそうだったので言わないことにした。
そう思っているうちにデュエルディスクをつけ直したようで(ちょっと苦戦していたが)、構えなおしてくる。
「デュエル続行だ。我は『儀式の下準備』の処理を進めよう」
デッキから二枚のカードが手札に加わる。
「我がデッキから手札に加えるのは、『闇の支配者との契約』と『闇の支配者-ゾーク』だ」
「え……」
「そして我はこのまま、『闇の支配者との契約』発動。手札の『青眼の白龍』をリリース。『闇の支配者-ゾーク』を儀式召喚!」
闇の支配者-ゾーク ATK2800 ☆8
「効果発動!ダイスロールを一度行い、それに寄り効果を適用する!」
サイコロが出現。
だが……。
「ちょ……すべての目が『1』なんだけど!?」
「我の力だ!」
やっていることがカイジと同じなのだが、そこのところどうなのだろう。
出た目は当然1だ。
ノーブル・デーモンが破壊される。
「そしてダイレクトアタック!」
「チッ……」
由井 LP6600→3800
「我はこれでターンエンドだ。さあ、どんなモンスターでも出すがいい。全て我の力で潰してやる!」
「私のターン。ドロー!」
由井は呆れたような表情だった。
「私は『ダーク・バースト』で『ガガガシスター』を手札に戻して召喚。『ガガガリベンジ』をサーチして使って、『ガガガマジシャン』を特殊召喚、さらに『二重召喚』を使って、『ガガガガール』を召喚!」
ガガガシスター ATK 200 ☆2
ガガガマジシャン ATK1500 ☆4
ガガガガール ATK1000 ☆3
「む……並べたか。残るのは103、104、105、106。出すとすれば……」
「私は三体のマジシャンをのレベルを3にして、シスターの効果で両方を5に変更。ガガガガールもレベル5にするよ」
ガガガシスター ☆2→5
ガガガマジシャン ☆4→3→5
ガガガガール ☆3→5
「レベル5だと?」
「私はレベル5のガガガたち三体でオーバーレイ、エクシーズ召喚『CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ』!」
CNo.103 神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 ★5
「直接カオス化したモンスターをエクシーズ召喚するだと!?」
「ガガガガールの効果が適用されるよ」
闇の支配者-ゾーク ATK2800→0
ラグナ・インフィニティの効果を使えば、このまま終わる。
だがしかし……。
「まだまだ。私はラグナ・インフィニティでオーバーレイネットワークを再構築!『CX 冀望皇バリアン』!」
CX 冀望皇バリアン ATK0→4000 ★7
「そんな馬鹿な……」
「バトル。バリアンでゾークに攻撃!『ランドチャリオッツ スラッシュ』!」
黒塗りA LP1700→0
ゾークは粉砕された。
「ぐ……だ、だが、まだ我は終わらない。『シークレット・アライアンス』に今すぐ戻るだけだ!」
そのまま突如姿を消していく黒塗りA。
数秒後、もうすでにそこにはいなかった。
「やれやれ、面倒なことになってきたね。でもまあ、後は任せよっか」
由井はそう言うと、病院に連絡するのだった。
★
数キロ離れた裏路地。
黒塗りAは、息を切らせながら周辺を確認していた。
「クソ、まずはここまで逃げることが出来た。後は本部に戻れば、我はまた……」
「悪いが、もうお前に先はない」
黒塗りAは驚愕したように振り向く。
そこには、『本日限定!』と書かれた袋を片手にハンバーガーを頬張る恵遊の姿があった。
……ハンバーガーを食べていなければすごくかっこいいのに、なんとも惜しいやつである。
「フン!我に先がないだと?どういうことだ」
「単純な話だ。俺がお前を倒すからだよ」
「我は倒されただけで終わるほどの雑魚ではないがな。クックック」
黒塗りAは笑みを浮かべる。
……まあ、黒塗りなので笑みを浮かべてもあまりわからないのだが。
「覚えているぞ。貴様の父親も、何千回と倒しながらも、何度も立ち上がる我に、最後は屈した。たった一度の勝利を収めるだけで、我はその人間の思考を黒く染める。我が取り付く限り、永遠に!」
「知っているさ。だが、それでもお前が終わることに変わりはない」
恵遊はデュエルディスクを構える。
「お前の名前を聞いておこうか」
「我に名前はないが、たどり着いた『種』として、『ブラック・ペイント・エターナル』と呼ばれる唯一無二の存在だ」
「……略するとBPEか?日本語で言うと『ブープ』になるけど」
「……黒塗りAよりはましだ。さっさと始めるぞ!」
ブープはデュエルディスクを構える。
だが、そんな状態でも、恵遊は考えていた。
(ブラック・ペイント・エターナル……日本語にすると『黒塗りの永遠』かな。『黒塗り
とはいえ、デュエルにはそんなことは関係ない。
恵遊は、勝ち方を考えるのだった。