神代家は、完全な設備がそろった病院が敷地内にある。
神代家は数多くの功績を積み上げてきた名家であり、体調管理に関してもすごいのだ。
医者は何と言うかすごく高齢の者もいるが、その分、経験を感じさせる人も多い。
いや、医学的な部分だけではない。
料理に関しては、一流のシェフが最高峰の食材で作るし、服に関しても、明日
正直なところ、サービスの幅を広げ過ぎて、使いきることそのものが難しいといえるレベルである。
その話は今は置いておこう。
神代家は、病室でもかなりの設備が整っている。
病院食と言うのは精進料理のようなものが並べられるものだが、その時点でもいろいろと美味いものなのだ。はっきり言って意味が分からない。
デュエリストの体はいろいろな意味で頑丈である。その分、ケガをするというのはよほどのことであり、病室と言うのは厳重に管理されている。
無論、そんなセキュリティを、ほぼ素通りで通る方法もある。
「……ドアが新しくなってるな」
恵遊は、そんな病室の自動ドアの前に立ってそうつぶやいた。
ドアの横にあるスキャナーに『青眼の白龍』をスキャンすると、ドアが左右に開く。
その奥には、病室とは思えないほど様々なものが広がっていた。
どちらかと言うとホテルに近い。
高級な病室と言うのはそう言う内装になっていると聞いたことがあるが、この部屋はそんな感じだった。
そして、ベッドでは一人の男性が横になっていた。
短く切りそろえた黒い髪には、若干青い色が混じっており、とても整った顔立ち。
とても若々しく、引き締まった筋肉がついた体つきで、高身長だ。
「やあ、恵遊。久しぶりだね」
「……療養中の身で何やってんだ?父さん」
そう、神代豪真なのである。
ビフォーアフターでたまにすごい感じになる人がいるが、このおっさんも例に漏れなかった。
病室にふさわしい服装だが、部屋が豪華すぎてあまり適していない。
が、イケメンの特権だ。何を着ても似合う。
恵遊はさわやか系のイケメンと言われるが、このおっさんはお兄さん系といえるだろう。
簡単に言うと『飄々としているがいざという時頼れる』という感じだ。
……おっさんに対してお兄さん系のイケメンと言うのも日本語的に変な感じがするが。
「久しぶりに息子と話すからね。あんな体で会うわけにもいかないだろう」
「いや、そこは普通にジッとしてろよ……抵抗し続けていたんだ。無理した後遺症が残ってるんじゃないか?」
「実は体の節々が痛くてね」
「そこは年齢を考えると不思議ではないと思う」
見た目は二十代半ばだが、実年齢は四十八だ。
体格を気にするのは恵遊としても別に気持ちが分からないわけではないが、それでも、もうそろそろジジイの領域に足を踏み入れていることを自覚すべきだと思う。
「まだ体が若さを放してくれなくてね」
「全国のいろいろな人を敵にまわしてるな……」
恵遊は溜息を吐いた。
本当に話すのは久しぶりだ。
だが、その時間の流れも、豪真のなかでは大したものではない。
まだ十六歳の子供でしかない恵遊にとっては違うのだが、年の差が三倍もあるとそれも当然である。
「……それにしても、まさか、本当にあの黒いアレを倒してしまうとは……」
「あ。俺たちの中ではブープって言う名前になってるから。アイツ」
「そうか……それでいいのかな?まあそういうことにしておこう」
豪真は微笑む。
「あと、倒したわけじゃない。一時的に、力をそいだだけだ。また出てくると思う」
「それはそれでいいだろう。初見ではしてやられたけど、もう、僕としても負けるつもりはない」
確かに宿る信念。
時折、豪真はそう言った部分を見せる。
責任が常に共にある立場なのだ。そういうふうにもなる。
「……神代家の主要な人材を、母さんが本家から遠ざけていたからどうにかなっただけだろ」
「ハッハッハ!本当、感謝してもしきれないね。後で話しておくことにするとしよう。それにしても……」
豪真は笑った後、恵遊を真正面から見る。
「……強くなったな。恵遊」
「五年だぞ。強くなるに決まってる」
「それでも、僕はうれしいよ」
微笑んで、そして続ける。
「ただ、まだ、僕には勝てないだろうけど」
豪真のその言い分に、恵遊の額にしわが寄った。
「いうなぁ父さん。今からやってもいいんだぞ?」
「望むところだ」
ベッドから降りてデュエルディスクを構える豪真と、持ってきたデュエルディスクを構える恵遊。
さらに言えば、片方は病室着であり、片方は学校の制服姿と言う、何とも表現しにくい違いがある。
ただし、お互いが持つそのオーラは、強者としてのそれを示している。
「デュエルができるほど広い病室というのも珍しいものだが、まあいい。久しぶりのデュエルだ。恵遊。本気でかかってきなさい」
「言われなくてもそのつもりだ」
お互いにカードを五枚引いた。
「「デュエル!」」
恵遊 LP4000
豪真 LP4000
デュエルディスクが示した先攻は恵遊。
「俺の先攻。『おろかな埋葬』で『カードガンナー』を落として、『クレーンクレーン』で蘇生させて、効果発動。その後、二体で『彼岸の旅人 ダンテ』をエクシーズ召喚」
彼岸の旅人 ダンテ DFE2500 ★3
「効果を発動して、三枚を墓地に送る。『予見通帳』を発動してターンエンドだ」
「なるほど。僕のターン。ドロー。ふむ、『青き眼の乙女』を召喚して『ワンダー・ワンド』を装備させよう。『青眼の白龍』を特殊召喚して、ワンダー・ワンドを使って二枚ドローだ」
青眼の白龍 ATK3000 ☆8
実質手札消費なしで出て来る青眼の白龍。
なんだかんだ言って強いのだ。
「青眼の白龍で、ダンテを攻撃!」
「当然効かん。墓地から『ネクロ・ガードナー』を除外する」
「だろうね。僕はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
さて、やるか。
「まずはダンテの効果を使って三枚墓地に送る。そして、『儀式の下準備』を発動。デッキからバーガーセットを手札に加える」
「ほう……」
「レシピを発動。墓地のプレサイダー。ディザーズ。クリボールを除外、『ハングリーバーガー』を儀式召喚!『最強の盾』を装備させる」
ハングリーバーガー ATK2000→3850 ☆6
出現するハングリーバーガー。
久しぶりに見る正常な豪真と、その豪真のそばにいる青眼の白龍を見てテンションを上げている。
「バトル!ハングリーバーガーで、青眼の白龍に攻撃!」
「ここはあえて受けておこうか」
豪真 LP4000→3150
「一枚ドロー。ターンエンドだ」
「僕のターン。ドロー」
豪真はドローしたカードを見て楽しそうな表情になる。
ぶっちゃけ恵遊よりも子供っぽい。
「僕は手札から、『高等儀式術』を発動。デッキの『青眼の白龍』を墓地に送り、『ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン』を儀式召喚!」
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 ☆8
出現する儀式モンスター。
豪真の相棒にして、神代家の当主を継ぐことになったモンスターだ。
「バトルだ。カオス・MAXで、ハングリーバーガーを攻撃!」
「墓地から『SR三つ目のダイス』を除外する!」
「相変わらず硬いな。カードをセットしてターンエンドだよ」
「俺のターン。ドロー!」
よし。
「俺は『RUM-アストラル・フォース』を発動。ランク3のダンテでオーバーレイ。『神聖騎士王アルトリウス』をエクシーズ召喚!墓地のガラディーンとカリバーン、エアトスを装備する!」
「な……アルトリウスだって!?」
神聖騎士王アルトリウス ATK2200→4200 ★5
「しかし、アストラル・フォースとは……レイド・フォースじゃないのかい?」
「カオス・MAXを切り札にしている奴に対して、ライズ・ファルコン狙いのカードを持ってくるわけねえだろ!」
ライズ・ファルコンは対象に取る必要があるのだ。
カオス・MAXには無力である。
それを思いだした豪真は笑う。
「ハッハッハ!それもそうだね。そう言えば、ダンテからアストラル・フォースを使って出せるのは、ホープ関連とプレアデス。あとはアルトリウスだったね」
「チッ。カリバーンの効果で、500回復だ」
恵遊 LP4000→4500
「バトルフェイズ!アルトリウスでカオス・MAXを攻撃!」
アルトリウスがカオス・MAXを切り裂いた。
豪真 LP3150→2950
「よし。ハングリーバーガーで、ダイレクトアタック!」
「罠カード『緊急儀式術』を発動!」
「何!?」
豪真は墓地の『高等儀式術』を除外する。
「僕は墓地の『高等儀式術』を除外し、効果発動。デッキから『青眼の白龍』を墓地に送り、降臨せよ『ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン』!」
ブルーアイズ・カオス・MAX・ドラゴン ATK4000 ☆8
またもや出現するカオス・MAX。
恵遊も、ハングリーバーガーに関しては何度でも登場するが、そもそも儀式召喚でしか場に出せないカオス・MAXを簡単に操る豪真の方が、いろいろな意味で上である。
「また出てきた……ターンエンド」
「僕のターンだ。ドロー。永続魔法『闇の護封剣』を発動」
「チッ……」
恵遊のフィールドのすべてのモンスターがセット状態になる。
なんだかんだ言って、色々なデッキに刺さるカードだ。
恵遊の場合、墓地で発動する効果が多いとはいえ、ハングリーバーガーの装備魔法は外されるし、儀式魔人による付与はなくなるのでかなり嫌いである。
「カオス・MAXで、セットされているハングリーバーガーに攻撃!」
「墓地から『ネクロ・ガードナー』を除外する!」
まだ、止められる。
「僕はカードをセットしてターンエンド。硬いな。恵遊。だが、その程度では、僕には届かないよ」
「分かってるはずなんだけどなぁ……」
「フフフ。まあいい。その通帳に何を見たのか、見せてもらおう」
恵遊は苦い顔をした。
いろいろな意味で、この父親にはばれているようだ。
「俺のターン。ドロー。そしてスタンバイフェイズ。『予見通帳』の効果で、除外していた三枚を手札に加える」
手札に加えたカードを見て、恵遊は、何を言えばいいのか、一瞬だけわからなくなった。
が、すぐに見せることにする。
「俺は、セットされているハングリーバーガーとアルトリウスをリリース。現れろ。『青眼の白龍』!」
青眼の白龍 ATK3000 ☆8
「……いれていたのか」
「もちろん」
恵遊は、自分のフィールドに出現したブルーアイズを見る。
(……後姿を見るのは、久しぶりだな)
本当に久しぶりだ。
【カオス・ソルジャー】を使っていた時、『カオス・フォーム』に対応するのでいれていたくらいで、あまりフィールドにも出していなかった。
攻撃力3000というのは低い数値ではないが、あまり頼もしい印象がなかったのは、当時の恵遊が弱かったからだろう。
だが、恵遊が成長したからなのか、青眼の白龍が自分を認めたからなのか、今では頼もしく感じる。
「バトルフェイズ。青眼の白龍で、カオス・MAXを攻撃。その攻撃宣言時、手札の『オネスト』の効果を発動!」
「オネストだと!?」
恵遊のデッキのエースを考えると、あまり投入は考えられない。
だが、入っているのだ。
青眼の白龍 ATK3000→7000
「やれ!ブルーアイズ!オネスティ・バースト・ストリーム!」
自らの翼に加えて、オネストの翼を出現させたブルーアイズが、必殺のブレスを放つ。
「罠カード『ガード・ブロック』を発動。ダメージを0にして一枚ドローだ」
「だが、カオス・MAXは破壊される!」
ダメージは通らない。
だが、攻撃力7000の青眼の白竜の攻撃を受けたカオス・MAXは破壊され、爆散した。
「父さんは、ガード・ブロックでドローしたカードしか持っていない。あと一歩で――」
「ほう……」
爆散したカオス・MAX。
だが、その奥に、影が差した。
「え……」
何かいる。
「無窮の時」
静かに、豪真の声が響く。
「その始原に秘められし白い力よ」
爆発した痕。その煙が晴れていく。
「鳴り交わす魂の響きに震う羽を広げ」
輪を象徴する、羽が広がっていく。
「蒼の深淵より出でよ!」
煙は晴れた。
「『ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン』!」
ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK0→4000 ☆10
カオス・MAXの力を引き継ぎ、降臨する。
「ば、バカな。ディープアイズだって!?」
今も恵遊の頭の中に残っている、小さなころの恵遊の記憶。
ブープにとらわれる前の、本来の豪真の姿。
その中にいる豪真は、一度も使っていない。
「僕も、このカードを入れようと思ったのは、解放されてからだ。効果発動。墓地のドラゴンの、怒りを受けてもらう!」
墓地のドラゴンは五体。
「くらうか!手札の『クリアクリボー』の効果を発動。効果ダメージを無効にする!」
「なるほど。それで、どうする?ADチェンジャーは墓地にいないようだが」
「……『戦線復活の代償』を使って、青眼の白龍を墓地に送り、墓地の『ハングリーバーガー』を特殊召喚だ」
ハングリーバーガー DFE1850 ☆6
「なるほど、さすがの僕も、次にドローする一枚だけで、カオス・MAXまでは出せないと踏んだわけか。『戦線復活の代償』は僕のモンスターも特殊召喚できるが、出せるのは青眼の白龍と青き眼の乙女だけ。ディープアイズに対して考えると、ほとんどのモンスターの守備力では意味が無い。そんな中でハングリーバーガーを選んだのは……安心感かな?」
「……その通りだ」
「まあいい。僕のターンだ。ドロー」
豪真は、引いたカードをすぐに発動する。
「『強欲で貪欲な壺』を発動。十枚除外して二枚ドロー。引いたのは『サイクロン』だ。『戦線復活の代償』を破壊しよう」
それと同時に、ハングリーバーガーも消えて言った。
だが……。
「何!?」
ハングリーバーガーがいなくなると同時にあふれた『精霊力』が、恵遊のデッキトップに注がれる。
「……なるほど。墓地にクリアクリボーがいる。可能性があるということか」
「そうだ。まだ、俺は諦めていない」
「結構なことだ。『一騎加勢』を発動して、バトルフェイズ。ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンで、ダイレクトアタック!」
ディープアイズ・ホワイト・ドラゴン ATK4000→5500
ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンが、輪の中にエネルギーを集中させていく。
「俺は墓地の『クリアクリボー』の効果発動!墓地のこのカードを除外して、自分はデッキから1枚ドローする。そのドローしたカードがモンスターだった場合、そのモンスターを特殊召喚することが出来る。その後、攻撃対象をそのモンスターに移し替える」
「カオス・MAXがいれば、確実に使っていないだろうね。だが、ディープアイズが相手なら、まだ可能性がある」
守備表示に対して倍の貫通ダメージを与えるカオス・MAXなら、使えない。
恵遊のデッキに、それをどうにかできるカードはない。
だが、ディープアイズなら……。
「いくぞ」
デッキトップのカードに指をかける。
「ド――」
「一体何をしているのですか?」
「「え?」」
恵遊の手が止まった。
そして、病室の出入り口を見る。
そこには、満面の笑顔で怒りの眼をした(この時点でいろいろと日本語がおかしいがそうとしか表現できない)美咲が立っていた。
ど、どうしよう。
恵遊は豪真を見る。
豪真は冷や汗をかいていた。
恵遊はディープアイズを見る。
ものすごく怖くなったのだろうか。輪っかに集中させていたエネルギーが沈黙している。
「あの。美咲?」
「使用人の皆さんからお聞きしました。ずっと、憑りつかれていたみたいですね」
「あ、ああ。そうなんだよ」
「お兄様も、それを知っていましたよね」
「あ。うん。実はそうなんだけどさ……」
「私にはずっと秘密だったのですね」
「あ。ああ。これには理由があってね。解決した後にしっかりと話そうと思って――」
次の瞬間、圧倒的な精霊力がオーラとなって美咲の体からあふれ出る。
「「ヒィッ!」」
揃って悲鳴を上げる親子。
「……」
美咲は無言で一枚のカードをデュエルディスクに乗せる。
【※脳内再生でいいので、『神の怒り』をお願いします】
病室が震え始める。
「え、え!?一体何が起こってるんだ!?」
「ちょっと、美咲。これは明らかに危ないやつだと僕は思うんだけど!?」
震えていると、『ビキッ!』という音が聞こえて、病室の床が割れ始める。
「「ちょっと待って!ヤバいって!!」」
親子が混乱している内に、床だけではなく壁、そして天井まで割れ始める。
「なあ、父さん。ヤバくね?」
「そりゃやばいだろう。ディープアイズだって震えあがってるし」
会話しているが、ぶっちゃけそんな余裕はない。
美咲の背後の床に、何か黒いモヤ画集減したと思ったら、マグマのようなものが爆裂する。
そして……。
「「イヤアアアアアアアアアアア!!オベリスクウウウウウウウウ!」」
当然、壁や天井を砕き、すごいド低音の唸り声のようなものを出しながら、オベリスクの巨神兵が出現する。
「いやあれはヤバいって!しかも『真祖』じゃん!!」
「美咲。わかった。父さんたちが悪かったから!……ん?」
いつの間にか、美咲のデュエルディスクには『ドラゴノイド・ジェネレーター』が出現しており、たった今、トークンが二体とも悲鳴を上げながらオベリスクの右手にエネルギーを吸収されていった。
((あ。これ。ぶっ殺す気満々だ))
「……父さん。どうする?」
「恵遊。まだあきらめてはダメだ。これは本来のデュエルではない。あくまでも精霊力のぶつけあいだ。恵遊もモンスターを早く出すんだ!」
「よし!」
恵遊はデッキで刃なく墓地に振れる。
デッキトップは非常に気になるが、こんな時に限ってデッキトップにかけることはしない。
恵遊の前にハングリーバーガーが出現する。
出現したハングリーバーガーは『よっし!俺、参しょ……おい!なんてタイミングで呼び出してんだ!殺す気かおい!!』と言った様子ですごく慌てている。
「オベリスク。やりなさい」
オベリスクはどこか恐れたような雰囲気で、拳を振るう。
ハングリーバーガーが最大エネルギーを円盤の肉に集中させて、ディープアイズが背中にある輪っかにエネルギーをフルチャージする。
そして、円盤の肉と、レーザーが放出された。
……片方の攻撃方法がすごく妙な感じだが、一応、親子での共同作業である。ある意味。
だが。
「無駄です」
真祖のオベリスクにはそんなものは通用しない。
振るわれた拳は、まるで障害物ですらなかったかのように、二体のモンスターを粉砕する。
「うわああ!だが、ディープアイズの効果を知らないわけじゃないだろう!」
ディープアイズが最後に一矢報いようと、第三の効果、相手の効果で破壊された時に発動する破壊効果を発動する。
先ほどよりも大きなレーザーがオベリスクに向かう。
「僕のディープアイズの最強攻撃だ。これで破壊出来ないモンスターが存在するわけが……」
「何を言っているんですか?」
美咲はきょとんと首をかしげる。
かわいいと思うだろう。普段なら。
「モンスターではありませんよ……神です!」
ディープアイズの砲撃すら、全く効かない。
「あと、兄さん。父さん。しっていますか?これは効果であって、攻撃ではないんですよ?」
「「え?」」
「メインフェイズが終われば、何があるかわかっていますよね」
親子の頬に汗が流れる。
「オベリスク。ヤレ」
すごく低い声とともに命令されるオベリスク。
そして、右腕を振り上げる。
「いや!ちょっと待て!」
「そうだぞオベリスク!君には神としてのプライドがないのか?」
プライド。
その言葉を聞いて、オベリスクは一瞬だけ反応。
拳が止まる。
親子は内心ガッツポーズ。
「オベリスク。ナニヲシテイルノデスカ?」
オベリスクが震えたのを親子は見逃さなかった。
振り上げられた拳は、まっすぐに恵遊たちのもとに炸裂する。
「く……こうなれば最後に一矢報いて見せる。父親として!」
すごくかっこ悪い宣言である。
豪真はカードをドローした。
祈るような目で見る。
『炸裂装甲』
「効かねーよ!」
次の瞬間、二人はゴッドハンド・インパクトに飲み込まれて行った。
壁まで飛んでいき、そして貫いて、二十五階から落ちていく。
「「落ちるううううううう!」」
二人の叫び声は聞こえなくなって行った。
「ふう、すっきりしました。あら、朱里、どうしたのですか?」
「あ、い、いえ、何でもありません」
全身を震わせながら美咲の方を見る朱里。
その目には、『逆らったら死ぬ!』という怯えの表情があった。
「さあ、いきますよ」
「あ、えっと、その……」
「イキマスヨ?」
「は、はい!」
慌ててついていく朱里。
この場において、彼女は神をも超える存在だった。
★
二十五階から落下していた恵遊と豪真だが、途中、『蒼眼の銀龍』が助けてくれた。
「……蒼眼の銀龍だね」
「母さんのドラゴンか。助かった」
あのままだったら、まあ、死んではいないが、確実にやばいことになっていた。
「娘とは言え、あまり怒らせるものではないね。昔から、仲間外れにされるのは嫌がっていたからなぁ」
「しかし、本当に危なかったな。蒼眼の銀龍も、もうちょっと早く来てくれるとうれしかったんだが」
恵遊の言い分に、蒼眼の銀龍は『無茶いうなよ』と言う顔をしていた。
当然である。
「それにしても、デュエル、決着は着かなかったね」
「ああ」
あそこまでめちゃくちゃになったが、デュエルとしては、今もカードがしっかりデュエルディスクに残っている。
ディープアイズ・ホワイト・ドラゴンは、しっかりと豪真のデュエルディスクに存在するのだ。
「どうする?」
恵遊は自分のデッキトップを見る。
ここには、あのデュエルの結末が記されている。
「……いや、今はいいよ」
シャッフル機能を作動させた。
それと同時に、デュエルが中断されて、お互いのカードが全てデッキに戻って行く。
「まあ、恵遊がそう言うのならそれでいい」
いつの間にか地面についていたので、二人とも降りた。
蒼眼の銀龍が消えて行く。
「強くなったね。恵遊」
「いや……なんか、まだまだなんだなって思ったよ」
恵遊は豪真に背を向ける。
「フフ。何時でも相手になろう」
「……ああ」
「それと、一番重要なことだから聞いておくが、神代恵遊に戻るつもりはないのかい?」
「今はないな。青芝恵遊としてでしか、かなえられない約束が残ってる」
「……いいだろう。それまで待つとしよう」
「ああ。だから、俺はもう行くよ」
「うん――いや、ちょっと待って、美咲を説得するの手伝ってほしいんだけど……」
空気が凍った。
そして、恵遊は全速力で逃げだす。
「待って!待ってくれ!」
豪真が恵遊を羽交い絞めにする。
「嫌だ!俺は今の美咲とは会いたくない!ほとぼり冷めるまであってたまるか!」
「そんなこと言わずに助けてくれ!というか、このままだと朱里ちゃんが死んじゃうって!」
「一人で行けよ!」
「無理だよ!あれは僕たちを殺す目だったよ!」
「大丈夫だって!美咲はああ見えて一撃を入れたらすっきりするタイプだからもう戻ってるって!」
「だったら一緒に会ってくれよ!頼むから!」
「嫌だ!無理!」
情けない男たちの勝負は、まだ終わらない。