ブープから解き放たれ、本来の性格に戻った豪真。
その姿がネット上に乗ると同時に『そのビフォーアフターはおかしいだろ!』と言われつつも、豪真の性格がもとに戻ったことは受け入れられた。
というより、神代家を支えた恵遊の母が、もともと神代家と密接にかかわっていた重鎮たちを連れて帰ってきたことで、正常な形に戻ったといえる。
当然、今までのように無茶を言うことはなくなった。
それにより、デュエルスクール・ボーダーでは、今まで神代家に抑えられていた『青芝恵遊をエキセントリック・テンスにする』という議題が浮上してくる。
エキセントリック・テンスは、一位は決まっているが、ほかの順位は決まっていない。
その一位の生徒を倒した恵遊は当然、エキセントリック・テンスになるのが当然の実力といえる。
ボーダーでは、実力のある生徒がエキセントリック・テンスになるのは『義務』である。
そういった評価に興味がなさそうなものが二名ほど(猪八重銀二と神楽真司)いるが、所属しているのは自薦ではなく義務だからだ。ちなみに、真司は知っていたが銀二は知らなかったらしい。周りの情報を集めなくとも人は生きていけるのだということを示してくれる男だ。
ただ、エキセントリック・テンスは学校が与える称号である。
数々のサービスをどうするのかは周辺企業が決めることだが、この称号というのは適当につけることは当然できない。
その前提で考えると、今回のような『まぎれもない実力を示している恵遊』が議題に上がるのはわかりやすい。
そして、学校側はいつも、もう一つの生徒を特定している。
それは、もしもこれからエキセントリック・テンスに選ばれるような実力者が現れた場合、エキセントリック・テンスから外れる生徒である。
★
「恵遊君がエキセントリック・テンスになるのはほぼ確定みたいだけど、外れる人が誰なのかって言われてるね」
「実際、誰なんだ?」
「戦績的に言えば、高等部三年にいる人と、あと、プライバシーブレイカーかな。ほぼ同じなんだよね」
恵遊は凜子と話していた。
話しているのは、エキセントリック・テンスについての内容である。
というより、学校中がその話題になっている。
新しくエキセントリック・テンスになるというのは、そのほとんどが卒業式あたりから入学式にかけてのことだ。
デュエリストとして見逃せないのは当然として、いろいろな企業から意見が来るらしい。
エキセントリック・テンスから外れるということは、それまでかかわっていた周辺企業との関係が危ぶまれるのだ。
エキセントリック・テンスだった。ということは確かにすばらしいことだが、それは要するに、学校側が認めていないということでもある。
そんな生徒に周辺企業が金を出すのかということなのだ。
一部、ゼルダの伝説を購入するためにその資金を使っているバカとか、双眼鏡と高性能カメラのために金を使っている変態がいるのだが。そこは誰かが妥協するべきだろう。
「あ、このステージで決めるらしいよ」
凜子が指差す先には、周辺企業ではなく学校が管理しているデュエルコートがあった。
すでに観客席は満席である。
「すごいね……」
「それだけ気になるってことなんだろうな……」
見渡す限りの人の数だ。
放課後になると同時にまっすぐここに来た生徒がほとんどだろう。
「あ。出てきたよ」
一つの入り口から出てきたのは、全身をすっぽり覆うフードマントをかぶった生徒だ。
腕章をつけているのが目印らしい。
「……フードマントを深くかぶっててわからないな」
「正体不明っていうのが肝だからね」
本来の身長よりも高くしているのだろうか。靴音が変な感じだ。
底が高いブーツを履いているような音がする。
フードマントもぶかぶかで、体格が分かりにくい。
おそらく、男子とも女子ともとれる平均を狙っているのだ。
あれではわからない。
「そういえば、プライバシーブレイカーって戦績が悪いのか?」
「戦績はいいけど、それは勝率の話であって、勝利数じゃないみたいだね」
「情報収集に時間をかけてるってことか」
「だと思う」
そこまで話した時、反対側から男子生徒が出てきた。
小太りの生徒だ。
エキセントリック・テンスになると資金は使いたい放題なので、太るのもわかるのだが……。
「
「要するにギリギリってことか」
「そうなるね」
二人がデュエルディスクを構えている。
「プライバシーブレイカー。すまないが、今日は勝たせてもらうぞ。僕はまだ。この立場を手放したくないからな」
「……」
プライバシーブレイカーはしゃべらない。
あわてて、焦っている様子の樹と比べて、落ち着いている。
「話さないんだな。プライバシーブレイカーって」
「むやみに情報を与えないためじゃないかな。たぶんそんな感じだと思うよ」
ちらっと審判席を見ると、学園長が立ち上がったところだった。
「それではこれより、デュエルを開始する」
それを聞いて、二人がカードを五枚引いた。
恵遊の目には、プライバシーブレイカーの全身が、一瞬だけ震えたような気がした。
樹のほうも手札が悪いわけではないようだ。
「デュエル開始!」
「「デュエル!」」
樹 LP4000
プライバシーブレイカーのほうから聞こえてきた声は、何か、変成器を使った女性のような声だった。
まあ、そもそも中のほうは性別すら違う可能性があるのでわからないのだが。
ランプがついているのはプライバシーブレイカーのほうだ。
「……私の先攻。カードを三枚セット、ターンエンド」
セットしただけでターンを終了。
何か狙っているのか?
「僕のターンだ。ドロー!」
樹は元気よくカードをドローする。
そして次に動いたのは、樹ではなかった。
「ドローフェイズ終了時、『強欲な贈り物』を発動。相手はデッキから、カードを二枚ドローする」
この瞬間、会場が震えた。
エキセントリック・テンスでいられるかどうかという重要な一戦。
その戦いで、相手にメリットを与えるカードを使う理由がわからない。
「ば、バカにしているのか?だが、慈悲は与えんぞ!」
樹はカードを二枚ドローした。
そして、
ほぼデッキの四分の一が手札に加わった。
デッキはわからないが、キーカードがそろってないはずがない。
「……スタンバイフェイズ、『大暴落』を発動」
空気が凍った。
「だ……大暴落だと?」
「効果を知らないのなら、教える。相手の手札が八枚以上あるとき、そのすべてをデッキに戻して、シャッフル。二枚引いてもらう」
後攻になったばかりで、手札が二枚になる。
絶望的どころの話ではない。
「ぐ……」
樹は八枚のカードをデッキに戻す。
シャッフルされて、祈るようにしてカードを二枚ドローした。
「よし、まだ可能性が……」
「……まだ終わってない。『緊急儀式術』を発動。手札の『リチュアの写魂鏡』を除外。ライフを3000支払って、『イビリチュア・ガストクラーケ』を儀式召喚」
PB LP4000→1000
イビリチュア・ガストクラーケ ATK2400 ☆6
「が、ガストクラーケだと?」
「効果により、相手の手札を二枚確認。一枚を、デッキに戻してもらう」
「そ……そんな馬鹿な」
プライバシーブレイカーのそばに、二枚のカードが表示される。
「ドローカードは、『神の宣告』と『強欲で貪欲な壺』……『強欲で貪欲な壺』をデッキに戻してもらう」
「ぐ……ぬうう」
樹はデッキに戻した。
「まだ、あなたのターン」
「ぼ、僕はカードをセットして、ターンエンドだ。まだだ、まだ可能性はある。貴様が攻撃力1600以上のモンスターを出さなければ、まだ次のターンがある。貴様の手札はゼロ。伏せカードもないのだからな!」
言っていることは事実だ。
「……私のターン。ドロー。『巨大化』を発動する」
イビリチュア・ガストクラーケ ATK2400→4800
「は……ははは……」
乾いた笑い声を出し始める。
伏せられている『神の宣告』は、使ったところで意味などない。
使ったら、ガストクラーケの攻撃力、2400を下回るライフになってしまうのだ。
「バトルフェイズ。ガストクラーケでダイレクトアタック」
「う、うわああああああああ!」
樹 LP4000→0
デュエル終了。
勝利したのは、プライバシーブレイカーだ。
「……恵遊君」
「案外、何もできずに負ける時っていうのはある。ピーピングハンデスのギミックがデッキにあると分かった時点で、その可能性を考えるべきだ。ただ……神の宣告でなければ、まだ可能性があったかもしれないがな。ただ、今回は、プライバシーブレイカーの運が強すぎた。それだけのことだろ」
恵遊は何も言わずに歩き出した。
★
恵遊は学校の敷地を出ると、ハンバーガーショップに向かっていた。
プライバシーブレイカーのデュエルはそれなりに気になるものではあったが、彼の頭の中にあるのは常にハンバーガーのことだけだ。
販売時間的に問題がないのであれば多少他のことにも気が向くのだが、新商品が発売されるとかそういう話になると恵遊の頭の中はすぐにハンバーガー一色になる。
「さてと、新商品も手に入れたぞ」
満面の笑みを浮かべて幸せそうな表情で店を後にする恵遊。
先ほどまでのデュエルなど頭に残っていないかのようだ。
「新商品を手に入れたことがそこまでうれしいのかい?」
恵遊がテーブルに座った時、横から話しかけてくる奴がいた。
恵遊は振り向いた。
そこにいたのは、真っ白な制服を着た男子生徒だ。
流れるような銀髪のを伸ばしており、なんというか『うさん臭さ』を感じる。
「……
「ああ。久しぶりだね。恵遊」
恵遊の小学校のころの同級生で、恵遊にとっては、もっとも黒星が多い相手だ。
「その白い制服。エクソダスか」
「ああ。恵遊の紺色のブレザーは、ボーダーのものだろう」
「知っていてここに来たくせに」
「当然だ」
界人は反対側の席に座る。
「聞いたよ。君の父親を取り戻したようだね」
「ああ」
「それは何より」
「ンなことはいいだろ。お前はそんなことを言いに来るような奴じゃない」
「ふむ……確かにそうだね」
界人は微笑む。
「君はエキセントリック・テンスになるのかい?」
「なるだろうな」
「となると、学園対抗戦に出場することになるだろう」
「対校戦?」
「まだ聞かされていないのか……ボーダーとエクソダスは、毎年、それぞれ十人の代表を出しあってデュエルをするんだよ」
「へぇ……確かに対抗戦だな」
そのような祭りがあるのか。
「今までの戦績はどうだったんだ?」
「いたちごっこ。と言ったところだね。確かに君の妹は強かったが、他のデュエリストがね……」
「ああ。なるほどな」
なるほど、確かにいたちごっこである。
「まあ、私も参加していなかったからね。君が参加するというのなら、私も出る意味があるというものだ」
「今まで出てなかったのか?」
「ああ。私も、少しやる気が出なかったからね」
気分でいろいろと決めるのは相変わらずか。
「対校戦か……出る時は、お前を相手にすることを考える必要があるってことか」
「その通り」
恵遊はあからさまに嫌そうな顔をした。
「ここで一戦してもかまわないが……」
「いや、楽しみは後に取っておくさ……で、
あと二人の同級生を思いだして、恵遊はそう言った。
界人は頷く。
「ならいいさ。あと、裏でこそこそ嗅ぎ回っている奴がいるかもしれない。覚えて置けよ」
「もちろんだ。ところで、君はプライバシーブレイカーについてどう思う?」
「……今、その話題を出すのか?」
「先ほど行われたデュエルことは私も聞いたからな。なかなか刺激的だったそうじゃないか」
「……俺は別にどうも思わないさ。ただ、頼むから喧嘩なんて吹っかけるなよ。あの程度のデュエリストだったら、お前が本気なんて出したら本当につぶれちまうからな」
「私は別に見境がないわけではないよ」
界人は微笑んだ。
「対校戦。楽しみにしている」
界人は立ち上がると、フードコートから去っていった。
残された恵遊は呟く。
「……父さんの問題は一先ず片付いたが……今度は対校戦か」
荒れそうだ。と恵遊は感じた。