「……あれ?」
恵遊は起きて驚いた。
学生寮の自分の部屋。
それだけならば何も問題はない。
しかし、あの時恵遊は、デュエルをしていたはずだ。
その結末がわからない。
「……誰かが俺を運んだのか?少なくとも、自分の足で帰ってきたわけではないみたいだな」
周りを見て確信する恵遊。
そしてそれに気が付いた理由だが……。
「ハンバーガー。買いに行くか」
そう、ハンバーガーを調達せずに部屋に帰ってくるわけがないのだ。
そのため、部屋にハンバーガーがないことを察した時点で、恵遊はそれに気が付くのだ。
末期症状なのだ。これが恵遊の正常である。
★
「辻デュエルも件数はかなり減ったね」
「みたいだな」
放課後。ハンバーガーを食べながら茜と話す恵遊。
確かに、茜の言うとおりだろう。特に何か起こっている様子はなかったし、学校にも欠席者はいなくなった。
辻デュエルに関しては収まったのは間違いない。
「そういえば、首謀者はまだ見つかっていないみたいだよ」
「そうなのか?」
恵遊はうっすらの脳裏をよぎるサーガの姿を思い浮かべるが、しっかり思い出せない。
「恵遊君は何か知ってる?」
「いや、俺もよくわからん」
いずれにせよ確定したことではない。
それに、またあいつとは戦うことになるだろう。
その時にどうにかすればいい。
(どうやって勝ったのかわからない。いや……俺は勝てるのか?)
恵遊はあのデュエルで、負けていたことしかわからない。
最後に引けたカードがなんだったのかわからない。
伏せカードまで用意していたサーガを突破できたのか、わからない。
わからないのだ。
「……恵遊君?」
「え?」
「ボーっとしてたよ。ハンバーガー食べながら」
「あ。そうか。悪いな」
「私思ったんだけどさ」
「なんだ?」
「なんでボーっとしているときもハンバーガー食べれるの?」
「本能だ」
「………………………………………」
「………………………………………」
「そうなんだ」
「ああ」
すごく長い沈黙があったが、とりあえずそれは二人ともおいておくことにした。
「ん?」
着信音が聞こえる。
恵遊のスマホからだ。
「ちょっとすまん」
「あ、うん。いいけど」
恵遊はスマホを耳に当てる。
「はいもしもし」
『私だ』
「なんだ界人か」
『なんだとはなんだ。まあいいとしよう。私は今気分がいい』
「……それだけで俺に何かを察しろというのか?」
『いや、それだけが言いたかっただけだ。それではまた』
通話終了。
「どうだったの?」
「界人からだったんだが……さっぱりわからん」
不思議な奴だったが、ついに薬でもキめたのだろうか。
首をかしげる恵遊だった。
★
「ふむ、なかなか爽快な眺めだ」
「界人様。さすがにこの数のデュエリストはまずいと思いますが……」
デュエルスクール・エクソダス。
ボーダー以上に名家出身のものが少なく、それでいて実力主義の校風が強くなっている。
ちなみに、割合で『エリア』と選定し、数字的な序列を設定していないボーダーだが、エクソダスではすべての生徒が序列としての数字を持っている。
さらに言えば、どこか校舎も重い雰囲気を感じさせるものだ。
それもそのはず、エクソダスは、『監獄』を改造してデュエルスクールにした経緯がある。
正門の前に立つ彼ら二人の前には、何百人といえるほどのデュエリストがいた。
中には金属バットや角材といった、ヤが付きそうな者たちもいるのだが、まあそれはいいとしよう。
「おいおい、お前たち二人で俺らの相手をしようっていうのか?」
「ふむ……いや、私だけで君たちの相手をしよう」
一歩進み出て、界人はそういった。
チンピラたちはそれだけで眉間にしわを立てているが、界人は気にしていない。
「まあいいじゃねえか。なら、貴様からぶっ潰してやるよ!」
「いいだろう」
界人はデュエルディスクを構える。
すると、チンピラのデュエルディスクからアンカーが出てきた。
「界人様!」
後ろから女子生徒が叫ぶが、肝心の界人は気にしていないようだ。
「
界人のそばにいる女子生徒は
もともと白いエクソダスの制服を改造してなんとメイド服にしている女子生徒だ。
知的な印象があり、黒い髪を腰まで伸ばしている。
メイド服に包まれた体も女性らしさのあふれるもので、胸は大きい。まあ、大きすぎるということもないが。
ただし、腰は括れているし、尻も育った魅力がある。
「そ、それはそうですが」
「まったく、あの姉妹。私がいるからとこういった襲撃には自分の出番がないとばかりに余裕だからね。まあその通りなのだが」
界人はチンピラのほうを見る。
「さて、はじめようか」
「クックック。お前をぶっ潰して、横にいるその女で遊んでやるよ」
「やれるものならやってみるといい。まあ、序列一位である私を倒すことができれば、序列最下位である彼女を抑えることは呼吸するより簡単だろうね。まあそれはいいとして……」
からからとわらって、目を閉じる界人。
そして、瞳を開く。
「処刑開始だ」
「――!」
誰が見てもわかるほど『ビビった』チンピラの男。
「どうしたんだい?まさか、私が少しやる気になった程度で戦意喪失とか、そういったつまらないことは勘弁してくれよ?」
「うるせえ!ぶっ潰してやる!」
「「デュエル!」」
界人 LP4000
E1 LP4000
「む?なんだこの表記は」
「クックック。お前言ったよな。お前ひとりで俺たち全員と相手するってよ」
「確かに言ったね……ああ。要するに、Eというのは『
「その通りだ!俺が倒されたとしても、ターンが終了する前に二人目が出てくるぜ。あと、サレンダーは不可だ」
「なるほど、一人を倒したとしてもデュエルそのものが終了するわけではない。さらに言えば、これほどの人数が相手だと、もし倒し続けることができたとしても、デッキのほうが持たない。ということか」
「そういうことだ!まあもともと、俺たち全員を倒すなんてことは不可能だけどな」
※言い換えるなら5Dsの『WRGP』のような引継ぎルールです。
「界人様……」
不安そうな三春。
だが、界人は特に気にした様子はない。
「ふむ、私のデュエルディスクにランプがついているところを見ると、私が先攻のようだね」
「クックック……要するに、てめえは次のターンからなぶり殺しにされるってことだ!」
「元気だねぇ……まあ、私の先攻でいいというのならはじめさせてもらおう」
界人が使うのは、一枚の魔法カード。
「私は『名推理』を使おう。さあ、レベルを宣言するといい」
「なら、俺は4を宣言するぜ」
「なるほど、僕のデッキを知らないわけだ。僕は『ライトロード・ビースト ウォルフ』二体を
アルカナフォースXXI-THE WORLD ATK3100 ☆8
ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100 ☆4
ライトロード・ビースト ウォルフ ATK2100 ☆4
「な、なんだと……」
「WORLDの効果により、コイントスを行う。が、当然正位置だ」
WORLDのカードが界人の頭上に出現するとともに回転し始めるが、表で止まった。
「ま……まさか……」
「何人で挑んで来ようと、一人ずつ来るというのなら問題などない。私は『ドラゴノイド・ジェネレーター』を発動しよう。トークン二体を特殊召喚する」
界人 LP4000→3000
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
「さて、私はカードを一枚セットしてターンエンドだが、君のフィールドにトークンを二体特殊召喚して、私のフィールドのトークン二体をリリースすることで、君のターンをスキップする」
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
「ば、馬鹿な……」
「ふむ、ここまで何もしないということは、君は手札誘発を握っていないということか」
界人は納得したようにうなずく。
「そして私のターン。ドロー」
「なるほどな。俺はここで終わりか。だが、俺らの中には手札誘発カードをデッキに盛り込んでいる奴もいる。俺たちは、カードを引き継げる。いくらおまえでも……」
「永続罠『メンタルドレイン』を発動しよう」
界人 LP3000→2000
チンピラから表情が消えた。
「うそ……だろ……」
「残念ながら、嘘ではない。ジェネレーターを使おうか」
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
「そして、ウォルフ二体で君のフィールドに出しておいたトークンを攻撃し、さらに、WORLDでダイレクトアタック」
「う、うああああああああ!」
E1 LP4000→2200→400→0
トークンなどほぼ無視。
ウォルフに殴られ、そしてWORLDが放出した閃光で焼かれる。
そうして、彼は散って行った。
「さて、強制的にエンドフェイズになり、交代するという話だったね。次のデュエリストは出てくるといい」
すると、その次のデュエリストであろう男の上に矢印が出現する。
「ふむ、君になるのか」
「ふ、ふざけんな!こんなデュエルやってられるか!」
その男は背を向けて帰っていく。
「三春。連れてきなさい」
「はい」
三春が走っていく男を子ども扱いできる速度で走り抜けると、そのまま脇腹に一発手刀を叩き込んで、抱えて界人の前に運んでいく。
「さて、次は君か。なら、再度デュエルになるね」
界人 LP2000
E2 LP4000
「い、いやだ……た、助けてくれ!」
「いやだね。それと、私は最初に言ったはずだよ。『処刑開始』とね。それと彼が言っていたじゃないか。サレンダーは不可だと。当然、途中棄権だって私は認めないよ」
「ぐ……だが、貴様のデッキが持つはずが……」
「まあ、それに関しては置いておこう。この瞬間にエンドフェイズになるとのことだったね。君のフィールドにトークンを二体特殊召喚だ。そして、WORLDの効果で私はトークン二体をリリースして、君のターンをスキップする」
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
「ぐ……」
界人は微笑む。
「フフ。せめてデュエリストなら、手札のカードとしてカードを五枚引くくらいはしてもいいだろうね。まあ、そうしたところで結果は変わらないが、せめて引いておくといい」
男がデッキのカードを五枚引く。
「とはいえ、手札誘発はすべて発動不可であり、さらに言えば、君のターンが回ってくることはないのだがね」
「ぐ……クソオオオオオオオ!」
「私のターンだ。ドロー。トークンを特殊召喚。さあ、行くんだ」
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
ドラゴノイドトークン ATK300 ☆1
界人の命令を受けて、ウォルフたちとWORLDが動きだす。
E2 LP4000→2200→400→0
「さて、二人目がもう終わってしまった。次のデュエリストは出てくるといい」
その宣言に、三人目のデュエリストが選出される。
「次は君か。ああ、ちなみに言っておくと、私のデッキがなくなることはないよ。『貪欲な瓶』を三枚入れているし、他にもデッキ枚数を回復できるカードは入っているからね」
その宣言に、デュエリストたちが絶望する。
「さて、処刑を続けようか」
デュエルスクール・エクソダス。
黄昏界人というデュエリストが作り出した処刑場。
その正門前から悲鳴が聞こえなくなるまで、長い時間がかかったそうだ。