遊戯王Fool ~バーガー中毒者の黙示録~   作:レルクス

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第二話

「フッフッフ。私の手にかかれば、合鍵を確保することなど容易いのだよ」

 

 黒い笑みを浮かべながら鍵をもって恵遊の部屋に向かう凛子。

 その瞳に宿るのは、獲物を見つけた肉食獣の欲望。

 その集中力や情熱を他のことに活かせなかったのだろうか。

 

 ※自分が使用しない合鍵は、所持、作っただけでは犯罪にはなりません。ただし、犯罪を計画していた場合は予備罪が適用されます。みんなも合鍵の管理はしっかりしましょう。

 

「いざ、獲物の待つ場所へ!」

 

 鍵を差し込む。

 

 ガチャリ。と音を立てて開いた。

 

 それと同時に、凛子はニヤッと笑った。

 ドアを開ける。

 

「何をしているんだ?聖野(ひじりの)

 

 はて?一体誰の声だ?

 恵遊の声ではない。おっさんの声が聞こえるぞ?

 凛子は首をかしげながら顔を上げる。

 そこには……黒い髪をスポーツ刈りにして、赤いジャージを着た『生活指導の先生』が立っていた。

 

「ゲゲッ!?なんで先生が!?」

「青芝から『フロントに預けていたはずの合鍵がなくなっているので、多分バカが部屋に入って来るだろうから現行犯逮捕してほしい』という要請があった。先生は丁度暇だったからな。安心しろ。部屋を間違えたわけではない」

「ちょっ、恵遊君は!?」

「ハンバーガーを買いに行った。どうやら新作が出たようで、今頃は電車に乗っているだろう」

 

 恵遊らしいと言えばいいのか、凛子がバカだと言えばいいのか……いずれにしてもいろいろな意味でガタガタである。

 

「というわけで、現行犯逮捕だ」

 

 先生は凛子の手を掴むと、ズンズンと『生徒指導室』に向かって歩いていく。

 

「ちょ、待って!いやあああああああ!」

 

 失敗。

 

 ★

 

「恵遊君。ひどいよ!」

「自業自得だろ」

 

 恵遊が優位かつもっともな言い分だが、それを凛子が認めるかどうかとなると少々別の話である。

 それと、男の部屋に本人の同意なしに突入しようとして生徒指導室に連れていかれた割に拘束時間が短いと恵遊は思ったのだが、まあ、それは考えても仕方がないので置いておくことにしよう。

 

 ……生徒指導の先生の『まるで暴竜のブレスを受けたかのような』チリチリの頭を見たからではない。決して。

 

「茜ちゃんもそう思うよね!」

「……それに同意するのは無理があるよ」

 

 ごもっとも。

 

「むうう……それにしても、私は客観的に見てもかわいいはずなのに、まさかハンバーガーに負けるなんて……」

「まあ、そんなもんだ」

 

 チーズバーガーをもしゃもしゃと食べながら恵遊はぶっきらぼうに言う。

 

「ていうか、昨日俺、君にデュエルで勝ったよな」

「それはそれ。これはこれ。だよ!」

 

 デュエリストとしてあるまじき台詞(セリフ)である。

 

「そもそもの話。俺、凛子にあったことなんてあるか?」

「あ、私も気になってた」

 

 あった記憶が全くないのだ。

 

「私があった時はフードで顔を隠していたからね。覚えていないのも無理はないよ」

「……ますます記憶にないな」

「それもそれで珍しい気がする」

 

 まあいい。言いたくないのならそれで。

 

「それにしても、何でそこまでハンバーガーが好きなの?」

 

 もしゃもしゃと食べ続ける恵遊に向かって、凛子は呟く。

 ゴクンと飲み込むと、恵遊は言う。

 

「……一目ぼれと言うか、出会いと言うか、そんな感じだ」

「何かいろんな意味でハンバーガーに負けた気がする!」

 

 叫ぶ凛子に対して、『知らんな』と言わんばかりに新しいハンバーガーをとりだす恵遊。

 人の話を聞いていないというより、明確な順位が本人の中で決まっているような感じだった。

 

「……ところで、新作を買いに行ったって聞いたけど、何だったの?」

「『ゴーヤモズクバーガー』というものだった」

「絶対に地雷だよ!」

「ああ。思いっきり踏み抜いた気分だ」

 

 若干遠い目になる恵遊。

 今でも思いだせる。ていうか今朝に食べたばかりなのだから当然といえば当然だが。

 

 驚愕に染まった店員の顔。

 

 店内に漂うチャレンジャーに対する好奇心に満ちた視線。

 

 明らかに異様なオーラ漂うジャンクフードにかぶりつく変人。

 

 そしてむせ返る姿を見た観客たちの同情の視線。

 

 全てが『そんな体を体を張らなくても……』という雰囲気を構成するには十分なものを持っており、恵遊は自分が哀れだと思ったものだ。

 ついでに言うと、恵遊はゴーヤもモズクもどちらかと言うと嫌いな方である。

 何故挑戦しようと思ったのかは、それがハンバーガーであったからに他ならない。

 390円をはらって手に入れた感想は『地獄だった』である。

 

「……まあ、その話は置いておくとして」

「そうだね。私もおいておいた方がいいような気がしたよ」

「同感」

 

 話題を変更しよう。

 

「そう言えば、この学校にはランキングみたいなものがあるんだよな」

 

 学校案内には記載されていなかったが、ランキングのようなものが存在するという話は聞いた。

 

「あるね。この学校。生徒数は中等部と高等部を合わせると1440人いるんだけど――」

 

 微妙な人数である。

 ちなみに、一クラス三十人で一学年八クラスあって、さらに、中等部と高等部を合わせて六学年あるので、結果的にそう言う数になる。

 

「上位十人に関しては『エキセントリック・テンス』って言われているんだ」

「……『常軌を逸した十人』と言う意味になると思うが……要するに、一位から十位までは決められているってことか」

「違うよ。一番の人は決められているけど、後はバラバラなんだよ。あ、でも、『序列零位』であることが決まっている人もいるね」

 

 特例で認められたものでもいるのだろうか。

 ただ、順位なので、そんなものを設ける必要はないはずだ。

 

「どういうことだ?零位って誰だ?」

「それは僕のことだよん」

「うおっ!」

 

 急に後ろから話しかけられてびっくりした。

 振り向くと、銀髪を切りそろえた飄々とした印象の男子生徒がいる。

 

「……お前は?」

「お、やっぱ僕のこと知らないかぁ。青芝恵遊君」

 

 こちらのことを知っているようだが、恵遊は見たのは初めてである。

 まあ、二日目でそんないろいろ知っているものではないし、第一、恵遊は順位に興味はない。

 売られているハンバーガーのみ、興味があるのだ。変人と言われるが。

 

「……あんた誰?」

「自己紹介が遅れた。僕は久我昇平(くがしょうへい)。学内ランキングの『序列零位』さ」

 

 ふむ、だからどういうことだ?

 

「あ、恵遊君。一応同級生だよ」

 

 凛子が補足してきた。

 

「一応って何さ。まあいいけどね」

 

 そういいながらカラカラと笑う昇平。

 だが、意味がよく分からん。

 

「どういうことなんだ?零位って」

 

 質問に答えたのは茜だ。

 

「簡単に言えば、『勝ったことも負けたこともない』ってことだ」

「……全部引き分けってことか?」

「そうだよん」

 

 若干いぶかしげな表情になっていることを自覚しながら、恵遊は昇平の顔を見る。

 

「もしかして、今いる序列一位から九位まで、全員を相手にしているのか?」

「一回ずつやらされたなぁ。だけどそれだけじゃないゾ。この学校で一番強いやつ、つまり序列一位と、この学校で一番弱い奴。つまり『ブロンズエリア』の一番下。どっちを相手にしたって、僕は引き分けなのさ」

 

 それって、ある意味で最強と言うことなのでは?

 それと……。

 

「……ブロンズエリアって何だ?」

「あ。そこから説明いる?」

「勝手にお前が話に入って来たんだろ……」

「そうだったな。この学校、半分から下が『ブロンズエリア』で、半分から四分の一までが『シルバーエリア』で、上位四分の一が『ゴールドエリア』で、上位一割が『プラチナエリア』で、上位十人が『マスターエリア』なのさ」

 

 生徒数がそこそこいるので、それなりに区分けできるということか。

 要するに、『エキセントリック・テンス』=『マスターエリア』なのだろう。

 

「ちなみに、そこにいる幸原茜はプラチナエリア。聖野凛子はもうちょっとでプラチナになれるゴールドエリアってわけなんだよね。青芝恵遊。君はどこかな?」

 

 試すような視線をこちらに向ける昇平。

 

「……俺が決めることじゃないだろ」

「確かに。順位なんていうのは所詮『手の内を明かした手段だけを見た結果』でしかないし」

 

 クックックと笑う昇平。

 それはそれとして、一つ気になることがある。

 

「で、昇平、お前、何をしに来たんだ?」

「一戦くらいやっておこっかな~って思ってきたんだよな。どうする?」

「……俺のメリットが皆無なんだが」

「マスターエリアのデュエリストを相手にできるんだゾ?」

「そう言うのは興味ないんだ」

「そうだったな。ハンバーガーにしか興味がないって噂だ」

「実質その通りだ」

「ひとつ聞いていい?」

「なんだ」

「なんでハンバーガーを頬張ったまま普通の声色で喋れるの?」

「ちょっとしたコツがあれば普通にできる」

 

 そう、別に食べることをやめていたわけではない。

 普通に今も食べ続けている。

 え、太らないのかって?太らない体質だ。

 

「面白いなお前」

「デュエルを全部引き分けにするような変人に言われたくはない」

 

 周りからは『五十歩百歩だろ』と言いたそうな視線を受けるが、二人はあえて気にしない。

 

「一回だけやろうぜ」

「やだ、面倒」

 

 一瞬でぶった切った恵遊。

 実際問題。この学校で実績を積むことを考えている訳ではない。

 昨日デュエルしたのは『なんかヤバそうな感じがしたから』であって、まあ、先ほどまでの凛子のようすから察するにあまり意味はなかったようだが、それはともかく、メリットのないデュエルはする性格ではない。

 

「いいじゃんいいじゃん。一回だけやろうぜ。それに、挑まれたデュエルを拒否してたら、チキン扱いされるゾ?」

「別にいいだろ。順位なんて『手の内を明かした手段だけを見た結果』でしかないんだ。なら、手の内を見せないことに意味があるのは当然のことだろ?意味もなくデュエルする意味がどこにある」

 

 上達思考がないという以前にめんどくさがり屋である。

 そして、ハンバーガーの方が価値がある。いろいろな意味で。

 

 ……ずいぶんと訳の分からん思考だが、恵遊にとってはそれが普通なのだ。末期症状である。

 

「まあ、君の言い分は分かった。じゃあ、デュエルしてくれたらこれを上げるよ」

「ん?」

 

 昇平が取り出したのは『ラスベガスバーガー』というものだ。

 別にラスベガスなど全く関係はないのだが、別に悪いネーミングではないのでそのまま流用されるハンバーガーである。

 ちなみに言うなら、既に恵遊が持っている袋の中に同じものがいくつかある。

 

 が……。

 

「いいだろう」

「「いいの!?」」

 

 ハンバーガーをくれるのならみんな友達だ。

 

 ……なんとも安いものだが。

 

 昇平はハンバーガーを恵遊に手渡しながら言う。

 

「そう言ってくれると思ってたゾ。さて、デュエルコートに行こうか。僕はマスターランクだから、電話一本でいつでも使えるんだよね」

「非公式だよな」

「非公式なのはエリア制度の方であって、『エキセントリック・テンス』の称号は別なのさ」

「なるほど」

 

 何故分けているのかと思ったが、そう言うことか。

 

 ★

 

 デュエルコートに移動した。

 

「恵遊君。勝てるの?」

「さあ……引き分けにするってことは、それ相応の専用デッキを組んでいるはずだからなぁ……ていうか、『する前から負けないことが分かっているデュエル』っていうのも妙な話だと思うんだが……」

 

 さて、どうなるのやら……。

 地獄耳でギャラリーの声を聞いてみよう。

 

『おい、今度は『天秤の使徒』かよ』

『アイツ人気だな……』

『今回のデュエルの背景は?』

『編入生が餌付けされた』

『だろうと思った。接点皆無だろ』

『話を戻すぞ。で、どうなると思う?』

『一度も勝ったことも負けたこともないんだ、どうなるかなんて想定できるかよ……』

『まあそれもそうなんだが……』

 

 うーん……何ともあやふやだ。

 

「さて、恵遊君。始めようか」

「そうだな。ハンバーガー一個分のプレイングはしてやろう」

「そういう基準なのか」

「もちろんだ」

「一応言っておく、『僕は誰も倒さない』が、『僕を誰も倒せない』んだ。さあ、楽しいデュエルにしようぜ」

 

 お互いにカードを五枚引いた。

 

「「デュエル!」」

 

 恵遊 LP4000

 昇平 LP4000

 

 デュエルディスクが決めた先攻は昇平。

 

「さて、うまいこと揃うまではいつも通りに行くか。ていうか毎回初手には来てくれないんだけどなぁ。まあいいか。モンスターとバックを一枚ずつセットして、ターンエンドだ」

「俺のターン。ドロー!」

 

 モンスターをセットしたか。

 リクルーターなのか、それともまた何か別のものなのか……。

 それにしても、昨日やった凛子とのデュエルとは違って、あまりにも遅い動い方である。

 

「俺は『おろかな埋葬』で『カードガンナー』を墓地に落として、『クレーンクレーン』を召喚!墓地のカードガンナーを、効果を無効にして特殊召喚する!」

 

 クレーンクレーン ATK300 ☆3

 カードガンナー  ATK400 ☆3

 

「クレーンクレーンを使って蘇生するのか……」

「フェイバリットがハングリーバーガーだとするなら、カードガンナーはキーカードだ」

 

 『禁止令』を使って『カードガンナー』と相手が言った瞬間にいろいろと止まるのだ。マジで本当に。

 

「効果は無効にされるが、発動は別だ。カードガンナーの効果を発動して、デッキからカードを三枚墓地に送る」

 

 ……儀式魔人が落ちない。

 

「まあいいか……『儀式の下準備』を発動して、デッキから『ハンバーガーのレシピ』と『ハングリーバーガー』を手札に加える」

「昨日もそれ初手になかったか?」

「ハングリーバーガーの愛で初手に来てくれるのさ。『ハンバーガーのレシピ』を使って、フィールドのクレーンクレーンとカードガンナーを材料にして、『ハングリーバーガー』を儀式召喚!」

 

 ハングリーバーガー ATK2000 ☆6

 

「やっぱり来たか。だが、儀式魔人を使っていないバーガーなんて、怖くもなんともないゾ?」

 

 確かに、昇平の言い分は間違っていない。

 ハングリーバーガーのような儀式モンスターは、効果がなかったとしても『通常モンスター』ではない。

 最初からエクストラデッキに投入されるモンスターもそうだが、効果がないだけで通常モンスターではないのだ。

 効果モンスターではないので『ダイガスタ・エメラル』で蘇生できるし、『絶対魔法禁止区域』で魔法カードの効果をシャットダウンできるが、通常モンスターの共通サポートを受けられるわけではない。

 

 ……まあ、レベル3が多くランク4を作りにくい恵遊のデッキに『ダイガスタ・エメラル』は入っていないし、『最強の盾』などを使って攻撃力を上げる恵遊のデッキに『絶対魔法禁止区域』は入っていないが。

 

「だが、今のハングリーバーガーはただのハングリーバーガーじゃない」

「どういうことだ?」

「よく見るんだ。俺のハングリーバーガーを!」

 

 そう言うと同時に、観客も含めて、全員がハングリーバーガーを見る。

 気が付いたのは凛子だ。

 

「あ……具材が鶏肉!」

「そう、チキンバーガーなのさ」

 

 ハングリーバーガーは変なところを気にするのだ。

 クレーンクレーンがしっかり調理されている。鶴が食卓に並ぶことは日本ではあまりないと思うが。

 というかそもそも、種族は鳥獣族だけどイラストから考えれば機械なのだが。

 

「カードガンナーは?」

「機械族なので食べられません」

「……で、それがどうした?」

「いや、別にたいしたことではない。が、せっかくモンスターが演出に貢献しているんだ。スルーされたらいやだろ」

「まあそれもそうだな」

 

 からからと笑う昇平。

 

「デュエル続行!バトルだ!ハングリーバーガーでセットモンスターを攻撃!」

 

 ハングリーバーガーがセットされている裏守備のカードに突撃する。

 

「残念だゾ。僕のモンスターは……」

 

 カードが表になる。

 それは……。

 

「『方界胤ヴィジャム』だ!」

 

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 

「な……『方界』だと!?じゃあ、引き分けって言うのは……」

「察しの通り。僕のエースで、お互いのライフをフッとばすのさ。3000以下にならないように気を付けな!」

 

 無茶苦茶な言い分である。

 

「方界胤ヴィジャムの効果に寄り、このカードを永続魔法扱いで魔法、罠ゾーンに置く、そして、ハングリーバーガーに方界カウンターを一つ置く、アンディメンション化してもらうゾ」

 

 ハングリーバーガー 方界カウンター0→1

 

「うおっ!チキンバーガーが錆びていく!」

 

 あまりビジュアル的には宜しくない感じになってしまったが、まあ、こうなっては仕方がない。

 

「むう……俺はこれでターンエンドだ」

「僕のターン。ドロー!よっしゃ。まずは永続魔法扱いのヴィジャムをモンスターゾーンに特殊召喚!」

 

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 

「そして、攻撃力1500以下のモンスターが特殊召喚されたことで、速攻魔法『地獄の暴走召喚』を発動!デッキから残り二体のヴィジャムを特殊召喚!」

 

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 方界胤ヴィジャム ATK0 ☆1

 

「ち……」

「僕はフィールドのヴィジャム三体を墓地に送り、特殊召喚!現れろ。『方界超帝インディオラ・デス・ボルト』!」

 

 方界超帝インディオラ・デス・ボルト ATK0→2400 ☆4

 

「効果に寄り、800ポイントのダメージだ!」

 

 恵遊 LP4000→3200

 

「バトルだ!インディオラ・デス・ボルトで、ハングリーバーガーを攻撃!」

 

 インディオラ・デス・ボルトの雷が、ハングリーバーガーを焼き払った。

 

 恵遊 LP3200→2800

 

「さあ、あっさり僕のドローラインに入ったな。僕はカードを一枚セットして、ターンエンド!」

 

 『引き分けの境界』か……初期ライフ4000だと面倒である。

 

「俺のターン。ドロー!」

 

 方界は予想外だったが、それでも、何もできないわけではない。

 ただ、クリムゾン・ノヴァのバーン効果は嫌いである。

 墓地から発動するタイプのカードや手札誘発のカードをそれなりに多く投入している恵遊だが、そういったカードは、『モンスター効果として相手の効果を無効にする』ので、ほとんどの防御カードがクリムゾン・ノヴァには通用しないからだ。

 『ダメージ・ダイエット』などを使えば半分に抑えることが出来るといっても、そもそもクリムゾン・ノヴァは攻撃性能が高いので押し切られる可能性もある。

 『プリベントマト』は入っているが、まだ来ていない。

 

「俺は手札から、装備魔法『契約の履行』を発動。800ポイントのライフを使って、墓地の『ハングリーバーガー』を特殊召喚!」

 

 恵遊 LP2800→2000

 ハングリーバーガー ATK2000

 

「……ん?チキンバーガーじゃないのか?」

 

 恵遊のフィールドでジッとしているハングリーバーガーは、普通の牛肉が使われていた。

 

「ハングリーバーガーがネタに走るのは儀式召喚時だけだ」

「ていうか、あれだけライフを減らさないように注意しろって言ったのに……」

「3000以下なら全部変わらん。それに、開き直れるくらいの感覚じゃないと、ファンデッキだと一瞬で食われるからな」

「……バーガーだけにか?」

「バーガーだけにだ」

 

 本っ当に面倒である。

 

「俺は『巨大化』を使って、攻撃力を倍にする」

「何っ!?」

 

 ハングリーバーガー ATK2000→4000

 

 なんだかんだ言って大きくなるハンバーガー。

 すごくシュールな光景である。

 

「バトル!ハングリーバーガーで、インディオラ・デス・ボルトを攻撃!」

 

 巨大ハンバーガーから射出される円盤型の牛肉がインディオラ・デス・ボルトをぶち抜いた。

 

「うおおっ!?」

 

 昇平 LP4000→2400

 

「だが、インディオラ・デス・ボルトの効果発動。墓地のヴィジャム三体を特殊召喚!」

 

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 

「そして、デッキから方界カード『暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ』を手札に加える。悪手だったな」

「ンなこと知らん。俺はカードを一枚セットして、ターンエンドだ」

「俺のターン。ドロー!」

「罠発動。『針虫の巣窟』!デッキからカードを五枚墓地に送る!」

 

 恵遊は昇平が舌打ちしたのを見逃さなかった。

 

「……『プリベントマト』でも落ちたか?」

「ああ。そうだが」

「なら、せめてそのバーガーをどうにかするか……ていうか、昨日の『最強の盾』といい、今日の『巨大化』といい……元々の攻撃力が2000とは思えない攻撃力だゾ?」

「愛だ」

「……もう何も言わんぜ。ヴィジャム三体を墓地に送り、今度はこっちだ。『方界超獣バスター・ガンダイル』!」

 

 方界超獣バスター・ガンダイル ATK0→3000 ☆4

 

「そして、永続魔法『ドン・サウザンドの契約』を発動」

「うご……」

 

 このタイミングでそれか……。

 

「発動時の効果処理として、お互いに1000のライフをはらう。そして、カードを一枚ドローする」

 

 恵遊 LP2000→1000

 昇平 LP2400→1400

 

 やはりと言うかなんというか、入っていたな。

 実際問題、この契約を初手で発動すれば、その瞬間にお互いにライフが3000になる。

 そこからクリムゾン・ノヴァを出せば、そのターン終了時にデュエルが終了するのだ。

 カード二枚を使ってお互いに吹き飛ぶのだ。某上司のセリフを使わせてもらおう。「まるで意味がわからんぞ!」

 

「そして、このカードの効果でドローしたカードと、このカードが存在する状況で引いたカードを公開する。この効果で魔法カードを見せていると、通常召喚はできないぜ」

「ち……ドロー!」

「ドロー!」

 

 恵遊が引いたのは……。

 

「俺が引いたのは『ハネワタ』だ」

 

 手札誘発の効果ダメージに対する防御カードだ。

 これで何とかなる。

 ついでに言うとモンスターなので、通常召喚も阻害されない。

 

「僕が引いたのは……『一時休戦』だ」

「……」

「……」

「……恵遊君」

「……なんだ?昇平」

「何か言えよ」

「無理」

 

 昇平は一時休戦を魔法、罠ゾーンにたたきつける。

 

「『一時休戦』を発動。お互いにカードを一枚ドロー。次の君のターン終了時まで、全てのダメージが0になる」

 

 一時休戦で恵遊が引いたのは『馬の骨の対価』で、昇平が引いたのは『強欲な瓶』だ。

 

「一枚セット、ターンエンドだ」

 

 瓶を伏せたか。

 

「俺のターン。ドロー!」

「契約の効果だ。開示してもらう」

「……『至高の木の実』だ」

 

 なんか、一歩遅かった感じがあるな。

 

「まずはバトルだ。ハングリーバーガーで、バスター・ガンダイルを攻撃!」

 

 今度はレタスを射出する。

 

「『一時休戦』の効果でダメージはなしだ。バスター・ガンダイルの効果で、墓地のヴィジャムを三体、特殊召喚する!」

 

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 方界胤ヴィジャム DFE0 ☆1

 

 また出やがったなパーツども。

 

「そして、デッキから『流星方界器デューザ』を手札に加える」

 

 むう、それか。

 まあいい。

 

「『至高の木の実』を発動。ライフを2000回復する!」

 

 恵遊 LP1000→3000

 

 発動しない理由にはならない。

 ちなみに、恵遊の方がライフが多くなったので、攻撃力が変化する。

 

 ハングリーバーガー ATK4000→1000

 

 今度は逆にものすごく小さくなった。

 

「そして、ハングリーバーガーをリリースして、『馬の骨の対価』を発動。カードを二枚ドローする」

「馬の骨なんて使われてないだろ」

「知らんな」

 

 ここで凛子が聞いて来る。

 

「というより、該当するモンスターがハングリーバーガーしかいないと思うけど、何でいれてるの?」

 

 ドローソースとしては他のカードがいいのでは?と言うことだろう。

 

「いや、ハングリーバーガーに変な効果が付与されると困るからな。俺のデッキはハングリーバーガーを活躍させるデッキだから、相手によって変な付与をされると回避しにくいから、リリースして手札に変換できるカードを入れてるんだ」

 

 ハングリーバーガーはレベル6の儀式モンスターで、闇属性・戦士族だ。

 やろうと思えば【儀式聖刻】でもいいし、ディアボリックガイが投入される【シンクロダーク】で無理矢理投入することも不可能ではない。

 そうなれば、ビヨンドやレベル8のシンクロモンスターも採用できるので、安定するかどうかは手札次第だが、少なくとも打開力の問題は解消される。

 だが、そう言ったデッキは、ハングリーバーガーは展開の軸になるだけであって、ハングリーバーガーが活躍するデッキではない。

 だからこそ、恵遊は、できる限り【正規儀式】に『ハングリーバーガー』を軸にしてデッキを組んでいるのだ。

 

「……でも、ハングリーバーガーでそこまでのデッキ構築ができるんだから、絶対ほかのデッキでもうまくできるよね」

「最初は【カオス・ソルジャー】で練習してた」

 

 そのセリフを聞いたみんなが思った。

 

『そのまま使ってればいいのに』と。

 

「あ、恵遊君。契約の効果は、カード効果でドローしたカードを含まれるよ」

「え?あ、そうだったな。俺がドローしたのは『儀式の準備』と『カードガンナー』だ」

 

 ドローしたカード二枚を昇平に見せる。

 当然といえば当然だが、昇平は苦い顔をした。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 恵遊の手札は四枚で、その内三枚は『儀式の準備』『カードガンナー』『ハネワタ』と分からぬ一枚。

 三枚も見せている感じだが、いずれにせよ、そこまで苦労はしていない。

 

「僕のターン。ドロー!なんか調子が狂うな」

「よく言われるぞ。というか、こんな変態デッキにここまで苦戦するなんて思ってもいなかっただろ」

「まあぶっちゃけな……」

「何のカードをドローしたんだ?」

「ああ……」

 

 昇平はドローしたカードを見る。

 ……が、ドローしたカードをこちらに見せようとしない。

 

「……どうしたんだ?」

「あ……いや……僕がドローしたのは、『ゴーストリックの雪女』だ」

 

 ――空気が凍った気がした。

 

 ゴーストリックの雪女。

 言ってしまえば、『ロリ』である。

 

「……」

「……」

「……恵遊君」

「……なんだ?」

「どうしたらいいとおもう?」

「いや、まあ、なんだろう。効果はそれなりに強いし、いいんじゃないか?」

 

 

 

 ゴーストリックの雪女

 効果モンスター

 星2/闇属性/魔法使い族/攻1000/守 800

 自分フィールド上に「ゴーストリック」と名のついた

 モンスターが存在する場合のみ、

 このカードは表側表示で召喚できる。

 このカードは1ターンに1度だけ裏側守備表示にする事ができる。

 また、このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動できる。

 このカードを破壊したモンスターは裏側守備表示になり、

 表示形式を変更できない。

                  カードwikiより引用

 

 

 

 セットして置けば、何も知らなければとりあえず攻撃はされるだろう。

 そうなれば、相手モンスターが裏側になるし、表示形式の変更もできないので、はっきり言うと、恵遊のような『低ステータスの特定のモンスターを活躍させるデッキ』にはかなり刺さる。

 『対象に取らない』上に、『ダメージステップでの発動』なのだ。

 なんだかんだ言って発動されると厄介なのは間違いない。

 

 が……なんだろうなっておもうのだ。

 

「……デュエル続行!」

 

 昇平は無理矢理に進めることにしたようだ。

 あんなに飄々としていたのに、今ではやけくそな男である。

 まあ、自分のデッキのアイドルカードが暴露されてしまったのだ。無理もない。

 さて、『ゴーストリックの雪女』『暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ』『流星方界器デューザ』

 伏せカードの一枚である『強欲な瓶』はまだ使っていない。

 

 どう来るのだろうか。と言うより、方界カードを引きこまないとクリムゾン・ノヴァを出すことは不可能なので、それ相応にギミックは必要になるが……。

 

「まず、『流星方界器デューザ』を召喚して、デッキから『方界業』を墓地に送り、除外して、デッキからクリムゾン・ノヴァを手札に加える」

 

 流星方界器デューザ ATK1600 ☆4

 

 二枚目をサーチしたか。

 

「そして、ヴィジャム二体で『アカシック・マジシャン』をリンク召喚して、リンク先のデューザを手札に戻す」

 

 アカシック・マジシャン ATK1700 LINK2

 

 守備表示で特殊召喚しているヴィジャムは一体なら残しておいてもいいと思ったのだろう。

 ……ん?

 

「そして、伏せていた『悪夢再び』を使って、ヴィジャム二体を墓地から手札に加える。そして、デューザとヴィジャム、クリムゾン・ノヴァを見せることで、特殊召喚!現れろ!『暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ』!」

 

 暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000 ☆10

 

「ついに来たか……」

「そうだな。で、ターン終了だ。お互いに、3000のダメージを受ける」

「チェーンして『ハネワタ』を墓地に送って効果ダメージを0にする」

「僕もチェーンして、『ピケルの魔法陣』を使って、ダメージを無効にする」

 

 これで、昇平の瓶以外の伏せカードはなくなった。

 

「俺のターン。ドロー!」

 

 ドローしたのは……。

 

「『サイクロン』だ。いい加減に鬱陶しい『ドン・サウザンドの契約』を破壊する!」

 

 契約が吹き飛んだ。

 これで手札の公開は終わりである。

 

「俺は『カードガンナー』を召喚して、効果発動、デッキから三枚を墓地に送って攻撃力を上昇させる。『儀式の準備』を使って、デッキの『ハングリーバーガー』と、墓地の『ハンバーガーのレシピ』を手札に加える。そして、『ハンバーガーのレシピ』を発動。手札の『サクリボー』と、墓地の『儀式魔人プレサイダー』と『儀式魔人ディザーズ』を使って、『ハングリーバーガー』を儀式召喚!」

 

 カードガンナー   ATK400→1900 ☆3

 ハングリーバーガー ATK2000 ☆6

 

「サクリボーの効果で一枚ドロー。ハングリーバーガーに『最強の盾』を装備」

 

 ハングリーバーガー ATK2000→3850

 

 なんだかんだ言って攻撃力が3000を平気で超えるハンバーガー。

 これでハンバーガーの株が上がれば……どうなるんだろうな。よくわからん。

 

「バトル!ハングリーバーガーで、クリムゾン・ノヴァを攻撃!」

「……」

 

 昇平 LP1400→550

 

「プレサイダーの効果に寄り一枚ドロー。そして、カードガンナーで『アカシック・マジシャン』を攻撃!」

「『強欲な瓶』を発動して、一枚ドローするゾ」

 

 昇平 LP550→350

 

 一体何を引いた?

 

「これでターンエンドだ」

「ま、そんなもんだと思ってたゾ。手札の『D.D.クロウ』を墓地に送って、恵遊君の墓地の『プリベントマト』を除外する」

「な……しまった!」

 

 このタイミングで、ピンポイントでクロウを引いてくるとは……。

 

「僕のターン。ドロー!」

 

 カードを引いた昇平は、手札に残していたエースを手に取る。

 そして……。

 

『流星方界器デューザ』『方界胤ヴィジャム』『方界業』

 

 暗黒方界神クリムゾン・ノヴァ ATK3000 ☆10

 

「楽しかったぜ。恵遊君。またやろうな」

 

 ターンエンド。と、昇平は呟く。

 

 恵遊 LP3000→0

 昇平 LP 350→0

 

 ★

 

「まさか。あそこで鳥が飛んでくるとは思わなかったな……」

「恵遊君は墓地に防御カードをため込むスタイルだから、攻撃されても問題はなかったけど、効果ダメージに対しては若干防御しずらいもんね」

「クリムゾン・ノヴァをあそこまで喜々として採用する人が相手っていうのもあるけど……」

 

 それはまあいい。

 

「マスターランク……か。あんなのがあと九人もいるってことだよな」

「タクティクス的には、多分ちょっとしたじゃないかな。引き分けでずっといるわけだし」

「それもそうだが……」

 

 強いやつもいるってことなんだろうな。

 

「まあ、関係ないか」

「あ、そう言う感じなんだ」

「だって、別に順位に興味があるわけじゃないからな」

 

 どこまで行こうと、恵遊の動機は変わらない。

 ハンバーガーを食べられるのなら此処にいるし、食べられない環境になるのなら退学だって視野に入れる。

 

 その優先順位は、恵遊の中では変わらないのだ。

 

 ただ……恵遊としても忘れられないことはある。

 それは……。

 

「そう言えば、昇平君って、『ゴーストリックの雪女』を入れてるんだね」

「そこは触れない方が良いぜ」

 

 誰もが一度は通る道だ。多分。

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