「
デュエルスクール・ボーダーには『エキセントリック・テンス』と呼ばれる十人のデュエリストが存在する。
ただし、彼らは『エキセントリック・テンス』と言う名の『称号』が与えられているだけで、学校内で権限を持っている訳ではない。
ただし、実力者であることも確かで、ボーダーと提携している企業や団体が用意する特設サービスを利用できる。
久我昇平のように、デュエルコートを丸ごと一つ『常備』されているほど。
ただし、彼の『序列零位』というのはあまりにも特殊なものなので、与えられているサービスがやや中途半端なものになっているが、それでも、エキセントリック・テンスであることに変わりはない。
一位と零位が決まっており、二位から九位は決められていない。
ただ、これがどういうことなのかと言うと、『最強』が誰なのかが判明している。ということだ。
ボーダーの中では最強であり、他者を寄せ付けないデュエルセンスを持っている。
金髪を伸ばしており、容姿も完成しているといっても過言ではない少女だ。
中等部三年であり、まだ高等部にすらなっていないが、それでも、スタイルもよく、風格はある。
そのそばにいるのは、黒髪を肩のあたりで切りそろえた少女。
名前は
エキセントリック・テンスではないものの、非公式ランキングではプラチナエリアで、『女王の門番』の二つ名を持つデュエリストである。
「どう思う。とは?」
「久我昇平とのデュエルを見ましたが、そこまでのタクティクスを持っているとは思えません」
「そうでしょうか。私は、『ハンバーガー一個分のプレイングをする』と言って、あのデュエルをしていると記憶しています」
「ですが、そんなものは建前でしょう」
「ふふふ……私はデュエルをしてみたいものです」
美咲は微笑む。
そこには、久我昇平とデュエルをする恵遊のデュエル映像が写っている。
「……美咲様が相手するほどのデュエリストではありません」
「それはいいのです。彼が私とデュエルをする理由はなく、私が彼とデュエルをするメリットはない。ただ、私は戦ってみたい。それだけですから」
美咲は微笑む。
朱里は、普段は見せない『本当の笑顔』を見せる美咲に驚くが、すぐに表情を戻す。
「……今日、私がデュエルをします。美咲様とデュエルするほどの者ではないことを証明しましょう」
そういって、朱里は部屋を出ていった。
美咲は、そんな朱里を見ながら、あらあら、と呟く。
「さて、どうしたものでしょうね」
そういいながらも微笑む美咲は、面白いものを見つけたような顔だった。
★
「青芝恵遊。私とデュエルをしろ」
有言実行。即断速結。
鹿島朱里というのはそう言う人間である。
証明する。と言った以上、デュエルをしに来るのは分かり切ったことだ。
しかし……。
「やだ」
恵遊の方にやる気がないのもまた事実である。
というより、この変人。頭のネジが外れているというより、そもそも頭がネジで止まっていない。
一応、誘拐されたのでそれを助けるためにデュエルで勝つことが必要だったり……まあ、ハンバーガーが関係なくとも、別に人としてクズではないので、それ相応の事情があれば、さすがの恵遊もデュエルはする。
だが、今回の場合は完璧に朱里の私情であり、そもそも、恵遊の方は朱里とは初対面で、どんな人間なのか、誰の近くにいる人間なのかがさっぱりわからないのだ。
「何故だ。デュエルに挑まれたらするのがデュエリストの義務だろう」
そんな義務はありません。低評価が発生することはあっても、別に義務はありません。
「まあまあ、朱里ちゃん。恵遊君はハンバーガーがないと交渉の余地もない人だから……」
「何を言っている。たかがハンバーガーでデュエリストがデュエルを拒否するなど、言語道断だ」
言っていることが正しいのか、正しくないのかよくわからない次元の話である。
というより、朱里のようなタイプの人間は、人が何を言っているのか、そして、自分が何を言っているのかをあまりわかっていないタイプの人間だ。コミュ障とも言う。
ちなみに言うと、彼女の主人(?)である美咲は先ほども言ったが中等部三年で、朱里は高等部一年だ。
「そもそも、なんで俺がデュエルしなけりゃならんのだ」
「美咲様の相手をするまでもない相手であることを証明するためだ」
「え?」
恵遊は「何言ってんのコイツ」見たいな目で朱里を見るが、朱里のような人の話を聞かない上に自分の意見を通したがる人間の特徴、『途中経過の説明がない』がモロに出ているので、はっきり言って意味が分からない。
だが、こういうとき補足説明してくれる人間と言うのはいるものだ。
幸原茜である。
苦労人の才能がある彼女は、こういうときに察してくれるのだ。
「ええと……朱里ちゃんは、エキセントリック・テンスの序列一位の人の従者なの」
「ふんふん」
「多分、その人が、恵遊君とデュエルをしたい。見たいなことを言ったんだと思う」
「ふむふむ」
「それで、朱里ちゃんが暴走して、恵遊君をコテンパンにすることで、証明すると言った感じだと思うよ」
「私は暴走などしていないぞ」
暴走していない。というのは、あくまでも『いつも通り』と言う意味である。
恵遊のような人間とは少々視点が異なるのだ。
「……なら、君の主人に伝えておいてくれ。『青芝恵遊は期待外れだった』ってな」
「バカにしているのか!」
「バカにしていないさ。俺だって、自分が最強じゃないと思っているし、最強になりたいわけじゃない。デュエルに関して、そこまで上達思考があるわけもないしな」
デュエルスクールに通う生徒としては珍しく、デュエリストとしてのプライドがない。
あくまでも、存在するのはハンバーガーに対する愛だけだ。
今もむしゃむしゃと食べているし。
「それよりも、食べながら話すのはマナー違反だということを知らないのか!」
「……今更マナーなんていわれてもなぁ……これが俺の普通だぞ」
一応、朱里に分配がある。
恵遊がハンバーガー中毒者だということはみんなも知っているが、食べながら話すことがマナー的にいいわけではない。
「第一、ハンバーガーなんて下らないものに執着していることが理解できん」
周りの人間は、この瞬間、『おっ』と思った。
恵遊はハンバーガー中毒者である。
そして、ハンバーガーを愛しているといっても過言ではない。
そんな恵遊に向かって、ハンバーガーが『下らないもの』といったのだ。
恵遊がいつもと違った反応をするのではないか?と思ったのである。
が……。
「人の好みは好き好きだろ」
別に対して気にしていないようだ。
周りに「あれえ?」という空気が充満するが、あまり気にしている様子はない。
「むう……とにかく、私とデュエルをしろ。これは命令だ!」
「却下」
取り付く島もない。
まあ、朱里も朱里だが、恵遊も恵遊。
そもそも頭の中がハッピーセットなのだ。
でなければ、攻撃力的なデッキパワーで普通なら負けるはずの『レッド・デーモン』を、上から叩いて倒すなどと言う暴挙には出ないだろう。
というか、恵遊が使うハングリーバーガーは、カードに愛されていることもあるだろうが、攻撃力がインフレしやすいのだ。
昨日に至っては、サイエンにタイマン張れる攻撃力になったのだ。攻撃力が高いからどうとか言っているサイバー流が血の涙を流しても不思議ではない。周りからすれば意味が分からない。
「まあまあ、恵遊君。私のこのハンバーガーを上げるから、一回だけデュエルしてあげなよ」
凛子がハンバーガーを持ってきた。
「おっ。これは……」
予約で、しかも先着十名しか入手できないハンバーガーだ。
恵遊はこれを食べようと思っていたのだが、実は予約品がもうひとつかぶっていたので、一つをあきらめるしかなかったのだ。
さすがの恵遊も、体が二つあるわけではない。
「いいのか?」
「うん。いいよ」
「なるほど。いいだろう。相手をしてやる」
「ついでに私と交際しよう!」
「却下」
即答する恵遊である。
あからさまにしょんぼりする凛子。
「な……なんだこれは、私が変なのか?」
……どうなのだろう。
別に、朱里が特別、変と言うわけではないだろう。
世の中には人の話を聞かない人間も、自分の言っていることがいつも正しいと思っている人間も、どこにでも一定数いるもので、身近にいるかどうかはともかく、別に珍しいものではない。
朱里は変と言うよりは『厄介』である。
少なくとも、ここまでハンバーガーに執着する恵遊の方が珍しいと判断できる。
まあそもそも、昨日の恵遊と昇平のやり取りを見ているものからすれば、デュエルを挑むときはとりあえずハンバーガーを持ってきておけば、必要な会話を地平線の外まで蹴り飛ばしてデュエル出来ることは分かる。
それはそれとして、デュエルすることは決まった。
★
で、デュエルコートが空いていたので、そこに行くことにした。
ここで、ギャラリーの説明が聞こえてくる。
『次は『女王の門番』か』
『かなりの実力者を連続で相手してるぞ』
『聖野凛子だって、ほぼプラチナエリアだもんな』
『ああ。で、どんな感じなんだ?』
『プライバシーブレイカーによると、神代美咲が青芝恵遊とデュエルしたい。みたいなことを言って、バカが暴走したって感じだ』
『……デュエルをしたいという主人の意見を尊重するわけではないんだな』
『今更だ』
『話を戻すぞ。で、勝敗によってはどうなるんだ?』
『わからん。おそらく、今回のデュエルだけで何かが決まるわけではないと思うぞ』
まあ、いろいろ話しているが……デュエルすることに変わりはない。
朱里が反対側でデュエルディスクを構える。
「証明するためだ。本気で行かせてもらう」
「手加減できるような器用さを持っているようには見えないけどな……まあいいや、折角の良いハンバーガーをもらったんだ。その分は答えよう」
恵遊もデュエルディスクを構える。
そして、お互いにカードを五枚引いた。
「「デュエル!」」
恵遊 LP4000
朱里 LP4000
「私の先攻。手札から、フィールド魔法『機動要塞フォルテシモ』を発動!」
「な……フォルテシモだと!?」
あたりの景色が機械的なものに変わる。
このカードを発動するということは……。
「【機皇】デッキってことか……」
「その通りだ。私はフォルテシモの効果で、『機皇兵スキエル・アイン』を守備表示で特殊召喚!」
機皇兵スキエル・アイン DFE1000 ☆4
「そして、手札の『機皇兵ワイゼル・アイン』を召喚!」
機皇兵ワイゼル・アイン ATK1800 ☆4
「それぞれの効果が適用され、攻撃力が上昇する」
機皇兵ワイゼル・アイン ATK1800→1900
機皇兵スキエル・アイン ATK1200→1400
まあ、スキエル・アインは守備表示なのであまり意味はないが。
「さらに『機皇帝の賜与』を使って二枚ドロー。攻撃できないデメリットはあるが、先攻のため関係はない。カードを二枚セットして、ターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
さて、機皇には驚いたが、本場のシンクロドレインは恵遊を相手には影響力を持つものではない。
だだ、そう言ったことが関係しているような雰囲気はない。
となれば……。
「『カードガンナー』を召喚して、デッキトップを三枚墓地に送って攻撃力を上昇させる」
カードガンナー ATK400→1900 ☆3
「毎回出て来るな……」
「そうじゃないとデッキが回らないからな。ついでにこっちもあるぞ。『儀式の下準備』を発動して、デッキから『ハンバーガーのレシピ』と『ハングリーバーガー』を手札に加える」
「貴様のハングリーバーガーは精霊でも宿っているのか?」
呆れたような朱里のツッコミに、恵遊はニヤッと笑う。
「さあ、どうだろうな。俺は『ハンバーガーのレシピ』を使って、墓地のカースエンチャンター、ディザーズ、手札のサクリボーを素材に、『ハングリーバーガー』を儀式召喚!サクリボーの効果で一枚ドロー。『最強の盾』を装備」
ハングリーバーガー ATK2000→3850 ☆6
「カースエンチャンターを入れているとは……」
「まあ、刺さりにくい時はあるが、不必要と言うわけではないからな」
エクシーズや融合、リンクを防げるわけではない。
ただ、シンクロを何とかできるというのは、ある意味で強みだ。
とはいっても、今回の場合はあまり意味があるとは思っていないが。
それに、3850のハングリーバーガーを見ても気にしていないようだし。
「バトル!ハングリーバーガーでワイゼル・アインを攻撃!」
「罠カード『マジカルシルクハット』を発動。フィールドのワイゼル・アイン、デッキの『機皇城』と『歯車街』をセットして並び替える」
因みに、スキエル・アインの攻撃力はこのタイミングで変化しているが、守備表示なので大した違いはない。
「し……シルクハット……しかもその二枚か」
一応合理的ではあるが厄介なことをするやつである。
「……真ん中のシルクハットを攻撃する」
「破壊したのはワイゼル・アインだ。的中したのはいいが、どうする?」
ここでカードガンナーで攻撃してもあまり意味はない。
スキエル・アインはリクルーターだ。
攻撃しても、多分、グランエル以外の機皇兵が飛んでくるだけである。
「バトルフェイズは終了だ」
「この瞬間、セットしていた機皇城と歯車街が破壊される、そして、この二枚がフィールドで破壊されたことで、それぞれの効果を発動。城の効果でデッキから『機皇帝グランエル∞』を手札に加える」
「グランエル……ワイゼルじゃないのか?」
ワイゼルは魔法カードの効果を無効にできる効果がある。
ハングリーバーガーを強化していくデッキである恵遊を相手にするのなら、そちらの方がいいと思うのだが……。
「どうするかは私の自由だ。街の効果で、デッキから『古代の機械巨竜』を特殊召喚!」
古代の機械巨竜 ATK3000 ☆9
熱核竜じゃない。ということは、レベル8を利用するギミックが存在するのか?
「……だが、俺のハングリーバーガーの方が攻撃力は上だぞ」
「一昨日から思っていたが意味が分からん」
サポートが豊富なんだよ!
「墓地のADチェンジャーでカードガンナーを守備表示に変更。カードを一枚セットしてターンエンドだ」
カードガンナー ATK1900→DFE400
「私のターン。ドロー!まずは『一族の結束』『補給部隊』を発動して、スキエル・アインを攻撃表示に変更。バトルだ!ガジェルドラゴンで、カードガンナーを攻撃!」
古代の機械巨竜 ATK3000→3800
機皇兵スキエル・アイン ATK1200→2000
「チッ……カードを一枚ドローする」
少々面倒だが、まだ越えられないはずだ。
「ふむ、まあいい。グランエルをサーチした意味が分からないと言ったな。確かに、普通なら貴様が言った通りワイゼルだろう。だが、このカードがあることで、その常識は覆るのだ。罠カード『デストラクト・ポーション』を発動!」
「な……デストラクト・ポーションだと!?」
「この効果により、古代の機械巨竜を破壊して、その攻撃力分、3800ポイントのライフを回復。そして、モンスターが破壊されたことで、手札の『機皇帝グランエル∞』を特殊召喚!」
古代の機械巨竜が爆散、栄養分(?)となると同時に、グランエルが姿を現す。
朱里 LP4000→7800
機皇帝グランエル∞ ATK0→3900→4700
機皇兵スキエル・アイン ATK2000→2200
『一族の結束』がクソウザい。
機皇デッキにここまで適したカードだったとは……。
「『補給部隊』で一枚ドロー。まだバトルフェイズ中だ。機皇帝グランエル∞で、ハングリーバーガーを攻撃!」
「墓地の『ネクロ・ガードナー』を除外して、攻撃を無効にする!」
キャノンを構えたグランエルが撃ってきたが、ネクロ・ガードナーが防いだ。
「スキエル・アインを攻撃表示にしたのは失策だったか。カードを一枚セットしてターンエンド」
「俺のターン。ドロー!」
グランエルの攻撃力はライフの半分。一族の結束があるので、厳密にはそれよりも800ポイント多くなっているのが現状だ。
攻撃力4700というのはバカにはできない数字。
恵遊のハングリーバーガーも攻撃力は高くなるが、それでも、これは少々骨が折れる。
というか、シンクロ関係のカードはほとんど投入されていないのだろうか。
「デッキトップを一枚墓地に送って『アームズ・ホール』を発動。デッキから二枚目の『最強の盾』をサーチして、そのままハングリーバーガーに装備させる」
既に盾を一枚構えていたハングリーバーガーだが、もう一枚出現した盾を見て「おっ」と言いたそうな顔(表情とかないけど)をして、二枚目が添えられた。
ハングリーバーガー ATK3850→5700
「な……こ、攻撃力、5700だと!?」
「一昨日の凛子は7300なんて馬鹿げた数字を叩きだしてたぞ」
後ろで凛子が胸を張っているのがなんとなく分かったが、無視しておくとしよう。
「バトル!ハングリーバーガーで、機皇兵スキエル・アインを攻撃!」
「え?」
「何を戸惑っている。攻撃力が低い方を叩くのは当然だろ」
ハングリーバーガーは二枚の『最強の盾』を肉とトマトの間にはさむと、一気に射出する。
スキエル・アインに直撃して、残骸に変えた。
朱里 LP7800→5300
機皇帝グランエル∞ ATK4700→3450
あまり減った気がしないのは恵遊が疲れているからだろう。
というか、グランエル∞の攻撃力がまだ高いし。
「補給部隊で一枚ドローする……そして、スキエル・アインの効果に寄り、デッキから二体目の『機皇兵ワイゼル・アイン』を特殊召喚!」
機皇兵ワイゼル・アイン ATK1800→1900→2600 ☆4
「まあ、そうなるか。俺はカードを一枚セットしてターンエンドだ」
「私のターン。ドロー!」
朱里は二枚の手札を見る。
だが、何をするかはある程度決まっているようだ。
「私はグランエル∞を手札に戻して、『A・ジェネクス・バードマン』を特殊召喚!」
グランエルが消えるとともに、機械の鳥が出現する。
A・ジェネクス・バードマン ATK1400→1700 ☆3
「レベル7のシンクロ召喚か」
「その通りだ。私はレベル4のワイゼル・アインに、レベル3のジェネクス・バードマンをチューニング!シンクロ召喚!レベル7『ダーク・ダイブ・ボンバー』!」
ダーク・ダイブ・ボンバー ATK2600→3400 ☆7
単体で見ると攻撃力2600と言うモンスターなのに、『一族の結束』でドエライ攻撃力になっている。
だが、ハングリーバーガーの方が攻撃力が上だ(周りからすれば意味不明)。
「そして、『強欲で貪欲な壺』を使って、デッキから十枚除外して二枚ドロー。よし。『悪夢再び』を使って、墓地のワイゼル・アインを二体回収。そして、ダーク・ダイブ・ボンバーの効果を発動。このモンスターをリリース!1400ポイントのダメージだ!」
ダーク・ダイブ・ボンバー
無制限→禁止→エラッタ後に無制限という謎の変貌を遂げたモンスターだ。
ただ、このモンスターの存在に寄り、『シンクロ使いを相手にした時のデッドラインが1400』ということを意味する。
さらに言えば、元々の攻撃力が2600なので、殴ることができないわけではないのだ。
エラッタ前は、このカードの攻撃力2600+このモンスターをリリースした効果ダメージ1400で4000に到達するため、ライフが8000あっても問題ないのだ。『サモプリサモプリキャットベルンベルン』は今でもみんなの頭に残っているだろう。
とはいえ、である。
恵遊 LP4000
「な、何故だ!なぜ私がリリースしたダーク・ダイブ・ボンバーの効果が……」
「……ああ、見た目が単なるハンバーガーだし、さっきから攻撃力がインフレしていたから覚えてないのか?俺のハングリーバーガーの『儀式素材』」
「素材……あ……」
「カースエンチャンターを素材にしたハングリーバーガーが存在する限り、シンクロモンスターは効果が無効になる。ダーク・ダイブ・ボンバーの効果はリリースして発動するから、墓地には送られるが、その後に発動する効果は無効になる」
まあ、自分のシンクロモンスターも効果が使えないのだがな。
ハングリーバーガーがドヤ顔である。
「ぐ……だがまだだ!私は手札のグランエル∞と、ワイゼル・アイン二枚を墓地に送る、現れろ!『機皇神マシニクル∞』!」
機皇神マシニクル∞ ATK4000→4800 ☆12
「ま……マシニクルだと!?……おい、ちょっと待て、まさかその伏せカードは……」
「貴様の察しの通りだ。『ギブ&テイク』を発動!私の墓地のダーク・ダイブ・ボンバーを貴様のフィールドに特殊召喚!」
ダーク・ダイブ・ボンバー DFE1800 ☆7
「そして、私のマシニクル∞をレベルアップ!」
機皇神マシニクル∞ ☆12→19
「れ……レベル19!?」
ダーク・ダイブ・ボンバーでレベル20のモンスターをリリースすれば、相手のライフを4000吹き飛ばすことができることを考えると驚異的である。
(ちなみに、朱里は完璧に忘れているが、墓地にはレベル8の『古代の機械巨竜』が存在するので、別にできないわけではない)
「そして、マシニクルの効果で、ダーク・ダイブ・ボンバーで吸収する!」
機皇神マシニクル∞ ATK4800→7400
うわ、エグイ。
「私の記録が更新された!」
別に狙ってはないと思うよ。
「機皇神マシニクル∞で、ハングリーバーガーを攻撃!『ザ・キューブ・オブ・ディスペアー』!」
ハングリーバーガーが慌てたように盾を構え……いや、手はないので足……もないので体をひねって『移動させる』が、それをぶち抜いて破壊される。
なんていうか、『手も足も出ない』というのをなんとなく理解した気がする。
「うああああ!」
恵遊 LP4000→2300
だが、それでも『最強の盾』の名は伊達ではなく、ダメージはそうでもない。
まあ、相手の攻撃力を考えれば、と言う話だが。
「フン!私はこれでターンエンドだ」
「俺のターン。ドロー!」
さて、限定バーガー分のプレイングはするといったからな。そろそろ全力で行くぞ!
「そろそろ本気で行くか」
「手札三枚で何ができる」
「いろいろだ。限定バーガーをもらって気分がいいんだ。俺のエクストラデッキのモンスターが顔を出すぞ」
「な……やはり、切り札はハングリーバーガーではなかったということか……」
まあ見ていろ。
「まずは『契約の履行』を使って、ライフ800をコストに、ハングリーバーガーを蘇生!」
恵遊 LP2300→1500
ハングリーバーガー ATK2000 ☆6
「そして罠カード『融合準備』を発動。エクストラデッキの『ユーフォロイド・ファイター』を見せることで、デッキの『ユーフォロイド』と墓地の『融合』を手札に加える」
「な……え?」
「魔法カード『融合』を発動。フィールドのハングリーバーガーと、手札のユーフォロイドを素材にして、融合召喚!現れろ。レベル10『ユーフォロイド・ファイター』!」
……皆さん。思いだしてほしい。
カードのイラストにおいて、ユーフォロイドの上に乗っていたモンスターのことを。
あれは、一体、なにが乗るのかを。
そして、今回の場合は何が起こるのかを。
そういうことだ。
バーガー・オン・ザ・ユーフォー!
ユーフォロイド・ファイター ATK3200 ☆10
「な……何だそのモンスターは……」
朱里という人間は、まあ、美咲に陶酔しており、自己中心的な性格だが、一応『真面目』の分類に入る。
そのわりに三つくらい絶望があるのか【機皇】を使っているが、まじめである。
とてもじゃないが、ここまでネタに走るモンスターなど見たことが無い。
「……攻撃力もそこそこ高いね」
「あれ?茜ちゃん。戦士族ギミックで攻撃力を上げるなら『ズババジェネラル』じゃないの?」
「確かにそれもあるけど、恵遊君のデッキはレベル3が多く投入されていて、ランク4が採用しずらいんだよ。入っていないわけじゃないと思うけど、多分、出せる時に出すって感じなんじゃないかな」
「そう言う感じかな?」
「多分ね。あと……」
「あと……何?」
「『一時的な爆発力』ということを考えれば、『機械族の融合モンスター』は驚異的だよ」
「え?」
さて、色々後ろで話しているようだが、さっさと行こうか。
「そして、速攻魔法『リミッター解除』を発動。機械族モンスターの攻撃力を倍にする!」
ユーフォロイド・ファイター ATK3200→6400
「む……だが、まだ私のマシニクルの方が攻撃力が上だ!」
「『どれほど高かろうと意味はない』んだ。バトル!ユーフォロイド・ファイターで、機皇神マシニクルを攻撃!そして速攻魔法『決闘融合-バトル・フュージョン』を発動!」
「そ……そのカードは……」
「これにより、ユーフォロイド・ファイターは、相手モンスターの攻撃力分アップする!」
ユーフォロイド・ファイター ATK6400→13800
「こ……攻撃力、13800だと!」
「さあ!
文字通りのリミットを外したレベルの『肉部分の回転』が発生。
オーバーヒートレベルの発熱によりハンバーガー部分が黒焦げになりながらも、ユーフォロイド・ファイターは肉を射出。
機皇神マシニクルは、「なんでこんなことに……」と言いたそうな表情で、高速回転する円盤型でアツアツの肉をその身に受け、爆散した。
朱里 LP5300→0
本来の数値を超えたライフをも消し飛ばす一撃。
茜が言った通り、『一時的な爆発力』というのは、機械族融合モンスターはすごいのだ。サイバー流の陰謀である。
「な……なんということだ……私が、こんな奴に負けるなんて……」
客の中にも、いろいろと思っている生徒はいる。
序列一位の神代美咲についていくため、本人は多くの努力と研鑽を積んでいるのだ。
それがまさか、こんな頭がネジ以外の何かで止まっていそうな変人に敗北するなど思っていなかったのだ。
手札は悪くはなかった。
マシニクルは出しにくいし使いにくい。という印象はあるが、それすらも超越して、攻撃力7400という化け物を生み出したのだから、間違いではない。
だが、このバカにはかなわなかった。
「……青芝恵遊!この屈辱は必ず晴らす!おぼえていろ!」
そう捨て台詞を言いのこして、朱里は走り去っていった。
「……あーあ」
「恵遊君。デュエルが終わると同時にもうハンバーガー食べてるね」
「まあな。それにしても、デュエルの腕は悪くなかったが……それほど凄いのか?」
「うん。美咲さんはすごい人だよ。年下だけどね」
恵遊の中で引っかかるものがあった。
「……美咲……年下……なあ、そいつの名字は?」
「神代だけど……」
「……マジか。まあ、納得できる強さはあるけどなぁ」
「知っているの?」
「妹だ」
空気が凍る。
「え?」
「れっきとした、血を分けた兄妹だ」
「「えええええええええええ!!!!!」」
茜と凛子が絶叫する。
「し、知らなかったの?序列一位だって」
「だって興味なかったし、もう神代家とは縁を切ってるからな」
「何かあったの?」
「まあ、いろいろな」
凛子がムムムと唸っている。
「どうした?」
「こう言うパターンでは、ブラコンの妹が兄を取り戻そうと躍起になるイベントがあるからね。注意しないと……」
やはりというかなんというか、恵遊の恋愛状況を細かく気にする凛子だった。
★
「すみません。美咲様」
「フフフ、構いませんよ。こうなることは大体わかっていましたから」
「そ、それはどういう……」
「青芝恵遊は、私の兄です」
「そ……そんな馬鹿な!」
さすがの朱里も、この情報には驚いた。
が、どう判断すればいいのかわからないので棚に上げることにした。
「そ、それはいいのです」
「そうですね。私としてもそれは構いません。兄ではありますし、尊敬もしますが、それ以上のことはありませんから」
淡々と告げる美咲。
朱里は「はぁ……」と気の抜けた返事である。
「朱里、あなたはどう思いましたか?兄さんのデュエル」
「……頭がおかしいとしか言えません。特に、ハングリーバーガーの攻撃力です」
「そうですね……普通に3000を超えてきますから……」
ハングリーバーガーをつかうにしては理想的と言えるだろう。
もちろん、それゆえの弱点はある。
だが、それでも、使って来るのだ。超えて来るのだ。意味が分からん。
「朱里。もしあなたがデュエリストとして強くなりたいというのであれば、兄さんを見て、目指すといいでしょう」
「え……」
美咲の突然の提案に、朱里は驚く。
美咲が中等部に入ってから仕えている朱里だが、仕えること以外を考えたことはない。
強く有りたいと思ったことはあっても、それは、仕えるということを前提とした理想像としたものであり、一人のデュエリストとしてではない。
「兄さんはよく言っていました。デュエルは、自分がやりたいこと、楽しいと思ったことを詰め込むものだと」
「それは……詭弁です」
「そうですね。私達にとってデュエルは真剣なものであり、負け続けていると、存在価値が危ぶまれることもあります。ですが、それでもです」
美咲は微笑む。
「兄さんは、好きなカードに、純粋に向き合ってきました。そして大好きなのです。義務ではなく、楽しむことだけを考えてきた兄さんは、一瞬たりとも、デュエルから逃げることを考えませんでした」
朱里も、美咲も、要求される強さと義務に耐えられず、逃げることを考えていた時代がある。
そして、仕える、という立場に立った朱里は今でも義務的だ。
勝てるはずがなかった。というわけではない。
しかし、『やってきた努力をどれほど自分のものにできるか』ということを考えると、その差は歴然。
「……デッキも調整をしてきます」
そう言って部屋を出る朱里。
そんな朱里を、美咲は微笑みながら見ていた。