カズマとめぐみんをいちゃいちゃさせる小説   作:リルシュ

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数日遅れの七夕ネタ。
オリジナル設定多し。
カズめぐ要素は後半に集中しています。
でも、もっとイチャイチャさせてもよかったかも…


七夕限定クエスト

「さーて、午後に起きるのが当たり前だと思っているニート気質が抜けないカズマさん。今日は何の日でしょう!」

 

「知らん。アクシズ教が設立されちゃった残念な記念日か?」

 

まだまだ脳に眠気が残るお昼過ぎ。

あくび混じりに居間のソファーに腰を下ろす俺の回りを落ち着きなくグルグル歩きながら、アクアが鼻息を荒くして言ってきた言葉に気のない返事をしてやる。

 

「違うわよ。そんな私の誕生日とほぼ同じ意味の大切な日だったら、今頃アクシズ教徒達の子が世界中の街でお祝いの飾り付けをしているわよ」

 

そんな恐ろしい日は一生来て欲しくないのだが、既にこの世界で1年以上の時を過ごしていてまだ見ぬ光景であることを考えると、流石に嘘だろう。

あの人達ならやり始めてもまったく驚かないけど。

 

「あとアクシズ教設立の日が残念っていうのは取り消して。今すぐ取り消して」

 

「はいはいごめんごめん。それで結局なんの日なんだよ」

 

「あんたほんとにいつか天罰を与えてやるからね…七夕よ!今日は日本で言うところの七夕なの!」

 

なるほど。

最近クソ暑くて気にしてる余裕が無かったが、確かにそんな時期かもしれない。

ソファーにふんぞり返ったままあくびを絶やさず聞き流す俺に、アクアはピクピクと眉を痙攣させながら話を続ける。

 

「今年はアクセルの人達に私が事前に伝えておいたから、ギルドで限定クエストが発行されているはずなのよ!」

 

そう言えば去年はこっちの世界じゃ無かったもんな。

バレンタインデーとホワイトデーの事を俺がアクセルの街中に言いふらしたみたいに、アクアは七夕について言い回っていたのだろう。

コイツはこういう時だけ手回しが早くて用意周到だよな…って言うのは人のこと言えないか。

でも俺にはギリギリまで教えてくれないし。

それに…

 

「アクアはなんでそんなに七夕にこだわるんだ?」

 

正直彼女が楽しみにするような理由が分からなかった。

 

「織姫と彦星の事はむかーしお世話してあげててね。だから毎年この日は願い事をしてるの」

 

「…なんだって?」

 

「去年は誰かさんのせいでそれどころじゃなくなっちゃったけどね!」

 

織姫と彦星って実在するのかよ!?

しかもアクアがお世話してあげてただと!?

あの二人の話はかなり昔から伝わってると思うんだが…

 

「お前ほんとに何歳なの?」

 

「次同じ質問したら、貴方の男としての機能を全停止させますよサトウカズマさん。私のいた場所は貴方のいた世界と時の流れが違うと言ったはずです」

 

「わ、分かったよ謝るよ。…ところでめぐみんとダクネスは?姿が見当たらないんだけど」

 

ニッコリと微笑み表情に影を差しながら似合わない丁寧な口調で喋るアクアがちょっと怖かったので、話題をうちのパーティーメンバーの事に移しチラチラと部屋を見回す。

あの二人ならこの時間帯には起きてるはずなのだが。

 

「ギルドで限定クエストが発行されてるって言ったでしょ!めぐみん達は今部屋でその準備をしてるのよ」

 

「あぁそれそれ。限定クエストってなんだよ?みんなで笹の葉に吊るす願い事を用意しろとかそんなのか?」

 

「何をあまっちょろいこと言ってるのかしらカズマは?その笹を討伐して用意するところから自分たちでやるに決まってるでしょ」

 

七夕だしそんな危険なことは無いだろうという俺の考えは、よく分からない分かりたくもない理由であっという間に打ち砕かれた。

 

「笹を討伐という理解に苦しむワードまでは100万歩譲って良しとしよう。俺ももう慣れた」

 

自分で言ってて頭が痛くなるが、そういう常識に囚われてはいけないのがこの世界だ。

それに畑から秋刀魚が取れることに比べたら、野菜が飛んで跳ねるこの世界で笹に襲われるなんぞまだ分かる方なのかもしれない。

 

…大丈夫だよな?

俺変なこと言ってないよな?

 

「でも去年まで七夕なんて習慣がなかったこの世界で、どうして都合よく笹が現れてしかも討伐なんて事になるんだ?」

 

「あー、それなら笹に似てた植物型モンスターを私がたまたま見つけて、勝手にそいつを笹ってことにして話を広めたからよ」

 

「とんでもないなお前」

 

おおよそ女神とは思えないアクアの言葉で、そのモンスターに同情を覚えてしまう。

 

「あっ!カズマ!やっと起きたんですか!相変わらず寝坊助ですね」

 

俺がドヤ顔のアクアにドン引きしていたら、めぐみんの嬉しそうな声が上から聞こえてきた。何やらいつもよりダボダボで露出の少ないローブを羽織りながら、2階からニコニコと俺の傍に走り寄ってくる。

 

「寝坊助で悪かったな。早く起きて欲しかったら、俺が喜んで飛び起きるぐらいの凄いことでもやってみろ」

 

「どうせエッチなことでしょう」

 

「…そ、そこで即答すんなよ」

 

カズマの事なんてなんでもお見通しですよと言いたげな微笑みをクスクスと浮かべるめぐみんが、ソファーに沈み込むように座っていた俺の腕を引っ張りあげて立たせてくるほど密着してきて、頬の熱が増していくのを感じた。

そんなこと言われると健全な思春期の男子である俺は、期待で色々と妄想してしまうんだが。

 

「そしてその格好はなんだ。夏だってのに暑くないのか?」

 

彼女の頭をグリグリと撫でつつ押し返して、照れと内心を誤魔化しながら聞いてみる。

肌を露出してるのが顔ぐらいしかないし、見てる方が暑くなるぐらいの格好だ。

しかし俺の疑問にはめぐみんの方が小首を傾げた。

 

「笹の討伐に行くんですよね?カズマこそ普段の格好では軽装すぎないですか?貴方の装備の制限がキツいのは知ってますが、怪我しちゃいますよ。まぁそうならないように私が全力で守りますけど」

 

「ちょっと待て。めぐみんの守ってあげる発言は男として複雑な気持ちになるし、笹ってそんなにやばい奴なのか?聞いてないんですけど」

 

俺の不安そうな声に眉を顰めためぐみんがアクアの方へと視線を動かしたので、それを追ってみる。

 

「そりゃーヤバイわよカズマ。何せカッターみたいな葉っぱ飛ばしてきたり、ムチみたいな蔓を地面から生やして振り回したりするんだから。めぐみんみたいな後衛にもいつ攻撃が飛んでくるか、油断出来ないの」

 

「それを早く言って欲しかったかなぁ」

 

もう本当に行く気が失せてきたのだが、座り直そうとしてもめぐみんがさりげなく掴んでる腕を離してくれそうにないし、俺だけ反対しても女性陣は何故かやる気満々みたいだし、コイツらだけで行かせたらろくな事にならないからな…

 

でも、そんな物騒な化け物が本当に笹に似てるのか?

既に不安もいっぱいなんだが。

というかめぐみんもその情報知ってたってことは、もしかしてうちのメンバー最後の1人ダクネスも…

 

「待たせたなみんな!さぁ!早速限定討伐クエストに行こう!」

 

「おっ、来たか…って」

 

バタンと扉を勢いよく開けて、足音荒くちょうど良いところで姿を表した変態クルセイダーの格好はというと…

 

「おい。目のやり場に困るぞ痴女ネス」

 

「そうですよエロネス。ちゃんと服を着こんで来てください」

 

「私だって、ずっとお肌を傷付けたダメネスに付きっきりは嫌だからね」

 

ノースリーブのキツキツなへそ出しシャツに、下着の生地がはみ出るんじゃないかと思うぐらいのショートパンツという、めぐみんとは対照的に露出度の高い格好だった。その中で一切露出してないのに白いシャツの生地に締め付けられて強調されているお胸が、そりゃーもう大変なことになっていらっしゃる。

夏場だということを考えればそこまで浮いた格好ではないかもしれないが、戦う時の彼女は鎧姿とどこか俺の中で決めつけていたイメージと違うのはなんだかダクネスらしくないと感じてしまうし、何よりさっき聞いた笹の話から考えるとその軽装は違和感しかない。

コイツが笹の事を知っているならの話だが。

 

「わ、私だって好きでこんな格好をしているんじゃない!それとせめてまともな名前で呼んでくれ!」

 

「じゃーなんでだよ。クソ暑くて鎧は蒸れるのか?それこそお前なら喜びそうだがな」

 

俺の言葉にめぐみんとアクアも両隣りでうんうんと頷いてるのを見て、ダクネスが何故か嬉しそうに身体をくねらせ始めた。

 

「そ、そうだろう?だが私は今回考え直してみて迷ったのだ。笹という怪物に力及ばず嬲られるのと、鎧の中でじわじわと蒸されるのはどちらがより快感を得られるかt」

 

「もういいぞ黙ってろ」

 

どうやら笹がどんな相手かはめぐみん同様知っているらしい。

つまりこいつはいつも通りのドM脳により、敢えての薄着で参戦するということか。

思いっきり好きでその格好してるじゃねぇか!

って突っ込むのもめんどくさい。

 

「自分から聞いておいてその仕打ち…流石だカズマっ!ハァハァ…」

 

「はいはい。んじゃーもう行こうぜ…ってあれ?アクアは?」

 

薄着のくせに既に額に汗を浮かべて恍惚とした表情を浮かべる変態に構ってやっていたら、いつの間にか傍にはめぐみんしかいなくなっていた。

 

「ついさっき、もう我慢出来ないと言った感じで出ていっちゃいましたけど…」

 

彼女の視線の先を見ると、開け放たれていた屋敷の入口から土煙をあげて走ってるアクアの後ろ姿が見え…って!

 

「おい待て止まれ駄女神!ダメだアイツ1人で行かせたら失敗して大泣きしてる未来しか見えない!俺達も急ごう!」

 

 

----------

 

 

「はい!確かに!それではお気を付けて行ってらっしゃい!」

 

冒険者ギルドにて、アクアの予想通り七夕限定クエストで盛り上がる冒険者たちの波と熱気に揉まれながら、俺たちは何とか受付を済ませ終えた。

 

「しかしすごい人数だな。めちゃくちゃ暑いし!」

 

クエストに行く前から熱中症を引き起こしそうなんだが!

 

「そりゃー願い事がひとつ叶うんだから、誰だって受注するわよ」

 

「願い事が叶うかどうかなんて分からないだろ?」

 

「私が織姫と彦星に連絡さえ取れれば大体の願い事は本当に叶えて貰えるんだけど、今は誰かさんのせいでこの世界から出られないからねぇ…」

 

「え?」

 

チラチラと鬱陶しく視線を流してくるアクアが、今さりげなくとんでもないことを言ったんだが!

アクアが織姫と彦星に頼めば確実に叶えてくれるって言うのか!?

お前がしてるのも普通のお願い事だと思ってたよ!

どんだけお世話してあげてたんだ!

…いや、コイツの事だから何か弱みを握ってる可能性もあるな…下手するとあの二人が1年に1度しか会えなくなっている原因に絡んでいたり…

うん。可能性を否定しきれてやれないのが残念だ。

俺の後を着いてきていためぐみんとダクネスも目を見開いて驚いてるぞ。

 

「ちょっと待ってくれ。冒険者たちは皆、本当に願いが叶うと思っているんだぞ。もちろん私もそう聞いていたのだが?」

 

「私も願い事が1つだけ確実に叶うと聞いていたのですが!どういう事なんですかアクア!」

 

二人がノッシノッシと両サイドからアクアに詰め寄る中、俺はなんでコイツが今回妙にやる気を出しているのか察しがついていた。

願い事が1つ確実に叶うならこのやる気も理解できる。だが、アクアは自分で彦星と織姫に連絡が取れないから今年それは無理だと断言していた。

つまり…

 

「お前、七夕は誰でも確実に願い事が1つ叶う行事だって盛って話をしたまではいいものの、予想以上に広まりすぎてクエストにまでなっちゃったから、収拾つかなくなってあとで真相がバレて冒険者たちにボコられるのが怖くなってきて、自分たちで笹を独占して誰にも願い事させないつもりなんだろ」

 

「…う…」

 

「う?」

 

「うわぁぁぁぁ!!!たすけてカズマさぁぁぁん!!!そのとおりなのよぉぉぉ!!!」

 

俺の言葉に笑顔を凍らせて固まったと思ったら、ワンワン泣き崩れ始めたうちの女神様がズルズルと這い寄って来る姿を見ながら、深いため息をつかずにはいられなかった。

 

「アクアにしてはうまくごまかしてた方だけどな。ほら、泣いてないで立ち上がれ」

 

さて…コイツが俺のパーティーメンバーだという事を知らない人は、もはやこの街の冒険者の中にはいないだろう。

つまり、彼らの怒りの矛先がこっちにも向かう可能性があるわけで…

うん。よし。やっぱり俺はこのクエストに参加しないわけにはいかないらしい。

 

「めぐみん。ダクネス。協力してくれ」

 

「当たり前じゃないですか」

 

「うむ。もちろんだ」

 

考えを察してくれたのか、今までの経験が生きているのか。

願い事の件で少し残念そうにしながらも、めぐみんとダクネスは二つ返事で快く引き受けてくれた。

 

「ありがとう!ありがとうねみんな!お礼に私の祈りを込めたまんまる石をあげるわね!」

 

「「「それはいらない」」」

 

 

----------

 

 

アクアの事情を聞いたあと出遅れればそれだけ不利になるので、急いで笹が出現すると言われているまばらに木々が生えた草原まで赴いたのだが…

 

「うわぁぁぁ!!!そっちに攻撃飛んでいったぞ!」

 

「なんだってぶへぁ!!!」

 

「ちくしょぉぉぉ!!!こんなデカいなんて聞いてねぇぞ!」

 

この時期の木陰は涼しくてありがたいなんて呑気な事を考えられたのは最初だけ。

先にクエストの場所までたどり着いていた冒険者たちが右往左往しながら対処していた笹の姿を見て、俺のやる気はガリガリ削がれていた。

 

「なぁ、やっぱりもう帰らないか?願い事はどうせ叶わないんだろ?」

 

笹は…

めっちゃ大きかったのだ。

それこそ背丈で言うならデストロイヤー並で、周りの木々よりひと回り飛び抜けていた。

冒険者たちの言葉と開いた口が塞がっていないうちのパーティーメンバーを見る限り、アクアが発見した時は多分ここまで大きくなかったのだろう。

ということはなんだ?成長したのか?

それともコイツ1体しか見当たらないことを考えると、合体でもしたんだろうか?

クエスト詳細には笹複数体って書いてあったし。

 

「いてぇぇぇ!なんかムチみたいなので叩かれたぁ!」

 

「危ねぇぇぇ!!!笹の葉で兜の先っちょがっ!」

 

正に阿鼻叫喚の地獄絵図。

近寄る冒険者たちが暴れる笹に迎撃されてるという目を疑いたくなる光景に、こめかみが痛くなってきた。

 

「ダメだホントにもう帰りたい」

 

あんなサイズの笹の葉がカッターみたいに飛んできたら、身体が上半身と下半身で確実におさらばする。

 

「ちょっと待ってよカズマ!私嫌よ!またギルドのみんなに嘘つき偽女神とか言われるの!」

 

「何も間違ってないじゃん」

 

しかも今またって言ったな。

前にも言われたのか。

 

「間違ってるわよカズマのバカぁ!めぐみんめぐみん!爆裂魔法であの笹を爆殺しちゃって!私が見た時はあんなに大きくなかったから、これだけ人数がいれば楽勝だと思ったのよぉ!!!」

 

「えーっと…」

 

アクアと俺の顔を交互に見ながら困った顔をしているめぐみんの言いたいことは分かる。

冒険者たちの目的は笹の葉に願い事を吊るして叶えてもらうこと。

めぐみんの爆裂魔法なら確かにこのデカブツを仕留められるだろうけど、その場合は恐らく加減しても跡形も残らず消し飛んでしまうことになる。

そうなれば結局叩かれるのは俺たちだ。

そういう事だよな?という意味を込めてアイコンタクトを送ってみると、コクリと頷きながら

 

「あのおっきいので、このうずうずして辛抱たまらない欲求を満たしていいのですね!」

 

違うそうじゃねぇ!

俺の意見を尊重してくれるからこっちを見ているのかと思ったら、ただ爆裂欲が高まっていただけらしい。

やっぱりめぐみんはめぐみんだった。

 

「それは最終手段だからとりあえず待ってろ。そんで落ち着け。モジモジすんな」

 

しかし最近大人の関係になった恋人の彼女が言うこととはいえ、ここで後先考えず甘い判断を下してやるわけにもいかない。

めぐみんと違って俺はそんなにチョロい男じゃないからな。

 

「またお預けですか?どうしてもダメですか?」

 

しょんぼりと俯きローブの上からでも分かるくらい身体をくねらせながら、上目遣いで頬を染めて暑さのせいか息荒く頬にキラリと光る汗を流し、俺の袖を掴む彼女の紅く光る瞳を見たって…

……見たって……

………

 

「なんかめんどくさいしもうそれでいっか」

 

「待て待て二人とも!確かにあのサイズの敵は脅威だから排除することには騎士として賛成するが、爆殺してしまっては冒険者たちは結局不満を抱くことになるぞ!?あとアクアの顔が涙と鼻水で大変なことになってるからその辺に…」

 

じっと見つめ合う俺たちの代わりにストッパー役になってくれたダクネスが珍しくまともな事を言いながら指さす先を見てみると、周りの目なんて気にせず大声で泣きわめきながら座り込むアクアが俺の名前とバカという単語を交互に連呼していた。

ちなみに周りの冒険者達は既にこんな光景には慣れているので、誰も声をかけようとしない。

 

「し、仕方ない!私があいつの注意を引いて攻撃を受け続ける!その間にみんなで私ごとやつを攻めるんだ…!!!」

 

「お前も早まるな。ちょっと待ってろ」

 

コイツも自分の願望を叶えたいだけだろうが。

ダクネスならその格好でほっといてもやられることは無いだろうけど、目的は奴を倒すことだからな。

 

「まったく…お前らはホントにダメだな。ダメダメだ」

 

これだから俺がいないと成り立たないんだよこのパーティーは!

しょうがねぇなぁぁぁ!!!

 

「俺が凄腕冒険者の本気というものを見せてやろう」

 

「カ、カズマ…」

 

バサっと服を翻らせてゆっくりと笹に向かって歩く俺に、キラキラとした敬意と愛のこもった眼差しを送るめぐみんの存在を感じながら…

 

「ティンダァァァ!!!」

 

「え」

 

俺は火属性の初級魔法を放っていた。

 

植物型モンスターに火の攻撃が効くというのはRPGのお約束!

差し出した右手から、ボフッという音と共に魔力を込めて練り出された火種がやつのからだを…からだ…を…

 

「あれ?全然燃えないな」

 

元々攻撃用の魔法とは言えないので威力に期待はしていなかったが、それでもそこそこ多めに魔力を込めたつもりだ。

点火さえしてしまえば、あとはどうにかして弱らせられると思ったのだが甘かったらしい。

火がつくどころか、奴の敵意がコッチに向いてる気がする。

あ…まずい!

全身にビリビリとした危険信号が…!

 

「ダ、ダクネスゥ!出番だぞ!」

 

「よし!任せろ!『デコイッ!!!』」

 

笹が葉っぱを振りかぶったのが見えて、少しヒヤリとしながらうちの優秀な盾役の名前を呼ぶと、すかさず発動される囮スキル。

俺の敵感知スキルにすらほぼ存在を知らせてくれないぐらい、笹の敵意がダクネスに向いていくのが分かる。

 

ふぅ…とりあえずこれで暫くは時間稼ぎができるが…

 

「バカですか!?カズマもやっぱりバカなんですか!?貴方の魔力をいくら込めたって、初級魔法で笹を焼き尽くせる火力は出せませんよ!大体焼いてしまったら爆殺するのと変わらないでしょう!」

 

安心して暑さとは別の理由で額に湧き出した汗を拭っていたら、瞳を爛々と輝かせて興奮しためぐみんが俺の肩をゆっさゆっさと揺さぶりながら文句を叫んできた。

 

「それは分かってるけど、この短い時間でよーく考えた結果、俺に出来る最良の行動はちまちまとティンダーで奴を炙るという結果になったんだよ。少しぐらい焦げても木っ端微塵にするよりはマシだろ?あ、そうだ。風属性の魔法と絡めたら少しは火力が上がるかもしれない」

 

「この男は…!肝心な時に役に立たないですね!好きな人のかっこいい所が見れる。今回はどんなすごい方法でアイツをコテンパンにしてくれるんだろうと、ドキドキしていた私の気持ちを返してくださいよ!」

 

「そ、それはお前が勝手にドキドキしていただけだろ!めぐみんだって爆裂魔法が使えなきゃ何もできないじゃねぇか!このだめぐみん!」

 

「なっ…!い、言いましたね!よりにもよって私のかっこいい名前を絡めてバカにしてくるなんて許せません!いいでしょう。カズマのケンカ、受けて立とうじゃないか!」

 

俺の名前はかっこいいと思いますとか言いながらさんざんネタにしてるくせに!

さっきもダクネスのことを俺と一緒に名前で弄ってたくせに!

 

「ちょ、ちょっと!二人で争ってる場合じゃないんですけど!ダクネスのおかげで攻撃が他の人に来なくなったから、冒険者たちもドンドン笹を攻めてるんですけど!このままじゃ他の人に持ってかれちゃうんですけどっ!」

 

俺たちがお互いの頬を引っ張り合い始めたのを見て、アクアが涙で顔を濡らしたまま間に割って入ってくる。

確かに笹に向かって群がる冒険者たちがここぞとばかりに集中攻撃を仕掛けているのが見えるな…。

あと蔓のムチっぽいもので肌を打たれて気持ちよさそうな顔してるダクネスも。

冒険者の何人かはそんな彼女に目を奪われているようで、まだ笹に致命傷を与えるに至っていないようだが。

 

「ちっ…仕方ない…めぐみんとの決着は後回しだ。ここは他のやつの攻撃で弱ってきた笹に、トドメだけ刺して美味しいところ持っていく作戦に」

 

「『 エクスプロージョンッッ!!!』」

 

それは俺がめぐみんのほっぺたから手を離して、どうにか手柄を立てられるように練った考えを喋ってる時に起こった。

 

まさに電光石火の早業。

一瞬の自由を得た、爆裂魔法プロフェッショナルのめぐみんによる無詠唱のエクスプロージョンが笹の体を中央から粉砕したのだ。

 

冒険者たちの悲鳴と突然吹き荒れたものすごい熱波に目も口も開いているのがやっとだったが、俺は一言叫ばずにはいられなかった。

 

「こんの大バカ野郎ぉぉぉ!!!」

 

 

----------

 

 

「最近は少しまともになってきたと思っていた俺が馬鹿だったよ。お前はどうしていつもいつもダメだというところでぶっぱなすんだ。次やったらホントにきっついお仕置きをくれてやるからな」

 

具体的には俺が許可を出すまでクエスト同行中は手足を縛ってお手製猿ぐつわを噛ませてやる。

 

「結果的に助かったんだからいいじゃないですか!私は今回カズマよりよっぽど役に立ちましたよ!」

 

そう言われると何も返せないのが悔しいが、確かに俺は今回活躍できなかったからな…。

笹が木っ端微塵に爆殺されてしまったので、予想通り『頭のおかしい爆裂娘がまたやりやがった!』とか、『サトウカズマのパーティーは何をしでかすか分からない!』だのブーブー文句を言われながらも、俺は満足そうに緩んだ表情を浮かべるめぐみんを背負って、わーわー泣き続けるアクアとビクンビクン身体を震わせるダクネスと共に、すっかり暗くなってしまった空の下ギルドまで戻ってきたのだが…

 

こんな結果も予想していたのか、はたまた笹を狩れなかった人の事を考えてくれていたのか。

ギルド側が雰囲気だけでも味わえるようにと、細工職人に頼んで常識的なサイズの偽笹を用意してくれていた。

プラスチックのような材質だから、植物で無いことは確かだが詳しい素材は分からない。

 

「ふんふんふふーん♪…あれ?どうしたの二人とも?願い事書かないの?」

 

それで上機嫌で鼻歌を歌いながらステップを踏んで、先ほどとは一転してニコニコ笑顔のアクアはこうして元気いっぱいに振舞っているのである。

 

「偽の笹なら願いごとが叶わなくたって、アクアが責められることは無いもんな」

 

「そうそう!はぁ~。安心しちゃったらお腹すいてきちゃったわ!今日はたくさん食べるわよー!」

 

嬉しそうに拳を突き上げながら、偽笹と一緒に配布された短冊に何やら書き込むアクアを見ていると、天界に帰れるまで毎年この日は笹を狩り続けないと嘘がバレるのではという俺の考えは、今は言わないでおいてやるかという気持ちになった。

来年からは危険な笹狩りなんてやめて、どうにか作り物の偽笹でアクセルの冒険者達には満足してもらうようにしないとな。

ちなみにダクネスは一応1番ダメージを受けた人物ということで、治療を受けることになったため今この場にはいない。

行く前のあの満足したような顔を見る限り、心配の必要は全くないと思うが。

 

「せっかくですし、私も何か書いてきます」

 

「俺も書くか。書くだけならタダだし」

 

ワイワイと賑やかに騒ぐギルドのテーブルから、美味しそうな匂いを放つ料理の隙間に分厚く重ねられている短冊を1つ手に取る。

 

「ただ、めぐみんはまず冒険者の皆さんに謝った方がいいと思うけど。あれだけ近くに人がいて、誰も爆裂魔法の直撃に巻き込まれなかったのは奇跡だからな?俺は正直お前が今度こそ殺人者になるんじゃないかとヒヤヒヤしたぞ」

 

「失礼な!ちゃんと誰も巻き込まない位置を計算して撃ち込みましたから怪我人なんて出る訳ありません!カズマが私の爆裂魔法をそこまで理解してくれてないなんて軽くショックですよ!」

 

めぐみんは俺の脇からひょいっと短冊を取りながら、コツンと肘で脇腹をつついてそんなことを…

 

「なんだ。そこまで考えてたのか。成長したなめぐみん。俺の願い事は『めぐみんが成長しますように』にするつもりだったんだけど、変えてよさそうだ」

 

「カズマこそ、たまにはカッコイイところ見せてください。私の願い事を『カズマが成長しますように』に変えた方が良さそうで…おい。なんで私の胸をじっと見ているのか、詳しい理由を聞こうじゃないか!」

 

お互いにそんな憎まれ口を叩きながら、さて何を書こうかと備え付けのペンをクルクル回し椅子に座ってめぐみんの成長が芳しいとは言えない胸を見ながら考えていたら、彼女はまたも瞳を輝かせて俺の胸倉を掴み怒りを顕にしていたが、

 

「…そう言えば、織姫と彦星と言う人の話をアクアから聞きました。お互い想い合っているのに1年に1度しか会えないなんて、とても悲しいですよね」

 

喧嘩するだけバカバカしいとでも思ったのか、溜め息をついて隣にピタリと寄り添って座りながらめぐみんはぽつりとそんなことを呟いた。

 

「…お、おう。そうだな」

 

左腕に感じる暖かさが全身に巡り回って、心地よい安心感のようなものが俺を包み込む。

…いきなり大人しく密着されると、意識しちゃって胸のドキドキが止まらなくなっちゃうんだけど。

 

「私だったら耐えられずに、爆裂魔法で天の川とやらを蒸発させてしまうかもしれません」

 

じっーと。

こちらを見上げる視線を感じた。

それは、俺に何かを言って欲しいと期待する眼差し。

 

…ったく。

そんな話に自分を重ね合わせて考えるなんて、めぐみんにはホントに乙女要素があったんだな。

 

「俺だって我慢出来ないと思う。…どんな手を使っても会いに行くよ。絶対」

 

素直じゃない思考をする脳みその代わりに俺の口は素直な意見を吐き出していた。

…む、ちょっと恥ずかしかったな。

いや、かなり…

ヤバい。顔熱くなってきた。

嬉しそうな笑顔でニマニマしながらこっち見ないで欲しいんですけど!

 

「確かにカズマなら、誰にも思いつかないようなセコい方法で会いに来てくれるかもしれないですね」

 

「セコいとか言うなよ」

 

「ふふ。ごめんなさい」

 

せっかく正直に自分の気持ちを言ってやったというのに。

クスクス笑いながら机に向き直るめぐみんを横目に、俺もつい今書きたいことが決まった短冊へとペンを走らせた。

 

俺の願い事は…

 

「【めぐみんとの子供が欲しい カズマ】…これだな」

 

「これだな…じゃないですよ!せっかく良い雰囲気だったのに、何をドヤ顔でお願いしてるんですかあなたは!これは暫くギルドに飾って人目に晒されることになるんですからね!?」

 

口に出してから満足して自分の短冊を掲げて見てたら、頬を瞳と同じぐらい真っ赤にしためぐみんが立ち上がりながらそれを奪い取ろうと、抱きつくみたいに腕を伸ばしてきた。

 

「なんでだよ!良い雰囲気になったからこそ書けたんじゃないか!俺はお前との間に生まれる可愛い子供が見たい!あとめぐみんは俺のものだっていうアピールもしたい!それにお前だって、お風呂一緒に入ってるだの同じ布団の中でごにょごにょしただの他人に言いふらしてるじゃねぇか!」

 

「ぎゃあああ!!!大声でそんな事を叫ばないでください!恥ずかしいですから!自分で言う時は覚悟してから言ってるから良いんですよ!」

 

ガヤガヤとうるさく賑わうギルド内でも、今のやり取りが聞こえていた周りの冒険者がニヤニヤとコチラを見るのがわかった。

…短冊の取り合いで抱き合ってるようにも見えるので、一部嫉妬にかられて『リア充爆裂しろ』とでも言いたげな人もいたが。

 

「じゃーそういうめぐみんは何を書いたんだよ。見せてくれよ。ほーれほーれ」

 

「…別に良いですよ。見られて困るような願い事ではないので」

 

そうかそうか。

潔いな。

では遠慮なくペラリと…

 

 

【いつまでも今のパーティーにいられますように めぐみん】

 

………

 

「ちょ!なんですか!?何を泣いているんですか!?」

 

願い事を見た瞬間机に突っ伏し肩を震わせ始めた俺に、めぐみんが慌てて声をかけてきた。

 

「いや…俺の欲望丸出しの願い事が恥ずかしくなってきてな…」

 

「た、確かに欲望は丸出しですけど、私は嬉しさも感じましたよ?」

 

背中を擦りながらフォローしてくれるめぐみんの顔がまともに見れません。

 

「でも、そういう願い事は自力で叶えたいと思ってます…その…つまり…」

 

すっ…と。

暖かくて優しい彼女の手の動きが止まって、俺の頭にポスンと乗せられた。

 

 

 

「私もカズマと同じこと、願ってはいますから」

 

 

………

 

「…あ…えっと…」

 

なんでそんな嬉しくなっちゃうことを唐突に告げるんだコイツは。

ハグして口を塞いで黙らせてやろうか。

 

「…な、何を照れてるんですか。最初に言ったのは貴方ですよ」

 

そんな事言われても、まともに頭が働かないというか…

ゴクリと生唾を飲み込んでカラカラに乾いてしまった喉を潤しお互い顔中真っ赤にしながら見つめ合う中、俺は願い事を書き換えようと決心していた。

 

 

『一生今のパーティーの面倒を見れますように』

 

 

 

 

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