カズマとめぐみんをいちゃいちゃさせる小説   作:リルシュ

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お久しぶりのカズめぐ

ある特殊な力をもった付喪神がめぐみんの帽子に憑依していろいろやらかすお話です


この人騒がせな付喪神と共存を!

 

「カズマっ!カズマっ!起きてください!」

 

んぁ…なんだよ…まだ眠いんだけど…

体をゆっさゆっさと激しく揺さぶりやがって誰だ…って

 

「あぁ!おはよう愛しのめぐみん。朝からお盛んだな」

 

眠気で重くなる瞼をなんとか動かして、気怠い体に馬乗りになりながら揺さぶってくる人物を確認する。

そういえば昨日は一緒に寝たんだっけ。

 

「おはようございます。でも馬鹿な事言ってないで話を聞いてください」

 

俺の目覚めを確認するや否や、めぐみんは腕を勢いよく引っ張り無理やり体を起こさせてきた。

グイッと身を乗り出すようにして顔を近付けてくる彼女の真剣な表情を見て、お互い上半身裸のままだしとりあえず服着ようぜという喉まで出てきた言葉をグッと飲み込み我慢する。

 

「私の帽子が無いんですよ!」

 

「なに?帽子?」

 

「はい…おかしいです…昨日は夕食の後にカズマの要求に応えた服装でこの部屋に来て、ゴロゴロしながらそのまま寝るまで一緒に過ごしてしまったので、私が着ていた衣服は全てここにあるはずなのですが」

 

顎に手を添え眉を顰めながらうんうん唸って真剣に悩むめぐみんとは裏腹に、いまいち緊急性を感じられなかった俺は1つ特大の欠伸をかましてしまった。

目ざとくそれを見つけた彼女が、むっと頬を膨らませてずいっと更に距離を詰めてくる。

 

「まさかとは思いますけど、カズマがこっそり盗んだりとか…」

 

「流石の俺もお前の帽子に欲情するほど特殊な性癖は持ち合わせていないぞ。下着ならともかく」

 

「盗む理由で真っ先にそういう事を思いつくのも酷いですけど、最後の一言が最悪ですね」

 

とまぁ、冗談はさておき。

俺はめぐみんの虫けらを見るような視線に気付かないふりをして、のっそりとベッドから体を起こし周囲をぐるりと見渡してみた。

既に彼女が見ているだろうけど念の為だ。

……うん。

しわくちゃに脱ぎ捨てられた俺達の衣服しかないな。

それ以外はいつも通りの風景だ。

昨日はお楽しみに夢中になりすぎて寝巻きに着替える暇もなかったとはいえ、これはちょっとばかしだらしなさすぎる。

 

「よし。とりあえず洗濯しないとな」

 

めぐみんの手前、若干カッコつけて前髪をかきあげながらそう言ったものの、

 

「それは後で私がまとめてしてあげるから大丈夫ですよ。それよりやっぱり帽子だけ見当たらないのがすごく不安です…すごくお気に入りだったので……」

 

頼れる主婦な発言で返事をされてしまった。

ただ、心無しか表情に元気がないように感じるし、深いため息が彼女がいかにあの帽子を大事にしていたのかを物語っている。

確かにあれは、めぐみんのトレードマークと俺の中でも認識されているぐらい馴染み深いものだしな。

 

「カズマぁ…」

 

…やれやれ。

そんな悲しそうな顔で掠れた声を出されたら、何とかしてやりたくなっちまうだろーが。

 

「分かったよ。俺も探すのに協力する。とりあえずめぐみんの部屋から見て回ろうぜ。そもそも夕飯のあとに来たんだから、最初から帽子を被ってなかった可能性の方が高いだろ?」

 

「それは無いです。だって、『冒険の途中で野宿した時風のプレイがしたい』とか意味の分からないことを言うカズマに付き合うために、わざわざ私は部屋に帽子と杖とマントを取りに行ったんですから」

 

あっ…そう言えばそんなことを調子に乗ってお願いしたかも…

昨夜の無茶振りを思い出してしまい、頬に一筋の冷や汗が伝う。

 

「さっきもちゃんとカズマの要求に応えた服装で部屋に来たと言ったでは無いですか。忘れたんですか?だからあなたが盗んだのではないかと聞いたんですよ」

 

「ホントに変なこと言ってごめんなさい」

 

 

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その後、今になって昨日のアホな要求を謝るハメになった俺は、カッコつかないまま最低限の身支度だけしてめぐみんの部屋に向かうことになった。

 

「でもなんだかんだ言ってめぐみんは俺のしたい事全部受け入れてくれるからな。つい甘えたくなっちまうんだよ」

 

「私がチョロいから悪いみたいに言わないで下さいよ!」

 

「いやそれは真実だし」

 

「な、なにおぅ!」

 

フンフンと鼻息を荒くして瞳を紅く煌めかせるめぐみんがポコポコとじゃれついてくるのを、満更でもない気分で受け流す。

うーん。やっぱりコイツ相手だと、こういう馬鹿なやり取りも楽しいんだよな。

 

「そんなことよりほら、着いたぞ。お前の部屋だ…って、なんか扉開いてるけど」

 

「えっ?そんなはずは…」

 

俺を叩いていた手を止めて、ぎょっと瞳を見開き自室の扉を確認しためぐみんが言葉を詰まらせた。

確かに彼女の性格を考えれば、自分の部屋の扉を開けっ放しで来るなんて考えにくいが…

 

「まさか泥棒とか?」

 

「えぇ!?こ、困りますよ!カズマ!なんとかしてください!!」

 

「いやでもめぐみんの部屋に盗みに入るなんて、相当な物好きだよな。ないない」

 

「…なんか釈然としないんですが」

 

それに敵意のある奴がこの屋敷に潜り込んでいれば、俺が敵感知スキルで真っ先に気付くはずだしな。

 

「おいめぐみん。怖いのは分かるが、掴むなら服の袖なんかじゃなくこう…ガッツリ腕でも組んでくれないか?その方が俺もやる気が出る」

 

やっぱり自分の部屋の扉が覚えもなく開いてる状態というものは不気味なのだろう。

微かに震える彼女の指先が、ちょこんと袖を摘んでいた。

 

「…分かりました」

 

あれ!?

今の冗談のつもりだったんですけど!?

 

なんて口に出す暇もなく、ゆっくりと腕が絡まってめぐみんの細い体が密着する。

同時に最近申し訳程度に育ってきていたお胸の柔らかい感触が…

 

「……カズマ?」

 

「あ?…お、おおっ…じゃー…えっと、覗いてみるか」

 

変にドキドキした影響で眠気が完全に吹き飛とんでしまった俺は、頭が覚醒し冴え渡るのを感じながらそっとめぐみんの部屋を覗きこんだ。

 

……っておい。

 

「めぐみん。やっぱりお前の部屋に帽子あるじゃないか」

 

あっけないにも程がある。

お目当ての物は、彼女のベットの上に堂々と鎮座していた。

正面から見るとどこか顔にも見えるあの特徴的な魔女っ子帽子は、めぐみんのもので間違いない。

部屋が荒らされた形跡もないので泥棒が入り込んだ線も薄いだろう。

 

「え…そんなはずは…カズマだって昨日私が帽子かぶってあなたの部屋に来たとこ見ましたよね?」

 

「だから昨夜はめぐみんのアレな姿を脳内に焼きつけるのに必死で、それ以外のことは何も覚えてません」

 

「ええっ!む、夢中になってくれるのは嬉しいですけど、それぐらいは記憶しておいて下さい!」

 

真っ赤になっためぐみんが胸元を掴んでガクガク揺さぶってきたけど、覚えてないもんは仕方ない。

お前があんな姿を見せるのがいけないんだ。

 

「うるさいですよバカップル。何を朝からイチャイチャしているのですか」

 

………え?

 

思わずめぐみんと逸らしていた顔を見合わせる。

聞き間違えるはずがない。

今のは彼女の声だ。

 

「お前何自己分析して発言してんの?」

 

「自分自身をバカップルだなんて、そんな恥ずかしい事言いませんよ!」

 

眉を顰めためぐみんが俺の肩を軽く叩いて反論し、ベッドの上に鎮座している帽子を指さす。

 

「というか、今帽子が喋ったような気がするんですが…」

 

耳元でひそひそしつつ、そーっと背後に隠れるように移動する彼女の言葉に思わず吹き出した。

 

「おいおい。流石にその嘘は苦しいだろ。恥ずかしがらずに正直に」

 

「あ、私は付喪神のつくもんです。どうぞよろしくお願いします」

 

…………

今度ははっきり帽子の方から聞こえた。

しかも何かもごもごしてたのも見てしまった。

あれだ。「ハ〇ー・ポッ〇ー」に出てくる組分け帽子みたいな感じで…

 

めぐみんも確信したのだろう。

ぎゅっと腕をつかむ力が強まったのを感じる。

名前とか声とか色々とツッコミたいことはあるが、とりあえずこれだけは言っておきたい。

 

「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!」

 

「うるさっ!いきなり叫ばないでください!なんなんですか!」

 

あ、今突っ込んできたのはびくっと震えて離れためぐみんの方だ。

声が一緒でややこしいが。

 

 

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「間違いないわね。付喪神よ」

 

めぐみんの帽子はこちらに危害を加えるような様子はなかったものの、油断して痛い目を見たのはこの世界に来てから一度や二度ではない。

命を落とすような経験はもうこれ以上得たくないので、俺はこの手のものに詳しい(はずの)アクアを部屋に呼び出し鑑定してもらっていた。

 

うむ。

どうやらこの帽子、嘘はついていなかったらしい。

 

「でも付喪神っていうのは、憑依までにとてつもなく長い時間をかけるって話を俺は聞いたことがあるんだが」

 

聞いたのは日本だから、異世界の基準は知らないけど。

 

「そうね。うっかりしてたんじゃないの?」

 

うっかりって。

そんな適当でいいのかよ。

俺とめぐみんの帽子を見る目に、胡散臭さを感じる色が加わったぞ。

 

「いやー気がついたらギシギシアンアンとうるさかったあの部屋へ吸い寄せられていましてね…どうしてこの辺りに来たのかは思い出せないのですが」

 

「ギシギシ…?」

 

「大丈夫だ。気にするところじゃない」

 

アクアが小首を傾げたが、その線の話題に持っていきたくないのでやんわりとごまかした。

どうやらこの世界では人ならざる者の目も気にしないといけないようだ。

 

「ということは、私たちが寝た後にカズマの部屋からあなたは移動したということですか?」

 

つくもんが引き寄せられたという理由を聞いてちょっぴりだけ頬を染めためぐみんが、アクアに聞こえないようヒソヒソ声でした問いに帽子が先端を垂らし頷いた…ように見えた。

自分で移動出来るのか。

だからめぐみんの部屋の扉が少し空いてたんだな。

…体当たりでもして開けたのだろうか?

 

「で、なんでつくもん…だっけ?つくもんはめぐみんと同じ声なんだ?」

 

もういい加減紅魔族風の名前に俺は慣れてしまったが、名前がつくもんで声までめぐみんにそっくりとは偶然にしても出来すぎている。

 

「私が宿ったのが彼女の帽子なので、色々と影響されているのですよ」

 

「ふーん。持ち主の性格が反映されるとか?ということは本名じゃないの?」

 

「まぁ簡単に言えばそういうことですね。というか、正式な名前は物に宿るまで無いですし、宿る前の記憶もほとんど残らないんですよ。とりあえずつくもんと呼んでください。何故だか妙にしっくりくるのです」

 

そりゃーめぐみんの中身が反映されてるなら、そういう名前にさぞ胸踊ることだろう。

…ん?

ということはもしかして…

 

「もしかしてお前、俺の事好きになってたりするんじゃないか?」

 

「ちょ!何言って…!」

 

アクアと一緒に黙ってつくもんを観察していためぐみんが、俺の言葉に慌てて手を振りこちらに迫る。

…が

 

「別に貴方の事なんてなんとも思ってないですけど。そもそも私に性別はありませんし」

 

「あ…はい」

 

なんだろう。

めぐみんが言ってる訳では無いのに、声が同じだから『なんとも思っていない』発言にグサグサ胸を抉られるんだが。

 

「…あ、あの!念のために言っておきますけど、私はカズマの事大好きですからね!」

 

つくもんの言葉に顔を引き攣らせるのを見かねてか、俺の言葉を止めようとしていたはずのめぐみんが腕を取りながらフォローを入れてくれた。

 

「ありがとうめぐみん。愛してる。もっと言ってくれ」

 

「ダメです。流石に最近あなたを甘やかしすぎていたので、追加分はお預けです…あ、愛してると言ってくれるのは嬉しいですが」

 

手を握ろうとしたら、複雑そうにニヤニヤされながらもペちっと軽くはたかれてしまった。

もしかしてチョロいと言われたことをまだ気にしているのだろうか。

可愛いやつめ。

 

「とりあえず、付喪神が宿っていようとこれは私の大切な帽子ですし、被っても問題ありませんよね?」

 

帽子を両手にとっためぐみんが、アクアの方に振り返る。

 

「まぁ…危険ではないけどね…」

 

待て。

なんだその含みのある言い方は。

 

「私は装着してる人の本心を読み取る力を得ているのですよ。ふふふ」

 

「ふふふじゃねぇよ。さとり妖怪の一種かお前は」

 

つくもんがアクアの代わりにニヤリと口端を上げた…ように見える皺の動きをさせながら答える。

なんて恐ろしい能力なんだ。

絶対被れねぇ。

…特にコイツらの前では。

 

「私がカズマ達に隠している事なんてもうありません。別にいいですよ」

 

「すごい自信だなお前」

 

めぐみんはこの付喪神の恐ろしい能力を聞いても怯むことなく帽子を被った。

 

…うん。やっぱりめぐみんに良く似合う。

このいかにも魔女っ子って感じが。

本人は魔女っ子なんて可愛い言葉で片付くような大人しい奴ではないとしてもだ。

 

「お、おぉ…これは…すごいですねあなたは!」

 

「ふっ…そうでしょうそうでしょう。私の中に隠したくなるようなやましいことなど…」

 

「昨晩あれだけそこの男とイチャイチャしていたくせに、まだ足りないんですか?」

 

つくもんがそう喋ってる途中で、めぐみんは既に勢いよく帽子を地面に叩きつけていた。

 

「おい。そう言うのはもっと早く言ってくれよめぐみん」

 

「ち、違います!今のはこの付喪神が適当言っただけですよ!」

 

「めぐみんめぐみん。残念だけど、この子の能力は本物なの」

 

なるほど…

これは思ったより使えるな。

いいぞもっと聞かせてくれ。

 

「アクア!どうにか付喪神を引き剥がす方法は無いのですか!」

 

「うーん…」

 

さっきとは打って変わって冷や汗を額に浮かべながら、めぐみんがアクアの肩を掴んでガクガクと揺らして問う。

 

「分かんない」

 

一応腕を組み考える素振りを見せていたが、アクアは呆気なく諦めて首を振った。

 

「そんなに嫌なら、諦めて同じデザインの帽子を買うなり作るなりするしかないな」

 

俺としてはむしろ、今みたいなめぐみんの本音を聞けるならずっと被ってもらってても構わんのだが。

 

「いやー本当に凄かったです。カズマさんへの愛と、仲間への信頼と友情で溢れていましたよ。危うく私も影響を受けて、ヒトじゃないのにあなた達のことを好きになっちゃいそうでした」

 

「え?今仲間への信頼と友情って言った?めぐみんってやっぱり私のことも大事に思ってくれてるって事ですよねカズマさん!私仲間だもんね!ねぇねぇ!」

 

「当たり前だろアクア!コイツはパーティメンバー随一の仲間思いキャラなんだぞ!でも1番想われてるのは俺だ。間違いない」

 

「お願いですからつくもんはもう永遠に黙ってもらっていいですか!」

 

 

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その後、

結局あの帽子への愛着でどうしても手放したくないと言うめぐみんは、上手く付喪神と共存しなければならないという話で渋々納得せざるを得ないことになった。

情報提供の対価を要求してきたアクアに、こんなこともあろうかとその辺の川辺で拾っておいた変な形の石をあげるというイベントも起きたが、それは些細なことだ。

 

そんな形で話が一段落着いたところで、俺達は日課の爆裂散歩へ出発したのだが…

 

「めぐみんさん。彼と腕を組まなくても良いのですか?」

 

「お?なんだめぐみん。もしかして毎日そんなこと考えていたのか?ん?」

 

「あぁぁぁ!!!うるさいですよ!黙ってて下さいと言ったではありませんか!」

 

自分の帽子をワシャワシャと弄り回しながら、めぐみんがチラッとこちらを見つつ頬を染める。

絶対いつも通りにはいかないだろうなとは思っていたが、早速これだ。

 

「そんなに嫌なら、被らず手で持ち歩けばいいじゃん」

 

「それはなんか負けた気がするので嫌です」

 

その勝負は勝ち目が無いからやめておいた方がいいと思うが。

 

「じゃーやっぱりつくもんに喋るのを我慢してもらって…」

 

「私は気になることに口を出さずにはいられない性格なので嫌です」

 

そしてこの付喪神は能力との組み合わせが最高にえぐい性格だな。

そういう所も、少なからずめぐみんの影響を受けているのかもしれないけど。

 

「くっ…どうしてこんなめんどくさい事に…」

 

唇をぐぬぬと噛みしめて、めぐみんが深いため息をつく。

 

「というか、なんで今更腕を組むのを恥ずかしがってんだよ。そのぐらいお安い御用だぞ。あとお前がものすごく仲間思いな奴なんて事は、もう随分前からバレバレだからな」

 

「自分じゃなくて他の人の口からそういう事を告げられるのが恥ずかしいんですよ!心の準備が出来ないんです!」

 

まぁ実際爆裂散歩のときは、人気がなくなったところまで来たらたまーに腕を組んだり手をつないだりはしていたからな。

その行為自体は別に良いんだろう。

 

それにしてもコイツは妙なところで恥ずかしがる癖がある。

普段は両想いだと分かっていてもこっちがドギマギしてしまうぐらい、グイグイ迫ってくるくせに。

 

「あっ、そうだ」

 

なんだかんだで結局手を繋ぐことに落ち着いた所で、ふと1つの案を思いついた。

 

「どうしたんですか?」

 

「アクアがあれだけ詳しいなら、同じ女神のエリス様なら他にも何か知ってないかなぁーって…」

 

「…知ってたとしても、どうやって聞きに行くんですか?またカズマが死ぬのは絶対に嫌ですよ」

 

「いたたた手を握る力が強い!落ち着け自分から死ぬつもりはねぇよ!」

 

しかめっ面になっためぐみんが不安気にこちらを見上げながら力を込める。

それだけ心配してくれるのは嬉しいけど、俺との筋力差をコイツには改めて教えてやりたい。

 

「ダクネスやクリスはエリス教徒だろ?ならエリス様本人程ではないにしろ、何か知ってるかもしれない。それにお前だってやっぱりこのままじゃ嫌だろ?」

 

とか言いつつ、クリスなんてもろ本人だからな。

絶対何かしら知恵を授けてくれるはずだ。

 

「なるほどそういう事ですか…では、今日の爆裂魔法を撃ち終えたら早速聞きに行きましょう!」

 

「カズマはやっぱり頼りになりますね!ありがとうございますっ!…のセリフを忘れてますよ」

 

「あっ…!わ、私が言う前に余計な口出しをしないでもらおう!」

 

完全に付喪神にペースを握られて帽子と格闘するめぐみんを見て、俺は早めになんとかしないとこの娘はストレスでところ構わず爆裂しかねないなという危機を本気で感じるのだった。

 

 

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「と言うわけでダクネスとクリス。相談に乗ってくれ」

 

冒険者ギルドにて、

どでかい爆裂魔法を放った後のめぐみんは、ストレスによる集中力不足を見逃さなかった俺の80点という採点に不満と疲れを滲ませた表情を浮かべながらも、隣に座ってペコりと向かいの2人に頭を下げた。

 

「なるほど話は分かった。まずはその効果を試してみたい。1度…わ、私が…はぁはぁ…か、かびゅってみてもいいかっ!!!」

 

「やっぱりお前は退席していいぞ。あとはクリスに聞くから」

 

「ぁぁぁっっ!!!…さ、さすがカズマ…一切の容赦も遠慮もないっ!」

 

自らの欲望を付喪神によって俺達に暴露されたいという願望が見え見えの変態クルセイダーに、俺は本気でそう思った。

コイツを呼んだのはクリス1人だけを呼んで、何故最も身近のエリス教徒を呼ばないのか怪しまれないようにするためだし。

 

「ま、まぁまぁ…で、付喪神…だっけ。確かにエリス様なら、何か知ってるかもしれないね」

 

クリスが隣で身をくねらせ息を荒くするダクネスに苦笑いを浮かべながらも、俺にだけ分かるように目線で合図を送ってきた。

こういう言い方を彼女がするという事は間違いない。

心当たりがあるということだろう。

 

「ほ、本当ですか?この付喪神は思ったより厄介でして…このままではこの街が爆裂魔法で廃墟と化すのも時間の問題なのです」

 

「一応皆さんに伝えますと、めぐみんさんはかなり本気ですよ」

 

そんなことはつくもんに言われなくても、青白い生気を失ったような表情をしているのに瞳だけギラギラと紅く輝かせているめぐみんを見れば分かる。

 

「めぐみんの発言に関しては言うまでもないけど、つくもんもちょっとは発言を我慢しようとかいうそういう意思は無いの?」

 

「ありません。口が勝手に動いてしまうんです」

 

もうやだこのコンビ。

相性最悪じゃねぇか。

…いや、心を丸裸にされちまう相手に対して相性もクソもないか。

 

「あはは…どうやら話を聞くよりも大変な事態みたいだし、二人ともとりあえず教会まで一緒に行こっか」

 

 

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エリス教会

頻繁に来ているわけじゃないけど、入った途端に空気が変わるというか、そういうのを肌で感じることが出来るぐらいには、

『あ、なんか場違いな所にいるな』

と感じられる場所。

そんな神聖な空気の中、俺には何に使うのかよく分からないやたら長い蝋燭やキラキラとした装飾が配置されている豪勢な横長の机の中央に、まるで贄のような感覚でぽつんと置かれているつくもんが、先程からクリスがボソボソと何か囁く度に淡い光に包まれて輝きを増していた。

所々エリス様うんぬんかんぬん言ってるのは聞き取れたが、これは…

 

「自作自演ってやつですよね」

 

「しっ!静かに…!せっかく天界で行方不明者が出てるって言う話を思い出して、もしかしたらって憑依する前のこの子の記憶を呼び覚ましてるのに!」

 

耳元でボソッと呟いた言葉に、クリスが慌てて振り返りながら小声の早口でまくし立てる。

この女神様は意外とおちゃめな一面があるからな。

 

「お…なんでしょう…なにか大事なことを思い出しそうな…頭の中の霧が晴れていくような…気持ちいい感じです…あぁぁ…いいですねぇ…いいですよぉ!」

 

光の勢いが強くなり、いよいよ直視するのが辛くなってきたレベルになる頃。

つくもんもまるで爆裂魔法詠唱中で気分が昂っているめぐみんのような声で、ボソボソと言葉を発し始めた。

 

「こんなことが出来るなんて、私は初めて知ったぞクリス」

 

その様子を見て、今日はヒマだからとモジモジしながら着いてきていたダクネスが眉をひそめて驚く…というよりは訝しんでいた。

そりゃーただのエリス教徒にこんな芸当は出来ないだろうしな。

 

「私は勘づいていましたよ。彼女は特別だって」

 

めぐみんの瞳は相変わらず爛々と紅く輝いており、いつか一緒に盗賊活動をした時のような憧れの色をそこに滲ませていた。

どうやらあの時の姿と重ね合わせてクリスのことを見ているようだ。

真の正体を隠すには、逆にちょうどいい隠れ蓑なのかもしれない。

 

「あのー…めぐみんの視線をビシビシと感じるんだけど…ちょっと恥ずかしいな」

 

「どうぞお構いなく」

 

何を期待しているんだコイツは。

これからクリスが行う行動一挙一動全てを見逃さないように網膜にでも焼き付けるつもりなのか、ちょっと妬けてしまうぐらい彼女のことをガン見していた。

 

「えっと…少しこわいぐらいなんだけど…」

 

めぐみんのただならぬ気迫に押されて、ひそひそ声を出しながら俺の影に隠れようとするクリス。

 

「………」

 

その姿を見ためぐみんが彼女を追うように…

バッと勢いよく飛び出してきたかと思ったら、大人しく鎮座していたつくもんを取り上げ間髪入れずに俺の頭にストンと…って!

 

「おぉい!何しやがんだめぐみn」

 

「あぁぁ思い出しました!」

 

俺が自分の置かれた状況で焦りもがいて両手を頭に当てるのと同時に、つくもんも大声で叫んだ。

声が脳内で反響するような感覚に頭痛を覚える!

とゆうかマジでうるさいっ!

あとめちゃめちゃ眩しい!

 

「私まだ降りてくるのは早かったんです!もう少し修行を積むつもりがうっかり足を滑らせて…って、おや?」

 

「まてまてまてもういい喋るな!」

 

付喪神の修行って何やるんだとか、足を滑らせてなんでこっちに来るような事になるんだとか色々と聞きたい事はあったが、今はそれどころではない。

感情の昂りのせいか、つくもんはぎゅーっと頭を強く締め付けやがるので、慌てて脱ぎ捨てようとしても全然上手くいかないし!

 

「どうやらこのままつくもんはいなくなってしまいそうなので、最後にカズマの本音を聞きたいと思いまして」

 

そしてこの現状を引き起こした張本人のめぐみんは、ニマニマと悪笑いを浮かべながら肩にぽんっと手を置いてきた。

 

「ちょ!なんてことしてくれてんだ!」

 

「か、カズマ…なんて羨ましいんだ!次は私に被せてくれ!」

 

「うるさいお前は黙ってろ!」

 

とにかく早く脱ぎ捨てなければ…!

こうしてる間にも、つくもんには俺の頭の中身が次々と読まれてしまっているはずっ…!

勘弁してください!

今すぐ隣でヨダレを垂らしそうになってるド変態の頭の上に飛び移ってください!

 

「私の本音だけ聞かれるなんて不公平ですよ。恋人なんですから、お互い様です」

 

慌てる俺の様子を見てクスクスと笑い続ける小悪魔めぐみん。

クソっ!完全に油断してた!

クリスの行動に興味を持っていると思ったのに、最初からこれが目的だったんだなコイツ!

 

「おー…」

 

つくもんは少し落ち着いてきたのか、頭の締め付けが緩くなってきた。

このチャンスは逃せないっ!

 

バサッ!

 

「はぁはぁ…」

 

勢いよく脱いだつくもんをもとの場所に設置しなおし、額からあふれ出ていた冷や汗を拭って一息。

 

「む…そこまで慌てるなんてちょっと予想以上です。カズマは何か私たちにバレてはマズイ様なことでも考えていたのですか?」

 

最初こそ面白いものを見るような視線を向けていためぐみんだったが、あまりに慌てる俺を見てか、それも徐々に曇りを見せ始めていた。

 

「いやいやいやそんなことはあるはずないだろ。ところでつくもんよ。お前は早く帰った方がいい。さぁさぁ」

 

「おーっと待ってください!最後にしっかり聞かせてもらいますよ!カズマが何を考えていたのか!このまま『はいさようなら』なんて絶対に許しません!」

 

つくもんがめぐみんの大声にくるりと振り返ったところで、俺はすでに教会の出口へダッシュする準備を済ませていた。

よし…何か一言でもこの付喪神が言葉を発したら、俺の逃走スキルが火を噴くぞ。

 

「えーっとですね…」

 

「なんですか!早く早く! あとダクネス!カズマが逃げないように取り押さえておいてください!」

 

「分かった!」

 

ガシッ!

 

「いたっ!おいこの筋肉女!離せって!腕がもげる…!いたたたっ!」

 

「諦めろカズマ!そして恥ずかしい心の声を暴露された羞恥の味を後で私に教えてくれ!」

 

ダメだこの変態。

連れてきたのが間違いだった。

 

「一言で言うと、めぐみんさんに負けず劣らずでした」

 

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「え?」

 

紅魔族随一の天才を自称する私でも、

つくもんの一言が何を意味するのかすぐに は理解できなかった。

 

「おいダクネス。今手を離してくれたら、屋敷に戻ってから新調したミスリル製のロープで全力魔力をこめたバインドをお見舞いしてから一日放置してやる。どうだ?」

 

「な、なんだと!?それは本当か!」

 

カズマ達の方を振り返って、アホなやり取りをダクネスとしながら顔を真っ赤にして必死に逃げようとする彼と、視界の隅でこれまた赤くなりながら何かを察したようにあっと小さな声をあげて視線を逸らすクリスを見て、私の頭が徐々に理解をし始める。

つくもんのことばを咀嚼し飲み込むようにゆっくりと…

 

「貴方の事…それから仲間のことでいっぱいでした」

 

シーン…と、場が静まり返った。

 

ポカンとするダクネスはすでに拘束を解いているにもかかわらず、カズマは顔を真っ赤にしたまま気まずそうに頭をかくだけでその場を動かない。

 

「貴方たち1人1人のことをとても丁寧に考えていましたが、特にめぐみんさん。あなたに関しては…あなたがカズマさんを想うよりも、下手したら強い気持ちでもごっ!」

 

「ク、クリースッ!はやく!はやくその付喪神にお帰りになられて!」

 

もう逃げることは諦めたのか。

逆に私の隣まで走り寄ってきたカズマはつくもんの口として作用していたっぽいところを抑え込み、近くにいたクリスに催促をした。

 

「えっ…あ、う、うん!」

 

慌てて謎の儀式を再開させる彼女の動きに連動して、つくもんの身体に再び光が纏わり始める。

 

「めぐみんさん。心配しないでください。そこの男は素直じゃないですから、あなたや仲間を大切に想ってることを知られたくなくてですね」

 

そこまで言ったとき、帽子から湧き出る光が一層強くなり…

そして、刹那の閃光を最後に消えた。

同時にくたり…と、何か憑き物が落ちたように私の帽子が机の上に残る。

 

「なんですか。隠す必要なんて全然ないじゃないですか」

 

それを拾って頭に被りながら、私は口元のゆるみが抑えきれない状態で真っ赤になったままのカズマの方へと振り返った。

 

「いやなんのことだい?実は俺は今意識が覚醒してな。ついさっきまで夢の中にいたような感覚で…」

 

「そうやって本当は優しいのになぜか隠そうとするんですよね。あなたは」

 

素直じゃないんですから。

慌てて身振り手振りを加え言い訳をする彼に走り寄って、周りの目があることも忘れてぎゅーっと正面から腰に手を回して抱き着いた。

もしかしたらよからぬことを企てているのでは…

なんて考えていた自分が恥ずかしい。

カズマのことは、誰よりも自分が信頼しているはずなのに。

 

「…お前らに知られたら、絶対からかわれるだろ」

 

「そんなことないですよ」

 

ねっ、とダクネスの方を振り返る。

 

「そうだな。後でアクアにも教えよう。カズマはやはり私たちのことを大事に思ってくれていると」

 

「いやだからアイツに一番知られたくねぇんだよ!絶対それをネタに色々と要求してくるだろ!」

 

うわぁぁっとハグから逃れ頭をかかえてかがみこみながら、カズマはボソボソと文句を言い続ける。

 

「大切に思ってることをからかわれたって、堂々としていればいいじゃないですか。それで何か要求されても動揺することなんて無いですよ」

 

「めぐみん…そんな事言ってドヤ顔してるけど、お前も本心暴露されて動揺してただろ」

 

「そ、そんなことはありません!さぁカズマ!家に帰りましょう!」

 

「私の愛している…が、抜けてますよ。お互い変なところで素直になりきれないバカップル」

 

「「「え?」」」

 

ジトーっと絡みつくようなカズマの視線を慌てて振り払って、彼の手を取り立ち上がったその時だった。

頭の中で反射するような奇妙なところから聞こえた今の声は…

つくもん!?

 

「あ!その付喪神!帰ってきたの!?」

 

今の今まで生暖かい視線で私達を見守っていたクリスが慌てて駆け寄ってくるのと同時に、どこか得意げな雰囲気すらする口調でつくもんが喋り始める。

 

「天に昇る途中で考えたのですが、このまま天界に戻っても大目玉を食らうだけです。なので…もうしばらくこっちにいて、ほとぼりが冷めて私が忘れ去られたころにひょっこり戻ろうかなって思いました。流石私。いやー知力が高い紅魔族の方の持ち物に憑依できるとは、ラッキーでしたね…と、いうわけで…これからしばらくよろしくお願いします。めぐみんさん」

 

プツンと、

私の中で何かが切れたような音がした。

もう我慢の限界だ。

 

「…黒より黒く、闇より暗き漆黒に」

 

「ままままって!ダメダメめぐみん!落ち着いて!教会で爆裂魔法は絶対にやめてぇ!!!」

 

「そうだぞめぐみん罰当たりな!やるなら外で私に向かって…!」

 

「だぁぁぁ!!!せっかく良い感じにまとまりかけていたのに、どうして毎回毎回こうなるんだぁ!」

 

今日はもう爆裂魔法を撃った後だという事を忘れてしまっているのか、それとも私の様子が迫真だったからか、はたまたつくもんに振り回されて余裕が無かったからなのかは分からないが、無意識に口から出てきた言葉にカズマ達が右往左往して慌てふためくのを見ながら頭上から聞こえる楽しそうなクスクス笑いをする付喪神の声に、私は心の中で大きなため息をつきひとつ決心するのだった。

 

この帽子はしばらくカズマに被ってもらおう。


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