逆に考えるんだ。かなり前の作品だから、気にしなくていいさって。
『非日常』とは、『日常に非ず』と書く。
変わらない毎日が突然、変化していったことを意味し、『物語』はいつも変わらない『日常』から飛び出し、いつもと違う『非日常』へと飛び込んでいく『冒険』である。
では、『非日常』が『日常』へと変わってしまった、『大崩落』の前はニューヨークと呼ばれていた街、ヘルサレムズ・ロットでは、どのような『物語』がはじまるのか?
世界が滅ぶのは日常茶飯事、異能力に危険な
そんな『危険』が転がっている街、しかし、『物語』は幕を開けようとしている。気高い『誇り』を抱き、確かに受け継がれていく黄金の『意思』。
これは、『危険』と隣り合わせな街に暮らす『ジョジョ』と彼のその周囲が繰り広げる『日常』を綴り、そして彼の『血筋』に関わる『物語』である――。
『おう、いい子で待ってんだぞ。馬鹿息子』
電話の向こう、父親は年甲斐もなく、どこか軽い調子で『息子』に念押しした。両親はよく世界各国を飛び回ることが多く、今回は妹も一緒にヘルサレムズ・ロットを出立して旅行に出かけている。
父親が一山当てたことをきっかけに家の暮らしは裕福で、いわゆる、『ボンボン』と呼ばれる部類にあたるのが
彼である。
幼い頃、父親はよく家を空けて世界各国を飛び回っていた。身の回りの世話をしてくれる使用人に尋ねてみると、「旦那様は世界を守るお仕事をなさっているのですよ」と笑って言っていた。
使用人やごくたまに帰ってくる父親が遊んでくれることもあり、あまり寂しいとは感じたことがなかった。こうして、頻繁に連絡してくることもあるのが理由でもあるのだが。
ある一定の年齢になった頃、父親は今度は母親を連れて世界を回るようになっていた。そこに姉も連れていくようになりはじめ、一人で大きな屋敷で夜を明かすこともあった。
「……いや、急に言われても困るんスけど」
『だからよォ、こうして電話してんじゃあねえか。いいか、パパってのはな、娘が悪い男に引っかかりやしないかと心配するもんなのよ。それなら、目の届くところに置いといたほうがいいってもんだろ?』
「息子が不良にでもなっちまったら、どうするつもりなんスか?そこんところ、考えてないとか?」
『オメーは大丈夫だ、ルージ。なんたって、『ジョースター』の男だからな。いいか?父さんが十八のときはな……』
「強ェー奴を倒したんだろ?何回言うんだよ。耳にタコできるくらいに聞き飽きちまったぜ」
自分の部屋の鏡を見つめ、父親譲りの跳ねた黒い前髪を手櫛を入れながら、ことあるごとに聞かされた若き日の父親の武勇伝がはじまろうとすれば、それを遮る。
ジョースターの血は、遡れば、父親の祖父はイギリス人であったことから、英国が原点であったとされる。そこにイタリア人の血やらが混じり、その顔に父の軽薄そうな面影は残しているものの、ルージは母親の血もあって明るい印象を与える。
さらに、ジョースターの男と言うのは、代々、体格良く身長も高いという遺伝子の恩恵を得られていることもあり、ルージの身長は非常に高く、現在も身長は伸びているということで、身体の節々が痛む日もある。
『ねえ、パパ!相手はルージ?なら、私にも代わって頂戴!』
電話の向こう側で女性の声がする。
ルージの姉もまた当然のことながら、一緒にいるようだ。父親がスピーカーホンにしていたのか、ルージの声をスマートフォン越しに会話を聞いていたらしい。
二十代で大学生、天然気質で令嬢、さらに美貌もあって学校での人気も高いと聞く。しかし、その抜けたところから告白されても時折自分のことだと分からないこともあり、受け流してしまう悪癖がある。
『お、おい!ちょっと、待てったら!』
『ハーイ、ルージ!』
「姉貴。また親父がスピーカーホンにしていたのか?それとも、」
『私が『聞きつけた』……と言いたいんでしょう?その通りよ』
まるで、『能力』で察知しているかのように姉は高確率で父親との電話の最中、父親に代わって電話に出ることがある。
ほとんど騒いでいるのは父親のほうだが、それにしたっていつも、『嗅ぎつける』ような姉は恐ろしすぎる、と感じたルージであった。
昔から父親とその友人が『能力』を使えるのは間近で見ていたから理解はあるが、『女の勘』と言うには鋭すぎる姉の反応振りに遅くに帰っても理由を見破られるせいもあり、頭が上がらない人物であった。
「姉貴さ、コミックとかであるような超能力者だったりしない?」
ルージは溜め息をつきながら、姉に尋ねた。
『?インディ・ジョーンズみたいなことをしていたのが私たちのパパじゃない。訂正なさい、ルージ。パパはコミックのヒーロー以上、ハリウッド映画のヒーローよ?私が『能力」の一つや二つあっても気にしないの。若いときのパパは、遺跡に迷い込んで、トロッコで逃げたり、シーザーおじさんと化け物と戦ったのだって。必殺技とかないくせに悪知恵かましてやったのって、最高にクールでしょ!?』
ルージの姉、ホリィはルージと違って父親の武勇伝を聞くことは未だに心を躍らせるほどに楽しんでいる。先祖のように考古学者となり、世界中をパパママと回るのが夢と昔から語っており、それを彼女が叶えるだけの金をジョースター家は持ち合わせていた。
学費のかかる大学にしろ、どういったところにしろ、ホリィの頑張りを応援したいと言うのが父親の方針であり、猛勉強の末、無事に考古学のある難関大学に合格したのは大したものであったとルージは当時を振り返る。
父親の武勇伝を好んでいるが、それでも、父親の親友のシーザーと比べ、必殺技がないことを悩んでいたと言う当時の父親が立ち回りや先読みで困難を乗り切ったのを「悪知恵かましてやった」と言うのは、とんでもないことをしでかす母親に似てしまったのだろう。
電話の向こう側、『その言い方はあァァんまりだァァァ……』とオーバーリアクションをとる父親の声、容易にその姿を想像できるのがつらいところ。アーメン。
「……未だに信じられねえんスよ、あの娘離れできねーのが化け物と戦ったってのは。いや、戦ったってのはグレートだって思うんスよ?でも、シーザーおじさんが言うにはまだしも、親父が言うと胡散臭いって言うか」
使用人が「ジョジョ坊ちゃん、朝食の用意ができましたよ」と言う声がすれば、洗濯され、綺麗に折りたたまれたシャツとズボンに寝巻きから着替え、廊下に出て階段を下りていく。
曾祖母の生前、『大崩落』前、「屋敷を立てるなら、おじい様のお屋敷がいいわ」と言うリクエスト、おばあちゃんっ子であった父親が応えたものだ。
特殊な『力』を扱えたのは確かだが、それ以上に父親――ジョセフ・ジョースターという男は舌が回り、頭のキレが大変良い。
勝てないものを挙げるとすれば、溺愛している娘のホリィ・ジョースターか育ての親であった祖母のエリナ・ジョースターくらいであろう。
天然気質の妻には平気で突っ込みを入れるし、ルージにはなぜだか容赦がない。ほとんど家にいなかったのに父親との思い出があるのは、その『強烈』な『性格』に振り回されているからだろう。
老いてなお、常日頃から誇り高い父の盟友はルージにとっては、第二の父親も同然であった。誕生日には必ずバースデーカードを送ってくれるし、武勇伝の話もそれほどにしつこくない。
ただし、ジョセフに振り回されていたのは間違いないようだが、なにより親しみの沸く人物であったので、今もやりとりをしている。
『……シーザーちゃんめ、ルージの奴に何を吹き込んでくれたんだ!?』
『たぶん、パパのそういうところだろうなあ』
『じゃあ、しっかりとね。ジョルジュ?』
息巻くジョセフの声が聞こえてきたので、おそらく、姉がスピーカーホンにしたのだろう、とルージは予測した。
スマートフォンを奪って、『かわいい息子との通話』を切り、親友に文句でも言うつもりなのだろう。その前に母親の明るく、どこか間延びしたような声に広いリビングに着いたジョルジュは席に着きながら、
「任せとけって。お土産期待してるから」
と言って、通話を切り、使用人が用意してくれた朝食にありつきはじめた。
元ネタのタイトルは第二部戦闘潮流のニューヨークのジョセフ・ジョースターより