超幸運≠平穏 ~神様のご都合主義~   作:紅月 煌

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遅くなってすみません。モブに設定つけすぎですかね……?


認めたくないがこれしかない

 あの後はすぐ寝た。色々ありすぎて頭がボーッとしてたので、風呂もパスして即行寝た。ぐっすり朝まで熟睡した。

 おかげで翌朝は陽が出る前に自然と目覚め、いつもよりすっきりしていた。考える事が多いから丁度良く、支度と部屋の掃除をしながら思考を巡らせる。

 

 

 兄が家出した。今の私にできる事はなんだ。何がある?

 とりあえず、整理しよう。

 

 私の最終目標は家族で幸せに暮らす事だ。

 でもこれは一生じゃない。うちは金持ちになったが一般的な話として、家に金を入れて実家に住み続けたり、結婚しても親と同居したい訳じゃない。そこはいくら家族が好きでも弁えている。

 社会に出れば独立して、いつか一人暮らしを始めれば物理的に家族と離れる事になる。それでも心では繋がり、良好な関係を築き、関わりを持ち続けたい。

 

 例えば、仕事から疲れて帰ったら合鍵を持った母がご飯を作ってくれていて、こんな遅いなんて頑張りすぎよと困った顔で窘めらて、たまにはうちに帰ってらっしゃい、あそこも貴女の家なのよとか言われたい。

 それで急に実家に帰って連絡くらいしなさい、ご飯の用意してないわよと頬を膨らませて怒られた後、そんなに忙しいのと心配されたい。父に最近頑張ってるなと褒められて一緒に酒を飲んだり、社会で生きていくならと何かアドバイスや経験談を聞きたい。

 その頃には兄も社会人だから、今月ピンチなんだよとか何でもいいから急にご飯を食べに来てくれないかな。それで一緒に作って一緒に食べる。会社が近くて、お昼休みに待ち合わせて昼食を一緒にしたり、帰りに偶然会って飲みに行くのも良い。これは父も会社が近いと尚良い。お土産を買って皆で家に帰って母に仲間外れと拗ねられるか、酔っ払いが三人で呆れられるかして、最終的には家族揃って並んで寝たい。

 

 ああ、素敵だ。愛と笑顔に溢れ、親しいからこそ気を遣わなくて良い、愛し愛されてるからこそ信じて寄り掛かれる。そんな明るい未来が、私の目指す幸せな家族のイメージだ。

 だから、今まで軟禁を終わらせようと努力してきた。家族が必要不可欠だから、家族が離れ離れになる選択肢を真っ先に外してきた。

 結果、兄が家出して、行方知れずになってしまった。

 本末転倒だった。捜すにも、外出できない私に取れる手が少なすぎる。軟禁を終わらせるという、元々の問題にぶつかってしまう。

 

 そもそも、始めに両親が私を軟禁したのは危ないからだ。私が子供で弱くて、自衛できないと思っていたから。

 今は暴漢対策として鍛えてはいるが、例え彼女達五人を制圧できても両親は納得しない。より人数が多かったり何か便利な個性を使われれば、例え成人して武術の達人になったって危険に変わりない。

 そう考えると、両親は自分達が老衰で亡くなるまで私を出さないつもりかもしれない。あの両親の事だからそこまで考えているか分からないが、その為の資金を用意できてしまうから厄介だった。

 秘密を暴露すれば話は早いが、実は前世の記憶があって精神年齢は同じくらいですなんて打ち明けられる訳が無い。神様も転生も体質も、全てが異常だと自覚しているから、知られたくない。言ったとしても信じてもらえず、頭のおかしい子として見られるかもしれない。そんなのは、耐えられない。

 でも、それら全てを信じてもらわないと、せめて神様の娯楽の為の加護っぽいものだけでも信じてくれないと、安心の材料にはならない。

 

 だから、軟禁を終わらせるのは困難だった。

 それでも、あらゆる解決策を考え、実行した場合どうなるか今まで思考を続けてきた。失敗し、一度酷くなった事で及び腰にはなったが、考えなかった日は無い。

 そこへ兄を捜す事を加味して今更考えても、両親とまで離れ離れにならないようにしつつも上手くいく解決方法なんてすぐ出てこない。

 今のままでも私にできる事をするしかないが、その為にはもっと情報がいる。

 

 考えて、彼女達が敵では無くなったから可能な手を思い付いた。

 今まで彼女達は敵だったが、今は違う。完全な味方ではないが、それだけでも大きな違いだ。

 確かに彼女達の一番はクビにならない事。その為に動く。逆を言えば、そうでないならやってくれる。

 それに、彼女達は私に罪悪感を持ったままだし、両親に知られたくない事も昨日聞いた。負い目と、恐れ。この二つがある限り、大体は叶えてくれる。

 

 

 朝食と共に優柔不断のピンク、つまり桃下が来たので早速考えを決行した。

 ちなみに呼び捨てなのは、彼女達が嫌がったからだ。なんとか全面協力を取り付けようと、ダメ元で敬称を引き合いに出したら彼女達は元からそのつもりで後に引けなくなったのもある。

 

 折角なので、微妙ながらも味方になってくれた彼女達を紹介するぜ!

 無表情の使用人、グレー灰上(はいがみ)

 優柔不断の使用人、ピンク桃下(ももした)

 堅物のボディーガード、ブルー青左(あおさ)

 無口のボディーガード、イエロー黄中(きなか)

 言葉足らずのボディーガード、レッド赤右(あかみ)

 五人揃って、コミュ障戦隊キズナーズである!! うるせえ。

 

 おふざけは置いておく。

 

 さて、何をするのかと言えば、朝食に付いてきたフォークを首に当てて脅しながら伝言を頼んだ。

 内容は、今すぐ両親に伝言という名のこちらも脅しで、要求を伝える事。寝てる場合は叩き起こしても押し通す。

 

 要求は、指定した物三つを私に引き渡す事。

 一つ、兄の制服。

 二つ、兄直筆の置き手紙。

 三つ、兄の姿が映った監視カメラ映像。

 

 制服は用も無いし、すんなりいく。

 置き手紙は内容が予想できるだけに制服とは違い渋るだろうが、持ってる可能性は高い。あの焦りようが、まだ処分してない事を裏付けている。内容に関しても、私は身内で当事者。ただ見たい、手元に置いておきたいだけと言っておけば多分いける。問題は昨日あの後すぐに処分してないかだ。こればかりはいの、っちゃ駄目だ。そこまではしないと両親(りょうしん)良心(りょうしん)を信じよう。駄洒落にする気はなかった。ほんと。

 監視カメラ映像は、警察に連絡しなくてはいけないので嫌がるだろうが、聞き込みをする為に兄の家出当日の服装が知りたいとでも言えば変に思われない。なんなら涙ながらに、あの子の最後の姿が見たいとでも言えば尚良し。

 

 もし渡さないなら、窓から助けてと叫ぶ。

 もし用意しないなら、フォークを足に刺して自分を病院送りにして警察を呼んで直接頼む。

 

 話す順番と、両親の反応を想定して必要な事を吹き込み、おどおどしているピンクを無情に送り出す。そこへストップを掛けると考え直してくれたのかと表情が輝くが、必要なので突き落とします。食べ終わるまでに戻らなかったらスプラッタだと満面の笑みで無駄に脅せば、私の見込み通り本気にして涙目で走り出した。ごめん、その切迫詰まった感じが欲しかったんだ。

 追い詰めただけあって、あの様子なら成功の可能性はかなり高い。念の為、往生際悪く拒否された時の切り札も用意はした。でもそれは金稼ぎ一回なので、あまり使ってほしくない。だから最終手段と伝えてある。

 だって、脅しはあくまで脅し。実際にはやらない。刺すなんて超痛そうだし、絶対しない。

 

 

 床にも防音加工されているのに、時折下から聞こえてくる半泣き声に心配になりながらも食べ進める。消化不良起こしそうだ。思い付いた時はこれしかないと思ったが、やっぱり可哀想だったか。

 本当はもっとよく考えたかったが、両親が平静を取り戻す前にやるしかなかった。三つ、特に手紙を手に入れる為には、今が最後のチャンスかもしれないから。

 おそらく、昨日の警察訪問時点ではまだ処分されてない。でも時間の問題だし、手遅れになる前に手に入れたい。昨日思い付けばと思っても後の祭り。賭けにはなるが、最悪でも監視カメラ映像だけは欲しい。

 それでも決行したのは、動揺してそれどころではなく、不安で眠れなかったかもしれないし、生活が不規則ならまだ寝ているかもしれない。そんな、もしも、に頼った。寝起きに突撃させたのも、ピンクなのも、その為だ。少しでも成功率を上げたかった。

 

 もやもやするが、無口のイエローを見ると少し落ち着く。イエローの方がわちゃわちゃしているからだ。

 実はずっと居たイエローは無口なので説明中も口を挟まず、声を出さずに始終わたわた動いていた。ピンクは自分の事で精一杯で気付いてなかったので気の毒になって、臨場感を出す為のフリだと明かした。後で訳は話すが、今は必要な事であるとだけ教えて一度は落ち着いた。が、それも下から声が聞こえるまでだった。

 今は本当に刺さないか私を見張りながらも律儀に自室には入らず、ドア付近をぐるぐる行ったり来たり。そわそわとピンクは大丈夫か階下を気にしては、声が聞こえたら床をしばらくガン見し、助けに行きたいのか私とドア向こうの階段を見比べて頭を抱える。刺さないと約束しても私は心配だし、無口だから行っても力になれないとでも悩んでいるのか、朝食にも手を付けない。

 そこへ食べ終わってフォークを含めたトレイを渡そうとすれば、足を着かなければ入室していないんだと言わんばかりに、ドアの枠に両足首を引っ掛けつつ突っ張って身体を支え、片手はバランスの為にこちらの壁に突き、もう片手と上半身を精一杯伸ばして受け取った。

 

 テンパり具合はよく分かったが、コントか。こっちに気付いて、即座に跳んで、ほぼ無音で、それは確かに凄い。でも、その意味不明な頑張りいる? すぐ余裕無くなる所と、無くなったらそういう反応に困る事するからコミュ障なんだぞ。

 でも、前はもっと大人しかった。イエローも昨日の件で、より心を許してくれたのかもしれない。

 なんだか、敵とか考えてた私が馬鹿みたいだ。私も、心を許し始めている。

 嫌い続けるのも、警戒し続けるのも疲れる。張り詰めていたのに、今そうしなくなって、余裕ができたのを感じる。

 もう入室禁止を止めようと思ったのも、そうだろう。でも、それを言う間すらくれないのはどうかと思うんだ。

 

 ひとまず胸を撫で下ろしたイエローは何事も無かったかのように器用にトレイから何も落とさずに着地し、足早に待機室の外へ置いて周回作業に戻った。

 私はドン引きで平静に戻れたので、いつも通り食休みを兼ねて勉強を始めようとペンを持つ。しばらくして、やっとピンクが戻って来た。

 待機室の前のトレイで安心したのか息を吐いてイエローに纏わり付かれながら歩いてきたが、紙袋を胸に抱いていた。あの、例の紙袋だ。つい、凝視したままペンをグーで握り締めてしまった。

 ひぃっ、と飛び上がった涙目ピンクは慌てて許可なく自室に入ってきた。どうしたのかと思ったが、そういえばフォークよりペンの方が深く刺さりそうだな。

 そんな気はないのでペンを机に置き、差し出された紙袋を確認すれば、お目当ての手紙と制服が入っていた。時間的に残りの監視カメラ映像は無理だろうが首尾を聞きたくて、褒めて宥めて褒めて落ち着かせて、涙の引っ込んだピンクから報告を聞く。

 

 

 報告によるとやはり寝ていたが、必死に半泣きで揺すり起こした事で私に何かあったのかとすぐ覚醒したそうだ。

 そこで焦ってどもりながらも私の要求を伝えた所、やはり始めは渋った。

 起こされた矢先に突き付けられて不機嫌だった事もあり、八つ当たりでピンクの所為ではないかと怒った。置き手紙の件が嘘だと確信しているのは、彼女達が何か言ったのではと疑われたのだ。

 それで余計に追い詰めたから、ピンクは一心不乱に自分達ではないと否定した。その死に物狂いな様子に、両親は思い直したそうだ。

 

 殆ど会ってないから、両親の中では私はまだ幼いままなのかもしれない。だから、そこまで考える頭があると分かってなかった。悲しいが、理解する機会も時間も少なすぎた。

 前世の記憶があるからこその思考だったが、それは知られたくない。だから、今回の脅しはリスクもある。でも、兄を諦めたくない。放ってはおけない。

 私は、兄と話したい。理解したい。その為にはどうにか捜し出して、会わなくてはいけないから腹を括った。

 そうは決めても、できれば知られたくないとも思ってしまう。普通の十歳児がどの程度の知能かは分からないが、個人差はある。希望的観測だが、あの両親だし、いつの間にか成長していたと勘違いしてくれたら御の字だ。

 

 ピンクは両親からの疑いも晴れて少しは落ち着き、作戦を続行した。そうして兄恋しさにと偽り、持っているだけと説得し、ようやく制服と置き手紙をゲット。指示通りに上手くいった。

 しかし、監視カメラ映像は警察に連絡しなくてはいけないから、やはり嫌がった。そこで脅しの出番だ。

 今も上でフォークを刺そうとしているからと頼む涙目ピンクに、両親は折れざるをえなかった。ピンクが本気にしたから、それが伝わったのだ。既に自分達の知る娘ではないとさっき思わされたばかりで、信憑性があった。

 それに、でっち上げた理由で上手く誤魔化せる、なんなら同情を引けると思ったみたいで、その場で電話した。結果、怪しまれる事も無く、データを送ってもらう事を取り付けられた。今日中だから後でUSBメモリに入れて渡すと約束し、先に二つだけ持ってきた。

 

 追い込んだだけあって、ピンクは金稼ぎの餌を撒かずにミッションコンプリートの大活躍。心を鬼にしてやった甲斐があった。ありがとう!

 作戦は終了したのでピンクに、きちんと事情を話す。出勤直後も申し訳なかったが、ペンでも誤解させてしまった。気苦労を掛けた事も含めて、謝罪とお礼を伝える。イエローにも、心労を募らせた事を謝る。食事も冷めてしまった。

 二人とも、そういう事ならと許してくれた。本当にごめんね。

 それと、一人になりたい時はあるから部屋に籠もる事もあるが、女の子である事と基本マナーさえ守ってくれれば、入室にはそれほど気を遣わなくていい事を伝えた。もうコントは要らない。

 

 

 落ち着いたので、紙袋をベットの上に置いて中身を取り出す。

 手紙は横に置いて制服を広げてみると、黒いので出す前から予想していたが、やはり学ランだった。

 窓から玄関とアプローチは見下ろせるが、兄との接触を阻む彼女達が兄の出入りの時にも私を遠ざけたから、着ている所を見た事は無かった。大きいのでベッドに縦に並べたら父よりも身長が高いようで、こんなに成長したのかと感慨深い。これを着た兄を見たかった。

 出した時から鼻を掠めるのは、今の兄の匂いだろう。昔と違って知らない人の匂いがした。でも、なんだか懐かしい気がするのは家族だからか。

 くんかくんかしていたら視線を感じて、ドアを向いたらピンクとイエローがもぐもぐしながら顔を覗かせて何とも言えない顔をしていたが無視である。座って食え、行儀悪いぞ。

 気まずくはあるので、一応ポケットなどに何かないか探して誤魔化したが収穫はなかった。ハンカチも入ってなかった。

 駅と警察が既に調べて、もし何か入っていれば昨日報告があったと分かってはいたが、ちょっとがっかりだ。

 

 次は二つ折りにされた手紙を開く。

 学生らしく、ルーズリーフに書かれたそれは封筒にも入ってなかった。

 父の言っていた一文から始まった内容は、私の現状を中心に、両親がした事と、兄が打開する為に何をしたか書かれていた。最後の、これは犯罪ではないのかという一文は、両親へ向けているように見せ掛けた、警察への問いだろう。

 これでは両親が隠すはずである。兄も両親が読めば警察に見せないと分かっても、書かずにはいられなかったのか。最後の一文だけは特に筆圧が強く、ヒーローを目指しているのに身近な家族も救えない自分への憤りも隠れているように私には感じられた。

 読んだ時の両親はどうだったのか。持っていたと思われる両端に皺が寄っていて、力を籠めた以外は分からない。昨日は四日も経っていたし、誤魔化す事に注力していて読み取れなかった。

 

 物思いに耽っていたら、いつの間にか下へ行っていたらしいピンクからUSBを渡されて驚く。時計を見たらまだ一時間くらいなのに、もう送ってくれたのか。

 両親は脅しにビビってたとしても、警察も仕事が早い。演技に騙されたお人好しだったのだろうか。

 

 考えながらも、急いで待機室のパソコンに挿す。

 脅しが効きすぎたのか、USBには警察から送られたメールがそのまま入っていた。一緒に見ていた二人はあたふたしたが無視する。警察のメールアドレスに用は無い。

 メールは、件名に『監視かめら映像』、本文は『お待たせそてもいしわけありませ』と、向こうも慌てていた事がこれだけで分かった。

 しかし重要なのは、添付ファイル。開くとデータはカメラ別に、日時・駅名・場所と分かりやすく名前が付けられ、きちんと録画時間順に並んでいたので時系列で再生していった。

 そこには、あの制服を着た兄が居た。警察の言った通りの行動をし、繁華街の外を映して終わった映像に不備はなかった。これもなんか間違えてたら困るのでホッとする。

 

 そこでイエローが、私が離したマウスを操作し始めた。メールアドレスがあったから消す気かと止めようとしたら、もう一つファイルが出てきて驚く。

 振り返ったらスマホを打っていて、こちらに向けられた画面には『メールアドレスが変で調べたら隠しファイルがありました』と入力されていた。

 よく見れば、ドメイン(@の後ろ)の一部には『police』と入っている正式な物だったが、ローカル部(@の前)は『uso_ojican』と、確かに変だった。けれど昨日の悪態を思い起こせば、嘘おじちゃんは嘘判別個性の警察官であり、彼から送られた可能性が高い。

 イエローは昨日の事を知らず、“嘘”が入っていたから変に思ったのだろうが、私には違う意味に取れる。

 それにこれなら例え両親が気付いても、私が『嘘つき』と『おじちゃん』と言った事で皮肉かと思うくらいだろう。

 

 隠しファイルの中には、文書と映像データが一つずつあった。

 先に文書を開くと、力になれない謝罪が綴られていた。それと、昔のデータを見付けたから送る事と、個人的にはなるが捜してみる事。最後は、鉱恵さんが無事に帰ってくる事を祈っていますで締め括られて、名前は無かった。

 普通なら、両親なら無難な内容だと思うかもしれない。もし両親が隠しファイルを見付けて読んだとしても、操作ミスしただけと誤魔化せる。通話相手が本人かは分からないが、おそらくは出勤直後に急いで送信してくれた事が、メール本文の慌てようからも分かる。文書内容も、兄の家出を思えばおかしくはない。

 だが、これはおそらく私宛だ。私達に関わりの無い警察関係者ではなく、嘘判別個性の警察官だと教えてまで送ったのは、これに気付いてほしかったんだろう。文書には誤字脱字も打ち間違いも無く、理路整然さが余計に、メール本文が言い訳の為の故意なのが分かった。

 

 そこまでして伝えたかった。助けられず、自分の為と分かっても謝られずにはいられなかった。謝罪は、兄の家出だけではなく、私を助けられない事についてもだ。

 変なメールアドレスも、わざわざ作ったのかもしれない。両親が私に見せる訳が無く、メールがくるかも分からない。それでも、今私が知ったように、私に伝わるかもしれないからと希望に縋って作った、私専用のアドレス。本当に、優しい人だった。

 でも、私は、それを使わない。今、連絡する必要がないからだ。いつか、家族と元通りになれたら、いや、なったら。幸せです、と使う事にする。そう、決めた。

 

 決意新たに、一緒に送ってくれたデータを再生した。それは、あの時の、昔の取り調べの際に撮られた兄の映像だった。

 私の知っている兄が、取り調べなのに元気にお姉さんと楽しそうにしている。音声付きで、あの時こっちにまで聞こえた裸電球やカツ丼のやり取りも入っていて、懐かしさすら感じた。

 瞳を好奇心に輝かせて、あちこち見て、触って。ずっと笑顔だった。お姉さんが苦笑するくらい元気いっぱいに、声だけでも楽しさが伝わってくる。

 

 

───この時に戻れれば、どんなにいいか。

───この時なら、まだ手はあった。

───家族を愛するあまり、固執しすぎなければ。

───しょーちゃんに縋れば。優しい人達に全てを話せば。

───どう思われるかなんて、気にしなくて良かったのに。あの人達なら真剣に聞いて、信じてくれたかもしれないのに。

───そうしたら。未来は、今は、違ったものになったのに……

 

───この優しさを、踏みにじる事もなかったのに───

 

 

 目の前にハンカチが差し出され、始めて泣いていると気付いた。子供だから泣いたって恥ずかしくはない。ないのに、腕で目元を擦った。

 心配されているのは分かったが、ここにも優しい人達は居ると思ったら止まらなかった。面映ゆくて、情けなくて、できるだけ声が震えないように指示を出す。

 彼女達に頼るんじゃない。彼女達は自分達の事で精一杯だ。話したら力になってくれる。くれて、きっと潰れてしまう。うちの、私の事を打ち明けても、ただただ重荷になるだけだ。私のこれ(超幸運体質)は、彼女達が抱えるには重すぎる。

 

 そう考えたら、少しは落ち着いた。彼女達には、彼女達が頑張らなくてもできる事を頼む。

 イエローには、隠しファイルを含む映像データだけをパソコンにコピーし、USBを一回返して両親が直接操作して映像データだけをUSBに入れてもらい、受け取って戻ってくるように。

 報告は、USBを開いたらメールがあったと慌てた様子で行い、すぐ私を自室に戻したので中身は見られてないと偽る。メールアドレスのおかしさは伝えず、隠しファイルも秘密にする。

 もし時間が経っているのを不審がられたら、私が兄の制服を抱き締めて泣いていたからと真実を混ぜれば、目が赤くなっていると思うので確認されても問題は無い。

 戻ったらジム部屋に居ると伝えて、送り出す。

 ピンクには洗面所に着いてきてもらい、その後はジム部屋のランニングマシンで走り始めた。

 

 考え事をする時は、いつも頭を使わない何かしながらの方がまとまりやすい。これは肉体が変わったのに前世から変わらず不思議ではあるが、今は都合も効率も良いから放っておく。そんな事より、考えなくちゃいけない事は他にある。

 優しい人達に心配ばかり掛けていられない。でも、家族を捨てられない。両立する為に、これからの事を考える。

 私もいい加減、もっと動かなくてはいけない。失敗して、もっと酷くなったらと消極的になるな。

 いつかは何かがあって、それで何もかもが上手くいくなんて待っててはいけないのだ。

 ふと、閃いた。でも、それは……うーん。それしか、ない、か?

 

 昼食の時間と止められるまで走り続け、汗だくだし昨日入らなかったので先に風呂に入ってから、冷えたご飯を食べた。

 また二人のご飯も冷めてしまったので謝る。心配だけじゃなくて、迷惑掛けてどうする。

 昨日から感情が揺れ動きすぎて、コントロールが効かない。こんなのは昔以来だ。また引っ張れている。

 これも大事なのは身に染みて知っているが、焦ってはいけない。視野が狭まるのも偏るのも駄目だ。だからあんな事を現実的に考えてしまう。

 でも、なぁ……時間は掛かるけど、問題は私の心だけだし、なぁ……。

 

 食後、落ち着く為に広げたままにしていた兄の制服を着始めた。

 心配そうな二人の視線が両親への言い訳を真に受けて、そんなに恋しいのかと憐れみに変わったが無視。その恋しさを募らせて原動力にもするが、さっき落ち着いた匂いに包まれたいのだ。

 

 ふと、今日は二人を無視してばっかりだと思った。でも、前はもっとそうだったはずだ。

 今そう思うのは、やっぱり彼女達に心を許しているからだろう。昨日までは無視する事が当たり前だったが、そうではなくなった。

 信じる者は救われる! 彼女達の為にも頑張らなくては! 軟禁が終わっても雇用は続けるよ!

 

 また決意新たに兄の制服に腕を通すが、着る前から分かっていたが服を着た上からでも問題ないほどダボダボで、ボタンを留めるのも一苦労だった。それでも上を着て、元ドアを塞ぐ鏡の前まで移動してから裾を踏んでも足を通した。

 

 顔が良ければなんでも着こなせるとは聞いた事があったが、正しかった。鏡には、彼シャツの学ラン版をしている、なんともあざとい美少女が居た。自分で言うのもなんだが、美人の母似なのに更に父の遺伝子が絶妙に混じり合い、母より美形になりそうである。

 顔の美醜にこだわりはないが、良ければ比例して待遇とか態度とかも良くなる事は前世で身に染みている元平凡顔だ。有利に働く事も、得する事もある。体型に気を付けて、痩せぎすや肥満にならなければ今世は前のような事にはならない。

 そう、珍しくナンパされて振り返ったら舌打ちされたり、男持ちのタダ飯だからと数合わせに行った合コンで引き立て役として惨めな思いはしない。用があるのに顔と胸を確認してからあしらわれたり、急いでるから頼んでるのに顔は同程度でも胸の大きい急いでない女性を優先されて殴りたくもならない。それに、正当な意見なのに取り合ってもらえず、美人の不当な言い分が通って悔しい思いをする事もきっと無い。

 兄の匂いもあってご機嫌に、もし理不尽な思いをしても今世は慰めてもらえるかもと笑顔でうんうん頷いていた。ら、端に映り込む二人の視線が頭がおかしくなったのかという失礼なものになったから脱いで畳み、紙袋に戻して置き手紙も入れてクローゼットに仕舞う。

 頭大丈夫かと心配なのかなんなのかしているピンクに、両親に読唇術の本を取り寄せるよう頼んで追い出し、目を白黒させるイエローは金的イジメする為にジム部屋に連れて行く。頭突きでも上手くやれば身長差で股間を狙えるのだ。覚悟しろ!

 

 

 翌日に届いた本と、ネットでもコツなどを調べて猛勉強し、読唇術を習得。すぐ映像データを繰り返し見て、兄の口の動きを読む。警察の言う通り、間違いなく『すこしはかえりみろ』だった。

 少しは顧みろ。両親に、自分達の行いを振り返り、これが本当に正しいのかと伝えたかったんだと思う。

 他に口が動く事は無く、不機嫌そうな顔が変わる事も無かった。

 

 これで、兄の残した物は調べ終わった。今まで知り得た事と手紙で、兄の心境も大体分かった。けれど、手掛かりは無い。

 やはり、自分で動かなくてはならない。

 家から出るにはどうするか。解決策は閃いてしまったが、実行するには時間が必要だ。今すぐどうにかはできないから、他には無いか考えなくては。

 

 そうして、現代の情報の塊、ネットで中々賑わいのある人捜しの掲示板を見付けた。しかし、書き込みはその日の担当の無表情のグレーに止められた。私は知らなかったが両親の危惧した通り、うちというか、私は狙われていた。

 

 彼女達が誰かにつけられていると感じて用心してはいたが、どうしても人気の無い道を通る必要がある。そこをグレーが帰路に一人だった時、知らない男達から接触があった。グレーは護身術を教えてくれた金的推しの強者であり、三人でも大した事無い相手だから狙われる原因を知る為に話を聞く事にした。

 チンピラのような男達はグレーが弱く見えたのか、働いている家について教えろと高圧的に出た。金をやるから言え、言わないなら犯すぞ、と嗤いながら凄んだ。

 元々罪の意識があるグレーに話す気は無く、きっぱり断った。それで男達が強硬手段に出る事は分かり切っていたので、さっさと三人相手でも的確に金的を強打して意識を失わせた。流石である。

 そこへスーツ姿の男性が駆け寄ってきて、新手かと身構えるも警察手帳を見せられて、襲われた事を話した。原因解明の為に親友達に聞かせようと会話を始めから録音していて、その場で警察の声も入ったそれを聞かせたから正当防衛となり、男達はナイフを持っていた事もあって逮捕された。

 

 その後は警察が付近の見回りを強化してくれたそうで、今の所は二度目は無い。

 ちなみに戦力の低いピンクは、外に居る時は常に防犯ブザーをいつでも押せるよう手に持ち、スタンガンと催涙・唐辛子ダブルスプレーをすぐ出せるポケットに入れるという警戒状態の上、おどおどしていて声を掛けた瞬間に押しそうなので逆に狙いにくい。もう一人の女性のグレーが襲われた訳である。

 

 翌日、警察沙汰になったので報告したら、なんと両親もつけられていた事が判明した。しかし、両親は元から身構えていた為すぐ異変に気付き、それからは門の前までタクシーを呼び、必要最低限しか出掛けない事で防衛していた。

 以後、彼女達の交通費は増額され、タクシー通勤が許可されたとの事。

 

 他にも、家に忍び込まれそうになった事もあったが、近所が気付いて通報したり、足を滑らせたり不審な物音で気付けたりと全て未然に防げていた。両親は不安にさせないよう、三階に閉じ込めている事もあって私には教えなかったと思われる。彼女達には、仕事を辞められたら困るから話さなかったんだろう。

 近所では私達が越してきてから不審者を見掛ける事が多くなって不満に思っているようだが、それで余計に危機感を持ってくれている事もあり、うちにも被害は無い。

 

 そんな衝撃の事実をいきなり知らされて呆然としたが、そういう訳で名前や住所を書き込めばそいつらが嘘情報を持って訪ねて来るかもと説明されれば、書き込みなんてしない。

 というか、そんな事になっていたのか。これは罰なんだと粛々と受け止めている彼女達と、他にも被害がまだ出ていないのが、せめてもの救いだ。

 それに、運良く防げているのは超幸運体質さんが頑張ってくれているんだと思う。始めて役に立ったな、褒めてやろう。

 

 問題は警察だ。

 スーツ姿の警察官は刑事だったそうで、夜だったから仕事終わりかと思ったら、警察署まで同行して取り調べも担当した。自分が関わったからと言うが、正当防衛なのに原因を突き止めないと危険だからとしつこく取り調べされ、要はうちの事、私の事を聞きたがった。

 警察にだって正義感を持たない者、出世などで手柄を取りたい奴は絶対に居る。悪者以外に、そいつらにも見張られているのか。

 と、なると、警察は私の超幸運体質をかなり重く見ているのかもしれない。あれから四年も経っているのに、未だにマークしているのがいい証拠だ。そしてそれは、関係者として彼女達も含まれる。

 

 警察は、私達がまたやらないか、私が犯罪者の資金源にならないか監視している。だが、私達は無罪。犯罪者でもヴィランでもないと、自分達で昔に取り調べて確定させてしまった。だから新たな事件か容疑が無ければ、手出しはできない。

 それに警察という立場上、一般人の私達に手荒い手段は取れず、穏便に話を聞きたいが家族の誰かからは難しい。ヒーローを目指している兄でも、庇うかもしれないからだ。実際、犯罪と思ってはいても、警察が接触してこなかった事から相談もしなかったのだろう。

 家族以外でだと、家政婦は話を聞いた限りの仕事人間なら、守秘義務は破らない。

 彼女達ならなんとかなりそうだが、コミュ障だからこその鉄壁の守りがある。今までの経験上、優しくされるなら優しくされるだけの理由があると疑う。厚意も善意も全て理由があり、いつかは無くなるという体験から信じられない。ほんと、くそめんどくさい性格なのだ。失礼。だからドラマとかである、近付いて飲みに行って酔わせて愚痴として吐かす、なんて不可能。親しくなる以前に、近付く事すら困難だ。

 ならどうして私は親しくなれたのかというと、彼女達は酷い事をしたのだから嫌われて当然だと思っていたし、罪悪感と同情から心を寄せたのも向こうから。私はそれに応えただけだし、打算もあった。それでもマイナスから笑顔を見せてくれたと舞い上がり、妙に好感度が高かったから信じられただけ。同族か、こういった経緯でもなければ仲良くなれない厄介さが、警察に付け込む隙を与えなかった。

 

 今回の件は、そいつらにとって好機だった。グレーから何か糸口さえつかめれば私を、可能なら両親ごと逮捕して大手柄になる。だからしつこく、なんでもいいから足掛かりを得ようとしたのだろう。彼女達の罪悪感が想定外だっただけだ。

 

 資金源としたい後ろ暗い奴らが集まってくるのも、そいつらには丁度良い。私狙いの犯罪者が何か行動を起こしたらそれを理由に連行し、取り調べで余罪含めて逮捕まで持っていけば良い。小物でも点数稼ぎにはなるし、大物でも尻尾くらいは掴めたかもしれない。

 もしかしたら、犯罪者ホイホイと見做されていて、それもあって未だに見張られている可能性もある。

 こっちとしても、勝手に怪しい奴らを逮捕して刑務所に入れてくれるのは有り難いが、そいつらはこっちも狙っている。今後も金稼ぎは自重しよう。

 

 そういえば、あの警察官三人組、今思うとそいつらを押し退けてうちに来たんじゃないだろうか。データ送信も、USBなり持ってきて中身の確認だの説明するだの言えば家に入れる。

 両方とも絶好の好機だったんだから、やっぱり無理してくれたんだ。大丈夫だろうか。借りがあるとかなんとか、無茶を言われたりしてないか心配だ。

 

 

 推測もあるが、うちの置かれた状況も見えてきた。知らないよりはいいが、兄を捜す障害が増えてしまった。

 情報社会を代表するネットで、検索しかできないのも痛い。兄の写真のみで捜しても、どこかで見付かったら元も子もない。

 最後の足取りの繁華街も、繁華街だからこそテレビに本、更にはSNSで写メなど、たくさんあった。でも、兄の家出後に絞っても影も見付からない。

 

 手詰まり感が拭えない。

 もう、これ以上、今のままでは駄目だ。

 外にも私の強運が知られていて、狙われているのも問題だ。既に知られているのだから、今更無かった事にはできない。

 やっぱり、閃いた解決策を実行するしかないのか。

 全てをクリアできる、なんとも都合の良いプラン。

 これなら兄を捜せるし、どう転んでも見付け出せる。

 ぐちぐち付き合わせて申し訳ないが、認めたくないのだ。

 だって、これ……絶対、あいつ喜びそうだから……。

 

 手っ取り早く、最短で、簡単に、全てを片付けられる。

 答えは世に溢れているし、将来なりたい職業ナンバーワンでもある。

 

───つまり、ヒーローだ。




そっち?! いやいや、認めてほしいのはそっちじゃなくてー!! もうっ!! 自分からヒーロー目指してくれんのは良いんだけどー、思い通りじゃないしぃー。内外でじったんばったんしてても面白くないよー。イエローの方が面白かったんですけどぉ。むぅ……。

今回は恋愛要素についてアンケートです。かなり悩んでも相手が決まらないので(^^;)次回アンケートはキャラで、次話やります。相手は相澤・緑谷・爆豪・轟・心操の予定で、他に希望がありましたら感想などで教えてほしいのですが、中には書けないキャラも居ますので申し訳ないのですが絶対とは言えません。マイクは好きですが、英語が苦手なのですみません……。

  • 恋愛あり。一人。相手は次回のトップ。
  • 恋愛あり。複数。トップ以外は当て馬。
  • 恋愛なし。逆ハー。投票数で出番増やします
  • 恋愛なし。全員友情。同上。
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