超幸運≠平穏 ~神様のご都合主義~   作:紅月 煌

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明けましておめでとうございます。
本年も亀の歩みではありますが、どうぞよろしくお願い致します。

今後の展開について下部にアンケートがありますので、良ければお願いします!


ばらばら

 良い事尽くめなヒーロー。

 嫌だと思っても、それが最善なら目指す。

 私の好き嫌いなんかより、家族の方が大切だから。

 

 けれど、誰にも言わなかった。

 両親に話せば、兄と同じく一蹴されて終わりだ。

 しかし、兄とは違い、本人だからこその防衛力強化とか、老衰でも子供の私はいつかは残されるだとか、説得の仕方によってはなんとかなるかもしれない。

 なので、願書を出すギリギリの時期に伝えて、これでもかと利点を並べて勢いで押し通した方がまだ勝算がある。

 

 あと、彼女達にも伝えない事にした。

 信用云々ではない。言えば色々と私だけは楽になるが、彼女達は何年も両親に知られてはいけないと気を張る事になる。

 人間だからうっかりが無いとも言えないし、年単位で負担をかけるくらいなら秘密にして、一人で抱えた方が良いと判断した。

 

 そういう訳で、調べなくてはならない事をネットで検索するのは少し手間だった。

 一々独り言にして説明したら変なので、色々と考えて関連付けて検索していき、どうしても見られたくない時は、打ち解けてから緩くなった監視の目が無い時にした。

 

 

 ヒーロー科に行きたいから高校には通いたいが、それまでの危険を考えると、小中学校には通えない。

 憐れんだ目に耐えながら調べたら、義務教育は不登校でも卒業認定される。されないのはレアケースで、基本的に学校側は学齢基準から一日も登校しなくても卒業認定するそうだ。だから、行かなくても多分だが問題は無いはず。

 ただ、それであの名門雄英高校の、大人気すぎて万を超える受験生が殺到するヒーロー科に入れるかの方がよっぽどの問題だった。検索しても小中学校を不登校で合格した人は居なかったが、そういう人自体が受験したのかすら分からなくて判断材料が少なすぎた。

 

 雄英の入学試験は推薦と一般の二種で、筆記と実技の両方ある。

 ヒーローという、人格が問題になりやすそうな仕事の専門科で面接が無いのが腑に落ちなかったが、そういえばヒーローって良い意味でも悪い意味でも個性的な人が多いからかと納得した。もしかしたら、中学卒業したばかりのまだ子供だし、鍛えると同時に人格矯正もするのかもしれない。

 どうして小中学校に行かなかったのかとか、そういう諸々を突っ込まれると面倒な私にとっては朗報だ。無いなら無いで良い。

 

 定員は一クラス二十人で二クラス分、推薦四名と一般試験合格者三十六名。

 推薦は学校に行けない私は貰えないので、一般入試を受けるしかない。

 偏差値は高いが、ヒーロー科だから筆記より実技メインで決めるはず。筆記で規定を満たしてさえいれば、実技結果の上位三十六名が順当に受かると思われた。

 

 筆記は問題無い。

 考えてもみてほしい。やらなくてはいけない事は無く、最近まではテレビもパソコンも待機室で常に見張られていて落ち着かず、張り付かれない部屋でやれる事は少ない。

 漫画やゲームなどは嗜好だだ漏れの上、年齢に合った物は楽しめず、ヒーロー関係は兄が関わらない限り興味が湧かない。

 かと言って身体を動かしてばかりもいられないし、食後や就寝前など運動を控えた方がいい時間は手持ち無沙汰。その余った時間を思考に使っても尚余る。で、勉強くらいしかできる事は無かった。

 軟禁終了策の一つでもあったからとやりすぎた気もするが、この現状で何が将来役に立つ専門的な知識か分からなかったし、その前に学校で学ぶ所の復習をと、できないよりは良いと頑張りすぎた。既に高校二年の問題集まで何冊か終わらせているし、もし受かった時の為に高校卒業までの分を後五年で終わらせればいいだけで余裕すぎる。

 彼女達の目が天才を見る目になってるが、中学くらいまではさっさと終わった。それから暇なので追加しすぎた感は否めないが、今となっては良かったのだろう。

 高校分まで終わったら忘れないように復習を続けつつ、受験に必要な所を重点的にすれば、おそらく満点取れるから問題無し。

 

 実技は演習試験らしいが、内容によってはこっちも問題無い。

 試験内容は公開されていないが、探せばある。お願いか規制かは知らないが、されててもSNSなど、ネットに内容を上げる人は多い。特に匿名掲示板などは、本当か嘘かを見極める必要はあるが、匿名だからこその口の軽さで有用な情報の宝庫だ。

 記念受験が多くて無駄に倍率が三百倍ほどに上がっているが、逆に言えばそれだけ軽い気持ちで、運良く受かったら良いな的な人も居るという事だ。

 真面目に受ける人も居るだろうが、万を超える人数で、記念だなんて銘打つなら中には周りに吹聴した上で、当然ネットにムズすぎ無理やら、良い所まではいった的な言い訳なども上げる。それら玉石混交の中から探すのは大変だが、探していく内に何を試されるか大体把握できた。

 

 ヒーローに必要なものは何かと、試験の時間が数十分程度で全員一斉にスタートする事、不祥事に飛び付くマスコミを考慮すれば大体の予測はできる。

 特に、万を超える受験生を、差をつけない為に情報を与えないで全員一斉スタートして数十分で終わりだなんて、人間が相手じゃないって言ってるようなものだ。人数と時間的に、教師陣でも、応援に呼んだ卒業生やプロヒーローでもないだろう。

 雄英のセキュリティ関連は、かなり詳しく調べた。広大な敷地をパトロールするAIロボットも。おそらくは、それの旧型か、旧型や余ったパーツで作ったのを使う可能性が高い。

 セキュリティに妥協しない雄英なら、金を惜しまず日々改良を積み重ね、一年でも不要になった分は結構あるはず。それの処分する意味でもちょうど良いし、サポート科もあるなら一から百まで全てを専門の人がやる必要も無い。

 

 以上を踏まえてから、まず一番必要なのは戦闘力など、制圧力や捕縛力の高さ。

 どんな個性か、威力やコントロールはどうか。様々な個性や状況に対し、万能性や有用性を見られる。

 

 個性だけでなく、身体能力や運動能力の高さも重要だ。

 ヒーローとしての基礎でもあるから、特に重視されるだろう。

 一朝一夕には身に付かず、個々の上限はあっても継続こそが物を言う。才能もあるが、普段から動いているだけで大分違ってくる。

 (ヴィラン)との戦いも、短期解決ばかりじゃない。

 それに災害や事故など、夜を徹しての救助活動が行われる事もあるし、不眠不休で急がねばならない場合は持続力が必要不可欠となる。

 

 次に、状況判断力と機動力。

 ただ強いだけでは駄目で、広い視野も必要だ。ヴィランでも殺してはならず、重症も不味い。ヴィランを軽症以下で捕らえ、一般人に怪我をさせず、できるだけ周囲を壊さず抑える為には、周辺の把握や思慮深さも必須だ。

 それには迅速さも求められるのに、ヴィランの行動ありきでヒーローは動くのだから後手に回るしかなく、速さもなければならない。手遅れになってはいけないし、ヴィランを取り逃がせばそれだけ被害が増える。

 だから、切り離しては考えられない。

 

 ここまでが重視されやすい要素で、一応は知っといた方がいいのが救助や応急手当の知識だ。

 助けるのがヒーローだから当然だが、救助は今から知識だけでも覚えた方がいいだろう。

 それに、ヒーローに怪我は付きもの。本人もだし、周りもで、こっちの方は後の為にもより知っておかなければいけない。

 イエロー達と手合わせはしていても、そんな重傷にはならないから、多くは仮定となるが、止血や包帯の巻き方に骨折の応急処置など、実地練習も行う。

 既に体の構造や機能などは理解したが、医学書も読んで、特に外科系の知識も増やす。

 受験にそこまでは求めないだろうが、できないよりできる方が良い。自身の為にもなるから、手は抜かない。

 

 後は、初対面の味方との連携や作戦など、協調性や即興の立案力も必要にはなるが、高校の受験でそこまでは見ないだろう。見れないが、正しいか。時間的にそこまでは無理だ。

 時間制限があるからこそ、大体こんな所を評価基準にしていると想定できる。

 育てるにも限度はあり、時間も人数も有限。入学前の時点で、どれだけ使えて、どれだけ動けるか。個性は強化できても根本は変えられず、身体能力にも上限があり、知識は覚えられても性質を変えるのは難しい。

 ならば、どんな個性か、使い方や制御はどうか。身体能力や運動能力は、どの程度か。知識や閃き、咄嗟の判断力は良いか。他人とのコミュニケーションや人格面に、問題はないか。

 これら含め、現時点でのレベルと、成長率など見られるに違いない。

 

 けれど、受験生が多すぎて一人一人をじっくりとは見られない。だからこそ、戦闘力プラスアルファを主軸に、試験内容を決めるしか無いのだ。

 時間と余裕があれば、教師陣のプロヒーローが一対一で試せるが、それは無理。しかし、一対多数にすると攻撃が集中しすぎて、未熟な中学生では死傷者が出かねない。基本的に公共の場での個性使用は法律違反だから、そこまでの力量を子供には求められない。

 自宅なら使っても良いが、ヒーローになるような強個性じゃ室内や狭い所では使えない事が多く、全力で使うのは初めての受験生も居るだろう。実技試験は個性を使えって言いながら、でも責任は一切取らないなんて、未成年相手に学校側が言えるはずも無い。

 

 だから、相手は余計に人間ではなく、機械だと確信が持てる。

 いくらプロでも、個性が分かってても、ヒーローを目指すような強個性を何十人も相手にできないし、こんなんで怪我するとかアホらしい。受験生側も、同じ。

 やはり相手は壊しても平気なロボットだろう。

 複数ある演習場に均等に人数を割り振り、同時に開始。ヒーローらしく妨害不可で、採点に使う為に各所に監視カメラを付ければ故意の妨害予防にも、後の証拠にもなる。

 

 次点で、接触や巻き込まれない何らかの競争も考えたが人数が多すぎて無理だろう。

 いくら広大な敷地でも、演習場や森などが点在していて更地ではないし、条件を全く一緒にして万を超える受験生を一人一人ある程度離して競争など、内容はなんとかなりそうでも、物理的には難しいのではないだろうか。

 かといって近ければ暴発や暴走、うっかりだってある。珍しい治癒個性の保険医が居ても、治すには限界がある。

 調べたら、リカバリーガールの個性は治癒力の超活性化。あくまでも人間の持つ自己治癒力を高めるだけで、怪我した本人の体力を対価に発動する。つまり、怪我して体力を消耗している中、更に消耗しての回復であり、足りなければ最悪死ぬ。

 かといって体力が戻るまで待ったとしても、無駄に入院などで時間を浪費するハメになる。

 こうなれば、怪我さえなければ受かったと逆恨みしたり、受験シーズンなのだから他校の受験への影響も考えられ、わざとでなくても被害者受験生にわだかまりが残る。

 加害者受験生も、お人好しや正義感持ちなら罪悪感が芽生え、承認欲求が強ければ汚点を作ってしまったと、こちらもわだかまりが残る。

 

 これだけでもネタになるが、もっと酷く、受験生の体の欠損や後遺症が残ったなんて事になったら、まさかの雄英の不祥事にマスコミは生ゴミに集る蝿の如く、追い払っても追い払っても集り続ける。

 名門の名に傷がつくし、日本一のヒーロー科がそんな事になれば、設備や教育が一流なだけに、今後のヒーロー界にも影響が及ぶ。

 国立である以上、国も口を出せる学校だからこそ、その辺にも学校側は配慮するしかない。名門校だからこそ、世間からの批判も考慮しなくてはならないのだ。

 

 つまり、いくら治癒個性のリカバリーガールが居ても、重傷者を出す訳にはいかない。

 イコール、対人戦の可能性が限りなく低いという事。

 大変、好都合だ。

 何せ、私にとって一番最悪な試験は、個性を使った対人戦なのである。

 これは苦手とかではなく、個性無しなら毎日やってる。でも、個性を使っては基本的に無理だ。

 私の個性で攻撃するとなると、出現場所にあるものを消滅させる・肉まんを投げる、のたったの二つ。

 

 まず、対人戦で消滅は使えない。

 なにせ、人に穴を開けたら普通に重症だし、手首や足首など肉まんより細い部分なら欠損させてしまう。極一部の、再生や液状化系などの個性持ちなら平気だろうが、本当に使って大丈夫かどうかなんて正確に分からない以上、事前の話し合いもできないだろうし、望みは薄い。

 と、いう訳で。ほら、使えない。

 やった瞬間に不合格の上、ヒーローと警察から個性不正使用の疑いだけじゃなく、危険人物認定されるわ。

 

 投げるは誰でも考えつく、いつでもどこでも無限に出せる投擲物代わりだ。

 

 冷凍なら固く、石と変わらない。

 ただし、上のねじりが、意外と怖い。床とかに刺さるし、試しにしたらドアノブは削れた。

 投げた場合、当たり所が悪ければ失明の恐れもある。あと、“ねじ”と表現されるだけあって、ぐりぐりするとネジのように刺さっていく。怖い。

 つるりとした上部なら平気なので、基本はそちらを出して使う。一般的に、肉まんはねじりがあり、あんまんやピザまんはつるりとしているのが普通だ。しかし、珍しくも上がつるりとした肉まんも存在はする。

 珍しくても肉まんは肉まんなのでそれを出すのだが、咄嗟の時は指定ができず、ねじり付きが出てしまうので困っている。ここらは要努力だ。

 

 過熱の場合は、割らなくても熱く、中身は肉汁という名の熱した油で質の悪い火傷をしそう。実際に人に試してないので不明だが、酷い事になるのだけは分かる。

 肉汁といっても油だから取れにくいし。投げられて腕で払って割れたら、顔面と腕が酷い事になる。絶対。こっちも失明の可能性がある。怖い。

 ただ、火傷しない温度なら使えるし、足を狙って機動力を奪う程度には使える。

 

 ちなみに、昔に個性の実験をしたが、投擲物代わりに手合わせで使う為にまたやった。

 結果、手を開いたまま腕を振って出すと、まるで持っていた肉まんを投げた感じになった。遠心力とか方向など、本当に自分で投げたのかと錯覚する程に。

 これで、冷凍はともかく、どんなに過熱しても投げられるという寸法である。

 いや、本当に熱した油を投げるのと同義なので使い所が限られるけど……。

 

 それと、大きさを変えられる、ってのは、実際に使うのは無理だった。

 トイレで試してみたが、倍に大きくするのも半分の小ささにするのも頑張り加減は変わらない。

 汚い話だが、初めて大きさを変えて肉まんを出したら、途端にお腹がぐるぐる鳴って痛み出し、腸にあったであろう便が根こそぎ出た。ほんと、すんごい量出て、ドン引きした。私の小さな腹の中にあんなにあったとは、人間の体って本当に不思議だ。

 そんな訳で、トイレでスタンバイしない限り使えない事は判明した。

 

 と、いう訳で、対人戦の場合、安全を考えたら冷凍肉まんを投げるくらいしか使い道が無い。

 一対一なら、接近戦の前に。それも、相手に中遠距離攻撃が無い場合のみ。

 一対多数、または集団戦で、なおかつ舞台が市街地等で建物などを壊して良いのなら、もう少し使いようはある。

 だが、言ってしまえば、それだけだ。

 火の個性で“焼く”しかできなくても、やりようはある。でも、私のは本当に“これだけ”。使い所が難しい。

 だから、対人戦は嫌なのだ。見せ場が少なすぎる。

 確かに、対人でも戦えなくはない。が、個性も見られるなら使い道が少ない分、他者と比べて不利になってしまう。

 だからこそ、対人ではなく、対機械なのは大歓迎。

 

 まとめると、やはり相手はロボットが濃厚。消滅を使えるのなら、合格を狙える。

 以上、対人以外なら問題無し。

 ただ、対人の可能性も無いとは断言できない以上、これからの手合わせは念の為に個性使用も視野に入れて鍛えて、使い方も熟考しなくてはならない。

 

 実技に不安はあるが、まだ十歳。イレギュラーである以上、原作キャラを一人蹴落とさなければ入れないから気は抜けないが、まだ五年あれば努力のしようはある。ヒーローとしての必須知識を習得し、鍛えるしかない。

 なので、やっぱり小中学校に通わない辺りが問題になる。

 まあ、あいつがなんかしそうな気もする。ここは『僕のヒーローアカデミア』で、あいつは絶対に私をヒーローにならせたいだろうし。

 小中学校には行けないのは確定しているし、もう考えるのは止めた。なんとかなる。最悪、ヒーロー科に行かずとも免許は取れる。

 

 

 横やりを入れられないよう気を付けながら、準備を進めていく。

 前はやりすぎていたと思ったが、鍛錬を成長の阻害にならない程度でできる限り増やした。

 彼女達から学べるものは全て学び、どんな相手でも対応できるよう癖を付けずに身体へ染みこませる。それ以外もネットで調べて使えそうな武術を探し、動画を参考に見様見真似でもいいから取り込めるものは取り込み、知識も深める。

 勉強も進め、高校卒業分まで終われば、医学や救助について独学だが学び始めた。独学ではあっても、本とパソコンがあれば情報は集まる。簡単な手当てから、瀕死の時の応急処置まで見境なく頭に叩き込む。キリの良い所までいったら、また高校入試から卒業まで一通り復習し、戻っては忘れてないか確認してを繰り返す。

 

 兄が目指していたヒーロー。兄が見ていた記事や動画。兄が見ているかもしれないから。いつか兄が帰ってきたら話を。

 そんな、幼気な子供を装い、ヒーローについても勉強した。

 災害や事故、特に救助に関しては、ヒーローを調べるのか一番手っ取り早い。警察や自衛隊も出動するが、インタビューや体験談などで詳細に語るのはヒーローだけだからだ。

 過去の事件の記事や動画を漁り、どういった事が起きたか、どういう行動をしたか。どこを気にしているか、どこを注意すべきか。

 驚きは、頭も動きも遅らせてしまう。一瞬だとしても看過はできない。それは、色んな面で致命になりかねないから。予想外が無いように、想定外を出さないように。

 事後に、予想外の事実が判明した例もある。限られた情報で、自分ならどうするか考えを巡らせる。実際は悠長に考えてる時間は無いのだから、脳も鍛えて思考を少しでも高速化させる。

 オールマイトと同等の能力は無くても、彼だから気付けた、彼だから解決できた事件も追っていく。着眼点や思考だけでも、身につける。そこも、優れているのだから、盗めるものを、必要なものを習得する。

 

 彼女達に心配ばかり掛けるが、それでも隠し続けた。現状、ヒーローを目指しても表には出してないから、私以外は知らないまま。気取られなければ、誰にも知られない。

 

 

 二年後に、一度も登校しなかった、兄の時に名前を聞いていただけの小学校から卒業証書が郵送されてきた。

 グレーから手渡され、そんな時期だったかと、なんの感慨も無い事に乾いた笑いが浮かんだ。行けば友達ができたかは、結局分からず終い。母の予想通りか、私の主張通りかは、神のみぞ知るだな。聞きたくないが。

 

 そして、また、心配を掛けてしまった。

 その時担当のブルーと共にピンクが慰めてくれるが、小学校に良い思い出が一つも無く、逆に辛くて悲しくて、学校に行くのが苦痛だったと聞かされて、私はどう反応すればいいのか。中学校も同じだろ、はいはい行かない行かない。

 やっぱりこいつらコミュ障だ、と苦笑いに変わる。元気出たと喜ぶ二人に、生暖かい目を向ける。気付かない辺り、やっぱり空気読めないし、細かい機微も察知できてない。

 でも、見てて楽しいからいいんだけどね。良い感じに力抜けるし。少しだけ、本当に少しだけ、救われる。

 

 

 それから。その年の、冬。

 いつも始まりが冬なのは、私が冬生まれと関係あるのだろうか。

 そういえば、毎回なんかあるのは冬で、どう考えても、呪われてるとしか思えない。

 

 

 始まりは、私が就寝してからだった。

 寝付いたのを確認して、グレーは帰る。帰ったはずだった。

 私は寝ていたが、そこへグレーが戻ってきて揺すり起こした。どうしたのかと寝ぼけ眼で顔を見て、すぐ覚醒する。

 あの、グレーが。表情筋が死んでるグレーが、誰が見ても分かる程に焦っていたから。

 特に、感情の表れやすい目が、焦燥と困惑と、私への気遣いで揺れていた。

 言いにくそうに、口を開く。珍しく辿々しく、つっかえながら。

 でも、大半は私に、落ち着いてとか、冷静にと、伝えたいようだ。

 そうして、何が言いたいのか根気よく待つ事しばらく。

 階段のシャッターが開く音が微かにしてすぐ、三階は全ての壁と窓が防音仕様なのにドタドタと足音が響いてきた。

 私狙いの襲撃かと身構えたが、グレーがレッドの名を出したので彼かと安堵する。

 いや、なんでレッドが走っているのか。何が起きてる?

 グレーに何があったのか目に力を入れて見ると、観念して覚悟したように息を吐く。

 その間に待機室のドアが勢い良く開いて、開けっ放しの私の部屋のドアからレッドが飛び込んできた。

 レッドは、視線を合わせた相手の感情がうっすらとだが分かる個性で、それで色々あったらしく、彼女達ですら数える程しか目が合った事はなく、私はもっと合わない。そのレッドが、真っ直ぐに私を見る。目線を合わせてきた。私の感情を知りたいとばかりに。あの、レッドが。

 これも含めて、非常事態だと悟る。

 そこで、グレーがようやく本題に入った。

 でも、最後まで聞けなかった。

 

 ご両親が、大変な事に──。

 

 飛び起きてレッドが手に持ったままのカードキーを奪い取り、二階へ最短最速で跳ねるように降りる。

 そこで開いたままの、両親の寝室から声が聞こえた。久々の、両親の肉声が。

 様子がおかしいと、中に急いで入る。入った所で立ち尽くす。

 

 両親は縛られていた。

 けれど、それは、仕方なかったのだろう。

 せめて少しでも傷付かないようにと、タオルで縛られて、ベッドに固定されていたから。

 そんな事よりも、もっと気にする事があった。

 両親は。お父さんとお母さんは、よだれを垂らしたまま、血走った目で、鬼気迫る顔で、そんな事はどうでもいいと言わんばかりに歯をむき出しで叫んでいた。

 それだけで、理解した。理解してしまう。

 

 

──薬を寄越せっ!

──早く、薬をちょうだいっ!

──いくらでも出す!!

──言い値で買うわ!!

 

──早く!早く!!薬を!薬を!!薬をっ!!

 

 

 後ろから抱きしめられる。柔らかな胸が当たるし、身長からしてグレーだ。

 静かな頭で、そう考える。

 

 落ち着いた、冷静な声で。

 そう、求められているから。そうでなくても、感情は凪いだまま。

 静かに、問う。

 彼女を責めても、どうにもならない。

 さっきまで、グレーにしてはあんなに取り乱していたから。

 優しく、静かに。

 

──何が、あった?

 

 返答は、答えではなかった。

 所々、レッドが補足して、知っている事を話してくれた。

 

 

 元々、出勤する度に両親と会う訳ではない。

 家政婦もそうだが、会えば挨拶や業務連絡はしても、わざわざ探したりはしない。

 連絡事項があれば、両親へはリビングのテーブルに、家政婦へは冷蔵庫に磁石で貼ってメモを残す。両親への業務報告と言う名の私の監視日誌も、いつも終業後にメールで送信していた。返信はいつも無い。

 そして、最近は両親に会っていなかった。そういう時もあるので、気にしていなかった。

 そもそも、彼女達はコミュ障で、会わないなら会わない方が気が楽だから、会わない努力はしても逆はしない。

 

 最近は会ってなくても、特に変わった事は無かった。

 彼女達にすれば、何も無かった。はず、だった。

 

 いつも通り仕事を開始して、両親に会わず。

 いつも通り私が寝たのを確認して、グレーは帰ろうとした。

 いつも通り階段を降りて、声が聞こえた。

 叫んでいて、聞こえる内容がおかしい。様子も変。夫婦喧嘩をしているのかもしれないが、内容が内容だから、私が両親が大好きだからと、意を決した。

 ノックして声を掛けた途端、勢い良く開いた扉から両親が我先にと縋ってきた。

 内容はお察し。さっきのだ。会話しているようでしていない、ただの要求。

 薬なんて持っていない。少なくとも、薬と名の付く物はあっても、両親の欲しい物ではないと分かるからこそ、平時と違う両親に余計な事は言わずに答えた。

 けれど、両親は求める口はあっても、聞く耳を持たない。理解しない。

 仕方なく、階上に居るレッドをスマホで呼び、暴れる両親が怪我しないよう拘束を任せた。

 グレーは、冷静なようでいて、実際はとても混乱していた。

 私が大好きな両親の、この事態。早く知らせなければと、慌てて私の部屋に戻り、起こした。

 でも、大好きだからどう伝えたものかと悩み、ああなった。

 両親の部屋にあった物で拘束を終えたレッドも、どうするのかと混乱して私の部屋まで急いで戻ってきた。

 

 そこまで聞いて、続く言葉が途切れて、両親からグレーへ視線を移す。

 グレーの後ろにレッドも居て、二人とも真っ青だった。

 それは、今後の雇用がとか、五人で同じ職場とかではなく、私の事を想っての、私の気持ちに寄り添ってくれたからだ。

 目を見れば分かる。レッドの個性が無くたって、そう、伝えてくれる。

 大丈夫と聞こうとして、大丈夫じゃないと思い直す。こんな両親を見るのは辛いのでは、部屋に戻って休むかと聞こうとして、促していいのかも分からず、話そうとしては口ごもる。

 どうしたいのかと、聞いていいものかと、目から伝わる。

 そうして、どうしたらいいのか悩んでいる。

 

 だから、指示を出す。

 二人に考えさせる事では、ないから。

 

 考える時間が欲しいと言えば、二人とも即座に頷いてくれた。

 なので、その間の事を話す。

 

 レッドには、まずは今も営業している店でオムツを多めに買ってきてもらう。帰ってきたら父にはレッドが、母にはグレーが着用させる。代金は立て替えてもらい、後で両親の部屋を探す。

 次に洗濯されたタオルとハンカチを集め、タオルを唾液が垂れるうなじの辺りに敷き、ハンカチは両親の口に突っ込む。ずっと叫んでいては喉を痛めるし、内容が内容だから外に聞こえたら不味い。

 それが終わったら下から飲料水を持ってきて、一時間に一度、ハンカチを取り出して水を飲ませる。ハンカチに唾液が吸われるから、ハンカチが含んだ水分とそれでも垂れた分を目安量とする。

 ただし、飲まないかもしれないので、その時はハンカチに水を吸わせて口に含ませるだけでも良い。確か、それでも少しは水分補給ができるはずだ。

 零れるなどしてタオルが濡れすぎたら、取り替える。無くなればバスタオルでも服でもいいので、とにかく交換する。ベッドや枕が濡れたら乾かすのに一苦労で、寒さも感じてないようだが、寒いので風邪を引いたら大変だ。

 よだれまみれのハンカチに触るし、やりたくないなら正直に言って欲しいと聞いたが、問題ないと返ってきたのでお願いする。

 その時に、また薬を要求するだろうが話はしない。しても聞かないのだから、意味が無い。

 

 グレーには、他三人と家政婦への連絡と、今日は泊まってもらう。

 無理に三人を起こす必要はなく、グレーとレッドの着替えを持ってきてもらい、三人にもうちに泊まってもらう。

 家政婦には、いつも彼女達は時間外の食事を持ち帰っていたので量は増えないが、両親のご飯は粥などの噛まなくてもいいものと、栄養を考えて野菜ジュースなどもいるだろうから、それらを用意してもらう為にメモを書く。

 レッドが買い物から帰ってきたら母にオムツをつけてもらうが、そこまで終わったら寝てもらう。

 待機室に仮眠用のベッドがあるからそこなら私の見張りになると言えば、こんな時にと微妙な顔をされた。しかし、私にとって見張られるのは普通の事なので、変な言い方になってしまった。

 

 

 そうして、部屋に戻り、ベッドに座る。

 心は、不思議と凪いでいた。

 焦りも悲しみも、何も無い。

 これからどうするかと、考える。

 考えて、考えて。

 

 とりあえず、個性を使った。

 ベッドや床に触れてない所から肉まんを出して、すぐ消滅させる。

 ドアは閉めたし、すぐ消えるけど、もしグレー達が開けたら悲鳴を上げられるかもしれない。

 全身から肉まんが出ては、一瞬で消える。寒いから温かい肉まんで、視界を埋め尽くす肉まんからは湯気が出ていて、余計に不気味に見えるかもしれない。

 そんな事を思ったら力が抜けて、個性を調整して背面は出さず、後ろへ倒れて横になる。

 眠気は無い。吹っ飛んだ。

 

 妙に思考がクリアだ。

 努力の甲斐あり、思考が速い。いつの間にか、二つの事を同時に考えられる。

 いや、二つじゃないな。いくつだろう。私は今、いくつの未来を考えているのか。いくつも考えているのに、数は数えられない。笑える。

 こう行動したら、こうなる。こっちなら、こう。そっちだと、そうなっちゃう。ああしたら、ああなって。こんな事したら、こんななるわ。それは、それ無し。あっちだったら、いやあっちはダメだ。それから、それから──。

 

 いつの間にか、寝落ちしていた。

 

 悲鳴が聞こえて、目が覚める。

 視界は白い。あと、なんだか暖かい。でも、湿ってる気がする。

 ああ、個性使ったまま寝たのに、個性が止まってない。まだ肉まんが出ては消えるを繰り返していた。

 止めたら視界は良好になり、涙目のピンクが駆け寄ってきて、お化けかと思ったと失礼な事を言われた。酷くね?

 ドアには四人も居て、ピンク含めて勢揃いしていて、窓からは朝日が差し込んでいた。

 

 さて、寝落ちした訳だが、心も頭も昨日のまま、静かに凪いでて、クリアだ。

 早急だけど、皆が揃っているので結論を伝える。

 まずは調べたい。両親に何があったのか、薬に──いや、麻薬に手を出したのは自分からなのかどうか、知りたい。

 自分からなんて考えたくもないが、自分からじゃなければ相手に悪意がある。ただの金目当てならいいが、私目当てならまだ終わりじゃない。どれだけ危険か、調べないといけない。

 それは、どんな麻薬か、副作用や中毒症状なども同じ。いや、一番に知りたい、調べなくてはならない事だ。両親の命と、精神がかかっている。

 

 ここで問題なのは、どう調べるか、だ。

 麻薬なんて、彼女達にもどうしたらいいか分からないし、詳しい人や場所も同様。

 既に、手詰まりで。

 ふと、どうして(・・・・)個性を使ったのか。使いながら考え事をしたのか。頭をよぎり。

 どうして、意識が無いのに個性が発動したままだった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)のかと、疑問が湧いてきて。

 ()を見てないかと、記憶を辿って──しかし、無い。

 でも、全員を廊下に出した。呼ぶまで来るなと、命令して。

 

 これは、知られない方が良い。

 きっと、どちらの為にもならない。

 多分、おかしくなったと思われる。

 それだけじゃなく、理由を聞かれても答えられないし、原理なんてもっと知らない、どうしてかも分からない。

 

 パソコンの前に立ち、起動してWordを開き、キーボードの上に両腕を伸ばす。

 個性を発動する。普段は種類とか熱さとか場所とか、色々と指定するが、今回はただ発動する。

 なんの指定もせず、ただ(・・)個性を発動するだけ。

 それだけに、集中する。目を閉じて。いつもは音や気配など、周りを把握しているが、今だけは何もせず、からっぽにして、個性の発動だけを行う。

 不思議と、簡単に心を無にできた。

 元々、考えようとしなければ何も浮かばなかった。雑念なく、個性よ発動しろと念じる。

 

 しばらくして、指定していないのに手首から肘まで出ていた肉まんが全身から出る。そこで、発動を止めた。

 目を開ければ、そこには奇跡が起きていた。




まあ、情報社会だし? 事前調査も、元社会人としては当然だけど? でも、まさかあの膨大なネットからよくもまあ探し出すわ~。ちょっと本気出し過ぎじゃない? 超幸運体質も手伝ってりゃ、そりゃ正解導き出せるよ。しっかし、両親は運悪すぎ。運はシーソーでも足し算引き算でもないから、そっちと関係ないけど。さぁて、請われたら応えてあげようかね。汝が求めるなら、叡智を与えよう──君が壊れる前に、なんて、ね。()われたから、()われる前に、ってね!

今回は恋愛要素についてアンケートです。かなり悩んでも相手が決まらないので(^^;)次回アンケートはキャラで、次話やります。相手は相澤・緑谷・爆豪・轟・心操の予定で、他に希望がありましたら感想などで教えてほしいのですが、中には書けないキャラも居ますので申し訳ないのですが絶対とは言えません。マイクは好きですが、英語が苦手なのですみません……。

  • 恋愛あり。一人。相手は次回のトップ。
  • 恋愛あり。複数。トップ以外は当て馬。
  • 恋愛なし。逆ハー。投票数で出番増やします
  • 恋愛なし。全員友情。同上。
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