超幸運≠平穏 ~神様のご都合主義~   作:紅月 煌

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お待たせしました!

アンケートありがとうございました!
最新話投稿したので、これで決定します。
16票『恋愛あり。一人。相手は次回のトップ。』
1票『恋愛あり。複数。トップ以外は当て馬。』
1票『恋愛なし。逆ハー。投票数で出番増やします』
25票『恋愛なし。全員友情。同上。』
結果、最後の『恋愛なし。全員友情。同上。』になりました。
ぶっちゃけ、恋愛ありで書く気満々だったのに、なんで入れたのか自分でも不思議なのが勝ちました(笑)
その為に家族大好きなのに初期から会話入れずにこのままフェードアウトする感じでしたが、しません。家族の出番が増えます。
また、悪足掻きにも、恋愛路線を捨てきれないので、差の9票つけられたらそっち行きたいです。てへぺろ。

後書きの後に、家族以外の出番のアンケートあるので、またよろしくお願いします!
勝つと思ってなかったので予告では相手用のでしたが、予告したので出番増減アンケートします!


これで、入学前は終わり

 落ちた肉まんはキーボードに当たり、出る場所も間隔もランダムな筈なのに、ディスプレイには意味のある文書があった。いや、出来ていた。

 普通では有り得ない、確率で言えば宝くじなんて比にならない異常、まさに奇跡。

 まあ、あいつしかいない。

 内容は手紙のようなもので、以下の通り。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 隠蔽するんだね?

 いいよ、君の意思を尊重しよう。

 

 まずは、これ。

 君が無意識に思っていた通り、あと説明の通り、その個性は僕が与えたもので、使えば使うほど僕が介入できるようになってる。

 具体的には、使うとポイントが貯まって、何をするかで使用ポイントは変動する。

 だから、君の行動は正しく、昨日のでたくさん貯まったから今こうして介入できた。

 あと、僕が与えたからこそ、君が指定しない事を僕が変える事もできる。

 例えば、寝落ちしたのに個性が発動し続けてたのは、君が止めようとせず意識を失って制御を手放したから、僕が出続けるようにしたんだ。

 それと、邪推しているようだけど、今回のは僕の所為じゃないよ。なんせ、僕が君の個性経由でしか介入しないのは影響が大きすぎるからだし。

 夢枕に立つくらいならできるけど、そもそも夢だから目が覚めたら殆どが忘れちゃうし、滅多に居ないけど覚えてたとしても何となくだからそれを信じるかは本人次第になる。

 実際、もっと明確に一人の思考や行動に介入すれば影響ハンパないよ。その一人だけじゃなく、周りの何万人も廃人にしちゃうし、ついでに物理的にも世界が三割くらい壊れちゃう。だから、しない。

 つまり、僕の所為じゃない。

 

 さて、前置きは置いといて、君が知りたい本題に入ろう。

 結論から言うと、今回の件は完全なる偶然だね。

 元々は上流階級でない金持ちをターゲットにした詐欺で、個人の警備や護衛を請け負う会社を隠れ蓑に細々とやってる。ちなみに、九割九分は何も知らないで勤めてる。

 きちんと仕事もしてるし、慎重に行ってるから、警察も誰も掴んでないし、怪しくも思ってない。

 詐欺の内容は、とある薬で判断能力を鈍らせた上で好意を持たせ、偽の襲撃や強盗があったと思わせて報酬を増額させるっていう、ちゃちなもの。

 始めに金額は提示してるけど、間一髪で助かったとか、護衛が庇って怪我をしたとか、そういう状況で感謝した依頼主側から言い出せば成功。更に、その金額を依頼主に決めさせる事で、今まで露見してない。

 あくまでも、依頼主側から言い出した事だからね。金額だって、依頼主が痛くもない程度だし。

 ただ、薬の所為で言い出しやすいし、調子に乗りやすいから、成功率も金額も高くなる傾向にはある。

 しかも、感謝してるから周囲に言ったりして、勝手に評価も高くなるという、一石二鳥ってな訳。

 

 で、両親はネットでこの会社を知り、口コミが良かったからって昨日の昼に相談しに行った。

 その相談自体、罠なんだ。

 始めのお茶は普通のだけど、事情を聞いてターゲットにされると薬入りのお茶菓子が出される。

 両親ほまさにカモだった。幼い子供が狙われていて、父親は押せばどうにかなる、母親は説得できそう、金も結構あるらしく、安全の為ならケチらない。

 これで会社側は良いカモと判断し、菓子を出した。

 しかし、それでも両親は事情を全部話すのを躊躇い、娘は可愛いから狙われてると嘘をつき、家の外での警備を希望した。

 本来は契約を渋るとお替わりのお茶に薬を入れて後押しするんだけど、狙われてる理由によっては危険だから聞き出す為に追加された。

 でも、いくら判断能力を落としても、両親は警察署で取り調べを受けた事もあってビビってたし、警察から目を付けられてる事も知られたくなかったから、君の事を喋る気は更々無い。

 でも、お金については違った。

 それまでに話して提案された警備人数と金額を、倍に増やしてほしい、倍額でも上乗せでもいいって言っちゃったから、どれだけ引き出せそうなのか、どんな金銭感覚なのか知りたがったんだ。

 まともに仕事しても、数を増やすだけじゃなく、精鋭を用意するとかでも儲けられそうだしね。でも、危険はごめん。

 一回目のお茶菓子に、二回目のお茶のお替わりでも喋らない。本来はここまでなんだ。これでダメなら諦める。

 薬の存在を気取られてはいけないから、三回目は無し。それが、ルールだった。

 

 でも、相手が悪かった。タイミングも悪かったし、運も悪かった。

 その担当者は、薬で詐欺をしている中で一番がめつかった。慎重で小物ばかりだけど、仲間内では一番慎重じゃなかった。

 その上、互いにライバル視してる同期が良いカモから追加報酬を受けて社長から褒められ、皆にも持てはやされ、ドヤ顔で臨時ボーナスを貰った事を自慢されたばかりだった。

 だから、金払いの良さそうなカモを絶対に逃したくなかった。

 三回目の薬を追加したいが、薬を知ってる奴じゃルール違反で反対される。それでトイレだと嘘をついてまで中座して仲間の目を盗み、たまたま通りかかった薬を知らない新人に指示を出した。

 当然、仲間に知られないよう周りばかりを気にして、きちんと伝えられなかったし、新人の様子も見えてない。

 更に、新人は頑張りが空回りするタイプだった。前職を小さなミスでクビになった事から、気を付けようともっとポンコツになってた。緊張していてよく聞いてなかったし、お茶を用意する時もそう。

 間が悪い事に、薬は運ばれたばかりだった。いつも腕の立つ社長の側近が秘密の場所から専用容器の一リットル瓶で持ってきて、給湯室の棚の下部にある戸棚の奥に他の瓶にまぎれさせて隠されていた。下手に鍵を付けたり、露骨に隠すと逆に目立つからと、そういう扱いになってた。

 無断で使われないよう分かりやすく監視カメラもあったし、設置はサボり防止に検討されていた時に、人目が無いからと不埒な行為をした者達がいたのが決め手になって、なんて理由付けされてた。それでも好奇心で使おうとした社員は上層部に呼び出されて叱られたから、語り継がれて馬鹿な真似をする者はいなかった。

 事情を知らない社員には表向き、社長が頼み込んで売って貰ってる、一般には販売されていない特別な品で、上客に使う為の高級な香り付けと説明されていた。使用は幹部のみに限られていて、もし指示があれば一滴垂らすだけとも、ね。

 いつも使う分は、人の居ない早朝に小瓶に移されて、棚の上部に置かれていた。でも、一リットル瓶は外から持ってくる時に変に思われないよう人の多い時間帯に運ばれていて、たまたま前日に新人は瓶が置かれるのを見てしまっていた。

 それで新人は、指示通り早く持って行かなきゃと焦って説明を忘れたばかりか、まさかの、上の小瓶じゃなくて、下のたっぷり入った一リットル瓶を、その薬そのものを沸かしてお茶を淹れた。

 沸かしても効能は変わらず、無味無臭で無色透明の多少とろみがあるだけの薬だから、お茶として出されても誰もおかしく思わなかった。

 最後の不運は、警備会社なんて縁の無い両親が畏縮していた上、隠し事や質問が多くて緊張していた事と、お替わりが遅くなって喉が渇いていた事。その、薬そのものと言えるお茶を、二人とも一口目で半分以上飲んじゃったんだ。

 

 本来なら麻薬のような症状は出ないはずが、出てしまうほどに盛られた。薄めたのは酒と同じような効果しかないのに、多量だとそうなってしまった。

 これは使ってる側もやった事がなくて、知らなかった。

 がめつい奴は両親の様子が変になって、ヤバいと思ってさっきの奴から話を聞いて真っ青。菓子が腐ってたと偽り、水をたらふく飲ませて上からも下からも吐かせた。

 その頃には他の薬を知ってる奴らにもバレたけど、結局みんな一番は捕まりたくないから、協力してくれた。

 最終的に、殺すまでの度胸は誰にもなくて両親は解放。

 

 フラフラになりながらもタクシーで帰宅した両親は、一先ず横になって休んだ。

 外は危険って認識だから安全な家に帰って、しばらくしても良くならなかったら往診してくれる医者を呼ぼうと考えていた。

 使用人達は深夜でも必ず一人は居るし、電話番号も知ってたからネットで探して呼んでもらおうとね。

 けど、薬を盛られたとは知らないから、食あたりか何かだと思って吐いた事で一先ずの対処できたと勘違いして二人とも寝てしまった。

 うん、吐いたけど、まだ足りなかったんだ。洗浄した訳じゃないから時間が経って、粘膜に残った薬は全て吸収されてしまった。

 しかも、薬自体が濃縮されてたから余計にマズかった。残った分だけでも成分が強すぎた。

 それで、本来は起こらない麻薬のような中毒症状が出た。

 薬を欲して目覚めた両親は正常な判断がつかずに互いに薬を求め合って言い合い、そこへグレーがノックして、と。

 ここからは知ってるね。

 

 てな訳だから、警戒は必要ない。

 その警備会社は、渡した名刺を回収して、指紋も拭き取り、監視カメラの映像は機械の不具合にして消去。データの改ざんは完璧にできるか不安だったし、予約しても来ない客も居るから、両親は来社してないって事にした。

 タクシーも、人気のない道を使って変装した社員が肩を貸し、両親の意識が朦朧としている事を良い事に会社から離れた位置から乗せた。

 近くにコンビニも無いし、どの監視カメラにも映ってない。

 もし両親が訴えても、両親の証言以外に、警備会社に居た証拠は消された。

 向こうから、もう関わりたくないってさ。

 怒るだろうけど、黒幕も追撃も無いから安心して。

 

 それから、両親は一般的な麻薬中毒者と同じ対処をすればいい。

 手に入らないとは思うけど、欲しがる薬を与えなければ、そのうち薬は抜けるよ。

 あと、この薬はとある個性が元だから、正確には麻薬でも違法ドラッグでもない。

 個性自体は本来そこまで強力じゃなくて、濃縮と多量摂取で起こった事故だ。

 本人が使っても、ここまでにはならない。

 

 それから、おまけ。

 これを使用人達に見せる訳にはいかないだろ?

 神託でも独自に調べたでも誤魔化し方は任せるけど、五人を派遣すると良い。

 

 今日二十一時、○○駅○○バーの花瓶近くの席。イエロー。注文はおすすめをで、そこだけは目立たない為に声を出させて。あとは席で静かにして気配を消す。

 今日二十三時、○○駅○○居酒屋で掘りごたつ席を希望して、既に出来上がった酔っ払いのフリをして酒を頼みまくる。レッドとブルー。片方が会社での嫌な事を愚痴りながら、片方が絡まれる感じだと尚良し。

 明日十六時、○○駅○○コーヒーショップの奥の窓際。ピンクとグレー。実体験じゃなくていいから、恋バナで盛り上がるフリ。忘れられない人やエロ話だと尚良し。

 

 頑張って。

 またね。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 ここで、終わっていた。

 最後の一文に嫌な予感はあるものの、どうやら協力してくれるらしい。いや、もうしてくれた。

 どちらにしろ手詰まりだから、手段は選んでいられない。

 

 部屋を出て、勢揃いしてオロオロしていた五人を連れて二階を捜索する。現金や、他にも色々と必要だ。

 まず、両親の部屋のクローゼットの奥で微妙に隠された大きな金庫を見付けた。

 くまなくもっと探したら、母の天蓋ベットのマットレスの下から金庫の開け方の紙と、父のコレクションの空いたマッサージオイルの容器から鍵も入手。合わせて金庫を開けたら現金四百万ほどが入っていた。脱出ゲーかな?

 

 思っていたよりあったのは、家の守りを固めていたから安全だと思ったのと、頻繁に外へ行きたくなかったからだろう。

 金庫の中に全ての大事な物を保管していたようで、銀行通帳やカードに印鑑から、家や土地の権利証や水道光熱費の契約書に領収書まで、かなりの書類があった。

 母は、元は家計簿など細かく管理していたからか、その名残で大量の書類は綺麗にファイリングされていた。各ファイルは契約書や支払いなどの分類で整理され、中も付箋で分かりやすくなっていて、元事務員としての経験が生かされていた。

 ただ、働いた期間が短かったからか、そこに不用心にも、というか会社じゃないからと便利さを取ったのか、それぞれのIDや暗証番号なども付箋で貼ってあったのには驚いた。

 まとまって欲しい物が全て手には入って都合は良いが、本当に家は、その中でも金庫は安全だと両親は認識していたらしい。元小市民らしくはあるけど。

 

 それらを元にパソコンを調べたら、できるだけ家から出なくて済むようにネットショッピングばかりしていて、食材なども配送して貰っていたようだ。

 しかも、口座引き落としのカード払いのみの徹底ぶりで、グレー達の給料もネットバンキングで毎月振り込んでいた。

 口座は、流石に一つの銀行に全額預けるのは不安だったのか、有名銀行から信用金庫まで、ある程度は分散していた。さっきの引き落としの口座は一番残高がある銀行で、そこ以外のカードも複数あった。残高はまだまだあるが、少なくなっても他の銀行口座引き落としのカードや、ネットバンキングを使えば外に出なくて済む。

 

 ここまでするなんて、両親は本当に家の中は安心だと思い、家から出ない為の工夫を最大限していたらしい。

 この点は、両親より私の方が危ないので助かる。

 しばらくは私が代行せねばならないから、家計簿用のソフトを軽く見て、各種支払いや給料日を覚えておく。

 

 それと捜索中に、両親のスマホ二台も見つかった。

 ふらふらになりながらも外から帰って横になる前に脱ぎ捨てた上着と、放り出された鞄からなので、実は最初に手に入れていたのだ。

 金庫にあった携帯電話会社の契約書を見るに、複数持ちではなく一人一台。

 私の分は当然無い。兄のは、家出の後で解約したらしく、その書類もあった。凪いだ心が沸き上がりそうになったが、今はそんな場合ではないので抑えつけた。

 両親のスマホは、暗証番号やパターンなど全てを用心の為に定期的に変えていたらしく、付箋のものは古くて使えなかったが、好都合な事に二台とも指紋認証機能付きで、指紋の登録もされていた。

 近くで家探しする私達に寝てられなかった暴れる両親の手を使い、ロックを解除して使えるようにする。

 パターンやパスワードを文字通り両親の手を借りて変更していき、指紋登録も二台ともに登録数の半分は私の指紋にしておく。

 どちらにもパスワード管理アプリがあり、これも指紋認証でクリア。中の十分な登録数で、活用している事に安心する。

 これで、問題なく使える。スマホを手に入れたのだ、これからは五人を気にせず調べ物が可能で、安堵した。

 

 一段落したら、良い誤魔化し方は思い付かなかったので神託として話し、なんとも言えない視線は無視で、指示された時間と場所を伝えた。

 こちらが向かって貰う立場なので、酒も入るが飲食代は全額支給とする。

 さっき現金を手に入れたので、レッドにオムツ代を返すついでに先に渡そうとしたら五人全員から抵抗され、飲食代として領収書を貰ってお釣りと一緒に後で返すよう言いつける。

 飲酒する男達には必要だからと三万渡したら、万札は要らないとまた反抗が始まり、酔っ払わなきゃいけないレッドとブルーには怪しまれない為にも必要だからと説き伏せ、全部使う気で行って来いと話し合いを終わらせた。

 ちなみに、極力声を出したくないイエローは、バーで一杯しか頼む気が無く、千円しか受け取らなかった。コーヒーショップのグレーとピンクは、長居しても良いようドリンクとデザート、または軽食を頼めと一人二千円を渡した。

 

 

 この頃にはもう家政婦が来ていたようで、しきりに下を気にする五人に家政婦の印象や性格を確認して、六年振りに一階に降りる。

 家政婦は見田(みた)さんといい、五十代くらいの女性だ。必要なら愛想も振りまくが、本来は事務的で冷めていて、洞察力が高い人らしい。実際会えば、まさにその通り。

 昔に少し顔を合わせただけで挨拶くらいしかした事がなかったが、上にいるのは雇用主の娘と分かっているからか、僅かに驚くもにこやかに挨拶して用を聞いてきた。

 多分、私は真顔だった。それでご機嫌伺いや雑談は不要と判断されたのだろう。珍しく降りてきたなら自分に何か用があるのだとも察し、調理の後片付けで濡れた手を拭いて向き合った。

 

 さて、隠蔽すると決めた。両親にはこのまま家で、内密に、療養して貰う。

 その、最大の難関がこの人だ。

 麻薬は犯罪。使ったら勿論、持ってるだけでも罪になる。

 しかし、両親は個性の所為で、ああなった。

 しかも、その個性持ち本人では、ああはできない。

 ここに、勝機がある。

 

 前提として、うちが、私が、犯罪者から警察にも目を付けられ、狙われている事を分かってるか確認──イエス。

 私は外はおろか、三階から出ていない事を確認──勤務時間外は知らない。

 なら、家の出入りする人が狙われているのを確認──自分も声を掛けられた事があり、それからはタクシー通勤の上、防犯グッズの支給と共に危険手当を貰っている、と。

 

 それなら話は早い。

 頭の回転も、こっちの考えもある程度は理解している。

 その上、危険があると分かっても、両親が考えられるだけの対策を受け、その危険の分の追加報酬があれば辞めない度胸と、仕事に対する真摯さを持っている。

 もしも金に弱いのならば、余計に手はある。

 だからこそ、ここからは、嘘を交えて話を進める。

 

 ストーリーはこうだ。

 両親を、個性で作った特別な薬で操ろうとした奴らがいた。

 両親は薬を飲まされたものの逃げ出し、無事に帰宅できたが現在も上で苦しんでいる。

 悪い奴らは、犯罪の証拠を押さえている為、こちらが警察や病院に行かない事と、必要な関係者以外に知らせない事で、今後は手出し無用と交渉は済んでいるから危険は無い。

 もしも露見すれば、うちの関係者、見田さんの周りを含み、報復が待っている。

 うちは、兄が家出しているので、両親が動けない今、消去法で私が主人となる。

 以上の事から、雇用条件の変更はないが、より慎重に秘密を守って貰い、今後は私の指示に従って貰う。

 

 簡潔で、真実もあり、無理のない展開だ。

 ついでに、両親を病院に連れて行けず家で療養する事も理由として上げ、隠蔽もできる。

 神託を抜きにしたのは、この人には通じないし、話したら逆に不信感を買うと分かってるからである。

 後ろにいる五人は、何故かすっかり信じて感嘆の声と拍手が聞こえてくる。

 部屋に閉じこもったのは、そんな話を悪い奴らと話した訳ではないのだが、どうしてかそう信じ切っている。

 ……ホントに、こいつらダメだ。上手く社会で生きていけない訳である。

 

 気が抜けそうだったが、努めて表情を変えないよう気合いを入れ、家政婦を観察する。

 表に出しはしないが、緊張して返答を待つ。

 時間が引き延ばされたかのような錯覚に陥るが、結局は錯覚。気の所為でしかない。

 ここで、もし、子供を雇用主として認められないと言われたら。幼気な子供の泣き落としも、あざといお願いも、この家政婦には通じないだろう。

 やはり、論理的に、言葉で納得させるしかない。

 

 けれど、そんな心配は杞憂だった。

 質問一つで、すんなりと容認してくれた。

 緊急事態であり、大人だから譲歩して認めてくれたのか。

 いや、質問が他の変更があるのか一点だったので、この場合は仕事人だからかもしれない。

 

 その仕事人で、思い至った。

 五人組もそうだったが、このタイプも知っている。あっちは高飛車で承認欲求の塊だったから上手く結びつかなかったが、そうだ、あれと似たタイプだ。

 自分の能力と仕事の出来に、相応の誇りと自信を持つ。そのプライドは高く、関係ある事柄に対しては頑固でもある。正当な労働に対して相応の賃金を貰い、条件などの変更は納得できれば良し、納得できなければ辞める。たった、それだけ。

 そして、雇用主が子供の私に変わる事は、今は許容した。

 気を付けるのはこれからで、今後、本人本位から外れた扱いや指示をすれば家政婦は未練なくあっさりと辞めるだろう。本人がどう思うかこそが問題で、面倒臭いのだ。……知ってる、昔、前世それで凄く困った事があったからな!

 

 脳裏を過る疲れた記憶に蓋をし、見田さんと話を詰める。

 大事な事なので、書類や両親のスマホを調べれば分かるだろう、雇用条件や最近の連絡事項などから、他に要望はないか。このタイプはかなり優秀な人か勘違い馬鹿と両極端だが、五人組の話だと前者っぽいので手放したくない。

 そうして、雇用条件に関しては今まで通りだが、今までを知らないので、不備があれば都度その時にと決まった。

 連絡は、メインは父のスマホを使うので、それで今まで通り行う。

 

 話が終わり、これからよろしくと挨拶をして踵を返す。

 けれど、ふと思い出したように気まずい表情で振り返り、躊躇うように臨時ボーナスは必要かと尋ねた。

 答えは、細められた冷たい視線とは裏腹に、威圧感さえある微笑みだ。

 侮辱と取ったか。良かった良かった、都合が良い。

 金で動くなら、金に従う。金を積まれて何か聞かれたり頼まれても、証拠があるなら相手の倍出すからこちらについてもらうのも、今の資金があれば簡単だ。

 実は、そうでない方が良かったから、引っ掛けでもあった。

 失敗するかもとは思ったが、それならそれで対応はもちろん用意している。

 どうしてそんな反応されるのか分からない演技をしていれば、見田さんは厳かに語り出した。

 

「家政婦は家の中で仕事をする必要がある以上、必ず何かしらはご家庭について知り得ます。

 その為、医者や弁護士同様に、守秘義務が必ず発生します。

 仕事で知り得た事を外で、そのまま話すのはもっての外、それはもう家政婦ではありません。

 例え、濁したとしても話せば三流。

 飲酒しても、何をしていても、されても、決して、何も、漏らさぬ者でも、二流止まり。

 そして、そうした守秘義務を徹底した上で、業務を完璧にこなし、指示がなくともご要望を察して動いて始めて、ようやくごく僅かな一流へと至れるのです。

 お嬢様はお知りではないようですが、ご両親は家政婦派遣会社の最大手であり、歴史ある当社に依頼を出された際、一番を、お求めになりました。

 そこで、当社で最も優れ、同時に最も評価の高い私が派遣されたのです。

 その、意味が、理解できますでしょうか」

 

 なるほど、これは本物だ。

 本物の一流であり、仕事に誇りと、自信を持つ仕事人だ。

 医者や弁護士という、社会的地位が高い職業と比較する辺り、やはりプライドも相当に高い。

 でも、そんなプライドを持っても許されるほど、優秀すぎる人でもあるのだろう。気迫からも、それが分かる。

 十二歳の子供に何語ってんのとは少し思うが、それを分かっていても言わずには、理解させねば気が済まないのだろう。

 詳しく知らなかったが、怒らせると本性が出るとは良く言ったもので、良く分かった。良い情報も手に入ったし。

 

 ちなみに、ここでの正解は、即否定である。

 次いで、言葉が足りなかったと誤解を解く。

 

 今回の事はこちらの非しかなく、今まで通り働いてもらっても、引き継ぎ無しだからきっと何かしらを、話し合うだけでも仕事の邪魔をしてしまったし、他にも迷惑をかけるかもしれない。

 更に、ほぼ初対面で、年下も年下の、学校にも通っていない十二歳の子供が雇用主となる異例の事態で、こんな子供に指示されるなんて、普通に大人は嫌がると思った。

 つまり、臨時ボーナスとは迷惑料であり、こんな子供に従うのが嫌でも辞めないでほしいという気持ちから。

 見田さんが今回の事を外で喋るなんて思ってもみなかったし、言われて始めて気付いたが、こんなにも力説するのなら安心である。

 今までご飯や洗濯物くらいしか仕事振りを知らなかったが、どちらも専業主婦だった母しか知らないから、仕事としてしている見田さんとは比較しようもない。

 その他は、両親から何も聞いていないし、一応五人から会う前に少しは聞いたが、そんな凄い人とは知らなかった。そんなに凄いなら、とても心強い。

 

 言葉を重ねる度、表情が和らいでいく。

 見田さんも、グレーよりはマシだが表情が出にくいタイプで些細な変化ではある。

 でも、怒りは消えた。今度は、焦りが浮かぶ。

 仕事人だからこそ、食事や洗濯だけで、接点が無いのに、又聞きで、高評価を得ようなんて欠片も思わない姿勢は素晴らしいんだけどね。

 さっき、言質は取った。

 だって、『指示がなくともご要望を察して動いて』と言ったのに、動けていない。

 動くのは別にしても、言葉無しに要望を察するなら、言葉があれば余計に察せなきゃいけないのに、完全に取り違えた。

 しかもそれは、自分にとって譲れない、沽券に関わる事だと勘違いしたからこそ、思考が固定されてしまったとも言える。

 舌の根の乾かぬうちに、自信を持って宣言したにも関わらず、この有様。これでは自称一流となってしまう。

 このタイプは、会社が自信を持って薦め、自他ともに認める一流だが、知らずに認めて貰うのではなく、自らで実力を見せて認めて貰いたいというプライドを持っている。

 そこに、勝機があった。

 

 私が気まずい表情をしたのは、勤務時間は限られているのに長々と話をした事で時間を取らせた上、既に仕事の邪魔をして迷惑をかけ、今後もかけそうだから。

 躊躇うフリは、雇用主側の非しか無い理由で、年下もすぎる子供に従わなくてはならず、辞めたいのではないかと不安だから。

 だから、どうしてそんな反応されるのか分からない演技を、わざわざしていたのだ。

 

 すぐさま勘違いを悟った見田さんは頭を下げ、臨時ボーナスを断ってきた。

 私の勝利だが、ここで終わらせる気は無い。優秀だからこそ、余計に勿体ない。

 

 今まで直接の関わりはなかったが、恐らく見田さんにとって私への感情や評価はゼロに近しい。これ程の人が状況を分かってない訳はないから、精々あっても哀れみ。

 洗濯は普通の量だし、室内で汚れも酷くない。食事に至っては好き嫌いなく毎食完食で、残した事が無いから悪くはないと思う。

 それらを総合して、ややプラス程度から、侮辱されてかなりのマイナスに。しかし、すぐ誤解だったと判明したから反動でやや高いプラスに変わる。そこを、にこやかに躊躇いなく、勿論だと受け入れれば、もっとプラスに傾く。

 追撃に、こちらも紛らわしかった事を謝罪すれば、子供ながらに度量が広いと示せるし、引け目も感じやすくなる。

 そもそも、証拠がなかったからかもしれないが、なくとも軟禁自体を見逃していたのだ。勤務中に知り得た事を外に漏らさない徹底した仕事人の気質と非情さは、こちらに引き込むに値する。

 手放すのは惜しい人材だからこそ、作れる時に貸しも負い目もどんどん積み上げる。あればあるだけ良く、困るものじゃない。いや、五人の崇拝レベルまでいくと困るけど。

 

 

 遅くなって冷めた朝食を自業自得だからと申し訳なさそうに受け取り、冷めても美味しそうだから大丈夫と、ついでにポイントを稼いで上に戻る。

 まあ、普通の食事が無理そうな両親の分を新たに作って貰うので、そんなには稼げないが。

 ちなみに、余った分は増えても食べられる男達に任せる。

 

 そうして、三階で取りあえず朝食にし、食後は話し合いを始めた。

 あいつが派遣しろって言うなら、何かしら意味はある。

 五人は不安そうだが、とにかく行って貰わなければ話にならない。

 話が終わったら、いつも通り過ごしつつ、私も両親の看病をして、夕方に男達を見送る。場所的に会話を盗み聞くっぽいので、値段問わず高性能な小型録音機を購入する必要がある為、時間に余裕を持たせたのだ。

 うっかり(・・・・)、買い物について話すのを忘れていたが、まあ、私にもそんな事はある。あるったらある。

 がたがた震える両手に分厚い万札を持たせ、大金に冷や汗を流して最後まで縋る目を止めない男達を追い出した。やっぱり、嫌がったし、ヘタレだったな。うん、口で負ける気はしないが、反論できない直前に強行したのは正解だった。

 

 いつもの就寝時間を過ぎても、起きて待っていた。

 両親は時間関係無く、目覚めては暴れ、疲れたら眠るを繰り返す。その合間に、隙を見て水分補給と濡れた布類の交換を行う。

 会話不可能なので、それだけしかできないが、今までは見る事も滅多にできず、くぐもった声でも肉声を近くで聞けて、触れて体温を感じるだけでも満たされた。

 日付が変わっても構わず、二人から睡眠や休息を促されたが、このままの方が落ち着かないので待つ。

 それでも、戻ってきた順に軽い報告を受けたら、五人揃って心配しまくりで交代でやるからと懇願されて仕方なく、眠くはなかったが部屋に戻った。

 取りあえず横になって目を閉じた所で意識が薄れたので、こんな時でもすぐ寝れるのかと呆れながら、そういや昨日あんまり寝てなかったと思い出しつつ受け入れた。

 翌日、タイミング良く見田さんは休みなので、両親が寝ている間に、隣の部屋に集まって録音を聞く事にした。

 

 

 まずは隠れ家のようなバーで、イエローから。

 

 何を録音すればいいのか分からないし、もし録音できなかったら困るし、常に録音のスイッチを触ってる訳にもいかないからと、心配性から店に入る前から録音はされていた。

 なので、録音だが初めてイエローの声を聞いた。うん、普通。強いて言うなら、ちょっと高め。

 目立たない為とは言え、短い注文だけなのに、指示した時はとても嫌がった。そもそも声を出したくないのは、まさに男にしては高くて中性的な声だからそうで。

 続きの方が気になるので流したが、こっちの反応を窺うリアクションがうざい。はいはい、それが原因で昔からかわれてイジメられたんでしょ、説明されずとももう分かるわ。

 

 なんとか説き伏せただけあり、イエローは頑張って低くした声で無事に目立つ事なく、指定された花瓶近くの席を確保したらしい。

 ちなみに補足はスマホに打ち込まれ、こちらに提示される。いつもの事だ。だから、打つのがめっちゃ早いし、正確。

 しばらくして、高そうなスーツを着た中年男性二人組が来店し、近くの席に座ったそうだ。

 会話からどうも例の会社の社長と側近らしく、逮捕されるかもしれないと、かなり精神的に追い詰められて弱り果て、酔わないとやってられないとばかりに酔っ払い、何が悪かったのかと勝手に色々と喋ってくれた。

 小声なので近くないと聞き取れないが、花瓶が意外とデカくて意図せず潜伏でき、全く気付かれなかったらしい。あと、高かっただけあって高性能な録音機のおかげだろう。

 

 会話は愚痴が多く、だんだん呂律が怪しくなりはしたが、概ね理解できた。

 なんと、麻薬の元になった個性の持ち主は男で、社長の妻と浮気していたそうだ。妻を問い詰めたら向こうから言い寄ってきて、どうしてか拒めず、体の関係まで持てば忘れられずに何度も繰り返してしまったと言う。

 浮気男を罠にはめて捕まえて詳しく聞いてみれば、それは男の個性【フェロモン】によるもので、体臭を嗅がせれば好意を持ちやすくなり、体液を取り込ませればより強く作用する体質との事。

 ようするに、恋に恋するお年頃のような心境にさせ、相思相愛で体の相性ばっちりの相手とするような多幸感で夢中にさせるのだろう。経験無いから知らんけど。

 

 二年前に捕まえた社長は男の個性を知り、ちょうど直近に顧客の厚意で追加報酬を貰ったばかりで、利用すればもっと頻繁に貰えるのではと悪巧みを思いついた。

 警備会社だけあって怪我は付き物だから専属の医者が勤務し、睡眠薬やらの対策の為に薬剤師の資格を持つからと相談して、男の個性について調べた。

 調査結果から研究や加工をし、社長自ら始めの治験を行い、医者や側近も同意を得て試し、ようやくあの薬が誕生した。

 なんでも、濃縮の過程で劇的な変化が起き、それがとても好都合だったそうだ。

 元々は、体臭を嗅がせれば好意を抱かせ、体液を摂取させれば夢中になるほど強く作用した。

 それが、濃縮した薬の一滴でも摂取させれば気持ち良く陽気に酔った感覚になるが自覚は無く、摂取時に一緒に居た人間に好意を抱きやすくなるが変に思わないといった具合に。

 完成した薬は、まさに詐欺に打ってつけだったのだ。

 それが、詐欺の始まり。

 

 そもそも社長は愛妻家で、長年アプローチし続けてようやく結婚まで苦労してこぎ着けた。その、妻を、ちょっと会っただけの平凡顔でチャラい男が、体だけでも夢中にさせた。

 体より頭を使う方が得意で、喧嘩や暴力とは無縁だった社長は勢いで一発殴ったものの、どこまでならやっていいか分からなかった。殴った拳は痛く、バットなどの道具を使おうとも思ったが、万が一にも殺しては不味い。後遺症どころか、病院に行くほどの怪我を負わせたら悪くない自分が逮捕されて妻と離れ離れになりかねない。

 怒りはあれど、一番は妻。

 それは茹だった頭でも消えず、拳の痛みはちょうど良い目安となり、痛みが増えても増しても、男に自分がした罪の重みを分からせてやる事はできないと悟った。

 そう、一時的に男を痛めつけても、業火のような怒りが収まるとは思えなかった。

 もっと長く、もっと苦しい思いをさせたい社長にとって、男の個性を利用した金儲けは慰謝料代わりであり、万が一露見しても男に罪を被せる気だった。それに、監禁すれば好きな時に好きなだけ痛めつけられるとほくそ笑んだ。

 良心はあったみたいだが、こんな屑なら構わないだろうと踏み切った。懲らしめる意図に、また他の誰かが被害に遭うかもしれないから解放できないんだと言い訳を重ね、そんな身勝手な理由で男を監禁した。

 とは言っても、内容は嫌がらせで呆れた。嫌いな食べ物や体にはいいけど不味い物尽くしにするとか、足ツボでのたうつ様を高笑いするとか、監禁部屋に臭いものや虫を投げ入れるとか。

 話を聞く限り、刑務所の独房のような娯楽が一切無い部屋に一人きりにされてる方がよっぽどキツかったと思うよ。あと、暗くするといつか発狂するって聞いたし。

 いつからか男に歓迎されるようになって不思議に思ってた社長だが、それは定期的な嫌がらせを次は何かと予想したり、嫌がらせ自体も娯楽代わりで、社長が構ってたからこそ暇潰しもできたのではないだろうか。あとはストックホルムシンドロームかも? 笑えんな。同情の余地無し。

 

 一人では諸々無理があり、医者や側近以外にも慎重に選んだ部下達を巻き込んで随分と稼いだみたいだが、今回の両親の件で発覚の恐れが出て怖くなり、仲間も全員一致で詐欺は終了。

 社長の怒りも二年も好き勝手したから収まり、妻も男の事は忘れたし、第一子も生まれて家族仲良く幸せだからもういい。むしろ、厄介事が終わって清々していた。

 さっさと浮気男を気絶させて遠くに放りだし、監禁場所も綺麗にして、薬も瓶も処分済みで、嘘の為の香り付けの代わりも見つけ、皆で忘れようとなった、と。おいおい、後片付け早すぎでしょ。

 捕まらない為にできる事は終わり、後はもう殺人しかないが、それはそれで危険だからと諦めてくれたのは朗報だ。あいつの情報だけで安心できなかったから。

 

 

 次は居酒屋で、レッドとブルー。

 

 二人とも酒には強いが、すぐ顔が赤くなる体質でちょうど良かった。これも見越しての人選だろうが。

 ちなみにイエローは枠で、飲んでも中も外も変化が無くて周りにはつまらないらしく、飲みニケーションが上手くいかない原因だとか。ジュースと一緒、変わらない? 知るか。スマホ近い、やめろ。

 

 途中のコンビニで一本飲んで赤くなってから入店し、掘りごたつを希望したら隣に例の会社の社員が居たらしい。

 あの元凶と、ライバル視してた奴じゃないお仲間達と。

 よっぽど酷く責められたようで、元凶はべろべろ、騒ぎすぎで一度追い出され、既に二件目。それでもくだを巻き、お仲間達は時に宥め、時に苦言と見せ掛けた嫌みを言っていた。

 内容は、あいつが言った通り。あのクソ新人ふざけんなと怒っていたが、お前が苦しんで苦しみぬいて、死にたくても死ねずに悶え苦しみ、絶望に心を潰されかけても正気を保ったまま末永く生きて老衰間際に難病でのたうち回ってタヒね、クソ元凶が。

 

 席は隣だが、仕切りがあって気にされる事も無く、気付かれないように次々酒を注文して、録音しているから自分達が聞く必要は無いと割り切り、互いの相槌も気にせず今までの苦労談を垂れ流しにした事で怪しまれなかったようだ。

 聞いた感じ泣き上戸で、あいつの指示とは違い二人して話していたが、ただ言いたい事を言いまくり、会話は噛み合ってないし、二人して同時に喋るし違う話をしていたから、元凶共もこちらの話を全く聞いてないただの酔っ払いだと思ったのだろう。

 ついでに私に対する不平不満が無くて、別の意味で安心した。

 

 

 最後は翌日の夕方、有名チェーン店のコーヒーショップにピンクとグレー。

 

 恋バナで盛り上がるなんて一体全体どうやってやるのかと真剣に聞かれたが、それだけで二人の恋愛遍歴がよく分かる。

 テレビや本の事を自分の事のように喋れとアドバイスしたが、こっちは切っ掛けさえあれば良かったらしい。

 

 コーヒーショップで何組かの会話が混ざって聞き取りにくかったが、下手くそながらも恋バナしたらすぐ釣れた。

 キーワードを教えたから二人して頑張って考えたであろう、忘れられない人の話が聞こえたのか、そこから盛り上がる女子トークは声が大きくなり聞きやすかった。

 どうやら、例の個性の男を知る女が居て、そういえばと始まった話は夕方とはいえまだ明るかったろうに際どく、聞いている女達のテンションを上げ、猥談まで進んだ。

 聞いていた部屋の空気は凍ったし、男三人は変な顔で固まった。道理で、聞く前からピンクとグレーが気まずい表情をしている訳だ。折角、もう一つのキーワードであるエロ話を外したのに、残念である。

 

 尻軽曰く、ナンパされ、顔も体も全然タイプじゃないが妙に惹かれて、そのままホテルへ。脱いでも貧相で全然そそられなかったが、行為が進むにつれてヨクなり、気絶するまでヤッたらしい。

 その後、連絡先を交換して何度も関係を持ったが、ある日を境に連絡が取れなくなり、見つけたら次は絶対逃さないとの事。友人も興味を持ち、もし見つけたら紹介してと、尻軽の友人も尻軽だった。

 話はそのまま各自の猥談という名の自慢に変わり、ピンクとグレーは居たたまれなくなって他の客と逃げた。

 男の消息不明の時期は言ってなかったが、多分捕まって監禁されたから連絡が取れなくなったのだろう。恋人ではないが何股もして、個性を悪用して何人もの女とセフレだったと思われる。

 

 

 行った順に録音を聞いたが、最後の話で空気が死んでいる。誰も話そうとせず、五人が顔ごと目を泳がし、あからさまにどうしようといった感じ。

 まあ、私、十二歳だしな。

 しかも、六歳から軟禁されて外に出てないし、接したのは両親と自分達だけ。両親とは滅多に会わないし、自分達の誰かが話すとも思えないし、ネットは監視していたから、性に関する知識が欠けていると思われても不思議ではない。

 こいつら、多分、誰が話すか押しつけあってる。もしくは、聡明であると認識しているから質問されないように逃げてる。

 最後の録音には、子供ができたらとか避妊やゴムとかも話してて、よくある常套句のキャベツ畑で赤ん坊が育つとか、コウノトリが運んでくるなんて、話を濁す事ももできないし。

 

 ああ、もう、めんどくせ。スルーしよう。

 とにかく、録音から事情は理解しただろうし、手を叩いて注目させて話を進めた。

 仲良くビクッと飛び上がって、間抜け面を向けてくるのも無視。

 

 あいつの情報を抜きにしても、これで概要は分かった。

 これまで分かった事を繋ぎ合わせてまとめ、足りない部分は推測として補い、共通認識とした。

 麻薬中毒患者のような症状については、濃縮の所為にした。セフレの女もクセになる、麻薬のなんとかに似てたとほざき、使用した事がある口振りだったから容易かった。

 神託と誤魔化したが、現に言われた通りの時間と場所で関係者を見つけ、真相が分かったのだ。五人の目のキラキラが凄い。なんの疑いもなく信じた。

 尻軽が本物を使った事があり、それでも今でも元気に色々やっていたのもある。両親も、いつか元気になると繋げられた。

 結論として、両親は麻薬中毒患者と同じように介護する。問題があればその都度対応する事で話は終了。

 

 

 その後は今後の事を考えて、両親を三階に移した。

 防音は三階を重点的に施されているし、二階には風呂もトイレも無いので、その為だ。

 私のベッドは一人用なので、母の天蓋ベッドの柱やらレースの垂れ布を外して運び入れる。

 私は金庫もあるので二階の両親の部屋に移り、五人には介護を中心に働いて貰う。

 

 しかし、手の掛からない子守よりも負担を増やしてしまう事が気掛かりで、五人とよく話し合った。

 いや、違う。話し掛けてくれたのだ。

 正直、あんな両親を目の当たりにするのが辛い。いくら六歳からあまり会わなくなっても、血の繋がった、たった一人の父であり、母なのだ。

 話せなくても折角会える機会なのだからと始めは積極的に介護に参加したが、次第に悲しさややりきれない気持ちを隠しきれなかった。

 他にやらなければいけない事があると、逃げてしまった。

 両親にできないのだから、私がしなくてはならないのは本当だ。嘘では、なかった。

 六人とも派遣だから請求書通りに各社へ振り込み、間違いが無いか請求書の精査もして、各公共料金などの支払いも滞ってはならない。食材や消耗品だって、見田さんと打ち合わせてネットで注文しないと生活に支障が出る。

 スマホやパソコンの中身に手紙なども確認して、不都合の無いよう、外から見て今まで通り過ごしているように見せかける事も必要だ。

 今回の件は突発的なものだが、警察も犯罪者にも、私とこの家を狙う奴らに気付かれてはならない。隙を見せてはいけない。

 幸い、両親は外に用がなければ出掛けなかったし、ここ数年は用事自体が減るように動いていた。人間不信で人の気配に敏感な五人が常に一人は居たのだから、確実な情報だ。

 引き継ぎ無しで問題が出ないよう引き継いで、整えていく。

 それは、逃避でもあった。

 いつもは空気を読めず、細かい機微も気付けない五人だったが、悲しみや辛さには、自分達と同じ傷には敏感だった。

 

 だから、五人は両親を任せて欲しいと言ってくれた。

 だから、頼る事にした。

 

 もう、秘密にする必要もなかった。

 兄を探したい事、その為にできる事。

 雄英高校のヒーロー科に行って、ヒーローを目指す事。

 利点を連ねて苦笑されたが、応援してくれた。

 

 それで、五人の負担を減らす為にも、住み込みを提案した。

 二階には両親の私室があり、荷物を寄せても十分な広さがある。二人部屋と三人部屋になるが、介護で揃う事は余りない。

 五人は一緒に住んでいて、そこに私が加わるようなものだが、今までほぼうちに住んでいるような勤務だった。

 持ち帰り込みで三食うちで賄ってたし、洗濯は乾燥機付き洗濯機だから好きに使えばいい。なんなら、見田さんにお願いしてもいい。

 風呂もトイレも二つずつあって、同居あるあるの使用してて使えない状況も少なくなるし、男女で起きやすい問題も、男女で分けられる。

 引っ越せば通勤が無くなり、時間に余裕もできるし、危険も無くなる。買い物もネットでできるなら代行してもいいし、出掛けるのを制限もしない。

 家賃も水道光熱費なども要らないし、支出が減るのは仕事できず金欠の時期があった五人には貯金が増える良い機会にもなる。

 考えてみれば利点が結構あり、この提案は喜ばれた。

 信頼も信用も天元突破している五人にとって、私と住む事自体、忌避する理由も感情も無く、ただ楽になってお金が貯まる良案でしかなかったようだ。

 そうして、さっさと手続きした五人と細かい事も決めて、同居が始まった。

 

 

 一気にがらりと変わったが、落ち着いたら雄英ヒーロー科に向けての準備も進めていく。

 今の状況が、良い訳では無い。

 根本は、いつ何が起こるか分からない私の超幸運体質であり、あいつが無くさない限り、一生の問題となる。

 兄の行方に、いつ両親が完治するのか。

 このまま、警察や犯罪者は手を出してこないのか。

 原作に巻き込まれる事は、危険に首を突っ込む事と同義であるが、雄英を目指した時点で飲み込んだ。

 しかし、恐らくバトル物の予感はあるので、油断は禁物。

 準備も心構えも、怠る事はしない。




 白い空間は、なんとなくそうしているだけで意味は無い。
 しようと思えば、世界中のどんなに美しい景色にも、どこかの部屋を完璧に再現もできる。
 最も、今のこの子には、どんな空間だろうと、これっぽっちも心は動かないんだろうけど。

「やあ」

 手を上げて軽く挨拶するも、どんよりと濁った目は見つめ返すだけで返事は無い。
 此処は、精神しか存在しない。もしくは魂と言ってもいい。
 精神がそのまま人の形をしているだけだから、表情を取り繕う事はできないし、読心があるからどんな誤魔化しも無理。
 それでも、この子の心は、負の感情が渦巻いて、沸き上がっては溜まる一方で、どろどろと煮詰まっていた。

「雄英で、お兄ちゃんに会えるよ」

 変化は劇的で、目に光が少し戻る。

「でも、君が望む再会じゃないし、すぐ会える訳でも、探しても無駄。待つしかない」

 答えは無い。
 ああ、そこまで、なのか。
 この、精神しか存在できない此処だと。
 肉体があれば、傍目には元気が無い程度なのに関わらず。

「ただし、思考誘導されてるから、言動に惑わされず、さっさと気絶させて治療させた方が良い」

 今度は、憤怒が燃え上がる。
 まあ、負の感情ではあるけど、どっちかと言うと前向きではあるから、いいかな。

「仕返しも復讐も、機会は必ず来るよ」

 相変わらず、ブラコンだなあ。
 言わないけど、加害者の目的は君だから、心配しなくてもいつかきっとぶん殴れるさ。
 力量的にボッコボコにはできないが、嫌がらせやムカつかせる事は簡単だろう。
 状況は悪化するが、仕方ない。収まらないもんね。

「もう少しの辛抱だよ」

 言って、精神を現世へ帰す。
 個性を惜しみなく使ってくれるから、夢に干渉して呼んだ。
 起きても忘れないようにもしたし、これで少しはマシになるかな。

 頼むから、終わってくれるな。
 本当に、久方振りに楽しいと、面白いと思えたのだ。
 僕は、何があろうとも、決して壊れない。
 でもそれは、壊れる直前のまま、そこで止まってるだけだ。
 僕は、僕の心は、どうやったって、壊れては、終わってはくれないのだから──。

出番増減アンケートです。えっ、教師陣だけプロヒーローと被ってる? 贔屓って、あらすじに書いてるじゃないですかー(^^) こちらは随時参考にします。

  • 教師陣
  • 1-A男子
  • 1-A女子
  • 他の学生
  • プロヒーロー
  • 敵連合
  • 他の敵
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