ことり、と目の前に置かれたサイコロに時間切れを悟る。
どうするどうしよう、考える時間が欲しい。ので、切り札を切る。簡単だ。羞恥を忘れろ。
魔法の言葉を唱える。おしっこ。でるー。今気付いたのに既に漏れる直前、しかも急ぐ訳でも危機感もなくという幼児あるあるを全面に出すのがポイントだ。散々飲み食いして、お腹は膨れているし、ちゃぷちゃぷでもある。
流石に大とは言えない。兄のような小学生男子はうんちうんこと連呼するが、母がはしたないから止めなさいと毎日注意しているし、そちらは止めた。羞恥は関係ないったらない。
あららと、おばちゃん婦警は気付かなくてごめんねと手を繋いで案内してくれる。男共は振り返らない。
歩く間も貴重な時間だったが、通常の被疑者の逃亡チャンス阻止の為かすぐ近くにあった。私のチャンスも阻止された。くそぅ。
トイレに入って、やっぱり窓には鉄格子があるのかと現実逃避しつつ、手を離されたので一人で個室へ向かう。閉めようとしたら一人でできるか聞かれたので、一人でできるもんで断る。トイレトレーニングはもう終わってます。
まあ、幼児が使う事を全く想定していない洋式トイレだが、できない事はないし、時間稼ぎにもばっちり。ふと、漏らして泣き喚いた方が時間稼ぎできるなと閃いた。やらないがな!
さて、どうするか。
ヒーローがグルならどうしようもない。打つ手なし。ヒーローの良心に訴える機会も時間も無い。
グルでないなら、としても超幸運体質は私にはどうしようもない。三連続出せるかは私にも分からないから。
ああ、これ時間稼ぎしなくても結論出てるな。詰んでる。まさに神頼み。……したくねー。
そこで声がした。クソヤロウでも、おばちゃん婦警でもない。取調室に残った警察官が、トイレの外から大きめな声で言う。
上が呼んでます。その子はヒーローに任せて一度来てほしいそうです。
ぶっちゃけちゃったからな、おばちゃん婦警。私がちょうど良くトイレ行ったから、肩入れするなって小言かな。警察官は巻き込まれたな、ご愁傷様。
おばちゃん婦警は丁寧にも聞こえてた私に離れる事とヒーローが残る事を告げ、ヒーローにお願いねと頼んで行った。
その声と遠ざかる足音で、トイレのドアが開きっぱなしなのに気付く。ヒーローは男だから、女子トイレの中まで入れなかったんだろう。中に入ってドア閉めたら、開けて出なきゃいけない。逃亡防止用なのかおばちゃん婦警が開けた時に意外と重い音がしたから幼女に開けさせないだろうし、自分から出るのも微妙だ。どちらにしてもそんな所を誰か、特に女性に見られたら気まずいもんね。万が一、中にいて女性が入ってきたら叫ばれて変態の烙印が押される。
そんな、憐れなヒーローの戸惑う声が聞こえていたし、状況的に断れず押し切られたんだろう。
しかしこれ、もう終わって流す所だったからいいけど普通にセクハラだからな。幼女でもやっちゃダメだろ。まったく、少しは考えてほしい。幼女でも女なんだぞ。
個室から出たら、被疑者用でもあるトイレのドアは留めなくても開いたままにできるようで、入り口の扉とは逆の位置にヒーローがソワソワして立っていた。
そうだよね、嫌だよね。落ち着かないよね。ドアに隠れようとすれば女子トイレ内に近くなり、離れようとすれば廊下の両側から丸見えになる。ジレンマだろう。
チャンスでもあった。あったが、ただ助けてと訴えても漠然としすぎているし、ヒーローだから犯罪者かもしれない人は庇えない。事情を説明する時間も無いし、できても幼女の言では信憑性に欠ける。そこまで幼女が説明できるのが変だから信じてくれても、次は神による転生と超幸運体質を信じてもらわなきゃならない。圧倒的に時間が足りないし、その後にも似たような問題が続く。一番のネックは転生と前世の記憶だ。
ぶっちゃけて、個性使わないでと頼むのもおかしいので言えない。警察とグルで、私達を逮捕するのかとも聞けない。社会的に死ぬぞと言ったら、私の異常性に気付かれる。はあ、もうダメだ。
機会はあっても生かせない事に気付いてしまった。やっぱり詰んでる。
もう一つ、詰んだ。
手洗いだ。デパートなどとは違って、そもそもこのトイレを幼児が使うのは想定外。洋式便器で気付くべきだったが、洗面台もそうだった。センサー式ではなくハンドル式で、片側に寄って付いているから回せはする。しかし、水が出るのは中心の奥なので洗ったら腕がフチに当たる。掃除はしてるだろうが、なんか汚れそうで嫌だ。家と違って台も、台になりそうな物も無い。ジャンプして洗う、なんてのもフチにぶつかるから難しい。
で、居るのは男のヒーローだけ。そのヒーローは、女子トイレの前に立っているのも嫌そうで、早くしろと目で急かしてくる。困った顔で見上げてるのにこの態度。とっても優しくない。ちょっとイラッとした。
もしかしたら気付いてないかもしれないので、実践してやる事にした。ハンドルを回して水を出し、フチに当たらないよう手を伸ばす。背伸びしてまで突き出しても、指先に少しは水が当たるがこれじゃ洗った事にならない。
できたら、備え付けの緑色の液体石鹸でも洗いたい。そちらはハンドルとは逆側で、下から押したら腕を伝って垂れてきそうでもっと無理。
んー! と唸って頑張りを分かりやすくもした。これで分かっただろうと一度水を止めて振り返ったら、まさかの凄く嫌そうな顔があった。そんなに女子トイレに入りたくないか。でも、私もこのままでは困る。一人ではどうしようもない。持ち上げてほしいのだ。
「ねぇ、とどかない」
「…………」
まさかの無言。まあ、目はマジかよと語り、肩を落としたリアクションはしている。見て分かったけど、一人でなんとかしてほしかったって所か。届いたらさっさと洗ってるよ。
「ねーえー! おじちゃん、とどかない!」
「おじちゃん……?」
成人前後に見えるので、完全な嫌がらせである。幼児からしたら高校生ならギリお兄ちゃんだが、それ以上なら二十歳でも四十歳でもおじちゃんだ。
ふと、これでヒーローがグルでないなら心証が悪くなってヤバイかなと頭を掠めたが、嫌がらせで悪事に加担はしないだろうと思い直した。
ヒーローはおじちゃん呼ばわりされても不思議そうだったので効かなかったかと思ったが、どうやら腑に落ちなかっただけらしい。顎のちょび髭を撫でてるから、その所為かと思ったのかもしれない。違うけど。髭は関係ない。表情筋使おうよ、分かりにくい。
それで不満げな顔をしたのを催促ととったのか、眉間の皺をより深くする。そうだった、おじちゃん呼びはもういい。ただの嫌がらせだし。今は呼び方より手洗い。ヒーローも呼び方より、女子トイレに入らなきゃいけない方をどうにかしたいだろう。
一度はやらなきゃいけないと思ってピクリと足が動くも、やはり入りたくないのか一歩は踏み出さない。おばちゃん婦警が行った方を見遣るが、戻ってくる気配もなく溜息をついた。
「イレイザーヘッドだ」
「いでぃ……いりゅ……」
いや、もういいよ、呼び方。
私もしたかったが、ヒーローも時間稼ぎしたいらしい。私はもう、どうにもならないと結論が出てるから終わったが、ヒーローは今からしたいらしい。まあ、ヒーローのはおばちゃん婦警か、通り掛かりでも女性が来れば解決する。そうは問屋が卸さないが。だってこれ端から見たら面白いだろ。問屋じゃなくて神が邪魔しそうだ。
そして、なんて発音しにくい名前なのか。由来は分かる。例のうっすらで、個性使用時に目が光って髪が逆立つのは分かってる。抹消個性だからイレイザー、目と髪でヘッド。安直すぎるだろ。直訳で消しゴム頭だよ?
愛称で呼ぼうにも、英語を勉強してないからどうとも訳せない。ヘッドは普段の生活で知ってそうだが、『頭』と呼ぶのは微妙。『ヘッド』だと暴走族のリーダーみたいだし。他も、後で両親に確認されたくないから無理。
幼児風の愛称だと『いーちゃん』としか呼べない。でも、いーちゃんって感じじゃないからなあ。
「イ、レ、イザーヘッド」
「いでゅ……へぢょ」
「…………」
ゆっくり言われたって、舌っ足らずにしかならない。暴走族でもいいから、後半だけでもと言ってみたが無理だった。
なんでだよと見られても、舌とか声帯とか喉そのものとかの成長が足りないのだからしょうがない。
そういえば、このヒーローは原作キャラだった。
イレイザーヘッドは、あくまでもヒーロー名。オールマイトみたいな外人っぽい感じはしないし、きっと日本人だろう。なら、日本人らしい名前があるはず。原作キャラでないヒーローの本名には興味ないが、原作キャラは別だ。情報は無いより有る方が良い。
今後、特に高校生くらいになったら嫌でも関わる事になる。できるだけ逃げるが、逃げ切れない場合もあるし。……逃がしてくれないだろうなぁ。
初の原作キャラ。ヒーロー名は分かった。次は本名も知りたい。なんとかしてみよう。とりあえず、指を指して高らかに名付ける。
「んー? くろすけ!」
「いや、なんでだよ……」
呼べないからだ。そして、黒いからだ。肌色とマフラー以外、黒しかない。丸くはないので頭に『まっくろ』は付けなかった。
疲れたように項垂れても、反論しないとこのままだ。さあ、他の名前を、本名を、はよ。
「イレイザーヘッドだ」
「いでゅ……まふりゃーね」
くろすけが嫌なら、発音できなくて可愛くなってしまえ。
次点は『ぐるぐる』だ。こっちはきちんと発音できるから、口に出すなら『ぐりゅぐう』にしよう。言い辛さは上がるのに、言えるという矛盾よ。
「だから、……はあ……どうすっか……」
遂には無視である。酷い大人だ。……大人、でいいんだよね? 成人=大人だとしても、この人、成人してるのかな?
そもそも、ヒーローなのに子供に優しくないのはどうなのか。というか、扱いに慣れてないのかな。オールマイトを見習って欲しい。めっちゃ手慣れてそう。
「ねぇ、まふりゃー」
「違う」
「むぅ、ぐりゅぐうー!」
「なんで新しいのが出てくる……」
溜息はもういいよ。困ってるのも、よーく分かってるから。そんな項垂れてるヒマがあるなら、早く覚悟を決めて女子トイレに入るか、いい加減に本名を吐いてほしい。
そんなに隠さなきゃいけないものなの? そもそもヒーロー名って何? 本家は正体を隠すのに名乗ってるんだよ? もしくはマスコミや民衆が勝手に付けた名前でしょ。なら、この世界は何の為に名前を付けるの? 正体隠してるのはオールマイトくらいで、他は本名バレてるの多いし、意味なくない?
あーもう、答えの出ない問題はイライラする。このヒーローも、往生際が悪くてイライラする。もう幼児必殺を出す!
「ねぇ! おなまえなんていうの!」
「だから、イレイザーヘッドだ」
「そ、れ、ぢゃ、な、い、のぉー!」
苛立ちを地団駄を踏んで紛らわす。感情の制御を弱めれば、勝手に出ちゃうんだ。そして、この昂ぶりは涙腺にも影響する。
ぶわっと出た涙には、流石の面倒くさがりなヒーローでも放っておけないようだ。確かに、今おばちゃん婦警が戻って来たら雷落ちるもんね。
「なっ?! おい泣くなっ」
ついでに、ようやく女子トイレに入ったくれたので一石二鳥。こういう時は目を擦ると更に効果的なのだが、手を洗ってないので握って上下に振り回すしかない。
あー、手ぇ洗いたいなー。握って触らないよう気を付けてるけど、便座も拭いたし、さっさと綺麗にしたい。先に本名だけど。有耶無耶にされる前に聞き出したい。
「おにゃまりぇー!」
「分かった分かった、相澤だ。あ、い、ざ、わ」
嗚咽で更に口が動かなくなったが、それが功を奏したらしい。こういった場合、要望を満たせば泣き止むのだ。知ってはいるみたいだから、そういう研修でもあるんだろうか。扱い慣れてないから下の弟妹いなさそうだし。
「あぃじゃー! んぅ? あい、ぢぁ。……ううぅー!」
マジかよ、こっちも言い辛いの?! 引っ込み付かなくなるんですけどー!
ヒーローもマジかって顔してるよ! ですよねー! 気が合うねー!
「なら、消太は? しょ、う、た」
「ちょーちゃ……しょー、ちゃ。しょーちゃん!」
なんでどう呼ぼうとしても言い辛い、カ行とサ行とラ行のどれかは入ってんの? イジメ? 幼児に優しくないのに、名前まで優しくないの止めようよ。もう『た』が言えなくて『ちゃ』になるから、『しょーちゃん』にする。
ヒーロー名はイレイザーヘッドで、本名は
「しょーちゃん、とどかないー!」
「ああ、はいはい」
「はいは、いっかいなのー!」
本名も知れたので笑顔を見せて、安心して脱力したしょーちゃんは無視して始めの要求を通す。まだ手洗ってないからね。ようやくだよ。
って思ったのに。しょーちゃんはハンドルを回して水を出してから持ち上げようとした。
その気遣いは要らない! そういうできるなら始めからやろうよ!
「やー! ばっちい!」
「はあ? お前が届かないって言ったんだろうが」
飛び退いて全身で拒絶したら、分かってないのかめっちや不機嫌だ。片頬をぴくぴくさせてしょーちゃんは怒るが、ダメなものはダメだ。
さっき、手が届かないのを見せた時に、私は洗ってない手でハンドルを触ってそのままだった。そこに触って持ち上げられたら、服が汚れる。ハタ目には見えないが、菌は付いてしまう。
「ばっちいてでさわったとこ、さわった!」
察しはいいのか、それだけで納得して怒りを収めてくれた。ついでに、しょーちゃんに石鹸で洗うよう促し、ハンドルも泡の付いた手で洗わせる。ここまでするのかと面倒くさそうだったが、うがい手洗いは大事だと主張すれば文句は出なくなった。正確には接触感染が怖いが、幼児はそんな事を気にしないので言わない。
「しょーちゃんも、おそとからかえったら、ちゃんとうがいてあらいしなきゃダメだよ!」
「そうだな。お母さんが教えてくれたのか?」
「うん!」
宝くじが当たる前は、うちは貧乏寄りだ。そして、病気は金が掛かるし、母も看病で忙しくなる。なにより、幼児は些細な病気でも悪化の危険性があり、大人に比べて死亡する率も高い。そのリスクを、うがい手洗いを徹底するだけで軽減できるならするべきだ。
率先してるのは前世の施設で余計な金と手間を惜しんで教育された土台があるからだが、そう叩き込んでもらったのは有り難い事だ。
それでも、外から帰ってうがい手洗いをしない兄に、母が叱っていた時に私にも言い付けてたので、嘘ではない。母からするように言われたのは本当。
母の話が出て、早く会いたいと思った。母は、それに父と兄も大丈夫だろうか。
母と父は、宝くじが当たるかもとは思ってもその理由まで分からないと言って、警察もそれが本当だと個性によって分かった。なら、兄も含めて取り調べは終わったのか。もしかしてもう三人は合流したのだろうか。私も行きたい。会いたい──家に帰りたい。あの、温かな家に四人で帰って、また笑い合いたい。
「……お母さんに会いたいか?」
「うん。おとうさんとおにいちゃんにも、あいたい」
「家族の事、好きなんだな」
「うん、だいすき!」
「そうか」
当然だという誇らしい気持ちと、家族への愛しさをいっぱい込めた笑顔を浮かべた。
だから、私に不利な事しないでね。と邪な気持ちもちょっぴり入ってたけど。
超幸運体質は、抹消個性でも無効化できない。しょーちゃんにしてほしいのは、それを証明する事。
そんな打算に気付かなかったしょーちゃんは、ほんのりと笑顔を返してくれた。口角を少しだけ上げて、目を細めただけ。でも、今までで一番やわらかで、優しい目だった。
なんだか気恥ずかしい。いつもなら元気よく肯定するが、なんでかできなかった。不意打ちだったからかと思い付いて、私の家族への愛をきちんと分かってくれたからかもと思って、自分の汚さとか黒さに比べて綺麗だからと結論づけた。
ピュアとも、純粋とも思わない。でも、彼は泥の中でだってどんな黒い所だって、汚れたって綺麗なままでいられるんだと思う。高潔とも言える。確固としたものを、揺らぐ事無く、歪む事無く、その白さのままで。なんて腹立たしく、面映ゆい。
それから、やっぱり表情筋はあんま使わないんだな、と忙しない頭の隅で考えた。
「もう流していいか?」
彼の中では、自分が返事をして終わったからか、私の様子に気付く事なくまだ手を洗っていた。泡だらけの手は見えないが、あれだけ洗えば十分だから、きちんと幼女を装って返事した。
「きれいになったからいいよ」
洗い終わって、腰にあるポーチの一つからハンカチが出て来て驚いた。雑に、服で拭きそうだから意外だ。見ている事に気付かれたので、次は私の番と可愛く言って誤魔化しといた。
うん、もういつも通り。彼はどうでもいいのだ。私は幼女。無垢で無知な、たまにおませなただの幼女。
「これでいいか?」
「うん! だっこー!」
今度は大人しく、背後から脇の下を持たれて手を洗う。石鹸を使って念入りに。
幼児だから軽いだろうが、流石はプロのヒーロー、細身に見えるのにしっかり鍛えてる。いつも念入りに洗うので、父でも腕がぷるぷるするのに全然しない。むしろ安定感すらある。ずっとこうしててもなんでもないんだろう。
これは思う存分洗えると、のんびり洗った。すっきりしていくのが清々しくて、だんだん楽しくなってきちゃって、ふんふん鼻歌を歌った。結構掛かったし、歌に合わせてゆらゆらしたので、終わった後で見上げたら文句ありげな顔だった。揺れてもビクともしないからつい、出来心だったんだよ。
でも、うがい手洗いは大事と言ったし、文句を言っても意味が無いと思ったのか、何も言いはしなかった。目は口ほどに物を言ってるが。ああ、それと口にして今後やらなくなって、クレームが入ったら嫌だからかも。面倒くさがりだから面倒は避ける、と。分かりやすい。表情筋はあんま使わないけど、だんだん分かってきたよ。
「のどかわいたー」
「出したばっかだろ……」
「でりかしーないとモテないよ」
早く女子トイレから出たいだろうから気を遣ったのに、これである。よく分かってないのに口にしたと思ったのか、モテなくてもいいのか、返事は無かった。ヒーローはモテそうだし、より取り見取りなのかな。
さっさと出て行くが、扉を開けて待ってくれるので気遣いはやっぱりできる。始めっからそうしてよとは思うが、口からは明るいお礼を言って取調室に戻った。
おばちゃん婦警達はまだ居なくて、とりあえず椅子に座ったが彼はまた背後に回った。話す気はないらしい。が、つまらん。
取り調べも、最後の確認も、もうどうしようもない。サイコロを振って、その結果を受け入れるしかない。祈っても、あいつにだから逆効果だろうし、無駄な事はしない。
「しょーちゃん、あそぼー」
「大人しく待っとけ」
ジュースを飲んで振り返ったら、彼は軽く腕を組んで壁に寄りかかり、目を閉じてた。本当に相手する気ゼロだ。
気遣いしよーぜー。
「ポーチ、なにがはいってるの?」
「お前が面白い物は入ってない」
「ほんとー?」
そして今更だが、彼が原作キャラで、ヒーローなら。今まで接してみて、彼は原作で悪役の側には居ないと思った。なら、友好を築くのもいい。
うざそうにしてるが、悪い人じゃない。うっすらで見た笑顔はどれもヴィラン面だったが、ぶっきらぼうで分かりにくいだけだ。さっきの笑顔は優しかった。態度は相変わらず優しくないが。
「おい、触るな」
「けちー」
とは言っても、無理なのは分かってる。ただの会話の取っかかりだ。だって、ポーチと一緒に刃物もある。ナイフのようだが真横に差してて、真っ直ぐな刃物だから忍者刀っぽいそれに触らせたくないのだ。
彼のヒーローコスチュームは、黒いツナギ。その腰部分は広がらない為にベルトを通す箇所があり、頑丈に作られているのか腰の後ろにそのベルトループを利用して忍者刀とポーチが付いている。そこに触ろうとして逃げられて、そういう遊びみたいだ。
「危ない物もあるから駄目だ」
「やだー」
腰を落としてすぐ逃げられるようにしている彼と、手をわきわきさせて腰の後ろを狙う私。まあ、無理だ。触れる訳が無い。でも、ちょっと楽しい。
これからなのに、彼は後ろ手にポーチから何か出して渡してきた。なんだろうと素直に出した手に乗せられたのは、携帯固形栄養食。
前世は忙しい朝の朝食に便利だし、安売りの店で大量買いしたわ。メーカー違うけど、お世話になりました。って、違う。なんでこれ? なんでポーチから出てくるの?
「これをやるから」
チョコ味ではあるけど、幼児の満足する味ではないな。口の中の水分もってかれるし。今世では食べた事ないけど、まあ似たような物だろう。
いやあ、止めどきではあるし、良いきっかけではあるし、いいんだけど。……いいんだけど、なんか、納得いかない。なんでこれ入ってるの?
「……それ以外は危ないから駄目だ」
不満なのは気付いたみたいだが、そうじゃない。ヒーローだから、そのポーチにはヒーロー活動に必要な物が入ってるはず。刃物もあれば役立つし、ハンカチも色々使える。でも、これは?
思わぬ物で沈黙してしまったので、パッケージが漢字ばかりで普通幼児は読めないし、縁もないので、なんなのか分からなかったと誤魔化して聞いてみた。そうしたら、“合理的だから”の答えが返ってきた。それはどうなんだろう。これ、あくまでも健康補助食品であって、主食にしちゃダメなんだよ、したら栄養失調になる。けど、幼児の言う事ではないから誰かこいつに教えてやって……。
うーん、初のキャラだからって見せすぎて、判断材料になっちゃったか。霞んでるとは言ったけど、仲良くならなくてもいーんだけどなー。こういうのは、敵役とやって後で痛い目見たら面白いのに。いやまあ、確かに女子トイレに入らなきゃいけない葛藤は面白かったけどね。でも、こんなに警戒心無くしちゃって、そいつが味方で善なのもつまんない。あーあ、漏らして本気で泣き喚けば良かったのにー!
今回は恋愛要素についてアンケートです。かなり悩んでも相手が決まらないので(^^;)次回アンケートはキャラで、次話やります。相手は相澤・緑谷・爆豪・轟・心操の予定で、他に希望がありましたら感想などで教えてほしいのですが、中には書けないキャラも居ますので申し訳ないのですが絶対とは言えません。マイクは好きですが、英語が苦手なのですみません……。
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