姫ノ湯始めました   作:成宮

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区切りとか気にしない
描写が弱くてごめんちゃい


騙されて

この春から共学になった由緒あるお嬢様様学校、聖フランチェスカ学園に通い始めてから初めての夏休み。

ドキドキワクワクの展開を一応考えていたが、完全に不発に終わりそうなのである。

元々お嬢様が多いため、寮に残っているものはごくわずか。

及川は女子がいないならば意味ないで~と言い残し、さっさと実家へ帰ってしまった。

本当に欲望に忠実である。

まぁ海に行こうと誘っておいてくれるあたりいいやつではあるが出汁に使われる気がしないでもない。

さて寮に残るか、実家に帰るか。

とまぁいままでの説明通り選択肢は残されていないわけで、実家に帰ることにした。

しかしどうだろう。ただ帰るだけじゃ面白くない。

というわけで武者修行とじーちゃんをだまくらかして資金を調達。

実家まで自転車で帰ることにしたのだった。

 

マイ自転車にサバイバル道具を乗せ、自宅に向けて走り出す。

風を切って走る感覚が気持ちいい。

都心では俺の格好は興味の目で見られていたが、離れてみれば意外と俺と同じようなことを

している人は多いらしい。

リズミカルにギアが回る音が鳴り響く。

 

さて、ここから先は未知の領域である。

スマートフォンを開き、大雑把にだが地図を確認する。

うん、あの道が俺の家だな。

大体の方角にあたりを付ける。

 

以前、及川が言っていた。

「人生も恋も道はたくさんある。決まった道を進むんは楽やけど

未知なる道を突っ走るのも楽しいもんやで。普段出会えないことに出会えるんやからな。

せやから俺は熟女にも幼女にも・・・」

最後の部分はともかく言いたいことはなんとなくわかる。

だから俺も最短ルートではなく適当に進んでみよう。

まだまだ時間はいっぱいあるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

ねずみ色の空、雨独特の匂いに顔を歪ませる。

今の時期、降られても風邪をひくことはないと思うがそれでも服が張り付く不快感は拭えるものではない。

一時であれば気持ちがいいこともあるだろうが、それは着替えがあることを前提としなければならないだろう。

だから俺は雨を凌げる場所を探し、ひたすらペダルを漕ぐ。

 

 

今から約2時間ほど前、俺は出会った。

色黒スキンヘッドに何故か両サイドにおさげ。

筋肉ムキムキでなぜかオカマ口調で青いツナギ。

ぶっちゃけ怪しさ満点であったがしつこく話しかけてくるので仕方なしに昼食を共にした。

しかし話してみると思ったよりも喋りやすい。

オカマ口調なのがウザイがダンディな声であり、思わず聞き入ってしまうほど話し上手。

また、機微にも聡く、とても聞き上手で聖フランチェスカ学園での愚痴など喋ってしまった。

しかしなぜだろう。時々俺のことをご主人様と呼び間違える。キモイ。

 

 

「そういえばこの先に秘湯があるのよ。せっかくだから是非とも入って欲しいわ」

 

 

「秘湯?」

 

 

別れ際、彼はそういって山の方を指差した。

指の先を見ると舗装されていない道が山に向かって続いていた。

そういった道はタイヤにも負担がかかるし、遠慮しようかと思ったが

何故かわからない。行かなければならないような気がした。

そうだ、きっと俺は温泉に入って身体を休めたいんだな。

このよくわからない感覚をそう無理やり結論づけた。

天気は良好、温泉までに気持ちのいい汗がかけるだろう。

 

 

「ありがとう、行ってみるよ」

 

 

「ええ、看板が出ているからきっとすぐにわかると思うわ」

 

 

「楽しかったよ。じゃあな」

 

 

「こちらこそ楽しかったわ。またね、ご主人様」

 

 

そういって彼は俺が視界から見えなくなるまで手を振っていた。

またご主人様って言ってたな。

そいや結局お互いの名前を交換していなかった。

まあそれも旅の醍醐味の一つだろう。きっともう会うことはないだろうが。

 

 

そして今現在、俺はいつ降り出すかわからない状況必死で走っている。

そういえばどのくらいの距離に秘湯があるのか聞いていなかった。

戻るべきか、進むべきか。

今戻れば少し濡れるだけで済むかもしれない。

また秘湯というだけあって脱衣所なんかももしかしたらないかもしれない。

いざ発見したとしてもそれでは雨宿りすらできやしない。

最悪テント・・・と考えも浮かぶができることならば遠慮願いたい。

そう心の中で戻る選択肢に傾きつつあるとき、くだんの看板を発見した。

 

『姫ノ湯』

 

よく考えると看板が出ているのに秘湯って、と苦笑いが出る。

それでもサンドウィッチマンが使うようなこじんまりとした看板であるが。

一安心したところにポツリポツリと雨が降り出す。

このまま本降りになるのも時間の問題だろう。

 

 

「看板も見つけたことだし、行ってみるか」

 

 

誰も聞いてないことは解っているがなんとなく口に出した。

そうした方が決断が鈍ることが少ないだろうと思うから。

頭で考えるよりも決意や決断を口に出す方が芯が通る。

言霊の概念と一緒・・・なんじゃないかな。

 

 

 

看板の道に入っていく。

道は半ば登山道と変わらないような道で仕方なく自転車をひいている。

看板の近くに置いていこうとも思ったが、荷物もいくつか括りつけてあるし

もしいたづらでもされたら溜まったものではない。

というわけで無理やりにでも引っ張ってきた。

幸い看板からそこまで離れてはおらず、やがて小さな建物を発見した。

 

「これは・・・旅館?」

 

そう、なんというべきか。

穴場、という言葉がぴったりと当てはまるような小さくも威厳のある建物だった。

それは古いデザインの建物にもかかわらず傷やシミといった汚さは感じられない。

古めかしいのに新しいといえる旅館だった。

 

 

雨もだんだん強くなってきた。

自転車を脇に止め、急ぎ扉の前へ進んだ。

 

 

「すみません、どなたかいますか?」

 

 

引き戸を開き、声をかけてみるも人の気配はない。

無人なのかな、でもこんなに綺麗だし整備されてるのに。

そう疑問に思うことがあったが避難を優先することに意識を切り替えた。

すぐさま自転車のところに戻り、素早く荷物を降ろす。

水気を手で払い玄関口に荷物を置くとすぐさま自転車に戻り、ビニールシートを被せてゆく。

いくらサビに強いといっても限度があるし、雨風に相棒を晒しておくのも忍びない。

作業が終わったところで玄関口であるがようやく一息ついた。

 

 

「失礼します」

 

 

靴を脱ぎ上がる。

とりあえず少し中を見てみようか。

そう思った瞬間急に睡魔が訪れる。

 

「あれ、おかしいな・・・なんだろう・・・」

 

これまでの疲れが出た、そういった眠気ではない。

まるで電池が今にも切れそうなミニ四駆のような、全身の力が抜けていくような感覚。

その感覚に必死に抗おうと気合を入れようとするも、その気合すら出てこずに。

意識が強制的にシャットダウンされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ひんやりと寒さを感じ、身震いした。

目を覚ますと見慣れない天井が視界に入った。

イマイチ記憶があやふやだが、確か秘湯を目指したどり着いた先がここだったはず。

ぼやけた意識の中で身体を起こすと、純和風の部屋だった。

テレビや冷蔵庫といった家電製品はない。

そればかりか照明すらなこの部屋にはなかった。

隅っこに玄関口に置いておいた荷物を発見し、ほっとひと安心する。

がそれ以外のものは一切ない、ただただシンプルな部屋だった。

 

そして何故か着替えた覚えのない浴衣を身につけている。

 

身体も動く。

頭もようやく回り始めた。

外は明るいし、ここで寝ててもなにも始まらない。

 

とりあえずここを探索しようか。

 

 

 

 

といってもすぐに終わってしまった。

ここと同じ様な部屋が3つ。

加えて囲炉裏がある部屋が一つ。

その隣に台所。

しかしガス電気水道などのライフラインは通っておらず

かまどやらなんやら。調理器具はあったからなんとかご飯は作れそうな感じ。

台所の裏口には井戸、ジ○リにでてきそうな手押し式ポンプ。

 

 

 

そして奥に進むと湯と書かれた暖簾。

その暖簾をくぐると4畳ほどの脱衣所。

男女の仕切りはないみたいだ。

そしてその奥の扉を開けると露天風呂があった。

 

鼻に温泉独特の匂いとわずかに立ち上る湯けむり。

こんこんと湧き出ている源水。

 

きちんと整備されており、老舗の旅館の露天風呂のように趣がある。

浴槽も大きさもなかなかだ。洗い場はこじんまりとしており3人座れるかどうか。

シャワーとかの設備はないくシャンプーとかも・・・置いてない。

ほとんど温泉に入るだけ、っていうところだった。

 

うん、これどこのト○ロの世界ですか。

日本のことをそれほど詳しくない外国人がアニメの知識だけで

作っちゃったぜ☆みたいな旅館です。本当に意味がわからない。

 

人もいないみたいだけど、勝手に色々やっちゃうとまずいだろう。

昼までまって人が来なければ置き手紙をして旅に戻ろう。

そう考え部屋に戻り、荷物から非常食と思って買っておいたカロリーメイトを食べた。

水は井戸水を拝借、冷たくまさに生き返るようなうまさだった。

 

そして昼まで待ってみたが誰も来なかったため浴衣を着替え、荷物をまとめる。

 

 

「浴衣お借りしました。手紙でのお礼になりますがありがとうございました、と」

 

 

こんなものでいいだろう。

あんまり長々と書くのもアレだしな。

手紙を目立つ場所に置いて、玄関口からでる。

シートを自転車から外し、すぐに荷物にしまい込む。幸い乾いていたからたいした手間もかからずに済んだ。

そして姫の湯をあとにする。

 

あ、結局温泉入らなかったな。

 

 

 

 

 

 

しかし走っても走っても森を抜けることができない。

未だに来る時に見た看板すら見つけることができず、既に1時間近くさまよっていた。

もういい加減やばい想像しかできなくなっていた。

よくある木に傷をつけて目印に、というやつもやってみたが今現在12週目突入。

 

思い切って旅館までの道のりを戻れば5分足らずで姫の湯に逆戻り。

これを三回繰り返して、ようやく俺は諦めた。

 

 

旅館に入り、自分が寝ていた部屋に戻る。

すると先程までなかった封筒が部屋の真ん中にぽつんと置かれていた。

慌てて手に取り素手でビリビリと乱暴に開ける。

すると中から1枚の紙がひらりと手のひらに落ちた。

 

『ご主人様へ

 

大好きです。本当なら今すぐにでも会いに行きたいのだけれど、それは無理なの。

すべてが終わったら迎えに行くからここで待っててねん。

「姫の湯」のことをよろしくお願いするわ。ここにあるものは自由に使っても構わないから。

ここでは様々な出会いがあるわ。きっとご主人様が喜びそうなこともね。

大変だけど頑張ってね、愛しのご主人様

                      あなたの恋人貂蝉より』

 

読み終えた瞬間真っ二つに引きちぎった。

 

書置きの手紙をおいた場所へ探しに行ったが消えていた。

やっぱり俺がさまよっているあいだに誰か来たのだろう。

可能性が高いのはやはり先程の手紙の貂蝉とやらか。

どんなやつかと想像しようとしたが背中に寒気が走り、これ以上想像するんじゃねぇぇと

本能が警告を発した。キモイ。

 

 

 

・・・あれ?なんかデジャブ?

 

 

 

 

出れないのであればここでしばらく生活するしかない。

とりあえず食料だ。

台所へ行くと最初見たことがなかった箱が置いてあった。

開けると肉や卵、野菜がたんまり入っていた。

きっと置いていってくれたのだろう。

冷蔵庫はないから肉とか早めに使わないとなーと考えながら親切だか親切じゃないんだか

ツンデレ?の奴にほんの少し感謝した。

 

 

かまどなど調理器具を確認しながら献立を考える。

鍋を見つけたとき脳裏に、よし、今夜は鍋にしようと天啓が!

調味料も色々あるし材料を持って囲炉裏がある部屋へ駆け込んだ。

 

 

鍋に白菜、白ネギ、椎茸、豚肉と人参をもうぐちゃぁと敷き詰め味噌スープを加え蓋をする。

外にあった薪を拝借し火を起こす。

ぐっつぐつ、ぐっつぐつと音を立て、いい香りがしてくる。たまらんね。

やっぱり鍋は簡単でいいな。

 

ここは夏なのに少し肌寒い。

森のなかだからか、それとも常識にはとらわれないせいなのか。

 

囲炉裏の熱によってほわっとあったかくなった部屋に少し眠気が入る。

そういえば今日は走りっぱなしだった。

鍋を煮込むあいだ、うつらうつらとしていると玄関の方から物音が聞こえた。

顔を起こし飛び起きる。

もしかしたら貂蝉が迎えに来たのかもしれない。

なぜか脳裏に浮かんだグロ画像を消し、もう誰でもいいから人よ来てと願う。

 

玄関を開けると、魔女の帽子とベレー帽をそれぞれかぶり、どこかの小学校の制服を思わせる少女が二人佇んでいた。




旅行者ってすごいね

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