補足説明
作者はこの時代、部屋でも基本土足だと思っています
なので彼女たちは何も知らず堂々と土足で部屋にあがろうとします
「流琉~帰ってきたら絶対ご飯作ってよねっ」
これが私、典韋が聞いた最後の季衣の言葉だった。
季衣が山向こう勅使様に付いていって邑からいなくなってからはや数日、私は悩んでいた。
運悪く私がたまたま森で狩った熊を街に売りに行っている間に私たちの邑は賊に襲われるという危機に瀕していた。
その危機に対し邑の人たちがとった行動は、なんと季衣一人に任せるという驚きのものだったのだ。
確かに季衣は強いけどたった一人戦場に向かわせるなんてことをするとは思わなかった。
ああ見えて季衣は邑も邑の人たちのことも大好きだから何の疑いもせず張り切って迎撃に向かったんだと思う。
「賊が来たって聞いたとたん、季衣ちゃん飛び出していっちゃってね。止める暇もなかったんだ。
え、なんで追いかけなかったって?そりゃ女子供を早く逃がさなきゃダメだろう。それに季衣ちゃんの足でまといになると思ってさ」
まだ就任してから日が浅く、年若い村長はそう言った。
だから見捨てたのか。
一人戦わせて。
今回はたまたま助けてもらって邑も季衣もなんとかなったけど、私の中で許せないという気持ちが湧き上がる。
「う、う、うあああああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあぁぁ」
せめて私がいれば季衣一人を危険な目に合わせなかったのに、と強く思った。
さらに数日後、この邑は山向こうの勅使様の保護下に入る旨の連絡が来た。
邑の人たちはとても喜んでいたが、私はある疑念が浮かんでいた。
もしかして季衣を差し出して保護下にしてもらったのではないか、と。
季衣と私は熊や虎を狩ることができる。
季衣は当たり前と思っているようだがこれは異常なことなんだそうだ。
以前街に毛皮を卸に行った際に私が狩ったことを伝えると、大勢の人に笑われた。
そしてどれだけ熊を狩るのが大変か、人食い虎の恐ろしさを教えてくれた。
その時、私はどれだけ怖いものを相手にしているのか、そしてそれを相手にできる私たちの異常性を知った。
きっと勅使様はその季衣の強さを目の当たりにしたんだろう。
勅使様、曹操様の噂はよく聞くしその内容はとても良いことばかり。
でもそれでも季衣がいやいや戦わされているんじゃないかと勘ぐってしまう。
季衣いなくなってから、私の心はどんどん悪い方向へ流れていった。
一人、森の中を歩く。
今は自分の邑よりも、森の中で一人でいるほうが落ち着く。
邑にいると私も季衣みたいに売られるんじゃないかって思えて、でも自分が産まれ育った邑の人のことを悪く考えてしまう自分にも嫌気がさす。
また季衣のこともとても心配で、ひどい目にあっているんじゃないかって思うといてもたってもいられない。
助けに行くべきだろうか、でも相手は勅使様。到底叶う相手ではない。
とにかく頭の中がごちゃごちゃだった。
そんな頭の中を整理するべく静かで落ち着くことができる森の中を歩いていたのだが、違和感とともに急に見たことのない道に出た。
「・・・あれ、こんな道あったっけ?」
長年遊び場として入り浸り、狩りができるようになってからは狩場も熟知しておりこの森のことはほぼ知り尽くしていると思っていたのにまだ見たことのない
道があることにとても驚いた。
何となくその道を歩いていく。
しっかりと地面が固められとても歩きやすい。今までこんな道があることに気づかなかったことが信じられなかった。
「って、あれなんだろう」
しばらく進むと木々の隙間から何か建物が見える。遠目からだが、その形状に見覚えのようなものはない。
「どうしよう、もしかしたら偉い人の別荘だったり・・・」
ただの変わり者の家ならばいいがもし朝廷に使えているような人の建物だったりした場合、見つかると問答無用で打ち首なんてこともあるかもしれない。
それを想像してしまい・・・少し気分が悪くなりそうだった。
しかし結局好奇心と恐怖ではやはり好奇心の方が勝り、ちらっと見るだけと頭の中で言い訳をした後慎重に近づいていった。
芸術とかには詳しくないけど見たことのない造り、うちとは比べ物にならないようなしっかりとした佇まい。
そして感じたのは違和感。でもそれがなんなのかはわからない。
吸い寄せられるように扉らしきものに近づく。
「・・・『姫ノ湯』?」
無意識に口ずさむ。
入口らしきところに書かれていた文字を何故か読むことができた。
そのまま扉に手をかけ、恐る恐る開く。
中を覗くと、森とはまた違った木の香りがすぅっと入ってくる。
「おじゃまします・・・」
周囲には人の気配はなかったが、思わずそう呟いてしまう。
中に入ると段差のあとに床が地面ではなく木張りになっている。
手入れが行き届いているのか誇り一つない。
背徳的な気持ち(実際に侵入であるが)と共に少しだけワクワクした気持ちも湧き上がってくる。
私は扉を開けた時のように恐る恐る中に侵入した。
腕に抱きつくシャオちゃんとゆったりと後ろをついてくる虎の周々と共に元来た道に戻る。
戻れないかも、と多少心配していたが杞憂に過ぎなかったようだ。
まぁ今回は俺一人というわけではなくシャオと周々の二人と一匹という初めてのケースだったが迷いの森の条件に適応されるらしい。
「ね、一刀。どこにいくの?」
「ん、うちに帰るんだよ。正確には居候させてもらってる旅館なんだけど」
「旅館?こんな森の中で?」
「そう、滅多なことでは来ることができない、不思議な旅館さ」
なにせこの森、この世界自体不思議な存在だからな。
「へー面白そう。シャオ早く見てみたいなぁ。どのくらいかかるの?」
「そうだな。帰りたい、行きたいって願えばあっという間に帰れるさ」
「わかった。シャオ頑張って願うね」
そういってさっきよりも強く俺の腕を抱きしめた。
その結果ほとんど抱きついているという状態になり、少々歩きにくい。
「なぁ、もう少し離れてくれないかな?」
「えーなんでー。シャオにくっつかれて気持ちよくない?」
残念ながら不肖北郷一刀、この程度の色香に惑わされるほど落ちぶれてはいない。
これでも伊達に聖フランチェスカ学園に通っていたわけではないのだ。
もともと女学園なだけあって純粋培養なお嬢様たち相手に心頭滅却の日々。
邪なことを考え、もし実行に移したとあっては即正義の鉄槌がくだされる。
しかし周りにはほぼ女性としかいないというシチュエーションに加え、今まで男性の目がなかったことからか無防備な女性徒ばかり。
胸チラパンチラご馳走様です。
でも顔に出せば即アウト。これなんて罰ゲーム?
及川あたりは開き直ってもうMに開花するんじゃないかっていうくらいお説教されていた。いやもう手遅れか。
また俺は及川曰くモテモテだったらしい。
「かずやんカッコイイー、きゃー付き合ってーって人結構おったんよ?・・・男からも」
お嬢様にとって男性とのお付き合いというのは未知の世界であって、興味と恐怖が入り混じったものになったのだろう。
ゆえにガツガツしてなかった俺に白羽の矢が立った、というのが及川弁。俺は通報される恐怖で頑張って耐えていただけなのだが。
あと男からもっていうのは、ここで女の恐ろしさを知って男に走った一部のことらしい。
男子校でというのは希に聞くが、ほぼ女学園でそういう奴がでるとはまるで思いもしなかった。
というわけで俺は普通の人に比べかなりの境地にいるのです。
「むぅ、シャオの王子様は随分と女慣れしてるのね。きぃー絶対にシャオにめろめろにさせてやるんだから!」
「メロメロね。まぁ楽しみにしてるよ」
もういろいろと言いたいことはあるが突っ込まんぞ。
そんなたわいのない話をしていると、木々の間から旅館が見えてきた。
やはり戻るときはほとんど一瞬か。
一時間程度走り続け距離に換算すると10km近い。しかしシャオちゃんたちと旅館に戻る時にかかった時間は徒歩で10分足らず。
「一刀、あれ?あの建物?」
隙間から建物を見つけ、シャオちゃんは興奮したようにはしゃぎ出す。
「ああ。意外と早く着いてよかったよ」
そう言い終わらないうちにシャオちゃんと周々は旅館に向かって駆け出した。
やはり珍しいものなのかうんうんうねりながら手触りや匂いなども確認している。犬か。
「どうだい、なにか感想は?」
「そうね、うん。豪華なわけじゃないけど高級感があるかな。それにこんな建物見たことない。
あとこの匂い・・・どこかで嗅いだことがある気がするんだけど思い出せない。でも嫌ってわけじゃないの。なんというか、とても落ち着くの」
やっぱりそうゆう感想だよね。朱里ちゃんや雛里ちゃんもびっくりしていたし。
匂いは・・・建物の材質の匂いとか・・・かな。
「あとこれ・・・『姫ノ湯』?あれ、どうしてだろう」
「ん、どうかした?」
姫ノ湯の看板を見てシャオちゃんが首をかしげている。
必死で考えている顔が可愛いと和みそうになる。
でも頑張ったけど答えは出なかったようで、小さくため息をついた。
「この字、見たことないんだよね。でも何故か読めたの」
「見たことないのに、読める?」
「うん。あーもー意味分かんなぁい!」
シャオちゃんはそういって周々に飛びついて、嫌がる周々の頭をぐしゃぐしゃっと撫で回した。
うーむ、また謎が増えた。今更感があるけど。
「ま、とりあえず入ろう。ようこそ『姫ノ湯』へ・・・ってなんだこれ」
玄関を開け、中を見ると廊下にうっすらと砂で汚れていた。
どうやら来客がいるらしい。いや靴も脱がず入っているから侵入者、というべきか。
誰が来てもいいようにしっかりと雑巾がけなどし清潔に保たれていた廊下に心の中で敬礼をしつつできるだけ音を立てないようにする。
「なになに、どうしっ」
急に黙った俺を心配してか、問いかけてくれたシャオちゃんの発言を言い終わる前に口を塞ぐ。もちろん手です。
口元に人差し指を持ってくる、所謂”静かにして”というジェスチャーをするとちゃんと理解してくれたのか首をカクカクと上下に振った。
シャオちゃんは周々に視線を向けたあと、外を指差しその手を下に振る。
すると周々は指された場所に向かい、静かに腰を下ろした。
やべぇ、シャオちゃんも周々も及川よりよっぽど空気読めるわ。
あの馬鹿なら興奮して突撃しているところだろう。
「ね、知り合いってわけじゃなさそうね」
「ああ、ここには俺しか住んでないから」
小声で顔を付き合わせて今の状況を確認する。
「もしかしたら賊が来てるのかも。姉様たちも最近よく賊退治に駆り出されてるって手紙に愚痴っていたし」
「そいえば朱里ちゃんと雛里ちゃんもそんなこといってたなっっっ・・・・」
二人の名前を出した瞬間足を踏まれた。叫び声を上げなかった自分を褒めてやりたい。
「誰そいつ?」
胸ぐらを掴まれた。こっちのほうが幾分か背が高いのに。
あと小声でドスの聞いた声怖いです。
「とりあえずそんな場合じゃないから。まずこの第三者をなんとかしよう」
そういうと渋々だが引き下がってくれた。
「で、一刀は戦いの方は?」
「あはは、面白いこと言うね」
「一刀戦いの方は?」
「暴力じゃ何も解決しないと思うな」
「・・・一刀、戦いの方は?」
「痛いの嫌い」
「この王子様ダメだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ガラガラガッシャン
わざわざ大きく息を吸って叫びやがった。
顔突き合わせていただけあってモロくらってしまった。耳が痛い。
あとなんか奥の方で大きな音聞こえたきがする。
「どーしてシャオの王子様がこんなヘタレなの!謝罪と賠償を要求する!」
うーん、チェンジでもクーリングオフでも構わないが賠償はねー支払えるものなんてなにもないんだよね。
とそんなことよりも大切なことがある。
「とりあえず大きな音がなったところへ行こうよ。もしかして犯人かも」
そういって音が鳴った方へ逃げ出す。
シャオちゃんも慌てて追いかけてくるが靴を脱がなかったせいでまた廊下が泥だらけだよ。
俺?さすがに何かあった時のために靴は脱いでいないが、泥はきちんと落としておきました。
方向的に言えば台所だ。
犯人はお腹が減っていた?なら大丈夫かも。お腹が減って力が出ないっていうのは定番だ。
不意をつくように勢いよく扉を開ける。
そこで俺たちが目にしたものとは。
鍋を頭にかぶって床に倒れて気絶している、これまた露出度の激しい少女だった。
ねぇ、三国志の世界ってヘソ出しブームなの?今のところ確率5割なんだけど。
あと全員少女、そこロリ言わない。
「ねぇ、これが侵入者?」
「そうだね。俺も初めてみる娘だ」
よくよく見るとこの娘の手には包丁が握られたままで、キッチンには切掛けの大根、その他野菜類が切られるのを今か今かと待ち構えていた。
何はともあれ包丁が刺さったりしてなくて良かったとしておこう。
しゃがみこんで鍋を外すと、大きなリボンとエメラルドグリーンの鮮やかな髪が目に入る。
そしておでこには小さなコブが出来ていた。
「うーんとりあえずどうしよっか」
「普通なら縛っておいてあとから事情をきくんじゃない?」
「女の子を縛るのはちょっと抵抗があるんだけど・・・」
「シャオそういうの得意だよ。紐とかある?」
なんかやる気まんまんのシャオちゃんである。緊縛に定評があるのだろうか。
「いややめておこう。やったらもう友好的な関係作れなさそう」
絵面的にもやばいしね。
それにさすがにこんな子供ならいざという時にもなんとかなるだろう。
「じゃー悪いけどシャオちゃんその娘を部屋に運ぶから看病頼める?男の俺がやるよりいいだろうし」
「いーけど、一刀はその間何するの?」
「せっかく下ごしらえされてるからこれで何か作るよ。あとこれハイ」
そう言ってタオルを取り出す。
シャオちゃんがそれを見て、どういうこと?と首をかしげる。
「それで周々の足を拭いたら周々も部屋にあげてもいいよ。しっかり綺麗にしてね」
ひょいっと少女をお姫様だっこする。やっぱり見た目通り軽いな。
それにしても最近はお姫様だっこばかりしている気がするなぁ。
シャオちゃんはえーとめんどくさいという表情を隠そうともせずに後ろからついてくる。
とりあえず靴も脱がなきゃなぁ・・・
流琉ちゃんです 俺の嫁です
ここから少し原作と乖離していきます
ここを書くために少し原作部分をやったのですが季衣が一人で戦ってたって
見方によっては随分とひどいんじゃないかなと思った次第
そしてそのことによって流琉ちゃんが疑心暗鬼情緒不安定に
あと今回で一刀くんが女慣れしている理由が書いてあります爆発しろ
目の前に反面教師がいれば自重するよね
きちんとフォローは入れるつもりなので次回を気長に待っていてください
全然話すすまねぇー