姫ノ湯始めました   作:成宮

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遅くなりました
今回視点切り替えが多くわかりづらいかもしれません
場合によっては side kazuto とか付けるかもしれません

あと心情ばかりで今回つまらないかも と予防線を貼っておくヘタレです



答えが欲しくて

目を覚ますと知らない天井、あれ私何してたんだっけ。

身体に柔らかい感触、どうやら私は寝かせられていたようだ。

何故かズキズキと額が痛み手で触れると濡れた布が押し当てられていた。

とりあえず周囲を確認するために起き上がる。

 

「ひやっ」

 

最初に目に入ったのはどっしりと寝入っている虎と抱きついて寝ている褐色の肌の女の子だった。

 

え、え、いったいどういう状況ですか?!

 

ほんとなんで私こんなところにいるんですか?!

 

一応服及び身体に違和感がないか確認する。

・・・大丈夫。脱がされたとか変な痛みとかはない。

 

安心したことでようやく冷静に周囲を見渡すことができた。

よくよく見ると見覚えがある。

そうここは私が探索した『姫ノ湯』の一室だった。

 

私は『姫ノ湯』に誰もいないことを確認すると中を色々と見て回った。

最初に見つけたところがお風呂場だったのは幸運だった。

私が歩くたびに汚くなってゆく廊下がなんとなく可哀想で、どうにかならないかと悩んでいたのだ。

そのお風呂の豪華さに見蕩れ、入りたいという欲求が湧き上がり耐えるのに一苦労だったが。

 

しっかりと汚れを落としたあと、一つ一つ部屋を巡る。

基本的に同じような間取りの部屋ばかりだったが、内装は全く見たことがない。

でも不思議と落ち着く、そんな部屋ばかりだった。

 

続いて目にしたのは台所。

うちとは比べようもない設備、また見たことのない器具が立ち並ぶ。

また裏口にはこれまた見たことのない施設があり、興味本位でちょこちょこ触ってみた。

すると試行錯誤の果てにこれを使うことによって簡単に水が汲める絡繰であることがわかった。

 

といっても私の頭では原理はわからないんですけど。

 

普段家事をする者にとって水が簡単に手に入るのはありがたい。

この絡繰がうちにあればと思わずにはいられないほど羨ましかった。

 

そして台所に戻った私はある奇妙な箱を見つける。

興味本位であけた箱の中に様々な食材が入っていたのだ。

見たことがあるもの、全く見覚えがないもの、すべてがしっかりと太く実り、新鮮でとても美味しそう。

私はいてもたってもいられなくなった。

 

そう、私はすべてを忘れ料理に没頭し始めたのだった。

 

 

 

 

そしてこのざまである。

 

 

 

 

 

私が目を覚ました気配を察したのか、虎がその瞼を開き、こちらをじっと覗いている。

虎を退治した経験はあるが、この状況はひどくまずい。

武器は持っておらず、腰を下ろしている体勢のため素早く動くことができず飛びかかられればおしまいだ。

それ以前に寝起きなため体がうまく動かないということもある。

 

 

お互い見つめ合う状態がいつまでも続くのではないか・・・そう考えた瞬間、建物中に高い音が鳴り響いた。

 

その音に驚いた虎は抱きしめるように寝ていた少女を振り払うように飛び上がるように立ち上がり臨戦態勢をとるが私はやはり咄嗟に動くことはできず呆然とその様子を眺めていることしかできなかった。

・・・そして寝ていた少女は虎によって顔からずり落ち、「ぐべっ」と女の子が上げるべきではない悲鳴を上げた。

 

「いたーーい。周々よくも落としてくれたわね!」

 

飛び起きた少女は腰に手を当て虎を叱りつける。

その怒りの雰囲気を感じ取ってか、はたまた言葉がわかるのか虎は情けない唸り声を上げたあと、シュンとしていじけるようにそっぽを向いた。

 

「ちょっと周々聞いてるの?シャオの顔に傷でも付いたらどーするのよまった・・・」

 

ここにきてようやく私のことに気づいたらしい。瞬間顔を真っ赤にして口をパクパクさせている。

そしてようやく落ち着いたのか、先程虎にしたように腰に手を当て仁王立ちになって私に向かって一言。

 

「あんた、見世物じゃないわよ!」

 

ああ、理不尽だ。

 

 

 

 

 

 

さてあとは沸騰するのを待つばかり。

特製コンソメ鍋の完成である。そこ、鍋ばかりとか言わない。

手っ取り早く作れる鍋は楽なんですよ。まぁ下ごしらえで何を作っていたのかわからなかったからめんどくさくなって鍋に突っ込んだだけなんだけどね。

 

さて、残った時間で廊下を綺麗にしておこう。

掃除機とかク○ックルワ○パーとかあればかなり楽なんだろうけどそんなものありゃしない・・・はず。押し入れからそんなオーパーツが発掘されるのはさすがに勘弁願いたい。

なので雑巾がけをいたします。

実は実家の道場なんかは今でも雑巾がけを修行の一環に取り入れており、大変苦労させられているのである。

じーさんに竹刀でケツを叩かれながらとか、普通に通報していいレベル。どこぞのバラエティ番組の罰ゲームか。

しかし現実問題、腕や足腰も鍛えられるし鍛錬といっても過言ではないのである。

まぁだからといって道場すべてを一人でやらせる所業は鬼畜と罵られてもおかしくはないと思う。

 

さっと汚れた箇所を調べるとすべての廊下が少し汚れてるという微妙にめんどくさい状況なのがわかった。

あの緑の髪の娘はすべての部屋を回ったらしい。

途中風呂場で靴を洗っているのは微妙に良心の呵責でもあったのだろうか。

まぁあんな娘が泥棒するためにここにきたとは思いたくないが。

 

しかしどういう原理でこの旅館に来れるのだろうか?

詳しく地理はわからないが、諸葛亮と孫尚香が近くに住んでいた・・・なんてことはなかったはず。

 

謎は深まるばかりなり。

 

今回来た娘はいったい誰なのだろう?

 

思考の海に落ちようとしたとき、旅館中に笛の高い音が響き渡る。

 

「やべ、薬缶火にかけっぱなしだった」

 

笛付き薬缶、意外と便利。タイマーなどないから水の分量によっておおよその時間を図ることができるのは便利だ。

急いで火を止め、今度は鍋の蓋を開けると湯気とともにコンソメのいい匂いがふわっと広がる。

少し味見すると芋や白菜などの旨みがしっかりとスープに染み出し、ソーセージがコクを出す。

 

コンソメの素を作った人は偉大だ。

 

こんなもんまともに作ってたらいくら手があっても足りねーわ。

本物をつくろうとすれば多くの食材、手間、時間がかかる。

その分美味しさもひとしおであろうが何より知識がないのが1番問題だ。

できることを知っているだけ全然違うが、手探りで食材やら調理方法を模索していくなんてどこの料理漫画やねん。

 

閑話休題。

 

ひとまず料理も完成したし、シャオちゃんもいい加減お腹をすかしている頃だろう。

はたまた先程の音に驚いていたかもしれない。こちらに来ないということはなにかあったのだろうか。

もしかしたら緑の髪の少女が目を覚まして話しているのかも。

 

とりあえず少女たちのいる部屋にいって確認だけしてこよう。そう考えて部屋に向けて歩み始めた。

 

 

 

そして俺は向かった部屋で取っ組み合いをしながらお互いに暴言を吐くという喧嘩を目の当たりにしている。

一応ご主人様(?)の危機のはずだが、周々は我関せずとばかりに部屋の隅で寝ていた。何か嫌なことでもあったのだろうか。

 

「いーからとっととシャオに謝りなさいよ」

 

「嫌よ、どーして私が謝らなくちゃいけないのよ」

 

「きーっ、シャオは孫家のお姫様なのよ!江東の虎の娘が舐められっぱなしなんていい恥だわ。さっさと謝りなさい!」

 

「あなたの家がどーとかなんて知らないわよ」

 

「うー、子供の癖にー」

 

「あなただって私と背も胸も対して変わらないじゃない」

 

「はっ、孫家の血筋はね、おっぱいもお尻も出るとこ出るのよ!シャオだってもうあと数年すればお姉様たちみたいにばいんばいんなんだから!」

 

「みーとーめーたー!今自分でまだ子供だって認めた!」

 

「う、うるさいこのデコ助!」

 

「デコ助?!」

 

不毛なやりとりだった。

いや、シャオちゃんの姉妹・・・おそらく孫策と孫権も女性だということが解った。

あとおっぱいもお尻もしっかりでているらしい。GJ。

 

「おーし、そろそろお兄さん気づいて欲しいなー。あと部屋をボロボロにしないで欲しいなー」

 

そういって取っ組み合いをしている二人の首根っこを猫のように掴み、バラバラにする。

興奮冷めやらぬのか、この状態になってもお互いににらみ合い鼻息を荒くする。

いい加減女の子同士が争うところを見たくないため、少々手荒なことをするのを覚悟してもらおうか。

 

「ふんっ!もういっちょ、ふんっ!」

 

掛け声とともにヘッドバット。

あいにくと首をしっかりと固定してないためたいした威力は得られないがこれで頭も冷えただろう。

先に食らったシャオちゃんの光景を見てかもうひとりの娘が逃げようとしたが、残念ながら持ち上げられているため逃げようにも足をパタパタと動かすくらいで逃げられない。

そのペナルティとして少しばかり黒い笑顔を添えて恐怖を演出してみたり。

目を回している二人から手を放すと弱々しく座り込み額に手を当て痛みを和らげていた。

 

「人の家(ではないけど)で暴れたり女の子同士で物理で喧嘩はよくないな。特にシャオちゃんはスカートなんだからもうすこしお淑やかにね」

 

「でもこいつが!」

 

「はいはい、口答えしないようにねー」

 

そう言ってめくれ上がった裾を直すと興奮で赤くなっていたのが今度は羞恥で赤くなりこちらを睨みつけてくる。

そんな視線を無視しつつ今度はもう一人の娘の方に向き直る。

 

「さて、俺の名前は北郷一刀だ。好きなように呼んでくれていいよ」

 

できる限り愛想よく、先程の黒い笑とは異なった表情で笑いかける。

一瞬身体を緊張させたものの、肩の力を抜いてくれたようだ。

 

「あ、あの勝手に上がり込んですみません。私、典韋って言います。介抱していただいたみたいでありがとうございました」

 

子供に似合わない綺麗なお辞儀をする。よほど両親の教育がいいのかそれともこの歳で大人の世界に足を踏み入れているのか。

しかし今度は悪来典韋ですか。史実通りなら恐ろしい怪力がある・・・ようには見えないな。

 

「シャオは孫尚香よっ」

 

対してこちらはいかにも横柄な態度である。孫堅さん、もう少ししっかりと教育したほうが良かったんじゃないでしょうか。

 

「一応確認だけど、典韋ちゃんは何しにここに侵入したの?」

 

そう質問すると典韋ちゃんはちょこっと困ったような顔をした。

 

「あの、本当にごめんなさい。見たことのない建物があるなって思ってつい・・・あ、あと台所にいたのは思わず見たことのない食材を目にして、こう、ぐわーっと」

 

作りたくなったんですね。

 

「でも、うちの近くの森にこんな建物あるなんて知りませんでした」

 

「あ、シャオもこんなヘンテコな建物があるなんて知らなかったー」

 

不思議そうな顔をする二人を後目に俺はやっぱりかと思う。どうやらここの空間自体もう常識の範囲外らしい。

二人にどう説明したものかと考えたが、多分理解できないだろうから諦めた。

 

「そういうものだと思ってよ。まぁ典韋ちゃんが泥棒とかじゃなくて良かったよ」

 

山賊何かがここに来れるかどうかはわからないが、悪意を持つ者がやってこないとも限らない。

防犯設備についても少し考えておく必要があるだろう。セ○ム?やったね、すごいね。

 

「じゃ、ま落ち着いたところで風呂にでも入ろうか」

 

 

「「へっ?」」

 

そういって二人を左右に抱きかかえる。

 

「え、あの、その、なんでですかー?!」

 

「一刀、抱きかかえるならもうちょっと優しく抱きかかえてよっ」

 

「だって二人共汚れてるし、ついでに言うなら汗臭いし。優しくはもう少し大人になってからねー」

 

足で襖を開けさっさと廊下を進む。

 

「一刀ひどーい。女の子に向かって臭いってどういうことよ!あとシャオはもう十分大人の女よ!」

 

「はいはい、大人大人」

 

「ちょ、ちゃんと話を聞きなさいよー!」

 

手足を動かし逃げ出そうともがくものの残念、その小さな身体ではどうしようもないのだった。

反対側の典韋ちゃんは大人しく、いや緊張してるのか身じろぎせずにいる。とても対照的な二人だ。

 

 

 

「下ろすよー」

 

脱衣所に着き、言い終わらないうちに両手を放す。

 

「あだぁ」

 

「きゃっ」

 

と二人は地面に叩きつけられ悲鳴をあげる。シャオちゃんなんかは涙目でこちらを見ている。

 

「なんでシャオがこんな目にあわなきゃいけないのー!」

 

「うん、まあごめんね?あと「あだぁ」って悲鳴はどーかと思うよシャオちゃん」

 

姫(笑)

 

「じゃあとっととお風呂入って綺麗にしちゃってねー。あ、一応言っておくけどお風呂に入る前にしっかりとかけ湯して汚れを落とすこと。

そのまま入って湯船が汚れてたら全部掃除させるからな。あとタオルは湯船に入れないこと。タオルってこの手ぬぐい(?)のことね。ご飯準備して待ってるから、早めに上がってね」

 

風呂場、洗濯カゴ、タオルを指差す。

しかし二人はもじもじして服を脱ぐことすらしようとしない。

 

「ほら、さっさと入りなよ」

 

「ならさっさと出ていきなさい!」

 

典韋ちゃんはそうだそうだと言わんばかりに下を向いたまま何度も首を縦に振る。

 

なるほど、そういうことか。

 

「はっはっは、君たちに欲情することなんてあるわけえぇぇぇぇぇぇ」

 

言い切る前に典韋ちゃんが脱衣棚を持ち上げる。

俺の三分の二の身長もない子供が大きな脱衣棚を軽々と持ち上げる光景はもうシュールを通り越してホラーの領域だった。

真横にいるシャオちゃんですらドン引きですよ。

 

「おーけーすぐに出ていこう。だが言っておくが二人の裸が見たいからわざと残ろうとしたわけではないからな」

 

これだけは言っておかねば。

ありとあらゆる防衛線を張り巡らせておくのは、現代日本人としては必須といっても過言ではないのです。

あとになって困るのはきっと自分なのだから。

 

逃げセリフを吐いてとっとと脱衣所から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、シャオお腹すいてるんだからさっさと入ってご飯にするわよ」

 

そういって孫尚香さんは服を脱ぎ出す。

先程まで意識していなかったが、彼女の浅黒い肌は私の邑の近くではほとんど見ない。

どちらかといえば南部に住む人たちの特徴だ。

 

「ちょっと何ぼさっと見てるよの。あなたも急ぎなさい」

 

「は、はい」

 

私が手ぬぐいで身体を隠すのとは対照的に孫尚香さんは堂々と風呂場に入る。

慌てて追いかけると彼女はその風呂場の美しさに感嘆していた。

 

「すっごーい。なにこれなにこれ!」

 

目を輝かせて浴槽に飛び込もうとする彼女を腕を掴み止めると、こちらをジト目で睨んできた。

その気持ちはすごいわかる。すごいわかるんだけど・・・

 

「ほら、身体の汚れを流さないと。また北郷さんに烈火のごとく怒られちゃうよ」

 

「う、わ、わかったわよ・・・」

 

ゆっくりと屈み、飛び散らないようにそっと身体にお湯をかける。

思った以上に熱く、ありえないけど火傷するかと思ってしまった。

 

「孫尚香さん、お湯だいぶあつ・・・」

 

同じような失敗を繰り返さないよう孫尚香さんにも注意をしようと声をかけたところ・・・

 

なぜか彼女は悶絶していた。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

熱いといっても悶絶するほどではないはず、じゃあ一体何が原因なのだろう?

 

「き、傷に、しみ、染みて~」

 

よく見ると彼女のその肌には細かいけれど無数の真新しい傷が出来ていた。

傷というものは気づかないようなものでも意外とというか地味に痛いのだ。

一度慣れてしまえば問題ないがそのためにも多少の痛みを我慢しなければいけないのは結構勇気がいる行為だと思う。

 

「あー、が、頑張ってね」

 

残念ながら私にはどうすることもできないのだ。

いつもやるように手ぬぐいに湯を浸し、身体をこすって洗っていく。綺麗になるという感覚はやっぱり好きだ。

 

手早く洗ったあと、お湯に浸かるか重巡している彼女を後目にそっと浸かる。

 

熱い、でもそれは嫌な熱さではない。

体の芯から嫌なものが抜け出てくるような、不思議な感覚。

芯から温まっていく、とても気持ちがいい―――――

 

初めてのお風呂がこれなら、もうほかのお風呂なんて入ることなんかできない・・・

 

あまりの快感にふやけていると、それを目の当たりにしてか掛け声とともに孫尚香さんが飛び込んだ。

 

「ちょっと!顔にかかったじゃない!」

 

「う、五月蝿いわね。ちょっとぐらいいいじゃない。あー気持ちいいー」

 

飛び散ったお湯は盛大に私の顔にかかり、せっかくのいい気分が台無しにされたにも関わらず加害者は素知らぬ顔。

飛びかかってやろうかとも考えたけれど、気持ちよさそうに湯に浸かる姿を見てなんだかどうでも良くなってしまった。

これがお風呂効果なのか、と実感した。

 

「ねぇ、あなた典韋だっけ。寝てたときうなされてたけど何か悩みでもあるの?」

 

彼女からしたらたぶん思ったことを口に出しただけだったのだろう。

私の事情は本来、こんな出会ってすぐの人に話すようなことではないと思う。

でもついつい喋ってしまったのだ、湯に溶け出すかのように。

 

「で、人が信用できないって訳?」

 

「う、うん」

 

彼女は私の話を聞いたあとうんうんと何度か頷き、私がずっと考えてきたことの答えを出した。

 

「邑の人たちがその娘を差し出した?そうね、確かにそうかもしれない。でもね、今の時代保護下にしてもらうために人を出すなんて当たり前のこと。口減らしなんてことが起きてる地域もあるわ。

それに比べたら一人配下になるだけで保護下になるならかなりの高待遇よ」

 

損得勘定で考えれば、一人を犠牲にすればみんなが助かるのは正しいこと。でも。

 

「彼女を一人戦わせた?それはあなたの思い込みじゃないの?もしかしたら彼女は邑の人を巻き込みたくなかったから一人で突っ走ったのかもしれないわよ。

それに邑の人たちだってただ逃げ出すんじゃなくてできることをやってたんでしょ?」

 

季衣は優しいから。

 

「それに彼女は曹操のところに自分で決めて行ってんでしょ。彼女が信じた人なんだから、あなたも信じなさいよ」

 

私が―――信じる。

 

どうしてそんなことにも気づいてなかったんだろう。

友達が急にいなくなってしまっただけで、ここまで視野が狭くなってしまっていた自分に驚いた。

そして一方的に決めつけ、勝手に疑心暗鬼になって、季衣のことすら信じることができなくなっていた。

 

「シャオだって、母様が死んで、雪蓮姉様や蓮華姉様と離れ離れにされて、冥琳や祭や思春、明命に穏とも会えなくなって。寂しかったけど、我慢したの!

孫家の姫として、いつか私たちの街を取り戻す時まで耐えなきゃいけなかったの!」

 

急に感情的になって声を荒げた彼女は次第に涙声が交じるようになってきて。

 

「シャオは信じてるの。いつか雪蓮姉様が孫家を復興させて、また皆で集まってバカみたいにお酒を飲んで、雪蓮姉様と祭が冥琳に飲みすぎって説教されて

その様子を蓮華姉様がため息をつきながら、でも楽しそうに見て、思春は陰ながらその姿を見守って明命は猫と戯れて、穏は本読んで発情してるの!

そんな日常がきっと来るって信じてる。皆を信じてるの」

 

最後には普通に泣いていた。私も。

 

「シャオのことはシャオって呼んで」

 

「私も流琉って呼んでください」

 

「シャオに敬語なんて使わなくていいわ。許してあげる」

 

「うん、シャオよろしくね」

 

私たちの中に固まっていたものが、湯溶け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、青春やってるところ悪いんだけど、いい加減人を待たせてるってこと思い出してくれない?」

 

明らかに怒気を含んだ声、シャオと一緒に恐る恐る振り向くと風呂場の入口に北郷さんが仁王立ちしていた。背後になにか鬼のようなものが見え隠れしている気がする。

私たちの顔が一気に青くなる。あまりの恐怖に湯に使っているとはいえ―――ほとんど裸を見られているということを気にする余裕すらなかった。

 

「1時間、随分と長いお風呂だねーお兄さん随分と待ったんだけどねー。いつ出てきてもいいようにしてたらスープは煮詰まっちゃうわ、空腹でかしらんが周々はなぜか俺をじっと見つめてくるわで散々だったんだけどね。

いつの間にか二人は随分仲良くなっちゃってるし、それはいいことなんだろうけど仲間はずれにされてちょっと寂しいっていう気持ちもなきにしにあらず、てな気分なんだけどどう思う?」

 

「え、えっと一刀も入る?とーっても気持ちいいよ・・・?」

 

「そうだね、夜に三人で入ろうか」

 

「え?!北郷さんそれはちょっと・・・」

 

「北郷さんっていうのも他人行儀だよね。もうちょっとフレンドリー・・・親しみの持てる呼び方をして欲しいかな」

 

「あ、う、は、はい・・・」

 

ダメだ、顔は笑っているけど目が全く笑っていない。

すでにシャオちゃんは隣でガタガタ震えてるし、あんまり起き上がりすぎると胸見えちゃうよ?

 

「あと10分だけ待とうか。それまでに準備できなきゃどうなるかは・・・わかるよね?」

 

そう言って黒い笑顔のあと北郷さんは出て行った。張り詰めていた空気が姿が見えなくなってようやく弛緩する。

 

「シャオ、早く出なきゃ。10分って何かわからないけど急がないと」

 

「冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい冥琳ごめんなさい」

 

「あーもーほらさっさと行くよ。もー手がかかるところが季衣にそっくり」

 

手を引いて無理矢理湯船から出す。

うぐぐ、遅刻しちゃったらどうなるのかなぁ。

 

 




口調、口調がわからん
次回はもう少し軽い話にしたいなぁ でも笑いどころ作るのって難しいからなぁ

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