彼女たち、シャオちゃんと典韋ちゃんは食事のあとすぐさま帰っていった。
せっかく作った鍋もむしろ熱いと罵られる始末、俺は絶対に悪くない。
「もう一度邑の人たちの話をしてきます」
「シャオも。流琉のおかげで大事なこと思い出したし」
「いってらっしゃい」
二人共すっきりとした顔になっていた。
俺も笑顔で送り出す。
きっとあの風呂場での会話がお互いにいい影響を与えたのだろう。実は俺はあの会話を聞いていた。
もちろん風呂場に監視カメラ及び盗聴器などというゲスいものを仕掛けておいたわけではない。
たまたま、そうたまたま呼びに来た時に空気を読んだだけだ。断じて盗み聞きするために忍び込んだわけではないのだ。
あの年齢で家族や友人と引き離され、周囲の人間が信用できなくなる。
それはとても辛いことだ。
今回たまたま同じような状況の人と出会い、気持ちを吐き出すこと、共有できたことは運がいいことだろう。
そしていま二人は・・・・
「一刀!どうしよう!」
不意に後ろから抱きつかれ、危うく倒れそうにながなんとかバランスをとることに成功する。
「お帰りシャオちゃん。そんなに慌ててどうしたの?」
「ヤバイの、危機なの、危ないの!私がいなかったことが袁術たちにバレちゃったの!このままじゃお姉様たちがどんな・・・」
すべて言い終える前にシャオちゃんを優しく抱きしめる。
シャオちゃんはしばらくじっと俺の顔を見つめていたが、やがて俺の胸に顔をうずめた。
嗚咽が聞こえる。
俺はシャオちゃんの気が済むまで、優しく抱きしめながら頭を撫で続けた。
「どう、落ち着いた?」
無言のままうなづく。どうやら落ち着いたようだ。
「軟禁状態で抜け出してきた・・・だったね」
「うん、シャオのわがままで皆に迷惑かけちゃった。どうすればいいのかわからないの」
「どんな事情があったとしても、勝手に出ていくことは駄目っていうのはよくわかったよね。
ちゃんと反省してるなら、ごめんなさいすればきっと許してくれるよ」
「ほんと?一刀、嘘じゃない?」
「ああ、シャオちゃんのお姉ちゃんたちなんだからきっと大丈夫だよ」
そういうと、シャオのお姉様だからね、と笑顔になる。
「シャオ、大丈夫?!」
そして台所から飛び出してきたのはエプロンをつけた流琉ちゃん。
右手にもつ包丁の切っ先が微妙に俺の方を向いてるのは気のせいだよね。
「兄様、なにしたんですか!」
「気のせいじゃなかったー」
「なに言い訳してるんですか。刺しますよ」
そう言って包丁でチクチク俺の腹をつついてくる。
流琉に限ってそんなミスをするわけないと思っていても怖いものは怖い。だって目に光がないんだもん。
「流琉ーどうしよー」
「よしよし、とりあえずご飯食べてどうするか考えよ」
今度は流琉ちゃんに抱きしめられ、シャオちゃんは居間に進んでいく。
うーん、流琉ちゃんのシャオちゃんに対する情が半端ない。
これは愛情なのか友情なのかで今後の流琉ちゃんへの対応に大幅な変更が必要になってくるだろう。
保護者の身としては前者にならないことを強く願うしかないのだが。
なぜ二人が今もここにいるのかといえばいつの間にかここを中継地点として使われているのだ。
シャオちゃんと流琉ちゃんの住んでいるところはとてつもなく遠い。行き来しようとすればひと月はかかってしまう。
そこで彼女たちはここで会うことにしたのだ。
出たことがない俺にはわからないが、ここに来たい、と強く念じて森に入ればここに来ることができるらしい。
まさにミラクルパワーである。
そして挙句に流琉ちゃんはここに住みだした。
あの時の食材、そして俺の料理の斬新さ(腕は大したことはない)に感動したらしい。
俺は料理の腕を流琉ちゃんは新しいアイディアを、お互いを研磨するために日夜二人で料理に励んでいるのだ。
それと真名を許してもらった。&なぜかまたもや兄呼ばわりされる次第になったそうな。
「様付けってなんか嫌なんだけど」
「いえ、なんかあの時を思い出すと様をつけなければならない衝動に駆られまして・・・」
俺の怒りはトラウマになったらしい。少し罪悪感。
ちなみにシャオちゃんはさすがにここに住むことはできないので、暇を見つけては遊びに来るという形をとっている。
一人で寂しかった生活に、新たな風が吹いたのだった。
「さて、今日の食材はなにかなー」
食材BOXを開ける。いい加減箱箱じゃなんかわかりづらかったので俺が命名しました。
「昨日はうなぎ、でしたっけ。にょろにょろツルツルしてて気持ち悪かったですけど、見た目に反してとっても美味しかったですね」
食材BOXの蓋を開けるといくつかの野菜となぜか炭、木のタライが中央に鎮座していた。
そしてその中には5匹ほどの元気に動き回るうなぎ。
思わず呆然としちゃったね。まさか生きている状態で食材BOXの中に入っているとは。
数日放置したら腐りましたとか嫌すぎるんですけど。
捌く際には
「きゃ、や、やだぁ。服の隙間から中に・・・に、兄様と、とってくだひゃいぃぃ・・・」
とまあ流琉の身体を這いずり回るうなぎというお約束をしつつ、試行錯誤しながらうなぎの蒲焼を完成させたのである。
わざわざ炭が入っていたところを見るとなかなか気が利いていると言わざるおえない。
「はわぁ、ふっくら柔らかいですね」
「うん、まさかこんなところでうなぎを食すことができるとは思わなかったなぁ」
ちなみにうなぎは現在高級食材である。学生だった俺の手の届くものではない。
もちろん聖フランチェスカ学園にそんなもんでるわけがないのは火を見るより明らかである。
そんなこんなで流琉ちゃんにとっては毎日新しい食材に出会えるという天国のような環境なのだった。
故に朝の食材チェックには至福の時なのだった。
「え?」
しかし今日の食材は一味違う。
「あの、兄様、これは一体・・・」
流琉ちゃんが手に持っているものは現代日本では誰でも一度は聞いたこと、見たこと、食べたことのあるシロもの。
そう、それは・・・
「"即席ラーメン"?!」
5袋入りお徳用値下げシール付きだった。
ラーメンどんぶり(食器棚に普通にあった)に注ぎ刻んだネギを載せ、完成。
ここまでの所要時間わずが5分である。
「兄様、これすごいですね。こんなに簡単に作れてしかも美味しいなんて!」
「ああ、うんそうだなぁ」
ずるずると麺をすする音がこだまする。
しょうゆをベースとした味はこちらに来てからまったく食べる機会もなく、懐かしさが胸の内をあふれる。
あるあるネタ、毎日彼女の美味しい手料理を食べているけど、時折どうしようもなくジャンクフードが食べたくなる、そんな心境だった。
しかし嬉しいは嬉しいのだが、なんか微妙に納得が行かない。食材を支給してもらっている時点でかなりありがたいことなのだが、今回の支給は所々に手抜き感が見られる。
つーかなんだよ値下げシールって!生活費なくなったの?今後しばらく特売の即席麺で過ごせって言うの?!
このことがきっかけで後日旅館の裏を切り開いて家庭菜園ができる。
もちろん整地は流琉が一晩でやってくれました!
「麺はお湯で煮るだけ、スープはこの粉をお湯に溶かすだけ・・・革命です!早い、美味い、保存ができる、完璧じゃないですか」
この時代、食品の長期保存はなかなか難しい。
故に内地では海産物は高価なものであり、良質な干し鮑といったものは金などと同等価値がある場合もある。
また食事にも手間が掛かり、料理屋でもなく僅かな時間で済ませるというのは難しいものなのだ。
ちなみに余談だが流琉は特級調理師レベルの腕を持ちながらも庶民の出であり、手間をかけるほどいいと言われる宮廷料理よりもこういった面で寛容である。
「あーシャオに内緒で何美味しそうなの食べてるの!」
匂いに釣られてか、シャオちゃんが足音を立てながら台所へとやってきた。
「あ、ごめんごめん。今からシャオちゃんの分も作るからちょっと待っててね」
そう言って席を立ち、水を入れた鍋に火をかける。
「え、今から作るの?シャオもう待てないんだけど」
「大丈夫ですよ、10分もあればできますから」
「え、10分?!」
ちなみに二人には俺らの時間の概念を教えてある。
旅館なだけあって各部屋には時計があるし俺としてもできればわかりやすい方を使いたかったからだ。
二人がガールズトークに花を咲かせているあいだにネギを刻み、昨日の残りの卵を取り出す。
沸騰した湯に麺を入れ、いいぐらいに柔らかくなったら粉末スープを、溶け切ったところで卵を投入。
潰れないように麺を器に移し最後にネギを載せ完成。
「あいおまたせー。シャオちゃん麺が伸びないうちにどうぞー」
机の上に丼を載せると、湯気がふわっと立ち上る。
「うわーほんとに10分掛からなかったのね。初めて嗅ぐ匂いだけど、いい匂いね。あと上に乗ってるのは・・・卵?」
「そそ、半熟たまご~」
さすがに煮玉子の準備はしてないから半熟卵で我慢。
さてシャオちゃんは何派かな?潰す派?丸呑み派?俺は丸呑み派です。
蓮華を使ってスープを口にする。そしてずずっと音を立て麺をすする。
なぜか俺と流琉ちゃんは無言でシャオちゃんの動きを注視する。
「・・・美味しい」
その言葉を聞いてほっと息をついた。
現代のラーメンが受け入れられるとは、さすが日○食品やでぇ。
すごい勢いで麺がなくなっていく。
シャオちゃんは潰す派だったようで思い切り膜を破り、卵がスープに馴染んでゆく。
そして口にして卵とスープの相性の良さに驚いているようだ。
「なるほど、溶かさず半熟にすることでスープに変化をつけれるようにしたんですね。勉強になるなぁ」
即席麺からでも学ぶ姿勢を忘れない流琉ちゃんは素直ないい子だなぁと本当に思う。
「一刀!美味い、もう一杯!!」
遠慮のないこっちの子はどうしてやろうか。
「そういや袁術に抜け出したことがバレたって話だっけ」
昼食も摂り終え、お茶を飲みながら旅館の一室で話し始める。
「そうなのよ、流琉、一刀~どーしたらいいの~」
頭を抱えて情けない声を出す。
「んーしらばっくれるとかは?」
「無理無理。疑惑が出た時点でもうダメなの。たぶん無理矢理押し切られちゃう」
「じゃあいっそ滅ぼしてしまうのはどうですか?」
「できるならやってるわよ流琉」
意外と黒い発言をするのは流琉。勅使とか支配階級の人にはやはり敵意を持っているようだ。
邑の人と解決したかと思えたが、これはまた別問題のようだ。
「一刀はなんかないの?」
「うーん、こうゆう時はご機嫌を取る貢物とかが定番なのかなぁ」
「貢物かぁ・・・あいつら金だけは潤沢にあるからそうそう欲しいものなんて・・・」
あ、という表情。
「そうだ、はちみつ!前に雪蓮姉様がはちみつがどうのこうの言ってた気がする!」
「でしたら袁術様に捧げるはちみつを取りに行ってました・・・とかでしょうか?」
「ただのはちみつよりもうひとひねり欲しいな。はちみつを使ったデザート・・・甘味なんかどうだろう」
「「それだ!!」」
ゴールは見えた。あとはそこまで行く道筋をつくるだけ。
「ねー流琉、一刀。はちみつを使った甘味つくって~」
「いいけど・・・作るのはシャオちゃんだよ?」
「え”?!」
俺の一言によって甘い顔が一気にひきつる。
「シャオ、当たり前じゃない。甘味なんて日持ちしないし。シャオが作るのよ」
「ええー。どうしてシャオがそんなことしなきゃいけないのよ」
ぶー垂れる。心なしか髪の毛も逆だっている気がする。
でもね
「付いて行きたても、俺この森から出られないし。流琉も距離が遠すぎて行くことできないし。ついでに言うと自分の蒔いた種なんだから自分で刈り取るのが筋ってもんじゃないかな?」
「そうよ、このままだと季衣みたいになっちゃう」
そんなにひどいのか、季衣ちゃん(ちゃんとした名も知らぬ少女)
俺たちに言われついに観念したのはいいが、俺たちを指差しキレ気味だ。
「うーーーーーー、わかった!やってやるわ。その代わり流琉も一刀もしっかりと手伝ってよね!」
「提案したんだ、ちゃんと責任は持つさ」
「友達なんだから、当たり前じゃない」
そういって俺たちは腰を上げると、台所へ向かっていった。
包丁を握ったことのないシャオちゃんに料理を覚えさせることは難解を極め、シャオちゃんが作れる、かつ珍しくて美味しいものという無茶ぶりをさせられる。
結局出来上がったのははちみつプリンという代物だった。
それはたいそう喜ばれ、シャオちゃんは袁術に気に入られるというかなりめんどくさいことになったそうな。
いい加減出したかったネタ
食材が供給されるという時点でずっと考えていました
あと申し訳ないのですが流琉、シャオの口調が安定しません
特に流琉は俺の嫁なのにどういうことなの・・・?
前回は設定の部分が多くぶっちゃけ書いていて面白くないなーと自分でも思っていた
今回は日常をいれて面白いと思ってもらえるように書きました