姫ノ湯始めました   作:成宮

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無理やりな感じがしないでもない


追われてて 朱里√

この大陸は現在、危機的状況に陥っている。

水鏡先生の下で学んだことによってそれがはっきりと解った。

力のない人々が苦しみ、死と隣り合わせの日々を過ごしている。

その状況が悲しくて、許せなくて、こんな私でも何か出来るんじゃないかって。

そう考えて水鏡塾を飛び出した。

雛里ちゃんはそんな私に賛同してくれて共についてきてくれた。

でも私たちに出来るのは考えることだけ。

誰かに庇護されなければ何も出来ない。

そんなことも気づかず飛び出した結果が今の状況だった。

 

 

私たちは特が高いという噂の劉備玄徳という人物がちょうど義勇兵を募集していると聞き、

その場所に向かっている途中。

女の子の二人旅。

格好の獲物だった。

 

 

油断したのか小細工などせず堂々と5人組の賊が現れ、はっきりと私たちを捕まえて売ると言い放った。

そして慌てて逃げ出す私たちを笑いながら追いかけてきた。

恐らく、獲物を追い詰めることに何かしらの喜びを感じているのだろう。

少しづつ迫ってくる笑い声に私たちは恐怖しか感じられなかった。

 

そして森の中へ入る。

運がよければ撒けるかもしれないと思った。

森というのは慣れたものでも進むことはこんなんを極める。

しかし体力的に逃げ切ることはできないし、障害物などをうまく使って逃げ切るという

賭けに出るほか私たちにはなかった。

 

服は解れ、細かい傷ができる。

雛里ちゃんは一度大きく転んでしまい、足に擦り傷を作った。

私を置いて逃げて、という親友の言葉を無視し、支えさらに奥へ進む。

すると突然道に出た。

獣道とは違う、完全に人が通るための道。

その先に一軒の見たことのない建物が建っていた。

 

肩で呼吸し、痛みに耐えている雛里ちゃんを見て決心した。

巻き込むかもしれない、でも助かるにはあそこの人に頼ることしか道はない。

これでもしあれが賊の住処ならば潔く諦めよう。

私が身体を差し出せば、雛里ちゃんだけでも助けてもらえるかもしれない。

そう希望にすがりつくように、建物を目指した。

 

 

 

耳障りだったあの笑い声はいつの間にか聞こえなくなっていた。

 

 

 

 

私の記憶を探っても、このような建物は見たことがない。

近づくにつれて明らかにこの国では見たことのない技術が使われているのがわかった。

 

未知なる建物。

 

それに好奇心を大いに刺激されつつも、今は不安の方が勝った。

もし貴族の家であれば、話すら聞いてもらえないかもしれない。

むしろ捕らわれ、同じような結果になる可能性も・・・。

しかし躊躇する暇などなかった。

建物の前に着くといきなり扉らしきものが開き男の人が出てきたのだ。

 

その男の人は見るからに先ほど私たちを追いかけていた賊とは違う。

感じたことのない空気を纏っていた。

彼を見て、感じて、何故かはわからないが確信した。

この人なら大丈夫だと。

 

私たちはその言葉を口にするべく、呼吸を整えることなく最後の力を振り絞り彼に向けて私たちは助けを求めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫、誰か来たって俺がやっつけてやるさ」

 

そういって彼は私たちの頭を撫で回した。

普段なら子供扱いされたことに怒り文句をぶつけていただろうが、今はその行為がとてもありがたかった。

荒っぽいけれども安心感があり、不思議と先程までの恐怖が和らいだ。

とまぁ感謝はしますけど、一応表情だけでも文句をぶつけておきます。

全然効果はありませんでしたが・・・

 

 

 

彼の小粋な冗談で和んでいたら、いつの間にか雛里ちゃんがお姫様抱っこで移動させられていました。

なんと羨まけしからんです。

何気ない動作から、あたり前のように雛里ちゃんは持ち上げられ、あまりにも自然すぎて私も

反応することができませんでした。完全に失態です。

ようやく思考停止から立ち直り、急いで二人を追いかけますが雛里ちゃんはお得意の帽子による顔隠しに

よってどのような顔をしているのかわかりません。

まぁ大体予想できるんですけど、きっと真っ赤にしているんです。

ちなみにこのままどこか変なところに連れて行かれるという心配は思いつきもしませんでした。

 

そして井戸につき、私たちの見たことのないような絡繰によって水が汲み上げられ、そのことについても

大変興味深かったのですが、雛里ちゃんが優しく介抱される姿を見て私なんか蚊帳の外でした。

 

水の冷たさに可愛らしく悲鳴を上げ、さらにはパンツまで見せてしまう、あざとい、あざといよ雛里ちゃん。

彼も慈愛の目で雛里ちゃんを見つめてるし、なんか悔しいんですけど私も怪我をしておくべきだったのでしょうか。

まぁそのあざとい行為も彼には不発だったみたいです。意識してやってるわけではないと思いますけど。

 

最後に傷に何か貼ってもらっていました。

傷に貼るには可愛らしいく、むしろ装飾品といってもいいかもしれません。

これならばそのままにしておくことや包帯を巻いたりするよりも見栄えもいいですし女の子にとっては嬉しいです。

もちろん怪我をしないことが1番なのでしょうけれど。

 

そして再度お姫様抱っこ。

雛里ちゃん、約得すぎやしませんか?

 

 

 

 

 

そのあと私たちは囲炉裏、と呼ばれるものがある部屋に行きました。

中に入ると床が緑に敷き詰められていました。畳というそうです。

ちなみに私たちは玄関にて靴を脱いでいます。

少し不思議な感覚ですが、嫌いではありません。

土足ではない分お掃除も楽ですし、案外これもいいものかもしれません。

 

と話が逸れましたが次に嗅いだことのない匂いが充満していました。

それは嫌なものではなく、嗅いだことのないにもかかわらず何故か食欲をそそられるものでした。

匂いの元を辿ると、部屋の中央に小さい焚き火をする場所がありました。これが囲炉裏というそうです。

そこには鍋が火によって熱されており、美味しそうな臭いを漂わせていました。

 

 

「ん、これ使って」

 

 

その言葉とともに薄い、正方形の布団のようなものを渡されました。

全然小さいので布団としては全然使えないと思いますけど。

 

 

「えと、これは?」

 

「座布団も知らないの?最近の子供はこれだから・・・」

 

とりあえず何に使うものかと尋ねると何故か馬鹿にされました。

屈辱です。

というかさっきから私に対して厳しいというか、態度おかしくありませんか?

 

雛里ちゃんが子供、という部分に反応して言い返していたので私は大人を強調するために

腰に手を当て胸を張りました。

水鏡先生は「もうあなたたちは立派な大人です。しっかりと胸を張って頑張りなさい」と仰ってくれました。

今こそ実戦するときです。*何故か勘違いしています

 

しかし彼は私たちをまた慈愛の目で見ていました。

・・・むしろ彼が子供だから私たちの色気に気づいていないんではないでしょうか。

そうだ、そうに違いない。

そう頭の中で論理を展開し、自分を正当化させようしていると彼がいきなり聞いたことのない単語を叫び

思わず雛里ちゃんと共に小さく飛び上がってしまいました。

 

 

彼はすぐさま叫んだことを謝り、座布団の使い方を伝授してくれました。

しかし彼の真似をすると、その、スカートの中身が見えてしまうのではないかと危惧し座り方を変えました。

これは狙ってやってるんでしょうか。

 

 

自己紹介のあと食事とともに様々なことをお話しました。

彼、北郷さんは私たちの名前を聞いて何故か驚き、目を丸くしていました。

そのあとの質問も私たちにとって常識と言えるようなことばかり聞きいてきました。

恐らく北郷さんは何かを確認するためだったように思います。

私たちはそのことに気づき、できる限りわかりやすく答えました。

まぁあの反応から北郷さんも気づいていたんだと思いますけど。

こういうやりとりをできるということはかなりのやり手なのだと思います。

水鏡女学園を出てから本当に世界はまだまだ知らないことだらけだな、と実感しました。

 

あ、食事ですか?

食べたことのない味でしたがとても美味しかったです。

普段お腹いっぱい食べれることなんてあまりありませんし、遠慮なく頂いてしまいました。

雛里ちゃんは遠慮がちに御代わりを差し出していましたが堂々を御代わりする私を見て

途中で吹っ切れたように遠慮することはなくなっていました。

次また食べれるかわかりませんし、相手の好意を無下にせず、むしろ譲歩させ、挙句吐き出させるのは

政略の基本ですよ?雛里ちゃんは軍略に秀でていますのでいいですが多少は覚えておいて損はないですよ?

 

 

 

 

食事後、お腹いっぱいになったことと安心感によって眠気が襲いかかり心は白旗を上げようとしていたとき

北郷さんからお風呂を提案してくれました。

 

これはとても幸運です。

逃げ回ることによって汗だくになり、泥だらけで正直気持ち悪かったのです。

初めは着替えるだけ、もしくは井戸の水をお借りしようと思っていましたがお風呂に入れるとは

本当に運がいいです。

ちなみにお風呂なんて一般には普及していませんし、入るのはそれこそ何ヶ月ぶりでしょうか。

ここは北郷さんに匂いを嗅がれ、服を脱いでいる今も落ち込んでいる雛里ちゃんにも感謝しておきます。

雛里ちゃんは犠牲になったのだ、ちやほやされた結果がこれよ。

 

 

そんなこんながあったけどお風呂は圧巻の一言だった。

施設の造りも見事ながら、なにより美しい。

ただ汗を流すことを考えてのものではなく、お風呂は楽しむものという発想は私にはなかった。

雛里ちゃんと共に丹念に体を洗う。

今も湧き出ているお湯を不思議に思いつつも、そのお湯を使い贅沢に体を綺麗にしていく。

なぜならその浴槽は、汚れた体で入ることにひどく躊躇いを覚えるものだった。

 

ようやくお互いに納得いくまで綺麗になり、浴槽に足を向けた。

少しづつ、恐る恐る浴槽に入る。

温度は少し熱い、でもそれが不快感を及ぼすものではない。

細やかな傷が少し痛むけど、徐々に、まるでお湯に溶け出すように痛みが引いてゆく。

 

「はう~~~」「あう~~~」

 

雛里ちゃんと共に無意識に声が出て、それが可笑しくて顔を見合わせ笑った。

 

「まるで現実じゃないみたいだね、朱里ちゃん」

 

「そうだね、雛里ちゃん」

 

命からがら逃げて、たどり着いたところでは今まで出会ったことのない不思議な男の人に助けられ、見たことのない

建物で食べてたことのないおいしい鍋をご馳走になった。

そして今は幻想的なお風呂で、安らぎと心地よさを感じている。

 

「北郷さん、いい人だね」

 

「雛里ちゃん、お姫様抱っこされて、嬉しかったのかな?」

 

暗に私はされてなくてちょっと悔しいということを伝えて、顔を真っ赤にして俯く雛里ちゃんを楽しむ私。

 

「なんか朱里ちゃん、意地悪?」

 

「そーんなことないよ、私だけ仲間はずれにされてて根に持ってなんかいないよ?」

 

「やっぱり朱里ちゃん、意地悪だよぅ」

 

さて、名残惜しいけど北郷さんも待ってることだし、そろそろでなくちゃね。

あとお風呂から出てからちょっとしたことあったけど、別に変な意味はなかったよ?

 

 

案内された寝台は、先程の囲炉裏があった部屋と似ていたもののそこには囲炉裏はなく変わりに畳に布団が敷いてあった。

枕は私はあまり好きではない陶器製ではなく、柔らかいもので、布団自体も全然私たちが使ってきたものと異なっていた。

枕に顔を埋めると、ほのかに太陽の匂いがした。

是非ともこれは欲しい。いずれ来る時のために作り方を教えてもらわねば。

抑えられない好奇心を北郷さんにぶつけた。

私の情熱に圧倒されたのか、北郷さんは懇切丁寧に答えてくれる。ほらそこ、情熱の無駄遣いとか言わない。

雛里ちゃんも真剣に聞いているのだ。

 

いろいろ喋っているうちに北郷さんは私たちを見て姉妹を言った。

確かに、真里姉さんや優里ちゃんよりも雛里ちゃんと一緒にいることのほうが長かった。

 

「そう、ですか?」

 

「私たちが姉妹だったら、きっと私がお姉さんだね」

 

「え、朱里ちゃんがお姉さん?」

 

「そうです、私のほうがお姉さんっぽいですから」

 

「でも朱里ちゃんって妹だよね?真里お姉さんがいるし・・・」

 

「はわわ、そういうなら優里ちゃんがいるいんだから私がお姉さんでも何も問題ないよ」

 

「あわわ・・」

 

「はわわ・・・」

 

私には一応雛里ちゃんを引っ張ってきたという自負がある。

だから私のほうがお姉ちゃんだって事は譲れない一線なのだ。

それに私のほうが大きいし・・・

 

そう言った瞬間雛里ちゃんが飛びかかってきた。

いつも消極的なのにこういう時だけ、と思わず悪態をつく。

お互い譲れないモノのためには武力も辞さない覚悟だった。

 

取っ組み合いを始めた私たちを見て慌てた様子で北郷さんが止めにはいった。

 

「こら、せっかくお風呂はいってすっきりしたのに何やってるんだ」

 

「だって雛里ちゃんが・・・」「だって朱里ちゃんが・・・」

 

「言い訳しない。それでも軍師を目指してるの?もっと冷静になりなよ」

 

 

その喋り方が、仕草が、何だか少し真里姉さんに似ている気がして。

雛里ちゃんもそう思ったのか、私と顔を見合わせて思わず笑ってしまう。

 

 

「北郷さん、まるでお兄さんみたいだね」

 

「そうだね。真里姉さんと優里ちゃんを加えて5人兄妹、かな」

 

「そうだね、君たちみたいな妹がいたら楽しいかな?頭が良すぎて、いつも言い負かされそうで怖いけど」

 

心外です。私はちゃんと兄さんを立てるいい妹です。

 

「怖くなんてないですよ、兄さん?」

 

「・・・朱里ちゃん、意外と乗り気?」

 

「え、あ、はわわ・・・」

 

恥ずかしい、私もまだまだだなぁ。

心の中でため息をつく。

雛里ちゃんと目を合わせると、こくりと頷いた。

さて、仕上げと行きます。

 

「あの、ご迷惑かもしれませんが」

 

「できれば傍で一緒に寝てもらえませんか?」

 

絶句している北郷さんに止めの一言を放つ。

適役はドジっちゃった私。

 

「お願いします、兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

ひかれた布団に雛里ちゃん、私、北郷さんの順に寝転がる。

男の人と一緒に寝るのなんて初めての体験だ。

胸がどきどきしてどうにも眠れそうにない。

 

北郷さんはちょっとはどきどきしてくれてるのかなと期待に胸を僅かにふくらませ顔を覗き見ると

既に眠っているのか瞼は閉じられ、規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

うわぁ・・・男の人として何かおかしいよ。

もしかして女の子に興味、ないのかな?

むしろ男のほうが・・・

と違う意味で興奮し眠れなくなりそう、ってダメダメ何考えてるんでるんでしょう。

 

今度は雛里ちゃんを見るとこちらも安心した顔でぐっすりと眠りに入っていた。

意外と図太いんだよね、雛里ちゃん。

私を壁にしているとはいえ、すぐそばに男の人がいるのにぐっすりと眠れるんだから。

それとも北郷さんだから、なのかな?

咄嗟にお願いしちゃうくらい、信頼しているし。

出会った時にも感じた、ほかの人とは違う安心感。

近い表現をするなら・・・お父さんとか、お兄さんとか異性の家族って感じ。

 

 

そう考えて納得した。

だからこんなにそばにいても気にならないしむしろ安心するんだと。

 

 

今夜は水鏡女学園を出て以来、ぐっすり眠れそうでした。




うーん 苦い、もう一杯

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