姫ノ湯始めました   作:成宮

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超スピード展開 だってしょうがないじゃん



受け取って

最後に誰かと一緒に寝たのはいつだったのだろうか。

 

傍に誰かの気配がある。

傍に誰かの熱がある。

傍に誰かの鼓動が聞こえる。

 

それが妙に安心させる。

 

学園祭の準備で隠れて学園に泊まった時。

男友達ともみくちゃになって寝たんだっけな。

一つの目的に向かってみんなで集まって。

クラス一丸となって精一杯頑張って。

電池が切れたように眠りに落ちていって。

 

 

 

 

及川とゲームしてて寝落ちしたこともあったっけ。

あいつは買ってきた新作ゲーム片手に急に俺の部屋までやってきて勝手に始めだして。

たたき出そうと思ったけどあいつの顔が、

『どや?かずやんもやりたくなってきたんちゃう?』

そんなドヤ顔するものだから、ついつい乗ってしまって。

白熱してそのまま寝落ちしてしまった。

電源が点きっぱなしのゲームによだれを垂らして突っ伏した及川。

こんなグダグダした時間を友達と過ごすのが楽しかった。

 

 

 

一人で旅をしてきて、こんなにも人が恋しくなっていたんだ。

それともこんなよくわからないトコに来て、このまま一人で過ごさなければいけないかと不安になって

でもそんな時彼女たちが来てくれて。

 

彼女たちは助けてもらったと思ってるかもしれないけれど、俺も君たちに助けてもらったんだよ?

 

諸葛亮ちゃんの髪をそっと撫でる。

コンディショナーとかもないのにサラサラと手触りよくいつまでも触っていたいと思った。

ホウ統ちゃんのほっぺをつつく。

ぷにぷにと柔らかく、それでいて弾力がある。すぐに真っ赤になり顔を隠してしまう彼女のほっぺたを

触る機会なんてこんな時くらいしかきっとないだろうね。

 

 

諸葛亮とホウ統である彼女たちは遠くない時に帰ってしまうだろう。

史実通りなら彼女たちにはやるべきことがあるのだから。

 

そして貂蝉とやらの手紙に書いてあった”姫ノ湯をよろしく”という言葉。

つまりこれから彼女たちのようなお客さんがここに来るんだろう。

ここは旅館である。

だったら僅かなひと時でもしっかりともてなしてみよう。

 

それがきっと俺がここにいる理由。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちの体温を感じ・・・うん?何だか妙に暑い。

目を覚ますとうっすらと汗をかいていた。

今は夏だっけとつぶやき、すぐさまここは避暑地のように涼しいことを思い出した。

 

ではこの暑さの原因は何か?

正解はぬくもりを求めるように擦り寄っている彼女たちだった。

川の字のごとく三人で並び、右から俺、諸葛亮ちゃん、ホウ統ちゃんである。

諸葛亮ちゃんの小さな体はすっぽりと俺の胸の中に収まり、身体を丸めていた。

ホウ統ちゃんは丸まった諸葛亮ちゃんの服の一部をそっと両手でつかみつつ、身を寄せていた。

 

しかし及川とかがくっついて寝ていた時以上に暑く感じた。

まぁあいつの時は別種の暑さを感じてはいたのだが。

ではなんだろうか記憶を探ると、ふとその理由に気づく。

 

「ああなるほど、子供だからか」

 

「「子供じゃありません!!」」

 

子供は大人よりも体温が高く、また女性であることも加味されているのかもしれない。

小さい頃に親戚の従姉妹と一緒に昼寝をした際にその体温の暑さに思わず無理やり引っペはがしたんだっけ。

目を覚ました従姉妹がなんでこんなことするのと無言の視線が痛かった。

ちなみに動物は乗じて人間よりも体温が高い場合が多い。

 

 

「まったくもぅ、私たちは大人です」

 

「そうでしゅ、しちゅれいしちゃうでしゅ」

 

腕を組みぷりぷり怒る姿は完全に子供だった。

まごうことなき子供だった。

見ていて微笑ましいがこのままという訳にもいくまい。

さっさとごまかすために手を打っておこう。

 

「ま、とりあえずご飯にしよう。張り切って作っちゃうぞー」

 

わざとらしいくらいの棒読みを放ち、二人の頭を撫でまくる。

 

「はわ、や、やめてくださ・・・」

 

「あうぅ・・・」

 

次第に二人は目を回し、ぐったりと布団に突っ伏した。

かすかに唸り声を上げているが大丈夫だろう。

これ幸いと急ぎ部屋を脱出し、台所へ向かう。

 

「さーて材料何が残ってたっけな」

 

箱を開けると昨日の残りにプラスいくつかの食材が追加されていた。

もうその程度のことでは驚くに値しない。

 

「冬瓜とか食べ方わからんがな」

 

いくら食材があっても食べ方がわからないものはどうすればいいのやら。

試行錯誤するのはまた別の機会にしておこう。

食べれることはわかってるんだし、なんとかなるだろう。

 

「まずは水からだなー」

 

適当に朝食として使えそうな食材と米をたらいと鍋に放り込み裏口から出る。

冷えた朝の空気が気持ちいい。

ポンプをひと押し、冷たい水で顔を洗う。

氷水のような冷たさが、完全に意識を覚醒させた。

 

「あー、たまにはこんな生活も悪くはないなぁ」

 

顔を拭き、今度はたらいに水を張り、野菜類を浮かべる。

そして今度は鍋の方で米を研ぐ。水が冷たすぎて少し痛いがそこは我慢。

研ぎ終わったあとは鍋に水を張り、あとは火にかけるだけ。

さてお次は井戸水で冷えた野菜類。

丹念に泥を落とし鍋と共に台所へ。

 

かまどは初挑戦だが意外となんとかなるものだ。

もう一つ鍋を出し、適度に切った野菜を入れてゆく。

じゃがいも、人参、玉ねぎ、ごぼう、大根。

リズミカルな音が台所で鳴り響く。

そして適当に豚肉を放り込み、ちゃちゃっと味付け。

ホントはもっとちゃんとした作り方があるんだけど大変だから却下して。

そんなこんなで豚汁の完成である。

 

二人がようやく意識を取り戻したのか、それとも匂いに釣られたのか台所にやってきた。

 

「いい匂いですね」

 

「お、おはようございます」

 

「おう、おはよう。井戸の方で顔、洗っといで。そしたら朝食にしよう」

 

その言葉を聞いてかお腹が可愛らしく鳴いて、真っ赤な顔を隠しながら急ぎ裏口に向かう

二人を横目に炊き上がったご飯を見つけたおひつに入れる。

うむ、炊き上がりも完璧だ。俺って天才かも。

 

おひつと鍋を持ち、昨日使った囲炉裏がある部屋まで向かう。

二人が来る前に押入れからテーブルを出し準備を整える。

まったく、なんでもあるなぁここは。

とはいえ流石に食器は押し入れにないため、台所へ戻る。

いかにも老舗で使われていますと言わんばかりの食器類を見つけ人数分お盆に載せていく。

 

「お待たせしました」

 

「・・・ました」

 

「おう、行くぞ」

 

スッキリとさせた諸葛亮とホウ統と合流する。

ほんのりと顔が赤いのは先程のが未だに恥ずかしかったのか、それとも

井戸水があまりに冷たかったからか、果たしてどちらだろうか。

 

 

「ほれ、ちゃっちゃと座って」

 

部屋に着くなり座布団を指差し二人に命令をする。

こちらをちらちら見ながら恐る恐るそれぞれ座り込んだ。

 

鍋を開けると先程までかすかに漂っていた味噌の香りがより強く強調される。

お椀に色々な具材が入るよう調整しつつ、三つ分注ぐ。

次におひつを開けるとふわっと炊きたてのご飯の匂いが香り立つ。

茶碗によそい、さりげなく俺の分にだけおこげを混ぜる。

漬物とかもあればよかったのだが、あいにく付ける暇も道具もなかった、残念。

最後に二人の前にお茶を出す。

 

その姿、完全におかんである。

 

「準備完了。それじゃ食べようか」

 

「「はい」」

 

 

 

やはり食事はいいものである。

諸葛亮もホウ統もその小さい身体に似合わず、恥ずかしそうに御代わりを要求。

さりげなく茶碗に入っていたおこげを目ざとく見つけ、しっかりと要求。

豚汁は完全に視線がお肉に向いていたので嫌がらせに人参を多めに入れておいてやった。

見た目に反してたくましい少女たちである。

 

 

お腹が膨れて眠たくなったのか、二人は瞼をとろりとさせた。

そんな姿になごみつつきちんと注意してあげる。

 

「食べて寝ると牛になるよ?」

 

「はわわ、そ、それは困ります」

 

「あわわ、で、でも朱里ちゃん。牛さんみたいに、胸、大きくなるか、も?」

 

「な、なるほどでし、流石雛里ちゃん。兄さん、お布団の準備を」

 

その発想はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どっせーい」

 

「「きゃぁぁぁぁぁぁ」」

 

叫び声とともに将棋盤が宙を飛び、駒の雨が彼女たちに降り注いだ。

不肖北郷一刀、乱心である。

 

 

 

 

眠気覚ましに運動、というわけにもいかない訳でならばと押入れから囲碁と将棋盤を引っ張り出してきた。

ルールを説明するとあれよあれよ検討を始め、なんと一局目から敗北をきっしたのだった。

一を聞いて十を知る、を実際に目の当たりにするとは思わなかった。

流石、諸葛亮とホウ統である。

とわかってはいるものの、見た目幼女にしてやられて黙ってはいられなかったのだ。

知力で勝てなければ、腕力を持って勝てばいいのだよ。

 

 

「はわわ、兄さん、それは卑怯です」

 

「勝てばいいのだよ勝てば!」

 

「あわわ、少なくとも勝ちではないような・・・」

 

 

意表をついて二人に一矢報いて大満足です。

でも許して欲しい。兄と呼ばれるからには、多少なりとも威厳が欲しいのだ。

そんな俺を仕方ないなぁと哀れみの目でこっちを見てくる二人。

聡すぎるというのも考えものかもしれない。

 

壁掛け時計を見るともういい時間だ。

そろそろお昼を作る準備するために腰を上げた。

 

「どうしました?兄さん」

 

「そろそろいい時間だと思ってね。お昼を作ろうかと」

 

「あわわ、それならお手伝いします」

 

「いやいいよ、二人はお客さんなんだから」

 

そういって押し止めようとするものの、二人は強い目でこちらを睨みつけてきた。

 

「お客さんなんかじゃありません!」

 

「そうですよ、に、兄さん」

 

「朝だっていつの間にか起きて先に作っちゃってますし」

 

「あわわ・・・手伝わせて欲しいです」

 

うーむどうしよう。

いきなり誓を破りそうである。

旅館の代理主人としてお客様をしっかりともてなすと決めたばかりなのに。

しかし俺の頭にはエプロンを身につけた二人と一緒に台所で料理をする妄想が!

 

「駄目・・・ですか?」

 

俺の決意は上目遣いによって脆くも崩れ去ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さん、上手ですね」

 

「うん、かっこいい・・・」

 

大根を綺麗に桂剥きにしていく俺の姿を見て二人はポツリとつぶやく。

箱にはぶりがあったのでメインをぶり大根にきめ、大根の下準備。

二人にはご飯の準備をしてもらっている。

ちなみにぶりは丸々一匹・・・ではなく切り身だった。

これはなんというか気が利いてはいるが、スーパーで買ってきたのか?!と問い詰めてやりたい。

あと豆腐があったので、こっちは楽に冷奴にするつもり。

これは水の張った桶に涼しげに浮かんでいた。昭和か!

 

ささっとぶりとだいこん、しょうが、水を鍋に入れ火にかける。

火の調節に苦戦しつつ、アクを掬っていく。

 

「どう?そっちの準備できた?」

 

ときどき悲鳴を上げながら作業する二人に声をかける。

 

「はい、お水が冷たくて苦戦しましたが無事準備できました」

 

「あとは火にかけるだけ・・・ちべたかったです・・・」

 

諸葛亮ちゃんは額に汗を滲ませ、ホウ統ちゃんの手は赤くなっていた。

彼女たちには井戸のポンプはなかなか重労働だったのだろう。

まぁ川まで水を組んでくることに比べればまだマシだろうが。

手が真っ赤なのは井戸水が冷たすぎたためか。

 

「きゃ」

 

諸葛亮ちゃんのために出した新しいタオルで額の汗を丹念に拭う。

時折唸り声を上げるが無視して拭いてやった。

 

「これでよし。首元とかは自分で拭いてね」

 

そういって諸葛亮ちゃんの頭にタオルを載せた。

次はホウ統ちゃんを見る。

彼女は先程の俺と諸葛亮ちゃんの様子を微笑ましそうに、そして羨ましそうに眺めていた。

そんな彼女の正面で膝をつき、両手を握る。

柔らかくも、予想通り冷たい手。

少しでも早く体温が戻るように優しくマッサージをする。

 

「あ、あうぅ・・・」

 

彼女はいつもどおり顔を真っ赤にしてうつむき、されるがままになっていた。

いやぁこれクセになるかも。

女の子の手の柔らかさに感動していると横から諸葛亮ちゃんが割り込み俺を押しのけた。

 

「いつまで雛里ちゃんの手を握っているんですか?」

 

笑っているのに怖かった。

彼女ほど才能があれば笑顔で人を恐怖のどん底に叩き落とすことも造作のないことなのだろうか。

 

「ほら、さっさと作りますよ」

 

「はーい」

 

渋々手を離し作業に戻る。

いつの間にか煮え立っていたぶり大根に調味料を適当に入れ落し蓋し中火に調整した。

やはり火加減が難しく、繊細な日本料理は作るのが大変かもしれない。

 

「よし、あとは待つだけだから二人は自由にしてていいよ。なんなら将棋でもやってながらまっててさ」

 

 

「いえ、できればいろいろお話聞かせて欲しいです」

 

「お話?」

 

「はい、ここには私たちが知らないことが一杯あります。知っている範囲でいいので教えてもらえないでしょうか?」

 

正直どうしよう。

彼女たちの真剣な眼差しを見れば、その本気さが伺える。

しかしここにあるものの多くは三国志の時代では未知の技術であり、教えてしまっても良いのだろうか。

未来が変わってしまう、タイムパラドックスだ!とかの危険性がある。

諸葛亮とホウ統が女の子の時点で歴史もなにもあったもんじゃないんだけどね!

 

というわけで知っている範囲でという形で穏便なものだけを教えていくことにしようと思う。

さすがにかまどの原理を教えてもご飯がおいしくなるだけで戦争に影響ないと思うしね。

というか美味しいご飯を食べて、関羽が呂布を討ち取った!とかはさすがにないだろうしな。

 

「じゃあ知ってることだけね。知らないことは勘弁して頂戴な」

 

「「はい、よろしくお願いします」」

 

しかしまぁこの二人の先生役が出来るなんて、とても光栄なことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

寝て、食べて、勉強して、ゆっくりお風呂に浸かって疲れを癒す。

こんな生活を10日ほど続けるとついに彼女たちが切り出した。

 

「私たち、そろそろ行こうと思うんです」

 

「です・・・」

 

「そうか、寂しくなるね」

 

お別れの時だ。

彼女たちにはやりたいことが、やるべきことがあるのだからこの別れは必然だ。

そう初めからわかっていたことだ。

 

「それで北郷さん、一緒に行きませんか?」

 

「その、一緒に来てくれると、嬉しいです」

 

その言葉を聞いて驚いた。

勧誘されるとは、思わなかった。

その言葉に、酷く惹かれる。でも

 

「悪い、俺もやらなきゃならないことがあるから」

 

頼まれたしね、貂蝉に。

名前しか知らないけど、俺を信じてここを任せてくれた、と思う。

なら、ここをきちんと守ることが俺の仕事だ。

 

その否定の言葉を聞き、彼女たちの顔には落胆の色が見えたがすぐさま、仕方ないなといったものに変わる。

 

「そう言うと思ってました。兄さん頑固ですしね」

 

諸葛亮ちゃんがそういい、ホウ統ちゃんが帽子がおちんばかりに首を振る。

兄さん、と言う俺をからかったりすると気にだけの呼称。

それが聞けなくなるのは残念だ。

 

「まぁぶっちゃけ俺ここから出られないしね」

 

努めて明るくなるようにいうと二人も釣られて笑った。

そして二人はひとしきり笑い終えると姿勢を改め真剣な表情をした。

釣られて俺も背筋を伸ばし、先程まであった空気を霧散させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「北郷一刀さん、私たちはあなたに命を救われました」

 

 

俺も二人に孤独から救ってもらった。

 

 

「北郷一刀さん、私たちはあなたに美味しい食事と暖かい寝床をいただきました」

 

 

俺も二人に人のぬくもりをもらった。

 

 

「兄さん、私たちはあなたに安心を与えてくれました」

 

 

俺も二人がいたからこそ、ここで頑張る決意ができた。

 

 

「北郷先生、私たちはあなたに私たちの知らないことをたくさん教えてもらいました」

 

 

俺も二人からこの世界の知識、常識を教えてもらった。

 

 

「ですが私たちにはあなたに返せるものがありません」

 

 

とんでもない。俺こそたくさんたくさんいろいろなものをもらったよ。

 

 

「だから私たちはあるものを受け取ってもらいたいと思います」

 

 

 

 

「私は姓は諸葛、名を亮、字は孔明、真名を朱里といいます」

 

「私は姓は鳳、名を統、字は士元、真名を雛里といいます」

 

 

 

「「どうか、受け取ってください」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女たちは笑顔で旅立っていった。

困難な道だけど、彼女たちの目標が達成できるといいな。

 

さて次はどんな人が来るんだろう。

俺はいつ来てもいいよう、日課を開始した。




最初のポエムっぽいのがひどく恥ずかしい
でもこの程度で恥ずかしがってたらやってられっか!

朱里・雛里編終了 次は誰出そうかな

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