姫ノ湯は森の中にあり、基本一刀はそこから出ることができません
道を進んでも同じところを延々とループし、旅館へ帰ろうと思い道を引き返すとすぐさま帰ることができる という設定。
「孫尚香様~~~~何処え~~~~~~」
遠くから長年付き従っている使用人の声がシャオの耳に入ってくる。
そんな悲痛な叫びを背に虎の周々にまたがりさっそうと駆け出した。
孫家のお姫様ことシャオは絶賛囚われの身・・・所謂人質なのだ。母様が亡くなってから孫家はガタガタになり、援助という形で
袁術の支援を受けなければならなかった。それによって私たちはバラバラになり現在に至るという訳である。
雪蓮姉様は孫家復興のために必死に袁術の客将という名の便利屋としてこき使われ、蓮華姉様は幾人かの家臣と共に厳重に監視。
シャオは日々勉強に追われている。冥琳や祭の小言を聞かなくて済むのは嬉しいが、故郷から離され家族同然の仲間たちとも離され
正直この日々がとても寂しい。
つまりストレスとか様々なモノが溜まっていたわけである。
そんなある日、一人の旅人から面白い話を聞いた。
囚われの身のお姫様をカッコイイ王子様が助け出す、所謂おとぎ話である。
あまりに旅人がリアルに、また面白可笑しく語るため、シャオはそのお姫様を自身と重ねて聞き入ってしまっていた。
そしてすっかりそのおとぎ話にはまってしまい、気分は王子様の助けを待つ、お姫様と化していたのだった。
そして翌日からその努力は開始される。
喋り方、行動、仕草、おとぎ話のお姫様を真似、勉強に至っては文句ばかり言っていた所謂厄介な生徒という姿はなりを潜めた。
どこに出しても恥ずかしくない淑女の誕生である。
やる気になれば大抵のことはできる孫家の血筋が無駄に本領発揮されたのだった。
そしてこの行動によって使用人はすわ何事かと大混乱に陥ったのである。
『孫家の姫君である孫尚香様は、軟禁生活にもめげず立派な淑女であらせられた』
この突然の孫尚香の豹変はすぐさま各地に伝わり様々な憶測が語られる。
孫策こと雪蓮は持ち前のカンを働かせおおよその事情を把握、周瑜、黄蓋を巻き込み大笑いしながら酒を煽りまくった。
巻き込まれた周瑜こと冥琳は馬鹿な親友とシャオのことを考え深いため息をつき、黄蓋こと祭は雪蓮から状況を把握し
堅殿とそっくりだと昔話に華を咲かせた。夢に向かって思い立ったら一直線なあたりがたいそう似ているらしかった。
ちなみに陸遜こと穏はシャオの豹変よりもその経緯である本のことを想い、興奮しっぱなしだったとか。
孫権こと蓮華は姉とは対照的に妹のことをたいそう心配し心を痛めていた。長い人質生活による心の疲れだと思ってである。
また護衛である甘寧こと思春は主のその心配を取り除くべく今にも屋敷を飛び出そうとして同じく護衛である周泰こと明命に羽交い絞めにされ
危うくというところで阻止された。袁術に下手な勘ぐりをさせるわけにもいかないと主に止められシュンとする思春だった。
最近孫権によって見出された新参者である呂蒙は孫尚香のことを詳しく知る訳もなく、さすが孫家の姫君である孫尚香様はご立派な方だと素直に感心していたのだった。
そんなこんなで各地の重臣より孫尚香当ての手紙が届き、その内容は驚愕、心配などで埋め尽くされていた。
挙句、袁術からも心配の手紙とはちみつが届き複雑な心境であった。(袁術側は100%心配だった)
そしてほどなくシャオが爆発した。
元々飽きっぽい性格が災いし、いくら待っても来ない王子様に業を煮やし激しくだだをこねたのだ。
その様子を見て使用人はほっとしたとかしないとか。
シャオは考えた。
そしてふと母様のある言葉を思い出す。
『孫家なら自ら動き皆の指針となれ』
江東の虎として前線に立ち、指揮をとっていた孫堅こと母様。
戦場では最前線にて自らの手で敵を切り裂き、道を切り開いてゆく雪蓮姉様。
ならばシャオも自ら動かなきゃ、そういった思考に行き着くまでに対して時間はかからなかった。
そして冒頭に戻る。
使用人を撒くべく適当に走らせる。
しかし相手は馬、平原などではすぐさま追いつかれてしまうだろう。
仕方なく、視界に見えた森のなかに飛び込む。
道がある訳もなく無造作に生えた木々のあいだを進む。
虎の周々にとって森で馬に追いつかれる道理はなかった。
だんだんとか細くなる使用人の声を振り払うように周々の背中を叩き速度を上げた。
「もーここどーこーなーのー!」
追っ手を振り切ったのは良いがいつの間にか完全に方向がわからなくなってしまった。
彷徨い続けてはや数刻、体中に細かい擦り傷や切り傷は出来るわ、お腹がすくわで目に薄らと涙を浮かべる。
ついには周々の背から飛び降り座り込んでしまった。
手短にあった木を背もたれにし、完全に休む体勢になると傍らに周々が体を寄せ座り込み、まぶたを閉じて眠りについた。
長い間孫尚香を背に載せ走り続けた周々の体力もさすがに限界を迎えたのだろう。
「ごめんね、ありがとう、周々」
そっと周々の頭を撫でると返事をするかのように尻尾をゆっくりと左右に振り返した。
さてこれからどうすればいいのか。
一度座り込むことで冷静になった頭で今後の展開を想像する。
急いで旅立したことが災いし、食料などは持っていない。
一応森であるから探せば何かしらあるかもしれないが、あいにく食べ物であるか分別することはほとんどできない。
「雪蓮姉様なら野生のカンとか言ってなんとかしちゃうんだろうなー」
あの姉ならばどんな逆境でも生き残るだろう、それほど雪蓮姉様のカンは恐ろしいのである。
同じ孫家の血を引いているのにこの違いはなんなのだろう。
「そういえばうちって年齢と胸の大きさが比例してる・・・?」
雪蓮姉さまや冥琳、祭はいわずもながら穏もとても大きい。
蓮華は胸よりもお尻の方が・・・ともあれ胸も先に述べた4人に比べれば劣るが小さい訳ではない。
思春と明命は・・・シャオよりもちょっとだけ上。
他の家臣たちもどちらかというと比例しているような気もする。もちろん例外もいるが。
「やっぱり年増の方が・・・ヒッ」
年増、と口に出した瞬間言いようもない怖気が身を襲う。
これ以上考えるのはやめたほうがいい気がし、話を元に戻す。
助けを待つ?
この森に逃げ込んだのは使用人が見てるし、なにか目印のようなものを立てればあるいは。
でもそうすると連れ返されてしまうだろうし、目的である王子様を探し出すことができない。
実際命の危険のある現状でも、目的を優先しようとするのが孫家の血であった。
ではあてもなく彷徨う?
それでは始めに戻るだけだ。
「あーもーどーすればいいのよ」
気持ちよく眠りに入った周々に抱きつくように倒れこむ。
暖かい日差しと周々の体温、そして時折吹く心地よい風。
全てが合わさり緩やかな眠気を誘う。
そしてそのまま空腹と喉の渇きを忘れ、夢の中に落ちていった。
さて私北郷一刀は命の危機に瀕しています。
事の起こりは些細なことでした。
朝の清々しい空気を吸って今日も誰も来ないけど頑張ろう、そう気持ちを入れたところあることに気づいたのです。
最近運動していない。
朱里ちゃんと雛里ちゃんを見送ってから早数日、この旅館の捜索や掃除も済みやることがなくついだらだらと。
なにせ遊戯はあるものの一人でやるものでもないし、温泉は気持ちいいけどそれで時間をつぶせる訳もなく。
食材も箱に毎日きちんと補充されるため狩りに出かけるとかサバイバル的なことをしなくて済みます。
つまり、身体動かすことがねぇ!
てか前言の頑張ろうって何を頑張る気だったんだ俺!だらだらすることか?!
というわけでランニングに出かけた次第です。早朝気持ちいいしね。
ただ残念なのはいくら走っても基本的に景色が変わらないこと。
いくら走っても走っても同じところを延々とループするわけで正直少しつまらない。
流石に道を外れて森の中を突き進むのもどうなるか怖いためできずにいるのだが。
だいたい腕時計で一時間、気持ちの良い汗をかき、温泉でさっぱりしたいと思い始めた頃。
戻るために後ろを振り向くと。
白い虎が俺の目の前に鎮座していた。
別に虎を初めて見た訳ではないが、以前見た場所は動物園であるわけで。
つまり俺と虎のあいだには柵もしくは鉄格子があった。
それが今はない。
人は、自身の安全が確保されている状況ならば目の前の虎に喜んでいただろう。
しかし今は檻に囚われていない虎が目の前にいる現在の状況である。
混乱、動揺した頭でひねり出された答えは
「ここは普通クマさんじゃね?」
どうしようもないことだった。
脳内で森のくまさんがBGMの如く流れる。
あ~る~ひ~
もりのな~か~
とらさ~んに~
であ~あ~た~
まよいのも~り~の~な~か~
とらさんに~で~あ~ぁ~た~
って替え歌作って現実逃避してる場合じゃねぇ!
こんなバカなことを考えている今も虎はこちらをじっと見つめている。
虎から逃げる方法って何かあったっけ?
え?出会った時点で試合終了?とある監督の名言否定すんなっ。
やがて虎は一歩一歩確実にこちらに近寄ってくる。
まさに死神の足音が聞こえてくるかのようだ。
正直もう逃げられねぇ。
すんすんと虎が俺の匂いを嗅ぐ。
俺、男だし体は引き締まってるし美味しくないって。
心の中で呟くも残念ながら無意味だ。
虎はまるで品定めをするかのように俺の周りをゆっくりと回り、そして俺の足を噛んだ。
歯が皮膚に突き刺さり、肉を食い破る。
血管が破れ大量の出血、そして傷口から骨が見える。
やがて激痛に意識を失うのだろう。
というところまで幻視して、実際のところは・・・
甘噛みだった。
絶妙な加減だった。
さすがに尖った歯もあり少々痛みもあったが、食いちぎるような強さには程遠い。
そのまま足を引っ張られる。
そこで俺はあることにようやく気がついた。
この虎、首に金属の輪、所謂首輪をつけていたのだ。
「まさか、飼い犬ならぬ飼い虎?」
その言葉を理解したのかどうかは定かではないが、噛んでいた足を放すと付いて来い、というかのように威風堂々と歩き出した。
ついて行くかどうか悩むとその気配を感じ取ったのか首だけをこちらに向けじっとこちらを見つめ続ける。
「わかった、わかったからこっちを睨むのはやめてくれよ・・・」
道を外れ、藪の中を堂々と突き進む虎のあとをついて行く。
よくよく考えれば獣特有の泥臭さというかそういうものが薄いし、よく見ると毛並みもツヤツヤしている。
こんなことにも気づかないなんてよほど慌てていたのだろう、まあ虎に出くわしたんだから当たり前っちゃ当たり前の話だが。
やがて少し開けた場所に出てた。
先程までゆったりと歩いていた虎が急に走り出す。
その向かった先には何か森という景色になにか違和感のある物体があった。
少女だった。
褐色の肌に桃色の髪、服はヘソ出しミニスカートでやたら露出が激しい。
体を大の字にして眠る姿は可愛らしい寝顔と相まってとても和やかなムードを醸し出す。
その可愛らしい姿に見とれていると、虎が彼女の頬をペロペロと舐め出す。
「うう、うー、うぅ・・・」
起きない。
いやいやと首を振り、体を半身にして顔を手でガードする。
すると負けじと虎は今度はペロペロとお腹を舐める。
唾液が太陽の光に反射してちょっといけない気分になりそう。エロい。
「もぉ~周々~、せっかく王子様が私の・・・」
彼女は手で周々と呼んだ虎を跳ね除け、寝ぼけたように目をこすりながら起き上がる。
いい夢を見ていたのだろうか、機嫌の悪そうな声で起こした虎を非難した。
そして全て言い切る前にぱちくりと開いた目と目が合う。
彼女は呆然としていたのは一瞬、花が咲いたように満面の笑みになる。
そして軽やかに飛び上がったと思うとこちらに駆け出してくる。
あまりにも自然で滑らかな動きに俺の体は動かず。
豪快なタックルをくらい、そのまま彼女と一緒に地面に倒れ込んだ。
「いったたっ、いったいなんな・・・」
「王子様?王子様だよね?シャオの王子様だ!」
いつの間にかマウントポジションを取られ、キラキラした目で俺のことを王子様と断定する少女。
シャオというのは恐らく真名だろう。中国でそんな読みがないわけじゃないけど迂闊に呼ぶのは危険なのである。
「あのね、あのね、シャオの名前は孫尚香。江東の虎の娘なの。気軽にシャオって呼んでね」
と思っていたら速攻真名を許された。いやいやちょっとまって。
「孫尚香?!それにシャオって真名だよね?いきなり人に真名を預けちゃっていいの?」
「シャオの王子様なんだから、大丈夫」
史実では孫尚香は劉備の奥さんになってたはずだから性別はおっけー。
しかしなぜか出会ったばかりで好感度MAX状態?真名まで渡されちゃったし。
俺の胸に頬をすり寄せ完全に抱きつく形になっている、所謂熱い抱擁をされている。
「いや、ちょっとまって。とりあえず離れて。落ち着こう君」
肩に手を当て、無理矢理引っペはがす。
タックルされた時にも思ったが軽い。だからこそ無事だったわけだが。
「む~、もうちょっと優しくして欲しいな。あとそれとシャオでいいよシャオで。それと王子様のお名前は?」
軽く睨んだあとすぐに笑顔になった。
コロコロと変わる表情が見ていてとても面白い。
「俺の名前は北郷一刀。あとごめん俺には真名はないんだ」
「そっか。なら一刀って呼ぶね」
少し考えたあと笑顔でそういった。
小さく一刀って何回もつぶやいているのが聞こえる。自分の名前を呼ばれていると思うと少し恥ずかしい。
「とりあえずさっきから言ってる王子様って?」
その恥ずかしさを吹き飛ばすもとい終わらせるべく先程から疑問に思っていたことを尋ねる。
「シャオはね、いつまでたっても王子様が迎えに来てくれないから探しにきたのっ!
それでね、森に入ったんだけど迷っちゃって・・・一刀はそんなシャオを助けに来てくれたんでしょ」
「あー、うん、なるほど、なんとなく把握した」
つまり勘違いなわけね。
俺はこの森から出ること叶わず、助けに行くことなんかできないためどうあっても王子様とやらにはなれない。
今回はたまたま彼女がこの森に来たのとこの虎に連れられやってきたという偶然が重なった結果。
「うーん、ほんと申し訳ないんだけど俺は君の探している王子様なんかじゃないよ」
「そんなことない、一刀はシャオの王子様よ。間違いないわ」
そう言って胸を張ってドヤ顔。
反論はいろいろあるけど、ここまで本気の彼女をどうやって納得させるか考えているとどこからともなく音が聞こえる。
きゅぅぅぅぅ~~~~~~~~
目の前にいたシャオがバッと手でお腹を隠す。
「い、いまのはシャオじゃないよ。しゅ、周々紛らわしい音出さないでよっ」
真っ赤になって言い訳して、周々と呼ばれた虎に責任を擦り付ける。
まるっきり子供だな、と思いながらも機嫌を損ねられると面倒なことになりそうだ。
「そうだね、詳しい話は後でするとしてとりあえずうちに寄っていかないかい?
ちょうど戻たら食事にしようと考えていたところだからさ。周々と一緒にどうだい?」
「そ、そうね。周々もお腹減ったって言ってるみたいだし、ご一緒させてもらうわ」
何故か叱られてしょんぼりしている周々の頭を撫でたあと、俺の腕に絡みつく。
「さ、さっさと行きましょ」
道なんかわからないだろうにグイグイと俺の手を引っ張ってゆく。
「はいはい、分かりましたよお姫様」
これが彼女、シャオとの出会いだった。
かなり間が空いてしまい申し訳ありません
実は本来ならば別の人々が来る予定で書いていたのですが急遽変更
孫尚香様に来客していただきました
実はあまり口調とか覚えていないしかなり想像の部分があるため
食い違いというかちがくね?と思ってしまう部分があるかもしれません
そういった指摘でもいただけるととても嬉しいと思います
初感想ありがとうございます これからも頑張っていきたいと思います