自分の手で締め切った扉も、鍵はいつも開いていたんだよ。でも誰も訪れて来てはくれなかった。
それがどうしてかは分からなかったけれど、分かったこともある。
楽しい事も嬉しい事も、向こうから迎えに来てはくれない。
こっちから会いに行かなきゃ、顔を合わせてくれないのだ。
「おはよう美咲!」
「ふわぁ……おはようこころ。朝から元気だねぇ……」
「えぇ!だってこうして美咲と朝から会えたんだもの!」
「っ……、大袈裟だって……」
「そうかしら?わざわざ美咲が来そうな時間に合わせたんだもの、これくらい喜んでもバチは当たらないと思うわ」
「……か、勝手にすれば」
こころはいつもこうだ。こうやって、真っ直ぐに来る。逃げさせてくれない。
だから、こころに出会ってから、こころに引っ張られて、不本意ながら少しだけ、嘘が減った。
自分から目を逸らさないようになった。
『手に入らないものならいっそ望まない』とか言って諦める言い訳は、もう捨ててしまったんだ。
「今日はどんないいことがあるかしら?」
「さぁ、どうでしょう……。悪いことが起きるかもよ?」
「それは考えてなかったわね……。でもそれならそれでいいわ!だって、悪いことの後には必ずいいことが起きるでしょう?それが今日か明日かは分からないけど、いつかは起きるんだもの。その前触れなんだから、悪いことでもいいの!」
「……なるほどね……」
美咲はいつも心配してくれる。最初はどうしてそんなに心配性なのか分からなかったし、もっと楽しい事を考えてくれればいいのにって思っていた。今までそんな風に思ってくれる人なんて居なかったから。
でも少しずつ、心配するのは彼女なりの思いやりがあってのことって分かってきた。それが分かり始めると、あぁ、美咲はこんなに私のことを思ってくれてるんだなって思って、嬉しくなった。
美咲との出会いを知った私は、もしかしたらこの先別れや孤独を知ることになるかもしれない。
それでもまた、人を好きになってしまうと思う。
囁いても叫んでも届かないこともあるかもしれない。
でも、いつしかまた伝えたくなってしまうと思う。
拒絶の数も失望も増えるかもしれない。
それでもまた、言葉を紡ぐと思う。
なぜって?
だって、今までのこともこれからのことも、君にまだ伝えたいことばかりなのだから!
「あ、見て見て美咲!」
「んー、どうしましたかこころさん」
「水たまりが凍ってるわ!スケートができるかもしれないわね!」
「あーはいはい、滑って転ばないようにねー」
こころは何か見つけると、すぐ私に教えてくれる。それは大抵何でもないものなんだけど、きっと私一人では気にも留めなかったものだ。それこそ、こころに出会う前の私なら絶対に見つけられていない。
一人が好きなんだって豪語して。
今にして思うと、それもきっと本当なんだけど、でも一人で居たかったわけじゃなくて。
『君がここにいてくれてよかった』
なんて、こころには絶対言えないけど。言えないけども。そんなセリフもきっと、嘘偽りはないって言えるから。
臆病な自分を嫌って、ひたすらになって隠して。隠せていると思っていたのに。
こころに、それでも見抜かれてしまった。
それからこころを見てると、時々思うようになった。
笑われても恥かいても格好つかなくても、
下手くそな嘘は吐かない方がいいなって。
もちろん不安は消せやしないし、悲しい結末もあるだろう。
それでも、期待したい未来があるから。
わたしはこころに着いて行くんだ。
それにさ。
今までのこともこれからのことも、君にまだ話足りないことばかりだ。
「スケートをするにはちょっと小さかったわね……。そうだわ!大きなプールに水を張ってスケートリンクにしましょう!それでその上でハロハピみんなで演奏するの!どうかしら!」
「いやー、流石に滑りながら演奏はちょっと聞いたことないし……」
「なら、私達が最初になればいいじゃない!」
そうだ、目の前の暗闇は前人未到の証拠なんだ。誰もやったことがないのなら、私達がその初めてになればいいんだ。
「いやー、流石にスケートはミッシェルには無理なんじゃないかな……」
「そうかしら?ダンスだって上手に出来るんだからやれそうな気がするけど……」
「無理!私もスケート出来ないのにミッシェルじゃもっと無理だから!」
「……?そこに関係があるのか分からないけど、美咲はスケート出来ないの?」
「出来ないっていうかやったことない。けど出来る気もしないっていうか……」
「それは勿体無いわ!そうだ、今度一緒にスケートをしましょう!きっと出来るようになって楽しくなるわ!」
「……あー、これ拒否権なく突然発生するやつだな……」
美咲と話していると、美咲のことがどんどん詳しくなる。だから、私は美咲と話がしたいの。
そうだ、僕の知らなかった君に会いに行くんだよ。
誰も訪ねて来やしないなら、こっちから会いに行かなきゃ。
「まぁ、こころがやるっていったら仕方ないからな……」
「楽しいのよ、スケート!こう、氷の上をスーッと滑って、時々クルッと回るの!氷の上でしか出来ないことばかりなのよ!」
「こころさんや、流石に初心者の私にそのレベルを求められても……」
こころに出会うまでに、いくつも出会いと別れを知って、孤独の意味を知った。
それでもこころと出会って、また人を好きになった。
囁いても叫んでも届かなくても、こころを見てると、いつしかまた伝えたくなってしまって。
拒絶の数は増えるし、失望の数もきっと増えるよ。
それでもまた、こころと一緒に、言葉を紡いでいきたい。だってやっぱりさ。
今までのこともこれからのことも、君にまだ話足りないことばかりだ。
「「ねぇ」」
「あら、なにかしら美咲」
「こころこそお先にどうぞ」
「そう?それじゃあ……あら、何を言おうとしたか忘れてしまったわ」
「なんじゃそりゃ……」
「それで美咲は?」
「え?あぁ、えっとね……、……ごめん、私も何言うか忘れた」
「こんなこともあるのね!でもいいわ、思い出したらすぐに美咲に言うから!美咲も思い出したらすぐ言ってちょうだい!」
「あーうん、多分大したことじゃないと思うけどねー」
『『君も話してほしいな』』