みさここ離別世界線の再会イメソンを書き起こしました
「それじゃあ行くわよ? ハッピー! ラッキー! スマイル! イェーイ!」
こころの掛け声を合図に、いっせーのーせで、ステージへと踏み出して行く。
そこから見える景色も聞こえる音も何も、あたしたちはまだ知らない。
でも一線越えて、ライブを終えて振り返ると、演奏前の不安だった気持ちはもうない。
ライブをした後の高揚感とか達成感を超えるものを、あたしたちは何もまだ知らなかった。
うだって、うだって、うだってく。
ライブをするとき、ステージはいつも熱気に包まれる。この熱気に触れて、煌めく汗が溢れる。
紛れもなく、それはあたしたちの青春だった。
「……夢か……」
布団の中、起き抜けの働かない頭でぼんやりと考える。最近、あの頃の夢をよく見る。
世界を笑顔に、なんて御伽噺に付き合っていたあの頃。
あたしの人生の中で、1番密度の高い、色々なことを経験したあの頃。
覚えてないことも、たくさんあっただろう。それこそ、誰も彼もシルエットに見えるくらいには、色々なことをしたから。
だけどあたしは、大事にしてたそいつら、忘れたフリをしたんだよ。
だって、そうでもしないとさ、あんたが居ない世界、無理だったから。
でもそしたらさ、なにもないんだ、あたし。笑えるね。
なんだか昔が恋しくなって、あたしは久し振りにあの街に行ってみることにした。
自宅から徒歩10分の最寄り駅から、電車に乗り込む。日曜の昼下がり、電車に揺られることしばらく。
そうして辿り着いたこの街は、あたしが離れた時と何ら変わらず存在していた。
特に当ても無く、歩き回る。通っていた学校、よく行った商店街。
街並みはほとんど変わっていない筈なのに、何故だか昔とは違って見えた。
それはきっと、隣で楽しいことを探す彼女が居ないからだろう。
結局こんな気持ちになるのが分かってたのに、なんで来ちゃったんだろう。
そう後悔して、帰るために駅へと足を向けた時だった。
「みさ、き?」
もう二度と聞くことはないと思っていた、いつも楽しげな、あの声で呼ばれたのは。
「……こころ?」
いっせーのーで、あたしたちは思い出していた。
あたしたちは、世界を笑顔にする御伽噺を叶える、何もかもを欲しがった。
でもいつまでもそれを追い続けることは出来なくて。
わかってるって、あぁ気づいてるって言っていたけど。
時計の針は、日々は、止まらなかった。
奪って、奪って、奪ってく。
こころが居なくなってからの日々は、空っぽで、なんにもなく。
流れる時と記憶は、遠く、遠く、遠くになって。
『ねぇねぇ美咲!』
『はいはい、なんですかこころさん』
覚えてないことも、たくさんあっただろう。誰も彼もシルエットに見えるくらい、一緒にいろんなことをした。
でもいつかは終わる。その終わりが怖くて。恐れてやまぬこと、知らないフリをしたんだよ。
だってそしたら、怖いことなにもないから。笑えるね。
「全然連絡なかったけど、元気にしてた?」
「えぇ、元気にしてたわ。美咲も、変わりないようで安心したわ」
あたしたちは立ち話もなんだから、ということで近くの喫茶店に入った。この喫茶店もあの頃と変わっていないが、あたしたちの知る人はいないようだった。
「それにしても、こんな偶然あるんだね……」
「えぇ、私も驚いたわ。だって何年か振りにこの街に来てみたら、偶々美咲と出会うなんて!」
「ほんとびっくりだよ……。……高校卒業以来、だよね」
そこで自然と、トーンが下がる。
「……えぇ、そうね」
「……今は、何やってるの?」
「弦巻家の当主として、色々な所に行って、色々なことをしてるわ」
「……そっか」
「……えぇ。……ねぇ、美咲」
こころが、思い詰めた様子で言った。
「なに?」
「……私ね、ずっと後悔してることがあるの」
「……後悔?」
「そう、後悔」
「……ねぇ、美咲?」
「もし私があのとき、一緒に世界を笑顔にしに行きましょうって言っていれば、あなたは着いて来てくれた?」
それは、あたしにとっても後悔で。
だから、逃げないで答えようと思った。
「……あたしは、できることならさ」
「……えぇ」
「ひらりひらりと舞ってる木の葉みたいに、憂うことなく焦燥なく過ごしていたかったけどさ」
「えぇ」
「……付き合うつもりだったよ、世界のどこまでも」
「……美咲」
「覚えてないこともさ、たくさんあったけど。……こころが教えてくれたんだよ? きっと、ずっと、変わらないものがあるって。……消えないシルエットだよ、アンタは」
話しているうちに、涙が溢れて来た。こんなんじゃ世界を笑顔になんかできないな、って思った。
「……嬉しいわ。そんなこと思ってくれていたなんて」
「……ねぇ、なんで、あのとき言ってくれなかったの?」
「……怖かったのよ、私。臆病だったから。もし断られたらどうしようって……」
「……そのくらい頑張ってよ、馬鹿……もう今更、遅いよ……」
「……えぇ、本当に、馬鹿だったわ……」
「……じゃあさ、こころ」
「何かしら?」
「これからは、ちゃんと連絡、してよ。……時々は、あたしもするからさ」
「……美咲……。……えぇ、もちろん!」
「……大事にしたいもの持って、大人になるんだ」
「え?」
「どんな時も離さずに守り続ければ、いつの日にか、なにもかもを笑えるよ」
「……えぇ、えぇ!きっとそうね!」
そうして、2人笑いあった。
ひらりとひらりと舞ってる、木の葉が飛んでゆく。