八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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どうもさっき六話と全く同じのを投稿してしまったみたいでして......
改めてこちらどうぞm(__)m


ゆきのんのことが好きで好きでもうどうしようもない八幡の話

 突然だが、俺は人に素直な好意を示すのが苦手だ。

 比企谷八幡と言う人間を少しでも知っているのなら、それは恐らく周知の事実だろう。

 捻くれていて腐っている。それが俺と言う人間に対する評価なのだから、そんな捻くれた俺が素直な好意を示すなんて出来ないのは小町が世界一可愛いのと同じくらいに明らかだ。

 そんな俺が、殊更に素直になれない相手がいる。

 名を雪ノ下雪乃。

 俺の好きなやつで、俺の恋人で、宇宙一の美人で、宇宙一可愛いやつ。

 そして今、俺の目の前で、唇同士が触れ合いそうな距離まで近づき

 

「ねえ比企谷くん。私のこと、好き?」

 

 意図の読めない質問を投げかける女だ。

 

 その質問に対する答えなんて、俺は一つしか持ち合わせていない。が、それを口に出せるかと言えばまた違うのだ。

 理由は二つほど。

 まず一つが、冒頭に説明した通り。素直じゃない俺が、更に素直になれない相手に、素直な好意を言葉で示せと言われた。

 いや、これに関しては厳密には素直になれない、と言うことでもないのだが。それを今言った所で言い訳じみたものになるだけだろう。

 そして二つ目。

 こればっかりは俺にはどうしようも無いのだが、雪ノ下が近過ぎる。しかも真顔。めっちゃ無表情。いつもの彼女は俺同様、素直なんて言葉からかけ離れた位のツンデレさんだった筈。それこそ、こんなに距離が近ければ瞬間的に茹で上がるくらいに。そんな彼女の可愛い様子を見るのが俺の密かな楽しみでもあったのだが。

 残念なことに、今の雪ノ下に照れなんて要素は見当たらない。寧ろ、俺がなにかしら粗相を働いた時に詰問する時と似ている。

 え、俺なにかやらかした? ヒッキーまた粗相を働いたの?

 俺の優秀な脳はここ最近の記憶を遡るも、それらしいものは見当たらない。

 

「ゆ、雪ノ下......? いきなりどうし」

「私のこと、愛してる?」

 

 取り敢えず距離を取ろうと這うように後ろに下がったら、更に距離を詰められて、どころか体勢を崩した俺の胸の中にポスンと収まってきて、上目遣いに問いかけてくる。

 破壊力が尚のこと上がってしまった。

 ついでに質問の難易度も上がってた。

 ふわりとサボンの香りが鼻腔を擽り、全身に雪ノ下の柔らかい感触と体温が伝わる。

 邪な感情が脳裏に過るが、理性の化け物さんがそれを捩じ伏せてくれた。今はまだ太陽もこんにちはしてる時間だし、昨日の夜もハッスルしちゃったし。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 今は、目の前の女の真意を問いたださねば。

 

「お前、マジでいきなりどうしたんだ?」

「いいから、質問に答えて」

 

 答えなければどうなっても知らないぞ、と。

 目が言葉以上に雄弁に語っていた。

 先も述べた通り、この質問に対して俺は素直に答えられない訳ではない。

 答えられない理由は別にある。

 だが、今はその理由を押し退けてでも、彼女の質問に答えるべきだろう。

 

「好き、だ、ぞ......」

「言葉が違うわ」

「......愛してます」

 

 自分でも聞き取れるかどうか怪しい程の声量となった。マジでカッスカス。無声音かって疑われても問題ないくらいカスカス。俺のカスさ加減と同じくらいカスカス。

 しかし、この密着した状態で雪ノ下が聞き逃す筈もなく。

 そう、と小さく、けれど俺よりも大きな声で呟いた彼女は、不意に俺の唇に自分のそれを寄せてきた。

 頭の中は疑問符だらけになっていたのだが、口先にツンと何かが当たる。それが何なのか察して、俺は彼女の舌を自分の口内に迎え入れる。

 ネットリと俺の舌を絡め取って来たかと思うと、次に唾液を流し込んで来た。俺も負けじと自分の舌で彼女の舌を嬲り、同じように彼女の口内に唾液を流す。

 さっきから行き場を失ってふよふよと漂ってた俺の両手は、自分でも気がつかないうちに雪ノ下の背中に回され、しっかりと彼女を抱きしめていた。ちょっと抱きしめる力を強めるのと同時に、今度は俺が彼女の口内に舌を侵入させる。

 んんっ、と甘い声が直接脳まで届けられた。

 って、ちょっと待ってちょっと待ってお姉さん。

 古いか。

 そうじゃなくて。

 え、これもしかしなくても最後まで行っちゃう感じ? マジで? 嘘でしょ? そもそもどうしてこうなってるのかもイマイチ理解出来てないんですけど。

 俺が脳内をハテナマークで埋め尽くしていると、雪ノ下は息が続かなくなったのか、顔を離していく。

 互いの間にかかるアーチが部屋の照明で卑猥な輝きを見せる。彼女の口の端からも唾液が垂れており、それを俺のシャツで拭ってから体も離していった。

 っておい。俺のシャツで拭くなよ。

 

「これだけは言っておきたいのだけれど」

 

 ふぅ、と一息ついて立ち上がった雪ノ下は、俺を見下し頬に若干の熱を伴ったまま、口を開く。

 

「あなたに好きと言われたら、思わずこんな事をしてしまう位には嬉しいのよ」

「お前な......」

 

 さっきからずっと真顔だった雪ノ下が、ここに来て会心の笑みを浮かべ、俺の心を撃ち抜くのに十分過ぎる威力を持った言葉を発した。

 このタイミングでそれはズルくないですかね......。

 

「と言う訳で比企谷くん」

 

 俺が二の句を告げるよりもまえに、雪ノ下は宣言する。

 

「今日は少しお酒を飲みましょう」

 

 ??????????????

 再び俺の脳内がハテナマークで埋め尽くされた瞬間だった。

 

 この時、雪ノ下の口元が僅かに歪んでいたことに気がつかなかった。

 それが、今日の俺の一番の失敗だったのだろう。

 

 

 

 

************

 

 

 

 

「雪乃ぉ......」

「ふふ、なぁに?」

 

 私の隣で、私に枝垂れがかる彼。

 普段なら決して聞くことが出来ないであろう甘えた声で、私の名前を呼ぶ。

 普段は行為の最中くらいでしか、私のことを名前で呼ばないのに。

 

「愛してる。愛してるぞ雪乃......」

「ええ。私も愛してるわよ、八幡」

 

 彼の囁きに微笑みながら答えると、彼はふにゃりと頬を緩みせた。成人男性が浮かべる笑顔とは思えない。

 私までも彼を下の名前で呼んでしまうのは、目の前のテーブルに置かれた一升瓶のせいだろうか。そう言うことにしておきましょう。

 

「本当に、大好きなんだ......」

「知ってるわ」

 

 比企谷八幡と言う人間を知っている人たちがこの光景を見たら、一体どんな反応をするだろうか。

 恐らく、大半の人が偽物だと疑うに違いない。

 しかし、私に甘えてくる彼は間違いなく私の愛する恋人であり、あの捻くれ者と名高い比企谷くんだ。

 

 そもそも、どうしてこんな事になってしまっているのか。

 事の発端は私の小さな、ともすれば、本当にどうでもいいような悩みだった。他人から見れば、馬鹿馬鹿しいと笑い飛ばされるような。

 比企谷くんが、中々私に好きだと言ってくれない。

 そんなちっぽけな悩み。

 先に述べた通り、ベッドの上だと、素面では断じて言えないような睦言を互いに交わし合っている。

 しかしどうしたことか。冷静に考えて見ればここ数年、ベッドの上以外で聞いたことがない事に気がついてしまったのだ。

 彼は素直ではない。これはもう分かり切った事だ。伊達に彼の恋人を何年も続けていない。好きだとか愛してるだとか、その類の言葉をなんの躊躇いも無く発するような性格ではない。

 けれど、それと私の心とは別問題だった。

 そんな悩みを、私はあろう事か姉に打ち明けてしまった。

 散々弄られてしまったあの時のことを思えば後悔しかないが、しかし同時に、心強いアドバイスも貰った。

 

『比企谷くんはねぇ。ああ見えてお酒に弱いのよ。酔わせちゃえば彼の本音を引き出せるかもよ?』

 

 何故姉さんがそれを知っているのかは兎も角として、これはとても大きな情報となった。

 彼と一緒にお酒を嗜んだ事なら何度かある。

 けれど、その時は決まって由比ヶ浜さんと平塚先生が同席しており、直ぐに酔って笑いが止まらなくなる由比ヶ浜さんと、飲み過ぎて気持ち悪くなる平塚先生の介抱があるため、私も彼も限界まで飲んだことはない。

 私は即座に父に頼んで、それなりの値段の日本酒を購入。

 今日、実行に移したと言う訳だ。

 飲み出す前のあれは、まあ、そう言う気分だったと言う事にしておきましょう。

 ベッドの上でなければ酔ってもいない素面の彼から、一度だけでも聞いておきたかったし。

 

 いやはや、しかし。

 驚くくらいに姉さんの提案してくれた作戦は効果的だった。

 私はそれなりにお酒に強い方だったらしく、私がほろ酔い気分になって来た辺りには彼は既に出来上がっていた。

 

「八幡」

「なんだぁ......?」

「愛してるわよ」

「俺も、愛してるぜぇ......」

 

 彼の口から漏れる愛の囁き、その一つ一つを聞くたびになんとも言えない幸福感に満たされる。

 分かっている。これは、私の醜い欲望を満たすだけに過ぎないのだと。

 けれど、裏表のない彼の言葉と、ふにゃりと緩められた顔と、甘えるようにじゃれついてくる彼を見ていると、そんな事どうでも良くなってくる。

 ダメね、私も酔ってしまってるかもしれないわ。

 

「本当はなぁ......、好きだとか愛してるだとか、あんまり言いたくないんだ」

「それは......、どうして?」

 

 突然聞こえて来た言葉に、思わず息を飲む。

 果たして、彼のその真意はなんなのだろうか。

 もしも、もしも今こうして囁いてくれている言葉が全て彼の虚言だと言うのなら。

 私よりも好きな相手がいるのだとしたら。

 さっきまで幸福感のみに包まれていた筈なのに、途端に不安が襲う。

 けど、その不安は他の誰でもない、彼が継ぐ言葉で払拭された。

 

「そうやって言葉にしたら、なんだかとても安っぽくなっちまう気がして、本当は、言葉に出来ないくらい、お前のことが好きで、愛してて、もうどうしようもないくらいなのに、それが、形を持った瞬間に崩れそうで、怖いんだよ......」

 

 いつの間にか彼の手が私を囲むように回され、そのままギュッと抱きしめられた。

 と言ってもその様は、まるで、何かに恐れを抱いて、怯えるかのように母親に縋り付く子供のようだ。

 そんな彼を安心させるように、私は彼の頭を胸に優しく抱く。

 

「大丈夫。大丈夫よ。私も、同じ気持ちだから。あなたがとても好きで、もうどうしようもないくらいに愛してて、だから、その実感が欲しくて......。でも、あなたはそこに恐れを見出してたのね」

「ゆきの......」

「何も怖がらなくてもいいの。私は、ずっとそばにいるから」

「..................くぅ」

「あら?」

 

 腕の中から聞こえて来たのは、なんとも可愛らしい寝息だった。

 どうやら眠ってしまったようだ。

 とても安心しきった顔で、すやすやと寝ている。

 

「私にこれだけ言わせて、自分は寝てしまうだなんて。勝手な男ね」

 

 言葉とは裏腹に、クスリと微笑みが漏れてしまう。

 少しゴワゴワとした髪を撫でてあげる。

 それにしても、良いものが聞けた。

 多分、私は今、彼と出会ってからどころか、人生で一番幸せを感じているかもしれない。

 

「ふわぁ......。私も、少し眠くなって来たかしら......」

 

 酔いが回っているのもあるし、彼の熱のこもった体を抱きしめているのもあるだろう。

 少しとは言ったけれど、かなり眠たい。

 

「愛してるわ、八幡。今度は素面の時に聞かせてね?」

 

 彼の首筋に顔を埋め、私も眠りについた。

 

 

 

************

 

 

 

『雪乃ぉ......』

『ふふ、なぁに?』

『愛してる。愛してるぞ雪乃ぉ』

『ええ。私もよ、八幡』

 

「あの、雪ノ下さん?」

「なにかしら」

「これは、一体なんでありましょうか?」

「なにって、昨日お酒を飲んだ時に起こった一部始終だけれど」

「一応聞くけど、これ、俺?」

「あら、ついに自分の姿すら分からなくなるくらいに目の腐敗が進んでしまったのね......。でも大丈夫よ、そんな八幡でも私は愛してあげるから」

「んぐっ......。なんでいきなりそんな素直なんだよ......」

「さあ、何故かしらね」

 

 あなたが怖くて愛を紡げないと言うなら、その代わりに私が紡いであげる。

 それだけあなたを愛してあげる。

 だから、気が向いたらでいいから。

 また、愛してるって言ってね?

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