八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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微糖目指して書いた八雪



雪の降る日は

 雪の日は少しテンションが上がる。

 日本の全国民が知るように千葉はあまり雪が降らない。だからこそだろうか。日常とはかけ離れた非日常の景色が外に広がるように感じてしまう。

 雨と違い、雪と言うのは謎のプレミア感を感じてしまうのだ。雪の日だからこそ、雪が積もったからこそできる事だってある。雪合戦だったり、雪だるまを作ったり、カマクラを作るのは流石に難しいけれど。

 なんにせよ、雪の日は少しだけテンションが上がるのだ。

 

 雪の日は少し寒い。

 実際の気温で比べてみるとどうかは知らないが、体感温度は寒く感じてしまう。

 雪が降ると常よりも温度が低いのでは、と言う固定観念があるからかもしれない。

 もしくは、寒い日にしか雪が降らないからと言う十八年そこらの人生による経験則かもしれない。総武線も雪が強ければ止まってしまうし。

 なんにせよ、雪の日は寒く感じてしまう。

 

 雪の日は、彼女のことを連想させる。

 それは、今現在俺がマリンピアのあの場所にいることも拍車を掛けているかもしれないけど。高校二年の冬、俺と彼女の間にあった何かが確かに終わりを告げた。

 たった一つ共有していて、しかしここで失ってしまった何か。

 けれど、ここが例え違った場所であったとしても。俺は雪と言う単語から彼女のことを連想してしまうだろう。それ程までに俺の中に彼女は根付いている。

 

 そういった要因があるからだろうか。

 例年と同じくクリスマスのチキンをケンタで予約し終え、あと少しの野暮用を済ませた後にあの時と同じ場所のベンチに腰掛けていた俺が彼女に、雪ノ下雪乃に電話をかけてしまったのは。

 

『......もしもし』

「もしもし。俺だけど」

『残念ながら私の知り合いの中に俺と言う名前の人はいないわ』

「比企谷八幡だよ」

 

 半ば予想通りの答えで思わず笑みが漏れてしまう。

 もう20時をすぎていると言うのにコール後直ぐに出てくれた彼女に少しばかりの嬉しさもある。

 

『あなたから電話を掛けてくるなんて珍しいわね。何かあった?』

「いや、ちょっとお前と話したいと思ってな」

『相変わらずセンスのかけらもないジョークね。嘘をつくのならもう少し笑えるものにしなさい』

 

 別にジョークでも嘘でも無いのだが、それを教える必要は無かろう。

 それはそうと、電話口の向こうからは雪ノ下の声の他にも音が聞こえてくる。なにやらワイワイガヤガヤと、時折車が通るような音も聞こえる。

 

「悪い、もしかして外に出てたか?」

『え?あぁ、そうだけれど別に問題は無いわ。お話、したいのでしょう?』

 

 クスリと笑い声が耳に届く。きっとこの電話の向こうでは雪ノ下がイタズラそうな微笑みを浮かべているのだろう。

 別に面と向かって会話しているわけでは無いのに、どこか照れ臭くなってしまう。

 

「あー、そう言えば外に何しに出てんの?」

『うら若き乙女のプライベートを探って何をするつもりかしら、この男は』

「別に他意はねぇよ。話の話題としては特に間違っちゃいないだろうが」

 

 そもそもこいつのプライベートなんて探ったところで、出てくるものはパンさんと猫関連ばかりになるのは明白である。いつの日か陽乃さんの言っていたあの日課はまだ続けているのだろうか。

 

『来週のクリスマスパーティでの交換用のプレゼントを買いに来てるのよ』

「そりゃ奇遇だな。俺も似たようなもんで外出てるわ」

『あなたも今外に出てるの?天変地異の前触れかしら』

「ケンタにチキン予約しに行ってくれって小町に頼まれたんだよ。そのついでに来週のやつも買いに来たってだけだ。別に自主的に外に出てるわけではない」

『それはそれでどうかと思うのだけれど......。相変わらずシスコンなのね』

 

 今度は呆れたようなため息が聞こえる。こめかみに指を当てているのだろうか。て言うか俺凄いな。声だけで大体雪ノ下が起こしてるであろうアクションを予想できるとか。なにこれストーカーかよ。

 

「はぁ......」

『何故あなたがため息をついているのかしら?』

「いや、今自分の気持ち悪さについて再確認したところだ」

『今更?』

「おい、そんな心底不思議そうな声で言うな。うっかり死にたくなっちゃうだろうが」

 

 そんな当たり前の事に今更気がついたのかしらこのゴミは、みたいな声色だった。泣きそう。

 

『でも......』

「ん?」

 

 そう聞こえて来てから少しの間があった。中々その続きの言葉が聞こえてこなかったのだが、一つ二つ咳払いが聞こえ、漸く言葉が紡がれる。

 

『............最近のあなたは、気持ち悪い、と言うことも、無いと思う、けれど......』

「...........................」

 

 その声色だけでうっかり惚れそうになった。

 ちょっとちょっと雪ノ下さん?あなたそんなに感情が声に出る人でしたっけ?て言うか今お前外に出てるのに恐らく真っ赤になってるであろう顔を披露しても大丈夫なんですかい?

 

『な、何か言ってくれないと困るのだけど......』

「あ、あぁ、うん。まぁ、サンキュ......」

 

 ちょっとー?雪降ってるのになんか暑いんですけどー?やはり雪ノ下の言う通り俺が外に出ると言うのは天変地異の前触れなのだろうか。

 

『そ、それで?結局何の用があって電話を掛けてきたのかしら?』

「お前の声が聞きたくて」

『ごめんなさい、前言撤回させてもらうわ。あなたの気持ち悪さは今も尚衰えていないみたい』

 

 ちょっと素直に本心を口にすればこれである。まあそうして茶化してくれると分かっているから口に出来ると言うのもある。相変わらずのヘタレ具合に全俺が泣いた。

 

「ま、本当のことを言うとだな。雪降ってんだろ?」

『ええ、そうね』

 

 見上げた夜空からは未だにしとしとと白い結晶が地面に落ちている。

 落ちては儚く消えていくこの光景を、彼女も何処かで見ているのだろうか。

 

「マリンピアで雪を見てたらお前のこと思い出して、気がついたら電話してた」

『そう』

「だから特に用事なんて無かったんだよ。悪いな、出掛けてるのにそんな事で電話して」

「別に構わないわ。だって、私の声が聞きたかったのでしょう?」

 

 背後からとても綺麗な澄んだ声音が聞こえた。

 つい今しがたまで電話口から聞こえていたものと同じ声なのだが、こうして遮るものが何も無く耳にすると、やはりその容姿に合った綺麗な声をしていると思う。

 振り返った先にいた雪ノ下は薄く微笑んでいた。

 

「こんばんは比企谷くん」

「お前もこっち来てたのかよ......」

 

 まさかの邂逅に心臓の鼓動が早まる。思わず釣り上がりそうになっていた口元を抑える。

 

「よくこんな寒い所に座っているわね。やはりゾンビは寒さに耐性があるのかしら?」

「出会い頭にゾンビ扱いやめろ。普通に寒いから。今すぐ帰ってコタツに引きこもりたいまであるから」

 

 本当、なんでこんな寒い所にずっといたんだろうね。理由なんて考えても思い浮かばないが、そのお陰でこいつと出会えたことを思えば、まぁ、その、何......。嫌な感じはしない、な。

 

「......ここからだとあなたの家よりもうちの方が近かったわね」

「は?」

「特別にうちに上げてあげるわ。暖かい紅茶を振舞ってあげる」

「いやいやいや、そこまでしてもらう謂れがないんだが」

「お話、したいんでしょう?」

「......じゃあ、まぁ、お邪魔します」

「よろしい」

 

 雪の日はいつもと何かが違う。

 それは自分のテンションだったり体感温度だったり。常日頃なら思い浮かばない何かがあったり。

 だからきっと、彼女が俺を家に上げてくれるのも、それを俺が素直に了承したのも、この雪のせいなのだろう。

 そんな雪の降る日が、俺は案外嫌いではない。

 

 

 

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