とある休日の昼下がり。
本当に何もない平穏な日だ。学校がなければ部活もない。ただの休日。
そんな日に俺が何をしているかと言うと、寝転んでテレビを見ていた。
ただし、雪ノ下の家のソファで雪ノ下に膝枕をされて、と注釈がついてしまう。
テレビに流れているのはクイズ番組。先程から出演者よりも早く問題を答えては少し得意げにフフン、とドヤる雪ノ下が可愛過ぎて辛い。しかも気付かれてないと思ってガッツポーズしちゃうあたり更に可愛い。
「なあ雪ノ下」
「なにかしら?」
仰向けに寝転んだ状態で話しかけると、雪ノ下が見下ろしてくる。その際に彼女の長い黒髪が俺の頬を撫でて少しこそばゆい。
その髪に優しく撫でるように触れて、俺は言葉を続ける。
「最近休日はこんな過ごし方ばっかだけどさ......」
「そうね。最近の休日はとても充実しているわ」
お、おう......。不意打ちでそんな事言われたら恥ずかしいんですけど......。
雪ノ下はとても幸せそうに微笑んでいる。その表情を見ていると、本当に充実しているのが一目で分かってしまうほどに。
ご機嫌な雪ノ下さんは俺の頭を撫で始めた。俺も未だ雪ノ下の髪の毛をいじいじしてるので、膝枕をされながらお互いに髪を撫でるとかいうよく分からないシチュエーションになっている。
そんなゆきのんには悪いのだが、俺は提案せねばなるまい。
「もうちょっと、こう、有意義な時間の使い方をしないか?」
「......?」
「いや、そんな心底意味が分からないみたいな顔で首傾げるな。可愛いだけだから」
「......っ。そ、そう。可愛い、のね。ありがとう」
「ん、お、おう。まぁ、どういたしまして」
ちょっと頬染めんな可愛過ぎて真昼間だってのにハピネスチャージしちゃいたくなっちゃうだろうが。
「いや、そうじゃなくてだな。もっとこう、なんて言うの? 為になるような時間の使い方をしようぜって話なんだが」
「私は今この時間がとても為になる時間だと感じているのだけれど」
「具体的にはどの辺が?」
こんななんの毒にも薬にもならなそうな時間は完璧主義者で潔癖症の彼女らしくないと思ったのだが。
いや、それも俺の勝手な決め付けで幻想を押し付けているだけかもしれないけれど。
「そうね......。こうしてあなたと同じ時間を過ごせて、あなたの為に何かしてあげる。私にとってはこの上なく有意義な時間よ?」
薄く微笑む彼女に、思わず見惚れてしまった。そんなセリフを吐くなんて正直反則だと思う。
これ以上ダラダラと雪ノ下に甘えるような休日を過ごし続けると確実に俺はダメになってしまうかもしれないと思っての提案だったのだが......。
あ、もう既にダメダメなゴミクズ野郎だろってツッコミは無しでお願いします。
でも、しかし。この子にならダメにされてもいいかも、なんて思ってしまう。
て言うかこの膝枕はやばい。確実にダメになる。分かってても抜け出せないのは悲しい男の性だ。
「あなたは、どうなの......?」
少しだけその微笑みに影が差した。不安そうにこちらをみる瞳は揺れている。
そんな表情をさせたかったわけではないのに。
「......ま、休日は休む為にあるんだしな。寧ろこうしてゴロゴロダラダラとしている事こそが正しい休日の使い方とも言える」
「ふふっ......。素直じゃないのね」
「さて、何のことだか」
相も変わらず捻くれた答えしか返せないが、どうやらしっかり伝わってくれたらしい。
俺だって別にこのような時間を無意義だと感じて提案したわけではない。出来るならこんな平穏な時間が永遠に続いてくれればと思っている。
けれど、人間の時間には限りがあり、その限られた時間の中でやらなければならない事は山程あるのだ。
髪を撫で続けていた雪ノ下の手がポンポンと俺の頭を優しく叩いて、寝転んでいる俺の唇に接吻を一つ落とした。
それが起き上がれとの合図だと解釈して、名残惜しくも雪ノ下の膝枕から上半身を起こした。
「さて、そろそろお勉強のお時間よ比企谷くん」
「うへぇ......。やっぱりもうちょっとダラダラしてない? お昼寝とかしない?」
「ダメよ。あなた、前回のテストでの数学の点数を忘れたの? 私が見てあげていると言うのに90点台に乗らないだなんて、許されざることよ」
「いやいやいや、75点も取れたんだから十分だろ」
「妥協は許さないわ。さっさと勉強道具一式を広げなさい」
どうやらこの様子だとダメになりようが無さそうだ。寧ろ真人間に更生してしまいそうで恐怖を感じるまである。そんなのただのイケメン八幡じゃねぇかよ。
「ちゃんと今日のノルマを達成出来たら、ご褒美も上げるから、ね?」
「よし、早速始めようか。どうする? どこから始める? やっぱり昨日の続きからか?」
「はぁ......。喜べばいいのか嘆けばいいのか。判断に困るところね......」
めっちゃやる気出たよ。て言うかヤる気出たよ。「ね?」ってなんだよ「ね?」って。可愛いかよおい。
頭痛でもするのかこめかみに手を当てているが、早くしてくれないとご褒美の時間が遠ざかっちゃうじゃないですか! 巻きでお願いしますよ!
「因みにご褒美の前払いとか出来る?」
「それではご褒美ですらないじゃないの......」
呆れた物言いだが、少し考える素ぶりを見せる雪ノ下。ここで容赦なく切り捨ててこない辺り、本当丸くなったと言うか甘くなったと言うか。
やがて良い案でも閃いたのか、ハッとした様子で顔を上げる。
「ではこう言うのはどうかしら?」
「ん?......んむっ⁉︎」
「んっ......」
俺に問いかけの時間すらも与えず、強引に唇を奪われた。
さっきの様な軽く触れるだけのキスとは違い、どこまでも貪欲に求めてくるようなキス。舌が口内に侵入してして全身に快楽が迸る。
まるで口の中が溶けてしまいそうなほど、熱くて甘い情熱的なキス。
負けじと俺も彼女の口内に舌を這わせると、ビクッと肩が少し跳ねたのが分かった。
どれくらい唇を触れ合わせ互いの口内を蹂躙しあっただろうか。一分にも満たなかったかもしれないし、十分以上そうしていたかもしれない。
離した口と口の間では糸が引いていて、雪ノ下の口からはだらし無く涎が垂れている。それは恐らく俺も。
朱に染まった顔で揶揄うような笑みを浮かべた雪ノ下は、それを拭うこともせず問いかけてきた。
「どう? これでやる気は出た?」
「おう、滅茶苦茶出たぞ。だから、後悔するなよ?」
「え? ってきゃぁ! ちょっと、比企谷く......んんっ......!」
雪ノ下の肩を抱いてソファに押し倒す。誘ってきたこいつが悪いと言うことで。
「せ、せめてベッドで......!」
「だめ、無理、我慢できん。お前がいきなりあんなキスするから悪いんだぞ」
「も、もう、あなたって人は......あっ」
そんなこんなで結局怠惰に過ぎていく貴重な休日。
有意義な過ごし方とはどのようなものなのかと考えてみるも、そこに彼女がいればそれでいいかなんてバカみたいな思考に落ち着いてしまうので。
今はその彼女を存分に可愛がって上げるとしよう。