八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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去年のゴールデンウィークとかに渋にあげてた懐かしいやつです。ある意味では思い出の作品。


手が滑っちゃった☆

「ひゃっはろー雪乃ちゃん!ついでに比企谷君も」

 

 由比ヶ浜のいない二人だけの奉仕部の部室に魔王が出没した。

 今日は依頼も無く、二人で静かに平穏に読書に勤しんでいたのだが、その平穏を吹き飛ばすように、雪ノ下陽乃は現れた。

 てか俺はついでなんですね。

 

「何の用かしら姉さん」

「可愛い妹の様子を見に来たんだよー」

「用がないのなら帰ってくれるかしら」

 

 相変わらず姉に対して冷たい妹だ。

 でも俺の方がもっと冷たく厳しい態度取られてるからね。なにそれ俺可哀想。

 

「つれないなぁ雪乃ちゃんは。あ、もしかして比企谷君と二人きりの時間を邪魔されて怒ってる?このこの〜、可愛い奴め〜」

 

 嫌がる雪ノ下に抱きつこうとする陽乃さん。

 素気無くあしらわれるも、姉は諦めずに妹に引っ付く。

 

「良い加減にしてくれないかしら......」

 

 怒ったように、と言うより呆れたようにそう言って立ち上がった雪ノ下は陽乃さんの背を押して無理矢理ドアの方に歩かせる。

 

「まぁ落ち着けよ」

 

 それを見ていた俺は、取り敢えず雪ノ下を宥めようと続くように立ち上がり、その背後に立つ。

 

「私は落ち着いているわよ。大体......」

 

 こちらに背を向けたまま、何時ものように俺を罵倒するのかな?と思っていると、向こう側にいる陽乃さんがニンマリとした笑顔で目をキラリと光らせるのが見えてしまった。

 

 マズイ

 

 そう思った時には時すでに遅し。

 

「おっとおおお〜、手がすべちゃったああ☆」

 

 全く悪びれもしない顔で、下手するとテヘペロとかしそうな勢いで、魔王雪ノ下陽乃は目の前にいた己の妹に手を突き出しその体をドン、と押した。

 

「えっ......」

「いいっ......!」

 

 後ろに倒れて行く雪ノ下雪乃。

 その背後に立っている俺。

 辿り着く結論はただ一つであり、最早必然的にそれは起きてしまった。

 

「......」

「......」

 

 咄嗟に出した両の手でその華奢な身体を胸の中に収める。

 まぁ端的に今の状況を説明させて貰うのなら、俺が雪ノ下の肩を背中から抱いてますね、はい。

 

 なんとも言えない沈黙の中、雪ノ下の顔が真っ赤に染まって行くのが背後からでも見て取れた。

 それを見てしまい、俺も羞恥を自覚してか頬が熱を持つのを嫌という程実感している。

 

 髪の毛から香る甘い香りが鼻腔を擽る。

 抱いた肩は思いの外小さく柔らかい。

 漂ってきた謎の雰囲気に、何かイケナイコトをしているように感じて目を宙空に彷徨わせる。

 

「ご、ごめんなさい......」

「え、いや、その、えっと......」

 

 これ以上この雰囲気に呑まれてしまってはダメだと二人同時にバッ、と密着していた身体を離す。

 それに伴い頭の中が幾分か冷静になり、自分がたった今行った一連の動作を思い返して見て一転、俺の顔は真っ青になる。

 咄嗟に手を離した時、行き場を失った俺の両手は挙げられた状態となっているので、それも相まって普通に犯罪者みたいな気分である。

 いや、でもこの場合は倒れて来た雪ノ下を助けたのであってそもそも雪ノ下を押した陽乃さんが悪いのであって俺は悪くない。

 別に離れていった雪ノ下の感触に後ろ髪を引かれてなんていない。

 

「こっちこそ......なんか、すまん...」

 

 辛うじて絞り出した言葉はそんな謝罪の言葉だった。

 髪の毛で隠れてしまって雪ノ下の表情は窺い知れないが、チラリと見えた耳の下が真っ赤に染まってた辺り嫌がられてはいない、のか?

 

「おっとおおお〜、またまた手が滑っちゃったあぁぁ〜」

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょ、ちょっ」

 

 安心したのも束の間、なんとも棒読みなセリフが後ろから聞こえて来たと思うと背中を押される。

 ちょっと待ってとも言えずラップみたいなのを口から吐き出しながら前に倒れていく俺。

 つーかいつの間に後ろに移動しやがったこの人!しかも押す力も地味に強いから上手いこと踏ん張りがきかない.....!

 

「あっ......」

 

 結果だけを言うと、雪ノ下を再び後ろから抱きしめる形になっていた。

 しかもさっきみたいに肩を抱くとかそんな生易しいものではなく、挙げられていた両手が反射的に動いてしまったためガッツリと、俗に言うあすなろ抱きと言うものになっていたのだ。

 更に先ほどよりも顔が近い。つーか真横に雪ノ下の綺麗な顔がある。

 

 再び舞い降りる沈黙。

 顔ごと横に向けるのは躊躇われたので、目線だけを盗み見るように隣へと向けると、顔ごとこちらに向けている雪ノ下と目が合った。

 

「比企谷君......」

「雪ノ下......」

 

 これは麻薬の類なのだろうか。

 さっさと離れろと脳は命令を下しても、体は言うことを聞きそうにない。

 

 雪ノ下の顔はトマトよりも赤く羞恥に染まっていると言うのに、俺から目を離そうとしない。

 それが、俺の脳髄に直接響く。思考が蕩け、考えることを放棄させる。

 あぁ、いっそこのまま流されてしまった方が楽なのだろうか......

 

「じゃあお姉ちゃんは帰るね〜!面白いものも見せて貰ったし、またね二人とも〜!」

 

 陽乃さんの声で我に帰り、ガララ、と扉の開閉音が聞こえた。

 どうやら魔王はご帰宅なされたらしい。

 そうと分かればさっさと離れなければならない。ゾンビが美少女を後ろから抱き締めている光景なんて誰かに見られたら通報待った無しだ。

 が、俺のその考えなど知る由もなしと、雪ノ下は自分の胸の前に回されてある俺の腕をキュッと掴んだ。

 

「お、おい雪ノ下......?」

「別に、その.......、嫌では、ないから......」

「そ、そうか......」

 

 どうやら、暫くこのままでいろ、とのことらしい。

 正直言ってそろそろ色々と限界なのだが、まぁ彼女が望むのなら致し方ない。

 腕の中の確かな感触を感じながら、魔王はいつの間にラブコメの神様に転職したのだろう、なんて見当外れなことを考えていた。

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