八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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八幡の誕生日に書いたやつ!


プレゼントは私

 社会人になってしまうと、一日の流れる時間が頗る早く感じてしまう。相対的に、一週間、一ヶ月と過ぎる時間も早く感じるものだ。

 そんな時の流れの中、一日一日に特に意味を見出せるわけもなく今日も今日とて社畜していた俺なわけなのだが。今日という日は俺にとって少しだけ特別な日。ほんのちょっとだけ意味を見出せる日。

 八月八日

 俺こと比企谷八幡の誕生日である。

 と言っても、誕生日だから彼女とデートとか、友達と飲みに行くとかそんな事があるはずもない。だってどっちもいないし。

 今朝携帯を開いた時には高校時代の同級生からおめでとうメールなるものが幾つか届いてはいたが、そいつらと飯に行ったりするということすらない。今年も平和に一人でまったりと誕生日を過ごさせてもらおう。

 

 会社を出て電車で一人暮らし中の自宅の最寄り駅まで。

 駅を降りてから目に付いたコンビニへGO。いつもなら買わないようなコンビニスイーツを自分への誕生日プレゼントに。なんだか悲しい事してる気もするが大丈夫。丸の内のOLなんて事あるごとに自分へのご褒美とか言ってるし。

 30%OFFのシールが貼られた二つ入りのチーズケーキとマッカン、後はちょっと高めのコンビニ弁当を手に取りレジへ通す。

 去年は同じようなショートケーキにロウソク刺したんだけどなんとも居た堪れない気持ちになってしまったので今年は却下。ロウソクの火を消す辺りで『俺なにやってるんだろう』ってかなり気持ちが沈むのでオススメだぞ。

 

「暑いな......」

 

 コンビニを出てからつい言葉が漏れる。夏の夜はジメジメした空気に満ちていて蒸し暑いか、涼しい風が吹いてきてくれるかのどちらかなのだが、今夜は前者らしい。コンビニの中が良い感じに空調が効いていたので余計に外が暑く感じる。

 だがここから家までそう離れているわけでもないので少しの我慢だ。

 やはり駅から徒歩五分は相当な強みだと思う。暑い日も寒い日もそのどちらでもない日も駅から出て家がすぐそこにあると言うのは精神衛生的に非常に楽なのだ。まぁ、うちはかなり安いボロアパートなのだが。それでもエアコンがあるのでまだマシである。

 家に着いたらまずはエアコンを入れないとなー、なんて考えながら歩いていると

 

「にゃー」

「ん?」

 

 近くの公園から猫の鳴き声が聞こえてきた。

 いや、猫?猫かこの声?なんかどっかで聞いた事あるような声の気がするんだけど。

 ちょっと気になったのでふらりと公園へ足を向ける。

 

「あなたは比企谷くんのお家がどこか知らないかにゃー。ふふ、なんて。分かるわけないわよね」

 

 なんか居た。

 ニャーニャーと猫に話しかける、ちょっとした大きい荷物を持った黒髪ロングの美少女。もう美少女って歳でもねぇか。

 え、いや、て言うかこいつマジでなにやってんのこんな所で。さっきの発言から察するに俺ん家に来たかったの?それで持ち前の方向音痴を発揮しちゃったとかそんな感じかな?

 よく見たら猫めっちゃいるし。五匹くらいいんぞあれ。あ、お嬢さんよく見たら随分と蕩けた表情してらっしゃいますね。取り敢えずパシャりと一枚。後で小町とか由比ヶ浜に送ってやろう。

 高校時代からは考えもつかないような表情を浮かべてらっしゃるその美女に声を掛けるかどうか迷う所だが、もしも本当にこいつの目的地が俺の家だった場合が困る。

 

「雪ノ下」

 

 意を決してそいつ、雪ノ下雪乃に声を掛ける。

 突然背後から声を掛けられたからか、ビクッと肩を跳ねさせる雪ノ下。更にその動きに驚いた猫達もビクッと跳ねてそのまま散っていってしまった。

 雪ノ下さん本当猫みたいな動きしますね。

 なんて言ってる場合じゃない。

 

「あら奇遇ね比企谷くん」

「お、おう。奇遇だな......」

 

 先ほどと似たような柔らかな笑みをこちらに向ける雪ノ下だが、その目は笑っていない。

 ちょっとー!ハイライトさん仕事してー!

 取り敢えずさっきの猫のことで責められないように話の流れを誘導していかなくては。

 

「所で、こんなところでなにやってんだ?」

「そうね。少しここの野良猫と戯れていたのだけれど、誰かさんのせいでそれも出来なくなってしまったのよ。誰かさんのせいで」

「わ、悪かったよ......」

 

 誘導失敗早すぎんよ。

 

「それと、あなたに少し用があって」

「俺に?あぁ、それでさっき猫に俺ん家聞いてたりしてたのな」

「なっ......!なんのことかしら?」

「ここに来てしらばっくれるのかよ......」

 

 若干頬赤くなってるから誤魔化せてないですねはい。別にそう恥ずかしがることもあるまいに。もう何年間の付き合いだと思ってんだか。

 

「取り敢えずうち上がるか?」

「うら若き乙女をこんな時間に家に上げるだなんて、何を考えているのかしら」

「乙女って歳でもいやなんでもないです」

 

 成人式を迎えてから五年も経過している事を考えると乙女と言っていいものかどうか。そもそもまだ十九時回ったところだし。

 

「んで、どうすんの?」

「そうね。折角のお誘いなのだし、家に上がって上げるわ。良かったわね比企谷くん、今年は一人悲しく誕生日を過ごさずに済んで」

「覚えてたのかよ......」

 

 溢れるため息はちょっとした照れ隠し。そりゃ知り合いで唯一今朝のメール一覧に載ってなかった奴がこうして会いに来てくれてるんだから。嬉しくないと言ったら嘘になってしまう。

 

 

 

 

************

 

 

 

「いただきます」

「どうぞ、召し上がれ」

 

 どうやら持って来ていた荷物には食材が入っていたようで、家に入るなりキッチンを占領した雪ノ下は他人の家のキッチンを使っているとは思えない程にテキパキも夕飯の準備を始めた。お陰様でコンビニで買ったちょっとお高めの焼肉弁当は明日の昼飯に回されそうだ。

 

「......そんなに見られると食い辛いんだが」

「そう?」

 

 言っても俺から視線を外さない。

 先程からこのお嬢様はニコニコ笑顔で俺のことをガン見してきやがるが、一体何が楽しいのやら。

 取り敢えず手近な料理を摘んで口に運ぶ。

 

「美味え......」

「それなら良かったわ」

「いやマジで美味いわ。これならいつでも嫁にいけるんじゃねぇの?本当こんな所で何やってんだよお前」

「そうね、私もそう思うわ」

 

 そう思うんなら俺の誕生日とか祝ってる場合じゃないと思うんですよ。

 こいつほっといたらポスト平塚になってそうで心配なんだよなぁ。

 雪ノ下の料理に舌鼓を打ちつつ、結局終始俺の方をニコニコと見てきた雪ノ下の視線に身をよじりつつ、食事はなんとか無事に終わったのだが。

 

「所で比企谷くん」

「ん、どした?」

「あなた、明日は仕事お休みよね?」

「ちょっと待て、何故お前が俺の予定を知っている」

「ワインを持ってきているのだけど、一杯どうかしら?」

「聞いて?てか、お前は明日仕事じゃねぇのかよ」

「あなたと同じで明日からお休みよ」

 

 今の会社に入って良かったと思うところは連休がちょっと長いことだ。寧ろそれ以外に無いまである。繁盛期の忙しなさはヤバイを通り越してヤヴァイし、連休前で無ければ残業も当たり前。定時に帰れる方が珍しいとも言えるだろう。

 持ってきていた荷物の中からお高そうなワインを取り出した雪ノ下。仕方ないのでキッチンからグラスを二つ取り出す。

 普段ワインなんて飲む筈もないので、百均で買った安っぽいグラスだから雰囲気もクソもない。オマケに場所はぼろアパートと来た。

 

「全く、お前ならそこら辺のイケメン捕まえて高級レストランとか行った方がいいんじゃないの?」

「そんなところ行っても息が詰まるだけじゃない。それより、あなたコンビニでケーキ買っていたでしょう?冷蔵庫から出してくれるかしら」

「へいへい」

 

 どうやらコンビニスイーツは片方取られるらしい。二つ入り買ってて良かったよ。

 チーズケーキを皿に分けて持っていくと、既にグラスにワインを注いでいた。

 今更だけどワインとチーズケーキって合うの?

 

「お誕生日おめでとう比企谷くん」

「まぁ、サンキュー」

 

 チン、と軽くグラスを合わせて乾杯する。

 安っぽいグラスに安っぽいぼろアパートなのに、雪ノ下がそうするだけで絵になるのは何故だろうか。思わず見惚れてしまう。

 

「どうかした?」

「......っ。いや、なんでもない」

 

 お前に見惚れてた、なんて言えるわけもなく。そもそもそんな事言えてたら未だに独り身ということもないだろう。

 

「コンビニスイーツと言うのも捨てたものじゃないわね」

「俺も偶にしか買うことは無いんだけどな」

「なら今日は自分へのご褒美のようなものかしら」

「ま、そんな所だ」

 

 ワインを口に含ませる。味わうように喉を通して、次いでチーズケーキをフォークで切って口に運ぶ。

 去年一人で食ったショートケーキよりも幾分か美味く感じるのは、単純にチーズケーキの方が好きだからなのか、それとも別の要因があるのか。考えずとも答えは出そうなものだが。

 

「プレゼント、一応用意してあるのだけれど」

「え、マジで?」

「そんなに驚くようなことかしら?」

 

 いやいやだって雪ノ下さん今まで俺の誕生日にここまでしてくれたこと無かったじゃないですか。

 確かに今までの誕生日でプレゼントを貰ったことはあるが、今日は飯を作って貰った挙句にこうして高級ワインも持って来てくれてるし。こいつならそれだけで十分でしょう?とか言いそうだし。

 

「いや、なんつーか、今年は随分と至れり尽くせりだなと」

「そう?......確かにそれもそうね」

 

 思案顔になりながらもカバンの中から取り出したのは黒い小包。なんかテレビドラマとかで見たことあるような気がするぞそれ。つまり、その中身も案外容易に想像出来てしまうわけでして。

 

「えっと、それは?」

「プレゼントだけれど」

「一応中身を聞いても?」

「開けたら分かるわ」

 

 ふむ、自分で開いて自分で確認しろと。

 おっと雪ノ下さん顔が真っ赤ですね。ワインの飲み過ぎかな?

 言われた通り机の上に置かれたそれを、恐る恐る開いてみる。その中に入っていたのは、俺の予想通りのものだった。

 

「......何故に指輪?」

 

 なんとか絞り出せたのはそんな当たり前の質問。

 え、俺たち別に付き合ってるわけじゃないですよね?でもこの指輪はそう言う事で良いんですよね?

 

「その程度のことも分からないのかしら?」

「いや誕生日プレゼントでこんなもの送られたらそりゃ変な勘違いしちゃいそうになるだろうが」

「......勘違いじゃないわよ」

「は?」

「だから、それを左手の薬指につけろと言っているの。ここまで言ってもまだ理解できないかしら?それとも此の期に及んで勘違いだと逃げるつもり?」

 

 澄んだ空を思わせる瞳は俺を捉えてはいるが、その頬はこれ以上ない程に紅潮している。

 残念ながら俺はと言うと、情けないことに脳の処理が追いつかずに現状把握が上手いこと出来ていない。

 つまり、なんだ?誕生日にプレゼント貰ったと思ったら誕生日プレゼントはわ・た・し。的な展開なのか?いやそれは違うか。あながち違わない気もするけど。

 って巫山戯てる場合じゃない。雪ノ下はきっとかなり勇気を振り絞ってくれているのだろう。ならば、その勇気に応えるべく誠実な答えを返さなければならない。

 しかし、こんな事をされても俺の返事なんてとうの昔から決まっているわけで。

 

「えっと、健全なお付き合いをした上で、と言う事じゃダメでしょうか......」

「ヘタレ」

「......返す言葉もございません」

「まぁいいわ。今はそれで満足してあげる」

 

 ススス、と俺の隣に移動して寄りかかってくる雪ノ下。コテンと肩に乗せられた重みがどこか心地いい。

 

「少し酔ってしまったみたいね」

「いやまだそんなに飲んでないじゃないですか」

「今日は泊めてくれる?」

「えぇ......」

 

 どうやら俺の誕生日に別の記念日も追加されてしまうらしい。

 給料三ヶ月分は口座に残っていただろうかと、嬉しそうに笑う彼女を見て考えてしまっていた。

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