八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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初めて幼馴染八雪書いてみました。


幼い頃の約束は、今も確かに覚えている。

  この歳になってからの幼馴染と言うのは、心底厄介なものだと思う。

  家族以外で幼少期からの自分を知っている人間と言うのは、つまりは俺の弱みやらなにやら全てを知っているという事で。勿論俺も相手のそれらを理解してはいるが、いかんせん俺の幼馴染と言うのは俺よりも高スペック揃いだ。金持ちで見た目が良くて勉強も運動もできる。漫画の世界に帰れと何度思ったことか。

 

「比企谷くん、お菓子がなくなったから新しいのを取ってきて頂戴」

「比企谷、vitaの充電器貸してくれないか?」

 

  そんな幼馴染の二人が、どうしてこうして俺の家に集まってのんべんだらりとコタツムリになっているのか。

  甚だ疑問である。

 

「あのなお前ら......」

 

  溢れるため息は我慢出来ずに漏れてしまったもの。こうして俺の幸せは逃げていくのかと思うと、幼馴染二人にいつも以上に腐った目を向けてしまうのも無理からぬことだろう。

 

「ちょっとは自分で動くって発想はないのかよ。こんな自堕落そのものなお前ら見たら、学校な奴らから失望されるぞ」

 

  雪ノ下雪乃と葉山隼人。

  タイプは違えど、そのカリスマでクラス内どころか学校中からの人気を集めているやつらだ。そこに性別の是非は問わず、同性であろうが関係なく羨望の眼差しが送られる。

  最も、俺にとっては、今この場でこうしてダラダラしている二人の方が馴染み深いのだが。

 

「私達は客なのよ? あなたは客にものを取りに行かせるつもり? 常識のなっていない男ね」

「休日の朝から押しかけてくるやつらを客とは認めん」

「どうでも良いけど早く充電器を貸してくれないか?」

「自分で持ってこいっていつも言ってんだろ」

 

  もう一度ため息を吐き、まずはキッチンから適当にポテトチップスを取り出してコタツの上に持っていく。そのコタツに入っている雪ノ下は、随分と幸せそうな微笑みでうちの飼い猫であるカマクラをもふっていた。

 

「ほれ、もうポテチしかけどいいよな?」

「あなたバカなの? そんなもの食べていたら手に油がついてしまってカマクラをもふれないじゃない」

「比企谷、充電器早く」

「うるせえ知るかバカ」

 

  季節は春。あと一週間で新学期が始まると言うこの春休みに、どうしてわざわざうちに来るのか。つーかもう三月も終わりだってのにこいつらは何故未だコタツムリになるのか。

 

「て言うか、マジでなにしに来たの? 春休み入ってから毎日毎日うちに来やがって。やることないのかよ」

 

  葉山に至ってはサッカー部どうした。つか部活がなくてもお友達も遊ばなくていいのかよこいつ。お前それでもリア充かよ。

 

「勘違いしてもらっては困るのだけれど、私はカマクラに会いに来ただけよ?」

「俺は比企谷に会いに来てるから安心してくれ」

「キモいからやめろ葉山」

「私だって疑問に思うことはあるわよ。折角の休日なのに、どうしてこんな腐肉とチャラ男と一緒なのか」

「腐肉......」

「チャラ男......」

「けれど仕方ないと割り切ったわ。カマクラに会うためにはここに来なければならないのだし、あなた達なら幾らか気が楽なのも事実だし。それに比企谷くんはこんな美少女と休日が過ごせているのよ? そこのチャラ男なら兎も角、あなたは泣いて喜んでもいいのでなくて?」

「美少女なぁ......」

 

  確かに、本人の言う通り雪ノ下は美少女だ。それも超が付くほどの。幼い頃からそれは理解していたのだが、ここ最近は中学まで見せていた容姿的な幼さも徐々に無くなりつつある。このまま大人になれば、そこらのモデルや女優顔負けの美人になること間違いなしだろう。

  そして、そんな彼女と過ごせるのを悪くないと思っているのも、また事実だ。しかし悲しいかな。そこに込められた感情はそれだけではなく。幼い頃から抱いて来たこの感情は、未だその火を消すことなく俺の心に燻っている。

 

「比企谷くん、少しカマクラを預かっていて」

 

  突然立ち上がった雪ノ下が、俺にカマクラを差し出して来る。素直にそれを受け取ると、リビングの扉の方へ歩いていった。

 

「なんだ、トイレか?」

「デリカシーのない男ね。そういうのは分かっていても言わないものよ」

「そりゃ悪かったな」

 

  リビングを出て行く雪ノ下を見送り、預かったカマクラの腹をうりうりともふる。カマクラは雪ノ下にもふられていた時と違い、どこか不満げだ。いやなんでだよ。お前の飼い主俺だよ? あいつ飼い主じゃないよ?

 

「なあ比企谷」

 

  vitaをポチポチ操作しながら、葉山が声をかけて来た。て言うか充電まだ切れてなかったのかよ。充電器別にいらねえじゃねえか。

 

「君はいつ雪ノ下さんに告白するんだ?」

 

  その質問に、最早条件反射のようにため息を漏らす。こちらに顔は向けないが、その表情は真剣そのものだ。一体同じ質問を、今まで何度されたことやら。数えだしたらキリがない。しかもそこらのリア充みたいなからかい混じりなどではないからタチが悪い。

 

「あのな葉山、何回言ったら分かるんだよ。俺は雪ノ下に告白しない。そもそも、俺じゃあいつに釣り合わないだろ」

「毎度のことだけど、好きじゃない、とは言わないんだな」

「......」

 

  そこは、なにがあっても否定したくないところだから。そもそも葉山相手にそんな嘘をついた所で、通用しないのは目に見えている。

  今度は葉山の方がため息を吐き、vitaをスリープモードにして俺に向き直った。

 

「なあ比企谷、覚えてるか?」

「なにを」

「君が昔、雪ノ下さんに言った言葉だよ。確か、『雪乃は大人になったら俺を養え』だっけ?」

「人の黒歴史ほじくり返してんじゃねぇよ......」

 

  フィクションの中の幼馴染によくあるあれ。小さい頃に交わした結婚の約束。

  尤も、俺の場合はそんなカッコいいものではなかったのだが。なんだよ俺を養えって。もうちょいカッコいい言葉があっただろ。

 

「でも、その気持ちは変わってないんだろう? それに、雪ノ下さんだってちゃんと覚えてるみたいだし」

「まあ、雪ノ下本人が覚えてなくても、あそこの両親がなぁ......」

 

  当時ガキの戯言を間に受けた雪ノ下の両親は、あろうことか早速婚姻届まで用意しやがったのだ。あとはお互いが結婚可能な年齢まで待つだけ。流石の俺も開いた口が塞がらなかった。行動力の化身かよ。

 

「そうだな......。雪ノ下さんはちゃんと覚えてるし、君も一応はそのつもりみたいだし」

「誰がいつそんなこと言った」

「今のうちにもう少し距離を詰めたらどうだい?」

「話聞け」

 

  つか、距離を詰めるもなにも、これ以上どうやって距離を詰めろと? そりゃあの時と違うことは沢山ある。学校へは一緒に行かないし、呼び方も変わったし、なにより、あんな直接的に好意を前提とした言葉なんて吐かなくなった。

  俺たちは高校生だ。小学生のガキではない。それぞれが自意識に翻弄される、所謂お年頃というやつ。

  葉山のようなチャラ男(意訳)ならともかく、俺のような根暗野郎には無理難題。

 

「よし、まずは呼び方を昔のに戻してみようか」

「は? お前、それマジで言ってんの?」

「当たり前だろ。ほら、練習ついでに俺を呼んでみなって、八幡」

「なんでだよ......」

 

  その爽やかスマイルで名前を呼ばれても、葉山なんぞにトキメク筈がない。むしろときめいちゃったらやばい。別のクラスにそっちな趣味の人がいるとか聞いたことあるから、安易な発言をしてしまうとその人の餌になりかねない。

 

「じゃあぶっつけ本番で雪ノ下さんの名前を呼ぶか?」

「だから、なんで俺があいつの名前を呼ぶの前提で話進んでんだよ。一言もやるって言ってねえぞ」

「なんの話をしてるのかしら?」

「どわぁっ!」

 

  突然背後から声が掛かったと思うと、雪ノ下がリビングに戻ってきていた。不思議そうに小首を傾げているあたり、どうやら会話を聞かれていたわけではないらしい。

 

「いや別になんでもない」

「本当に?」

 

  重ねて問うてくる雪ノ下の視線は、しかし俺の背後にいる葉山へ向かっている。そちらへ問いを投げるとどうなるかと言うと。

 

「いや、少し昔の呼び方に戻してみないかと八幡と話していてね。雪乃ちゃんもどうだい?」

「あら、それは面白そうね、隼人君」

 

  とまあ、こうなるわけでして。

  これで仮に、雪ノ下が俺の名前を呼ぶだけに留まっていたのなら。それなら俺にも逃げ道はあった。また適当に屁理屈をこねてその場を凌げばいいだけだったのだ。しかし葉山の名前まで呼ぶとなると、俺の逃げ道は全て塞がれたも同然。

 

「ほら八幡。私の名前、呼んでみなさい」

「うぐっ......!」

 

  助けを求めるように背後を振り向くも、そこには爽やかにムカつく笑み浮かべた葉山のみ。俺を助けてくれるやつは一人もいない。

 

「あぁ、そう言えばこの後用事があるんだった。陽乃さんに呼ばれてるから、俺はここで失礼するよ」

「はあ⁉︎」

「じゃあな八幡。まあ、頑張れよ」

「おい待て隼人テメェ逃げるつもりか!」

 

  俺の叫びも虚しく、葉山は本当に家を出て行った。陽乃さんから呼ばれてると言うのは嘘ではないのだろう。そんな些細な嘘であの人の名前を持ち出すほど、あいつもバカではない。

  そしてリビングに取り残されたのは俺と雪ノ下のみ。

 

「それで? あなたは私の名前を呼んでくれるのかしら?」

 

  言いながら、雪ノ下はソファに座っている俺の隣へと腰を下ろし、上目遣いで俺を見上げる。その目は期待に輝いていて、桜色の唇は弧を描いていた。

  そんな表情をされては、俺に選択肢なんぞ与えられていないも同然だ。

 

「......雪乃」

「ふふっ、なあに、八幡」

 

  ああ、辞めろ、名前を呼んだだけでそんな幸せそうにするな。昔は毎日呼んでただろうが。

 

「ねえ八幡、昔の約束、覚えてるかしら?」

「......まあ、一応な」

 

  俺とこいつの間で交わした約束なんて、葉山と話していたあれしかない。だからこのタイミングでその話を持ち出されると、実は最初から聞いていたのではと疑いたくなる。まあ、アドリブとか演技とか出来ないようなやつだから、その心配も杞憂だとは思うけど。

  雪ノ下は俺との距離を唐突に詰めて来て、俺の腕に抱きついてきた。それをひっぺがす事も出来ず、受け入れてなすがままになっている。

  小学生の頃から全く成長していないと思っていた彼女の身体的特徴は、けれど俺には強すぎるくらいの刺激を腕に与えて来て。おまけに髪の毛から香るいい匂いとかのせいで、頭がクラクラしてくる。

 

「私はいつまでも待ってるから。だから、早く迎えに来てね?」

「まあ、あの約束の通りなら、迎えに来るのはお前の役目だけどな」

「また屁理屈ばかり」

 

  ふふっ、と微笑んでから、雪ノ下の柔らかい感触が俺の腕から離れていく。そしてソファからも立ち上がった彼女は、再びコタツの中へ。

 

「ところで比企谷くん、カマクラは?」

「え? あれ、知らん間にどっか行ったか?」

「捕まえて来なさい。いますぐに」

「へいへい......」

 

  幼い頃に交わした約束を未だに覚えていて、それを真に受けるなんて、俺たちくらいのものだろう。けれど、その約束はなんとしても違えたくはない。

  だから取り敢えず、今は彼女の従者のように、献上するためのネコを捕まえに行くとしよう。

 

 

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