八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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ゆきのだいふく

 寒い日に食べるアイスは格別である。

 これは俺のみならず、ある程度の人々の間で広まっている一種の常識のようなものだろう。

 寒いからこそ、冷たいものを食べる。そこには、夏の暑い日とはまた違った美味しさが生まれるのだ。

 しかも冬限定の味とか出しちゃうし、これは甘いもの好きとして買わなければなるまい。

 と言うことで、冷凍庫に置いてあった雪見だいふくを取り出してリビングのソファに腰掛ける。

 雪見だいふくはいい。このもちもちとした食感とアイスの甘さが絶妙に口の中で絡み合う。

 

「こんな寒い日に、よくアイスなんて食べられるわね」

 

 カップの蓋を開けたところで、隣の恋人から声がかかった。

 その視線は俺の雪見だいふくに向けられている。

 

「寒いからこそ食べるんだよ」

「体調崩すわよ?」

「春夏秋冬毎日お前の冷たさに耐えてるからな。これくらい余裕だ」

 

 ムッと眉根に皺を寄せる恋人、雪ノ下に苦笑いを返してから雪見だいふくのカップの中に入っている串を持つ。

 今日買ってきたのは普通の雪見だいふくだ。チョコ味とかあったけど、俺はこのバニラ味こそが最高にして至高だと信じて疑わない。

 さて頂こうかと串を刺したのだが、なんだか隣から視線を感じる。

 

「......なに、どした?」

「......一つ頂いてもいいかしら?」

 

 その質問に、今度は俺が眉間に皺を作った。

 

「それはダメだな」

「何故?」

「よく見ろ雪ノ下。雪見だいふくは二つ入りだ。お前はその内の一つを寄越せと言ってる。その意味が分かるか?」

「全く分からないわね」

「ただでさえ二つしかないものが一つになっちゃうんだぞ? 例えばこれが六つ入ってるピノだとしよう。そうしたら俺もなんの気兼ね無くお前に二つほど献上していただろう。俺の取り分はそれでもお前より多くなるからな。けど雪見だいふくを一つでも上げたら、俺とお前で取り分が均等になってしまう」

「ケチな男ね。そんなのじゃ嫌われるわよ、私に」

「それは困る」

 

 いや、マジで困る。

 マジで困るのでどうしようかと悩んでいると、雪ノ下は顔をこちらに向けて目を閉じた。そして無言で口を開ける。

 これは、もしやあれか? この中に雪見だいふくを放り込めとでも言いたいのか?

 いや、でも俺だって雪見だいふくを二つ食べるの結構楽しみにしてたのに。実家にいた頃は確実に小町が無言で一つ取るから、初めて一人で二つ食べられるとちょっとワクワクしてたのに。

 けどここで雪ノ下に上げなかったら彼女に嫌われると言う。

 それだけは避けなければならない。

 たっぷり十秒ほど悩んだ末、俺は雪ノ下の口の中に雪見だいふくを放り込んだ。

 

「あむ......」

 

 小さく齧ってモキュモキュと咀嚼するその様はまるで小動物のようで大変可愛らしい。餌付けした気分だ。

 こんな表情を見れるなら、躊躇わず雪ノ下に差し出せばよかった。

 アイスを口の中で溶かし、餅の皮を飲み込んだのか、雪ノ下は次の一口を強請るようにまた口を開いた。

 そして勿論そこに齧りかけの雪見だいふくを放り込む俺。

 ヤバイ、なんか楽しい。

 まず雪ノ下が可愛いし、次に雪ノ下が可愛いし、最後に雪ノ下が可愛い。

 雪ノ下が雪見だいふくを食べる。そんな様子を見ていて、ふと脳裏に過るとある言葉。特に考えることもなく、それをボソッと言ってみる。

 

「......雪乃だいふ、ああなんでもない。なんでもないから睨むな」

 

 言い切る前に絶対零度の視線で睨まれてしまった。そんなに面白くなかったですかね......。

 因みに雪ノ下のほっぺたは雪見だいふくよりもモチモチである。ソースは俺。なんで知ってるかとかは聞かないで頂きたいが、このほっぺたは一日中触ってても飽きないとだけは言っておこう。ほっそりとしていて薄くみえるのに滅茶苦茶柔らかいとか反則だと思うんだ。

 閑話休題

 やがて雪見だいふくを一つ丸々食べ終えた雪ノ下は満足気にお礼を言ってきた。

 

「ありがとう。確かに美味しかったわ」

 

 残る雪見だいふくは一つのみだ。これは俺が食べるもの。

 俺が食べるものなのだが、悲しいかな。恋人の可愛い姿を見たいと言う欲求には勝てなかった。

 

「もう一個食うか?」

「......いいの?」

 

 控えめに聞き返してくるも、その目は子供のようにキラキラしている。そんなに雪見だいふくが気に入ったの? なんなら明日から毎日買ってきて食べさせて上げますよ?

 

「そんだけ美味そうに食われたら上げたくなっちゃうだろ」

「でも、比企谷くんの分が......」

「気にしなくていい。俺はまた今度食うから。ほれ、口開けろ」

「じゃあ......」

 

 俺の言う通り口を開ける雪ノ下に、また雪見だいふくを差し出す。

 そう、雪見だいふくなんぞ別に今じゃなくても食えるのだ。しかし雪ノ下のこの表情は今この時でないと見れない。

 恋人の可愛い姿と喜んでる姿が見れて一石二鳥である。

 小さな口で雪見だいふくを齧った雪ノ下は、しかしそれを咀嚼するでも無く、こちらに身を乗り出して来た。

 

「え、ちょっ......」

 

 そしてそのまま顔を近づけて来る。

 何事かと口を開いた瞬間、雪ノ下にキスされた。

 

「......っ⁉︎⁉︎」

 

 既に溶けて液体になったバニラアイスが口の中に流れ込んで来る。立て続けにやって来た餅の皮すらも、バニラアイスに負けないほど甘く感じたのは、一緒に口内に侵入して来た雪ノ下の舌のせいだろうか。

 つまり、なんでか知らんが、口移しされた。

 あまりに唐突すぎる出来事に何も言えないでいると、顔を離した雪ノ下は頬を染めながらもしたり顔で微笑んだ。

 

「こっちの方が、甘くて美味しいでしょう?」

「......甘過ぎて舌が痺れちまうが、美味しいのは確かだな」

「そう。なら、次は私に頂戴、ね?」

 

 これから毎日雪見だいふくを買おうと決意した瞬間だった。

 因みに翌日買って来ても同じことはしてくれませんでした。グスン。

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