八幡と雪乃の恋物語   作:れーるがん

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久しぶりですね。息抜きで書いた八雪です。


待ち合わせ

スターバックスは俺に似合わない。俺にはドトールが一番しっくりくる。

カウンターで頼んだアイスココアをストローで吸い込みながら、なんとなくそんなことを思ってみる。なんかドトールに失礼な言い方に聞こえる人は、きっと心が歪んでいるんだろう。

さて、土曜出勤なんて言うクソふざけている厄介なものを午前中に片付けた現在。所謂待ち合わせと言うものに、俺は駅付近のドトールを利用していた。ドトールのココア美味しいんですよ。本当はウサギのいる喫茶店とか行きたかったんだけどね。残念ながら現実にココアさんもチノちゃんもいないので俺はドトールで我慢しているのだ。やっぱりこれ、ドトールのことバカにしてるな。

 

「にしても、遅いな」

 

店の入り口の方に視線をやるも、待ち人は未だ来ず。午前で仕事が終わったことを同居人に伝えれば、折角だからデートをしましょうと言われここで待つこと一時間。流石にココア一杯で居座りすぎたか、店員の目がちょっと怖い。ミルクレープとかも買っといたら良かったかな。

だがまあ、我が家からここまで遠いわけでもないが、近いわけでもない。あいつにも準備やら何やらあるだろうし、あと十分くらいは待ってやってもいいだろう。八幡くんは懐が広いからね。温かくもあったら尚良かったのだけど、残念ながらオチンギンはあいつに握られているし。

自分のお財布の中身を思い出してちょっとブルーな気分に浸っていると、ウィーンと自動ドアの開く音が。どうでもいいけど、ここに来た時自動ドアが反応しなかったのはイジメかな? 故障してただけらしいけど。

そんな自動ドアの音に首をまた店の入り口へと巡らせると、毎日顔をつき合わせている同居人が、見慣れない服装でやって来た。

そいつはそのままカウンターでアイスティーを頼むと、それを受け取りキョロキョロ店内を見回す。俺が手を上げるとこちらに気がついたようで。てこてこと歩いて来た。

 

「ごめんなさい。待たせてしまったわね」

「本当にな。まさか一時間待つことになるとは思わなかったわ」

 

彼女、雪ノ下雪乃は、どこにそんな服を隠し持っていたのか、ちょっとお洒落なワンピースを着てここへやって来た。俺は普通に仕事終わりなのでスーツなのだが、それがちょっと申し訳ないくらいにおめかししている。

 

「女性の準備には時間がかかるものなのよ。覚えておきなさい」

「でも小町とか、出かけるときめっちゃ準備早かったぞ」

「それはあなたと出掛けるからでしょうね。きっと小町さんも、男性と出掛ける時にはもっと時間をかけるはずよ」

「はっはっはっ、何を言う雪ノ下。小町が男と出掛けるはずないだろう」

「あなたは全く......」

 

呆れたようなため息を吐かれる。いや、呆れと言うより諦めかもしれない。諦めないで!

俺の向かいに座って、彼女はふぅ、と一息つく。外は暑かったのだろう。その首筋にはまだ汗が伝っていて、ちょっと色っぽいなーとか思ってしまう。まだ真昼間なのでそう言う思考は自重。

 

「で、今日どうしたんだ? そんなめかしこんで」

「さっき伝えた通りだけど。デートよ」

「デートねぇ」

 

同棲を始めて、社会人になって、自ずと互いに忙しない毎日を送っていて。そうなれば、いくら一緒に暮らしているとは言え、恋人としての時間は当然のように少なくなってしまう。

だから、デートなんて最後にしたのはもうどれだけ前の話か、思い出すのも億劫なほどだ。それでもなんだかんだ上手くやっていけているのは、家で僅かながらも過ごす二人の時間を大切にしているからか。

 

「本当なら、あなたから誘って欲しかったのだけれどね」

「そいつは悪うござんした」

「まあ、私も現状で満足していた節もあったのだけれど」

 

ならそれでいいんじゃねぇの。とはならないのは、俺たちがもう大人だからだろうか。過ぎていく日々の中で、なにかが確実に変わっていってしまって、俺とこいつの仲も、永遠のものではないから。限りなく永遠に近づけたいから、こうした時間がどこかで必要だったのは事実だ。

 

「んで、どこに行くんだ?」

「特に決めてないわ」

「そりゃ珍しい」

 

こいつが無計画と言うのも中々ない。これはレアだ。

 

「あなたはどこか行きたい場所ある?」

「行きたい場所ねぇ......」

 

もはや殆ど水と化しているグラスの中身をストローで啜りながら、ふと言わなければならないことを思い出した。

 

「話は変わるんだが」

「......?」

「その服、似合ってんな。可愛いと思う、ぞ......」

 

なるほどスマートにさり気なく言おうとしたのに、最後の最後でやっぱり恥ずかしくなってしまった。お陰で言葉尻がやけに掠れてしまって、自分でも聞き取れない。

 

「......慣れないこと言うと思ったら。どうせなら最後までちゃんと言って欲しいわね」

「悪かったな......」

 

本当、慣れないことはしないもんだ。けれど、ほんのり頬を朱に染めた彼女の顔は、どことなく嬉しそうで。

その顔が見れただけで、頑張って口に出した甲斐がある。

 

「あー、行きたい場所だったな。どうせだから、普段行かないような場所とかどうだ?」

「と言うと?」

「遊園地とか、動物園とか?」

「遊園地は去年の五月のデートで、動物園は一昨年の十一月のデートで行ったわね」

「よく覚えてんな......。言われて思い出したわ」

「あなたとのデートは全て記憶してるわよ」

 

なにそれ、俺との思い出限定で完全記憶能力とか? やだちょっと嬉しいじゃん。でもちょっとヤンデレっぽさを感じてしまうのはどうなんでしょう。

 

「他には思い浮かばんな......」

「そう? なら私から一箇所提案があるのだけれど、あなたから意見がないならそこでいいかしら?」

「ん、別にどこでもいいぞ」

「なら適当にモールをふらついた後、私の実家にでも行きましょうか」

「おう。......おう?」

 

余りに予想外なその回答に、思わずオットセイみたいな声を出してしまった。今この子、なんて言った?

 

「それじゃ、私がこれ飲み終わったら行きましょう」

「いやあのちょっと雪ノ下さん?」

「お父さんとお母さんがそろそろ結婚の挨拶に来なさいと煩いのよ」

「えぇ......」

「そのくらいの甲斐性は見せてくれるわよね、私の彼氏さん?」

 

ニコリと微笑まれながら言われると、無言で頷くしかなくなる。

決めるぜ覚悟! とか言ってる場合じゃない。いや、ジーッとしててもドーにもならねぇのも事実だけど。

マジかー。まさかのプロポーズ前に向こうの実家様から迫られるパターンかー。

 

「まあ、頑張りますか」

「ええ。頑張りなさい」

 

一応給料三ヶ月分はカバンの中にあることだし、ちょっとは甲斐性ってのを見せてやるとしますか。

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