東方魂恋録 The Second Existed   作:狼々

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出してないことに気づきませんでした。
二期は恋愛ではなく、ストーリー中心で進めていきます。
ないわけじゃないですけどね。


花弁

 声が聞こえたのは後ろからだった。

 目視こそしていないが、声の主はパチュリーだ。

 素直に従って抵抗の意思がないことを示し、しばし待つ。

 何色かの光が後ろで焚かれているが、一体何をしているのか俺にはさっぱりだ。

 

「……違うようね。もういいわよ」

「なんだったんだよ、全く」

「悪いとは思ってるわ。でも仕方ないでしょ、()がいるんだから」

 

 振り返って、ようやく面と向かった会話が始まった。

 目で見て確認したが、パチュリーに間違いない。

 それはいいとして、彼女は今「狐」と口にしたのか? 

 

「なんだよ、狐って」

「貴方が一番よく知っているはず。他人の皮を被った人を化かす狐と戦闘した、と聞いたのだけれど」

「ん? ──あぁ、そういうこと」

 

 俺が偽物の妖夢と戦ったことを、彼女はもう既に知っているわけだ。情報が早いことこの上ない。

 他人に化ける狐のような存在がいると発覚した以上、そいつが本人とは限らないわけで。それはもちろん俺も例外ではない。

 咲夜が話しかけたところから狐が入れ替わっているとすると、ここに立つ俺が本物でない場合もありえる。

 さっきの光は、恐らく魔法を使った探知だろう。

 

「ここへ来るまでに、人目はあった?」

「見られないよう善処はした。探知に引っかからないように霊力を消して盗み見たりしてない限りは大丈夫なはずだ」

「そう。ならさっそく本題に入るわ。この本を読んでみてちょうだい」

 

 本棚から一冊の古びた本を器用に呼び寄せる。映画の中での出来事のようで、実に魔法使いらしい。

 彼女の手に吸い込まれた本に表題はない。その割に分厚く、最早本という分類になるのか怪しいものだが。

 これほどの厚さだと、辞書かそれこそ魔導書の(たぐい)と言われた方がまだ納得できそうだ。

 

「なんだよそれ」

「いいから。中を見たらきっと驚くわ」

 

 言われるがままに中を開く。

 

『──廻り、廻り。

 その才は受け継がれることなく焼き焦げるはずである。

 

 唯一、花弁を舞い散らせた選ばれし者。

 ()の者のみが、定められし円環を脱し、永久に溶けける記憶を呼び覚ます。

 傑出した才を以て、劣悪かつ非道たる能を制し、失われし魂魄は現世へと顕現する。

 絶対的であったはずの趨勢(すうせい)さえも容易に覆すことだろう。

 たとえ相手が、一騎当千の(つわもの)であれども。

 

 (しか)く既に亡き者の霊魂が、記憶が、才幹が、本来の循環系を逸脱するのだ』

 

『鉄の意志を持つ者こそ相応し。

 英霊は決意強き者を選び、英魂は運命に従う。

 (すなわ)ち、兵が兵たらしめるのは運命(ゆえ)であり、決して偶然などではなし』

 

「……なんだこれ」

 

 変というか、言い回しが少々古臭い。

 文の一部で古語が用いられており、本の劣化具合を合わせて考慮しても、少なくとも最近刷られたものではないことは確かだ。

 

 いや、刷られるというと語弊があるか。

 本ではあるが、フォントを用いた機械的な文字で印刷されているのではなく、毛筆を用いた直筆で書かれている。

 となると、複製は難しいのでごく限られた数しか存在しない。複製どころか、この世に一冊だけの可能性すら捨てきれない。

 この図書館もかなりの規模だが、ここに収められた図書は魔術書の類がほとんどを占めている。

 パチュリーが気まぐれで仕入れたにしては不自然だ。

 

「どう思うかしら」

「どうって……世界には色んな本があるんだな、としか」

「まだ二ページしか読んでないでしょう? 続き、読んでみなさい」

 

 促され、めくる。

 しかし広がったのは、白紙の見開きページのみ。

 思わず怪訝な顔をして引き続きページを繰るも、またも白紙のページが続く。

 さらに一枚、もう一枚とめくっていくが、変わらず白、白、白。

 

 文字が書かれていたのは最初の二ページだけで、後は全て白紙のままだった。

 この厚みだと、全部でおおよそ五百ページほどあるだろうか。五百ページが白紙の本など、世界に一つもないに決まっている。

 現に該当する本が目の前にあることが信じられないくらいだ。

 

「なあ。落丁ひどくないか?」

「きっと日本酒飲みながら作ったのね。それと、鉄の意志を~って始まる二ページ目、あったでしょう?」

「ああ」

「それ、私が最初に見たときはまっさらの白紙だったから」

「はあ?」

 

 夢か幻とでも言うのか。それとも自然に文字が浮き出たとでも言うのか。

 魔法が存在する幻想郷とはいえ、勝手に加筆する魔法など聞いたことがない上に誰が何のために仕掛ける魔法だろうか。

 墨で書かれた文字も乾ききっている。ページの劣化も考慮すると、書かれた時期と紙ができた時期は一致していると見て問題ないだろう。

 そうなると、後から加筆されたということ自体がありえない話だ。

 

「見落としたんだろ。ページいっぱいあるし、何枚か一気にめくったとか」

「最初の見開き二ページよ? 左は文字、右はもう白紙だったのよ。それこそないわ」

「……確かに」

「魔法の痕跡もなかった。でも文字が増えてるのは間違いない。奇妙でしょう?」

 

 奇妙というか、不気味というか。もしかすると、見てはいけないものを見ているのだろうか。

 呪われているだとか、呪術関連などの心配と恐怖で寒気を感じてしまう。

 説明がつかないことが多すぎて、何から突っ込むべきか判断もつかない。

 

「この本に何かあったらまた知らせる。絶対に口外しないことね」

「待て。そもそも、なぜ俺なんだ? それこそレミリアとか、共有すべき人物がいるはずだろ」

 

 俺に紅魔館に訪れるよう伝えた咲夜には情報共有を済ませているはずだ。

 しかし、彼女の言葉が真実ならばレミリアはこのことを知らない。

 幻想郷が揺らぐ今、この本が何かの鍵を握る可能性──俺には微塵も感じられないが、なきにしもあらずといったところだ。

 

「貴方が戻ってすぐ、この本を見つけたわ。もちろんこんな本を収めた記憶はない。気付いたら棚の中にあったのよ。貴方が再び幻想入りしたタイミングでね。これは偶然かしら?」

「さあな」

「でしょうね。貴方が知るはずない」

「たまたまってことはまあ、少し考えにくいかもな」

 

 ここまで都合良く重なると、偶然と片付けるにはほんの少し惜しい。

 何か他に理由がある線で考えるのが自然だろう。こじつけと言ってしまえばそれまでだが。

 そもそも、このような不気味な本に自然不自然を呈すること自体がナンセンスな気もするが。

 

「それに貴方は目立つ。今後、英雄と言われるほどの人物に化けるとも考えにくい」

「だから俺に情報を提供した、と」

「ええ。でも妖夢に化けた経験がある以上、不用意に情報をばらまくつもりはないわ。たとえそれが幻想郷の住人だろうと、紅魔館の主であろうとね」

「賢明だな」

 

 以前よりも間隔が狭い幻獣の連続襲来。

 姿を自在に変えられる上に不死身と思われる謎の人物。

 現れてすぐに消えた超常現象と圧倒的強さを示す幻獣。

 湧いては湧いてを繰り返すほどに数が揃った餓鬼。

 俺の最速の技を避けた餓鬼。

 そして、勝手にページが増える妙に分厚い本。

 

「頭がパンクしそうだ。謎が多すぎる」

「環境が激変しているわ。以前までとは訳が違うことを肝に銘じることね」

「それで、この本以外に用はないのか?」

「ない」

「そうか。あまり長く席を外すと疑われるから、そろそろ戻るぞ」

 

 来た道を戻り、ドアノブに手をかけたときだった。

 

「ああ、ちょっと待って。それともう一つ、成瀬って男がいるでしょう。あいつ、気をつけた方が身のためよ」

「理解してるつもりだが、一応理由を聞いとく」

「考えてもみなさい。一回目の幻獣は自分一人で退けたにもかかわらず、今回はノータッチ。不自然じゃないかしら」

「到着に間に合わなかった可能性は?」

「逆に聞くけど、貴方がここに来るまでにかかった時間はどのくらい?」

「少し時間かかったから、大体二十分前後くらいかな」

「となると、幻獣の反応が消えてから貴方がこちらに向かうまでに十分以上は確実にあったはずよ。一度目は誰よりも早く幻獣の対処にあたった。でも今回は戦闘が終わってから十分経っても姿を見せない。今回は数が多くて戦闘が長引いていたようだから、なおさら遅いのよ」

 

 言われてみれば確かにそうだ。

 今回の戦闘で成瀬を見た覚えはない。霊夢が連れてきた増援として参加もしていなかった。

 あまり言いたくはないが、彼は戦力として十分すぎる能力を持っている。

 

 彼は今回の戦闘にいち早く向かうべきだった。

 それらを考慮すると、彼の行動は不自然にも程がある。

 

「貴方は、あの新参者をどう見るかしら?」

「どうとも思わないが、怪しくは見えるな」

「第二の英雄、なんてもてはやされているらしいけれど、初代英雄の立場であるとしてはどうなのかしら」

「さあな。俺は自分が英雄だという自覚と責任を持っているつもりだが、肩書きに自惚れるつもりはないし、欲しいと思うこともない」

「はっきり言っておくわ。あんな奴は英雄と呼ばれるべきじゃない。それなら、対幻獣の(かしら)を務める霊夢が呼ばれた方がまだ納得がいく。素性も意図もろくにわからない人間を放っておくと、後で必ず自分の首を絞めることになるわよ。それがたとえ偶然だとしてもね」

 

 あの物静かなパチュリーがここまで多弁になって警告している。

 その事実は深刻であり、このまま訪れる未来は望ましくないということを暗示しているのだろう。

 少なくとも、不安要素を放置しておくことが危険であるのは事実だ。

 

「わかった。最大限、気をつけておくよ」

「ならいいわ。引き止めて悪かったわね」

「いや、礼を言うよ。多分俺は、まだ色々なことに自覚が足りてなかったんだと思う」

「……らしくないことした。早く戻りなさいな」

 

 頷いてから、ノブをひねった。

 白玉楼に戻りながら、今日のことを整理する。

 図書館で得た情報の全ては他言無用。それを含めずとも、整理すべき情報は山ほどある。

 

 それに、パチュリーに気を遣わせてしまったようだ。

 図書室での出来事を忘れないよう、心に刻みながら空を飛んだ。

 

 ふと重要なことを思い出し、永遠亭へ急行。

 妖夢達に怪しまれないためにも、すぐに用を済ませなければならない。

 ほんの数分で永遠亭へとたどり着き、門を開いて医者のもとへ。

 

「悪い永琳、急にすまない」

「謝罪しながら入室する患者は初めてよ」

 

 目的の人物――永琳は黙々と試験管を動かしていた。

 実験と製薬に明け暮れる毎日。彼女と彼女の薬に救われる人間は多い。

 

「ほんとごめん。アンリミテッドの抑制薬、残ってないか?」

 

 アンリミテッド。リベレーションの先を覗く、能力の開放。 

 名の通り、制限をなくした自己強化だ。リミッター解除、というのが一番わかりやすいか。

 自身の限界を超えた力を無理に引き出すため、発動後の安全は保障できない。

 正真正銘、最後の切り札というわけだ。

 

 そんな切り札を切りたくはないが、諸刃の剣は出番があるから剣でいられるというもの。

 そこで永琳が作ってくれたのが、体の限界を引き上げる薬だった。

 自身に投薬することで、アンリミテッドの影響を限りなくゼロに近いところまで抑えてくれる。

 

「一つだけあるわよ。去年の余りが。使用期限は大丈夫だと思うけれど、話は別ね」

 

 棚の奥から引き出された袋をこちらに投げる永琳。

 取って中を確認すると、なんてことのない赤白のカプセルが一錠。

 よくもまあ、二度と使わないかもしれない薬の場所を覚えて保管していたものだ。

 

「何が別なんだ?」

「免疫って言えばわかるかしら。貴方は既に二度、その薬を投与してる。三度目までは効くでしょうけど、四度目は効かない可能性があるわ」

「そうか。一応だが、四錠目を作れたりは……?」

「簡単に言わないでよ。人の限界を高めるなんて、一種の麻薬に近いのよ。高価、貴方の体がもたない、もっても効果が保証できない」

 

 永琳の腕をもってしても、この薬の生産は現実的でないらしい。

 麻薬に飲まれるのが先か、それとも幻獣に喰われるのが先か。そう考えると恐ろしい。

 提示された三重苦を押し切ってまで薬を受け取る気も起きない。

 

 終始手を動かす彼女も忙しそうであるため、用件だけを済ませて別れた。

 全速力で飛ばしたからか、白玉楼に戻ってから三人に遅い理由を問い詰められることもなかった。

 

 料理の支度。食事中。食事の片付け。

 その最中ずっと、永琳から受け取った薬のことを考えていた。

 現に夜の自主練を行う今も、そのことについて考えを巡らせている。

 

「相当気になってるみたいだね、薬のこと」

 

 俺の異変に気付いたのは、最も身近な栞だった。

 隠すつもりではなかったが、特段打ち明ける必要性がなかったため口にもしていない。

 しかしながら、共に戦ってきた相棒には筒抜けだったようだ。

 

「ああ。この一錠だけじゃ心もとない――いや、()()()()()()()

 

 切り札と言えば聞こえは良いが、相手との実力差を一時的に埋める()()()()

 本来の力ではあるが、正当な力ではない。

 であれば、この一度限り許された抗いをいつ行使するかという問題が発生する。

 

 現在判明している限りでも、黒い獣と朱里。

 強大な敵は二つもいるというのに、対抗できるのは一度のみ。

 片方、もしくは両方をアンリミテッドを使わずに制圧する必要がある。

 先のことを考慮すると、薬を温存するのが理想的だというのに。

 

「うん。だから、君は強くならなくちゃいけないんだ」

「……でも、限界はある」

 

 人の成長なんて、妖怪の教えを以てしてもたかが知れている。

 幻獣襲来の間隔は短くなっており、修行に割ける時間も少ないと考えられる。

 強くなる、と軽々しく言えることではないことは確かだ。

 

「使うなら、あの黒い方かな。朱里にアンリミテッドで手加減なんて、そんな器用なことできるわけがない」

 

 蛇口を捻ることとは訳が違う。

 開いたら開きっぱなし、下方に調節はできない。

 

「……そのことなんだけどさ」

 

 栞が口を開いた。

 声が硬い。妙に静かだ。トーンも落ちている。

 察するに、少なくとも良いことを告げるわけではない。

 

「朱里のことは、諦めるべきだと思う」




ありがとうございました。
来週のテストの数がヤバいんだが助けて。
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