東方魂恋録 The Second Existed   作:狼々

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ようやく大学の最終課題が終わってほくほくです。


孤月・飛鷹

「無駄口を叩く余裕があるのかえ?」

 

 彼女の移動は目に留まることがない。

 声は後ろから訪れる。

 

 体を後ろへ倒しながら、勢いをのせて刀を向かわせる。

 ささやかながらの抵抗は簡単に破られる。

 刀は捉えず、蹴りは体側へと吸い込まれ、彼女の攻撃だけが正当化された。

 

「ぐっ……!」

 

 力任せに飛ばされたが、空中で受け身をとって減速。

 鈍い痛みが伝わるものの、まだ許容範囲だ。

 代償なくして今できる対抗策はない。

 

「シッ!」

「なっ──」

 

 動きを止めて最初に見た光景は、目前で彼女が足を振り抜く姿勢だった。

 かつても十分すぎるほど速かったが、これほど接近が速かったことはなかった。

 意表を突かれるまま、蹴りは見事に胴をえぐる。

 

 肋骨が折れる嫌な音が耳に張り付いたまま、再び体は空中へ投げ出される。

 肺の空気が押し出される感覚が止まないうちに、さらに衝撃が走る。

 重力加速に従いながら、地面へと叩き込まれた。

 全身が痛みに支配される。意識がはっきりしている分、たちが悪い。

 

「ようやくまともに入ったか」

 

 叫び声すら上げることができない。

 這いつくばる体にむちを打ち、立ち上がろうとするも上体が起き上がらない。

 なんとかいなしていたのでよかったものの、ついに大きな一撃が入る。

 なんとか拮抗させていた状況が悪い方へと動き出す。

 

「せめてもの情けだ、遺言は聞こう」

「ぐ、うっ……!」

「声も出せぬか。仕方あるまい」

「天、早く立って!」

「借りるぞ」

 

 彼女は付近に落ちた夜桜を拾う。

 栞の叫び声が何度も聞こえるが、立ち上がることはかなわない。

 歩み寄る音が警鐘となるも、最後まで体を起こすことはできなかった。

 

「さらばだ。弱くはなかったぞ」

 

 首元へと的確に刀は下りる。

 されど、体は動かず。

 

 

 

 

 鋭く刀が弾かれた。

 夜桜は彼女の手から離れ、再び地面に身を横たえた。

 

 そうして、来るはずのない救世主が現れたのだ。

 

「──当然。私が鍛えてますから」

 

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 

「よう、む……」

「凄まじい音がしたと思って来てみれば。もう少しで危ないところでしたね」

「お主か。また面倒な」

「今まで本気で刀を抜く理由はなかったのですが、致し方ありません。今しがた個人的に戦う理由ができました」

 

 厳しい声をもらしながら、よろめきを交えて彼は立つ。

 どういった風にやられたのかは見ていない。剣士の轟音が聞こえて飛んできただけだ。

 目立った外傷はない。しかし彼が地に伏したまま動かなくなるほどだ、内部での損傷が激しいのだろう。

 

 対して向こうは傷一つ負っておらず、焦った素振りもない。

 大きな音を聞いてから可及的速やかに向かったため、決して戦闘は長引いていたわけではなさそうだ。

 となると、一瞬で勝負がつくほど強力な技がある可能性が高いわけだ。

 

「動かない方がいい。内部的は傷ならなおさら」

「でも……もうそんなこと言ってられない」

 

 ほとんど意志で立っているようなものだった。

 創傷がないだけまだマシというものか。

 

 ともかく、彼に無茶はさせられない。

 そのために私がいるのだから。

 

 応援は望めるものでないと思った方がよいだろう。

 いくら大きな音とはいえ、合流までに幾許(いくばく)かの時間はかかる。

 それを待つ時間を稼ぎたいところだが、天君の傷を引きずらせるのは好ましくない。

 瞬間火力が高い相手に長期戦を挑むのも不利だ。

 

「──と、ごちゃごちゃ考えてみましたが。実を言うと相当頭にきています」

「悪いが怒りを買った覚えはないのう」

「自覚がなくても構いません──気が収まるまで斬るだけだ」

 

 数丈ほどはある間合いを一歩で詰める。

 驚いた様子が垣間見えたが、それだけだった。

 

 何をするわけでもない相手を一閃。

 しかし剣は滑らかに飲み込まれた。

 手応えがないことに驚くより先に、次の一閃を叩き込む。

 またしてもすり抜ける。反発の代わりに伝う不気味な感触を置き去りにして、刀を振るい続ける。

 

 余計なことは考えず、ひたすらに斬り続ける。

 五回目ほどで彼女はその場を離れた。

 

「おいおい、狂戦士ってにも程があるじゃろうに」

「なるほど。彼がしようとしていたことがなんとなくですがわかりました」

 

 彼女がなぜ退いたのか。攻撃を無力化できる(すべ)があるというのに。

 簡単な話、攻撃を受けると都合が悪いのは彼女とて同じということだ。

 対峙してすぐにわかる。()()()()()()()()()()

 

 たった二回だけ攻撃をいなしてわかる程度だ。一回における霊力の消費量は大きいのだろう。

 考えてみれば、私が駆けつけたときには既に霊力が弱まっていた気もする。

 以前相まみえた際よりも、霊力が枯渇に近付いていることは感じられた。

 

 攻撃が通らない相手に持久戦。分が悪いにも程があるが、彼がしゃかりきになって戦うとは考えにくい。

 唯一の突破口として採用せざるを得なかったのだろうか。

 

「私は手数で勝負できるので、楽に決着をつけられそうですね」

「言いおる。新藤よりも手を焼くことは確かじゃが、妾は短期決戦が苦手とは言った覚えがない」

 

 彼女が不敵な笑みを浮かべると、すぐにその表情は姿ごと消え去った。

 気の移動を察知し、素早く視界に彼女を入れる。

 既に蹴りの動作に入っていることを見届け、刀の応戦では遅すぎると悟った。

 

 体を後方へ反らし、最低限の動きで躱した。

 すかさず次の蹴りが来る。そう確信した上で後方へ大きく飛んだ。

 退いた場所から感じる風圧が、一撃の重さをひしひしと感じさせた。

 

 思惑通り、勢いを絶やすことなく再度距離を最速で詰めてくる。

 体勢が前傾になっていることを確認し、地に足が着いた瞬間、逆に前へ飛び込んだ。

 反応はできても対応ができない速度で互いの距離は埋まっていく。

 地を蹴ったのと刃が通ったのは、ほぼ同時に思えた。

 

「ぐっ……!」

 

 かなり深い一撃。もしこれが人間相手だったならば、胴が二つに切断されていることだろう。

 彼女も苦しくうめき声を上げているが、いまいち感触が悪い。少し大袈裟に言えば、空気を切っているのと大差ない。

 

「次同じようなことになれば、確実に死にますよ」

「それが……どうした」

 

 流血もない。ただ不可視の傷を痛そうに押さえるのみ。

 様子を見る限り、私の一言に間違いはないだろう。

 

 張り詰める空気。音を鳴らす荒い呼吸。

 一撃が命取りとなる状況。緊張が走る。

 

 天君が前に出る気配もない。邪魔をしないためか、やはり傷が深いのか、はたまたその両方か。

 何かを察した彼女は、踏み込む。

 現状有利なのは私であることに変わりない。傷をいたわるよりも先に決着をつけなければ勝ち目がないとわかったのだろう。

 

 

 

 ──夜闇の緊迫を破ったのは私でも彼女でも、彼でもなし。

 森の奥から漂う白い冷気だった。

 肌寒いという言葉では足りない。氷点下を割っているのかと錯覚してしまうほどだ。

 

 異変に気付いた彼女は、源である背後を確認。

 

「まずいッ──!」

 

 その一言とほぼ同時に、氷の針が彼女の体を貫通して私めがけて飛んできた。

 

「がっ!」

 

 まさか間に人を差し込んだ攻撃など避けられるはずがない。

 そもそも攻撃だと認識できなかった。

 左肩に刺さったそれを見る。

 

 円錐形の氷。氷柱(つらら)という言葉が最もふさわしいだろうか。

 私の腕ほどの太さで、空気すら凍らせて飛来してきていたのだ。

 状況が飲み込めないが、少なくとも好転したわけではないことは確かだ。

 

「おい妖夢、大丈夫か!」

「いえ、問題ありません──?」

 

 駆け寄ってきた天君に返事を送るが、語尾が上がる。

 疑問は二つ。

 

 一つ、彼女が上げた危険の声と、こちらを見る視線。明らかに予定されたものではないこと。

 一つ、刺さったはずの氷柱がみるみるうちに蒸発していく。ひんやりした感覚と明確な痛覚を残しながら形が空気に溶けていく。

 

「天、妖夢ちゃん。すごくまずい。霊力が、大きすぎる」

 

 栞ちゃんの一言は、重いものだった。

 木々の隙間から押し寄せる霊力は、もはや霊力ではない。

 霊力であることは確かだが、霊力という言葉で片付けられない。もっと強大な何か。

 神聖な雰囲気が、心を(すく)う感覚。

 

 そう、これを形容するならば──畏怖。

 

 自然の極地。ただの森がそう感じさせた正体がこちらへ寄ってくる。

 軽い音で土を踏みながら現した姿は、華奢な体躯。水色の麒麟だった。

 首は長くない、まさに中国聖獣の麒麟。

 

「ォォォオオオ──!」

 

 幻獣は夜闇をさらに凍えさせる。

 甲高く気高き咆哮と共に、何もない空間から氷柱が形成されていく。

 麒麟は高く跳躍し、帯びた無数の氷柱を空から放出した。

 

「妖夢!」

 

 炎の一閃。天君が凪いだ刀は熱を宿していた。

 弧に沿って走り火が飛ぶ。たちまちに氷塊は蒸発し、周囲は(いぶ)される。

 

 朱里は相殺の術がないのか、回避に徹していた。

 透明化も織り交ぜるが、全てには使わない。いや、使うことができない。

 降ってくる氷柱の数が多すぎる。さらに私との戦いで消耗しているため、あと数秒ももたないだろう。

 

 そう思案してすぐに、物理法則がねじ曲がる。

 自由落下に従っていただけの氷塊は、まるで意志を持ったように途中で進路を変えた。

 死角から襲う氷柱に透明化で対応していたが、まもなくして一本が刺さる。

 

 それを認識したのか、氷柱を朱里に集中させた。

 体を反らさせたことを読んだ上で氷柱を向け、確実に当てた。

 腕に刺さった氷は勢いを殺すことなく、朱里の体ごと動かしてみせる。

 やがて木を背にして衝突。氷柱が釘の役割を果たし、動きを完全に封じられた。

 

「お姉ちゃん!」

「……妖夢。想像以上にまずいぞ」

「確かに、不自然でもありますね」

 

 かつての幻獣はこれほど賢くはなかったはずだ。

 だがこの怪物は違う。

 天君に攻撃が通用しないことを確認し、標的を変更。

 氷柱を死角へ誘導し、能力発動を強制。体格の小さい彼女の腕を的確に狙い、木に(はりつけ)にする。

 戦術とも言える動きを、動物的思考をもつ幻獣にできるはずがない。

 

 地に降り立った麒麟はこちらを見据えている。

 間違いない、この幻獣には知性が備わっている。

 でなければ説明がつかない。戦法も、今こうして様子を見るという静の動きにも。

 

「……天」

「なんだ」

「馬鹿なことを言うって自覚してる。でも一度だけのわがままだから──」

「妖夢。三十秒、あいつの相手を頼めるか」

「足止めなら」

「……ありがとう、二人とも」

 

 栞ちゃんの言葉を待たずに天君は決定を下した。

 

 行動開始。彼が朱里のもとへと走る。

 阻止するように氷柱が飛んでくるが、間に入って弾き落とす。

 

 弾き続けても埒が明かない。さっきのように方向を曲げられたら防ぐにも限界がある。

 麒麟に圧をかけつつ、囮役に徹するほうが確実だ。

 

 接近し、本体に刀を振りかざす。

 四足歩行とは思えないほど軽快な足取りでかわされるが、目的は所詮陽動。

 注目を浴び続けるため、回避に重きを置きつつ、隙を見て攻撃の意志を見せる。

 

 完璧に麒麟の意識がこちらへ集中したことを確信し、彼らと逆方向へ移動。

 またしても上空から氷柱が降ってくるが、数が少ない。

 回避と刀を利用した弾きでかいくぐり終えて、前進しようとして気がついた。

 

 足が動かない。足元を見ると、麒麟からこちらまでの地面が凍っていた。

 刀で氷を弾くタイミングで凍らされたのか。

 足首から下が固定されている。刀で削ろうにも、氷柱とは比べ物にならないほど硬すぎて破片すら散ることがない。

 

 はっとなり、麒麟を急いで視界に入れた。

 しかし、時既に遅し。私が見たのは、私を踏み潰そうと前足を落としていたところだった。

 すぐに刀を間に挟む。刀で片方の足は抑えられるが、もう片方はどうにもできない。

 

 腕にのしかかる強大な力。体躯に似合わない力量に刀が手から滑り落ちそうになる。

 しかし、それよりも先にもう片方の足が私へと届くだろう。

 

 

 

 凄まじい打撃音。空気を揺らし、地面を揺らしているのが氷越しでも伝わってきた。

 まもなく麒麟は体勢を崩し、前足が襲ってくることはなし。

 刀にかかる馬鹿力もふっと消える。

 

「──弧月・飛鷹」

 

 私を救ったのは、彼の()()だった。

 

「なるほど、こりゃいい」

 

 的確に頭を捉えた一撃。彼は溢れんばかりに紫の霊力をまとい、笑みを浮かべていた。




ありがとうございます。

かなりハイペースですが、どこで次回の持ち越しをしようかと考えたところ、新技出たあたりが良いかと思い、かなり詰め込みました。

次回、少し戻った天君視点から始めようと思います。
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