東方魂恋録 The Second Existed   作:狼々

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お久しぶりです、半年あきましたね。(白目)
とはいえこの話は既に数ヶ月前に書き上がっていて、他の作品が書き終わってないから足並みをそろえるって感じで上げるの控えてました。
なかなか書き上がらないし、年内には上げたいと思ってたので上げます。

兎にも角にも、爆発で吹き飛んだ彼ら彼女らに敬礼を。


悪意なき疑念

 熱を帯びた突風は体を安々と吹き飛ばす。

 妖夢は体勢を立て直し、受け身をとった。しかし、蹴りで崩れた姿勢のまま飛ばされた俺はそれがかなわない。

 勢いを殺さず背が巨木に激突する寸前、何に支えられた感覚が激痛に取って代わる。

 

 (まぶた)に貼り付く熱が収まってすぐにわかった。

 

「……サンキュー、朱里」

「中にいる妾がどうなるかわからなかっただけじゃ。勘違いするでない」

 

 朱里が実体化し、俺を抱えていた。

 妖夢の姿はここから見えず、声も聞こえない。

 麒麟があの爆発で生きながらえていることはないだろう。現に巨大な霊力は消え失せている。

 しかし受け身を取っていたとはいえ、すぐ近くにいた妖夢が心配だ。

 直ちに立とうとするも、足に力が入らない。

 

 完全にガス欠だった。霊力はほとんど残っていない。

 霊力も体力も底をつきかけているというのに、朱里が霊力を奪って外へ出ている。

 地面に横たわることしかできない俺に待っていたのは、夜桜を奪った朱里だった。

 (わらべ)にはどうにも似つかない長刀が、違和感を隠さずに俺の首元を捉える。

 

「今この瞬間、誰も止める者はおらぬ。誰も見ておらぬ。お主は動けぬ。栞よ、止めるならばお主ごと斬る」

「こりゃまた大胆だな」

「殺す前に問おう。なぜこの世界に固執する。あの女のためか? それとも他の仲間のためか? お主にとってのこの世界は異端で、この世界にとってのお主は異分子。互いに邪魔でしかなかろうに」

「もう他人事じゃないんでね。俺がここで戦う運命にあるから従うだけだ」

「……解せぬな。その数奇な運命は自らの命を賭すに値するのか?」

「言ったとおりだ。もう他人事じゃない。仲間が自由のために命を賭けるなら俺も同じだよ」

 

 彼女らは自由のために戦っている。

 邪悪で不遜な侵略者を退けるために戦っている。

 彼女達が命を賭けると言うならば、俺も同じく命を張って幻想郷の存続に貢献する。

 

 二年も前に決めたことだ。

 自身の決意に疑問を持ったことも、諦めたこともない。

 

「でははっきりと言おう。妾が全ての幻獣を動かしている。つまりれっきとした敵じゃ」

 

 数秒の沈黙が流れる。

 こちらを見透かそうとする朱里の視線だけを感じる。

 

「違うね」

 

 そう断言したのは栞だった。

 

「自ら言っているのだぞ」

「嘘だってことだよ。仮に本当だとしたら不自然だよ」

「どこが」

「さっきの戦闘でお姉ちゃんは死にそうだった。自作自演にしては度が過ぎてる」

「そうでなければ現実味がないだろう。騙す以上、嘘だと悟られないよう努めるのが当然じゃろう」

 

 栞の意見はもっともだが、彼女のさじ加減で結果が変わる以上、平行線をたどることになる。

 疲弊した脳を回転させ、彼女の矛盾を突きつける。

 真偽は定かではないが、栞が嘘だと言い張るならば俺もそれを支持するべきだ。

 そうして一つの(ほころ)びが見つかった。

 

「最初の幻獣──雷を落とす黒い幻獣を退かせた意味がわからない」

「妾が逃げる時間を稼いだと錯覚させるためじゃ」

「ますますわからないな。俺達に戦わせた方がもっと長く時間を稼げるだろ。俺だったらそうするね」

「万が一でも倒されてはかなわんからのう。こちらとて戦力は限られておる」

「俺達はすぐに撤退の判断をした。大声で皆に呼びかけたのが聞こえたはずだ。なら背中を襲うだけでいい。リスクを恐れた理由にはならない」

 

 値踏みするような目。心意を覗こうとする目を正面から受け止める。

 とはいえ、時間を稼ぐにも限度がある。

 

 朱里が自ら剣を下ろす以外に最善なのは、妖夢がこの場へ飛んでくること。

 別々に吹き飛んだためか、彼女がやってくる気配はおろか、声や足音すら届かない。まだ意識が戻っていないのだろうか。一刻も早く安否を確かめなければ。

 

 ──そうして聞こえたのは、乾いた拍手だった。

 一人分のささやかな、毎秒一拍の音が妙に落ち着いている。

 森の奥から現れたのは、想定外の人物だった。

 

「素晴らしい戦いでした。たった二人で討伐してしまうなんて。……あぁ、僕が言うと嫌味に聞こえるかもしれませんが、純粋に敬意を表した言葉ですよ」

「……成瀬」

 

 悪意など介在しない顔だ。非常に穏やかなだけに、逆に神経が逆なでされている気分になる。

 今更何をしにと声をかける前に、成瀬が釘を刺す。

 

「あまり喋らない方がいい、傷が広がりますから。それと、彼はうちの戦力だ。殺さないでおいてくれると助かるのですが」

「妾の知ったことではない。そも、面識もないお主の頼みを聞く義理などあるまい」

「だと思った」

 

 彼の勧善懲悪を遂行すべく、虚空から紫の薙刀(なぎなた)が手中に現れた。

 さも自信あり気に登場したのは、以前に覚えのある西洋の剣ではない。

 

「驚いたって顔ですね。武器なんて、なんだっていいんですよ。首を()ねるか、心の臓を突くか。重要なのはそこじゃない」

 

 にじり寄る彼は手加減を知らない、もといするつもりもないのだろう。

 咄嗟に掴んだのは、あまりにも細く幼い腕だった。

 

 訳がわからないという顔をされようがこちらの知ったことではない。

 今この場を穏便に収めるために。できることの方が少ないのだ、迷うだけの選択肢すらあったものではない。

 目での訴えを怪訝そうに受け取った彼女は、納得いかない顔のまま空気に形を溶かしていく。

 やがて境界の全てが消え去り、全身が息を吹き返す感覚。

 奔流の赴くままに剣を取り、立ち上がる。

 

「悪いね。彼女はうちの戦力だ。殺さないでおいてくれると助かる」

 

 場に一時の静寂が吹くが、我ながら苦笑いしか浮かばない。

 

「……今度はこっちが驚くことになるとは思わなかった」

「お返しできたようでなによりだよ」

「君と彼女の関係がどういったものなのか、ある程度は理解していますよ。あえてわかりきった忠告をしますが、危険すぎる」

 

 彼の言わんとすることはわからないでもない。というよりも、彼の言い分の方が幻想郷側から見て筋が通っているのだ。

 わざわざ危険分子を内包させることはない。言葉にせずとも容易(たやす)く理解できる。

 

「わかってる。だから、もし()()なったら──俺がやる」

 

 風切の音が聞こえる。木々のざわめきがはっきりと聞こえる。

 彼は数秒流れた沈黙の末に、結論を述べる。

 

「無理です。貴方が彼女よりも常に強くありつづける保証はありません」

「そうか。なら前回の続きといこう。俺が勝ったら朱里は生かす。負けたら、ってことでいいだろ。俺もちょうどリベンジしたかったとこだ」

 

 刀越しに成瀬を見据える。

 あくまで試合。()()()ではない。

 彼は悠長に、余裕綽々といった様子で薙刀を向けもしない。

 

「リベンジとはご挨拶な。勝負にもなってなかったでしょ」

「さあ、今回はどうだろうな。そっちからどうぞ」

「そう。じゃ遠慮なく」

 

 構えすら取らなかった姿勢から急速に距離が縮む。

 瞬きすら許さない奇襲に反応するのがやっとだった。

 しかし、意識が介入することなく右足が動いた。

 長柄の側面を的確に捉え、負傷なし。さらに軌道は何もない空間へと逸れる。

 

 さすがの成瀬も、成功を確信した急襲に失敗したためか、驚嘆の表情を隠せていない。

 しかし、わずか瞬き一回分ほどで体勢を立て直しはじめていた。

 十分だ。背中の刀が彼の喉元手前で止まるまでに、瞬き一回分の時間もかからなかった。

 

「……こりゃ失礼。まさか勘を取り戻していたとは思いませんでした」

「どうも。一勝一敗、もういいだろ。訓練でもなく仲間内で刀を合わせるなんて、馬鹿げてる」

 

 言いたいことを吐き捨てて、刀を鞘へ。

 こんなことをしている場合じゃない。早く妖夢を探さなければ。

 足が動く前に、成瀬が奇妙なことを口にした。

 

「おかしいとは思わないんですか?」

「何が」

「幻獣がどこから来るのか。それを予測できないのか。事前に止めることはできないのか」

「だから、何が言いたい」

 

 彼の言葉に悪意は存在しないように思える。

 が、どうにも信用に欠けるというか、信用する価値を見いだせない。

 争いの種を撒いているだけに感じるものの、彼も一応は幻想郷側のはずだ。

 

 ならば、彼の捨て台詞にも相応の意味があるのだろうか。

 

「考えられることは一つ。内通者。裏切り者。密告者。これらの(たぐい)の奴がいるってことです。もしこれが本当なら、説明がつくと思いませんか?」

 

 何を言うのかと思えば、と一蹴する気も失せたのではない。

 彼の発言に多少なりとも、説得力を感じてしまっていた。

 

「それもただのスパイじゃない。幻想郷の住人。あの()(くも)(ゆかり)(はく)(れい)(れい)()を欺ける人物。結界の存在を無視できるなんて、外の世界の住人にはそうそうできることじゃない。特異な力を持つ人間か、悪魔か、妖怪か、あるいは神か」

 

 共に戦う仲間が、裏の顔を持っている。

 そんなことはないと頭ごなしに否定はできるが、仮定の世界で話を進めるのであれば、可能性はある。

 可能性を否定しきれないと曖昧に濁すほど単純な問題ではない。できる人間は限られている。

 

 それだけに、決定的な違和感を気のせいだと目を背けることができない。

 

「なんにせよ、信用のしすぎは破滅を導きますよ。共闘した仲間を信頼するなとは言いませんが」

「……考えとくよ」

「それはよかった。僕も調査中です。貴方に話したのは、外の世界から来た損得勘定のない純人間だからです。あまりこのことは不用意に外へ漏らさないよう。もちろん、貴方が最も信頼を寄せる彼女にもね」

 

 足を先に動かしたのは、俺ではなく成瀬だった。

 木々や葉を踏みつける音が遠ざかり、それと入れ違いになるようにこちらへ寄ってくる足音と声がした。

 

「天く~ん、大丈夫ですか~!」

 

 ああ、大丈夫だ。そう口にする前に体から力と充足感が抜けた。

 目前に朱里が立っている。もう自重を支えるだけの力が足に残っておらず、膝から崩れ落ちた。

 

「気をつけろと釘を刺されたばかりじゃろうに」

 

 呆れた声をそっと囁かれ、文句が続くこともなく俺の体を支えようとしている。

 右腕に幼い体がすっぽりと収まっている様子は、支えるというより肩から引き寄せるといった具合だ。

 

「おもっ……おい。なぜこんなにも重い。鍛えてるのではないのか?」

 

 前言撤回。文句たらたらだった。

 

「うるせー。脂肪より筋肉の方が重いんだから、鍛えてるからこそ重いんだ」

「元人間が言うのもなんじゃが、霊体になれないのは不便じゃのう」

「よかった! 早く永遠亭に……ええぇ~」

 

 再会と無事を喜ぶ妖夢だったが、すぐに訳がわからないと顔に文字が浮かぶ。

 疑問に思うのも仕方がないが、俺としても説明し難い。

 首が飛んでいても不思議ではないはずだが、なぜ運命を回避できたのか自分ですらわからない。

 

 怪訝な面持ちを崩さないまま、妖夢はもう片方から俺を支える。

 ゆるりと空へ浮上し、向かうは永遠亭。

 永琳の小言くらいは覚悟して、常識知らずな時間の来院を許してもらうとしよう。




最近原神に復帰。見事にハマってます。ちょうど更新止まって少ししたあたりから。
神里綾華雷電将軍タルタリヤ胡桃アルベドエウルアと、最近のガチャはほぼ全部引いてます。
助けて。
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