東方魂恋録 The Second Existed   作:狼々

7 / 16
投稿する、といいながら4日ほど経ちました。

忘れてました。


栞の名を知る童女

「では、どうぞ」

「……シッ!」

 

 鋭く息を吐き、気合いを刀に乗せる愛弟子。

 瞬く間に詰められた距離に怖気付くことなく、斬撃をさばく。

 

 一度、二度、三度と代わり映えのない景色が続く。

 幾度も火花が散り、勢いが鈍ってゆく。

 

「やはり、遠慮していますね」

「んなことはない! こちとら全力ですよ!」

「いいえ。貴方は心のどこかで、私を斬ることを恐れている。そんな意味のない自信など捨てなさい。私は弟子に斬られるほど甘くはない」

 

 そう声をかけると、襲いかかる技は鋭く、重くなる。

 体重を全力でかける弟子の様子に迷いはなく、もう甘さはなくなったようだった。

 しかしながら、依然として彼の刀が状況を一転させることはなし。

 

 繰り返すこと十と数分。

 握力が限界にきたのか、刀に覇気がない。

 彼の額や頬には、玉の汗が見え始めていた。

 ここらが潮時だろう。

 

 刀が交わった瞬間、軽く弾きあげた。

 夜桜は彼の手からこぼれ、庭へと力なく落ちる。

 握力がない上に汗で滑るため、彼から刀を取り上げるのは容易だった。

 

「ここまで、ですね」

「……あ〜! どうにもダメだ」

「何事も下積みですよ。刀を取る以前の問題です。十分しか戦えない剣士など、前代未聞です」

「まあまあ、そんなこと言わずに」

「私は弟子を甘やかすつもりはありません。弱音を吐く暇があるのなら、剣を振りなさい」

 

 自分で言葉にしつつ、心が痛む。

 そもそも、彼がこの世界の命運を背負う義務も責任もない。

 逃げ出すことも自由、戦うも自由のはずだ。

 

 私の行動が横暴だ、と言われればそれまで。

 しかし彼が立ち向かう未来を選んだ以上、私は彼に厳しく当たるだけだ。

 それが私自身──師匠としての義務であり、責任である。これだけは間違いない。

 

「……悪い。続けよう」

 

 私を見つめ返す彼の双眸。さらに心が乱される。

 顔色が悪い。当然だ。

 

 極度の疲労。全身に張り詰める緊張感。

 自身が英雄であるという重責と、彼に成り代わる成瀬 白夜の存在。

 唯一性を失いつつある彼の席が脅かされる今、彼の居場所がなくなりつつある。

 勿論、本当に幻想郷に居場所がなくなるわけではない。

 ただ彼にとって『英雄』の座席は彼だけのものであり、少なからず()()()である部分もあるに違いない。

 

 精神も不安定な中、私は彼を応援どころか追い詰めようとしている。

 その選択は紛れもなく私のものであり、自分の行いが正しいのか不安にもなる。

 慰めの言葉を送ろうとして、咽頭の奥へと無理矢理に押し戻す。

 

「そうです、立ちなさい。刀を交えなければ、取り返せないものも、持っているものをこぼすこともある。それが嫌ならば、立ちなさい」

 

 フラつく両足で彼は何とか立った。

 夜桜を正眼に構えるものの、隙だらけの姿勢。

 そこらの一般人ですら、今の彼を叩き斬るのは造作もないだろう。

 

 私がほんの一瞬、彼の刀をもう一度弾こうと、前傾姿勢を取ったとき。

 彼の周りを多量の白煙が包んでいた。

 温かく、朧げに空へと消えるそれは、彼の霊力だ。

 もう絞りきったはずの霊力が溢れ出している。

 

「それ以上はまずい!」

 

 叫んだのは、翔君だった。

 霊力とは、文字通りに自分の魂の力。

 言うまでもなく有限であり、霊力を放出するということは、自分の魂を削ることと同義。

 必要以上にそれが漏れ出す状況が危険であることは、想像に難くない。

 

「大丈夫。あんまり舐められちゃ困るよ」

 

 口にしたのは、意外にも栞ちゃんだった。

 先程まで静かだった彼女が、突然に発した言葉だった。

 

「さっきまで、栞ちゃんの力を借りていなかったのですか?」

「いいや、借りまくってたとも」

「そう、貸しまくってたとも。正真正銘、これは天のものさ」

 

 ありえない。彼の様子を見るに、こんな霊力はどこにも残っていないはずだ。

 体力を温存して、手を抜いていたとも考えにくい。

 では、この力はどこから湧いているのだろうか。

 

 徐々に彼の両目に生気が宿る。

 構えに隙がなくなった頃には、彼の身に纏う雰囲気は、むしろ稽古前よりも鋭くなっている。

 あいも変わらず、その滾る力の出どころは不明。

 私は困惑せずにはいられなかった。

 

「本当に、貴方には驚かされてばかりだ」

「俺も驚いてるよ。自分の師匠が想像以上にスパルタでさ」

「それを言われると困ります」

 

 彼の踏み込む一歩は、想定外のものだった。

 速い。先程までとは動きが違う。

 眼を見張るほどの速度でこちらへと向かってくる。

 真正面で対峙していただけに、ノビがすさまじい。

 けれども、私が捉えられないほどのスピードではない。

 

 刀を合わせ、競り合いが始まる。

 爆弾が作動したような衝撃波。耳を引き裂くような金属音。

 全てが桁違いだった。

 

 どれだけの潜在能力を秘めていたのか。

 それも、無自覚ながらに。

 彼が杜撰(ずさん)な性格ではないことがわかっているだけに、不思議でたまらない。

 最前線で戦っていたときに勝らずとも劣らず、といった具合だ。

 

 心を折るようで申し訳がないが、これも師である役目。

 迷うことなく、彼の刀を大きく吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 今日の修行は終了。

 天君達を白玉楼においていき、人里へと降りて買い物中。

 店々を回りながら、今日のことを振り返っていた。

 

 やはり、どう考えてもおかしい。

 天君との対峙が終わった後、翔君とも手合わせをした。

 彼はというと、予想通り、体力・技術共に低下していた。

 

 それを思えば、やはり天君の体力は常識はずれだ。

 あの回復力は人間では到底ありえない上に、あろうことか勢いが増すなど。

 体があたたまった、とでも言うのか。

 

 ──これも、能力の恩恵なのだろうか。

 彼の底知れぬ体力気力迫力、そして信念。

 宿った能力は『努力』ではない、紫様にもわからないなにか。

 当然この先、休みなく戦う上で、避けては通れない問題だ。

 問題とはいかないまでも、いずれ真実と対面する時がやってくる。

 

 考えをまとめようとした頃には、既に買い物も終わっていた。

 こうして晴天を飛んでいても、心と頭が晴れることはない。

 

 いや、恐らく私が悩んでいることはそれではない。

 考え事をして、一部の村人の内緒話(ないしょばなし)を聞かないフリをしていた、自分の姿勢に自信が持てていないだけだ。

 私にはどうすることもできない故に、割り切ってしまうしかない。

 

「おかえり、待ってたぞ。お疲れ」

「あ……」

 

 ふと気がつくと、私の眼下には白玉楼が広がっていた。

 稽古が終わって疲労困憊しているかと思ったが、出迎えるほどの気力は残っていたみたいだ。

 

「ありがとうございます。すぐに夕食を作りますからね」

「そんなに急がなくてもいいさ。それより、俺は今から永琳のところに──」

 

 天君が口にしたのはそこまでだった。

 不穏な気配が湧いて出た。幻獣とは違う、別のなにか。

 心底掴みづらい、弱々しい影が差した。

 

「一応、行ってみるか」

「そうするのがいいでしょう。何もないなら、それに越したことはありません」

「ないな。俺だけじゃなく、妖夢も感じたんだろ?」

 

 ただ一人の勘違いで済むのならよかったが、二人も違和感を覚えている。

 少し、心の準備をする必要がありそうだ。

 

 

 

 ―*―*―*―*―*―*―

 

 俺と妖夢、栞の二人で、様子見へ。

 翔の判断も速やかで、半数を屋敷に残し、残りが確認へ。

 離脱できるようなら離脱を試むように、とのことだ。

 

 俺達以外に応援は見えないため、誰かが異変に気付かない限りは二人で戦うことになる。

 ならば、戦線離脱を優先するのが妥当な選択と言える。

 それが向かうは人里離れた森の奥なのだから、被害が大きくなる可能性は低く、なおさらだ。

 

 細心の注意を払いつつ、着地。

 辺りを見渡そうにも、夕刻を告げる空から差し込む光は少ない。

 さらには、雑木林とも思える木の本数。

 木陰が連続しており、お世辞にも見通しが良いとは言えない。間違いない。

 

「誘われてますね」

「だろうな」

 

 こんな森の奥で、さらに感じる気配は緩く止まっている。

 一歩も動くつもりがないようだ。

 

「人……なんでしょうかね」

「多分。この大きさの幻獣は絶対いないね。私も探してるんだけど、他に手がかりもなさそう」

 

 総出で警戒網を敷くも、栞の言う通り、気配はこの弱々しいものただ一つ。

 なるべく音を立てないよう、忍び足で気配へ近寄る。

 

 あと十メートルほどの位置で、気配が消えた。

 それを察知したらしい妖夢を、面食らった様子だった。

 

「一旦引き返すぞ。静かに戻って──」

「その必要はない」

「は──」

 

 後ろから俺の言葉を遮ったのは、覚えのない声の持ち主だった。しかも、相当に若い。

 若いというよりも、幼いという表現が適切だろうか。

 思わず振り返ると、妖夢の他にいたのは、年端も行かぬ少女だった。

 

「む、お主が新藤という者か。実物は思いの外若いな」

「いや、君に言われたくはないし。それより、迷子なのかい? 人里まで送っていくよ」

 

 あどけなさが全面に出た容姿とは似つかわしくない、古風な話し方だ。

 幻想郷は外の世界よりも文化は遅れているが、喋り方もそうなのだろうか。

 少なくとも、俺が以前いた頃にそういう言葉遣いをしていた人は見たことがない。

 

「たわけ。妾が呼んだのじゃ。なぜ妾が赤子同然の扱いを受けにゃならんのだ」

 

 呼んだ。俺達を、この小娘が。

 あまりに突飛な通告だったが、刀に手をかけるくらいはできた。

 

「……何の用だ」

「時雨、という名に聞き覚えがあるじゃろ。どこにおる」

 

 今、この少女は何を言ったのだろうか。

 時雨という人名に覚えはないか、という質問。

 俺の警戒心は最高潮に達し、脳内で警鐘が鳴り止まない。

 

「いるもなにも、もう死んだ」

「ほう、そいつはお主が斬り伏せたのか?」

「そうだと言ったら、どうする」

「そうか。ならば、()ね」

 

 小さな体躯は、俺の視界から消えた。文字通りに。

 臨戦態勢は取れていた。見逃すはずもない。

 そもそも、真正面で捉えた相手を見失うなど──

 

「右じゃ、ウスノロ」

 

 衝撃。理解が追いつかないまま、左へ体が吹き飛んだ。

 すぐに背中から巨木に激突し、肺の中の空気が無理矢理に押し出された。

 

 妖夢が驚いたのも一瞬で、少女の方へ詰め寄った。

 しかしそこでも、少女の姿は砂埃すら起こさずに消えてしまう。

 瞬く間に少女が現れ、同時に妖夢の体躯は吹き飛ばされた。

 俺と同じく木にぶつかって、土の上でうずくまっている。

 

「あ、ぐっ……!」

 

 見た限りは蹴りを入れられたようだった。

 自分で体感してもわからず、謎の衝撃に吹き飛ばされた感覚。

 妖夢を心配しようにも、自分の体が先に悲鳴を上げていて、大きく声を発することすらままならない。

 

「どうして……いや、でも……」

「あ、あぁ……?」

 

 胸部に鈍痛が走る最中、栞の消え入りそうな声に途切れ途切れながらに反応した。

 

「やはり時雨は──どうしようかの」

 

 対する少女は何事もないように、溜め息混じりに呟いた。

 苦痛に侵された体を懸命に起こし、再び柄に手を添えたときだった。

 

「天、そいつ殺さないで」

「は? 手加減とかしても意味ないし、第一そんな余裕は──」

「いいから!」

「おお、そうじゃったな。そっちは楽しくやっておるかの、栞?」

 

 矮小な少女は、彼女が知るはずのない者の名を口にした。

 栞の名を知る童女は、不敵な笑みを浮かべて、こちらを見据えていた。




一人暮らしにも慣れてきました。
意外と自炊とかもできました。

投稿の頻度はどうなるかわかりません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。