東方魂恋録 The Second Existed   作:狼々

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遅れてすみませんでした。
大学始まってすぐに世の中大変なことになり、色々しなければいけないことが増えました。

一人暮らしにも慣れてきましたが、なかなか時間がとれないことも事実。
時間作って書いていきますので、これからもよろしくお願いします。


雷落ち、希望堕つ。

 眼前に立つ少女は、敵か、味方か。

 その迷いが俺の中で膨張した瞬間だった。

 

「私は……信じたくないけど」

「信じる信じないではない。これが事実じゃ、お主と袂を分かつつもりはなかったが、その男は時雨の命を絶ったというのでな」

「お前、時雨が何をしたかわかっているのか?」

「もちろん。しかし、それは時雨が悪だの正義だのという問題ではない。親しい者を眠らせたならば、相応の報復を執り行う。それが人道に反するとしても、一感情として自然ではないかの?」

 

 どうやら、彼女を敵味方で分けることは困難を極めるらしい。

 一番適切なのは、『時雨の味方』という区分だろう。

 だがこの場限りでは──間違いなく敵だ。

 

「それで、お前は誰なんだよ」

「妾に聞くよりも、栞に聞いた方が早い。のう?」

「彼女は……朱里(あかり)は、私の()だよ」

 

 栞の姉。名は朱里。

 信じられない。なぜ栞の姉が今の時代を生きている。

 栞は生霊となり、刀の使用者と共存していたから現在も存在しているわけだ。

 生身の人間が自然の摂理に従って何百年も生きられるはずがない。

 

「そういうことじゃ。たとえお主が栞の依り代(よりしろ)であろうと、妾は殺すぞ」

 

 ひどく冷たい目をしていた。栞の血が混ざっていることを疑問に思うほどに。

 彼女にとって、時雨がどれほど大事な人物だったのか。

 それを明瞭に示す眼差しだった。

 

「……盲目的だな。ヤツが真っ当な人間とは到底思えないが」

「たわけ。時雨の為すことなど、極論妾にとってはどうでもよい。幻想郷(ここ)がどうなろうともな」

「じゃあどうして、時雨を探してた? 何がどうなっても、アンタには関係ないはずだが」

「簡単じゃ。生にしがみつくのは、お主らと同様、妾もである」

 

 朱里の言うことが本当ならば、やはり彼女が生きているのは異常なことだ。

 なにかしら延命の手段を時雨が持っていた、ということが予測できる限り。

 そしてこの瞬間、俺の本来の目的も、たった今達成されたわけだ。

 

 地に伏していた妖夢が起き上がり、刀を抜いた。

 俺が会話の内に稼いだ時間で、妖夢は距離を詰め、刃が肌をなぞるまであと一秒もない。

 朱里も音で攻撃を察知したものの、もう避ける時間もない。

 背中から一閃すれば、致命傷を免れる理想的な鎮圧ができるだろう。

 

 ──そう予想していた俺が馬鹿だったのかもしれない。

 朱里が妖夢の接近に驚いた瞬間に、またも彼女は霧のように消えた。

 動きが速すぎる。時が止まったとしか思えない。

 ちょうど咲夜が、時間を停止させて移動しているような感覚だ。

 

 だが、妖夢はそれすらも想定していたらしい。

 刀を振り終えてすぐに右へと飛んだ。

 まもなくして妖夢の顔の左を朱里の蹴りが凪いだ。

 

「ほう、お主はできるのう」

「一応、彼の師匠なもので」

「妾は新藤にしか興味はない。お主が手を引くならば、妾も引くことを約束しよう」

「彼を置いていけと? 冗談じゃない」

「これほどの手練を殺めるのも存外惜しいが、仕方あるまい」

 

 呟いて、彼女は()()()()()

 かなりの速度で妖夢に襲いかかっているが、見えないわけではない。

 妖夢は自らに向かう蹴り・殴りの全てをいなしていた。

 剣術だけでなく、体術すら高練度で会得しているとは、俺でさえ初めて知った。

 

「ふむ。武術も中々じゃな。もっと惜しいのう」

「疲弊したようには見えませんが、動きが見えてますよ」

「妾もアレはできる限り使いたくないんじゃ。()()()()()()からの」

 

 拳を交わし合う最中、朱里の視線は当然ながら妖夢に釘付け。

 仕掛けるなら今しかない。

 しかし先程の妖夢の奇襲失敗を見るに、接近しても無意味だ。

 ならば、俺が取れる行動は一つ。

 

 木に背をつけながら、立ち上がることなく刀を勢いよく抜いた。

 その軌跡は形を残しつつ、白く輝いて朱里へと急接近した。

 

 飛ばす斬撃。霊力を刀にまとわせ、弾幕の要領で飛ばす、俺の唯一の遠距離攻撃。

 弾幕を構成する霊弾とは異なり、抜刀が必要な代わりに、霊弾よりも鋭利で素早い攻撃が可能となる。

 正に、この状況に最適な攻撃手段だと言える。

 

 狙いは足元。まず動きを止めなければ勝ち目はない。

 群生する草の上を這うように進む白の斬撃は、朱里の肌に食い込んだ。

 半月は留まることを知らず、さらに通る先の木を根本から両断し、空へと消えていった。

 

 この際、彼女の両足に関してはどうしようもなかった。

 支えを失った木々は倒れ、遮断されていた夕焼けの赤色光がその場に灯る。

 

「使いたくない、と言ったばかりじゃろうに」

 

 幼気を孕む声は、眼前で響いた。

 現実を否定する余裕もなく、全力で右に飛んだ。

 

 刹那、俺が背中を預けていた木が大きく軋る。

 同時に木の折れる独特の嫌な音を響かせながら、裂けた断面を見せて幹が折れる。

 倒れた側の幹には、黄褐色の中身が円筒形に見えた。

 

 ──たったの一蹴で、大木を蹴り倒したというのか。

 

「よく避けたな」

「まだ死ぬわけにはいかないもんでね」

「やめてよお姉ちゃん!」

 

 ついに栞が声を荒げた。

 本人でも心の整理がついていないだろうに。

 だがこれによる結果がどういったものになるか、俺には予想がついた。

 

「栞の頼みとはいえ、聞く気になれんな。新藤以外はどうでもよい、裏を返せば新藤だけは逃さぬ。無理な相談じゃ」

 

 返された答えは想像通りのものだった。

 彼女の発言が全て真実であるという前提の上で、言葉を辿る限り、彼女は第三勢力に位置する。

 幻獣側でも、幻想郷側でもない。

 

 幻獣殲滅と幻想郷の平和維持が目的である以上、第三勢力(かのじょ)を敵に回す必要は全くない。

 この敵対は完全に無意味で、なるべく避けたいものだった。

 

「……俺が犠牲になれば、何もしないと約束できるのか? そんな保証どこにもないだろ」

「立場をわきまえろ。狩られる側が要求できると? とはいえ、まあ案ずるな。先述の通り、お主以外がどうなろうと妾は知らぬし興味もない。危害を加えるつもりも、お主らに加担するつもりも毛頭ないな」

 

 そこまで言って、妖夢が戦線復帰。

 一閃という言葉を体現させたような、瞬き一回が死を呼ぶ速度の斬撃。

 そんな高度な技にもかかわらず、今度は消えるまでもなくかわされてしまった。

 彼女が紛うことなき強敵であることを再確認させられた瞬間だった。

 

「確かに速いが、追えぬほどではないな」

「……天君。貴方がどう思おうと勝手ですが、それを周りが許すかどうかは別問題ですよ」

「ああ、わかってる。そんなつもりはない」

「戦力どうこうの話でないことを今更言わねばわからないとは思っていません」

「自己犠牲、か。それもよい。手間が省ける。こうしてはいるが身の上、妾も時間が惜しい。ただし、お主らにとって最善かどうかは別じゃろうな」

 

 これは本来避けられたはずの戦闘だ。

 ここで妖夢を消耗させるよりも、ずっといい解決法なのかもしれない。

 頭で考えていても、いざ命を投げ打つとなると、すんなりと心の整理はいかないものだ。

 ほんの一瞬、返答を渋ったその時だった。

 

 夕焼けがなくなっていたことに気がついた。

 はっとなり空を見上げると、そこからは暖色の一切が消え失せていた。

 広がるは黒雲、陽の光を断ち切る分厚い黒雲。

 いつから。いつから、曇っていた? 

 

 その異変に、妖夢も朱里も、栞も気がついた。

 どうして、と口にする前に雲のある一点がさらに肥大化し、厚くなった。

 何かが起こる。おかしなことが。直感の域を出ないが、ただの自然現象でないことは見て明らかだった。

 

 二重の意味で暗雲立ち込める中、天に轟く雷鳴。

 雨粒すら置き去りに、先に咆哮が聞こえた。それも二つ。

 一つは、水のカーテンを下ろすより早く地上へと降りた落雷の。

 一つは──全身が黒色の、巨大な獣の。

 

 驚くということすら遅れた。

 絶句。あまりにも理解し難く、理解したくない状況が脳をパンクさせた。

 そしてようやっと自身の思考が戻されたときは。

 

 眼前の妖怪が再び唸り、その巨体に雷が命中したときだった。

 全身を眩く発光させている。皮肉なことに雷を纏う姿がこの場の唯一の光であり、最大の絶望だった。

 

「──退くぞぉぉおお!」

 

 考える余裕はなかった。

 予見できるはずもなく突然に構成された三つ巴。

 一度この場を去るべきだ。少なくとも、朱里を相手にしながら俺と妖夢の二人で捌ける相手じゃない。

 

 朱里一人ですら手に負えないというのに、構っている余裕などあるはずもない。

 鋭い眼光。人ふたり分はあろう巨躯。落雷を帯びる異常生物。

 一瞬見ただけでわかる。朱里を含め、今まで俺達が戦ってきたどの相手よりも、圧倒的に強い。

 格が違う、というのは正にこのことだろう。それが瞬き一回で理解できてしまう絶望に浸った暇すら惜しむほどに全力で撤退にかかる。

 

 俺と妖夢はすぐさま上空へ飛んだ。

 強烈な光に追いつかれぬよう、脱兎のごとく。

 森の中にも外にも朱里の姿が見えない。彼女も危機的状況に瀕して離脱を選択したのだろう。

 

 彼女をみすみす逃すことになってしまったのは残念だが、そんなことも言っていられない。

 俺達にできることは、とにかく可及的速やかに距離を取ることだった。

 振り返ることなく一面を覆う黒雲の下を飛翔した。

 

 百メートルは離れたというところで、獣の咆哮が空気を揺るがしたのを感じた。

 これほどの距離で鳴き声が聞こえるという事実がまた恐ろしさを増幅させた。

 

 そして、()()()()()()

 

「は──?」

 

 間違いない。脅威が去った。

 先程まで肌をチリつかせるほどの威圧感が完全に空気に溶けてなくなっていたのだ。

 そして徐々に徐々に、空を張り巡っていた厚い黒雲が欠片も残さず霧散していく。

 非現実的な超常現象に、俺と妖夢はただ驚くことしかできず、ついにはその場に留まって浮遊に移っていた。

 

「これ、は……」

 

 呟いてすぐに、四人目の声がその場に現れた。

 

「あんた達、大丈夫!?」

 

 こちらを心配する声は、血相を変えて飛んできた霊夢のものだった。

 後続してレミリア、咲夜、魔理沙の三人がやってくる。

 対幻獣メンバーの一部が対処に飛んできたようだ。

 

「ああ、問題ないが……色々と整理が追いつかない」

「無理もないよ、情報過多が過ぎる。あまりに突飛なことが起きすぎてるもん」

「……不甲斐ないわね。もう少し早くに未来視できていればよかったのだけれど」

 

 応援が駆けつけ、正直ほっとしていた。

 だが、それも束の間の安息だった。

 

 先程の猛獣ほどではないが、嫌な気配が空気を電波した。

 邪気を孕んだ悪しきオーラ。紛うことなき幻獣の気配。

 しかし、その一つの大きさはかなり小さかった。

 

 そう安心する暇もなく、再び絶望が俺の精神を蝕んだ。

 じわじわと彼方で増え続けるか細い気配。その数が()()()()()()()()()のだ。

 十や二十程度では到底及ばない、数えるのすら億劫になるほど途方も無い数。少なくとも百は上回るに違いない。

 

「出番ね。魔理沙、ここは任せるわ。私は迎撃組にも声をかけてくる」

「ああ、そうした方がいいだろうな。この人数じゃ、いや討伐組が全員揃っても足りないかもしれないから。足止めは引き受けるわ」

 

 栞含め、俺達六人がそのまま前進、霊夢が来た道を引き返す。

 しばらく飛行を続けると、波となって押し寄せる邪悪の粒が目視できた。

 

 齢十に満たぬ子供ほどの背低(せびく)の鬼。

 その体は見るに堪えないほど痩せ細っており、歩いているのが不思議なくらいだ。

 

「餓鬼、ですね」

 

 妖夢が口にした妖怪の名は、餓鬼。

 常に何かに飢えた存在であり、飢える対象は様々だが、その何かを渇望して人々を襲う妖怪だ。

 渇求(かっきゅう)の大群は森を進軍、少しずつだが確かに人里へと向かっている。

 感じた通り、一個体の脅威はそこまでではないが、波となって押し寄せるとなれば話は別だ。

 ここで食い止められなければ、村が呑まれる。

 

 意を決して刀を抜いて、急降下。

 勢いそのままに、先陣を切る鬼の頭を両断。

 軍勢を一瞥し、言い放つ。絶望に支配される前に、心を支えるためにも。

 

「悪いな。こっから先は通すわけにいかないんだ」




だいたいの構想は決まってるので、あとは書くだけです。
そう考えると、他作品よりは目に見えない歩みがあるのでしょうか。

次回がいつになるのかも不明ですが、どなたかの作品更新のついで程度にでも楽しみに待っていただけると幸いです。
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