書いてたら少し長くなったので、二話に分けました。
すると、なんと一話にするにはちょっと短い長さに。お許しください。
帯に短しなんとやら、ってやつですかね。
斬った。
斬って斬って、もうどれだけの時間が過ぎただろうか。
頭を斬り飛ばし、胴体を二つに両断し、心の臓を貫いた。
何体の餓鬼を処理したか、途中から数えるのも忘れた。
「──マスタースパークッ!」
超極太のレーザーが地面ごと抉り取りながら直進、軌道上の鬼は跡形もなく消え失せた。
この五人の中で、最も火力の高い魔理沙の攻撃。
範囲も広く、今回の戦闘において間違いなく主軸となる人物だ。
そう、その主軸の攻撃はこれで計
三度地面を削り、三度餓鬼を飲み込んだ。それも一度に二桁は下らないほどの大きさであるレーザーで。
俺達が最初に見た餓鬼の分は既に狩りきったはずだ。
命尽きた餓鬼は煙となって空に消えるため、とどめを刺し逃しているわけでもない。
確実に処理し、数は減っているはずなのだが。
「ほんっとこいつら、どんだけいるんだよ!?」
ついにうちの大砲が叫んだ。
本人が最も事の重大さに気付いているようだ。
彼女自身、自分の攻撃が主力であることを理解しているだけに、この理不尽な状況に声を上げずにはいられなかったようだ。
「神鎗 スピア・ザ・グングニル」
レミリアが槍を投げる。
薔薇色の槍が地面スレスレで地と平行に、目にも留まらぬ速度で敵を複数穿つ。
勢いそのままに、後続の餓鬼を貫き、貫き、次々と串刺しにしながら空に吸い込まれた。
「なん、だと……!」
俺は無意識に呟いていた。
レミリアの投げた槍は、貫いた餓鬼を伴って空に軌道をズラしたのだ。
槍に串状に刺さっている餓鬼の数は、どう見ても両手で収まる数じゃない。
それはつまり、この先には槍に刺さっているだけの餓鬼の
一層──横一列に並ぶ餓鬼はおおよそ二十ほどだろうか。
単純計算で、これからまだ
「雨を斬るに三十年、空気を斬るに五十年」
かすかに聞こえたのは、妖夢の声だった。
抜刀の構えを取り、目を瞑って集中している様子だった。
感覚だが、俺が今まで見たこともない大技を妖夢が出すだろうとわかった。
彼女はここが戦場であることを忘れさせるほど落ち着いていた。
無防備状態である彼女に襲いかかる餓鬼を払いながら、時間を稼ぐ。
「時を斬るに二百年。先は遠い。ならば──」
体が傾いた。
すぐ、音もなく刀の柄を持つ手が動いた。
しかし、それだけだ。抜いたわけではない。
……いや、抜いたのか?
ありえない。人の目では到底追いつかない速度だ。
それに金属音どころかそよ風の音すら聞こえず、風の感触すら伝わっていない。
「──鬼を斬るなど時は不要。せめて一陣の風に散れ」
そう言い終わって、一斉に数多の鬼が哭いた。
体が完全に上下に切断され、哭いたのだ。
それは一層の鬼共に留まらず、さらに奥二層ほどまでの鬼が哭いた。
紫色の血潮と体だったものは煙となって消えた。
格が違うとはこういうことなのか。
俺が一年前、最後に妖夢を見たときとは別人のようだ。
鍛錬を続けているため、以前よりも強くなっているとわかっていたが、まさかこれほどまでに成長していたとは。
当時の彼女も十分強かったが、比べ物にならないほどに今の妖夢が強すぎる。
五十を超える鬼をたった一閃で断つ異常な光景に、この場の全員が驚愕に溺れた。
知性を持たずただ前に進むだけの能無しも、さすがに足を止めていた。
俺達はこの好機を逃すことなく前へ詰める。
「奇術 『エターナルミーク』」
「魔符『ミルキーウェイ』」
「神術『吸血鬼幻想』」
チャンスを掴む目は彼女達も持っていたようだ。展開の速さと範囲の広さを重視したスペルカードの突進。
うろたえた餓鬼には当然対応不可能。その多くが弾幕の海に飲まれていった。
近接戦闘型である俺と妖夢は三人の弾幕の間を抜け、敵への追撃を試みた。
そのとき、鬼が慌てて撤退の姿勢を取ったのだ。
こちらへ背中を向けて逃げる鬼の一匹に照準を定め、刀を手に取る。
「
踏み切った第一歩、急激に距離は縮まり、紫の雷を迸らせた居合は敵を切り裂く。
そのはずだったのだ。
俺の中で一番展開が速い技が、
ノビは十分だった。距離の目測が狂ったわけでもない。
弾き出した答えは一つ。
俺の失敗を見て、フォローに入ったのはレミリアだった。
スペルカードの詠唱を惜しみ、出したのは通常弾。
しかしその速さは今まで俺が見たどの弾幕と比較しても、最速であることに間違いはない。
彼女を中心に前方へ白い円形の弾と火の玉状の弾が
効果抜群の不意打ちは、鬼全員の足を釘付けにした。
撤退を遅延させた今が畳み掛ける最後の好機に違いない。
「──夢想封印」
数々の大きな有色弾が、鬼を真上から容赦なく押しつぶした。
逃走経路と軍団の両方を塞ぎ、あれほど溢れ返った鬼は一匹と残っていなかった。
夢想封印。このスペルカードは間違いない。
「霊夢!」
「どうやら、間に合ったようね」
尻尾を巻くことすら許されなかった鬼達は一点に固まっていたため、霊夢の一撃がこの戦いに終止符を打った。
霊夢に続いて翔や早苗が来てくれたものの、残念ながら今回は出番がなかった。
とはいえ、こちらに余裕があったわけでは決してなかったので難しい話ではある。
こちら側が受け身であり、戦線も若干だが押されていた。
あのまま戦闘が長引いたと考えると、彼らの力を借りる未来が容易に想像できる。
だが、申し訳ない気持ちからか早苗がお祓い棒──後で本人に尋ねたところ、
遠目で見たら可愛らしいのかもしれないが、事情を知る俺達にはどことなく馬鹿っぽいというか、アホっぽく見えてしまう。もちろん口にはしないが。
そんな光景が見られるほどこの場全員の緊張は緩んでいた。
「ともかく、皆お疲れ様。今日はゆっくり休んでちょうだい。後のことは私がやっておくから。これ以上何もないとは限らないから、油断だけはしないように」
霊夢の一声で、この場は解散になった。
「天君、先程は守ってくださりありがとうございました」
「いや、全然。それより、やっぱり妖夢はすごいな」
「大したことではありませんよ。大きすぎる隙が理由で中々使い所のない技です。やはり、貴方を信じてよかった」
これだけの大技を見舞ったにもかかわらず、謙虚な性格は変わらず。
いつかこの高みを覗く日が、どれだけ遠くのことか。そもそも来ない確率の方が高そうだ。
「レミリア、助かったよ」
「ええ。少し嫌な未来が見えたからなんとかなっただけよ」
未来視が可能なレミリアには何度も助けられている。
これがきっかけで窮地を脱したときもあり、今回といい頭が上がらない。
彼女と話している途中、ある一人が俺に手まねきしているのが見えた。
周囲を気にしているのか、辺りに目を配らせながら、自分からこちらへ向かってくることはない。
「新藤 天様」
俺の名前をフルネームで呼んだのは、レミリアの付きメイドである咲夜だった。
一時期レミリアの館に住まわせてもらっていたこともあり、堅苦しい呼び方に戻る必要はないと伝える前に彼女が先に続きを話す。
「パチュリー様より言伝を預かりました。図書館を訪れるように、と」
「パチュリーがか? 珍しいな」
「なんでも、興味深い本があるとか」
「急ぎなのか?」
「そう預かった覚えはありませんが、私に預けたというのは恐らくそういうことかと」
物静かな本の虫が客を招き入れること自体、耳を疑うレベルだ。
彼女の性格上、いくら彼女が本好きとはいえ誰かに本を勧めるタイプではない。
それも、形に残る本を可及的速やかに──本人の意志は定かではないが──見せようとするのは、多少引っかかる。
加えて、なぜ俺なのかという疑問も浮かんだ。
「悪い、妖夢──」
「……それと、図書室に向かう途中、誰にも見られないようにと」
妖夢に一足先に白玉楼へ戻るよう断ろうとしたとき、咲夜が追加で情報を落とす。
他の一切に聞かれないように、耳元でささやいて。
「お嬢様にも、できるだけ内密にするよう言い付かっております」
ますます不思議だ。
屋敷の当主であり、親友のレミリアにさえ秘密にしているというのか。
なぜそのように極秘で俺を呼び出すのか、思い当たる節が全くないだけに不思議でならない。
「どうかしましたか?」
「ああいや──買いたい物があったのを忘れてたんだ。先に戻ってご飯作っといてくれないか?」
「それは構いませんが……買い物なら私もお付き合いしますよ」
「大丈夫。重いわけじゃないし、すぐ済ませられるから。幽々子が駄々こねる前に作ってあげてくれ」
「だ、駄々をこねるまではしないと思いますが、わかりました。急ぐ必要はありませんから、終わり次第帰ってくださいね」
妖夢達と別れ、誰からも視線が向けられていないことを確認し、一旦人目の少ない森へ。
そのまま森から抜けることなく、空を飛ばずに紅魔館へ徒歩で回り道。
こうすれば、俺を目撃される可能性を最小限に抑えられる。
周り込んだだけに少々時間がかかったが、無事紅魔館に到着。
予めパチュリーが鍵を開けていたのか、玄関から堂々と侵入できた。
誰とも会いませんように、と心の中で祈りながら忍び足で図書室へ。
祈りが通じたようで、隠密侵入は成功。図書室の扉を開けるに至った。
中に入ってしばらく歩いて、ようやく声が聞こえた。
「両手を挙げて止まりなさい。振り向かないで」
お疲れ様でした。
次の話はもう完全に書ききっているので、早く上がると予想されます。
まあ、それもこれも別作品の進行次第ではあるのですが。
ありがとうございました。