吉良吉影は潮流へ 〜Another One Bites the Past(過去に食らいつけ)〜   作:Mr.アップルパイ

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1.逃げ込んだ先で

「いいや!限界だ押すね!今だッ!」

 

世界を巻き戻し、「運命」を決める能力。

第三の爆弾「バイツァ・ダスト」が確定していた未来を爆破し、その所持者「吉良吉影」のみがその爆発から過去へと逃れる。

 

「勝った!発動したぞ!私の勝ちだ!運命の女神は私にほほえんだのだァ!」

 

逆走する時間の中で吉良吉影の腕時計は9時20分を指す。

その腕時計は決して巻き戻ることはなく、歪んだままであった。

 

 

 

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救急車のサイレンの中、少なくとも表面上は平凡なこの杜王町にそぐわない格好の集団がいた。

その顔ぶれを見れば、一人残さず落胆あるいは放心の表情を見せている。

そして、しばらくの沈黙のあと、誰からだろうか。

1人が呟いたのを皮切りに、彼らは口々に心の中をありのままに口にした。

 

「バカな……」

「おいおい、マジかよ……」

 

杜王町に取り残された六人は、ただただ立ち尽くしていた。

目の前には無様にもサイレンを鳴らし続ける救急車と不定形な輪郭を描いた血痕が残っている。

その血痕は吉良のものであり、本人は自身の能力で過去へと逆行しているのだ。

 

「も、もう終わりだッ!

過去に戻ったあいつはおそらく今まで以上に慎重に確実に攻撃をしかけてくるッッ!

たとえ記憶がなくともバイツァ・ダストが僕についていないのを見てやつは不審に思うはずだ!

もうどうすることもできない!

ただ殺されるのを待つだけなんだァァァァァァ────」

 

泣き叫ぶ少年の姓は川尻。

吉良が殺して入れ替わった男の息子であり、単独で吉良の正体を暴いた頭の切れる少年である。

いや、今は少年とも言えない。

スタンド使い同士の修羅場をくぐり抜けた彼の顔は既に、その場の誰と比べても遜色はない。

そんな彼に、そう変わらないような低い背丈の男が近づく。

 

「いいや、まだだ!」

 

「違う!もう終わったんだよ!

ここで僕たちがどうあがこうと、過去の僕たちにはこんなことが起きてることを知る余地も無いッ!

そして過去の僕たちが死ねば今の僕たちも───」

 

「そう、そこなんだ、早人くん。

みなさんもよく聞いてください。

もし吉良吉影が過去で僕たちを殺したのなら今の僕たちは吉良が能力を発動した瞬間、消えているはずなんです。

所謂タイムパラドックスってやつですよ。

そうなっていないのには、きっと理由があるはずだ。

つまりッッ!!」

 

「おい、康一ィ!するってえと俺たちはよォ……」

 

「まだ希望は消えちゃあいないって事だな……

僕のスタンドなら過去の記憶を書き換えたりすればなんとかなるかもしれない……」

 

「よ、よく分からねえが俺もやれることならなんでもするぜ!」

 

奇抜な格好の作家、岸辺露伴に続き、一度死の淵まで落ちた男、虹村億康も可能性を模索し始める。

たった今、杜王町に集まった六人の有志が僅かに残った一握りの希望に手を伸ばすのだった───

 

 

 

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「………」

 

ニューヨーク。

アメリカ一栄えている街として有名であり、雪崩のような人混みは都会慣れしていない人間にとってはまさに壮観である。

 

そして、そんな「光」の一面の裏には「闇」が付き物である。

当然、ニューヨークにもその片鱗が見えていた───

 

「うっ………ここは?」

 

誰もいない建物と建物の間の裏通りで一人の男が目を覚ます。

彼の名は吉良吉影。

つい先ほどまで仗助らとの死闘を繰り広げていた、スタンド使いである。

 

「戻って……来たのか?

ぐっ………ッッ!?

何ィィィ!!」

 

彼の身体は血まみれだった。

それは紛れも無く自身の血だ。

その血はすなわち彼の体が先ほどまでと同じであるということ、つまりは時間を戻せていない事の証明であった。

 

「痛い……よく分からないがまずはどこかに逃げなければ………仗助たちが来るかもしれん………大通りはまずい………仕方ないがこの建物の中の人間を………」

 

状況の打開策を探す中、後ろから桃色の髪を持つ一人の女性が歩いてくる。

彼女の虚ろな目はしっかりと吉良の血まみれの身体を見つめている。

 

(────なっ!?しまった!この姿を見られてしまった………

ここはやはり始末するしか………)

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜?」

 

彼女は何かを話す。

そこで吉良ははじめてそれ(・・)に気付いた。

 

(……英語………だと?)

 

桃髪の彼女が話す言葉は、紛れもない流暢なアメリカ英語であった。

 

「(英語なら高校生で極めたから問題は無いが……)い、いや怪しいものではないんだ。

ただ少し事故にあってしまってね……

おかげでどうやら記憶が曖昧なみたいだ。

ここがどこか教えてもらえるかい?」

 

「………ク」

 

「んん?よく聞こえないなあ?

もう少しはっきりと言ってもらえないか?

なにせジャパニーズなものでね」

 

「ここはニューヨークよ。

アメリカのニューヨーク」

 

「なっ………(いいやありえないッッ!

さっきまで私は杜王町にいたんだ!

バイツァ・ダストには時間を爆破する能力はあっても場所を移動させる効果はないッ!)」

 

吉良は戸惑うが彼女の顔は何を当たり前のことを、といった顔だから彼は余計に混乱した。

 

だがしかし、どんな状況であろうと彼の性格・立ち振る舞いは決して変わることは無い。

 

(まあいい……こいつはもう用無しだ。

さっさと始末してやろう

それに……良い手をしている………さっき補充(・・)はしたばかりだが乗り換えるか……)

 

彼の体から分裂する様にして人型のものが現れる。

二つの角に、猫のように細い瞳。

顔は吉良自身の状態に関わらず無表情だ。

その能力の名は『キラークイーン』。

爆破の力を持つスタンド。

もっとも、そのスタンドもまだ彼の力の3分の1しか見せていない。

彼には『第二の爆弾(シアーハートアタック)』と『第三の爆弾(バイツァ・ダスト)』があるのだ。

 

「今から君を………」

 

「あなた、何か特別な力を持っているわね?」

 

その言葉に吉良は少し驚いたが、なぜ彼女がそれを分かるのか、その結論にたどり着くのにコンマ数秒も必要なかった。

 

「………………なるほど。

どうやら君も、持っている(・・・・・)ようだ」

 

吉良が戦闘体制に入る。

先ほどまでの虫を潰すような感覚とは違い、目の前の少女を対等な相手として見ているのだ。

そして今の自分の状態を顧みて「これは少し厳しいぞ」と思ってもいた。

決して勝てるかどうかの心配では無い。

証拠を残さずに済むか、である。

仗助との死闘を逃げ切った彼に、負ける、という選択肢は見えていなかった。

 

「私には………ッ!?」

 

吉良の意識が遠のいて行く。

いつもの決まり文句を言う前に、彼は地面へ倒れ込んでいた。

フェードアウトしていく意識の中で彼はそれをスタンド攻撃だと信じてやまなかったが、実際は出血多量と緊張による気絶であった。

 

「………さっきのは………?まるで人みたいだった……」

 

少女が少し目を光らせながら呟く。

これが、吉良吉影のこの世界(・・・・)での暮らしの始まりの日であった。




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